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【第二回・参】僕らの開かずの間清掃

旧家な造りの栄野家は住人に反比例してやたらと部屋数が多い

夏休みに入った京助たちに母ハルミからくだった指令は【大掃除】だった

行け!! 焼肉のため!!

【栄野京助=殺虫剤、スリッパ】

【坂田深弦=ハタキ(色はピンク)】

【南朔夜=箒】

【中島柚汰=バケツ&雑巾】

緊那羅きんなら=箒】

【栄野悠助=ゴミ袋】



選ばれし暇をもてあましていた5人の勇者達が各々に武器(というか掃除用具)を持ち最終決戦(っても栄野家)のステージである栄野家の開かずの間の引き戸の前に集結した

「…いくぞ」

京助の一言に全員が頷いた

京助が開かずの間の引き戸に手をかけると一気にその戸を開けた


「暇ならお掃除手伝ってくれないかしら?」

栄野家での夏休み宿題合宿(仮)の6日目は母ハルミのこんな一言から始まった

宿題合宿といっても名前だけで実際は海だ! 山だ! 夏休みだ! と遊び倒していた

「いいですともっ!」

母ハルミの頼みとあらば黙っていられないのが坂田である

目を輝かせて引き受けてしまった

栄野家は神社、しかもソコソコ続いているらしくやけにだだっ広く部屋数も結構あった

普段の生活に必要な茶の間、トイレ、風呂場などは母ハルミと居候 緊那羅きんならが掃除をしているのだがその他の部屋は年に数回しか掃除していなかったというかとてもじゃないがそこまで手が回らなかった

そこで母ハルミは若くて元気のある労働力、3馬鹿が泊まりにきているうちに手伝ってくれるよう声をかけてみたのだった

「あらぁ助かるわ~」

坂田の返事を聞いた母ハルミは嬉しそうに笑った

「…俺らの意見は聞いてくれなさそうっスね」

中島が庭先で光合成しているヒマ子に水をかけながら溜息をついた

「お掃除頑張ってくれるなら今晩は奮発して焼肉にするわね」

その一言が坂田以外の輩、京助、中島、南のやる気に火をつけた

     


 焼肉! やきにく! ヤキニク! YA-KI-NI-KU!


「お任せください母上! ダスキンもビックリな掃除っぷりをお見せいたしましょう!!」


京助が両目に【焼肉】の二文字を輝かせながら宣言した

南と中島もコクコクと頷いて『任せろ!』といわんばかりに親指を立てた

さすが母ハルミは馬鹿の扱いが上手かった

こうして栄野家の大掃除が始まったのである


それぞれ分担して掃除をしていく

昔ながらの造りの栄野家は掃除機より箒の方が勝手がいい

緊那羅きんならがなれた手つきで廊下の奥からゴミを掃き出すと掃いた後から中島が雑巾を掛ける

坂田がハタキで天井の埃を払うと悠助がくしゃみをして鼻水を床にたらす

京助は割り箸でクモの巣をクルクルまきとっていた

南は仏間に掛けてある掛け軸をみて唸っていた


「さぼんなよ」

京助がチョップを食らわせる

「いや~…この掛け軸いい仕事してますなぁ…じゃなくて京助」

京助の手を掴んではなすと南が仏間を見渡して聞いてきた

「お前の父さんってどれだ?」

梁の上に並べてある沢山の故人の白黒の写真

「父さんのはねぇよ?」

京助がさらりと言った

「写真ヘタに残して母さんが思い出して哀しむの嫌だから写真は残すなって遺言だったらしいんだ…俺も顔覚えてねぇし」

京助は父親は悠助が母ハルミの胎内にいた頃に他界したと昔母ハルミから聞いたことがあった

まだ小さかったから父のことは覚えてなくて当然だとも聞かされていた

父との想い出は全く思い出せない

そこまで自分は小さかっただろうか

「…さ~て…焼肉のためにもうひとふんばりしますか!! …さぼんなよ」

しんみりしてしまった空気を払うかのように京助が少し大きめの声で言った


「京様! 私も微力ながらお手伝いいたしますわ!」

柱を雑巾で拭いていた京助の元に鉢を引きずりながら雑巾を葉に持ちヒマ子がやってきた

「たとえ今は緊那羅様に劣っていようとも! 女ヒマ子! 必ず京様を振り向かせて見せますわ!!」

「だから…どうしてそこに緊那羅がでてくるんよ…ってか性別…」

京助は背後で緊那羅きんならにまだ勝手に恋の闘争心をさらけ出して燃えているヒマ子と視線を合わせないように柱に雑巾を掛ける

遠くの廊下で緊那羅きんならがくしゃみをした声が聞こえた

「…手伝うのはいいんだけど…ミス・ヒマ子…土…落ちてますから…」

燃えてるヒマ子に中島が声を掛ける

ヒマ子の通ってきた後には一直線に土が落ちていた

「…残念」

京助が柱を拭きながらぼそっと呟いた

大掃除も終盤を迎え、残すは廊下の突き当たりの古い引き戸の部屋のみになった


「俺…この部屋はいった記憶ねぇんだよな」

栄野家長男本人もが入ったことが無いという古い引き戸のこの部屋は俗に言う【開かずの間】という代物であろう

廊下の突き当りとあって日の光も届かず夏なのに涼しく昼間なのにどこか不気味だった

「なにか出そうなヨ・カ・ン」

坂田が気持ち悪く言った

「私恐ろしいですわ…京様…」

京助の後ろに隠れながらヒマ子がここぞと京助にべったりとくっつく

「怖いなら光合成でもしてろ;」

京助がうっとうしそうにヒマ子を払った

「…自分の姿見てから言った方いいと思うよミス・ヒマ子」

南が壁に手を突いて首を振った

「…というか本当に入るっちゃ?」

緊那羅きんならがちょっといやそうな顔をして引き戸を見る

悠助は緊那羅のシャツをつかみながら引き戸を開けようとしていたがガタガタいうだけで開かなかった

「…焼肉のためだ…行くぞ!」



ドガシャーーー!!



京助が勢いよく開けようとした古い引き戸は部屋の中に倒れた

倒れると同時に埃が舞い上がりか奥の小さな窓から入る微かに光にキラキラ光った

「…コレ、どう見ても引き戸だったのにどうしてこんな開き方するんだ?」

「知るか;」

気を取り直して室内を見渡す

八畳くらいの広さの和室

窓は一つ

電気は付いているものの電球がついていなかった

畳は長年の埃のせいで白くなっている

「…ボク明日白猫になっていたりして」

「ホットケーキ食いすぎてホットケーキになるよりマシだろう」

某魔女映画のセリフを言った南に中島がお約束のツッコミを入れると二人して親指を立てた

「ここさえ終らせれば焼肉が待っているんだ…焼肉が!」

自分に言い聞かせると京助は部屋に一歩足を踏み入れた

足の裏に埃のざらつきを感じながら窓に近づく

他の輩もそろりそろりと部屋の中に入った

置いてある荷物はダンボール数個のみであとはがらんとしていた

窓を開けると風が入って埃が舞った

「一体何年掃除してなかったんだか…」

目の前に下りてきたクモに殺虫スプレーをかけながら京助が部屋を見渡した

悠助は白くなっている畳に指で何か落書いて遊んでいる

「ここをダスキンもビックリのビフォーアフターすればハルミさん喜ぶんだろうな…」

坂田がボソッと呟いた

「ここで私が女の愛の意地根性パワーを京様に見せれば一歩リードですわね…」

ヒマ子もボソッと呟いた

「ここを片付け終わったら焼肉…」

更に京助と南、中島も呟いた

それぞれの思惑が埃の舞う室内で飛び交っている

緊那羅きんならはそんな面々をわけもわからずただ見ていた

「京助ーこのダンボール一旦外出してもいいかー?」

中島が部屋に無造作に置かれていた(放置プレイ)ダンボールをペシペシ叩きながらクモの巣駆除に勤しむ京助に問いかけた

「あ~…いんちゃうかね? 廊下にでも一時避難させておけ」

巣についてきたクモに殺虫スプレーをかけながら投げやりに京助が言った

「中、何はいってるんだろうな」

坂田のボソッと放った一言が全員の動きを止め、計りきれない好奇心に着火を促した

「……」

全員無言のままダンボールの周りに集まって顔を見合わせると爽やかに笑みを交わして親指を立てた

「ごっ開帳~」

「はァ~いいらっしゃいませ~」

ご開帳コールの中中島が某番組の某司会者のモノマネをしながらダンボールを開けた

中には…

「……布?」

中に入っていたのは一枚の長い布だった

「京助のオシメか」

「うっわ汚ったねッ!」

南の一言に中島が手にとっていた布を投げた

「オシメにしちゃぁ長すぎないか?少なかれ3mはあるぞ?」

投げ出された布を京助が拾って広げた

「ビック・ベィビィだったんだなぁ…お前」

中島が布の端を持ちながら言う

「いや、いくらなんでもでかすぎだって…つうか…結構な年代物らしいけどコスけてないってすげぇ…」

南が感心して布をまじまじと見た

手先が器用な南はよく自分で服を作るために布を購入している

そんな南いわく色の薄い布ほどコスけ率が高いから保管するのは難しいらしい

「そいや…白いTシャツとかも一年タンスに放置プレイしてたら黄色っぽくコスッてるもんな~…さすがハルミさん、一点のコスけもなく長年保管してるなんて…!」

坂田が何かに感動して布に頬ずりした

「あの~…」

布に群がっていた4人に緊那羅きんならが声をかけた

「…焼肉とかいいんだっちゃ?」

「あ」

布にかまけていてすっかり忘れていた掃除

悠助はとうの昔に逃亡していたらしく庭から声が聞こえた

ヒマ子は日光不足で貧血になったためにリタイアしたらしい

「…再開…しますか」

「はァいガチャリンコ~…」

中島が再びダンボールのふたを閉めた


バケツの水は10回近く替えただろうか

雑巾は4枚程真っ黒になって使い物にならなくなった

殺虫スプレーも一本と半分くらい使った

「終ったっちゃ~…」

緊那羅きんならが雑巾を持ったまま大きく伸びをしてやれやれと肩を回した

「こっちも終ったぞ~ぃ」

廊下に一時避難させていたダンボールを室内に戻して清掃終了

「…鼻水が濁流になってる…」

くしゃみをして鼻をかんだ南がテイッシュについた自分の鼻水を見てあらためてこの部屋がどんなにすさまじく埃にまみれていたのかを思い知る

坂田の眼鏡も埃で汚れていた

「焼肉の前に風呂だなこりゃ」

京助が髪をバサバサと払うと埃が舞った

「グーチーパーで組み決めて二人ずつな。余ったヤツは悠と一緒だ」

「グーチーパーとか懐かしいし~…」

典型的な組み分け方法は挙げた京助に南が苦笑いをしながら手をヒラヒラさせる

「…グーチーパーって何だっちゃ?」

聞きなれない言葉に首をかしげる緊那羅きんならに坂田がやり方を教えた

「グーチーパーってのはなグーとチョキとパーのうち好きなものを出して…」

「初心者はグーしか出せないんだぞ」

「南くん嘘はいけないよ」

某霊界探偵漫画のセリフをパクッた南に中島が突っ込むと二人は再び笑みを交わして親指を立てた

「んじゃせーのでいくぞ~…せ~の!」


窓の外では京助の殺虫スプレーを逃れた一匹のクモが再び巣をつくっていた


挿絵(By みてみん)

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