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【第十一回・参】ちもきのぽぽんた

黄色い春に南の小さな恋人がやってきた

「俺…何年ぶりだろか…」

南がそっとフローリングの床に手を置いた

「この部屋の床まともに見たの」

そしてでべろ~っと床に伸びた

「こんなに広かったんだぁねぇ~…」


ズシっ


「まだ終ってないナリ」

慧光えこうが寝そべる南の背中の上にゴミ袋を乗せた

「あ~…ゴミ投げですねー…;」

ノソノソと起き上がった南が廊下に目をやると山となっているゴミが目に付き目をそらした

「燃やすゴミはウラのドラム缶で…燃えないゴミは…運ぶしかないんだよナァ;」

南ががっくり肩を落した

「私も最後まで手伝うナリから…ホラ」

「…ここはアレだ…ファーラウェイのフレンズにSOS指令を出すしかないね~…よっし」

慧光えこうが肩を叩くと南が小走りで部屋を出て行った


「京助は?」

母ハルミが電話を持ったまま茶の間に姿の無い京助の行方を聞いた

「まだ寝てるんじゃない?」

哺乳瓶を片手に矜羯羅こんがらが答える

「たぶんそうだと思うっちゃ; 8時半だし…起こすっちゃ?」

ガキンチョ竜の一人に哺乳瓶を吸わせながら緊那羅きんならが言う

「そうね…お願いしようかしら? そして起きたら南君から電話きてたから掛けなおすように言ってくれる?」

母ハルミが言うと緊那羅きんならが頷いた

「おいちゃんの計算ではまたたぶんくだらない用事だとおもう」

ガキンチョ竜の一人を肩に担いでゲップをさせようとしている制多迦せいたかの隣で鳥倶婆迦うぐばかが言った

「…こうは南の家に泊まったんだね」

制多迦せいたかが言う

慧光えこうは少し制多迦せいたか矜羯羅こんがら様離れしないと駄目なんだよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言うと制多迦せいたかがヘラリ笑った

「うぐちゃんも慧喜えきちゃんも慧光えこう君も皆タカちゃんとこんちゃんのこと好きなのね」

「そうだよでもおいちゃんハルミママも好きだよ」

母ハルミが電話を切りながら言うと鳥倶婆迦うぐばかが言った

「あらぁありがとう嬉しいわ」

母ハルミが笑った


「よくまぁ…;」

坂田がリヤカーを後ろから押しながらゴミ山を見上げた

「どんだけ地球に厳しい部屋だったんだよ…;」

ゴミが落ちないように横で支えながら京助も言った

「もう一回運ばねぇとだな;」

リヤカーを引っ張りながら中島が溜息をついた

「にしてもよく片付いたよな一日で…スゲェじゃん」

坂田が後ろから手にゴミ袋を持って歩く南を慧光を見た

「俺はただゴミを袋に突っ込んでただけなんだけどね~; コロちゃんが殆どやったみたいなもん」

南が慧光えこうを見てニーッと笑った

「一つ持つっちゃ」

「あ、さんきゅラムちゃん」

南の持っているゴミ袋を一つ緊那羅きんならが受け取った

「あれだけ片付けがいのある部屋は久々で私も楽しかったナリ」

慧光えこうが笑った

「なにはともあれ…これでありすがいつ来ても大丈夫だな」

中島がゴミ回収場所の前でリヤカーを止めて言った

「…この状態ではたして後約一週間もつかだよな問題は」

京助がゴミ回収場所の簡易小屋の戸を開けながら言う

「…アッハッハ!! …二日で散らかす自信があります」

南が笑った後真顔で言うと坂田が頭をチョップした

「部屋に入るな」

「いやむしろ家に入るな」

中島と京助がゴミを小屋に投げ込みながら言った

「なにをどうすれば二日で散らかるんだっちゃ;」

緊那羅きんならも持っていたゴミ袋を小屋の中に放り込んだ

「出したらすぐ片付けるってことしないナリか?」

慧光えこうが南に聞く

「それは京助もやらないっちゃ」

慧光えこうの言葉を聞いた緊那羅きんならが京助を横目で見る

「だから散らかるナリよ…」

ジト目で慧光えこうが南を見る

「あああ…; 視線が痛い痛い;」

南が中島の後ろに隠れた

「そういや中島…昨日は悪かったな; あの時間に」

京助が小屋の戸を閉めながら中島に言うと中島が目をそらした

「…別にいいってただムカついただけだし? …さ~第二弾第二弾」

中島がリヤカーをUターンさせて南の家の方に向けた

「俺乗っていい?」

南がリヤカーに手をかけて聞く

「ジャンケンだジャンケン」

京助が言う

「ジャンケン?」

慧光えこうがきょとんとした顔で聞いた

「グーチョキパーで…」

「あのネタはもう言うなよ?」

説明しだした南に京助が突っ込んだ


「おっ! ぽぽんた咲いてんじゃん」

京助が立ち止まってしゃがんだ

「ぽぽんた?」

緊那羅きんならがしゃがんだ京助を振り返って止まった

「たんぽぽのことだよたんぽぽ」

坂田が戻ってきて説明する

「そういや毎年ここの空き地たんぽぽの群生地だもんな」

中島もリヤカーを止めて戻ってきて言う

「群生地?」

慧光えこうがまだ数えるだけしか咲いていないたんぽぽを見て言った

「そうそうここ一面真っ黄色になるんだよね」

南が言う

「あと一週間もすりゃ…見ごろだろな」

京助がたんぽぽを摘んでくるくる回した

「やっとこさ春だねぇ…桜はまだまだだけど」

南が歩き出した

「…後一週間で見ごろならありすがくるのに間に合うんじゃないっちゃ?」

緊那羅きんならが言うと一同がそろって南の背中に目をやった

「ぽぽんたで花見…ねぇ」

坂田が言う

「まぁフキノトウよかは…いいかもしれねぇな」

中島も言う

「…って言ってるナリよ?」

慧光えこうが南に声をかけ?

「…ってかやっぱ花見しか思いつかねぇのな俺等」

京助がハッハと笑った

「乏しい想像力ですねぇ~」

坂田もハッハと笑う

「でも思いついたのは緊那羅きんならさんですねぇ~」

中島が緊那羅きんならを見た

「…何だっちゃ;」

緊那羅きんならがたじっと後ずさる

「おいでませ乏しい想像力の世界へ!」

坂田がバッと両手を広げて言った

「今ならもれなくぽぽんた一本ついてくる!!」

京助が手に持っていたたんぽぽを掲げて言った

「行きたくないっちゃ;」

緊那羅きんならが言う


「で…どうするや」

中島が南に聞く

「上見上げなくていいから逆にいいかもしれねぇぞ?」

坂田が言う

「上から毛虫とか降ってくることもねぇしな」

京助も言った

「まぁ…そうだよね…うーん…;」

「おつまみとかなら多少協力してやっからさ」

中島が言うと南がバッと振り返った

「よっしOK! 花見歓迎!ぽぽんた万歳!!」

南がウインク+ペコちゃんのごとく舌を出して親指を立てた

緊那羅きんならの案採用!!おめでとう!」

坂田が緊那羅きんならの背中を叩いた

「ではこのぽぽんたを…」

京助がたんぽぽを緊那羅きんならに差し出した

「あ…りがとだっちゃ;」

緊那羅きんならがたんぽぽを受け取った

「そうだ! お礼にいいことしてやるよラムちゃん。ぽぽんた貸して?」

南が緊那羅きんならからたんぽぽを受け取るとその茎を縦二つに裂いた

「しゃがんで?」

「あ…うん?」

笑いながら南が言うと緊那羅きんならがしゃがむ

「こうし…てっと。あら! かんわいい」

南が笑いながら言った

「…違和感ねぇのがなんだかなぁ;」

京助が口の端を上げた

「似合う似合うハッハ」

坂田が笑いながら見た緊那羅きんならの頭にはたんぽぽの花

「茎で結んだんナリか」

慧光えこうが言うと南が頷いた

「昔よく作ったんだよねぇ…花冠とか?」

「俺たんぽぽの茎で笛よく作ったぞ~…苦いんだよなアレ;」

中島が言う

「後さ咲いた後のツボミ裂く前にジジかババかコーヒーかってのもやらんかんたか?」

京助が言う

「やったやった! いや~…懐かしいですな」

坂田がしみじみ言った

「何だかいろんなことやってるんだっちゃね」

緊那羅きんならが言う

「だよなぁ…なんかこう…まだ14年くらいしか生きてねぇのに思い出とかわんさかあんだよな」

京助が言った

「だぶん忘れてることとかもあるんだよなコレが」

坂田が言う

「俺の少ない頭には全部なんか突っ込めないしねぇ」

南がハッハと笑った

「じゃアレだ来週の花見はありすがいつまでも覚えているようなモンにしたいですな」

中島が言う

「あたりき!!」

南が親指を立てて返した


「…暇なんだね」

矜羯羅こんがらが声をかけるとピョン毛がぴくっと反応した後 乾闥婆けんだっぱがあのにっこり(でもどことなく怖い)笑顔で振り返った

「余計なお世話です」

そして言う

「…子供の前だぞ;」

もう放っておくことにしたのか迦楼羅かるらがガキンチョ竜に前髪を引っ張られながら言う

「別になにもしませんよ? ねぇ?」

乾闥婆けんだっぱが今度はその笑顔を迦楼羅かるらに向けた

「ねぇといわれてもな;」

迦楼羅かるらがボソッと言う

「…そっちはどう?」

矜羯羅こんがらが言うと迦楼羅かるら矜羯羅こんがらを見た

「上の様子か…?」

迦楼羅かるらが言うと矜羯羅こんがらが頷いた

「【空】であんなことがあったのに【天】がなにもないなんて思えない…」

矜羯羅こんがらが言う

「たしかに…おかしいですね」

乾闥婆けんだっぱがボソッと言った

迦楼羅かるら…」

そして迦楼羅かるらに声をかける

「…鈍い君でも気づいているんじゃない…?」

矜羯羅こんがらが立ち上がった

「【上】のこと…」

矜羯羅かるらが言うと乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらを見た


「…ワシは何も知らん…」

吐き捨てるように言うと迦楼羅かるらが踵を返し部屋を出て行った

「…わかりやすいんですから…」

迦楼羅かるらが出て行った後を見て乾闥婆けんだっぱが溜息をついた

「心配しなくても…大丈夫ですよ…」

乾闥婆けんだっぱが背を向けたまま矜羯羅こんがらに言う

「貴方に心配されては調子が狂います。気持ち悪くて」

そう言い残して乾闥婆けんだっぱも部屋を出て行った

「…だってさ…」

矜羯羅こんがらが抱いていたガキンチョ竜に話しかけた

「ぷぶー…」

不安げな顔で矜羯羅こんがらを見上げてきたガキンチョ竜の尻を軽く叩きながら矜羯羅こんがらが窓から空を見上げた


「わー!! 緊ちゃん可愛いー!!!」

悠助の声が茶の間に響いた

「ほっほー可愛いやんけ緊那羅きんなら~! ハッハッハ似合う似合う」

阿修羅あしゅらが膝を叩いて笑いながら言う

「…複雑だっちゃ…;」

髪にまだタンポポを付けたままだた緊那羅きんならが苦笑いを浮かべる

「そうだ悠、お前も来るか? タンポポ花見」

制服の上着を脱いだ京助がティッシュを数枚取って鼻にあてながら聞いた

「タンポポ花見?」

悠助が聞き返す

「来週ありすが来たら毎年タンポポ沢山咲いてる空き地で花見やるべって事になってさぁ…で…」

「行くー!!」

まだ言いかけの京助に悠助が元気よく手を上げて返事をする

「悠助が行くなら俺もいきたい、っていうか行く」

慧喜えきも手を上げた

「ハイハ~ィ!! オライもオライも!!!」

阿修羅あしゅらも手を上げた

「…つまみ足りるっちゃ?」

緊那羅きんならが京助に聞く

矜羯羅こんがら様と制多迦せいたか様も一緒に行くナリッ!!!」

慧光えこうが横から両手を挙げて言ってきた

「うるさいよ慧光えこう

慧喜えき慧光えこうを睨む

慧喜えき矜羯羅こんがら様を制多迦せいたか様を誘わないんナリか?」

慧光えこうが言うと慧喜えきがむっとした顔をする

「後から声をかけようと思ったんだよ!! もぅ!!」

慧喜えきが言う

「喧嘩駄目だよ慧喜えき~…」

悠助が慧喜に言った

「こんなの(えき)喧嘩じゃないよ悠助」

悠助を抱きしめながら慧喜えき慧光えこうを睨む

「まぁまぁ; 姉弟喧嘩は犬も食わないってな~;」

阿修羅あしゅらが二人の間に入って言う


「…どうしたん竜のボン」

いつの間にか固まっていた京助を見て阿修羅あしゅらが声をかけた

「…姉弟…って…;」

慧喜えき慧光えこうのことだっちゃよ?」

緊那羅きんならが答えた

慧喜えきがお姉さん? それとも妹?」

悠助が聞く

「俺が上で慧光えこうが下」

慧喜えきが答える

「あんれ? 竜のボン知らなかったんけ?」

阿修羅あしゅらが聞くと京助が頷く

「実はそうなんです」

阿修羅あしゅらが笑いながら慧喜えき慧光えこうの肩を掴んだ


「いよいよ明日でございますね南さん」

生徒玄関で靴を履き替えながら京助が言った

「これから買い物行くか?」

靴を履き終えた中島がずり落ちた鞄を肩にかけなおしながら言う

「一旦家もどるか? 俺サイフ持ってきてねぇし…どうせ今時間なら緊那羅きんならも買い物行くと思うし」

京助が言った

「何の話?」

「おぅっ!!;」

いきなり聞こえた落ち着いた声に坂田が声のトーンを上げて吃驚した

「本間ちゃん…; 相変わらずいつきたの;」

南が苦笑いを浮かべた

「何の話してるのかって聞いてるの」

表情を変えずに本間が聞く

「南君の恋人が明日来るんでその準備の話」

中島が答える

「恋人?」

本間の後ろから阿部が聞く

「前にホラ…手紙…ってお前等いたよな?」

京助が指で四角い封筒の形を描きながら説明する

「ああ!! 何? その子がくるの?」

思い出したのか阿部が声を大きくして言う

「そ。で明日花見するんだ」

南が嬉しそうに言うと阿部と本間が顔を見合わせた

「でもまだ桜咲いてないよ? それとも京助ンとこの桜の木咲いたの?」

阿部が京助に聞く

「別に桜じゃなくても花は花だしってことでタンポポで花見すんだ」

京助が言った

「へぇ~!! 面白そう!!」

阿部が声を上げる

「…いきたい…んだよねやっぱり」

「なっ!!!;」

その阿部の耳元で本間がボソっと言うと阿部が赤くなって眉を吊り上げた

「わかりやすいわかりやすい」

うんうんと本間が頷く

「私たちも行っていい? もちろんお菓子とか協力するから」

「ちょ…香奈!?;」

本間がさらっと京助達に向かって聞くと阿部が何故か慌てる

「どうする主催者」

坂田が南を見た

「う~ん…女の子ありす一人てのもって思ってたから…いいよ歓迎!!」

南が親指を立てた

「女の子一人…ってラムちゃんはこないの?」

「いや…来ると思うけど…なぁ?」

阿部が聞くと中島が京助を見た

「なぁって何でそこで俺に視線が向けられるんですか;」

京助が言う

「こないと思う?」

坂田が阿部に聞く

「……べ…別に…じゃぁアタシも行く」

阿部が言うと本間がふっと笑った

「じゃぁ一旦家に帰って資金もって集合!!」

「どこに」

南が高らかに人差し指を天に向けて立てて言うと本間が突っ込んだ


「タダイマントヒヒ」

ガラガラと玄関の戸を閉めて京助が靴を脱いだ

「おかえりだっちゃ」

「うぉ;」

閉めた戸が再びガラガラと開いて買い物袋を提げた緊那羅きんならが入ってきた

「…買い物か?」

「うんただいまだっちゃ」

買い物袋を見て京助が聞くと緊那羅きんならが答えた

「おきゃーり…一足遅かったか…;まぁ…いっか」

「何がだっちゃ?」

家にあがりながらボソッと行った京助の言葉に緊那羅きんならが突っ込む

「いや…明日の買い物これから行くからさお前晩飯の買い物どうせ行くなら一緒にって思ってただけ」

足を進めながら京助が言う

「…そうなんだっちゃ…」

そういった後少し止まると緊那羅きんならの口元が微笑んだ

「京助」

「あ?」

「ありがとだっちゃ」

京助の横を緊那羅きんならが小走りですり抜けながら笑顔を京助に向けた

「…何にありがとなんだ?;」

身に覚えのないお礼を言われて京助が口の端を上げた

「なんとなく嬉しかったからだっちゃ」

台所の方に後ろ向きで向かいながら緊那羅きんならが言った

「…ヘンなヤツ」

緊那羅きんならが廊下を曲がっていなくなると京助が口の端をあげて言った


「何の集団だって話だな」

昔映画の舞台に使われたとかいう小さな駅に集合した面々を見て坂田が言う

「阿部さん久しぶりだっちゃ」

緊那羅きんならが笑って言うと阿部が笑い返す

「…少しは大人になったみたいだね」

そんな阿部に本間がボソッと突っ込むと阿部がむすっと膨れた

「案の定なカンジだねぇ~ハッハ」

南が言う

「まぁ想定内だったけどさ」

「寒いわ!!」

京助が言うと後ろから飛んできた声

「そりゃ…寒いだろうて;」

阿修羅あしゅらがヨシコの肩を叩いた

「しょうがないじゃない!!? あっくんも迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱも私を置いていこうとするんだもの!!」

ヨシコが阿修羅あしゅらに食って掛かった

「…やっぱりか…;」

中島が溜息をつくと手に持っていた紙袋を見下ろした

「なんだソレ中島」

南が紙袋を覗き込んで聞く

「…ミカ姉の服」

中島がボソッと答えた後京助に紙袋を突き出した

「アイツに貸してやって」

「は?」

中島が無理矢理京助に紙袋を押し付ける

「自分で渡しゃいいじゃん;」

坂田が突っ込む

「なに照れてるんでちゅか~?」

南がツンツン中島の頬を突付く

「別に照れてねぇけど俺が話しかけるとアイツ嫌がんだろが」

中島が言う

「…ん」

「へ?;」

京助が隣にいた緊那羅きんならに紙袋を渡した

「まかした」

「私が渡すんだっちゃ?;」

京助が言うと緊那羅きんならが自分を指差して聞くと京助が頷いた


吉祥きっしょう

緊那羅きんならがヨシコに声をかけた

「コレ…えと…中島から」

「ゆーちゃん? …どうして自分でこないのよ、そこにいるのに」

ヨシコが紙袋を受け取りながら中島の方を見て言う

「なんか自分が話しかけると吉祥きっしょうが嫌がるからって言ってたっちゃ」

「な…っ…」

緊那羅きんならが言うとヨシコが目を見開いた

「私がいつ嫌がったのよ!!」

「声が大きいですよ吉祥きっしょう

ヨシコが声を上げると乾闥婆けんだっぱがソレを批難した

「だって…」

「態度がモノをいっているのではないですか?」

ぐっとこらえたヨシコに乾闥婆けんだっぱが言う

「態度…ってなによ…」

「まぁアレだヨシコ…素直になれっちゅーことやんきに」

阿修羅あしゅらがヨシコの頭に手を置いて言う

「何よそれ!! まるで私が素直じゃないみたいじゃない!? そうよそう聞こえるわ!!」

「誰が素直なのさ…」

ヨシコが怒鳴ると矜羯羅こんがらがうるさそうに突っ込む


「素直って何?」

悠助が慧喜えきを見上げて聞いた

「素直というのはそうですね…貴方みたいなことを言うのですよ悠助」

乾闥婆けんだっぱが先に答えると慧喜えきがぷぅと膨れた

慧喜えき…大人気ないナリよ」

「なんだよ慧光えこう!! うるさいなっ!!」

慧光えこうが言うと慧喜えき慧光えこうに食って掛かる

「…ぁまぁ;」

「…ふんっ」

制多迦せいたかが間にはいってなだめると慧喜えきがそっぽを向いた


「…アンタも素直になりなさいね」

「うるさいわよっ!!;」

本間が阿部の肩を叩きながら言うと阿部が怒鳴る

「そろそろきますぜ~!!」

殺風景な駅の中に掛けられた時計を見て南が言った

1両編成の電車がキキィ~というブレーキ音と共に止まりガコンと揺れた

「…乗ってるか?」

小さなホームを南が小走りで後ろ車両へと向かっていくのを一同が黙って見ているとま真ん中より少し後ろの方の窓を見た南が止まって途端満面の笑みを浮かべるとダッシュで後ろの乗降口へと向かう

「…わかりやすぅ~…」

それを見ていた坂田が口の端を上げると駆け出した

「遅れを取ってなるものか!!」

京助がそう言いながら駆け出すと中島も京助に続いて駆け出した

「ちょ…待ってよ!!;」

阿部が躓きながら駆け出すと本間もゆっくりと阿部の後を追いかけて歩いていく

「…ワシらも行くべきなのか?」

迦楼羅かるらがボソッとこぼすと各々の顔を見てまぁ…とりあえず行ってみますかという結論に達したのかゾロゾロとホームに足を進めた

「ありす!!」


プシー!!


っという音がして自動ドアが開くと同時に南に向かって伸ばされた小さな両手の下に南が両手を差し入

れ白いワンピースを着たありすを抱き上げた

「お~!! 南君のチョイ人再び!」

京助が拍手をしながら言った

「こんちわおばさん」

ありすに遅れて姿を現したありすの母親らしき女性に南が挨拶をする

「凄いお出迎えね~…よかったねありす」

総勢10人の顔ぶれを見渡してありすの母親らしき女性がありすの頭を撫でながら笑った

「今回は何の話の格好してるの?」

ありすの母親らしき女性の言葉に3馬鹿と京助が (一部私服を着てる)摩訶不思議服集団を見た

「…え~…ナンデショ?;」

坂田が頭を掻きながらチラっと南を見た

「…あ~…京助君と愉快な仲間たち…カッコ仮で」

南が言う

「だれが愉快な仲間なんですか」

途端 (どことなく怖い)笑顔で乾闥婆けんだっぱが突っ込んだ

「…じゃぁありすお兄ちゃんの言うことちゃんと聞くのよ? 朔夜君じゃぁ6時までお願いね」

ありすの母親らしき女性がそう言い残して駅の中にはいっていった

「可愛~この子がありすちゃん?」

阿部が南に抱き上げられているありすを見て言うとありすがにっこり笑った

「いくつ?」

本間が聞くとありすが右手を広げた

「五歳?」

本間が再度聞くとありすが頷く

「…の子…声が…?」

「そう」

制多迦せいたかがありすを見て言うと南が返事をした

「可愛いだろ?」

ありすを下に降ろした南が笑顔で言う

「…そうだね」

矜羯羅こんがらがありすの頭を撫でるとありすが笑顔で矜羯羅こんがらを見上げた

「ねぇねぇありすちゃんは南…このおにいちゃん好き?」

「キャー!!!; 阿部ちゃんなんつー質問をいきなりしてくださる!;」

阿部がしゃがんでありすに聞くと南が慌て、ありすがポッと頬を赤らめた

「…きゃわゆいなぁ…」

阿修羅あしゅらがほへっとした顔で言う

「好き?」

阿部がもう一回聞くと南の服をぎゅっと握ってありすが頷いた

「オメデトウ」

京助が南の肩を叩いた

「…あ…りがとござます…」

南がどもりながら言う

「…もしかして照れてる?」

本間がボソッと言うと南の肩がびくっと動いた

「や…ハハハハハ!!;」

「笑ってごまかしたっちゃ…」

いきなり笑い出した南を見て緊那羅きんならが小さく呟いた

「ああいうのを素直っていうんだよ」

一歩下がったところで見ていた鳥倶婆迦うぐばかが隣のヨシコをちらっと見て言った

「…ああいうのって…どういうのよ」

吉祥がむすっとして聞き返す

「自分の気持ちに正直」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「私はいつでも正直よ? そうよ嘘の気持ちじゃないわ」

ヨシコが強く言った

「…そう?」

「…そう…よ」

鳥倶婆迦うぐばかがヨシコを見て聞くとヨシコが顔をそらして自信なさげな返答をすると中島と目が合った

「…っ」

そして思いっきりそっぽを向く

「…な…」

それを見た中島が眉を吊り上げた

「そうはおいちゃん思わない…」

鳥倶婆迦うぐばかがボソッと言った


「ありすはタンポポ好きか?」

南が小さな手を掌に包み込むように握って歩きながらありすに聞くとありすが嬉しそうに笑って頷いた

「そっかーこれからいくトコにはタンポポがいっぱい咲いててさー」

ありすと同じくらい嬉しそうな笑顔で南が話す

「おーおー…ほほえましいカッポー」

ソレを見て坂田が茶化すように言った

「アレだけ素直だと本当嫌味ナシで可愛いよな」

中島がどことなく強めの口調で言う

「…何頷いてるんですか? 迦楼羅かるら

中島の言葉の後にしみじみと頷いた迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱが聞いた

「や…んんっ!;」

いつもながらの (どことなく怖い)笑顔で聞いてきた乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらが咳払いで返す

「どうしたんだっちゃ? 吉祥きっしょう

中島の持ってきた蜜柑の服に着替えたヨシコが不機嫌そうな顔をしているのを見て緊那羅きんならが声をかける

「なんだか今のゆーちゃんの言葉…私に向けられてるような気がしなかった? ねぇ? そう聞こえなかった?」

ヨシコが緊那羅きんならを問い詰める

「え…っと;」

緊那羅きんならが困った顔で少し後ずさりする

「…今の中島の言葉に同感した人半分以上いると思う」

本間が隣を歩く阿部をチラッと見て言うと阿部がキッと本間を見た

「…素直…」

慧光えこうが呟きながら自分のやや後ろを悠助と手を繋いで歩く慧喜えきを見た


「その点においちゃぁばかも素直だよな~ハッハ」

鳥倶婆迦うぐばかだッ!!」

阿修羅あしゅらが笑いながら鳥倶婆迦うぐばかの頭を撫でた

「…だってさ」

「何が」

矜羯羅こんがらがトンっと軽く京助にぶつかりながら言う

「…ってさ」

矜羯羅こんがらの真似してなのか制多迦せいたかも同じように京助にぶつかった

「だから何が;」

早足で少し前に出て二人を振りかえって京助が言う

「我慢ってし続けると素直じゃいられなくなるみたいなんだよね」

矜羯羅こんがらが言うと制多迦せいたかが頷いた

「…んがらもそうだもんね」

「うるさいよ」


ペシッ


制多迦せいたかが言うと矜羯羅こんがらが裏手で制多迦せいたかの額を叩いた

「俺は別に我慢とか…;」

「京助ー!!」

何か言おうとした京助を坂田が前の方で呼んだ

「…してねぇよ」

少し間を置いて京助がそうい言い残し坂田の元に駆けて行く

「…んがら最近よく喋るし表情コロコロ変わるようになったよね」

赤くなった額を撫でながら制多迦せいたかが言う

「…そう? …だから何?」

矜羯羅こんがらが返す

「…かったなーって思う」

制多迦せいたかがヘラリと笑った

「…君は少し顔を引き締めるようにしないとね」

矜羯羅こんがら制多迦せいたかの頬を引っ張った


「ワリィね本間」

「別に? いいよこのくらい」

駅に迎えにいくのに大荷物を持ったままだと何かと邪魔になるということで通り道に立っている本間の家に預けた荷物を受け取りながら坂田が言う

「どうしたありす?」

お菓子の入った袋を持った南をありすが見上げてそして手を出した

「え? 何?」

南がありすを見て聞く

「手伝いたいんじゃない?」

阿部が言うとありすが頷いた

「大好きな南君のお手伝いしたいんだ~?」

京助が言うとありすがポッと顔を赤らめた

「…きゃわゆいなぁ…」

ソレを見て場に和みの空気が流れる

「もー…可愛いナァありすー…」

南がニヘーっと笑った

「…なんですか」

視線を感じた乾闥婆けんだっぱが言うと迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱの荷物に手を伸ばした

「コレくらい持てますよ」

「いいから貸さんか」

「いいです」

「貸せと言っているだろう! ワシだって何か持ちたいのだ!!」

「じゃぁコッチ持って」

「なっ;」

乾闥婆けんだっぱと荷物の取り合いをしていた迦楼羅かるらに中島が紙袋を差し出した

「ワシは…!!;」

「よかったじゃないですか持ち物できて…それともコッチが持ちたかったんですか? 交換しますか?」

中島に何か言い返そうとした迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱが言う

「…ッ~;」

迦楼羅かるらがぐっとこらえて紙袋を握り締めた

「かるらんから回りやねぇ~…」

「やかましいッ!! たわけッ!!!!;」

「おぉおう!!!!;」

阿修羅あしゅらがからかう様に言うと怒鳴った迦楼羅かるらの口から炎が出た

「久々だな」

京助が口の端を上げて言う

「怖がらせてどうするんですか」

「いだだだだだだだ!!!!;」

乾闥婆けんだっぱが (怖い)笑顔で迦楼羅かるらの前髪を引っ張った


「な…に今の…火…?;」

阿部が眼を丸くして言う

「…あ…あ~…;そっか…阿部…知らないんだ」

坂田がポンっと手を叩いた

「祭りの日…いなかったんだっけ;」

中島が言う

「…京助?」

祭りの日という言葉を聞き動きが止まった京助に緊那羅きんならが声をかけた

「…京助…」

二回目の呼びかけで京助が緊那羅きんならに向かって苦笑いを向ける

「なんでもね」

そう言うと京助が3馬鹿の元に向かった


「おぉ~…まっきっきやんけ~…綺麗だねぇ」

空き地について阿修羅あしゅらがまず第一声を出した

「すごーい…何このタンポポの量」

阿部も空き地を見て言った

「そかー阿部ちゃんコッチ通らないんだもんねー」

南が言う

「で…どこに座るんだ?」

レジャーシートを持った中島が聞く

「…それ敷いちゃうの?」

ヨシコが中島に聞くと中島がどことなくむすっとした顔を向けた

「…俺に聞くなよ俺の方が聞いてるんだから」

「駄目よ! 敷いちゃ駄目だと思うわ!! だって可愛そうじゃない? ソレに隠れて見えないばっかりかその上踏んじゃうなんて可愛そうよ」

「だから俺に言うなってんじゃん;」

ヨシコが中島に向かって言っているのを聞いたありすが南の服を引っ張って首を振った

「え? …でも服汚れるぞ?」

ありすが何を言いたいのかなんとなくわかったのか南が言うとありすが頷いた

「…君の膝の上に座らせれば?」

矜羯羅こんがらがふいに言った

「人間イスですか」

京助が言う

「阿部さん達は…」

「アタシ達は大丈夫よそんなお洒落とかしてないし」

緊那羅きんならが阿部と本間を見ると阿部が笑顔で返した

慧喜えきは? 僕の膝に座る?」

悠助が慧喜えきに言うと慧喜えきがきょとんとした後めちゃくちゃ嬉しそうな顔をして悠助を抱きしめた

「俺も大丈夫だよありがと悠助」

そして悠助の頬に口付けた

「そういうことは大勢の前ではやらない方がいいナリよ…」

「うるさいなぁ…もー」

慧光えこうが突っ込むと慧喜えき慧光えこうを睨んだ

「喧嘩こそ大勢の前でしないでくださいね」

そんな二人に乾闥婆けんだっぱが言った


ぐきゅるるるるる…


「…懐かしいナァこの音…;」

京助の言葉と共に一同の視線が迦楼羅かるらに向けられた

「…やかましい!!;」

「やかましいいのはあなたの腹ですよ」

スコンっという音と共に乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらにチョップした

「痛いではないかたわけッ!!;」

「だから一口だけでも食べてはどうですかと言ったんですそれなのに竜田揚げ竜田揚げ…子供ですか」

「いだだだだだだッ!!!;」

怒鳴った迦楼羅かるらの前髪を思い切り引っ張りながら乾闥婆けんだっぱが言う

「…慧喜えき慧光えこうに言った本人が先に喧嘩してるね」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「ばか…こりゃもう喧嘩じゃなくてたぶん…」

鳥倶婆迦うぐばかの頭に手を置いて阿修羅あしゅらがその様を遠い眼で見て言う

「言うこと聞かない子供とスパルタな保護者」

阿修羅あしゅらが言うと3馬鹿と京助そして緊那羅きんならが頷いた


「…ありすちゃんいいものあげようか」

ギャーギャー騒ぎからはなれていた本間が両手を後ろにありすの前にしゃがんだ

「本間ちゃん?」

南が本間を見下ろすと本間が目を細めて笑った

「はいどうぞお姫様」

そしてありすの頭にタンポポで作られた花冠をのせる

「うっわー!! サンキュ本間ちゃん!! よかったなありすー!!」

ソレを見た南がまるで自分のことのように嬉しそうにお礼を言った

「よく作り方覚えてたね香奈」

阿部が言う

「アンタ忘れたの?」

本間が返すと阿部がハハッと笑った

「可愛いっちゃよありす」

緊那羅きんならが言うとありすが嬉しそうに笑った

「俺も実は作れちゃったり?」

京助がシャキーンポーズで言う

「僕も作りたいー!!」

悠助が手を上げた


ぐぅうううううううう…


「…腹音で返事とは器用なヤツよ…;」

「やかましいッ!!;」

坂田が言うと迦楼羅かるらが怒鳴った


「まぁ! 奥様素敵なネックレスですこと!」

坂田がタンポポで作られた首輪をつけている中島に言う

「あらぁ安物でしてよ? 奥様の髪飾りには及びませんわー」

中島が京助を見た

「こんなものなんテェことなくってよー?」

京助が言うと3人してマダム笑いを始めた

「馬鹿ばっか」

本間が茎わかめを食べながらその様子を見る

「…ちゃんと残しておいてね」

その本間の後ろで早々と弁当を食していた迦楼羅かるら矜羯羅こんがらに向けて本間が言うと矜羯羅こんがら迦楼羅かるらが手を止めた

「…だってさ」

「ワシか?;」

ちくわのキュウリ詰めをひょいと口に入れた矜羯羅こんがら迦楼羅かるらに言うと


スコン


「二人共です」

軽快な音ともに乾闥婆けんだっぱのチョップが二人の頭にヒットした

「いいかー? ここをこう…ちょっときつめに巻いて…そうそう」

「こう?」

南を中心にありすと悠助そして慧喜えき慧光えこう鳥倶婆迦うぐばか緊那羅きんならがなにやら作っている

「たりなくなった」

鳥倶婆迦うぐばかがタンポポを編んだ物を南に見せた

「あー; ちょっと短めの選んじゃったんだねぇ; そぉ言う場合は~」

鳥倶婆迦うぐばかのソレを受け取ると南が長めに取ったタンポポを器用に巻きつけていく

「器用ナリね」

感心して慧光えこうが言うと南が笑った

「サンキュ」

そして照れくさそうに言いながら鳥倶婆迦うぐばかにソレを返した

「南って凄いんだよー服とか作るんだよー」

悠助が言う

「俺の服もコイツから作ってもらった」

慧喜えきが今着ている服の首元を少し引っ張って言うとありすが南を見上げた

「ありす?」

黙って自分の顔を見てくるありすに南がきょとんとしたまま声をかける


「…ごいね」

「っいぅおいやぁぎょ!!!?;」

突然耳元でした制多迦せいたかの声に南が宇宙語を叫んで後ろに引いた

制多迦せいたか…;」

「ハァイ! 進んでるかい? 諸君」

制多迦せいたかの後ろから阿修羅あしゅらがチャキッと片手を上げて言う

「これ制多迦せいたか様にあげるナリ」

慧光えこうが立ち上がって出来上がったばかりのタンポポの花輪を制多迦せいたかの頭に置いた

「…りがと」

制多迦せいたかがヘラリと笑ってずり落ちそうになった花輪を戻しながら言う

「お~いいねぇ…」

「じゃぁあっくんにいちゃんには僕があげるー」

悠助が笑顔で阿修羅あしゅらに言うと慧喜えきがむっとした顔で阿修羅あしゅらを見た

慧喜えき…;」

ソレを見た慧光えこうが溜息をつく

「おいちゃんは矜羯羅こんがら様にあげる」

鳥倶婆迦うぐばかが立ち上がって矜羯羅こんがらを探し始める

「向こうで何か食べてると思うっちゃ」

緊那羅きんならが右方向を指差して言った


「…何してるの?」

下から声をかけられた吉祥が目をやるとそこには阿部

「なんでもないわ」

ヨシコが首を振った

「よく登ったわねそんなトコに…怖くないの?」

阿部が見上げたのは結構いい感じに高い木の枝に座るヨシコ

「別に怖くないわ」

ヨシコが笑った

「ねぇちょっといい?」

阿部が言うとヨシコが自分を指差し【私?】という顔をした

「そう」

阿部が頷くとヨシコがするんと枝から腰を滑らせて地面に着地した

「何?」

すっと立ち上がったヨシコのある一部を見てから阿部がヨシコを見る

「あ…のね…」

「…あなた京助好きでしょ」

何か言おうとした阿部にヨシコが突然言うと阿部が固まった


「…ずるいんだやな」

「ふぇええええええええええええええ!!!!!」

「まったくなんだやな…」

「ふぇえええええええええええええええええええ!!!!!」

両手に一人ずつのガキンチョ竜を抱えたゼンゴが溜息をつく

「早く帰ってきて欲しいんだやなー;」

「ふぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

栄野家に見事なまでの泣き声のハーモニーが響き渡った


矜羯羅こんがらの薄紫色の頭に乗っかった黄色い花輪

「よく作るよね…」

口ではそういいながらも矜羯羅こんがらの顔は和やかにほころんでいた

「気に入った?」

鳥倶婆迦うぐばか矜羯羅こんがらに聞く

「そうだね」

矜羯羅こんがらが言うとお面の顔からどことなく嬉しいオーラが出てきたような気がした

「綺麗にできてますよ鳥倶婆迦うぐばか

乾闥婆けんだっぱ鳥倶婆迦うぐばかを褒めると鳥倶婆迦うぐばかのお面顔から更に嬉しいオーラが増量した気がした

「本当? おいちゃん天才?」

鳥倶婆迦うぐばかが身を乗り出して乾闥婆けんだっぱに聞く

「そうですね花輪作りの天才かもしれませんね」

乾闥婆けんだっぱがにっこり笑って言うと鳥倶婆迦うぐばかの後ろにパァッとはなが咲いた (様に見えた)

「じゃぁおいちゃん今度は乾闥婆けんだっぱにも作ってあげるよ」

そう言うと鳥倶婆迦うぐばかがイソイソと長めにタンポポを三本とって花輪を編み始めた


「…不機嫌そうな顔するなら君も作ったら?」

「だ…ッ;」

チラっと横目で迦楼羅かるらを見ながら矜羯羅こんがらが言う

「べ…別にワシは…;」

迦楼羅かるらが慌てる

「黄色って濃い色にも映えるけど薄い色にも映えるんじゃない?」

矜羯羅こんがらが言うと迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱを見た

「…変わってきてるね…もしかしたら…」

「…そうだと…いいのだがな…しかしそうだとしたら…ワシはどうすればいい?」

鳥倶婆迦うぐばかの隣に腰を下ろして鳥倶婆迦うぐばかの花輪作りを見ている乾闥婆けんだっぱを二人して見る

「ヤツはもういない…しかしここにいる…そうなったら…」

「素直になれば?」

途切れ途切れに言う迦楼羅かるらに対し矜羯羅こんがらがさらっと言った

「いつも君が乾闥婆けんだっぱに言うように君も素直になればいいんじゃない?」

矜羯羅こんがらがそういった後パリンと薄焼きサラダせんを齧った

「…沙紗…」

迦楼羅かるらが小さく呟いた


「わかりやすいんだよね」

「そうよね」

本間とヨシコが頷く

「…悪かったわね;」

阿部がブスッとした顔で言った

「そう言うアンタだって中島…」

「ちょっと待って? どうしてそこでゆーちゃんがでてくるの? そうよどうして?」

阿部が言うとヨシコが間髪いれずに反論する

「だ…だって…」

ズバッと反論されて阿部が言葉に詰まった

「私はただゆーちゃんがムカつくだけよ。そうよソレだけなの」

「でも気になるんでしょ」

胸を張って言ったヨシコに本間がさらっと突っ込む

「それはムカつくから気になるだけよ」

ヨシコが返す

「…ふぅん」

本間が意味ありげな表情でヨシコを見た

「…別にいいけどね…ああ見えて中島人気あるから」

本間が馬鹿騒ぎしている京助達に目を向けた

「私は…りゅー様一筋だもの…そうよ」

本間と同じく京助達を見た後ヨシコが言った

「アンタ達二人して馬鹿だねぇ」

ふぅっと本間が溜息をついた


プーププッピプー

ブーブベベッブー

ピップーブベッベー

「苦っげぇ;」

タンポポの茎から口を離した京助が舌を出した

「いやいや…屁かと思ったら笛かい」

阿修羅あしゅらが言う

ピプー

「…言葉話そうや;」

タンポポ笛で答えた坂田に阿修羅あしゅらが言う

「京助ー」

悠助が京助にのしかかった

「おなか減った~」

「義兄様ずるいっ!!!」

ベリっと慧喜えきが悠助を京助から引き剥がした

「俺は何もしてねぇじゃん; …まぁ確かに少々空腹だな」

「もう昼近いんじゃね?」

中島が言うと正午を告げるサイレンが正月町に鳴り響いた


「三番!! 坂田深弦うったいま---------------すッ!!」

広げられた弁当を一通り食べ終えた一同がドンチャン騒ぎをおっぴろげはじめて早小一時間

京助の微妙なる歌から始まったドンチャン騒ぎが三番手だと申し出た坂田に回った

「坂田何歌うの~?」

二番手ですでに【つっぴんトビウオ】という学校の音楽教科書にのっている歌を歌った悠助が坂田に聞いた

「ここは一つブリトラで!!」

側にあったウーロン茶の500mlボトルを持った坂田が意気揚々と立ち上がった

「おー!! ブリトラ!!!」

ブリトラに反応した南と京助そして中島がやんややんやと拍手をする

「…ブリトラ?」

それに対してブリトラの用語意味がわからない面々が顔を見合わせる

「…なんなのだそれは」

「口に物を入れたまま話さないでください」

迦楼羅かるらが食べる手を休めずに聞くと乾闥婆けんだっぱが軽くチョップした

「ブリトラ、正式名称ブリーフアーンドトランクス!! 石焼イモは名曲!! しかし今回歌うのは…ペチャパ…」


ガンッ!!!!


坂田がオーバーリアクションでブリトラの解説をしてる途中で坂田の頭に向かい飛ばされた2リットルペットボトル

「キャー!!; 坂田ー!!!!;」

南が声を上げる

「あ…阿部さん…?;」

隣に座っていた阿部の方を見て緊那羅きんならが声をかけると阿部がすっくと立ち上がって倒れている坂田の胸倉を掴みにっこりと笑うと

「何? 何を歌うって? ん?」

その (怖い)笑顔のまま坂田に聞いた

「…ナンデモアリマセン;」

メガネが外れた状態の顔を阿部からそらして坂田が答えた

「歌なら緊那羅きんならの聴きたい」

鳥倶婆迦うぐばかが言うと視線が緊那羅きんならに集まった

「…へっ?;」

丁度エビフライをくわえた所だった緊那羅きんならが視線を向けられてそのまま顔を上げる

「歌といえば緊那羅きんならナリ」

慧光えこうが言う

「僕も聞きたいー!!」

悠助が慧喜えきの隣でハイハイと手を上げる

「おーおー…歌ってやりゃいいじゃん?」

膝を立て紙コップをフラフラ振りながら阿修羅あしゅらが笑った

「で…でも…;」

口からエビフライを話した緊那羅きんならが慌てて見渡す

「嫌なら嫌でもいいんだぞ?」

京助が言う

「ただ聞きたいだけでお前が嫌なら嫌でいいしさ」

「…京助…」

バリバリとエビフライの尻尾を喰いながら言う京助を緊那羅きんならが見ると阿部がその二人を見る

「アンタが歌えば?」

「なっ!!;」

本間が言うと阿部が眉を吊り上げて本間を振り返る

「ありすは誰の歌聴きたい?」

南がありすに聞いた


「…なんだよ」

視線を感じた中島が横目を向けた

「落ちたわ」

ヨシコが一本のタンポポを差し出した

「…やるよ」

どうやら中島の頭の上の花冠から落ちたらしいタンポポを見て中島が言う

「もらって私どうすればいいの?」

ヨシコが聞く

「知るかよ; 指輪にでも腕輪にでもすりゃいいじゃん」

中島が答えた

「指輪…?」

ヨシコがタンポポを見て首をかしげる

「…かせよ」

溜息をついた中島がヨシコからタンポポを受け取った

「手」

「え?」

「手ぇだせ」

中島が言うとヨシコがゆっくり手を差し出しその指に中島が茎を裂いたタンポポを巻きつけた

「ホラよ」

きゅっと茎を縛って中島が手を離すとヨシコが手をじっと見た

「あ~あ~…駄目やんけーでっかいのー」

「うぉ;」

中島の上に阿修羅あしゅらが乗りかかってきた

「あっくん」

ヨシコが言うと阿修羅あしゅらがハオと手を上げる

「何が駄目なんだよ;」

うざったそうに中島が聞くと阿修羅あしゅらがにーっと笑いそして中島に何か耳打ちし始める

「…はぁッ!!!?;」

「アッハッハ!!!」

しばらくして顔を赤くして中島が声をあげ阿修羅あしゅらが笑うのを見たヨシコが首をかしげた


「ではありすのリクエストにお答えしまして我等が歌姫 緊那羅きんならが歌います!!」

「誰が姫だっちゃ誰がッ!!!;」

結局歌うことになった緊那羅きんならが坂田の紹介に突っ込んだ

春先の風に乗って気持ちいいくらいに響き渡る緊那羅きんならの歌声

「…俺等が歌うとギャグにしかならない歌なんにねぇ…」

緊那羅きんならが歌うのは悠助から教えてもらったという小学校の校歌

「なんという歌なのだ?」

迦楼羅かるらが京助に聞く

「校歌って言って…なんだ…学校の歌…でいいのか?」

「アタシに聞かないでよ;」

聞かれた京助が更に阿部に聞く

緊那羅きんならの歌おいちゃん好きだよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言うと丁度歌い終わった緊那羅きんならがほぅっと息を吐いた

「ブッラボー!!」

瞬間坂田が立ち上がって拍手を起こした

「相変わらずいい声してるね」

聞いてる最中手を止めていた矜羯羅こんがらが再び口に物を運びながら言った

「ありがとだっちゃ」

緊那羅きんならが少し照れながら笑った

「なぁ…」

お茶の入った紙コップを手に取った緊那羅きんならに京助が声をかけた

「あのさ…俺あの歌聞きてぇんんだけど」

「あの歌?」

一口お茶を飲んだ緊那羅きんならがきょとんとした顔で京助を見る

「前にホラ悠に歌ってた…子守唄っぽいの」

京助が言うと緊那羅きんならが少し考え込んだ後悠助を見た

「どうしたの?」

悠助が首をかしげた笑顔で緊那羅きんならを見返した

「子守唄って…ぼぉや~良い子だ金だしな~ってのか?」

中島が替え歌を歌う

「…お前相変わらず音痴な」

中島の歌を聞いた坂田が突っ込む

緊那羅きんならの歌の後だから余計に聞こえが悪いですね」

乾闥婆けんだっぱがさらっと毒を吐く

「あっはっは!! なんだかスゲェいわれてんなーでっかいの」

バシバシと中島の背中をたたきながら阿修羅あしゅらが笑った

「痛ってぇし!; ってかお前等も何かやれよっての!!!;」

中島が怒鳴る

「何かってもねぇ~…何」

阿修羅あしゅらが逆に中島に聞いた

「何って…何かねぇのかよ…;踊るとか…漫才とか」

聞かれた中島がボソボソと例を挙げる

「踊り?」

それを聞いていたヨシコが立ち上がった

「踊るんか? ヨシコ」

立ち上がったヨシコを阿修羅あしゅらが見上げる

「何かやらないといけないんでしょ? そうなんでしょ? なら私もやるわ」

にっこりとヨシコが笑った

緊那羅きんなら頼んでいい?」

くるっと1ターンをすると一瞬にしてあの摩訶不思議な格好になったヨシコが緊那羅きんならに言う

「わかったっちゃ」

頷いて笑った緊那羅きんならの手にはいつの間にか笛が握られていた

「…何見てるのか一目瞭然なんだよね…アンタ」

本間が阿部に言うと阿部がビクッと肩を上げた

「な…別にアタシは…何食べたら乳がとか…ッ;」

「自分からばらしちゃうところとか私は好きだけどね…」

慌てる阿部に本間がふっと笑った

「…驚かなくなりましたね」

乾闥婆けんだっぱが本間を阿部に言う

「そりゃね…何回目だか…でも見てるんだから疑えないし」

本間が言った

「人間だけが生きてるわけじゃないしね」

「…そうですか」

本間がニッと笑って言うと乾闥婆けんだっぱが笑った

「それにあんまり突っ込んで聞いても…無駄なんでしょ」

「そう…かもしれないですね」

「…アタシ付いてってないんだけど;」

淡々を受け答え会話を進めていく本間と乾闥婆けんだっぱに阿部が小さく突っ込んだ


緊那羅きんならの笛の音に流れるように乗ってヨシコの手足が咲く

「…コレ金とれるよな…」

坂田が言うと南と京助が頷いた

「ヨシコの舞いは一品なんきに…綺麗だろ?」

阿修羅あしゅらが笑って言う

ありすも南の隣でヨシコの動きに魅入っているようでただじっと見ていた

黄色い花の中で布を靡かせヨシコの体がしなやかに笛の音に流れるのを一同はただ黙ってみていた


「代わるか?」

「うんにゃいーよ」

京助が南に聞くと南が笑顔で断った

「疲れたんでしょうね…悠助もその子も」

乾闥婆けんだっぱがチラッと振り返った先には慧喜えきの背中で寝こけている悠助

「はっちゃけてたもんなぁ…よっぽど楽しかったんだろな」

坂田がハッハと笑った

「…何よ」

「…別に…」

チラッと横目でヨシコを見た中島にヨシコが聞く

「…踊り上手いんだなお前」

中島がボソッと言うとヨシコが足を止めた

「え…?」

少し驚いた顔をヨシコが上げると中島がスタスタと足早に前を歩いていく

「な…に…よ」

呟くように言いながらヨシコも数歩足を進めてまた止まる

「なんなのよ…っ」

そしてまた一人で呟くように言うと指に巻きつけられたしおれかけのタンポポに目をやる

「知ってる?」

「!!?;」

本間がいきなり声をかけたのに驚いたヨシコが思わず構えた

「…香奈;」

阿部が溜息をつく

「こっちではね左手の薬指にする指輪には理由があるんだよ?」

「薬指?」

ヨシコが本間の言葉に自分の左中指を見た

「エンゲージリング」

本間がヨシコの右中指にしてあったタンポポを突付きながら言う

「えん…?」

「結婚するときにこの指に指輪をすんの」

今度はヨシコの左薬指を本間が突付いた

「好きな相手からこの指に指輪をはめてもらうの」

「好きな…相手?」

ヨシコが自分の左薬指を見た

「そう幸せの指輪」

にっこり笑って頷くと本間が足早にヨシコを追い越して歩いて行く

「…幸せの…」

ヨシコがタンポポの付いた右中指と何も付いていない左薬指を見た

「アナタは京助からもらいたい?」

「はっ!!!?;」

いきなり振られた阿部が声を上げた

「好きなんでしょ? なら欲しい?」

「だ…っ;あ……ま…;」

率直に聞くヨシコに阿部が慌てる

「アタシは…;」

「アナタ可愛いわ」

慌てる阿部を見てヨシコが微笑んだ

「…どうしてゆーちゃんはこの指を選んだのかしら…」

タンポポの付いた右手越しにヨシコが中島の背中を見た


駅の前に立つ人影がありすの母親だと気づいた一同が少し進む速さを上げた

「遅くなってスンマセン;」

南が少し疲れた顔で笑顔を作って言う

「いいのよ」

ありすの母親が南に笑顔を向けそれから京助達をみて軽く頭を下げた

「もう来られないかもしれないんだから」

「え…?」

南の背中で眠るありすの頭を撫でながらありすの母親が言うと南が大きな目を更に大きく見開いた

「離婚が成立したの…だからもうこの町に来る理由がないの」

ありすの母親がありすを南の背中から抱き上げながら言う

「私は元々この町の人間じゃないしね…親権は私が貰ったから」

母親の腕の中でうっすらとありすが目を開けた

「じゃ…あ…もうありすは…」

南の声を聞いたありすが南を見てそして手を伸ばす

「駄目よありす…この電車に乗らないと今日は帰れなくなるんだから」

母親の言葉にありすがぶんぶんと首を振って母親の腕から抜け出し南の後ろに隠れた

「こら! ありす!!」

母親が手を伸ばしてありすの肩を掴む

「あのっ…!!」

その母親の手に南が手を添えて母親を見た

「あの…今日一日…って言いましたよね俺…まだ今日…ですよね?」

南がありすを見ると南の服をありすがキュッと握ったまま南を見上げていた

「だから…」

ありすの頭に手を置いた南が母親を見た

「…今日一日…ありすを…」

真っ直ぐ自分を見る南から目をそらせなかった母親が溜息をついた

「…しょうがないわね…明日始発で行くからね?」

そして負けたわというカンジの苦笑いでありすの頭を撫でた


「手ぇ出すなよ」

「出さんわ!!;」

「変なことされたら殴ってもいいからね?」

「あのねぇ…;」

坂田と阿部がしゃがんでありすに言うと南が溜息をついた

「男の家に女の子が一人でお泊り…ねぇ」

「何もしないから!!;」

本間が意味深な顔で頷きながら言うと南が思いっきり反論する

「よかったナリね部屋片付けたのが無駄にならなくて」

慧光えこうが南に言う

「まぁ…うんその節はサンキュねコロちゃん」

南が笑う

「…京助…」

「あん?」

緊那羅きんならが京助に声をかけた

「あの…離婚っていうことすると逢えなくなるんだっちゃ?」

緊那羅きんならが聞くと京助が頭を掻いて何かを考えた後溜息を吐いて顔を上げた

「離婚ってのは…結婚したのが別れるこというんだ…だからまぁ…大体は嫌いになったってことだから会わんだろうな」

京助が気まずそうに説明する

「でもありすは南を好きなのに逢えないんだっちゃ?」

緊那羅きんならが再び聞くと京助が黙り込んだ

「ありすは…逢いたくても母親がきたくないなら…どうしょうもねぇんだよ」

京助が躊躇いながら言う

「そんなの…ありすも南も可哀相じゃないっちゃか…逢いたいのに逢えないなんて…そんなの…」

「それなら貴方にどうにかできるんですか緊那羅きんなら

顔を顰めた緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱがピシャリと言う

「きっついねぇ~; もう少し柔らかくいっちゃぁどうなんきに;」

「そうですか? しかしでもこれが僕なんです」

横から入ってきた阿修羅あしゅら乾闥婆けんだっぱが笑顔で言う

「逢いたくても逢えない…か」

迦楼羅かるらがボソッと言った

「…るらとはまた違った意味での逢いたくて逢えないだね…」

制多迦せいたかが言うと迦楼羅かるらがふっと笑う

「ワシは…逢っているといえば逢っているからな…すぐ側にいる…」

「…うだね…でも逢えない…んだね」

「…まぁな…」

そう言うと迦楼羅かるら制多迦せいたかが顔を見合わせた後揃って乾闥婆けんだっぱを見た


「じゃ明日5時くらいか?」

「早ッ;」

中島が言うと京助が速攻突っ込んだ

「だって始発6時くらいだろ?」

坂田が言う

「5時半でもいじゃん; 俺絶対起きれねぇって;」

「嫁に起こしてもらえ嫁に」

京助が言うと中島が緊那羅きんならを指差して言う

「誰が嫁だ!!; つぅか絶対無理!!; 起きれません!!」

「大丈夫だっちゃしっかり起こすから」

挙手して半分威張りながら主張した京助に緊那羅きんならが言う

「できた嫁だこと」

ホッホと中島と坂田が笑う

「ねみぃじゃん!!; 学校で寝たらどうすんだよッ!!;」

「いつもは寝てないの?」

反論した京助に鳥倶婆迦うぐばかがさらっと突っ込んだ

「寝てるわ」

本間が言った

「じゃぁいいんじゃない?」

矜羯羅こんがらが言うと一同が頷く

「じゃ明日5時に駅前!!」

坂田が指を立てて言った


「ちゃんと寝れた?」

まだ薄暗くちょっと肌寒い正月町の朝

南の家の前に立つのは南と少し眠そうなありす

「寒くない?」

しゃがんでありすの顔を覗き込んだ南にありすが笑顔を向けた

「歩くと疲れるから一応こんなもん用意したんだけど…怖くない?」

そう言って南が視線を向けたところには愛車ニボシ…の後部車輪カバーの上に座布団を巻きつけた簡易座席がつけられていた

「それとも歩く?」

南が聞くとありすが首を振ってその後ニボシに駆け寄り簡易座席をポンポンと叩いた

「…よっし!! じゃぁしっかりつかまってろよっ」

ストッパーをかけたままの状態のニボシにありすを抱き上げて乗せた南が自分もニボシにまたがり器用に足でストッパーを外した

「出発進行-------!! きゅうりの糠漬け---------!!」

ガタンという衝撃と同時にありすが南にしがみつき目を瞑った

ゆっくりとでも歩くよりは速い速度で朝の少し冷たい風を切って走るニボシを漕ぎながら背中に確かに感じるありすのぬくもりに南が鼻水を啜った

少し狭い路地からまだ黄色点滅の信号機のある交差点を渡ってなだらかな上り坂を立ち漕ぎで南がニボシを進める

「っだ~~~~~~~~!!!;」

上り終えた南が声を発するとありすがクスリと笑ってまた南の背中に抱きついた

「結構キッツイんだよこの坂;」

少し後ろを振り向き南が言う

「でもここ登ったら…っ」

南がギッと音をさせて体を前に出してニボシを漕ぎ出した

「ホラ!! ありす! 港ッ!!」

国道沿いの木々の間から朝日に照らされて光る海面に数隻見えるのは春先行なわれているホタテの稚貝漁の船

その船にくわえて磯舟が沿岸近くに浮かんでいる

たまに横を通る車とトラックの風に目を瞑りながらありすが港の方を見る

赤い灯台と白い市場の建物と出向を待つ船とそしてカモメ

前輪をカーブに合わせて切ると少し急な下り坂をニボシが走り出しありすが南に抱きつく腕に力を込めた

「…うん…ゆっくり…いこっか」

ぎゅっと南がブレーキを握り下る速度を遅くした

岸壁に掛けられて並んだ梯子に登って今日の波の調子を見る漁師のオッサン

テトラポッドにとまったカモメが鳴いてどっかからやってきた猫が足早に道路を横断する

船のエンジンの音が小さく聞こえ波の音もそれに負けじと静かにテトラポッドに打ち付ける

出荷を待つトラックが並ぶ港の駐車場を横切ってカッパを着たホタテ漁を手伝いに来ているオバサン達のやたら早口な会話を聞きながら背中に感じるありすのぬくもりに南はまた鼻を啜る

市場の冷蔵倉庫の向こうに見える小さな駅を横目で見た南がチラッと後ろを見た

「…もう少しで…つく…よ」

南が言うとありすがぴくっと少し動いた

「お母さん…もう待ってるかな」

南がまた言うと南に抱きつくありすの手にまた力が入った

最後のカーブを曲がると【正月駅前】と書かれたバス亭が見えその少し後ろには【観光案内所】という看板を掲げた木造の商店が立っている


「…つい…ちゃった」

キュィイというブレーキ音をさせてニボシが止まり同時に南も動きを止めた

「おっせーぞー!!」

そう言いながら駆けてきたのは中島と坂田

「やー…; ゴメンゴメン;」

器用に片足で南がストッパーをかけ頭を掻きながら苦笑いを向ける

「ありすママンはまだ来てないしついでに京助もまだ」

坂田が言う

「そ…っか」

南がありすを簡易座席から降ろしながら顔を上げずに答える

「変なことされなかったか?」

「早速それかい;」

中島がありすに聞くと南が裏手で突っ込む

「一緒にフロに入っちゃったとか?」

「してないしてないから;」

更に坂田が突っ込むと南が手を振って否定する

「一緒に寝ちゃったり?」

中島がまた言うと今度は南がチラッとありすを見て小さく手を上げた

「キャ---------------------------!!!!!」

それを見た坂田と中島が両手を頬に当てて声を上げた

「オメデトウ!!」

そして南の両手をがしっと握ってブンブン振った

「なにがじゃ;」

バッと手を振り払って南がすかさず突っ込む

「ありす!!」

そうこうしている中聞こえたありすの母親の声に一同が視線を向けた

「迷惑かけなかった? いい子にしてた?」

近付きながらありすの母親がありすに聞くとありすが俯いたまま頷いた

「さぁじゃぁ…行きましょうか」

母親が差し出した手を南とありすが黙って見た

「ホラ、どうしたの?」

急かせるように母親が聞くとゆっくりありすがその手を握った

「南…」

ありすの歩幅にあわせて歩き出した母親の後ろを更にゆっくりと歩き出した南を坂田と中島が追いかけ駅の中に入っていった


まだ電車の来ていないホームで電車を待つ3馬鹿とありすとその母親

「むこうはもう桜が咲いていたんだけど…こっちはやっぱり咲いてないわね」

ありすの母親が言った

「なんたって北海道だし…今時期はタンポポが全盛期だな」

「昨日もタンポポで花見したしな」

坂田と中島が会話する横で黙ったままの南をありすがじっと見る

「…オイ」

そんな南を坂田が肘で突付いた

「え…あ…何?」

ハッとした南が慌てて坂田を見る

「何か話せよ;」

中島が小さく言う

「何か…っても…さ…何?」

南が眉を下げた笑顔で返すと二人も黙った

「…遅いわね」

母親が腕時計を見て呟く

「…いま何時?」

南がいきなり聞いてきた

「あ~…5時36分」

坂田が携帯を取り出して時刻を見て答えると南が顔を上げた

「ちょいいってきますッ!」

「はっ!!?; 汽車くんぞ!!?;」

ホームから飛び降りて駆け出した南の背中に中島が叫んだ

「すぐ戻るからッ!! 待っててありす!!!」

南が大きな声で言うとありすがぎゅっと母親の手を握ったまま黙って南を見て小さく頷いた


「だぁああああああ!!!!!;」

南がホームから去って十数分後深川行きの電車が発車時刻を迎えていた

「まだか南はもー!!!;」

搭乗口のすぐ側でありすがじっと南の駆けて行った方向を見ている

「ありすそろそろ席に座りなさい」

母親が窓を開けてありすに言うとほぼ同時に電車から発車の合図であるプアンという軽い音が鳴った

「アカンー; もーアカン;」

坂田が頭を抱えてしゃがむ

「ほら…お兄ちゃん達にバイバイって」

嫌がる無理矢理ありすを電車内に引っ張りながら母親が言った

プシュンと自動ドアが閉まると二度目のプアンという音と共に電車の車体がゆっくりと動き出した

「だぁああああ!!!!; 南のや…キタ--------------------!!!!」

ゴトンと音をさせて動いた車輪の音に対抗するかのように中島が指差した方向にはこっちに向かってかけてくる南

「はよはよ!!!!; 早くってば!!;」

坂田と南の様子に気づいたのかありすが母親の手を振り解いて1両編成の電車緒の一番後ろに向かって駆け出した

バンっとガラスに手をついたありすがバンバンと窓を叩くが発車し始めた電車は徐々に速度を上げていった

「だー!!; ストップストップトレイン!!!; はよはよ!! 南----ッ!!!;」

坂田がギャーギャー喚くが電車は止まることなくホームから遠ざかっていく

「どこいってたんだよ馬鹿---------!!!;」

息を切らした南が顔を上げて見たものは窓に手をついたまま泣きそうな顔をしているありすとブレーキ音を響かせて止まった一台のチャリンコ

「だから無理っていったじゃんか!!;」

「便所で二度寝するからだっちゃッ!! 馬鹿ッ!!」

「京助が馬鹿なのは生まれつきなんだやな」

「そうなんだやな」

「うっさい!!;」

ギャーギャー騒ぎながらチャリンコから降りたのは京助と緊那羅きんならそしてコマとイヌ

「何してたんだよ!!;」

ハーハーしている南に坂田と中島が駆け寄るのを見て京助達もつられるように駆け寄った

「こ…れ…渡したくて…」

そう言いながら南が見せたものはタンポポの花輪

「お前なぁ…モノより思い出っていうじゃん; ありす泣いてたぞ?」

中島が言うと息を呑んだ南がその息を大きく吐き出した

「…そ…っか…」

そして力なく言う

「今からじゃチャリでも…」

もはや豆粒に等しい大きさになった電車を見て坂田が言うと一同が黙り込んだ

「こんな時ナウシカのアレがあればなぁ…」

空を飛ぶカモメを見て中島が言う

「箒でもいいと思うぞ」

「むしろネコバスだろニャンコバス」

京助が言うと坂田も続く

「山犬でも充分……犬…」

再び言った京助がハタと視線を下に移した

「なんだやな?」

京助の視線の先にはきょとんとしたコマとイヌ

「…なぁお前等…」

京助がしゃがんでコマとイヌを見た


田園風景が続く窓の外をありすは黙ったまま見ている

「仕方ないでしょう? きっと何か大事な用事があったのよ…ね?」

母親がありすの頭を撫でその母親をありすが見上げそして再び窓の外を見た

「少し眠りなさい? 朝早かったから眠いでしょう?」

母親が言ってもありすは窓の外を見続け…そして何かを見つけて目を見開いた

「ありす?」

母親が声をかけると同時にありすが立ち上がり車両の後ろに走り出した

「ありす!!」

そのありすの後を母親が追いかけていく

一番後ろの座席の窓を必死で開けようとしているありすに手を貸しながら母親が見たものは大きな犬に乗った南と緊那羅きんなら

「ありす!!」

窓を開けると同時に南がありすの名前を呼んだ

「な…」

母親が信じられないという顔をして一歩後ろに下がった

「これ!!!」

ギリギリまで電車に付いた大犬に乗った南が思い切り手を伸ばしてタンポポの花輪を差し出すとありすがそれを受け取った

「今度は俺が会いに行くから!! だから…!!!!」

笑顔で言った南にありすが満面の笑みで頷き花輪を抱きしめた

「待ってろよ------------------ッ!!!!」

トンネルに入る寸前で大犬が電車から離れ南の声と共に電車がトンネルに吸い込まれていった


「お疲れさん」

「おかえりなんだやな」

京助とコマが声をかけると大犬が消えヘタリ座りのイヌが現れた

「つ…疲れたんだやな;」

ヘケヘケと舌を出して体温調節するイヌを南が抱き上げた

「私も…疲れた…っちゃー…;」

緊那羅きんならもその場に座り込んだ

「おきゃーりーってかコイツ等巨大化できたんなー…;」

坂田が言う

「前に鳥類の力ででっかくなったんよ…でソレ思い出して」

京助が言う

緊那羅きんならの力だけじゃ維持しにくかったからゴも力使ったんだやな…; だから疲れたんだやな~;」

イヌがヘロヘロになりながら言った

「ごめんだっちゃ…;」

ハァと息を吐いて立ち上がった緊那羅きんならがふらふらと傾いた

「なんでお前が謝るか;」

その緊那羅きんならを支えて京助が突っ込む

「そうだよ!! …本当あんがとね…ラムちゃんもワンコも」

南が笑って言った

「さーそろそろ一旦帰んないと遅刻だな遅刻」

坂田が携帯を見ながら言う

「そうだなーじゃ諸君!! 学校で!」

「おー」

「んだばな」

「また後でな」

京助の声で解散すると南がニボシに駆け寄った

「……」

ニボシの後部車輪カバーの簡易座席を見た南がふっと笑ってストッパーを外した

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