【第十二回】ココロのうた
もうひとりの【緊那羅】
「…緊那羅」
「え…?」
阿修羅が京助から緊那羅に視線を移しソレにあわせるかのようにその場にいた全員が緊那羅に視線を向けた
「お前鏡見たことあるけ?」
「はっ?;」
阿修羅が言うと緊那羅だけではなくその場にいた全員が疑問系の声をはもらせた
「お前の…前髪色違うっしょ…」
言われた緊那羅が自分の前髪を上目で見た
「…う…ん」
「何色だ?」
「緑…だっちゃけど…」
どこかで突っ込みたい突っ込みたいと思っている面々だが突っ込みどころがなくただ緊那羅と阿修羅のやり取りを聞いている
「どうして違う色か…考えたことないけ?」
阿修羅が聞くと緊那羅が前髪を引っ張りながら考え込んだ
「…特に…は…」
「そうけぇ…それはな…お前ン中に竜の力があるからなんきに」
「そうなんだっちゃ…? ……えええええええええ!!!!?;」
阿修羅の言葉を聞いてしばらく間を開けた後 緊那羅が声を上げた
「…ワシもソレを聞いたときには驚いたぞ…; …まさかワシと…」
「かるらん。今はオライが緊那羅のことを緊那羅に話してるんきに…スマンの」
何か続けて言おうとした迦楼羅に阿修羅が突っ込んで言った
「迦楼羅…」
乾闥婆がぎゅっと胸を掴んで俯くと迦楼羅が乾闥婆の手に手を添えた
「つらいなら聞かなくていいんきによだっぱ」
ソレを見た阿修羅が乾闥婆に言うと乾闥婆が首を振った
「いえ…大丈夫…です」
そして笑顔を向けた
「…なんで緊那羅の話で乾闥婆がつらいんだ?」
「俺が知るか;」
「複雑模様だねぇ;」
3馬鹿がボソボソと小声で会話をする
「アタシよくわかんない…;」
阿部が呟いた
「…私の中に…って…」
緊那羅が驚いた顔で阿修羅に次の言葉を促すように聞く
「簡単に説明すっと竜のボンとかがよーやってるゲームとかいうのに…【復活の呪文】とか…あるだろ?」
「あーザオリクとか?」
「レイズデットとか」
「レイズとかー…ヒーリングとか」
「あと…何あった?」
阿修羅が言うと3馬鹿と京助がゲーム中にでてくる復活の呪文を次々上げていく
「ハイハイ~いいか?」
とめどなく出てきそうな復活の呪文に阿修羅がパンパン手を叩いて楔を入れた
「竜は…お前に【復活の呪文】をかけたんよ」
「え…」
部屋全体がしん…となった
「…それって…」
矜羯羅が最初に口を動かして聞いた
「それって緊那羅は…」
続いて坂田が言葉を発した
「…ッ…」
乾闥婆が顔を背けると迦楼羅がその乾闥婆の頭を自分の胸に押しやった
「…そうやんきに…緊那羅は一回命落としてるんきに…」
阿修羅が静かに言うと京助が緊那羅に視線を向けた
「…私は…一回…死んでる…んだっちゃ…?」
緊那羅が途切れ途切れで言うと阿修羅が頷いた
「でもだったら何で一回死ぬ前の記憶がないの?」
鳥倶婆迦が突っ込んだ
「それが…竜の術やんきに…」
阿修羅が言いながら今度は京助を見る
「緊那羅が一回死んだ時…【時】が始まっていたんきに…そして…緊那羅は竜のボン…お前を守って死んだんきに」
京助の目が大きく見開いた
下げられた風鈴がチリリリリと少しやかましいくらいに鳴った
「…びびったか?」
阿修羅がへラッと笑って京助に言った
「…もしかして…冗談…とか言うなよ?;」
ちょっとどことなく作ったような平然とした顔で京助が阿修羅を見返した
「いっや~…残念だなぁ」
阿修羅がハッハと笑ったのを見て迦楼羅と乾闥婆以外の一同が一斉にナンダ~…冗談かコンチクショウというカンジで息を吐いた次の瞬間
「全部…本当のことやんきに」
部屋中に阿修羅の声が響き渡り迦楼羅が顔をしかめた
「…ちょ…っと待ってよ…待って待って!!;」
阿部が身を乗り出し声を上げた
「わっかんないんだけど!! ラムちゃん生きてるじゃない!! ココにいるじゃない?!生き返るとか…なんなのよソレ!! 第一京助を何から守ったっていうのよ!!!」
「落ち着け阿部郁恵」
眉を吊り上げて阿修羅に食って掛かる阿部を本間がなだめる
「ソレをこれから話すんきによお嬢; すまんけど静かにしたっての」
片手を上げた阿修羅が阿部に向かっていうと阿部がぐっと何か言葉を飲み込んだままおとなしく俯いた
「竜のボン…がちっさい時に竜が死んだ…そう覚えてるだろ?」
「まぁ…そう覚えてますけど…も;」
阿修羅の質問に京助が答える
「どうしてそう覚えてるんきに?」
「…どうしてって…」
「どうして竜が死んだって覚えてるか…」
「…知るかよ; どうしてとか聞かれても俺は…俺は…」
更に質問した阿修羅に答えていた京助の言葉が詰まった
「あのな…竜は生きていたのは知ってるよな?」
阿修羅が言うと京助が頷いた
「というか今いるしね…」
矜羯羅が言う
「…ん…ちょっと増えたし小さくなったけど」
制多迦も言った
「小さい姿でいると使う力が少なくてすむ…だからだろう」
乾闥婆の頭を抱えたまま迦楼羅が言うと阿修羅が頷いた
「竜は今力を最後の一滴だけ残した状態なんきに…」
阿修羅が言うと制多迦が俯きソレを見た慧光が阿修羅を睨んだ
「あああ; 別にタカちゃん責めてるわけじゃないから睨まんといてー; 痛いから;」
ガンを飛ばす慧光に阿修羅が言う
「宝珠…って見たことあるだろ?」
阿修羅が聞くと3馬鹿も京助と一緒に頷いた
「あー…やっとわかる単語登場;」
南が苦笑いで言う
「コレにはオライ達の力が溜められているんきに」
阿修羅が自分のミョンミョンを引張りながら言った
「コレを使ってオライ達は…まぁ…お前さんたちに言わせれば【魔法】みたいなヤツを使ってるンきにな」
3馬鹿がフンフンと頷きながら阿修羅の話を聞く
「…京助…?」
リアクションのない京助に緊那羅が声をかけそれでもなお反応がない京助の手に緊那羅が手を添えるとバッと京助がその手を払った
「あ…スマン;」
無意識での行動だったのか京助が緊那羅に謝りそしてまた黙り込んだ
「…京助…」
それ以上どうしていいかわからない緊那羅も京助同様黙り込んだ
「竜はな宝珠を2つだけ残して全部使ったんよ…そして術をかけた…」
阿修羅が言う
「…かつてこの町にいた【一人】に関する記憶に…な」
そう言いながら阿修羅が少し腰を浮かせ尻ポケット辺りから何かを取り出した
「っじゃーん」
そう明るく言いながら広げたのは【柴野ストアー】と書かれていたいわば粗品として配られると思われる一枚のタオル
「…しばぴーの家のタオルじゃん;」
南が突っ込む
「それがどうか…京助?;」
更に突っ込もうとした坂田が目には言った京助の異変に名前を呼んだ
瞬きしない京助の目から次々に出てくるのはとまることのない涙
「…オイ…?;」
坂田が呼びかけても京助の視線は阿修羅の持つタオルに釘付けのまま動かずにそれでも流れる涙は顎をつたいポタポタとあぐらをかくその膝に落ちてしみを作っていた
「京助…」
隣に座る緊那羅が呼びかけてもかわらずの京助を見て阿部が立ち上がりそして京助の後ろに立った
スパンッ
というまるでスイカを叩いたかのような音が風鈴の涼しげな音と重なり響く
「お嬢…;」
阿部の行動にあっけに取られていた一同が阿修羅の声で帰ってきたのはソレから少したってからだった
「トリップしてんじゃないわよッ!!! 泣くならアタシ達が物事理解したうえで泣いて!! わけわかんないんだからっとにッ!!!」
涙を垂れ流した状態で目を大きくして阿部を見上げる京助に阿部が声を荒げた
「…一人で…泣かないでよ…わけわかんないから慰めることも一緒に泣くこともできないじゃないアタシ達…」
ソレまで眉を吊り上げていた阿部の顔が泣きそうな顔にかわった
「阿部さん…」
緊那羅が声をかけるとふぃっと顔を振ってそして笑顔を緊那羅に向けた
「ラムちゃんもだよ? …一人でないちゃ駄目だからね」
そういって阿部が本間の隣へと戻り腰を下ろした
「阿部」
顔を上げた阿部を京助が呼んだ
「…さんきゅ」
少し鼻声で京助が言うと阿部が嬉しそうに笑った
「…続けていいか?」
阿修羅が言う
「ああ…」
ズッと鼻を啜った京助が大きく深呼吸して答えると阿修羅が手に持っていたタオルを京助に向かって投げた
「…ただのタオルだよね…」
タオルを見によってきた南が端っこをつまんでしげしげとタオルを見る
「でも京助コレみた瞬間目からナイアガラだったじゃん? ただのタオルじゃないんじゃねぇ?」
坂田が京助の頭に腕を置いて上からタオルを見下ろした
「…竜のボンには見えたんきに…まだ術が解けてないけどな…きっと…違うけ?」
阿修羅が静かに言うと視線が京助とその京助の手にあるタオルに集まった
「あの日のこと…時が始まった日のこと…そして…【緊那羅】が一回死んだ日のこと…」
緊那羅がぴくっと反応して阿修羅を見た
「…阿修羅」
小さく緊那羅の唇が動き阿修羅の名前を呼んだ
「…一つだけ聞いていいっちゃ?」
「なんだ?」
「…前の私はちゃんと京助を守れて…たっちゃ?」
真っ直ぐ緊那羅が阿修羅を見て聞く
「…守れてなかったら竜のボン…いないんちゃうけ? ソコに…お前の隣に」
阿修羅が眉を下げて苦笑いで緊那羅の隣の京助を指差した
「うんそうだと思う」
鳥倶婆迦も頷きながら言う
「じゃぁ私は…京助を守れたんだっちゃね……そっか」
小さく独り言のように呟いた後 緊那羅の顔がほころんで嬉しそうな笑顔を作った
「…でもお前俺守って死んだんじゃん…笑ってていいところなのか? ソコは」
横目でその笑顔を見ていた京助がボソボソっと言うと聞こえたのか緊那羅がきょとんとした顔で京助の方を見た後
「京助を守れたって言うならそれでいいんだっちゃ私は」
そういってまた笑った
「緊那羅…らしい…ね」
呆れたように矜羯羅が溜息をついた
「でたよラムちゃんの京助馬鹿…ハッハ~」
南が笑いながら緊那羅を突付く
「ハッハッハ~…いや~…なんつーか…やっぱ…想像ついてたんけど…そうけー…」
膝を立ててソレに手をついた阿修羅が楽しそうに笑ったあと迦楼羅と乾闥婆を見た
「かるらん…だっぱ…大丈夫やんきに…こいつ等は」
阿修羅が言うと乾闥婆が迦楼羅の胸から顔を上げた
「…オライが保障する」
「…貴方の保障じゃ…なんですけどね…」
「オイオイ;」
俯きながらも突っ込んだ乾闥婆に阿修羅が裏手そぶりで突っ込み返した
「じゃぁさ緊那羅は前にもコッチにきたことがあって…そん時にアレか? 京助を…」
「いんや…ちょいと違うわ」
中島が言うと阿修羅がさっき乾闥婆に突っ込んだ手をそのままチョイと奥さん風に振った
「緊那羅はな…もとはこっちにいたんきに」
チリィ--------…ン…
風鈴が長めに鳴った
「緊那羅はな…もとは緊那羅じゃなくてな別の名前でこっちにもとはいたんきに…」
京助が手に持っていたタオルを見て顔を上げると阿修羅と目が合った
「竜のボンがソレ見て泣いたんは…ちゃんと理由があるんきによな」
阿修羅が目を伏せ一呼吸置いた後ゆっくり口を開いた
たったいくつかの言の葉を聞き終える時間が永遠にも感じるほど長かった
最初の言葉で心臓が早くなった
次の言葉で更に
そして視界がぼやけて
やがて暗くなった
…聞こえたのは緊那羅の声
薄暗くなった部屋の天井がだんだんとはっきり見えてきて悠助が体を起こした
「暑い~…」
しっとりと汗ばむ自分の体にへばりついていたシャツを引張って風を送り込みながら辺りを見渡すとすぐ側には寝息を立てている慧喜
その前髪は悠助のシャツと同じように肌にへばりついていた
更に部屋を見渡すと少しはなれたところに並んで寝ているガキンチョ竜が見えた
少しまだショボショボする目を擦ると悠助が何気に立ち上がり部屋の戸を開け廊下にでる
「…誰もいない…の?」
物音のしない家の中
部屋の中を振り返ると寝ている慧喜とガキンチョ竜がいた
ソレを見て安心したのか悠助が戸を閉め廊下を歩き出した
キシキシと鳴く廊下を歩き縁側のある和室の前を通ろうとした時
「京助!!!」
緊那羅の声が聞こえたあとバタバタと何か騒がしい物音がし始め
「ちょ…京助!!京助ってばオイ!!」
「どうしたっていうのよ! ちょっと!!」
「救急車か!? きゅうきゃしゅ!!!?」
「乾闥婆!」
今日は帰らないと言っていたはずの京助という名前を呼ぶのは南の声に似ていた
部屋を覗かなくても何か大変なことになっているということが声だけで感じられた
「京助!! 京助ッ!!!」
「オイ布団!! フットン!!;」
「落ち着いてくださいッ!!」
スパーン!!
ギャーギャー喚く声と何かを叩いた音
「…京助…?」
ぎゅっと自分の服を握った悠助が恐る恐る和室の戸を開けた
見えたのはみんなの後姿
何故かものすごく怖くなって悠助はその場から逃げるように駆け出した
目が痛い
でもそれ以上に足…膝の辺りがジンジンと痛かった
見覚えあるでもちょっと違う景色
足音がして無意識にその足音の方向を見て…
「京助!!!」
呼ばれた
「京助!!!!!」
もう一度呼ばれる
【誰がどうして呼んでんだ?】
【てかそんなにでっけぇ声で叫ぶようにいわなくてもすぐ側にいるのに】
【でもおかしい】
【すぐ側にいるのにどうして…顔が見えないんだ?】
【つーか…なんで俺泣いてんだ?】
【…あー膝イテェ…ってか血ィでてんじゃん…;】
【オイオイこの年になってコケて泣いてるってさぁ…】
足音が数センチ近くで止まってポフっと頭に感じた感触
そして目の前に差し出されたピンクのファンシーな超可愛い絆創膏
【…コレを貼れと…;】
【うっわケッティちゃんだってさー…あっはっはかっわいいねぇ…はぁ~ぁ;】
「京助!!!」
まただ
呼ばれた
【なんだよ; ってか声でっけーよき…】
一体誰の声なんだろう
今誰の名前を呼ぼうとしたんだろう
どうしてこの声がそいつの声だってわかった?
一気にこみ上げてきた不安で絆創膏を差し出している手の主を思わず見上げた
【……あ…】
無意識に一言喉から声が出た
「京助!! 京助ッ!!!!」
「落ち着いてくださって言ってるじゃないですか!!!」
「とりあえず座布団でいい座布団!!!; 折ってコッチ!!」
耳に入ってきたのは飛び交う言葉の嵐で体に感じたのは頬の痛みとアチコチを触られている感触
手に感じたのは自分よりちょっと細めの指でしっかりと包まれている感じ
「…京助…?」
その手が誰のものかなんとなく見たくなって腕を上げると小さく名前を呼ばれた
「あ、気が付いた」
その一言でさっきまでの言葉の嵐がやんだ
「きょう…すけ…?」
もう一度名前を呼ぶのは同じ声その声の主は自分の手をしっかり握っていた手と同じ人物
「ベソっかき…;」
眉を思いっきり下げて自分の顔を見ていた緊那羅に言ってみた
「だーもー!!! 心配かけやがって----------!!!;」
坂田が大げさに溜息を付く
「大丈夫? なんか本当…大丈夫?」
南が心配そうに聞いた
「泣きながら気ィ失うんだもんナァ; ビビッたービビッた;」
座布団を肩に担いで中島が言う
「うーん…チョイいきなりすぎたっけねぇ…?;」
阿修羅がハッハと笑い頭を掻いた
「笑い事じゃないでしょッ!!」
ボフン
阿部が阿修羅めがけて座布団を投げつけて怒鳴った
「げ; やばい;」
ふと携帯をひたらいた坂田がデジタル表示の時計を見て言った
「タイムアウト?;」
南が坂田の携帯を覗き込みながら聞くと坂田が溜息交じりに頷いた
「戻らんばヤバイなー…っとおもう…んです…けども…」
坂田がそう言いながらゆっくりと目を向けた方向に一同も同じように目を向ける
その視線の先にはきょとんとした京助
「…なんですか;」
京助が口の端を上げて聞く
「…京助は早退ってことで…じゃ駄目なのかな」
「は? 俺は別になんとも…;」
「なくないじゃない」
ボソッと言った阿部に京助が返すと更に阿部が返してきた
上げた阿部の顔の眉毛はコレでもかというほど下がっていて不安いっぱいの顔だった
「なんともなくないよ…今はなんともないかもだけど学校戻ってなんかあったらどうするのよ…学校には…」
ソコまで言うと阿部が少し言葉を止めて一呼吸した後
「ラムちゃんいないんだよ?」
阿部の言葉に緊那羅が顔を上げた
「え…?」
どうして自分の名前が阿部の口から今出たのかわからない緊那羅がそのまま阿部を見ると目が合った
「さ…じゃ戻ろうか」
阿部と緊那羅の間に本間が立ち上がった
「ね? 郁恵」
本間が阿部に向かって手を差し出すと阿部がソレを掴み立ち上がる
「じゃ…俺等も…」
「いててて; 足しびれた~;」
女子二人に続いて3馬鹿ものらりくらりと学校に戻ろうと行動し始めた
「俺ももど…」
「アタシの言うこときいてくれないの?」
立ち上がろうとした京助に阿部が振り向かないで言った
「…たまにはアタシの言うことききなさいよ!!馬鹿ッ!!!!」
ズドガスッ!!!!
「ガフッ!!;」
「京助!!;」「あべちゃ…!?」
「あ~あ…」
阿部の回し蹴りが華麗に京助にヒットすると個性豊かな声が単発で上がった
腰を抑えてうずくまる京助をふんッと鼻から息を吐いて見下した後大股で阿部が部屋を出て行った
「ハッハッハ; お嬢は相変わらずつぇえんのー;」
阿修羅がうずくまる京助の腰をポンポン叩きながら笑う
「…なんか…似てない?」
矜羯羅が横目で迦楼羅と乾闥婆を見ると乾闥婆が迦楼羅と顔を見合わせる
「…似て…って…」
「雰囲気」
クイッと顎で矜羯羅が乾闥婆を指すと迦楼羅がまじまじと乾闥婆を見る
「なんですか」
「だっ;」
そんな迦楼羅の前髪を乾闥婆がぐいっと引張った
「ね? 似てない?」
矜羯羅が今度は阿修羅にふると阿修羅がふーっと長い溜息を吐き
「…やっぱ…なんつーか…似た臭くなるもんなんかねー…」
そう言ってポンポン京助の腰を叩いた
「さっきから似てるってなんナリか? 矜羯羅様」
慧光が矜羯羅に聞く
「それは…」
「香奈ッ!!!!!」
矜羯羅の言葉が阿部の叫びに近い声でかき消されその声に一同が立ち上がった
「どうし…」
阿部の姿を鳥居の下に見つけ駆け寄った坂田が何かを見てそして一歩後退した
「な…にして…」
震える声で坂田が誰かに聞くとジャリっと言う音共にその【誰か】が最後の石段に足をかけた
「…-----------------------ッ!!!」
【誰か】の姿を見た緊那羅が目を見開き口を押さえて座り込んだ
「緊那羅!!!?」
鳥倶婆迦が緊那羅を支え名前を呼ぶ
制多迦と矜羯羅の目付きが変わった
何か懐かしいものをでも今は見たくなかったものを見たような渋い顔で【誰か】を見据える
「…だいぶ思い出してきたんきにな…緊那羅」
「何をだよ!! 何なんだよ!!;」
緊那羅の肩に手を置いた南があからさまに混乱してる様をあらわにして阿修羅に怒鳴った
口を押さえうずくまる緊那羅の目からは涙が流れ呼吸が荒くなっていく
「乾闥婆!!」
「かるらん…ちょい待ってくれな…コレはだっぱじゃどうしょうもできんきに…」
苦しそうな緊那羅を見た迦楼羅が乾闥婆を呼ぶと阿修羅が言う
「かといってオライ達にもどうしょうもできんきに…コレは緊那羅自身がなんとかしないといけんきにさ……思い出すんだ…」
光りが見える
ゆらゆら
ユラユラ
紺にも近しく緑にも近しい透き通った光に向かって泡が上がっていく
ソレが自分の口鼻から生まれた泡だっていうことなんとなくわかった
「--------------…!!!!」
子供の声がする
それも泣き叫びながら何かを叫んでいる
不思議と苦しくはない
それ以上に何故か何かが心配でたまらない
ソレが何かは…
「------------------------------…ッ!!!」
光が小さな手を生んでそれが思いっきりこっちに向かって伸ばされた
やっぱり何かを泣き叫びながら
ごめん
ごめんな…
どうしてか謝る自分
どうしてかこみ上げてくる涙
守らなきゃ
だってほら…また泣いてるじゃないか
謝ってる暇があるなら伸ばされた手をつかまなきゃ
この間も呼ばれて知らん振りしていたらグレて一人で遊んでコケて…膝すりむいて
泣くもんかって強がってた
なのに人の顔を見るなり泣き出して
だから側にいなきゃ…守ってやりたい…
--------------------------…京助---------…
「香奈!! 香奈ッ!!! 離して香奈ぁッ!!」
【誰か】に向かって本間の名前を叫び続け駆け出そうとした阿部の体を制多迦が抱きかかえた
「…みがいってどうなるの?」
そして静かに言い【誰か】を真っ直ぐ見据えた
【誰か】の腕の中には意識がないと思われるい本間が頭を垂れたまま抱かれていた
「なん…で…」
坂田が声を震わせて問いかけると【誰か】がまた一歩足を進め坂田がまた一歩後退する
「どうして!? ねぇどうして香奈を…なんで!? なんでなの柴田さんッ!!!」
左頬に二つ並んだほくろ
紺に近いスーツそして
「…なんで…なのかな」
いつもと変わらない話し方と声はまちがいなく柴田だった
「…彼女を離しなよ…」
「できません」
矜羯羅の言葉を柴田がきっぱり断った
「…しり…あい?;」
今知り合いました、つい先日知り合いましたというにはあまりにもおかしい会話のやり取りを聞いて中島が聞く
「そう…なる…かな…お久しぶりです…矜羯羅様、制多迦様」
一瞬トボケた顔をした柴田が制多迦と矜羯羅に向かって軽く頭を下げる
「…清浄…」
矜羯羅が聞いたことのない名前を口にすると瞬き一瞬ソコにいたのはスーツ姿の柴田ではなく摩訶不思議な服装に身を包んだ柴田だった
「清浄!!? な…んでお前がこっちにいるナリか!! お前は…!!!」
「…しょう…じょ…う…」
慧光の怒鳴り声よりその場に響いたのは緊那羅の声
ヒューヒューと喉から息を漏らしながらゆらりと緊那羅が立ち上がった
「きん…」
支えていた鳥倶婆迦が心配そうに緊那羅を見上げそして何かにおびえるように緊那羅から離れた
「タイミング…悪かったのか良かったのか…だの…」
阿修羅が緊那羅と清浄を見て言った
「タイミング…って何?;」
南が阿修羅にこそっと聞く
「あんな…ヤツ…清浄はな…」
「何騒い…で…」
阿部にくらった回し蹴りの痛みからようやく回復したっぽい京助が遅れてやってきた
「清浄は昔…竜のボンをな…ソレを守って昔の緊那羅が死んだんきに…」
本当にタイミングがいいのか悪いのか阿修羅が言った言葉がバッチリ京助に聞こえた
「…あ…京助…」
やっと存在に気づいた南が京助の名前を口にすると緊那羅が顔を上げた
その目は何かを見ているようで何も写していなくでも真っ直ぐ京助の方向を向いていた
「お前は…【上】につくの?」
いつの間にやら摩訶不思議服になっていた矜羯羅が清浄に聞く
「いえ…そうじゃない…と思いますけど…俺は俺自身…俺に守りたいもののため…守りたいものにつきます…そのために…ッ!!!?」
清浄の話の最中いきなり目分けていられないほどの強風が巻き起こった
「迦楼羅!?」
「違う!! ワシではないッ!!; なんでもかんでもワシにするなたわけッ!!!;」
強風=迦楼羅というイメージが定着しているのか鳥倶婆迦が迦楼羅に言うと迦楼羅が怒鳴り返した
「これは…ッ…」
「ギャー!!; 目痛い痛いー!!;」
突っ立ったままだった坂田を南と中島が支え強風に耐える
「竜のボン」
坂田と同じように突っ立ったままだった京助を支えながら阿修羅が声をかけた
「まだ…始まったばっかりなんよ…しっかりせ?」
必死だった
手を伸ばした
そんなに深くない
大丈夫…すぐ届くと思った
でも…
つかめなかった
青に浮かぶ白がゆがんで声が枯れた
いくら呼んでも叫んでも手を伸ばしても
膝に貼りっぱなしだったピンクの絆創膏がはがれて波に流されていく
もう泣かないから
もう転ばないから
もう困らせないから
だから…
名前を呼んで
頭を撫でて
一緒に遊んで
今日帰ったら母さんがスイカ切ってくれるって言ってた
夕方になって涼しくなったらコマとイヌの散歩に行こう?
花火もう線香花火を一気にやったりしないから
布団蹴っ飛ばしたりしないから
悠の粉ミルクもう食べないから-------------------------…
------------------------…操ちゃん-----------…
「…み…さお…ちゃん…」
吹き荒れる強風の中京助がポツリと口にした名前
「…思い出したか…? そうだ…緊那羅は【操】なんきに…操は【緊那羅】なんきによ…」
京助に阿修羅が静かに告げた
どこかで聴いた歌
その歌を歌っていたのは父親…竜だったと母ハルミは言っていた
自分が泣いた時その歌を聴くと泣き止んだと
ウロだけどその歌を確かに覚えていた
「京助…いいか? 自分の気持ちに素直になればいいんきに…よ」
阿修羅の言葉に京助がハッとして阿修羅を見た
「おま…今名前…」
「ハッハ…お前は竜のボンだけどな…京助っつー名前あるんよな…ソレと一緒やんきに…お前が本当に…」
「緊那羅!」
乾闥婆が声を上げ一同がその声に強風の中目を緊那羅がいた方向へと向けた
「き…んなら…?」
うっすらあけた目に見えたのは透き通った羽と靡く緑色の飾り
「…あれは…竜の羽根…だね」
矜羯羅がボソッといった
「え? でも竜の羽根って京助と悠に生えたヤツ…なんか爬虫類でラムちゃんのって…」
「何でワシを見るんだたわけッ!!;…竜には二種4枚の羽根があった…京助達に生まれた羽根とはまた別にもう一種…それがあの羽根だろう…」
南の問に迦楼羅が答えた
「緊那羅に竜の力が流れているなら…おかしくは…ない…」
何かいやなことを思い出したのか迦楼羅が渋い顔をした
「…そうか…どこかで覚えていたから…君は俺が苦手だったんだね…君を殺したこの俺が」
柴田…清浄が緊那羅に言ったが緊那羅は何も言わずただ清浄を睨んでいた
「……」
何も言わずしてただ清浄を睨む緊那羅
「…戦う気ですね…緊那羅」
乾闥婆がボソッと言った
「…あれは緊那羅であって緊那羅じゃない…緊那羅じゃこんな高度な結界…まだ作れないからね…」
矜羯羅がいつもと変わりない風景をぐるり見渡して言う
「操と緊那羅が共通で強く思うことがアレを動かしてるんきにな…ただ一つ…京助を守るってことだけが…」
「でも待って!だって香奈…香奈が!!」
「…たい;」
制多迦に抱きかかえられていた阿部が半べそで腕を振り上げるとソレが見事に制多迦の頭に直撃した
「…てよ…待てよ…」
「坂田? お前いつからタカちゃんと同じような話し方になったわけ?」
しばらく無言のままだった坂田が口を開いた
「柴田なんだよな…あいつ…柴田だよな? なんであんな格好になって本間…ッ…柴田ッ!!」
「坂田ッ!!; ちょ…!!」
「いかん!!!;」
中島の手を振り払い坂田が柴田…清浄の方へと駆け出した
同時に緊那羅が武器笛に口をつけた
「ラムちゃん! ラムちゃんちょっと待って------------!!!;」
「今の緊那羅は緊那羅じゃないってさっき聞きませんでしたか? 無駄ですよ呼んでも…ッ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
クイックで腕の布を解いた乾闥婆が腕を動かすと坂田の前に巨大な水柱が何本も立った
「乾闥婆ナイスー!!」
中島が声を上げる
「向かっていってるよ」
キャッキャ喜んでいたところに鳥倶婆迦がさらっと言うとそのキャッキャが止まった
「坂田-------------------------!!!!;」
「っ…;」
乾闥婆の出した水柱に向かっていく坂田に乾闥婆が慌てて水柱を操り道を作った
「坂田ー!! 坂田ー!!!;」
「あっ; 馬鹿お前等ッ!!;」
坂田の後を追って駆け出した南と中島を慧光が追いかける
聞く耳持たないといったカンジの坂田はただ真っ直ぐ清浄…柴田の元へと駆けて行く
「はなしてぇッ…てんでしょッ!!!!」
ガンッ!!!
「~~~~;」
制多迦に抱えられていた阿部が思い切り足を後ろに蹴り上げその踵が制多迦の股間を直撃したようで制多迦がうずくまった
「一回で離さないからこうなるのッ!!…っ…香奈ッ!!」
蹲る制多迦を見下ろすかんじでそういい残した阿部が同じように駆け出した
「待たんかお前等!!!」
「どけよ!! …っお前!柴田だろ!!? なんでそんな阿呆くさい格好してんだよ!!なぁ!!」
迦楼羅に腰をつかまれた坂田が迦楼羅を振りほどこうとしながら清浄に向かって叫んだ
「柴田さんッ!!;」
追いついた南が坂田同様【柴田】と呼んだ
「香奈!!」
阿部も追いつき柴田ではなくその腕に抱きかかえられている本間の名前を呼んだ
「…! 迦楼羅!!」
「危ない!」
乾闥婆と矜羯羅が同時に叫びそして同時に両腕を前に出した
その二人の声に振り向いた迦楼羅が見たものは目の前に迫ってきていた緑色の光り
「!!!」
「うわぁあああああッ!!!;」
「きゃぁああッ!!!」
無音にも思えた一瞬
上がった悲鳴
巻き上がった砂埃
「…ま…にあったナリ…;」
その中から聞こえた慧光の声とハラハラと舞い落ちていく蓮の花びら
砂埃が晴れていくとその場に蹲る中島、南と阿部そして金色の羽根を広げた迦楼羅といつの間にか摩訶不思議服になっていた慧光の姿が見れた
「…無事みたいだね」
矜羯羅が腕を下ろし乾闥婆に言う
「…そう…ですね…」
乾闥婆も腕を下ろし安堵の表情を作った
「緊那羅…がやったのか?」
恐る恐る頭を上げた中島が言った
「…あの緑の光りって…祭りの時のヤツと一緒…だよね?」
南がゆっくりと緊那羅を振り返った
「…今の緊那羅は緊那羅ではないといったであろう…」
迦楼羅が羽根を消して服についた砂埃を払う
「…蓮が散るほどの攻撃力が緊那羅にあるなんておかしいナリ…だって緊那羅の宝珠はまだ…」
「何度も言わせるなたわけッ!! アレは緊那羅ではないのだ!!」
慧光が言うと迦楼羅が怒鳴った
「そ…んな言い方しなくて…も…っ」
見る見る慧光の目に涙が溜まり方が小さく上下し始めると迦楼羅がギョっとした
「あーあ…なーかしたなーかしたー」
南が迦楼羅を横目で見て歌う
「なっ…;」
迦楼羅が思いっきり動揺する
「守ってもらってー泣かしてー恩を仇で返すなんてなんてひどい…」
中島もジト目で迦楼羅を見る
「……」
「…アレ?;」
その中島に続いて何か言うのかと思っていた坂田が何も言わず南が思わず坂田の顔を覗きこんだ
「…坂田…くん?;」
「いい加減にしてくれよ…なぁ…いい加減にしてくれよっ!!!!!」
怒鳴った坂田が立ち上った
「なんなんだよ!!! どうして…柴田ぁッ!!!!」
坂田の声聞いた清浄がゆっくりと坂田の方を見た
「…若…」
そう呼ばれた坂田が一瞬止まった
「すいません」
次に続いた清浄の言葉に坂田が目を大きく見開く
「な…」
坂田がぎゅっと拳を握った
「柴田として過ごした時間…大事なことに気づいた時間でした…」
本間を片手に抱き空いている方の腕を振り下ろすと袖口から巻物が出てきた
「坂田組に恥じないよう…けじめをつけさせてもらいます」
清浄が巻物の紐を解いた
清浄が紐解いた巻物が一枚から二枚、二枚から三枚…合計12枚の細長い紙となり清浄のまわりに泳ぐ
そして緊那羅は無言の表情でただ清浄を見据えていた
「やめろよ…なぁ…これアレだろ? ダーツの旅とかなんかそんなテレビの企画なんだよな? そうだろ?」
半分震えた声で坂田が笑顔を作って言った
「カメラどこだ? カメラッ…」
そういって坂田が清浄と緊那羅に背中を向けた瞬間
「使役十二支神将」
清浄の声とともに巻き起こった強風と影ができるほどの強い光り
振り返った坂田が見たもの
「いかん!!;」
迦楼羅が叫び両手を前に出すと続いて慧光と矜羯羅も同じように手を前に出した
「動くなよ京助!」
阿修羅がそう言い残し駆け出した
「あなた達も動かないでください!!」
乾闥婆(けんだっぱ9が中島と南の前に立った
「…っち…」
「ちょ…やだッ!! はなし…!!!」
再び制多迦に抱えられた阿部が腕を振り上げた
「…となしくして…怪我しちゃうから…ね?」
「ッ…!!」
耳元で制多迦が言うと阿部が赤くなって腕をゆっくり降ろした
「…りがと…いいこだね」
制多迦がヘラっと笑って阿部の頭を撫でた
「…タカちゃん…阿部ちゃんも悠も同じ扱いだぁ…;;」
それを見て南が突っ込んだ
帰ったら…
帰ったらね
母さんがスイカ切ってくれるって
でもさ
俺本当はメロンの方がすきなんだ
だから大きい方操ちゃんにあげるから
だから…だからね
だから・・・
・・・ だ か ら ・・・
なみのおと
かもめがないてるこえ
だれかのなきごえ
だれかのひめい
だれかの…ぬくもり--------------------------------------------------…
「-------------------------------------------…!!!!!!」
じぶんのこえ
「しば…たぁあ------------------------------------------------ッ!!!!」
坂田の悲鳴にも似た声が響いた
『お前俺が組継がないって言ったらどうすんだ?』
『継がないんですか?』
『継がないって言ったらってんだろ; もしだよもし; …どっか行くのか?』
『そう…ですね…どうしょうかなぁ…』
『…お前は…;』
『俺帰るトコ…あるにはあるんですけど帰りたくないんですよね』
『…家族は? 母さんと…』
『いますよ? 俺の家族は坂田組の皆です』
『…なんだソレ』
『帰りたいと思うところは今のところ俺にとっては坂田組なんですよ若がいて組長や姐さん…ニャロメもみんなもいますからね』
緊那羅の背に見える羽根が大きく開き羽ばたくと緊那羅の体を空へと運ぶ
その緊那羅の体を追うように清浄から放たれた十二の光りが緊那羅目掛けてぶつかっていく
「柴田! やめろよ!! 緊那羅にあた…」
「メガネ!!」
駆け出そうとした坂田の腕を阿修羅がつかんだ
「はなせよ!! はなせってんだろッ!!」
「お前さんがいってどうなるっちゅうんだ!! ただ怪我するだけやんきに!!」
「怪我するんだろ!? あの技って…だったら柴田だって怪我するじゃんか!!! 緊那羅だってそうじゃんかよッ!!!」
坂田が怒鳴り散らす
「メガネそ…」
「柴田はッ!! 俺の家族なんだッ!!! 緊那羅は俺の友達で!! 友達や家族を守りたいと思って何が悪い!!!」
右の鼻の穴から少し鼻水を覗かせながら怒鳴った坂田に清浄が目を向けた
くいくいと服を引張られて京助が少し視線を下に向ける
「京助は?」
表情変わらないお面の鳥倶婆迦が見上げ聞く
「京助は守りたくないの? 緊那羅を」
「へ…?」
聞かれた京助が疑問形の返事を返した
「おいちゃんたぶんだけど緊那羅…混乱してるんだと思ういっぱいいっぱいなんだと思う…自分が誰なのかわからないんだと思う」
京助の服を握る鳥倶婆迦の手に力が入った
「操って人と緊那羅とが一緒になっちゃって緊那羅が困ってる気がするんだ…京助…京助が操って人をどう思っていたのかおいちゃん…わからないけど…けど…京助は緊那羅が好きでしょ?」
鳥倶婆迦の言葉に京助が自分の手をぎゅっと握り締めた
「…俺は…」
変な服装でいきなり現れていきなり家族になった
俺を守るが口癖のようになっていて
気付けば隣で笑ってて
歌が上手くて
結構天然入ってて
『私は京助の全部を守りたいんだっちゃ』
「俺は…アイツみたいに変な力とかつかえねぇし…それに…」
「守りたくないの?」
ボソボソといった京助に鳥倶婆迦が突っ込んだ
「まも…りたい…とは思うけど…俺…」
「なら守れるよ」
躊躇いながら言った京助に今度は鳥倶婆迦がさらっと返した
「思いがあるなら守れるとおいちゃんは思う。あとそんなに深く考えてる京助気持ち悪くておいちゃんは嫌だ」
「オイオイオイ;」
最後に余計な一言を付け加えた鳥倶婆迦に京助が口の端をあげた
「あれって…」
緊那羅に向けて清浄が放った光りがだんだんと形を作っていくのを見て南がそれを指差した
「…あれが牛…であっちは戌…十二支?」
中島も光りを見て言う
「そうです十二支…清浄の使役です」
乾闥婆が言った
「清浄は竜と対をはる使役の使い手…」
「え!?; 何!? じゃあラムちゃんやばくね?;」
乾闥婆の言葉に南が突っ込む
「…僕らの知っている【緊那羅】なら確実に…でも今の【緊那羅】は…緊那羅であって緊那羅ではないですから…僕にも…どうなるのかわかりません…」
乾闥婆が顔を顰めた
緊那羅の背中の羽根がゆっくりと折れ緊那羅を覆い隠すようになるとそれが一気に開き強風が巻き起こった
「うおぉおおッ!!;;」
「きゃあッ!!;」
「ッ…!!;」
その強風で十二支の光りの動きが鈍くなると清浄が唇を噛んだ
「…竜の力…か」
清浄はボソッと呟くとフッと笑い腕に抱えた本間を見、そのあと阿修羅を見ると本間を抱く腕に力を込めた
「…ちょ…ま…!!;」
阿修羅が駆け出すと同時に本間の体が宙に放り出される
「香奈ぁあ----------------------ッ!!!!」
制多迦に抱えられた阿部が悲鳴に近い声をあげた
「本間ちゃ…!!!;」
阿部に続いて声を上げそうになった3馬鹿が声を止めたのは阿修羅が見事に本間の体を受け止めたのを見届けたからで
「せ…せぇえーふ;」
つま先立ち中腰で本間を受け止めた阿修羅がつま先をプルプルさせたままで言う
「…京助」
くいくいと再び鳥倶婆迦が京助の服を引張った
「…ああ…」
その鳥倶婆迦の頭に手を置くと京助が緊那羅に視線を向けた
「香奈…ッ!!」
阿修羅に抱えられた本間に阿部と中島そして南が駆け寄った
「大丈夫やんきに…ただ…気を失ってるだけだ…」
「…それはいいんだけどさ…あしゅらん…足プルプルしてない?」
南が阿修羅を見上げていうと阿修羅がうっという顔をして視線をそらしあからさまに不自然だろうという感じで口笛を吹く
それを見た乾闥婆が無言でしゃがむと思い切り阿修羅の足首をつかみ捻った
「ンギャ--------------------!!!!;」
「キャ-----------------------------!!?;」
阿修羅の断末魔と阿部の悲鳴そして何故か中島と南も阿部と同じ女の子らしい悲鳴を上げた
「無理な体勢で受け止めたからですまったく…」
立ち上がった乾闥婆が溜息混じりに言って阿修羅を見た
「だからって…だからってだっぱ…ッおぉおお…;;;」
本間をまだ抱いたまま阿修羅が乾闥婆に捻られた足を浮かせて片足立ちで男泣き入りした
「でもよかったねー本間ちゃん無事で…」
南が阿修羅の腕に抱えられている本間を見てほっとした安堵の表情をした
「だな…怪我もないみたいだし」
中島の顔もほころんだ
「…もさかたがね」
「坂田?」
制多迦の言葉にしばらく間を開けて顔を見合わせた面々の目が見開き坂田がいる方向をバッと振り返った
「坂田--------------------------!!!!;」
目にしたのは清浄に向かい全力で駆けて行く坂田の後姿
「いかん!!; …っだぁッ!!;」
どしゃっ
「…迦楼羅…」
坂田のあとを追いかけようと腕を下げ駆け出そうとした迦楼羅が自分の着物の裾を踏んでコケた
「完全なるギャグキャラだな迦楼羅」
それを見て中島がボソッと呟く
「それよりそんなことより---------!;;」
南が地団駄踏んで坂田の方向を指差す
「柴田…ッ!!」
「…若…」
息を切らせて半ベソはいっているような顔で坂田が清浄を見た
「鼻水出てますよ? 格好悪いなぁ…」
からかう様に清浄が苦笑いで言う
「…どうでもいい…そんなことどうでもいい…」
俯いて首を振りながら言う坂田に清浄が歩み寄って自分の服の裾で坂田の鼻をつかんだ
そして上を向かせるとフガフガ言う坂田を抑えて鼻水を拭く
「よくないですよ仮にも坂田組の跡取りが…」
「…柴田なんだろ?」
ねろねろした鼻水がついた裾をつかんで坂田が言う
「清浄!!」
矜羯羅の声が聞こえ振り向くと目の前に迫っていた緑色の光り
見据える空の緊那羅は瞬きもせず
「--------------------ッ!!」
ぬくもりを感じた瞬間ぬくもり越しに感じた衝撃
広がった光とずり落ちていく眼鏡
「…若…」
眼鏡がずり落ちたせいで多少ぼやける視界
耳元で吐息まじりに聞こえた聞きなれた声
「俺なんかを家族だって…言ってくれたこと嬉しかった…」
「…かったって…かったってなんで過去形なんだよ…」
清浄の背中に回した手に感じたあたたかなでも感触の悪い液体の色は赤かった
「ははは…そういえば…そう…ですね…なんで過去形なんだろう…」
ヒューっという息が清浄の声とともに吐き出される
「嬉しいだろ…かったって…かったって言うな…」
「だっぱ!!」
阿修羅の声が響いた
「…若…ぁりが…---------------------…」
「…ありが…なんだよ…」
「どいてください!!」
乾闥婆が坂田から清浄を引っぺがし小瓶の口を清浄の口に突っ込んだ
「…坂田!!」
南と中島が坂田に駆け寄った
坂田は自分の両手を見たまま動かない
「…だ…大丈夫だッ!!」
そんな坂田を南ががばっと抱きしめると中島も同じように坂田を南ごと抱きしめる
「…緊那羅…いや…お前は緊那羅…なのか? それとも…」
迦楼羅が緊那羅を見上げ問うと緊那羅がゆっくりと地面に降り立ち迦楼羅を見据える
「…お前は…」
「ストップ」
何か言おうとした迦楼羅の肩に手が置かれグイと後ろに引張る
「…京助…お前…」
驚いた顔で見上げる迦楼羅に京助が口の端を上げた笑顔を返した
京助が一歩足を進める
ジャリっという音がした
無言のまま迦楼羅が一歩足を下げた
【緊那羅】は無表情のままだった
「回復が遅い…どうして…」
乾闥婆がなかなか止まらない清浄の赤い液体を見て表情を曇らせた
「大丈夫だよな? …な?」
中島が乾闥婆に聞く
「清浄といえば…向こうでも中の上階級…ならばそれ相応の宝珠を持っているはずなのにこの回復の遅さ…」
中島のといには耳かさずというカンジに乾闥婆がブツブツと何かを呟く
その間も坂田は自分の両手を見ていた
赤い液体がついた両手
中島がそんな坂田に気付きその両手を自分の両手で掴み握らせる
「大丈夫…大丈夫だからな…落ち着けよ…大丈夫」
南が呪文のように繰り返しながら坂田の背中を抱きしめる
「なあ…宝珠と…傷の治りって関係してんのか?」
中島が聞く
「…ソーマは宝珠の力を借りて回復する薬です…宝珠に選ばれたもの以外にはただの苦い液体…宝珠に選ばれたものだけがソーマで回復できるんですが…おかしい……!! …まさか…あの時…扉を開けたの…は…」
乾闥婆が何か思い出したのか大きな目を更に大きくして清浄を見た
「貴方…だったんですね…宝珠を使ってあの時扉を開けたのは…」
乾闥婆の言葉に清浄が口だけで笑った
ゆっくりと京助が【緊那羅】に向かって足を進める
【緊那羅】は動かない
背中にあった半透明の羽根はいつしか消えていて緑の飾りが微かな風にふわりと揺れていた
「…忘れててごめんな」
京助の第一声
「思い出した…気がする」
そして第二声
「怒ってるよな…守ってくれたのに守られた本人まで忘れてた…んだから…」
矜羯羅と慧光が腕を下ろし【緊那羅】に歩み寄る京助を見る
「謝って許してもらえるとか…そりゃちょっとは思ってるかも知れねぇけど…そう調子よくいかねぇっても思ってる…し」
後三歩でというところで京助が足を止めた
「俺…さ今年で14になる…んだ同い年…いやいっこ下? まぁあんまかわらねぇけど…14…ってもっと大人に見えて…たんだよな」
無表情の【緊那羅】がたぶん京助を見ている
「だから…かなり我儘とか…言ってた…気がしなくもねぇんだけど…けど…け…ど…」
京助が言葉に詰まった
「…ありが…とうの…言葉照れくさくて…言った事ない気がするんだよ…な」
【緊那羅】がその言葉にゆっくりと目を伏せた
「そしてごめん…俺…今は名前呼べない…俺にとってソイツは…」
「京助…」
【緊那羅】の唇が確かにそう動き音を発した
自分と同じくらいの大きさの手で撫でられている頭に京助が顔を上げると【三歩先】にいた【緊那羅】がすぐ側にいた
「大きくなったな…もう…コケて怪我しても自分で絆創膏…貼れるな…?」
自分より若干小さな背丈の【緊那羅】は目を細めて笑っていた
「み…」
「違うだろ? …俺はもういないんだ…お前にとってこの体はもう俺じゃないんだろう?」
ワシワシと思い切り頭を撫で回しながら【緊那羅】が苦笑いで京助が発しようとした言葉を止めた
「…呼んでやんな…名前」
「…っ…」
グシャグシャになった京助の頭を仕上げとばかりに【緊那羅】がポンポンと軽く叩いて目を細めた
「…男は泣かないもんだぞ…? …ブッサイク」
濡れた京助の頬をみょーんと左右に引張って【緊那羅】が笑う
「ごめ…ごめん…ごめ…ん…ッ…」
「うっわ; マジでブッサイク;」
引張られたままで泣く京助を見て【緊那羅】が苦笑いを浮かべそのまま京助を抱きしめた
「俺が聞きたいのは…ごめんじゃないぞ京助…さっきの言葉…もう一回聞きたい」
「…っ…ふ…」
【緊那羅】の肩で京助がぎゅっと目を閉じ、そして深く息を吐き
「…ありがとう…」
鼻にかかった声で綴った五文字の言の葉
「どういたしまして」
前の時のように強風は起きなかった
ただ初夏の夕暮れの風が何事もなかったかのように庭や御神木の葉を揺らして意識がない【緊那羅】の体を強く抱きしめたまま小さな子供のように泣く京助の声を空へと運んでいった
「少し休んだらどうやんきに…二人とも」
「…慧光は休んでくださいあとは僕が」
「乾闥婆こそ休むナリ…私はまだ大丈夫ナリよ」
阿修羅が壁に寄りかかった体勢で部屋の中の二人に言うとこう返ってきた
「…二人とも休みなよ…」
乾闥婆と慧光の間を割って矜羯羅が座り向けた視線の先には横たわる清浄…柴田
「ちょ…割り込まないでください」
「矜羯羅様…」
矜羯羅が翳した手から溢れた優しい光りが柴田を照らす
「…二人とも」
阿修羅が言うと乾闥婆が溜息をつき慧光はチラリと矜羯羅を見た後立ち上がり阿修羅とともに部屋を去った
「…矜羯羅様…」
柴田が小さな声を出した
「…止めてください…」
そして矜羯羅の腕を掴んだ
「俺には…こうしてもらう理由がない…」
「君にはなくても君を望む人にはあるんだよ…」
矜羯羅がピシャリと言いきった
「望む人なんか…ははは…いませんよ…むしろ俺は憎まれて…」
「若とかよんでたね…」
柴田の動きが止まった
そしてそのまましばらくの沈黙
「…矜羯羅様…」
「何?」
「…若は…意地っ張りなんです」
「そう…」
「でも…優しいんですよ…」
「…ふぅん…」
そしてまた沈黙
「…俺…もっと早く若と会えてたら…」
「そうしたら緊那羅はここにはいなかったんだね」
矜羯羅の声が静かに響いた
「…どちらがよかったのか…誰が悪かったのか…追求するとキリがない…京助がよく言う言葉」
そう言って柴田に向けた矜羯羅の顔は微笑んでいた
「…過去に…君がそうしていなければ【今】はなかったんだよ…僕はこの【今】を後悔してはいない…【今】になるには過去がなければいけない…」
矜羯羅がゆっくり俯き目を伏せた
「【今】が好きだからみんな生きてるんじゃない? その【今】を作ったのは【過去】にいるもの全て…誰一人何一つかけてたら【今】は存在しなかった…過ちも後悔も全部含めて…【今】の材料だったんだよ…」
「…そんな…モンですか…ね…」
「…そんなモンなんだよ」
「…そうですか…」
片手で顔の上半分を覆った柴田の口元が微笑んだ
【笑】の文字がぼんやりと見えはじめた
「おきた?」
聞こえた声に自分が布団の中にいるということに気付いた
「開かずの間だよ」
一言そういい残して鳥倶婆迦がパタパタと駆けていった
体にかけられていた薄手のタオルケットから抜け出し立ち上がる
一歩、そして二歩交互に足が動く
廊下に出ると小さく響いた風鈴の音
暗い廊下に差し込む月明かり
ちょっと鳴く廊下を歩く
辿り着いた外れの部屋の前で足が止まった
少し開いていた戸口から月明かりに伸ばされた誰かの影が見える
取っ手に手をかけたのはいいがあけようか迷う手をややしばらく見つめ少しだけ戸を動かしてみた
ガタっと小さく戸が音を立てた
伸びた影を踏んでその影の本体が腰掛ける窓枠の下に腰を下ろす
長い長い沈黙
まるで初対面
いや初対面の時は確か…
『誰だお前…』
緑色鮮やかな髪飾りを靡かせ立っていた
『…栄野…京助』
呼ばれた名前
『はぃ?』
驚いて上ずった返事を返した
それから…校内追いかけっこ…宙に舞って床に落ちたエビフライ…そして…そして…
「…京助?」
その時よりどことなく優しく親しくなった声で同じように呼ばれた名前
ハッとして呼ばれたほうに顔を向けると…泣きそうに下がった眉と不安一杯に見上げる顔
胸が締め付けられるという感覚はこんな時に使っていいんだろうか
切ないとも違う苦しいとも違う楽しいとも悲しいとも嬉しいとも…自分が知っている感情のどれにも当てはまらないこの気持ちは一体なんなのか
「あの…わ……」
口早に言葉を綴ろうとして途中で止めた
ゆっくりと顔を逸らし俯きそしてまた沈黙
鳥倶婆迦の言葉がふと頭をよぎった
『自分が誰なのかわからないんだと思う』
それに続いて…よぎった言葉
『…呼んでやんな…名前』
頭ではわかってる
コイツが誰なのか
名前も知ってる
自分が前に夢(?)の中真っ白い空間で道を見失った時導いてくれたのはコイツの歌
友達巻き込んで自分自身が嫌になって泣いた時側にいてくれたのもコイツ
気付けば隣にいた側にいたいてくれた
懐かしく思えたのは昔の記憶が少しあったから?
でもそうじゃないような気もする
【いてくれた】のはコイツなんだ
誰でもなく…いてくれたのはコイツ
「緊那羅」
驚いた表情が向けられた
「…歌え」
「…は?」
「いいから!歌え」
不思議なことに名前を呼んだだけで後から言葉が自然と続いた
「きょ…うすけ…あの…私…」
「う た え 」
何か言おうとしてる素振りの緊那羅に強く言う
「歌え…って…歌…」
気迫に負けた緊那羅がゴニョゴニョ口ごもっている正面に京助がしゃがむ
「聞きてぇんだ【緊那羅】の歌」
京助が口の端をあげて笑うと緊那羅の眉が下がった
「っ…ありがとう…」
俯いて言った緊那羅の頭を京助が軽く数回ポンポンと叩いた
「結局サボっちゃったねぇ…;」
南が頭をかきながらチラリと横目でサボリーズを見る
「こんな状態でいけんつーの; しゃーねーじゃん…後からウニにする言い訳考えようぜ?」
中島が言う
座布団を枕にまだ目を覚まさない本間
そのすぐ側に座る阿部は俯いたまま
本間と阿部から対面側の壁にもたれかかる坂田の頭には顔を隠すためなのか大きめのタオルが掛けられていた
「…しけってるぅー; 北海道は梅雨ないのにここだけ梅雨ー;」
南が言いながら溜息をついた
「…かた」
「…なんだよ」
ゴン
「…いてぇよ」
【ゴン】という音に南と中島が振り向くと制多迦が坂田に頭突きをしている様が目に入ってきた
「…めんね」
額と額をつけたまま制多迦が小さく謝りの言葉を言った
「なんで…お前が謝るんだよ…」
「…ょうじょう…柴田だっけ? 怪我したの怒ってるんでしょ? だからごめん」
制多迦がヘラリ笑顔で言う
「だから…なんでそれをお前が謝んだよ…怪我させたのはき…」
「…とを辿れば…操を緊那羅にした清浄が悪くて…清浄をそうさせた時がわるくて…だから僕もごめん」
「タカちゃん…支離死滅の言葉だけどなんとなーく…俺理解できた」
坂田と制多迦の側に来た南がしゃがんで言った
「俺も…坂田は?」
同じく中島もしゃがんで坂田に聞く
「…わかってる…緊那羅が悪くないっての…でも…」
坂田が今は綺麗になった自分の両掌を見て言葉を詰まらせた
「でも俺…どうやって緊那羅と話せばいいのか…って」
「何格好つけてんだよ」
言った坂田に中島が突っ込んだ
「そうそう【坂田】でいいじゃん」
南がそう言って笑う
「…かたは【坂田】だからね」
制多迦もヘラリと笑ってその後坂田の頭からタオルを引きずり取った
「…まんまでいいんだ」
南が坂田の右掌に自分の手を重ねると中島も坂田の左掌に自分の手を重ねた
「…ん…坂田のまんまで…ね?」
制多迦が坂田の頭から引きずり取ったタオルを坂田の首にかけながら笑った
「…あ…緊那羅の声…」
中島の言葉に一同が耳を済ませる
栄野家を包む緊那羅の歌
「ありがとな…----------------------…」
京助が声には出さずに5つの音を小さく呟いた
それは姿そのままで今も自分の側にいてくれてる誰かの名前
でも今は誰かじゃなく【緊那羅】
だからもう名前は呼ばない…だからありがとうだけを声に出して-----------…
ありがとう 操ちゃん…