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絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~  作者: 南条仁
絶対宣言~妹は生意気な方が可愛い~
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第9章:恋人の意味

【SIDE:七森春日】


 朝が来た、希望の朝ではなく絶望の朝だ。

 ……ぐすっ、僕は、もう学校にはいけない。

 布団の中でくるまりながら僕は枕を涙で濡らしていた。

 

「あぁっ、もうっ。そんなに拗ねなくてもいいじゃない」

 

 珍しく僕を起こしにきた桜華は先ほどから僕の布団を揺らしている。

 誰のせいでこんなことになったのか。

 

「私がこんなに謝ってあげているんだから許してよ」

 

「桜華が悪いなんて、どうでもいいんだ。けれど、広まってしまった噂はどうにでもきない。そちらをなんとかして欲しい」

 

「あー、それは残念ながら無理」

 

「だったら、もう学校なんて行かない」

 

 昨日、僕の過去の写真が桜華経由で学校中に広まってしまった。

 ただでさえ女顔を気にしている僕に止めを刺す行為だ。

 女子だけではなく、男子にもからかわれて非常に悲しい想いをした。

 あの悲しみから一夜明けて僕の心はより一層へこんでいた。

 

「男の子なんだからしっかりしてよ」

 

「男だろうが女だろうが、自分の辛い過去を公開されたらへこむだろ」

 

「別にいいじゃない。ほら、皆から可愛いって言われるだけでしょ?」

 

「ふっ、それがひとりやふたり、言われるならいい。クラス、いや、学校中の生徒から好奇な視線と言葉を向けられる僕の身になって。もう駄目だ、僕の学園生活は終わった。短い青春だったなぁ……」

 

 軽いイジメにあってるようなものだ、この精神的ショックから立ち直れない。

 桜華は小さくため息をついて、いきなり僕の布団を放り出す。

 強引にベッドから僕を起こすと、彼女は僕に言う。

 

「兄貴、いい加減にして。いつまでもイジイジと子供みたいに拗ねてカッコ悪いわよ」

 

「もう僕の事は放っておいてくれ。僕は……」

 

「放っておけるわけがないじゃない。私にも責任があるもの」

 

「にも、じゃなくて桜華にしか責任はないんだけど」

 

 100%彼女に非があるのだ、今回に限っては僕に非なんてない。

 

「兄貴にも責任はあるの。可愛すぎた過去を持っていた兄貴も悪い」

 

「それは責任じゃないっ。僕はどうすればいいんだ」

 

 ズルズルと桜華に引きずられるようにして、僕は沈んだ気分で学校に行くことにした。

 学校では相変わらず僕の噂が飛び交っていた。

 可愛いと言われることがこんなに辛いとは……うぅっ。

 この苦しみは僕以外にはきっと理解できない。

 

 

 

 

 昼休憩になって、僕はひとり屋上でパンを食べていた。

 教室にいるのも辛く、かと言って食堂なんて人の集まる所はもっと嫌だ。

 逃げるように人の少ない屋上にやってきた。

 噂が収まるまで当分はここで食事することにしよう。

 

「はぁ……美人過ぎる兄って、何だ?どこの市議のお姉さんだよ」

 

 本日何度目の溜息か分からないため息をついた。

 もうすぐゴールデンウィークに入る、長期休暇になってしまえば噂も消えているはずだ。

 残り3日、耐えればいいんだと思えば気が多少は楽になる。

 ガチャっという屋上の扉が開いた音に僕は敏感に反応する。

 

「俺だよ、俺。そんなにビビった顔をするな」

 

「信吾お兄ちゃんっ」

 

 英語教師であり、僕の頼れる従兄でもある信吾お兄ちゃんだった。

 昔から実の兄のように慕い、尊敬している人なんだ。

 

「学校では先生と呼んでくれ。……やはり、お前は可愛げがあるな」

 

「何の話?」

 

「いや、こちらの話だ。聞いたぞ、何やら大変なことになってるじゃないか」

 

 どうやら噂を聞きつけて僕を心配して探してくれたようだ。

 

「妹の桜華のせいでね。どうして、僕の過去を世間にさらすかな」

 

「……まぁ、桜華は軽い気持ちだったんだろうが、最近の若い連中は携帯電話ひとつであっという間に情報が広まるからな。俺の時代とはまた違う」

 

 僕は「個人情報保護法」っていうのがあることを声を大にして伝えたい。

 

「学校としてはイジメにでもならない限りはどうしようもないからな。そちらの方に動くようなら言ってくれよ」

 

「そちらは何とか大丈夫そう。主に騒いでるのは後輩の女子たちだし」

 

「考えようによってはモテていいじゃないか?」

 

 そんなに明るい気持ちでいられるほど、僕は強くはないんだ。

 

「そう深く考えなくていいだろ。春日は色々と考えすぎるタイプだ。気を楽にして、可愛いって言われることを褒められると思えばいい」

 

「それは無理だよ。僕はそこまでポジティブ思考にはなれないから」

 

 しかし、お兄ちゃんと話していると気持ちがいくぶんかマシになる。

 彼に安心感を抱いているからかな。

 信吾お兄ちゃんは缶コーヒーを飲みながらフェンスにもたれる。

 

「そういや、話は変わるがお前、桜華と付き合ってるのか?」

 

「え?そ、そんなわけないって」

 

「違うのか?桜華がそんなことを話していたんだがな」

 

 仕方なく、僕は一連の事情を説明することにする。

 あれは僕の意思が全然反映されていない、一方的な交際宣言だ。

 

「……そりゃ、春日が可哀想だな。それにしても合コン三昧とは女子大生か」

 

「高校でも合コンってよくあるみたいだよ」

 

「出会いを求めて、ってか。まぁ、気持ちは分かるが。桜華は昔からお前を気にいっていた。しかし、彼氏発言とは一気に関係を詰めたな」

 

 詰めすぎだと思う、恋人なんて無理だってば。

 ただでさえ、兄妹関係で僕は圧倒的不利な立場なのに。

 

「お前はどうなんだ?桜華をどう思っている」

 

「……どうって言われても。妹として非常に怖い存在だよ」

 

「その一言で今の春日のすべてを語るな。恋愛感情としてはどうだ?」

 

「恋愛なんてしていない。僕は桜華に恋はできない」

 

 妹としてが限界ライン、それ以上は意識することはきっとできないと思う。

 異性として可愛いと思っても、恋をするのはまた別な気がするんだ。

 

「断言されてるぞ、桜華……。やれやれ、アイツの片思いも大変だな」

 

 ぼそぼそと何かを呟くお兄ちゃん。

 

「何か言った、お兄ちゃん?」

 

「別に何でもないさ。そうか、それならちゃんと話をした方がいい」

 

「話なんていつでもしているよ。桜華は恋に恋してるっていうか、結局、恋愛に憧れているだけだから。そのうち、飽きて別の相手を探すに違いない」

 

 いつものことだ、今回もそうなると僕は予想する。

 そもそも、恋愛感情を僕に桜華が抱いてるわけないんだから。

 

「……兄を遊んでるだけなんだよ。お兄ちゃんからも何か言ってあげてくれない?」

 

「しょうがないな。適当に話をしてやるか。だが、お前も他の女と付き合う気があるなら桜華の件は何とかした方がいいぞ。どちらかが本気になる前にな」

 

「うん……そうだね」

 

 もしも、桜華が僕を好きとかいう話になったらすごく困る。

 でも、どうなんだろう。

 少なからず、桜華は僕に気があったりするんだろうか?

 

 

 

 

 放課後、僕は中庭で花の世話をしながら後輩たちに囲まれていた。

 

「先輩っ、この花の種っていつ植えればいいんですか?」

 

「それはもう少し後の方がいいよ。連休明けぐらいに植えたらどうかな」

 

 ……人の噂というのは盛り上がるだけ盛り上がればそれまでという感がある。

 うちの部員たちにも昨日はからかわれたが、今日はそれほどではなかった。

 とりあえず一安心、今は普通に彼女達と接することができる。

 

「あっ、七森先輩。こんにちは」

 

「二宮さんか、こんにちは。今日も部活帰り?」

 

 二宮さんは良く帰りに中庭を通るので話をしたりして、それなりに仲良くなりつつある。

 花にも興味があるみたいで、話やすいっていうのがいいね。

 

「はい、そうですよ。1年生は基礎体力作りのトレーニングが主ですから。そうだ、先輩。ごめんなさい、私達のせいで大変なことになってしまって」

 

 なぜか彼女は僕に頭を下げてくる。

 

「え?どうして二宮さんが謝るんだ?」

 

「桜華に写真をねだったのは私達なんです。ほら、合コンの時に先輩の昔に興味があるって言ったじゃないですか。それで写真を見たいと言ったのが始まりなんです。それで、その、他の人たちに情報を流したのも私達で……ごめんなさい」

 

 そういうことだったのか、経緯に納得する。

 

「まぁ、しょうがないよ。悪気がないなら、責めることはない」

 

「桜華から先輩が気にしているって。遊び半分で先輩を傷つけるようなことをしてしまったんだって、そう思うと……」

 

 シュンッとうなだれる二宮さん。

 結構、真面目な子なんだな……とてもいい子じゃないか。

 

「もういいよ、頭をあげてくれないか。可愛いって言われるだけだし他に実害もない。過去は恥ずかしいけど、誰が悪いってわけじゃないんだ。気にしないで」

 

「本当にすみませんでした。先輩、優しいんですね。……あ、あの、こういうの、嫌いかもしれませんけど、七森先輩が可愛いって言うのは悪い意味じゃないんですよ。本当に女の子のように可愛くて。何ていうんですか、ぬいぐるみとか見て言う可愛いと同じ気持ちなんです。だから……」

 

「うん。大丈夫、その辺は理解しているよ」

 

 悪意のある発言ではないと彼女は言いたかったのだろう。

 

「人の噂も何とやらってね。すぐに消えると思うからキミが気にしなくてもいい」

 

「……そう言ってもらえるとこちらとしても気が楽です」

 

 はにかんだ可愛らしい笑みを浮かべる二宮さん。

 そうだ、彼女なら僕のある作戦に協力してもらえるかもしれない。

 それは桜華に対する僕なりの反撃、それと相手の出方も見たい。

 

「あのさ、二宮さん。突然だけど、僕に付き合ってもらえないかな?」

 

「……え?私がですか?」

 

 きょとんとした顔をする彼女、僕は微笑みながら言う。

 

「――そう。少しだけキミの時間を僕に欲しいな」

 

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