【第三回・四 】学び舎の誘惑
毎朝【学校】へと通う京助と悠助を見送る緊那羅は【学校】という所がどんな所なのか気になっていた
そんな緊那羅を学校に連れて行こうという計画が持ち上がる
そして緊那羅は学校へ行くことになる
ちょっと 問題あり な格好をして
「でねーそれからねー」
悠助が楽しそうに緊那羅に学校であった出来事を話している
「悠助は本当学校が好きなんだっちゃね」
友達のこと先生のこと授業のこと…学校から帰るとまずその日にあった出来事をヒマ子と緊那羅に話すのがいつの間にか悠助にとって習慣となっていた
「京助は毎日行きたくないとかいってるっちゃのに」
緊那羅が思い出して笑った
「僕は学校好きだよ~!! 楽しいもん!!」
悠助がにこ~っと笑う
「そっか…」
緊那羅も笑い返す
「緊ちゃんも学校いきたいの? 京助と一緒に行けばいいのに」
悠助が言った
「え…?」
たしかに少し『学校』というものに興味があった
悠助にとっては楽しいところ、京助にとって行きたくないところ一体どんなところなのか
「京助に言ってみればいいのに~行きたいって」
悠助がそういったときタイミングよく京助が3馬鹿を引き連れて帰宅した
「何を俺に頼むって?」
京助がやたらでかい荷物と鞄を床に置いた
「おかえりなさいませ京様」
ヒマ子が窓から顔を覗かせ愛のおかえりなさいを言った
「おかえりだっちゃ京助」
「おかえり~坂田たちいらっしゃい~」
緊那羅と悠助もおかえりを言った
「ちス悠、キンナラムちゃんもちース」
南が緊那羅と悠助の頭をパスパスと軽く叩いた
「その大荷物なんだっちゃ?」
京助と3馬鹿が持ってきた大きな荷物を緊那羅が触る
「あぁ コレは文化祭の準備道具」
坂田が大きな荷物をパシパシ叩きながら言った
「間に合いそうに無いから各自持って帰って作成」
中島がボール紙を広げ始める
「ここでやるのかよ; 奥の部屋のが広いし…奥いくべし奥」
京助が荷物を持って歩き出した
3馬鹿もその後に続く
「緊那羅そこにある俺の鞄持ってきてくんねぇ?」
京助が廊下から叫んだ
「わかったっちゃ悠助も行くっちゃ?」
鞄を持ちながら悠助に声をかけた
「うん!」
鞄を持って悠助と手をつなぎ奥の【元・開かずの間】に向かった
京助が窓を開けて換気をしている後ろで南は何やらでかい布に印をつけている
坂田は何やらノートに書いていて中島はというとボール紙を広げ線の通りに切り離している
「お、サンキュ~そこ置いておいてくんね?」
京助が振り向き緊那羅に言った
「…なんだか忙しそうだっちゃね」
いつもより馬鹿騒ぎがない3馬鹿を見て緊那羅が言う
「まぁラストスパートだしな…で、さっき何か俺に頼みがあるとか言ってなかったか?」
京助が鞄をガサガサさせて何かを探しながら聞いてきた
「あのねっ緊ちゃん学校行ってみたいんだって」
「ちょ…悠助;」
悠助が『ねー?』と緊那羅を見上げた
「…学校?」
3馬鹿と京助が同時に顔を上げて緊那羅を見た
「あ…いや…ちょっと…興味があるだけだっちゃ;」
緊那羅があわてて言った
「学校…お前一回行った事あんぞ?」
京助が立ち上がり『な?』と3馬鹿を振り返った
「初めてキンナラムちゃんと会ったのが学校」
南がメジャーを伸ばしながら言う
「え…?」
きょとんとする緊那羅
「あの時の後始末…大変だったよなぁ…」
中島がしみじみ言った
「ご…ごめんだっちゃ;」
緊那羅が少し後ずさりして頭を下げた
「まぁ…それは置いておいて…何でまた学校いきたんだよ」
京助が鞄から取り出したペンケースで肩を叩きながら聞いた
「え…っと悠助は楽しいっていってるのに京助は行きたくないっていってるっちゃ…だから…どうなのかなって…」
緊那羅が小さな声で答えた
「ふ~ん…だとさ」
「いんじゃねぇ? 今準備期間でバタバタしてるからクラス関係なく入り乱れてるし…一人くらいばれないって」
意見を求めた京助に中島が言った
「問題は…制服だよなぁ…買うわけにも…」
坂田がシャープペンを回しながら言う
「制服ねぇ…ジャージだと目立つからなぁ…う~ん…」
3馬鹿と京助が考え込んでしまったために緊那羅は立ち尽くしている
「緊ちゃん…いけるといいね」
くいくいと服を引っ張り悠助が見上げてきた
「…いきたいっちゃけど…京助たちが困るなら私は…;」
「そうだ!!」
南が大きな声を上げた
「どうした参謀長官」
坂田がシャープペンで南を指した
「去年のが!! ホラ去年の出し物のヤツ! あれまだ確かウチに残ってた! ちょっくらとって来る!!」
南は立ち上がるとバタバタと玄関に向かっていった
「去年…ってまさか…」
京助が南の出て行った方向を見ている緊那羅を見た
南が家に戻ると栄野家を出て行ってから20分
「…そろそろ南帰ってくるんじゃね?」
坂田が携帯の時計を見て言った
ヒマ子はお日様を追いかけて庭から玄関隅の辺りで日光を浴びていた
キキーィ、というブレーキの音がした
「あら…どなたでしょう?」
参拝客に見つかってはいけないと京助に言われているヒマ子は物陰に身を隠した
石段を登る足音が近づく
その足音は境内のほうではなく栄野家へとやってきた
「日本郵政公社の方でしょうか…」
ヒマ子が物陰から顔を出して足音の人物を確かめようとした
「…!!」
ヒマ子は言葉を失った
紺色のプリーツスカート、白いハイソックスに肩甲骨の辺りまで伸びた長い黒髪、胸には黄色いスカーフがゆるく締められている
「じょ…女性が…女性が…ッ!!」
思わず後ろに倒れてしまった
ゴトリと音がした
その音に気づいたらしくその女子はヒマ子の方に近づいてきた
「大丈夫? ヒマ子さん」
聞き覚えのある声
向かって右の目の下にはほくろ
「驚いた?」
ピンクのヘアバンドを外すと長かった黒髪がなくなり…
「…南様…?」
「似合う?」
南はくるっと一回転して笑った
「よ、南ちゃん」
目が点になっている緊那羅の前をプリーツスカートが横切る
「紹介しよう。喫茶『踊るすね毛』の看板ウエイトレス【アサクラ・南】ちゃんだ」
坂田が司会者のごとく女装南を紹介すると京助と中島、悠助が歓声を上げる
「南でぇ~す」
南がポーズを決めると歓声が大きくなる
緊那羅はまだ目が点のままだった
「ちなみに今日は黒チェックのトランクス!」
「見せんな」
南がスカートを捲り上げ中を見せると京助が消しゴムを投げた
「え~…コレが正月中学の女子制服でございます」
坂田が南の隣に立ち緊那羅に向かって説明する
「紺色のスカートは膝上10センチが男のロマン!! それに良く映える白のハイソックス!! チラリを期待させる短めの上セーラーの中は只今冬服仕様です! 残念!!」
坂田の説明にあわせて南がポーズを決める
「…きょ…;」
南から目をそらさず緊那羅が京助の肩をたたいた
「去年の文化祭の出し物で女装喫茶やったんだ俺ら」
中島が言った
「男子が女子の制服を着て女子が男子の制服を着たんだけど女子の制服足りないのとサイズの関係でいくらか作ったんだ。コレがそん時のヤツ」
南が付け毛を外して座った
「ちなみに店の名前の『踊るすね毛』はまさにハイソとスカートの間のすね毛をさしている」
「俺剃って来た」
京助の言葉に南が足を上げる
「南ちゃんパンツ丸見えよ~イヤン」
中島が指摘すると南が
「いや~ん」
といって更に足を出した
「やめいキショイわ」
坂田がノートで南をどついた
「ということで…キンナラムちゃん」
どつかれた頭をさほど気にもせず南が緊那羅に近づいた
「明日貴方は【きんなラム子】となるのよ!」
某女子テニスアニメのたて巻きロール婦人のごとく南が緊那羅を指差した
「…センスねぇ名前だなぁオイ…」
南に指を突きつけられたまま緊那羅は呆然としている
「ちなみに漢字で書くと……こうか」
坂田がノートに【金名 羊子】と書いた
「『ひつじこ』?」
京助が読み上げると坂田がチッチッと指を振った
「ひつじ=ラム!! これで【きんなラム子】だ!!」
「おおぉ!!! ナイスだ坂田!」
中島と南、京助が歓声を上げる
「緊ちゃん?」
悠助が固まったまま動かない緊那羅を揺する
「っとまぁ一日だけだしコレで我慢しろって」
コレと自分の着ている女子制服を指差して南が笑った
「不安なら俺も明日【アサクラ・南】になってやろうか。学校の倉庫にまだ残ってるし」
再び付け毛をして南がウインクすると緊那羅が引きつって笑った
「いや~…明日が楽しみですなぁ」
坂田が言った
「…俺一緒に登校すんのか?;」
京助が焦点の定まらない目のまま引きつって笑う緊那羅を見てため息をついた
「……似合うなお前」
早朝…といっても一般の通学タイムに珍しく京助の姿が玄関にあった
「…嬉しくないっちゃ…;」
重い足取りで玄関から緊那羅…いや金名羊子が出てきた
悠助に編まれた三つ網が制服とマッチしている
ヒマ子に見つかるとまた色々厄介だということでそっと家を後にする
「…スースーするっちゃ;」
まだ日中は残暑が厳しいとはいえ朝方は結構冷える
「まぁ普段は着ないからな…そのうち慣れてくるって」
「慣れたくないっちゃ;」
はぁとため息をついて緊那羅が項垂れる
「でも学校行きたかったならよかったじゃん。なにはともあれさ」
京助が慰め (?)の言葉をかける
信号待ちをしているとき微かに坂田の声が聞こえた
道路を挟んで向こう側の左方向から坂田が南の自転車を漕いでくるのが見えた
坂田の後ろには横すわりで南…アサクラ・南が乗ってこっちに向かって手を振っている
「ヨッ!! ご両人ーー!!」
南が叫んだ
「やかましい!!!;」
京助が叫び返す
信号が青になりやや小走りで京助と緊那羅が道路を渡り坂田と南と合流する
「よっす」
坂田が自転車を両足で支えながら片手を挙げた
「早ぇじゃん」
京助が坂田の上げた手をたたいて言った
「はぁい羊子」
南が自転車から降りて緊那羅に抱きついた
それを横目で見て坂田と京助は
「はたから見ればほほえましいこの光景も実は結構しょっぱいよな…色々と」
「実際は男同士だしな…しょっぱいよな」
といって頷く
【解説しよう。しょっぱいとは男女がイチャイチャすることを甘いというように男同士で仲良くしている様を表現する用語である】
左から坂田、南、緊那羅、京助と並んで学校に向かう
「中島は?」
ふと思い出したように京助が坂田に聞いた
「アイツ大道具だから先に行ってるぞ。朝一緒に一回学校来てコレに着替えたんだ」
南がコレとスカートの裾を持った
「あまりにも臭かったんで坂田宅でファブってきた」
南が手でファブリーズを吹きかける真似をした
「組員さん大騒ぎで面白かったぞー若の彼女がきたーーーとか」
南がケラケラ笑うと坂田がどついた
「ひっどーぉい!!」
「ご愁傷様だな坂田…。緊那羅?」
さっきからやけに静かな緊那羅に京助が声をかける
「あ…何だっちゃ?」
名前を呼ばれて緊那羅が顔を上げた
「何か妙に静かだから…なしたん?」
京助の言葉で坂田と南も緊那羅を見る
「いや…別…うわぁッ!;」
緊那羅のスカートを南が捲った
「うーん…青か」
南が顎に手を当てて呟いた
「な…何するっちゃッ!!;」
真っ赤な顔でスカートを押さえながら緊那羅が声を上げた
周りにいた何人かの男子が足を止めている
「やだもう羊子ったら京助の前だからってかわいこぶっちゃって」
えいっと可愛らしくしかしかなりの力を込めて南が緊那羅を京助に押し付ける
「のゎツ!;」
緊那羅を押し付けられて京助がよろけた
「…実にしょっぱい光景だ…;」
坂田がそれを見て呟くと
「坂田~私も羊子と京助みたいにラブラブしたぁいvV」
と南が坂田の腕に抱き付いてきた
「…やめい;」
坂田が南の足を蹴った
「いつも通りのキンナラムちゃんでいいんだよ」
南が緊那羅に向かって笑った
「そーそー…着る物変わったって中身変わったわけじゃねぇんだし」
京助が緊那羅の肩をつかんで離しながら言う
「で、余裕が出来たら俺みたく遊んでみるとか」
南が再度坂田に抱きつく
「遊ぶな;」
そして肘鉄を食らう
「たった一日の体験入学なんだし…楽しくいこうぜ楽しく」
坂田が笑った
「格好はどうあれな。楽しく楽しく」
京助も笑う
「…楽しく…そう…だっちゃね」
つられたのか緊那羅も笑った
「にしても羊子…青のパンツはいただけないわ。今日みたいに特別な日はとっておきの下着つけないと駄目なの!! 女の子は!!」
「っきゃ…;」
南が緊那羅のスカートを再度捲った
「…今緊那羅きゃぁって言ったよな」
坂田が呟いた
「あぁ…」
京助もそれに呟くように返す
そして意味の深そうな沈黙をする二人
「…しょっぱいな…」
京助がまた呟いた
「俺らもな…」
坂田が遠い目で返した
登校時間終了10分前を知らせるチャイムがやっぱり調子が悪そうに鳴り響いた
校内は朝からバタバタしていた
文化祭準備期間特別授業時間割ということで朝のHRもない
「じゃ俺部門の方に顔出してくるからハンコ押しておいてくれ」
玄関で上履きに履き替えながら京助が坂田にハンコを渡す
HRがないということは出欠確認もしないということになり
生徒は各自名前の書かれた小さい長方形型のハンコを教卓の上にある紙に押すことによって出席、ということになる
「了解。緊那羅は京助についていくのか?」
坂田が京助のハンコをポケットにしまいながら玄関内をきょろきょろ見ている緊那羅に言った
「あ…えと…;」
焦った様に緊那羅は京助を見た
「ついてくるならついてきていいぞ」
京助がカムカムと手招きすると緊那羅が小走りで京助に駆け寄る
「…しょっぱいよなぁ…」
南が腰に手を当てて口の端で笑った
「お前らもな」
京助が坂田と南を指差して同じく口の端で笑うと坂田が南を押し離した
「どこに行くんだっちゃ?」
生徒で賑わう廊下を歩く京助に緊那羅が聞いた
「視聴覚室、一応俺ゲーム担当だから」
階段を上り三階にあがる
廊下の壁のあちこちに出店や出し物のポスターが貼られていた
「楽しそうだっちゃね京助」
緊那羅が京助を見て言った
「そうか?まぁ…授業やってるよりは楽しいわな。俺さ当日ってよりも準備期間が好きなんだよな。学年とか関係なくワイワイやるのがさ」
京助が笑いながら話すと緊那羅も笑った
「お!! 彼女か? 京助」
ダンボール箱を抱えた男子生徒が声をかけてきた
「ちゃうちゃう;」
京助が手を振って否定すると男子生徒は『照れるなよ』と言い去っていく
視聴覚室に着くまでにそんなことを男子生徒女子生徒問わず何回も言われた
「…私はここで待ってるっちゃ」
視聴覚室のドアに手をかけた京助に緊那羅が言った
「?なしたよ」
苦笑いを浮かべる緊那羅に京助が聞く
「また言われたら京助困るっちゃ;」
「また…ってあぁ;彼女ってヤツか…別にどうでもいいんだけどな俺は。でもま…入りたくないならちょこっと待っててくれ。すぐ来るから」
京助はそういうと教室内に入り戸を閉めた
「よっス」
カーテンを閉めて真っ暗にした視聴覚室のでっかいスクリーンにはリズムを取りながら踊るウサ耳と猫耳のキャラクターが映っている
京助はなにやら調整をしている部門員に近づいた
「はよっス先輩。他のヤツらは?」
「でっかいアケコン借りれないか最終交渉に行ったりクラスの方行ったりしてる…俺もコレの音量調節したらクラスの方行くつもりだ」
先輩と呼ばれた男子生徒がつまみを回すと視聴覚室内に音楽が流れ始める
「いい感じっスか先輩」
京助が机の上にある9個のボタンが並んだコントローラーの真ん中の赤いボタンを押した
ジャン!
という音とともに画面が切り替わる
「ためしにお前ちょっとやってみろ」
先輩と呼ばれた男子生徒が京助に言った
「んじゃま…軽くノーマルモードでレッツポップンー…」
京助は鞄を横に置くと椅子に座り巨大なスクリーンと向き合ったその時
「杉山ーーー!!!!;」
という叫び声とも聞き取れる声と何かが派手にぶちまけられた音が廊下から聞こえ先輩と呼ばれた男子生徒が電源を切った
「…何だ…?」
静かになった視聴覚室内に廊下の騒ぎ声が微かに流れ込んでくる
「…何スかね?」
京助が立ち上がり戸に近づく
戸に手をかけて京助は何かを思い出して勢いよく戸を開けた
散乱している資料と思われる紙やノート類
左方向を見たり指差している生徒達
そしてスカートの後ろを押さえ震えている緊那羅こと金名羊子
「…しょっぱなからやっちゃったみたいですな…」
京助が生徒達と同じく左方向を見ると友達にガクガクゆすられながらも白目をむいている男子生徒の姿があった
「きょ…」
緊那羅が京助を見つけた
「…何やってんだ;」
京助が緊那羅の手を引っ張って視聴覚室に入れる
「だってっ!! アイツ私の…ッ!!」
引き入れるなり緊那羅が赤い顔で大声を上げそして
「…お…尻撫でた…っちゃ…っ」
続きを小声で言った
京助がコケた
「だはははははは!!!」
付け毛を外してスカートのまま芝生に胡坐をかいた南の笑い声が校庭横の倉庫裏から高らかに響いた
「なんつーか…ご愁傷様だよなぁ…ソイツ」
中島が食べ終わったパンの袋を丸めながら言った
「触ったのが男の尻で? しかも蹴りくらって吹っ飛んで? …ブクスー」
坂田が妙な噴出し笑いをして口から何か出した
「汚ねッ;」
中島が声を上げると坂田が口をぬぐいながらまた笑い始める
「だってッ;…ぅあぁ~…思いだしたら鳥肌立ってきたっちゃ~…;」
緊那羅が腕をさすり泣きそうな顔をする
「後処理はどうしたんよ?」
ヒーヒーいいながら南が広げてあるお菓子を摘んだ
「知らん;俺らずっと視聴覚室に隠れてたし;」
京助が箸をくわえて空になった弁当箱の蓋を閉めた
「結構騒いでたよな~…俺ソイツが白目むいて人間タンカで運ばれていくの見たぞ」
【解説しよう。人間タンカとは4~6人の人間がそれぞれ頭、足、そして胴を持ち運ぶという人肌MAXの運び方のことをいうのである】
「羊子もうお嫁にいけないな」
坂田が寝そべりながらからかう
「京助にもらってもらえ」
中島が後追いからかうと京助が箸を中島の額に刺した
「俺なんか朝からスカート捲られまくり~のケツ触られまくり~のなんだけどな。いやぁアイドルはツライねぇ~」
南が困ったような顔をしてヤレヤレと首を振った
「お前は自分から見せてるんじゃねぇか;」
京助が突っ込んだ
「サービスサービスぅ」
南が足を上げると坂田と中島、京助がそろって南をどついた
「昼から俺ヒマになるから学校内案内してやるからさ」
京助が今だ腕をさすっている緊那羅に言った
「俺らんトコに遊びに来てもいいし? 俺と中島は演劇にいるし坂田は放送にいるし…いなかったらクラスの方にいると思うからさ。こいよ」
そういって南が付け毛をつけた
「あ…うん」
そろそろ昼休みも終わるということで一同立ち上がり校舎に向かう
「んじゃ帰りにな~」
3馬鹿と別れて京助と緊那羅は歩き出した
「さぁてと…どっからいきますかねぇ…」
この先は廊下と階段で3つ股にわかれている
「なぁどこに…緊那羅?」
どっちに行きたいか聞こうと緊那羅を振り返ると緊那羅が左側の廊下を黙って見ていた「そっち渡り廊下だぞ? 行くのか?」
「…音…」
京助の声が聞こえたのか聞こえてないのか緊那羅はただ黙って渡り廊下の方向を見ている
「あ、おい緊那羅!!;」
緊那羅が小走りで駆け出した
京助も慌てて後を追う
「どうしたんだよッ;」
追いついて京助は緊那羅の手をつかんだ
「音が…聞こえるんだっちゃ」
緊那羅が言った
「おとぉ?;何の;」
つかんだ手を離し京助は耳を済ませたが周りの生徒の話し声とかしか聞こえなかった
「泣きそうな音が…笛の音…」
辺りを見回して緊那羅が笛の音を探す
「笛…って縦笛か? それとも吹奏楽か…だから待てってば!! オイっ;」
再び駆け出した緊那羅を再び京助は追いかけた
握り締めていたフルートに女子生徒は息を吹き込んだ
非常階段の下で一人楽譜も見ずただ吹く
一通り吹くと口を離し空を見上げ溜息をつきそしてまたフルートに口をつけ吹き始める
「吹奏楽部員だな」
京助が言った
「…吹奏楽…? …あの子の音泣いてるっちゃ…」
緊那羅が悲しそうな顔で女子生徒を見る
「音が泣くのか?」
京助が聞いた
「…泣くっちゃ」
ふっと笑って緊那羅は女子生徒に向かい歩き出した
「笛、好きだっちゃ?」「きゃぁ!!!」
緊那羅に突然声をかけられて女子生徒は小さく飛び上がり悲鳴らしき声を出した
「あ…ごめんだっちゃ;」
驚いた顔で緊那羅をじっと見る女子生徒に緊那羅が謝った
「あ…えと笛…が…」
「笛…?」
緊那羅が女子生徒の手にあるフルートを指差すと女子生徒はクスっと笑って
「これはフルートっていうの」
そういってフルートを見せた
「フルート?」
「楽器だよ楽器。外国の」
物珍しそうにフルートをまじまじと見る緊那羅に京助が後ろから言った
「…えと…君は…フルート…? が好きだっちゃ?」
「宮津さんだとさ」
京助が女子生徒の名札を見て緊那羅に名前を教えた
「宮津さん…私はきんなら…む子だっちゃ;」
緊那羅が少し口ごもりながら名前を言った
「きんなラム子さん? …転校生?」
「まぁそんなとこ」
宮津の質問に京助が答えた
「そっか…見たことないから…私はフルートっていうか音楽が好きなの。エレクトーンも小さいころからやっているし…でも…」
宮津が俯いてフルートを握り締めた
「…私ね…決めないといけないの」
「決める…って?」
悲しそうにフルートを見つめる宮津に緊那羅が聞いた
「進路だろ」
京助が言った
「三年生だろたしか」
京助の言葉に宮津が頷いた
「進路?」
「えーっとな…将来何になるか具体的に決める…高校どこ行くかとか? いわばこれから何をしたいかっていうの三年になったら決めねぇと駄目なんだ」
緊那羅が聞くと京助が考えながら答えた
「…音楽一本で行くか…それとも音楽をあきらめて他に進むか…それで昨日もお父さんと喧嘩しちゃって…。あ、ごめん;私ったら…本当…ごめんね…」
泣きそうな笑顔で京助と緊那羅に謝ると宮津は再び俯いた
「こんなこと聞いても嫌になるだけなのにね…私…」
宮津の声は震えていた
「…その笛…ちょっと貸してくれないっちゃ?」
「え…?」
緊那羅が宮津に言った
「お前吹けるのか?;」
京助が緊那羅に聞く
宮津からフルートを受け取ると緊那羅はフルートを優しく撫でた
「…宮津さんが好きなんだっちゃね…だから泣いたんだっちゃ…」
緊那羅がフルートに口をつけ息を吹き込むと優しい音色が風に乗った
何という曲なのかはわからない
でも優しく懐かしく温かい…
京助は前に縁側で緊那羅が歌っていた歌を思い出していた
「…きれい…」
宮津が呟いた
緊那羅がフルートから口を離し宮津に笑いかける
「宮津さんに笑ってほしいっていうこの笛の気持ちの音だっちゃ」
「え…?」
緊那羅からフルートを受け取ると宮津はフルートをじっと見た
「ずっと一緒だったんだっちゃね。この笛とは」
緊那羅の言葉に宮津が顔を上げて緊那羅を見、泣き出しそうな顔をした
「…そう…一年のときからずっと…コンクールも吹奏楽祭も行事も…ずっと一緒で…私…音楽やめたくない…」
フルートを握り締めた手を額につけて宮津が泣き出した
「この文化祭で終わりなんて私…っ…」
「やめなきゃいいじゃん」
宮津の言葉に京助がさらりと返した
「好きなこと やらんでどうする いつするの」
京助が腰に手を当てて5・7・5で即席俳句を詠んだ
「あ、最後と最初逆でも可。…好きなら続ければいいじゃん」
「簡単に言わないで!!」
京助に宮津が怒鳴った
「私だって続けられるものなら続けたい! でもどうしようもないんだよ!!」
「続けたいなら続けろよ!! 好きなんだろ? すっげぇ好きなんだろ!!? 自分の好きな事なんだろ!!? 父さん母さんが何なんだよ!! どうしょうもないって何だよ!! そんなん逃げてるだけじゃん! 泣くだけ好きなら続ければいいだろ!?」
むきになって怒鳴り返す京助を緊那羅が押しのけて宮津と向き合った
「宮津さんは…」
真剣な顔で宮津を見る
「何を思って音を出すっちゃ?」
「え…?」
緊那羅が宮津に聞いた
「何をって…?」
宮津が聞いた
「何を思ってその笛と一緒に奏でてきたっちゃ?」
緊那羅が宮津の持っているフルートを撫でた
「私…」
宮津が答えに困って俯く
「私はさっき京助たちを思って吹いたっちゃ」
緊那羅が笑う
「俺かよ;」
そこに京助が突っ込む
「音は奏でる人の思いをそのまま届けるんだっちゃ。さっき…さっき宮津さんの音は泣いていたっちゃ…そして笛も。宮津さんが音楽好きなようにこの笛も宮津さんが好きなんだっちゃ」
宮津の手からそっとフルートを抜き取ると緊那羅はフルートを額につけた
「…思いを乗せてない音なんてないんだっちゃ。悲しい気持ちで奏でれば悲しい気持ちが伝わるし、嬉しい気持ちで奏でればそれが伝わるんだっちゃ。…私は進路…?ってよくわからないっちゃけど…」
緊那羅がフルートを優しい目で見る
「…好きなことはやめられないってことはわかるっちゃ。たとえ何があっても」
宮津が顔を上げると緊那羅が微笑んだ
「そーそー…結局はそうなるんだからやめるとか考えるのは時間の無駄なんだよな」
京助が溜息混じりに言う
「だから俺はやりたいことは、好きなことはやる!!」
「…みんながみんな京助みたいな性格じゃないんだっちゃ;」
宮津に指を突きつけて主張する京助に緊那羅が突っ込んだ
「…やりたいことは…やる…」
宮津が京助の言葉を繰り返す
「…宮津さんのやりたいことは?」
緊那羅が宮津に聞くと宮津が手を伸ばした
「…吹きたい…音楽やりたい…私…」
宮津が真っ直ぐ緊那羅を見て言った
「やっちゃえ」
京助が言うと緊那羅が宮津にフルートを渡した
「うん! やっちゃう!!」
フルートを受け取り宮津が満面の笑みで京助に返事をすると緊那羅、京助も笑った
「そうだよね…好きなんだもの…好きで好きで。だから悩んでたんだもんね…やめられないから…」
宮津がフルートを口にあて息を吹き込んだ
「…なぁ」
京助が緊那羅に声をかけた
「今この音…泣いてるんか?」
楽しそうにフルートを吹き続ける宮津を見て緊那羅は
「ううん」
と嬉しそうに笑った
「進路ねぇ…」
付け毛を外してでも制服は女子制服のままで南が自転車をおしながら言った
「坂田は組長だしな」
「決めんなよ;」
中島が坂田の肩を叩くと坂田がその手を叩いた
「まぁ好きなことはやめられないってのはあるよな」
中島が叩かれた手を振りながら言った
「女装とか?」
「いやコレ趣味ちゃうし」
京助が南を見ると南が手を振って否定する
「京助たちは進路…あるんだっちゃ?」
緊那羅の一言に京助と3馬鹿が顔を見合わせた
「俺ら? 中島がきょとんとして聞いた
「保育所のときは漁師だったっけかなぁ」
坂田が言った
「海の男ですか組長! うみんちゅ (海人)ですか組長!!」
南が笑う
「おうよ! 獲るぜ獲るぜ~! 大漁!!」
「組長! ソレどじょうすくいです!! 間違いです!!」
坂田がどじょうすくいの格好をすると京助が突っ込み全員が笑う
「で、学校の感想は?」
南が緊那羅に聞いた
「感想…だっちゃ?;」
緊那羅が考え込む
「特にありませんはナシですぜィ?」
中島が緊那羅の肩に手を置いて言う
「学校は…」
緊那羅が口を開いた
「学校は?」
坂田が聞き返す
「学校は学校だったっちゃ」
緊那羅の答えに京助と3馬鹿が大げさにコケるリアクションをした
「んだよソレ;」
苦笑いで京助が緊那羅を軽く叩いた
「今度は授業受けてみるか? もち!! 金名羊子で」
「わぁっ!!;」
南が笑いながら緊那羅のスカートを捲る
「…あ、青」
京助、中島、坂田がハモって呟いた