【第三回】金鳥・蚊取線香
緊那羅が栄野家に住むことになって いつしかそれが当たり前のようになっていたこと
そう気付いたのは 【いなくなって】からだった
夏休みも終盤にさしかかった日の夕方
「京様~? 京様~!!」
京助の名前を呼びながら家中探し回っているヒマ子がいた
部屋にも境内にも茶の間にもいなかった
「おかしいですわねぇ…ここ数日ふっといなくなられる回数が増えてますわ…」
ヒマ子がゴトゴトと鉢を引きずって庭に降りていった
ここは何故か落ち着いた
廊下の突き当たりこの間までは【開かずの間】となっていた部屋の窓辺に京助は腰掛けていた
足や腕についた青痰もだいぶ色が薄くなってきた
頬についた擦り傷も目立たなくなってきた
「俺は…」
京助は拳を握り締め額に当てた
遠くで豆腐売りのチャルメラが聞こえた
悠助が風邪をひいたということで坂田、南、中島の3人は宿題合宿(仮)を切り上げて帰った
「こら、おとなしく寝てろ」
母ハルミに起き上がってこようとする悠助の監視役として任命された京助は悠助の寝ている隣で漫画を読んでいた
「だって暇なんだもん~…」
京助に叱られて悠助はぷーっと頬を膨らませて枕に頭をつけ手足をバタバタさせた
「つまんないつまんないつまんなーい!」
「お前がつまんなくても俺はつまってんだっつーの」
布団からゴロゴロ転がって机の前まで辿りつくと通学用の鞄を開け始めた
「なにやってんだよ;ちゃんニ寝てろって」
京助が悠助を布団に戻そうと立ち上がり近づいて
「お、懐かしい」
と言ってしゃがみこんだ
悠助は国語の教科書を開いていた
小学一年生の教科書は字も大きく平仮名ばっかりで中学二年の京助にとってはパッと見、逆に読みづらかった
「このページを暗記してこないといけないんだ~…宿題っ!」
良くある国語の宿題パターンの一つである【詩の丸暗記】をだされたらしい
悠助は教科書を持つと布団にもぐって読み始めた
「おおきなかぶ~…」
足をパタパタさせながら声に出して同じ所を何度も読み返す
「何してるっちゃ?」
緊那羅が戸を少し開け覗き込んだ
「宿題だとさ。話の丸暗記」
「宿題?」
少し開けていた戸を開け緊那羅が部屋に入って悠助の読んでいる教科書を覗き込んだ
「もぅ~緊ちゃん邪魔しないでよ~!」
悠助が緊那羅を見上げて頬を膨らませた
「あ;ごめんだっちゃ」
慌てて緊那羅が離れると悠助は再び教科書を読み始めた
悠助に邪魔といわれた緊那羅は京助の隣に座った
「だいぶ良くなってきたみたいだっちゃね…安心したっちゃ」
思ったより元気そうな悠助を見て緊那羅が微笑んだ
「まぁ…元々熱がちょっとあっただけだしな」
京助があぐらをかきなおして机に背を預けた
「うんとこしょ!! どっこいしょ! それでもかぶは抜けません」
「俺もよく暗記させられたっけなぁ…蚊取線香とか数え歌とか」
一生懸命暗記しようとしている悠助を見ながら京助が懐かしそうに言った
「一度火をつけたら元来た道を一生懸命戻り出す、忘れ物をしたように…ってか~…小四くらいの時に暗記させられたの覚えてるって凄くね?」
京助が【蚊取線香】の詩の一部を暗唱した
「蚊取…線香の詩なんてあるんだっちゃね。蚊取線香ってあの緑色したうずまきのやつだっちゃよね?どんな詩なんだっちゃ?」
緊那羅が珍しそうに聞いてきた
「あ~…んとよく覚えてねぇんだけどさ…蚊取線香って火ぃつけたら中心に向かってくじゃんか?その様子が忘れ物を取りに戻るみたいだって詩」
京助がウロで思い出した【蚊取線香】の詩を説明した
「京助は忘れ物しても戻ってこないっちゃよね」
「うっせ;」
緊那羅がさらりといった
風邪薬のせいか頑張って暗記しようとしたせいか悠助が教科書に顔をつけて寝てしまっていた
少し開いた窓から風が虫と一緒に入ってきて緊那羅の腕に止まった
「…こんなときこそ蚊取線香っと」
京助が立ちあがって部屋から出、手に蚊取線香セット (マッチ、蚊取線香、灰皿) を持って再び戻ってきた
戸を閉める音に悠助が微かに反応したが寝返りを打つとまた寝息を立て始めた
「地味に効くんだよな~…蚊取線香って」
火をつけると細い煙が上がり独特の煙たさが広がった
灰皿に蚊取線香を置くと緊那羅がソレを覗き込む
「…この火が忘れ物取りにもどってるちゃか?」
煙を上げながら中心に向かっている火を見て京助に聞いた
「そうなんじゃねぇの?」
「ふぅん…一体何忘れたんだっちゃかね」
ゆっくりと中心に向かって進んでいく火を緊那羅はしばらく黙ってみていたがふと顔を上げた
「…笛の音…?」
風に乗って微かだけど笛の音が聞こえてきた
「あぁ、今日港祭りやってんだ。そこで流してる音楽だろ」
緊那羅が窓を開けて耳を澄ます
笛の音に混じって少し音の外れたおっさんの歌声も途切れ途切れだが聞こえてきた
「…悠助寝ちまったし…外もだいぶ涼しくなってきたし…暇だしの三拍子そろってることだし…行ってみっか?」
漫画本を閉じて京助が立ち上がり首をコキコキと鳴らした
「いいっちゃ?」
口ではどことなく気が引けるようなそんな言い方をしているが緊那羅の目は行きたいと訴えている
「見るだけだからな。金ねぇし」
漫画本を机の上において部屋の戸を開けた
緊那羅も窓を少しだけ開けて京助について部屋を出た
蚊取線香の燃えカスがポロリと落ちた
『お祭り行くなら悠ちゃんに何か買って来て』
母ハルミから2千円を貰い緊那羅と京助は薄暗くなってきた町道を港に向かって歩いた
途中浴衣姿や出店で買った玩具をもった同級生なんかにも遭遇した
「人、多いっちゃね」
港に近づくにつれ増えてくる人をみて緊那羅が言った
「っとに…この狭い街のどこにこんな数の人がいたんだか…はぐれんなよ緊那羅」
緊那羅の腕を掴んでさらに人の多い出店ゾーンに突入した
クレープ、わたあめ、りんごあめ、フランクフルトに定番のタコヤキ…威勢のいい声といい匂いがする
カラコロという下駄の音、駄々をこねて泣き喚く子供の声、射的の鉄砲発射音…
「にぎやかだっちゃー…」
京助に腕を引っ張られつつ緊那羅は周りを見て呟いた
「よそ見してッとコケるぞ」
「何買っていくか決まったっちゃ?」
わたあめ屋の前で止まった京助に緊那羅が聞く
「わたあめでいいや…おっちゃん、一つ」
「あいさ!! にィちゃんどの袋がいい?」
針金にぶら下がっているわたあめの袋にはTVのキャラクターが描かれている
「この黄色いの…この間悠助と見たっちゃ」
緊那羅が手に取ったのは黄色い電気ネズミ描かれたの袋だった
「ハイ! ポケ○ンね! 300円」
わたあめ屋のおっさんがぶら下がっていた針金からポ○モンの袋を外して緊那羅に持たせた
「毎度ありぃ~」
黄色い電気ネズミの描かれたわたあめの袋を抱えたまま緊那羅が人混みの中で足を止めた
「…? 緊那羅? どうした?」
振り返った京助が少し戻って緊那羅に問いかけると
「あ…や、なんでもないっちゃ」
と言って歩き出した
京助も何か変だと思いながらも歩き出した
出店ゾーンから抜けるとだいぶ人数も少なくなって歩きやすくなった
小走りで緊那羅の横に並ぶ
「…人に酔ったか? しゃーねーな;」
どこか元気の無い緊那羅に京助が心配そうに聞いた
「…え?」
「どこか休める所…こっちだな」
『今何か言ったっちゃ?』そう言おうとした緊那羅のその言葉を待たずに京助は近くの公園に入った
祭り会場から離れた公園は案の定誰もいなく遠くからやっぱり少し音の外れた歌声が聞こえてくる
「そこ、座ってろ」
緊那羅にベンチに座る様に言って京助が自動販売機に向かって駆けて行き手に二本の缶を持ってまた駆けて来た
「座ってろったじゃん;」
座るように再度言い黄色い電気ネズミの描かれた袋を緊那羅から取って缶茶を手渡した
「…京助…」
「あ?」
カシ、と缶を開けてベンチに腰掛けた京助を緊那羅が小さな声で呼んだ
「…京助…私は…」
何かを言おうとしている
それもちょチと複雑な事を
変なカンだけいい京助にはそれがわかった
「私は…」
俯き、缶を両手で握り締めたまま緊那羅はその先の言葉を言えずにいた
「京助…私…は…」
パァン…!!!
やっと緊那羅が【その先の言葉】を言おうとして顔を上げた瞬間
京助が腰掛けた隣においてあったわたあめの袋が爆発(?)した
「な…ッ!?;」
京助が驚いて飛び退くと『クスクス』という何とも人を小馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた
「…そっちに決めたんだ」
自動販売機の上で足を組み、手で頬を支えて口元に笑みを浮かべる少年…といっても京助より年上に見える
「すぐ決めると思ってたのに結構時間かけてくれたね…まったく…僕待つとか面倒くさいの嫌いなんだよね」
はぁ、と大げさに溜息をついて意地悪そうに微笑むと顔の横に垂らしていた布を後ろに払った
「…お前性格悪いだろ」
京助が自動販売機上の少年を指差して言った
「僕? さぁね…どう思う? 緊那羅?」
少年の口から【緊那羅】の名前が出ると京助は緊那羅を見た
緊那羅は鋭い目つきで少年を睨んでいた
「…緊那羅…?」
明らかに【ボク等仲良し】的知り合いではないことがわかった
「… 矜羯羅…」
【 矜羯羅】と呼ばれた少年は初対面の時の緊那羅の様な不可思議な格好をしていた
【ボク等仲良し】的知り合いではなくとも関係はあるらしく…
「性格がいいんじゃなくて…【いい性格】してるんだっちゃ」
結局の所少年の性格はかなり悪毒で悪いらしい
緊那羅の手にはあの棒の様な物が握られていた
「ふぅん…僕とやろうての? 緊那羅。宝珠も持ってないこっちから戸も満足に開けられない君が? 僕と?」
矜羯羅がクスリと笑った
「…うっわぁ~…本当【イイ性格】してやがんの…」
そんな矜羯羅を見て京助は緊那羅のいったとおりだと思った
「まぁいいや…君たちががこっちに決めたなら…僕たちはいらないから…」
にっこりと笑みを浮かべて矜羯羅が京助を見、パチン! と指を鳴らした
京助の頬を何かがかすめて頬に軽い痛みを感じた
手をやると赤い血が手についた
「消すよ」
右の手首をくるっと返すと矜羯羅の5本の指の間に小さな青い玉が挟まれていた
さっき京助の頬をかすったのもおそらくその玉だろう
「…ヤバクナイデスカ?;」
『消すよ』おそらく、いや絶対本気で矜羯羅は京助を消す気だろう
それも笑顔で
頬を押さえながら後ずさりする京助の前に緊那羅が立った
「…京助…私が初めて京助に会ったとき【守る者か滅する者か】…そういったこと覚えてるっちゃ?」
矜羯羅から目を逸らさず棒の様な物を握り締めて緊那羅が聞いてきた
「…私は…決めたっちゃ」
緊那羅はゆっくりと振り返ると微笑み、そして再び矜羯羅を凝視した
「私は栄野兄弟を守る!」
矜羯羅を手に持っていた棒の様な物で指した
そんな緊那羅を矜羯羅は顔色一つ変えずにあいも変わらず笑みを浮かべて見ていたが
「兄弟って独り占め?」
とわざとらしく目を見開き肩を落としやれやれと言うように溜息をつく
「…独り占めは良くないよ? 緊那羅」
ピン! と矜羯羅が玉を緊那羅めがけて飛ばしたが緊那羅はそれを棒の様な物で弾くとその棒の様な物を口に当てた
高い音色が響いたと思った
京助が瞬きをしたのはコンマ何秒の間だろう
その間に緊那羅があの不可思議な格好に変わっていた
「緊那羅…お前…ソレ…」
京助は恐る恐る緊那羅に近づくと
「ソレ…笛だったんか…」
「…は?」
辺りの空気が緩く溶けた
「プッ…あはははははは!!」
矜羯羅が笑った
「京助…;」
緊那羅が力なく呆れたように俯いた
「な…だってずっと気になってたんだよッ;」
「普通は変身というか着てるものが一瞬で変わったトコに驚くと思うんだけど…」
ヒーヒーいいながら矜羯羅が何気に突っ込んできた
どうやら本気で笑いのツボに入っていたらしい
「おもしろいね…京助だっけ? 僕君みたいな馬鹿嫌いじゃないよ。そうだ…知ってる? 緊那羅は音楽の腕前が凄くてね…歌声も綺麗なんだよ」
「…俺はお前みたいな意地クソ悪いいかにも悪役っぽいしかも顔のいい奴は大嫌いだ」
矜羯羅が『ね?』と微笑みながら緊那羅のほうに顔を向ける
確かに緊那羅の歌は上手かったと京助も矜羯羅に悪態をつきつつも緊那羅を見た
「…なんだっちゃ;」
少し照れているらしい緊那羅が京助をチラ見した
「あ、そっか…だから武器、笛なのか」
感心した様にまじまじと武器笛と緊那羅を交互に見て京助が納得する
「僕…久々に緊那羅の声聞きたくなっちゃった」
いつの間にこんな近くに来ていたのだろう
矜羯羅は緊那羅の顎をつかまえて顔をクッと上げた
緊那羅が矜羯羅の手を払うと後ろに下がる
「…声、きかせてよ緊那羅」
矜羯羅の回りに青い小さなあの玉が多数浮かんでいた
「…やっぱり【イイ性格】してるっちゃ…」
「本当だな」
緊那羅が武器笛を構えた
矜羯羅が指を弾くたびに小さな青い玉が緊那羅と京助めがけて物凄いスピードで飛んでくる
「何なんだよあの危ないヤツはっ!!!;」
京助はスレスレで玉をよけつつ緊那羅に問いかけたというよりは怒鳴った
「簡単に言うと【敵】だっちゃ! 京助! 右!!」
二本の武器笛で玉を弾きつつ緊那羅も叫んだ
まるでテニスのダブルスでもやっているかのように思えた
「逃げてばっかりじゃつまらないじゃない…声も聞けないし…」
明らかにこの状況を思いっきり楽しんでいる矜羯羅は【簡単に言うと敵】らしい
「簡単に言わなくても敵だと思うぞ!!;」
京助は自分の運動神経にコレまでの人生の中でこれほど感謝したことは無いだろう
息は切れてきたもののまだ一度も玉に当たってはいなかった
というか一回当たれば即ゲームオーバーだろう
「…飽きちゃった」
矜羯羅が右人差し指をクッと曲げると避けた玉がカンバックして京助の左肩にモロに当たった
「!!ッ!!!;」
激痛が走った
折れてはいないみたいだがかなり痛い
「京助!!」
緊那羅が名前を呼びながら駆け寄る
「…ってぇ…;」
肩を押さえ痛みに耐える
「京助…」
「あれ…? 緊那羅、京助守るんじゃなかったの?」
クスクスと笑いながら宙に浮かぶ矜羯羅を緊那羅が睨んだ
トントン、と頬に当てた指で口元を叩きながら矜羯羅はにっこりと微笑むと
「…声、聞かせてよ」
沢山の玉が緊那羅めがけて飛んできた
避ければ京助に当たってしまう、かといってあの数は防ぎきれない
「顔は避けてあげるね」
目をつぶった緊那羅の耳に矜羯羅のそんな声が聞こえた
「ッうぁぁぁああ!!!」
何かが何かにぶつかる音と緊那羅の尋常じゃない叫び声
これが緊那羅の悲鳴だと把握できるのに時間はそんなに掛からなかった
「やっぱりいい声してるね緊那羅…そう思わない? 京助」
顔を上げた京助が見たもの
スローモーションでも掛かっているかのようにゆっくりと倒れていく緊那羅と楽しそうに笑う矜羯羅そして自分の周りに自分を避けたかのように散らばる無数の小さい玉
「き…」
『緊那羅』、名前を呼ぼうとしたが声が出ない
かろうじて動いた右手で倒れていく緊那羅を受け止めた
「終わり? …もちょっと声聞いていたかったんだけど」
溜息をついて矜羯羅がゆっくりと京助に近づいてきた
意識の無い緊那羅を庇いつつ矜羯羅を睨む
「今度は…君の番」
矜羯羅が微笑みながら右手を挙げると京助の周りに散らばっていた玉が矜羯羅の回りに集まった
「そう…やすやすと消されてたまるかよッ!;」
まさに火事場のなんとやら
京助は緊那羅を抱きかかえるとダッシュで逃げた
左肩がキシキシと痛んだがそんなこと構っちゃいられなかった
「…足速いんだね…僕運動って嫌いなんだけど」
矜羯羅は京助の走り去った後を楽しそうに見ていた
『一体なんなんだ
俺が一体何をしたってんだ
そりゃぁ…早弁したり居残りしたりとかは日常茶飯事でやってきたけど
得体の知れない中国雑技団みたいなのに命狙われる様なことなんてした覚えが無い…』
必死で逃げながら京助の頭は混乱していた
ついこの間までは【普通】だったのに
いつの間にか【普通】ではなくなっていた自分の日常…
京助は足を止めた
緊那羅の髪飾りが風に流れ腕に絡みつく
「…緊那羅…お前はどうして俺の所にきたんだ…?」
意識がない緊那羅に問いかけた
「どうして…俺を守るとか言ってんだ…?」
端から血が流れている緊那羅の口は動かない
「…わかんねぇ…」
そう呟くと京助はその場に座り込んでしまった
「…何がわからないの?」
フッと耳に息を吹きかけられて京助が驚き振り向くと息一つ切らさずに矜羯羅が笑顔でそこにいた
「京助って足速いんだね…僕運動嫌いだから疲れちゃった」
「嘘つけ…;」
耳を押さえ緊那羅を引きずって後ろに下がる京助に矜羯羅は面白そうに一歩一歩ゆっくり近づいた
「一気に殺っちゃってもいいんだけど…それだと面白くないし?」
そういいながら矜羯羅が指を弾く
「ッ!;」
玉が京助の腕に当たった
さっき肩に当たったのに比べるとかなり加減した攻撃だったが青く痣が浮き上がってきた
「想い出を思い出す時間とかほしいんじゃない?やっぱり」
再び指を弾くと今度は足に玉が当たった
「だから…ゆっくり消してあげるよ」
矜羯羅の口元には笑みがあった
そう口元には
「やっぱ…スンゲェ【イイ性格】…」
矜羯羅の回りに再び無数の玉が浮かんだ
京助には今起こっていることが夢なのか現実なのかわからなかった
怖くはなかった
むしろ本当に何が何だかわからなくて
でもやっぱり玉の当たった箇所は痛く腕にいる緊那羅は意識は無いものの温かくそれは現実で…
でも誰だってこんな状況を現実だなんて思えないだろう
現実か夢か
こんなに頭を使ったことなんて小学校の時の掛け算以来だろう
「なに考えてるの?」
矜羯羅の声でぐちゃぐちゃした考えが一瞬一気に吹き飛んだ
「そろそろ…いい?」
「…嫌だっても実行するくせに」
小さく突っ込み京助は緊那羅を自分の後ろに庇いながら苦笑いを浮かべて矜羯羅を見上げた
「よくわかったね」
にっこりと笑い矜羯羅が指を弾いた
その音と同時に玉が京助に向かって飛んできた
強風が巻き起こった
玉の攻撃に覚悟を決めたのと突然巻き起こった強風でゴミが目に入らないようにというので目をきつく閉じてしまった京助は風が弱くなったのとなにやら気配を感じてゆっくり目を開けた
目の前は一面の金色
「…天国…?」
「たわけ!! 周りをよく見てから言え!!」
ぼそっと漏らした京助に誰かが怒鳴った
と目の前の金色が消えさっきまで見ていた風景と悠助と同じくらいの身長の子供の後姿が京助の目の前にあった
その子供は京助をチラりと見、その後緊那羅を見た
「乾闥婆、緊那羅とそこの馬鹿を任せたぞ」
「な…馬鹿って…コルァガキ!! てめー…」
「本当のこといわれて怒らないで下さい! 迦楼羅ももうちょっとやわらかく言えないんですかまったく…」
迦楼羅が分が悪そうにフンとそっぽを向くと乾闥婆はやれやれというように首を横に振った
「…久しぶりだな矜羯羅」
迦楼羅に名前を呼ばれた矜羯羅は眉をしかめつつも笑顔を浮かべていた
「…まさか君が出てくるなんてね…」
さっきまでとは明らかに様子が違う矜羯羅を目つきの悪い目をさらに悪くして迦楼羅が睨む
「結構楽しそうにやっていたみたいだな…」
さわさわと風が吹き出し砂埃が舞い上がる
「その礼はワシが代わりに返してやろうぞ!!!!!」
迦楼羅の怒鳴り声と共に物凄い強風が巻き起こり目の前に再びあの金色の世界が広がった
「…は…ね…?;」
迦楼羅の背中からはその身長とは不釣合いな巨大な金色の羽根が生えていた
「つうか体のわりにでかすぎねぇ?;」
目の前に広がった金色の羽根を指差して京助が乾闥婆に言う
「もっと大きくなりますけど…まぁああ見えても結構なご老体ですからあまり力使いたくないのかもしれませんし…もっともこれ以上力使うなら僕が止めますからこのくらいが丁度いいんです。さ、矜羯羅は迦楼羅に任せて緊那羅を何とかしないといけませんから。見せてください」
乾闥婆は京助の隣に座ると京助の腕で意識を失っている緊那羅の顔を見、それから全身を見る
「数箇所折れてますね…まぁ腹に穴開かなかっただけよしとしますか。血出ちゃったら服汚れますからね。それに死ぬ危険性も出てきますし…」
おとなしそうな顔して怖いことを連発した後、乾闥婆は胸に着けていた飾りを三回指で突付いた
「この程度ならコレ使わなくても【天】に帰ればある程度早く治るんですけど」
乾闥婆の胸の飾りから小指サイズの小さな試験管の様なものが出てきた
中には何か液体が入っているようだった
「ほら、ぼけっと阿呆面してないで緊那羅の口開けてください」
可愛い顔してババンバン…乾闥婆の性格はかなりキツイらしい
言われるがまま京助が緊那羅の口を指であけると乾闥婆が中に入っていた液体を緊那羅の口に注ぐ
乾闥婆は三分のニを緊那羅の口に注いだ後京助をチラっと見た
「…貴方も飲みますか? たぶん傷治ると思いますけど…」
そういって残っていた液体を入れ物ごと京助に差し出した
「これ…何よ…水?」
透明で無臭の液体を受け取った京助はまじまじと中身を見る
「飲めばわかります」
乾闥婆に見られながら京助はその液体を口に含んだ
甘さの後に辛さというか…熱さが舌に絡んだ
「…なぁ…傷治るどころかスンゲェまずいんだけど」
京助が顔をしかめてカラになった入れ物を乾闥婆に返した
「…そんな…まさかでも…迦楼羅!(かるら)!」
一体何に驚いたのか乾闥婆は大声で迦楼羅の名前を呼んだ
金色の羽根を広げ矜羯羅と睨み合っていた迦楼羅はその乾闥婆の声に反応して振り向く
矜羯羅も乾闥婆の方を見た
「まだ…早かったみたいです」
乾闥婆のその一言で迦楼羅と矜羯羅の突き刺すような視線が京助に向けられた
迦楼羅が地上に降りると金色の羽根が消えた
「…本当か?」
迦楼羅が乾闥婆に歩み寄りながら少し驚いたように聞いた
「…ソーマが効かなかったんです…それしか考えられません。別人でもないみたいですから…まだ…早かったとしか」
【ソーマ】とはさっきの変な味の液体のことらしい
京助は後味の悪いあの液体が効かなかったということで矜羯羅と迦楼羅の突き刺さるような視線を浴びたのだとやっと気づいた
「ではまだ…だから緊那羅は…」
迦楼羅が京助に近づき目線を合わせた
「…お前、名前は栄野京助で合っているか?」
「な…んだよ;」
「…お前は栄野京助なのかと聞いておる!! さっさと答えんか!このたわけ!!!」
怒鳴った迦楼羅の口から少量の炎が出てきた
「迦楼羅落ち着いてください…火出ましたよ」
乾闥婆が少し睨みを入れて迦楼羅を見る
「なんだ…まだ早かったなら消しちゃ駄目なんじゃない…」
忘れられているように感じたのか矜羯羅が伸びをしながら少し大きな声を出した
「どっちかわかるまで…」
クスクスと笑うとそのままスゥっと消えてしまった
「き…消えた…」
「帰っただけです消えたわけじゃないですから。さて…邪魔者はいなくなったことですし…栄野京助君…でいいんですよね?」
驚いていた京助に先ほど迦楼羅がしてきた質問と同じ質問を乾闥婆がしてきた
「そうだけど…だから何だっていうんだよ」
京助はさっき飲んだ【ソーマ】とかいうまずい液体のせいで舌がぴりぴりしていた
「…緊那羅は何か言ってませんでしたか?」
「緊那羅が…?」
【ソーマ】は本当に傷が治るらしい
緊那羅を見るとさっきまであった痛々しい傷がなくなっていた
「…別に何も…ただ俺と悠助を守るとか…」
傷は治ったもののまだ緊那羅の目は開かなかった
「…両方守る…ということは緊那羅め…やはり知ってたのだな」
迦楼羅が呆れたように緊那羅を見る
「緊那羅らしいといえば緊那羅らしいですけどね…でも…」
乾闥婆が京助を見た
腕と足に痣、頬に擦り傷、肩は…たぶん肩にも痣があるだろう
傷だらけだった
「今日みたいな事があっては守っているとは言えぬな」
迦楼羅が吐き捨てるように言った
「な…緊那羅はなぁっ!!;」
迦楼羅の態度にムッとした京助が大声を上げた
「このたわけ!!! お前が、栄野兄弟が今死んでは駄目なのだ! 今日みたいな事がまた起こらぬとも限らん!! 確実にお前等を守れなければ意味が無いのだ!」
京助の大声に負けじとも劣らない大声を迦楼羅があげた
「やかましいこの鳥類!」
それに対抗する京助
「落ち着いてくださいッ!」
口では丁寧口調で止めていても『テメェらええ加減にせんかい…ワレ』という最凶、最強オーラを全身にまとった乾闥婆の一声はまさに鶴の一声だった
乾闥婆の一声ですくみあがっていた迦楼羅がコホと咳を一つして京助を見た
「とにかく…だ。お前達兄弟は何としてでも【時】までに守らねばならないのだ…そして【時】が来たならば、更に守らなければならない…今はまだ早いが…なんだ…その…」
うまく言いたいことがまとまらないらしく迦楼羅の話はやたら間が多かった
「簡単に言うと貴方と弟さんを【時】がくるまでしっかりまもらないとってことです」
見るに見かねた乾闥婆が横から簡潔にまとめて話した
「…あのさぁ…【ソーマ】だの【時】だの…意味の分からない業界用語あるんスけど…」
頭を掻きなら恐る恐る聞いてきた京助にプチ切れかけた迦楼羅が
「【ソーマ】は【ソーマ】!! 【時】は【時】だ! たわけ!」
と怒鳴ると乾闥婆が迦楼羅を笑顔で睨む
「今の貴方はまだ多くを知らなくてもいいんです。むしろ知らないで下さい」
乾闥婆が立ち上がり服についた砂埃を払い京助に手を差し出した
どうやら立たせてくれるらしい
京助は乾闥婆の手をとって立ち上がった
「…てか俺本当少しどころか何も知らねぇから少しは知りたいんだけど」
「…知らないで下さいって言いませんでしたっけ?」
『少しは知りたい』そういった京助の手を乾闥婆が笑顔で凄い力を入れギリギリと握り返してきた
「…京助とやら…一つだけ教えてやろう」
その様子を見ていた迦楼羅が『ちょいちょい』と京助を招くとこう耳打ちした
「乾闥婆には逆らうな。乾闥婆を怒らせるな;」
もう、少し音の外れたおっさんの歌声も笛の音も聞こえてこない
一体今何時なのか…辺りはまっくらでさっきまでの出来事が嘘のように静まりかえっていた
ここからじゃ時計も見えない
「…そろそろ帰らねぇと悠起きてるかもしれないしな…風呂も入りてぇし湿布貼りてぇし…それに…」
今だ気を失ったままの緊那羅を見下ろす
「…緊那羅の手当て…まぁ傷は治ったとしても体休ませないとだしな」
「緊那羅を連れて行く必要は無い」
緊那羅を抱き起こそうとしてしゃがんだ京助に迦楼羅が言った
「緊那羅は【天】に連れて帰る」
【天】から来たと言った
そう言った緊那羅が【天】に帰るのは当たり前のこと
【自分の家】から来た友達が【自分の家】に帰るのと同じこと
「緊那羅はお前を守れなかったからな。だから連れて帰る」
「だぁから緊那羅は俺を庇って…」
「たとえそうであっても貴方を守れなかったのは事実です」
また大声をあげそうになってしまった京助だったがさっきの迦楼羅の忠告を思い出し口をつむいだ
「…後日緊那羅に代わるお前たちを守る輩がまた来るだろう」
迦楼羅が自分の体より大きな緊那羅を肩に担ぎ京助に背を向け静かに言った
「な…んだよそれ…ッ!」
京助が迦楼羅の前にまわり迦楼羅の胸倉を掴んだ
「京助!」
乾闥婆がそれを止めた
「…何だよ…それ…俺は…」
乾闥婆(けんだっぱ9に止められると京助は膝をつき迦楼羅の胸倉から手を放した
「…先程も言ったであろう確実にお前等兄弟を守らねばならぬと」
京助は俯いたまま黙っていた
「緊那羅は理由はどうであれお前を守れなかった…お役目御免なのはお前もわかるだろう」
迦楼羅が俯いたままの京助の横を通り過ぎた
緊那羅の髪飾りが触れた
「【天】…」
京助が呟くと乾闥婆が京助を覗き込んだ
「【天】って…どこにあるんだ?」
やっと聞き取れる位のボリュームで京助が聞いた
「…【天】は【天】にあるんです…」
緊那羅も似たような事を言っていた
「…大丈夫ですよ」
乾闥婆が俯いたままの京助の耳に小さく優しく言った
その声で顔を上げた京助の目の前で迦楼羅と乾闥婆、緊那羅の姿がまるで見えない部屋に入るように消えた
チャルメラの音がやんで庭に下げてある風鈴の微かな音色まで聞こえるくらい静かな夕方
再びチャルメラの音が鳴り始めそれがだんだん近くなりそして遠くなっていく
「京様~! 京様~!!」
ヒマ子がまだ京助を探して叫んでいた
「…栄野…京助…」
京助は自分の名前を口に出して言った
自分がもし【栄野京助】という名前じゃなかったのならあんなヘンテコリンなことは起こらなかったのではないか
【あんなヘンテコリンなこと】があってから三日が過ぎていた
悠助の風邪も完治して明後日からは学校も始まる
『宿題なんか鞄から出してもねぇから始業式の前に誰かのを写させてもらわねぇとなー…始業式っていっても6時間だから弁当いるし…忘れないように…』
極力【あんなヘンテコリンなこと】を思い返さないようにしていてもどうにもこうにも思い出してしまう
そこから色んなことを考えてもまたその【あんなヘンテコリンなこと】へと還って来てしまう
折角買ったわたあめを台無しにされ、玉ぶつけられて殺されそうになり、クソまずい液体を飲まされ、鳥類に馬鹿にされ…緊那羅がいなくなった
弁当のことを考えていて緊那羅が浮かんだ
思えば緊那羅との出会いは弁当絡みだった
京助の頭の中では【弁当=緊那羅】という式が組み立てられそこから更に【緊那羅=あのヘンテコリンなこと】に結びついた
「…どうしてんだろ…」
【ソーマ】とかいうクソまずい液体のおかげで外傷は治ったものの結局気を失ったままで【天】に帰ってしまった緊那羅は今どうしているのか
あの独特の【キンナラムちゃん語】を初めて聞いたときの笑いのトルネード
台無しにされたエビフライ (弁当)
妙に懐かしくなった歌
実は笛だったあの棒
母さんにいいように使われている姿…
なんだかんだでまだ一ヶ月くらいしか経っていないんだと京助は日数を数えて少し驚いた
もっとずっと昔からいたようなそんな感じさえする
「何似合いもしないのに黄昏て哀愁に浸っているんですか。京助」
…何処からか声がした
どっかで聞いた事のある声だったが…気のせいだと思い返事をしなかった
「名前を呼ばれたのならばまず返事してくださいね」
突き刺さるような殺気を窓の下に感じて目をやるとと乾闥婆が立っていた
「な…一体いつから…;」
「たった今です。…怪我の具合は…大丈夫そうですね」
腕と足の薄くなってきた青痣を乾闥婆が軽く突付きながら言った
「なぁ…」
「緊那羅なら元気ですよ」
「あ…さいですか…どうも」
これから聞こうと思っていたことの返答を先に貰ってしまった
何かを言いたいらしい京助を乾闥婆は上目遣いで見ると足の青痣を強く押した
「いってぇっ!; 何すんだよッ!!」
足を庇い乾闥婆に怒鳴った
「あの時言った僕の言葉信じられませんか?」
「あの時…? ってどの時だよ? ッてぇッ!;」
今度は腕をつねられて京助は涙目になる
「もう忘れたんですか。本当に馬鹿なんですね。その頭には一体何が入っているんですかたった9文字の言葉も覚えていられないんですか…ッ」
乾闥婆がつねる力を更にあげた
「痛てぇって!;マジ痛てぇっ!;」
乾闥婆が手を放すとつねられていたそこは真っ赤になっていた
「…お前コアラみたいな性格してんな…」
(コアラ=可愛いけど性格キツくて攻撃的)
京助はつねられた所をさすって乾闥婆をコアラに例えた
「僕を外国の有袋類に例えないで下さい」
今度は顔面にチョップを食らわされた
『乾闥婆には逆らうな。乾闥婆を怒らせるな』
京助の頭には乾闥婆ではなく迦楼羅の言葉が浮かんだ
「…乾闥婆は『大丈夫』っていったんだっちゃ」
キンナラムちゃん語が聞こえた
「やっと来ましたか…まったく…照れくさいだの合わせる顔が無いだの散々言っていたくせに、いざ他の人を送るとかになったら…」
「乾闥婆ッ!;」
しれっとした顔で【天】で緊那羅がとっていた行動を暴露していく乾闥婆に緊那羅が真っ赤になって食ってかかった
乾闥婆につねられ赤くなった腕をさすっていた京助はどうして緊那羅がここに来ているのか把握できていないようで目が点になっていた
「蚊取線香とか忘れ物とか…意味の分からないこと連呼して」
「蚊取線香?」
乾闥婆の口から出た【蚊取線香】に反応して京助の目が元に戻った
「乾闥婆ッ!;」
緊那羅は真っ赤になりながら乾闥婆8けんだっぱ)を揺すって話させないようにしようとするが乾闥婆は動じない
「ええ、自分は蚊取線香で忘れ物残してきたとか。まぁ忘れ物って何かは大体わかりますけど…それと蚊取線香が何の関係があるのか僕にはわかりません」
左右に揺すられながらも乾闥婆は淡々と話した
「…緊那羅…お前…」
京助に名前を呼ばれて乾闥婆から手を離しふぃっと顔をそらす
「…何純情乙女やってるんですか蚊取線香」
緊那羅の後頭部に乾闥婆のチョップがのめり込んだ
よっぽど痛かったのか緊那羅が頭を押さえてしゃがみこんだ
「…お前…つぇえな;」
「それほどでも」
乾闥婆のその最強 (凶?) っぷりを京助が引きつりながら褒め称えた
「元々緊那羅は確認のために来ていたのに向こうの相手がいきなり矜羯羅だったということ…これはどう考えても緊那羅だけが悪いということにはなりませんし」
乾闥婆がしゃがんでいた緊那羅の腕を引っ張り立たせ、背中を押して京助と対面させた
が…二人して視線をそらして沈黙が続く
「貴方達は昭和純情カップルですか」
再び乾闥婆の容赦ない突っ込みチョップが緊那羅と京助に食らわされた
「…じゃあ僕はこれで帰りますから。迦楼羅がたぶんまた暴走してると思いますし」
そう言うと乾闥婆は数歩歩いて消えた
「京助」「あのさ」
同時に口を開いてまた沈黙した
「あのさ…何でお前が蚊取線香なんだ…?」
今度は京助のほうが早かった
「蚊取線香は…忘れ物を取りに帰るっちゃ…私も…取りに帰りたかったから…ここに」
やっぱり照れくさいのか…緊那羅は俯いたまま話した
「京助と…悠助って忘れ物だっちゃ。私は…二人を守りたい…だから…」
だんだんと聞き取りにくくなっていく声で緊那羅が泣いているのがわかった
緊那羅が体の横で握り締めていた手で顔を覆うと肩が小刻みに震え始めた
「ッ…二人を…守れるように強くなる…から…」
手で顔を覆ったせいで余計聞き取りにくくなった緊那羅の声を京助は黙って聞いていたが…
「…何か俺が女役みてぇなセリフ…」
『強くなって君を守る』とかいう元祖ヒロインをオトすならこのセリフ!って感じのことを言われて京助がボソッと呟いた
「どっちかってぇとさ緊那羅のほうが女役似合うとおもわねぇ?」
「な…どういう意味だっちゃッ!!!;」
京助の言葉に緊那羅が大声を上げてついでに顔も上げた
「…よ」
顔を上げた緊那羅にヒラヒラと片手を挙げて笑顔を返す京助
「な…ひっかけたっちゃねッ!!!;」
緊那羅の目に溜まっていた涙が瞬きで流れたが後は流れてこなかった
「引っかかるヤツが悪い」
にーっと意地の悪い笑みで京助は笑う
「京様ー今緊那羅様…-------!!!? (今緊那羅様の声がしませんでしたか?と聞きたかったらしい)」
緊那羅のあげた大声を聞いたのかヒマ子がゴトゴトやって来て叫んだ
折角恋敵(勝手に)緊那羅のいないうちに京助の心を奪おうと企んでいたヒマ子はあわわと後に座り込んだ
「あ…ヒマ子さん…」
緊那羅がヒマ子の名前を呼ぶとヒマ子ははっとして緊那羅が泣き顔であることに気が付いた
「緊那羅様…泣いてらっしゃるのですか?」
ヒマ子がたずねると緊那羅が慌てて涙を拭った
「…まさか…俗に言う修羅場…別れの痴話喧嘩というものなのでは…ということは…!!」
ヒマ子、妄想MAX
緊那羅の泣いている理由を自己満足的に自己解決してヒマ子のテンションが上がってきた
「京様はついに私のものですわーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
体をくねらせ喜びに踊り出しているヒマ子 (もう止められない)
それを黙って見ているしかない京助と緊那羅
「…あいかわらず京助が大好きみたいだっちゃね」
「…あいかわらず勝手にライバル視されてるみたいだな」
呆れながらも何だか和まされるというか癒されるヒマ子の行動(やはり植物だからなのだろうか?)
「ま…なんだ…とにかく…おかえり」
京助が緊那羅の顔を見ないで言った
緊那羅は驚いていたが目を細めて笑った
「ただいまだっちゃ」
勘違い万歳のヒマ子の喜びの踊りはそれから夕飯直前まで続き、後に緊那羅の涙の本当の理由を知ると心身的過労で葉緑体が減少したという