【第十一回・四】らぶりーべいべー
お互いのいいところを見つけよう の言葉の元に開催された正月中学校2年生の合宿で思い出す優しい思い出
紺色のジャージ姿の生徒がワイワイザワザワと楽しげになにやら作業している夏休み間近の土曜日
「女子は二年の教室男子は体育館にそれぞれ荷物運べよー」
通称ウニと呼ばれている三組の担任が声を張り上げて全員に聞こえるように言う
本日土曜日から日曜にかけて正月中学校の二年全体でお楽しみ合宿という催しで学校に宿泊するということで生徒先生が休日の学校に集まりだしたのは土曜の午後二時チョイすぎ
「この暑い中合宿ってさぁ…;」
ジャージの袖を捲り上げた南がズルズルと鞄を引きずりながら体育館へと続く廊下を歩く
「何を楽しむ合宿なんだ…;」
南の少し後ろを歩きながら中島が言う
「しおりには…【友達の知らないいいところを見つけよう】とか書いてありますがねぇ…知らないいいところってどうよ…;」
坂田が黄色い表紙の合宿しおりを読んだ
「坂田のチンコがでかいとか?」
「京助の屁が臭いとか?」
「中島のスネ毛が超濃いとか?」
「南が実は女だとか?」
「ないないないない;」
3馬鹿と京助が馬鹿冗談をいいながら歩いていく
「さすがについてきてないみたいだよ」
「何が?」
二年の教室に荷物を置いた阿部と本間が階段を下りていると丁度体育館に向かう京助達を見かけ本間が阿部に言った
「ラムちゃん」
本間が緊那羅の名前を出すと阿部がバッと顔を本間に向けた
「な…だからなんなのよっ;」
阿部が慌てて声を荒げた
「今日がチャンスかもねぇってことでしょ?」
本間の肩に手を置いてミヨコが阿部を見る
「なにがよッ!!;」
阿部が赤くなりながら更に声を上げる
「チャンスと時間はミヨと香奈で作ってあげるから」
ミヨコがにっこり笑う
「だから何がチャンスなのよ!!;」
階段をおりきった阿部が言う
「告白?」
本間がさらっと言うと阿部の顔が更に赤くなる
「何年越しの片思いなんだっけ?」
ミヨコが阿部に聞くと本間がスッと手を上げて両手で8本指を立てた
「ンっもう!! 一途だねぇ阿部~!!」
ソレを見たミヨコが阿部に抱きつく
「ラジオ体操が出会いってのもまた面白いよねぇ…」
「なっ…;」
そして阿部の耳元でボソッと言うと阿部が目を見開いた
「…だって…っ;」
阿部がミヨコを引き剥がしながら言う
「だって…しょうがないじゃん…」
赤い顔のまま口を尖らせた阿部が本間とミヨコを見た
「好きになったんだもん…っ」
だんだんと俯きながら阿部が言うと本間とミヨコが顔を見合わせた
「…可愛いねぇ…」
本間がその阿部の頭をぎゅっと豊満な胸元に抱きしめた
「大丈夫だよ阿部~女は乳じゃないから乳じゃないから」
ミヨコが阿部の頭を撫でながら言う
「そうそう乳じゃない乳じゃない」
本間も言う
「でもアレだよね~阿部とラムちゃん胸の大きさドッコイドッコイじゃない?」
ミヨコが言うと阿部がぴくっと反応する
「そうなると…勝負どころは中身?」
更にミヨコが言うと阿部が抱きしめている本間の腕を掴んだ
「あっちは家事が得意」
本間が言う
「こっちは…」
ミヨコがチラッと阿部を見る
「どうせアタシはホワイトシチューに牛肉入れたわよっ!!!;」
阿部が怒鳴る
「…何色になったのそのシチュー…;」
ミヨコが顔を顰めて聞いた
首から提げたラジオ体操のカードには参加した証拠に押してもらえる判子が12個
タイヤを半分地面に埋め込んだ遊具の上に座って同じくラジオ体操をしに来る誰かを待つ一人の…
「やだなぁ…」
少しふっくらした唇がとんがった
「でも判子欲しいしなぁ…」
ペラッとラジオ体操のカードを裏返し押してある判子を見る
「だから帰りたかったのに~…隣町なのになんで泊まるかなぁ…」
ハァと溜息をついて顔を上げる
【別苅小学校】と校門に刻まれたその先にあるグランドにはまだその子一人しかいない
正月町には5つの小学校がありこの別苅小学校はその小学校のうちの一つでこの地区でのラジオ体操開催場となっていた
「誰も来ないし…」
朝日に照らされ飛ぶトンボを目で追いかけながら耳に聞こえるのは磯舟の帰ってくる音とカモメとスズメの鳴き声と一つの足音
「…誰かきた…?」
顔をあげその足音の主がやってくるであろう校門の方を見る
「誰だお前」
「きゃぁあ!!!!」
「危なっ!!!;」
思いもよらぬ方向から聞こえた声に驚いた体がバランスを崩し座っていたタイヤの遊具から滑るように芝生へと落ちた
「大丈夫か!?」
目を開けたそこには金色と白と青が混ざったような空と見たことない顔
「大丈夫…」
小さく返すと体を起こす
「ごめん…落ちるなんて思わなくて」
申し訳なさそうに謝ってきたのはいわゆるスポーツ刈りの少年で首からはラジオ体操のカードが下がっていた
「…えいのきょうすけ…? 一年生?」
カードに書かれていたヘッタクソな字を読む
「うん俺は京助お前は?」
京助が聞く
「あべいくえ…」
「女の子?」
阿部が答えると京助が聞き返した
「そうだよ」
「男かと思った」
へへっと京助が笑う
「だって髪短いしズボンはいてるし俺より背高いし」
立ち上がった阿部を見て京助が言う
「別苅のヤツじゃないでしょ」
京助が聞くと阿部が頷く
「正月だもん郁恵」
阿部が言う
「へーそっかぁ…だからわからなかったんだ」
京助が笑った
「おばあちゃんの家にきたんだけど帰ろうっていったのにお母さん達泊まるって言って…でも郁恵は判子欲しくて」
阿部がラジオ体操のカードを見せた
「うわー!! すげー!! 全部押してあるんだー!!」
カードを見た京助が声を上げた
「俺もいまのところ全部!!」
京助も自分のカードを自慢げに阿部に見せた
「俺さ弟生まれたからお兄ちゃんだからしっかりしないと駄目だからさ大変なんだ」
幼子特有の文法がなってません的話し方で京助が言う
「そうだんだー」
阿部が笑う
「なぁなぁお前明日も来るか?」
京助が阿部に聞く
「わかんない…帰るって言わなければ明日も来るし」
「来いって!! あそぼーぜ!! 坂田が旅行いってるから暇なんだ~」
子供の特技とも言える会ってハイ!!すぐお友達というコトになったらしく京助が阿部に言う
「郁恵も遊びたい!!」
ぱぁっと笑顔になった阿部が言った
「じゃぁ明日もこいよ!! 約束ッ」
京助が笑顔で差し出した小指に阿部が小指を絡ませた
「ゆーびきーり…」
「おーい京助ー!!!」
歌いだした京助を校門のところから誰かが呼んだ
「キヨちゃん達だ」
阿部を指を絡ませたまま京助が校門のところに向かって手を振る
「何年生?」
阿部が聞く
「キヨちゃんは五年生でゆっかとクリが二年でー…あ、体操始まる!!」
紺色のミニカから出てきた誰かのお母さんの手に持たれていたラジカセを見た京助が阿部の手を引っ張って走り出した
チャンチャララッチャッチャッチャ♪
「あーたーらしぃあっさがきーた~きぼぉのあっさーだー」
ラジカセからノイズ交じりに流れてきたラジオ体操の歌を誰からとでもなく歌い始めそれがいつの間にか合唱となってグランドに響く
『全国の皆さん!おはようございます!!本日は埼玉県…』
ラジオ体操の歌が終るとやたら元気が良くて聞いてるこっちが逆に疲れそうなんだよというカンジのオッサンの声
「この声さぁ俺が一年の時から変わってねぇ気がするんだけど」
キヨちゃんと呼ばれていた五年生が言う
「だってドラえもんの声もずっと一緒じゃない? だから別にいいと思う」
ユッカと呼ばれていた二年生が言った
「ハイハイ!! 広がって広がって!!」
誰かのお母さんが声を張り上げると各自両手を思い切り伸ばして間隔を取り体操の準備に入った
『腕を前から上げて背伸びの運動~!!』
ラジカセから聞こえた指示にあわせて子供達が一斉に足を肩幅に開き両手を上に上げた
『イッチニ、サンシッ』
やたら軽快にリズムをとるその声に操られてるかのように体操をする
『続いてラジオ体操~第二~!!!』
第一体操が終わり第二体操の準備に入るようラジカセからの声が指示を出したところで誰かのお母さんがスイッチを切った
「第二やらないの?」
阿部が隣の京助に聞く
「やったりやらなかったりだな」
京助が返した
「まゆちゃんトコのおばさんはやらないんだ」
「ふぅん…郁恵のとこは毎回第二やってたよ」
判子を貰うためにまゆちゃんのお母さんの所に向かいながら阿部が言った
「はっらへった~ぁ!!!」
判子を押してもらったクリと呼ばれた二年生が大きな声で言う
「俺もー」
京助が手を上げた
「なぁなぁ朝ごはん食べたらさ海いかねぇ?」
キヨちゃんが校門方向に向かいながら振り返った
「あーじゃぁゆか あじゅも連れて行くー」
「え~…あじゅすぐ泣くじゃん」
「アキラ君とかも誘ったりしない?」
ワイワイしながら歩く子供達の中で阿部は一人黙って歩く
「えっと…名前なんていったっけ;」
京助にいきなり聞かれて阿部がきょとんとした顔を上げた
「阿部…郁恵」
「じゃぁ郁恵ちゃん? 阿部ちゃん?」
阿部が答えるとキヨちゃんが聞く
「学校ではいっくって呼ばれてた」
阿部が小さく言う
「じゃぁいっく!! お前もこいよ海!!」
京助が笑いながら言う
「でも水着もってきてないし…」
「俺らも着ないし水着なんて」
「そうそう短パンとシャツだよな」
阿部が言うとそんな答えが返ってきた
「な? な? いっくも泳ごうよ」
京助が是非ともというカンジで阿部を誘う
「うん…じゃぁお母さんに言ってみる」
阿部が笑って答えた
「じゃぁさ、どうする? 前浜? それとも浜ちゃんトコまで歩く?」
「前浜にしようよー」
「まずは朝ごはん食べてー…九時くらい?」
またワイワイと話しながら動き出した集団の中で阿部がなんとなく嬉しそうに顔をほころばせた
「昨日はアレだけ帰る帰るいってたのに…」
少しパンチパーマッ気がある髪の阿部の母親が茶碗に口をつけて御飯をかき込む阿部を見ていった
「栄野ンとこの京助達と海さいくってな」
首からタオルを提げた婆が新聞を広げて聞く
「うん御飯食べて九時」
「ホラ御飯ツブ」
嬉しそうに阿部が答えると阿部の母親が阿部の服についた御飯ツブをとった
「いっくにもついに彼氏?」
「違うもん!!」
バタンと冷蔵庫を閉め手には麦茶を持った阿部の姉が茶化すように言うと阿部が反論する
「だって郁恵より背低いもん」
阿部が自分の食べた茶碗を台所に運びながら姉に言った
「男子って中学校くらいからすんごい身長伸びんだよー」
麦茶を飲み干したコップを水ですすぎながら阿部の姉が言う
「私もついていっていい?」
「なんで?」
「将来の弟でも見に行こうかなって」
「馬鹿言ってないで洗濯物干してきて」
阿部に聞いた阿部の姉に阿部の母親が言った
「阿部」
家庭科室の入り口で呼び止められた阿部が振り向いた
「きょ…;」
「どもってるどもってる; …どうしたの?」
今の今まで話題にしてた京助を見て言葉に詰まった阿部の代わりにミヨコが答える
「いや大したことじゃないんだけどさぁ…前にありす来た時の写真あるか?」
京助が聞く
「写真…って…」
「ホラお前携帯で何か写してたじゃん?」
阿部が一歩前に出た
「…私達先に行くね」
本間がソレを見てミヨコの腕を引っ張って家庭科室の中に入っていく
「ちょ…;」
「ねぇならいいんだけどさ;」
「え…っと;」
本間の方を見てそしてまた京助の方を見てそして俯く
「…どっか具合悪いんか?」
「べ…なんでよ;」
しばらく黙って俯いたままだった阿部に京助が聞いた
「いや; だってお前何か変だし」
「ッ…!! 失礼ねっ!!!; 別に具合悪くないわよッ!!!;」
阿部が怒鳴ると生徒の視線が集まった
「…馬鹿」
本間が家庭科室の中で蛇口を捻りながら呟いた
「…携帯のメモリに残ってるかもしれないけど…」
阿部が小さく言う
「ソレって現像とかできんのか?」
京助が聞く
「セブンで…でもまずは残ってるか確かめないといけないから…ちょっと待ってて」
阿部が歩き出す
「俺も行くわ」
阿部の後ろを京助も付いて行く
「付いてこなくてもいいよ」
「いーじゃん; 可愛くねぇなぁ;」
「悪かったわねッ!!!;」
隣に並んだ京助に阿部が怒鳴りながら歩く
「えっと…」
教室に付いた阿部が自分の鞄から携帯を探す
「すげぇ荷物だな; 一泊しかしねぇのに」
京助が阿部の鞄を見て言った
「コレでも少ない方なんだけど…」
阿部が携帯を開きながら鞄を見た
「何入ってるんだよ…」
「えー…っと化粧水とか…着替えとか…ってちょっと!!; 覗かないでよ!!;」
除きこんで来た京助の頭を阿部が叩いた
「コレ香水?」
「だから!!; もうっ!!;」
透明のケースの中に入ってる小瓶を指差して京助が聞く
「いいじゃん;」
「返して!!;」
阿部が京助が持っていたケースを奪い取って鞄にしまったあとしばらく携帯を弄ってそして京助を見た
「三枚だけなら残ってた」
「どれ?」
「…ッ!!;」
阿部の持つ携帯を京助が覗き込む
「おー!! 結構いいショットじゃん!!」
よくよく見ようとした京助が阿部の手に手を添えて携帯の角度を変えた
「…京助…ち…かい…」
阿部が俯きながら呟く
「あ、スマン;」
京助が阿部から離れると阿部が息を吐いた
「金払うから現像頼んでいいか?」
京助が聞く
「いいけど…」
阿部が携帯を閉じて聞く
「南がありすに送りたいんだとさ…緊那羅も写真撮ってたみたいなんだけどまだ枚数の請ってるから現像に出すの勿体ねぇしさー…」
京助が口の端を上げて言う
「ラムちゃん…」
阿部が自分の胸元をキュッと掴んだ
「あのね京助一つ聞きたいの」
「へ?」
阿部が京助を見た
遠くから生徒の笑い声が聞こえる
「…なんだ?」
いくら待っても聞きたいことを聞いてこない阿部に京助が逆に聞いた
「京助って昔は早起きだったよね」
「は?」
阿部が言うと京助が間抜けな顔で阿部を見た
「京助が覚えてないかもしれないけどアタシと京助って中学で初めてあったんじゃないんだよ」
阿部の言葉に京助が考え込む
「あのねアタシ小学校一年のとき…」
磯舟並ぶ前浜に色とりどりのタオルが船の上に置かれていた
「ぬる~ッ;」
足を入れたゆっかが苦笑いで言った
「今日は暑いからなーでも冷たいよかいいじゃん」
黄色い海中メガネを装備したキヨちゃんがいけすをヒョイヒョイ渡って行く
「あーじゅーもー!!!」
自分の事をあじゅというまだ小さい女の子が浮き輪をもって地団太を踏んだ
「だから嫌だったんだよあじゅがくるのー」
ブーブー周りから野次が出た
「いっくー準備できた?」
京助が阿部の元ににやってきて聞く
「あ うん」
阿部が取るを磯舟の上において京助に笑いかけた
「あのテトラあたりは少し深くなってるんだけどあとはだいぶ浅いから」
話しながら京助が歩くと阿部もソレについて歩く
「いっくは俺より背高いから大丈夫だよ」
京助が振り返って笑う
「ちゃんと準備体操しなきゃ駄目だよ京助もそっちの子も」
背中から声を掛けられて二人して振り向く
「操ちゃん!!!」
京助が嬉しそうに言って操ちゃんと言う人物の元に走った
「来てくれたんだー!!」
操という名前の人物の手を引っ張って京助が笑う
「一応ね小学生だけじゃ危ないって言うもんだから…こんにちは」
操が阿部に挨拶をした
「こ…んにちは」
阿部が小声で返すと操が笑う
「あー!! 操だー!!!」
海の中からキヨちゃんが叫んだ
「準備運動はしたのか----------!」
操のその声は決して叫んだわけではないのにとてもよく響いた
「ねーねー! 操ちゃんも泳ぐんだろ? な?」
よほど操に懐いているのか京助がしきりに操に聞くのを阿部がただ黙ってみている
「お前なぁ…;その子お前の友達なんだろ?だったらちゃんと遊んでやりなよ」
操が京助の頭を撫でた
「じゃー操ちゃんも一緒に!」
「あのなぁ;」
京助に手を引っ張られた操の頭からタオルと帽子がずり落ちて今まであまり見えなかった操の顔が見えた
頭の上で一本に束ねられた色素の少し薄い髪の毛が浜風に舞った
「男?」
阿部が思わず聞くと京助と操がきょとんとして止まった
「そうだよ」
苦笑いで操が返し帽子を拾った
「外人みたい」
阿部が言う
「よく言われるけど日本人、コイツのイトコ」
京助の頭に手を置いて操が笑った
「中学三年の14歳」
グシャグシャと京助の頭を撫でると京助が嬉しそうにでも半分嫌そうにその手を払った
「…京助と一緒に海にいったんだよ」
阿部が言った
「…俺と?」
京助が自分を指差した
「そう…でねアタシ…」
「京助-----------------!! キョンスケ--------------------!! キョンキョ--------------------ン!!!」
言いかけた阿部の言葉が坂田の大声で止められた
「お----------------------ぃス!! …ワリ;またな」
京助が坂田の声のした方に向かって叫ぶと阿部に苦笑いを向けた
「あ…ううん; じゃ写真現像して…おくから」
阿部も苦笑いを返して手を振った
「さんきゅ!」
にかっと笑った京助が靴をキュッキュとならしながら廊下を駆けて行った
「…おしかった…よね…アタシ…うん、頑張れた」
阿部が携帯を握った
「何やってたんだ?」
軍手を真っ黒にして炭を割っていた坂田が駆けて来た京助に聞く
「阿部に写真のこと聞いてたんよ。南欲しがってたろ?」
「えっ! 何? 京助聞いてくれたん?」
京助が火バサミで袋から炭を取り出しながら言うと南が顔を上げた
「緊那羅のカメラまだ枚数のこっててさぁ…阿部が確か携帯で…」
京助が話す
「さんきゅー!! ありす喜ぶわー!! 大好きン京助!!」
南が京助に抱きついた
「せんせー破廉恥なことしてるヤツ等いまーす」
中島が手を上げてウニに向かって言った
「緊那羅とヒマ子さんだけじゃ飽き足らずついに親友にまで…」
「悪友の間違いだろが; ってかまたそのネタかよ;」
京助が南をひっぺばしながら口の端を上げる
「俺にはありすがいるし~?」
引っぺがされた南が笑う
「高校入ったらバイトして金貯めて…」
「ハイハイ未来予想図はソレくらいにして手を動かせ手を;」
金網を掃除していたハルと浜本が戻ってきて突っ込む
「この合宿終ったら夏休みだなー…ふー」
パキンと炭を割った坂田がしみじみという
「なんつーか…早ぇえよなぁ…」
中島が空を見上げた
「年取ったねぇ俺等も」
ウンウンと南が頷く
「オイオイ; お前等がそんなこと言ってんなら俺たちはどうするんだ;」
順ちゃんが苦笑いで言う
「いや~…だってもう14歳ですぜ旦那」
南がちょいとポーズで順ちゃんに言う
「14歳ってさぁ…俺昔スゲェ大人に感じたんだよな…なんつーか…何でもできてさ…」
京助が言う
「だから…」
そこまで言うと京助が止まった
「だからどうした? 京助」
突然黙った京助を一同が見た
「だから…って…あれ?;」
「あれ? はお前だよ;」
何かが引っかかっている京助に中島が突っ込む
「…いや…うん…なんだかね?」
「いやだからお前がなんだかねだろうが;」
ハッハと笑いながら言う京助を坂田がどついた
「遅かったじゃない」
戻ってきた阿部に本間が言う
「…あのね香奈」
阿部が本間のジャージの袖をぎゅっと掴んだ
「アタシまだ頑張れると思った」
「そう…いいんじゃない?」
阿部が笑顔で言うと本間がさらっと言った後笑う
「じゃ頑張れる阿部ちゃんは玉ねぎ切ってくださいな」
本間が玉ねぎを差し出した
「はいさー」
阿部が笑顔で敬礼した
「…なーんか引っかかる…」
「ホレ、水」
呟いた京助の目の前に坂田が紙コップを差し出した
「それともホレ、ツマヨウジ」
反対側からハルがツマヨウジを差し出した
「いやいや; そうじゃなくてよ;」
京助が言う
「じゃ何がひっかってんだ?」
南が割り箸を咥えて聞く
「ソレがわからんのよな;なんかこう…すげぇ大事なことの様な気がするんだけども…でてこないっつーか」
京助が溜息交じりに言う
「なんだソレ;」
中島が言う
「例えると…出そうで出ないクシャミ?」
「うわーやるせなーそれ;」
京助が言うと南が突っ込んだ
「うあー!!; 気になるー;」
京助が頭を抱えてフォォオっとしゃがんだ
「家のことか?」
中島が聞く
「いや…違う…と思う…けど…うあー;」
しゃがんだまま京助が喚く
「電話掛けてみたら? 思い出すかもよ?」
「若、携帯」
「俺か;」
南が言うと中島が坂田の前に手を差し出した
「ホレもう繋がってるからな」
「あ? あー…さんきゅ」
坂田が京助に携帯を手渡した
『はいっ栄野ですっ』
「あ、悠だ」
元気よく電話に出た悠助の声に中島が笑う
「よっす」
『あれ~? 京助だ~!』
「悠声でけー」
見えるわけではないのに片手を上げながら返事をした京助の名前を呼んだ悠助の声が周りにも聞こえる
『京助?』
『うん~京助だよ~』
『ほやぁあああああああ!!』
「…騒がしいナァおい;」
電話の向こうから聞こえてくる声をと物音に京助が口の端を上げた
『どうしたの~?』
悠助が京助に聞く
「いや…別になんでもないんだけどよ」
「悠~京助ホームシックなんだー」
坂田が京助から携帯を取り上げて言う
「オイこら;」
京助が坂田をどついた
『今日ねー冷やし中華なんだよー』
悠助が嬉しそうに言う
「ほーこっちは焼肉だぞー」
南が京助の肩越しに言った
『ちょっと待ってねー慧喜ー京助ー』
「オイオイ; かわらなくていいっての;」
悠助が近くにいるらしい慧喜に声をかけている
『義兄様?』
「よー」
慧喜が電話に出るとやはり見えるわけ無いのに京助が片手を上げて返事をした
『緊那羅にかわるね』
「だぁから!! ;かわらなくてもいいっつーの;」
かわるがわる電話をかわるのに京助が突っ込む
『え? なんだっちゃ? …京助?』
ゴソゴソという雑音に交じって聞こえた緊那羅の声
『京助?』
「おー」
『どうしたんだっちゃ? 晩飯は食べたっちゃ?』
「今食ってるとこ」
『そうなんだっちゃ? 今日はこっち冷やし中華とか言うの作ったんだっちゃけどハルミママさん京助の分まで作っちゃったんだっちゃ』
「ほぉーうってことは明日帰ったら食えるのか」
『ううん矜羯羅が食べたっちゃ』
「…コナクソ;」
『あははは』
しゃがんでは立ち上がりしながら電話をする京助を阿部が黙って見ていた
『で? 何か用あったんじゃないんだっちゃ?』
他愛も無くただ話しているろ緊那羅が思い出したように言った
「…いや別に」
『へ?』
京助がさらりと言うと緊那羅が電話の向こうで素っ頓狂な声を出した
「別に何にもねぇんだけどさ…;」
『そうなんだっちゃ? …そっか』
京助が言うと緊那羅がどこか嬉しそうに返した
「何で笑ってんだよ;」
そんな緊那羅に京助が突っ込む
『ううん ただ何もなくてよかったなって思っただけだっちゃ』
緊那羅が言うと京助がきょとんとした顔で止まった後眉を下げた
「ばっか」
そして苦笑いで言った
「おーおー…和んでる和んでる…」
少し焦げた肉を箸でつまんだ坂田が京助を見て言う
「話してる相手が声聞かずとも誰かわかるや俺」
「あ俺も」
南が言うと中島も言った
「京助はさー誰とでも仲良くなれるような気がして実は人見知りだったりすんだよな」
ハルが紙コップに口をつけた
「俺らにも滅多に相談とかしねぇし」
中島が軽くゲップをした
「そう考えるとさラムちゃんって凄いよね~…なんか俺らより前から京助と一緒にいるみたいじゃん? すっかり京助の隣が定位置っつーか…京助の甘え場っつーか心の拠所っつーか役場っつーか」
南が割り箸を上下させて言う
「…それなんだけどよ」
坂田が少し真面目な顔で声を殺して呟くように言うと一同が坂田を見た
「俺さ…最近なんだけど…緊那羅と前に…あったような気がしなくもないような感覚があるんだよな…」
坂田が言うと一同が顔を見合わせた
「でも…ラムちゃんってアレなんだろ? こっち…っつーかいる世界が違う…んじゃなかったか?」
ハルが言うと坂田が頷く
「それじゃラムちゃんが前にもこっちにきたことがあるかもしれないってこと?」
南が聞く
「…わかんねぇけど…でもそう思いはじめたのって本当最近でさ…もしかしたら気のせいかも知れねぇし…でも…う~~~~~~~~~ん;」
坂田が腕を組んで考え込む
「似たような人じゃなくてか?」
中島が言う
「…かも…でも…うーんうーん;」
坂田が頭を左右に動かして悩む
「
何してんだ;」
動いていた坂田の頭を両手で真剣白羽取りのように掴んだ京助が言った
「おきゃーりー」
南が言う
「あー…ホイ携帯」
京助が坂田に携帯を差し出した
「引っかかりは取れたか?」
中島が聞く
「…まぁ…たぶん」
京助が置いてあった自分の箸を手に取った
「すごいねぇ…声だけで癒されたっしょ」
南が京助の背中を叩きながら言う
「でも…やっぱ引っかかる…んだよなぁ;」
京助が黒くなった肉をつまみあげながら言った
「…なぁ京助」
坂田が肉を半分口から出した阿呆面の京助に声をかけた
「にゃひた?」
肉を半分口から出した状態で京助が返事をする
「…もしかしたら俺の引っかかりとお前の引っかかり…同じかもしれんのだよ」
「ほ?」
坂田が言うと京助だけではなく南と中島そしてハルも坂田を見た
「お前の引っかかりって…緊那羅と関係してねぇか?」
また坂田が言うと今度は京助に視線が移る
「…緊那羅…?」
京助が肉を飲み込んだ
「俺…最近なんだけどさ…緊那羅とは前に…ずっと前にあったような気がすんだ」
坂田の言葉に京助が止まった
「何で最近になってそう思ったのか俺にもわかんねぇんだけど…さ…何でか…」
坂田が口篭った
「ずっと前…に…?」
ザワザワとグランド横の並木の木が風に鳴かされる
「ハイ!! ストップ」
ここじゃ聞こえちゃアカンのではないか? という人物の声がして京助が振り向いた
「あ…」
「どうしたの? 緊那羅」
「え…あ…; …ううん;」
電話の子機を持ったままぼーっとしていた緊那羅にガキンチョ竜を腕に抱いた矜羯羅が声をかけた
「…なんでも…ないっちゃ」
緊那羅が作った笑顔で返事をする
「不安?」
「え?」
ガキンチョ竜を抱きなおしながら矜羯羅が聞いた
「京助がいなくて」
緊那羅がゆっくり静かに子機を戻して矜羯羅を見た
「…少し…」
そして苦笑いで答える
「…でも…なんだろう…なんだか…私最近…おかしいんだっちゃ」
「おかしい?」
矜羯羅が聞く
「…記憶に無いものなのに記憶にある…っていうか…たまに私がもう一人いるような…そんな感覚になるんだっちゃ…」
緊那羅がぎゅっと手を握って俯いた
「夢…とかじゃなく?」
矜羯羅が言うと緊那羅が首を振った
「わからないっちゃ…でも…でも…」
緊那羅の声が震える
「…イ、深呼吸」
「わっ;」
ポンっと肩を叩かれて緊那羅が思わず声を上げた
「制多迦…」
矜羯羅の声に緊那羅がやや斜め後ろを見上げるとヘラリと笑顔を向ける制多迦
「…んがえたくない時は考えない方がいいよ緊那羅」
そう言いながら腕に抱いていたガキンチョ竜を緊那羅に差し出した
「ふぷー…」
ガキンチョ竜が両手を緊那羅に向けて精一杯伸ばす
「…にか言いたいみたいだからつれて来た」
「…言葉わかるの?」
矜羯羅が突っ込むと制多迦がヘラリ笑顔を向ける
「…竜…」
緊那羅が呟きながらガキンチョ竜を抱き上げた
「貴方は…全部知ってるんだっちゃ…?」
緊那羅が出した指をガキンチョ竜が掴むと途端に緊那羅の頭の中に響いた声
『ごめんな…』
見えたのは青の中の小さな手
自分に向けて必死で伸ばしている小さな手と…
----------------------…
聞こえた幼い子供の声
呼ばれたのは自分の名前ではないのにどうしてか自分が呼ばれたような気がした
聞いたことのない名前
でもどこか懐かしい名前
「…んなら」
制多迦に呼ばれた緊那羅がハッとして制多迦を見た
「…私…は…緊那羅…だっちゃよね?」
「は?」
緊那羅が静かに小さく呟くように聞く
「だぁぷー」
緊那羅の指を握っていたガキンチョ竜が緊那羅の指を掴んだまま声を出した
「名前…呼ばれたんだっちゃ…」
そう言った緊那羅の声は少し震えていた
「緊那羅じゃない…名前…」
震えたままの声で緊那羅が更に言う
「聞いたことない名前だったんだっちゃ…でも…」
更に続けようとした緊那羅の肩に矜羯羅が手を置いた
「風呂入ってくれば」
「え…?」
きょとんとした顔を上げるとヘラリ笑顔で制多迦が頷いた
「…何しにきたんだよお前;」
「いや----------!! アッハッハ!!! そういいなさんなっつーん」
腰に愛ハニワのカンブリをぶら下げた阿修羅がケラケラと笑った
「暇人め」
京助が言う
「ひっどー; オライは暇人じゃないんきにー」
阿修羅が眉を下げて溜息をついた
「じゃぁ何しにきたん?」
南が紙コップに茶を入れて阿修羅に手渡した
「おっ! あんがとさんちっこいの」
阿修羅がソレを受け取ると一口口をつけてそして京助を見た
「…あんな竜のボン」
紙コップを揺すりながら阿修羅が京助に話しかける
「なんだよ; 改まってキモチワリィ;」
いつもより少しシリアスな雰囲気の阿修羅に京助が突っ込む
「…本当はなもう少し先かと思ってたんよな…この話すんの」
阿修羅が紙コップの中を飲み干して言う
「竜のかけた術が弱まってきてるんよ」
「術?」
阿修羅が言うと中島が聞く
「楽しんでるとこにこーゆー話題どうかと思ったンけどな…スマン」
眉を下げた笑顔で阿修羅が京助に謝った
「な…; なんなんだよ; 怖ェえなぁ; ミリオネアのみのもんた並だぞお前;」
京助が一歩後ずさって言う
「聞きたいけ?」
阿修羅が静かに京助に聞くと視線が京助に集まった
「…コレって俺等も聞いていい話?」
坂田が阿修羅に聞いた
「…まぁお前さん達も…竜の術にかかってるんきにな…」
「俺等も?;」
阿修羅が言うと坂田が驚いて声を上げた
「そう…っつーか…この町全体が竜の術にかかってるんきに」
「町全体ッ!?;」
南と坂田が声をハモらせて言う
「…話して…いいか?」
阿修羅が真っ直ぐ京助を見た
まだ外はぼんやりと明るく窓から差し込む夕焼けの光が電気の代わりになっていた
「……」
入浴剤 を入れたせいでほんのりとお湯から漂うはさくらの香
小さくなったソレはしゅわしゅわと音を立てて浮かび緊那羅の肌に触れそして溶け消えた
遠くから悠助の笑い声が聞こえそして鳥倶婆迦の声も聞こえた
浴槽の淵に顎を乗せてなにげなく風呂場を見渡す
「…ふぅ…」
鼻からの溜息をつくと天井を見上げた
「…明日…天井掃除しないと駄目だっちゃね…」
ポツリと独り言をもらしてまた黙り込む
しばらくして浴槽の淵に手をつき湯船から上がろうと足をかけ…
ガラッ
…ピシャン
ザー…
チャポン
「ふー…」
突然の乱入者を見たまま止まった緊那羅
「…何を見ている」
湯船の中でタオルを絞った迦楼羅がソレを頭に乗せながら緊那羅に言う
「上がるなら上がれ浸かるなら浸からんか…」
顎すれすれまで湯船に浸かりながら迦楼羅が言った
「な…;」
やっと緊那羅が口をパクパク動かした
「何してんだっちゃ---------------ッ!!;」
「風呂に入っている…見てわからんのか」
「そうじゃなく!!; どうして入ってきたんだっちゃッ!!;」
「入りたかったからだ」
「だ…ッ;」
顔を赤くして湯船に勢いよく沈みながら緊那羅が喚くのに対し迦楼羅が淡々と答える
「女でもないのに喚くな! たわけッ!」
「ぶっ;」
迦楼羅が手で水鉄砲を作り発射すると緊那羅の顔面に直撃した
「同じものが付いているだろうが!!」
「立たなくていいっちゃッ!;」
迦楼羅が立ち上がろうとするのを緊那羅が必死で止める
「まったく…」
ブツブツ言いながら迦楼羅がタオルを湯船に沈めた
「…聞きたいことがあるのではないか?」
「え…?」
ぎゅっとタオルを絞りながら迦楼羅が緊那羅に聞いた
「今頃 阿修羅が京助に話しているだろう」
「京助…に?」
緊那羅が迦楼羅を見た
「…そしてワシはお前に話す…ようにと頼まれたのだ」
タオルを再び頭に乗せた迦楼羅が湯船の中であぐらをかいた
「だからって何で風呂…;」
向かい合った緊那羅が正座をした
「話にきたらお前が風呂だと聞いたからだ」
「だからって…; 上がるまで待つとか…;」
呆れる緊那羅に対しさらっと迦楼羅が言う
「正直…ワシもこんなことになっているとは知らんでな…阿修羅から聞かされるまで…は…」
まいったよというような顔で迦楼羅が溜息をついた
「こんなこと…って…」
緊那羅が聞く
「…緊那羅…」
迦楼羅が真剣な顔で緊那羅を見た
「…実はな【時】はもう始まっていたんよ」
阿修羅が静かに口を開いた
「竜のボン…いいか? オライが今から話すことを聞いても……」
京助を真っ直ぐ見る阿修羅が目を伏せた
「…最初に言っておく…逃げるな」
そして見たことないかもしれない真剣そのものの視線で再び京助を見た
「そんなに念を押して言うほどの話?;」
中島が聞く
「ああ…そうだ」
阿修羅が答える
「それでもオライは話さないと駄目なんきに…そして竜のボン…お前は聞かないといけないんきによ」
視線が京助に集まる
「…竜の術が完全に解けた時…もう始まっていた【時】は全貌を現す…その前に…」
「京助?」
瞬き一つしない京助に南が声をかけた
「少しは思い出してきたんじゃないかと思うんけど」
「思い出して…って…」
阿修羅の言葉に坂田が突っ込む
「勘がいいのーメガネ…そう…竜はな…【記憶】に術をかけたんきに…【アイツ】を知ってる…全ての奴らの記憶に」
「きゃぁ!!」
「おぅッ!;」
突然吹いた風に生徒達が声を上げ物があちこちに飛んでいく
乾いた音をさせて発泡スチロール製の箱が校舎の壁に当たった
「…操」
阿修羅が小さく言った名前を聞いた京助が目が見開いた
立ち上る湯気が天井で雫にかわり湯船に落ちた
「…【時】は既に始まっていたのだ」
迦楼羅が静かに言った
「え…そ…ええ!!?」
ザバっと緊那羅が立ち上がった
「だが…始まってはいないのだ」
「…は?;」
付け足した迦楼羅の言葉に緊那羅がきょとんとする
「それって…どういう意味だっちゃ?;」
緊那羅が聞く
「だからだな…【時】は始まっていたのだが…本格的には始まっていたのではなく…」
迦楼羅が説明するのを聞く緊那羅が考え込む
「だから僕が説明すると言ったんですよ」
風呂の戸越に聞こえた乾闥婆の声
「まったく…とにかく早々に風呂から上がってください」
そう言うと戸越に見えていたシルエットが遠ざかっていった
「…迦楼羅って…口下手なんだっちゃ?;」
緊那羅が聞くと迦楼羅がむすっとした顔で浴槽の淵に手をかけた
カランと京助の手から割り箸が地面に落ちた
「…み…さお…」
どこを見ているのかわからない京助が阿修羅の言った名前を繰り返した
「その顔…思い出してみ?どんなヤツだったか…」
阿修羅が言う
「操って…操…」
坂田が腕を組んでブツブツ言いながら考え込むのに対し京助はやはりどこを見ているのかわからないまま止まっている
「操…って何;」
「さぁ…;」
南がハルに聞くとハルも首をかしげた
「ちょっと炭…って…なにしてんの?」
炭を取りにきたミヨコが異様な空気のその場所にいた面々に聞いた
「いや…何かようわからんけど…;」
ハルが答える
「…竜のヤツ思いっきりかけたんだなぁ; 深い深い;」
阿修羅がハッハと笑いながら頭を掻いた
「…思いだせんかい?」
阿修羅が京助に声をかけると京助がぴくっと微かに動いた
「…俺…」
口を開いた京助の右目から一筋涙が流れた
「京助!?; なした!; 何があった!!;」
ソレを見た中島が聞く
「あれ…?; なんで…ちょい待ち…ッ;」
京助がTシャツの首元を引っ張って涙を拭う
「煙が目にしみたんじゃないの?」
ミヨコが言った
「そうかも; あー…;」
京助が顔を横に振った
「…心は思い出したみたいなんやいけどな」
阿修羅がフゥと溜息をついた
「…こりゃ緊那羅の方が…早いかもしれんきにな」
「緊那羅?」
呟いた阿修羅に京助が聞く
「緊那羅…きんきんラムラム…うーん;」
「お前まだ考えてんのか;」
さっきから腕を組み返ししながらまだ考え込んでいた坂田に中島が突っ込んだ
「すっげー引っかかるんだって;」
坂田が溜息を付いた
「そりゃ…そうだろなぁ」
そんな坂田を見て阿修羅がハッハと笑った
「どういう意味だよ;」
坂田が阿修羅に聞く
「やっぱり竜のヤツ…竜のボンには輪をかけて強く術かかてったらしいんきにな…まぁ…オライも竜の立場だったらそうしてるし…な」
阿修羅が京助の頭を撫でた
「緊那羅も…同じ話なのか?」
京助が阿修羅の手を払いながら聞く
「微妙に違うンだけんどなぁ…同じといえば…」
阿修羅が答える
「…一緒に聞きたいのけ?」
少し間をあけて阿修羅が聞いた
「だらしないですよ」
「いだだだだだだだだだッ!!; 引っ張るなたわけっ!!!; 暑いのだ!! いいではないか!!」
風呂から上がったもののタオル一丁姿の迦楼羅の前髪を乾闥婆が思いっきり笑顔で引っ張る
「せめてもう少し大きな物にしてください…まったく見苦しい」
「だっ!!;」
前髪から手を離したかと思うと今度はチョップが迦楼羅の頭に直撃した
「見苦しいとはなんだ見苦しいとは!!;」
「まんまの意味じゃないの?」
怒鳴った迦楼羅にソレを見ていた矜羯羅が突っ込む
「やかましいッ!!; たわけッ!!」
「やかましいのは貴方です」
「だっ!!;」
再び乾闥婆のチョップが迦楼羅に直撃する
「あの…; 話ってなんなんだっちゃ?;」
髪をタオルで拭きながら緊那羅が聞く
「…そうでした…がまずは水分を取ってください」
思い出したように乾闥婆が言った
「…麦茶でいいっちゃ?;」
そういって緊那羅が立ち上がった
麦茶の入った容器と数個のコップを緊那羅がテーブルに並べる
「ひーふー…足りる…っちゃかね?;」
茶の間にいた人数を指折り数えてそしてまたテーブルを見る
「ゼンはこーらが飲みたいんだやな」
「ゴもこーらがいいんだやな」
緊那羅の足元でコマとイヌが尻尾を振る
「ハイハイ; じゃぁ運ぶの手伝って欲しいっちゃ」
「わかったんだやな!!」
緊那羅が言うとコマイヌが声をはもらせそしてゼンゴへと姿を変えた
「ゼンはコップ運ぶんだやな」
ゼンがお盆を持った
「じゃぁゴは麦茶なんだやな」
ゴが麦茶の入った容器を持った
「じゃぁ私は…」
緊那羅が冷蔵庫を振り返った
「せんせー…」
背後からした声にウニが振り返るとそこには坂田と南に支えられた京助
「…どうした;」
黒いジャージ姿のウニが京助に聞く
「なんだか低気圧っぽいんだよ京助」
坂田が言う
「…そうかー…西高東低はテストにでるぞ」
ウニが言った
「…俺何か間違ったか?」
坂田が振り返ると阿修羅が溜息を付いたあと手招きをした
「…作戦タイムか?」
ウニが言う
「そうとも…言いますか?」
南がチラリと目配せすると三人揃って後ろ歩きをし始めそして阿修羅の元に戻った
「低気圧じゃなく低血圧やんきに…;」
肩を組んで円陣を組んだ中 阿修羅が言った
「え? 俺低血圧っつわなかったか?」
坂田が言う
「お前低気圧っつた」
南が指摘する
「低気圧ってさぁ…台風だよな」
ハルが言う
「俺は台風かぃ;」
京助が突っ込む
「…どうすんよ; 仮病は通じねぇみたいだぞ」
「誰のせいだ誰の;」
坂田が言うと中島が突っ込んだ
「あなどりがたしウニ…勘がいいみたいだな…」
「いや…メガネそりゃ…;」
うんうんと一人納得している坂田の肩を阿修羅が軽く手を置いた
「こうなったら最終手段だな」
「もうはや最終手段って…もなぁ…;」
中島が言うと阿修羅がハッハと笑いながら言う
「結局…ソコにいきつくんだぁねぇ…」
南が遠い目で言った
「脱走するならフォークダンスの時にしろよ~」
ウニが遠くから声をかけた
「…ばれてますがな;」
少し間を開けた後一同顔をあわせてハッハと笑った
「脱走するみたいだね」
本間が言う
「…ついていく?」
阿部の方を見て本間が聞いた
「うん」
阿部が頷いたのを見て本間が少し驚いた顔をした
「…言ったじゃない…まだ頑張れるって」
阿部が笑う
「…当たって…砕けてやろうじゃない…アタシだって伊達に女やってないっての!!嫌われるまで好きでいるッ!!!」
何か吹っ切った阿部がフンっと息を荒げて宣言した
「何があったんだか…ま…私は応援するよ」
「香奈…」
「面白そうだし…ね」
本間が笑った
「緊那羅ー」
冷蔵庫からゼンゴご所望のコーラを出していた緊那羅がゴの声に振り返った
「なんだっちゃ?」
冷蔵庫を閉め緊那羅が聞く
「コップ足りないんだやな」
「えっ; でも…迦楼羅に乾闥婆…矜羯羅…」
足りないといわれ名前を上げつつ人数を確認する
「…何個足りないんだっちゃ?」
途中で数えるのをやめた緊那羅が手っ取り早いと思ったのかゴに聞いた
「えーっと…沢山なんだやな」
「はっ?;」
ゴがいうと緊那羅が目を点にして素っ頓狂な声を上げた
「沢山…って…;」
ゴの言葉を聞いた緊那羅が自分で数を確認しようと思ったのか台所を出た
「緊那羅こーら忘れてるんだやなー!;」
テーブルの上にあったコーラを抱えてゴも緊那羅の後を追いかけた
「よ」
片手を上げた京助と3馬鹿そして阿修羅と
「お邪魔してます」
にっこり笑って言う本間
「あ…お邪魔してます」
本間に促され阿部も言った
「きょ…なんで; 今日は帰ってこないって…言ってなかったっちゃ?;」
緊那羅が京助に聞く
「制限時間付きの一時帰宅」
京助が言う
「狭い!!」
「うるさいですよ」
「だっ!!;」
迦楼羅が怒鳴ると乾闥婆がお約束とばかりに前髪を引っ張った
「確かにせまいねぇ」
南が茶の間を見渡した
「そりゃそうだろ; こんだけの人数だし…ミッチミッチじゃん」
窓枠に寄りかかるようにしていた中島が言う
「おいちゃんもっと広い部屋にいけばいいと思う」
制多迦の隣でガキンチョ竜をあやしていた鳥倶婆迦が言った
「もっと広い…って…」
京助が自分の家の内部を思い出そうとしている
「…んがわのある部屋なら外にいてもいいんじゃない?」
制多迦が言う
「そうだね…」
「さすが制多迦様ナリ!!!!」
矜羯羅と慧光が言うと制多迦がどこか照れたカンジでヘラリと笑った
「一時帰宅って…どうしたんだっちゃ?」
ゾロゾロと移動している最中 緊那羅が京助に聞いた
「なんとなく」
「は?;」
京助が答えた
「別々に同じような話聞くよりいっぺんに聞いたほうがいいと思っただけ」
「同じような…話って…」
鼻くそをほじりながら京助が言う
「きょんちゃんはラムちゃんがいないと寂しいのん」
坂田が京助に後ろから抱き付いてきた
「いつも一緒にいたいのん」
そして南が緊那羅に抱きつく
「あのな;」
坂田を引きずりながら京助が口の端を上げた
「でも…阿部さんとかまで?」
緊那羅が聞く
「アタシ達は暇だったから」
阿部が振り返って言った
「フォークダンスなんてかったるくて」
「へぇ~」
阿部が言うと本間が横目で阿部を見た
「…何よ」
「別に?」
阿部がむすっとした顔で言うと本間がしれっとした笑顔を向けた
「アラ皆様おそろ…!!!!!!」
「キャ---------------------------!!!! 妖怪花------------------ッ!!!;」
縁側に面した庭にいたヒマ子を見るなり阿部が声を上げた
「誰が妖怪ですの!? 貴方こそよくもまぁ前にお会いした時は失礼極まりない発言をしてくださった小娘-------------------------!!!」
ヒマ子が阿部を指 (葉)さして叫んだ
「何でここにいるのよッ!!!」
「どーどー」
阿部が更に声を荒げて言うと本間がソレをおさえる
「ココは私の家でございましてよ!?」
「はぁッ!? 何で妖怪…ッ」
阿部が京助を見た
「ヒマ子義姉様は義兄様の妻なんだって」
「はぁッ!!!!!!?;」
慧喜がさりげなく言うと阿部が裏返りそうに高い声で言った
「阿部さん落ち着いて;」
緊那羅が阿部に声をかけた
「ちょ…妻ぁ?!;」
緊那羅の声が聞こえなかったのか更に阿部が混乱しつつ言う
「あーあ…思いっきりメダパニってるよ阿部ちゃん;」
南がハッハと笑った
「落ち着きましたか?」
コップを両手で持ってじーっとヒマ子を見据えていた阿部に乾闥婆が聞いた
「…ねぇ…一体なんなのアンタ達といいソコの妖怪といい…一体なんなの?」
阿部が逆に聞く
「あ…そっか阿部とか…祭りン時いなかった…んだっけ?」
坂田が思い出したかのように言った
「祭り?」
本間が聞く
「まぁ…うん; ちょっとあったんだけど…そっか…じゃぁわからんよな」
中島が言う
「説明するの?」
鳥倶婆迦が中身の減ってないコップを持って聞いた
「そうやねぇ…ま…この話聞いたら…たぶんわかるんきにな…全部とはいかなくとも齧り程度…オライ達のこと」
阿修羅が縁側に足をブラブラさせながら言った
「てか時間内に説明できんの?; 九時までに戻らんとアカンのだよ? 俺等」
南が言う
「お前等そうなったら先戻れ」
京助が麦茶を飲み干した
「いっやーん; 最後まで聞きたいじゃん」
南が苦笑いで坂田と中島を見ながら言った
「そうだよなぁ…どうせなら」
中島も言う
「俺もこの引っ掛かりをとりてぇしな…内申点より好奇心!」
坂田がハッハと笑った
「そっかぁ…」
阿修羅が空を見ながら溜息混じりに言うと向きを代え部屋の方に体を向けた
「…じゃ…はじめっか…」
「慧喜と悠助はいいんナリか?」
姿の見えない慧喜と悠助には聞かせないのかと慧光が聞く
「さっきまで竜達の面倒見てたけど…」
矜羯羅が探しにいこうと立ち上がると制多迦と慧光も立ち上がった
「仲間はずれは可愛そうだしねぇ」
南が言う
「京助?」
悠助と慧喜捜索隊が結束されている中黙ったままの京助に緊那羅が声をかけた
「あ…なん…だ?」
少しどもりながら京助が返事をした
「どうしたんだっちゃ? なんか…変だっちゃよ?」
「失礼な;」
緊那羅が言う京助が口の端を上げて言う
「なんでもねぇよ」
コップの中身を飲もうと口をつけた京助がカラだと気づき口から離すと緊那羅が自分のコップを差し出した
「口つけてないっちゃ」
緊那羅が笑いながら言った
「…さんきゅ」
半分呆れてでもどこか安心したような顔で京助がコップを受け取る
「…あのさ」
「なんだっちゃ?」
半分まで飲んだところで京助がコップから口を離した
「…やっぱいいわ」
「なんだっちゃ;」
「なんでもねぇよ; 気にすんな」
言いかけてやめた京助に緊那羅が突っ込むと縁側をさっき悠助と慧喜を探しに言った面々が歩いて戻ってきた
「寝てた」
鳥倶婆迦が座りながら言う
「そか…じゃ…いいんきに?」
阿修羅があぐらをかいて部屋の中の面々を見渡した後京助に視線を向けた