【第十回】飛ぶ計画
乾闥婆と共に【天】に来た京助たち
ミッションは緊那羅を迎えにいくのと緊那羅を迎えにいった鳥倶婆迦の回収
だがしかしこの面子がひと騒動起こさないわけもなく
「行きますよ」
乾闥婆の声がした
「…どこに持ってたんだやな…」
ゴの視線の先にはあの独特の帽子姿ではなく髪を団子状にして布の中に詰め込みそしていつもよりラフな服装になった乾闥婆
「何? 何で着替えんの?」
南が聞く
「僕も一応立場があるので表立った行動はあまりできないのです」
乾闥婆が歩きながら答えた
「お忍びけんちゃん」
坂田が言うと乾闥婆が (黒い)笑顔で坂田を見た
「気づかれないうちに宮まで行かないと…」
乾闥婆の笑顔を見て固まった坂田をヨソに乾闥婆が宮と呼ぶ巨大な建物を見た
「無駄話は謹んでそして僕から離れないでついてきてください」
乾闥婆が一同を見渡して言う
「了解」
「アイアイサー」
「おー」
「わっかりー」
「ヘイヘイ」
各々好き勝手に返事を返した
異国のようなでもどこか正月町に似ているようなそんな街並み
見たことあるような顔
見たことあるような店
見たことあるような品物
「あ、ピーマンっぽくね?」
坂田が店先に並んだ野菜のようなものを見て中島の肩を叩いた
「こっちなんだかアイスみたいの売ってんぞ」
京助がその少し先を見て言う
「人多いねぇ」
乾闥婆のすぐ後ろで南が言った
「観光に来たんじゃないんですよ」
乾闥婆がピシャリと言う
「服装も似たり寄ったりなんだな…俺等と」
中島が行き交う人の服装を見て言った
「なんでお前等だけあんな特殊な変な格好してんだ?」
そして続けて中島が乾闥婆に聞いた
「別に特殊でもなんでもないでしょう…アレが僕等の正装なんです」
乾闥婆が答えた
「なんか…ココ…【天】? って…いろんな国とかミックスってカンジ?」
京助が言う
「そう…言えてるかもな…アイツなんかインドっぽいけどコッチはなんだかワッフウだし」
坂田が指をさして言った
「建物だってそういう感じだしねぇ…不思議不思議」
南が笑いながら言うと乾闥婆が振り向いた
「無駄話は慎んでくださいと言ったでしょう?」
乾闥婆がにっこりと (黒くそして怖く)微笑んで言う
「だって…だっ!;」
言いかけた南が何かにぶつかってコケた
「いつ~…;」
コケた南が膝をさすった
「あのやろぶつかってきて謝らねぇで…」
京助が赤い上着を着て歩いていく人物を睨んだ
「今のは明らかにあの人が悪いですね」
乾闥婆も言う
「いいよいいよ; ぼーっとしてた俺も悪いし」
南が坂田の手を借りて立ち上がると苦笑いで言った
「そうはいきません。悪いものは悪いですから」
乾闥婆が赤い上着を目で追っている
「待ちなさいそこの赤い人!!」
乾闥婆が声を上げると何事かと赤い上着の人物も含めて周りの人々も乾闥婆を見た
「…表立った行動はできないんじゃなかったんだやな?」
ゴがどこから持ってきたのか試食用っぽい食べ物をもくもくと食いながら突っ込む
「赤い人って…僕ですか?」
赤い上着の人物が自分を指差して言う
「そうです」
乾闥婆がにっこりと笑顔で頷く
「僕が何か…」
乾闥婆に方に歩み寄ると赤い上着の人物が一瞬止まってそしてマジマジと乾闥婆の顔を見始めた
「…オイ」
その光景を見ていた中島が京助を肘で突付いた
「ハイ」
京助が返事をする
「けんちゃんってもしかして結構顔売れてたりしちゃうかも?」
南が言う
「…そうかも?」
京助が言うと赤い上着の人物が驚きの顔をして
「け…乾闥婆様だ-----------------------------------ッ!!;」
まるでエベレストの頂上で登頂記念にヤッホーと叫ぶかのごとく大声で乾闥婆の名前を叫んだ
「のわけないじゃないですか」
赤い上着の人物の叫びに乾闥婆が笑顔で返した
「乾闥婆様がこんなところにいると思いますか? よく似てるといわれますけど僕は違いますよ」
ニコニコとしかし裏がありそうな笑顔で言う乾闥婆を京助と3馬鹿そしてゴが見る
「…嘘は嫌いなんじゃなかったんだやな?」
ゴがボソッと言う
「…嘘も方便?」
南が言う
「そう…だよな…いや; スマン;」
赤い上着の人物が乾闥婆に向かって頭を下げた
「そっちのヤツもゴメンな? 僕がぶつかったみたいだそうじゃないか」
今度は南に向かって謝る赤い上着の人物に南が軽く頭を下げた
「…いいヤツっぽくてなにより」
坂田が言った
「ってか【様】付けだってよ」
京助が乾闥婆に言った
「言ったでしょう…僕は一応立場があるんですって」
しれっとした顔で京助の隣にきた乾闥婆が言う
「…お偉いさん?」
中島が乾闥婆に聞いた
「偉くはないと思います…が役目が大きいというのでしょうか」
乾闥婆が言う
「役目?」
足を進めだした乾闥婆の後ろを歩く坂田が言った
「【時】に関わる…【時】の為の役目とでも言っておきます」
人並みを縫うようにして進みながら乾闥婆が説明する
「なぁ…まだ教えてくれねぇのか? その…【時】っての」
京助が聞くと乾闥婆が足を止めた
「あ…いや; なんつーか…その…前の【時】の話をさ…鳥類が…」
「迦楼羅が?」
またチョップか何かの攻撃を食らうと思った京助がしどろもどろ言うと乾闥婆が振り向いた
「…迦楼羅が…話したのですか? 前の…【時】の事を」
乾闥婆が京助に聞く
「まぁ…【時】の話って言うよりは…コイバナ?」
京助が言った
「何? 鳥さんの昔話? ってか鳥さんっていくつなわけ?」
南が話に割って入ってきた
「コイバナってへー…青春INGだねぇ」
中島も入ってくる
「前の【時】ン時に…」
「沙紗ですね」
京助の言葉を止めて乾闥婆が言った
「そうそう」
京助が乾闥婆を指差して言う
「…まだ忘れてないんですね…迦楼羅は」
乾闥婆がふっとどことなく悲しげな笑顔で言った
「なんか…深そう?」
坂田が京助の肩をつかんでボソッと聞く
「たぶん深そう」
京助も小声で答えた
「…てゆーか…一同注目」
中島が右手を上げると一堂が中島に視線を向けた
「なんなんだやな?」
ゴが聞く
「…でかくなってねぇ?; 京助のコレ」
コレと中島が指差したのは京助の背中…にある半透明の羽のようなもの
「…成長期?」
南がソレを見て言う
「ちょい; 俺は見れねぇんだけどもよ;」
京助がそう言いながら体を捻る
「…もしかして…竜の力を感じ取って…いるのかもしれないですね」
乾闥婆が宮と呼ぶ巨大な建物の方を見た
「父さんの?」
京助が聞くと乾闥婆が頷いた
「言ったでしょう? …竜は…貴方の父親は生きていると」
乾闥婆が言う
「アソコにいちゃったりするの? 京助パパン」
南が宮を見て聞く
「そうです」
乾闥婆がキッパリと言い切ると京助も宮の方を見た
まだかなり遠くだというのに宮という巨大な建物はすぐ傍にあるような存在感で建っている
「急ぎますよ鳥倶婆迦が見つかる前に」
おそらく3馬鹿と京助そしてゴは忘れていたであろう当初の目的を言うと乾闥婆が足を進め始めた
「人が住んでるんだなぁ…」
中島がぼそっと呟いた
「街だね」
南も言う
「なんつーか…街だよな」
坂田も言うと乾闥婆が溜息をついた
「さっきから似たような事何回言いましたか?」
乾闥婆が言う
「いや…だってちょっと意外でサァ; …やっぱりこの方々もお前等みたいに技とか使えちゃったりすんの?」
坂田が聞く
「使えませんよ。彼らは宝珠を持っていないですし…扉も開けられない上に見えもしないんです。貴方達と同じです」
乾闥婆が言うと3馬鹿が顔を見合わせた
「でも俺等戸見えてこっちにきてんじゃん?」
中島が言う
「それは京助の…」
乾闥婆が言いかけてハタと止まった
「どうしたんだやな?」
ゴが首をかしげた
「…京助がいない…」
乾闥婆が小さく言った
「本当…よくここまでこれたもんだぁな;」
曲がり角から首だけを出して辺りをきょろきょろ見ながら阿修羅が言った
「宮司に見つからないにしろ…誰かかにかに会ってもおかしくないんよなー…」
首を引っ込めた阿修羅の目線の先には緊那羅と鳥倶婆迦
「おいちゃんは計算した通路を通ってきただけだよ」
鳥倶婆迦が胸を張って言う
「計算が鳥倶婆迦の力なんだっちゃね」
緊那羅が笑った
「お暢気さんだぁなァお前さん達;」
阿修羅が苦笑いで二人を見る
「でもまだおいちゃんの計算には続きがあるんだ」
阿修羅の後ろを小走りで追いかけながら鳥倶婆迦が言った
「なんだっちゃ?」
阿修羅が足を止めたのを見た緊那羅が自分も足を止めて鳥倶婆迦に聞く
「おいちゃんの計算ではおいちゃんの話を聞いた3馬鹿が京助に会っておいちゃんが話したことを京助に話して…」
前にずり下がってきた帽子を直しながら鳥倶婆迦が話し始める
「ソレを慧喜が聞いたらたぶん慧喜も来る」
「わぷ;」
鳥倶婆迦がそういうと阿修羅が止まってその阿修羅に緊那羅がぶるかった
「…その可能性…アリやな;」
阿修羅がハァと溜息を吐いた
「ってことは…」
緊那羅が鼻を押えて阿修羅からはなれると鳥倶婆迦を見た
「…輪をかけて事が大きくなっちゃうんやねー…」
阿修羅がもうこのさいなんとでもなっちゃえvV的口調で言った
「それよかオライは…緊那羅が向こうに帰ったって事を知ったまごっちょの事のが心配だぁわ;」
緊那羅の方をチラッと見た阿修羅が言う
「おいちゃんもソレは思う」
鳥倶婆迦も緊那羅を見上げた
「更に更にオライはまごっちょが竜のボンにちょっかいかけそうなんのも心配やわ;」
「おいちゃんもソレも思う」
阿修羅が言うと鳥倶婆迦もまた言った
「京助に何か…って…そんなことしたら引っぱたくっちゃ」
緊那羅が言う
「まぁ(きんなら)…今はとにかくアッチに無事帰ることができりゃ万々歳って…いうことで」
阿修羅が緊那羅を見て笑った後また曲がり角から少し顔を出してキョロキョロ辺りを見渡した
「正道通れないんがちょぉキツイんよなー;」
鳥倶婆迦を見た阿修羅が言う
「仕方ないよおいちゃんは【空】の…」
フィオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…ン
鳥倶婆迦が言うとどこからともなくまるで何か獣の遠吠えのような音とも声とも取れる音が響いた
「バレちゃいのホイ!!;」
阿修羅がそう言うと鳥倶婆迦を小脇に抱え上げて走り出し緊那羅も阿修羅を追いかける
「宮司がくるよっほほーぃ;」
走りながら阿修羅が困った笑顔で言った
「…ウォーリーを探せのウォーリーって…」
ザワザワと賑やかな人ごみの中
「見つけてもらうまでこんなカンジ?;」
京助が口の端を上げて呟いた
「……迷子の迷子のきょーすけくん~あなたのお家はどこですか~名前を聞いてもわからない~って京助君ゆーてんやーん」
とりあえず歩き回る京助が一人でボケて突っ込んでいると同時刻
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
「次! 右ッ!!;」
阿修羅が言うと緊那羅が右の通路に入った
「おおおおおいいちゃああんも走れるよ」
阿修羅の小脇で鳥倶婆迦が言う
「今はだーっとれッ!!;」
阿修羅が怒鳴ると緊那羅がプッと小さく噴出した
「何か楽しそうやんねぇ; 緊那羅」
緊那羅を見て阿修羅が言う
「そのセリフ前に京助も阿修羅と同じように言った事あるんだっちゃ」
緊那羅が笑いながら言った
「ほけほーけ…; でも今はそれどころじゃなかんきに;」
阿修羅が走りながら言う
「うん; ごめんだっちゃ;」
緊那羅が謝ると二人して走る速度を上げた
「…右を見て~左を見ても~…知らん顔~…」
京助が橋の欄干に座ってゆっくりと左右を見て呟いた
「…まいっちんぐ;」
深く溜息をついた京助の隣に誰かが座ったらしい気配がした
「…何見てんだよ」
視線を感じた京助が顔を上げ隣にいた人物に言った
「アンタから変な感じするんだよな」
何色にも見える中途半端な髪を適当に束ねたっぽい髪に桃色の球がついた髪飾りがキラリと光った
「…ココのヤツじゃないだろ」
言われて京助が驚き目を見開いた
「な…」
「安心していいって俺は何もしないよ。あ、俺はマホって呼んでくれていいから」
【マホ】というらしき人物が無理矢理京助の手を掴むなり握手といわんばかりにブンブンと上下に振った
「退屈なこの頃に刺激を求めてるんだよな俺」
京助の手を握ったままマホが笑う
「で?」
手を握られたまま京助が聞き返す
「困ってるみたいだけど」
マホが言う
「迷子なんだろ」
マホの言葉に京助が顔をそらした
「わかりやすいなー! 面白いじゃん」
カラカラ笑いでマホが言う
「決めた! 俺が助けてやろうではないか」
そう言って立ち上がったマホは京助より頭一つ分背が高かった
「さぁ! どこに行きたいんだ?」
顔をずいっと近づけてマホが聞いてきた
「無理なんだやな----------!!;」
ゴが叫んだ
「犬だろ! 何とかしろワン!!」
叫ぶゴに坂田も叫んで言う
「そうだワン! 仮にもご主人様じゃないかワン!!」
南も言う
「根性見せろだワン!!」
更に中島も言った
スパパパン
「ワンワンワンワンうるさいですよ」
そんな三人の頭を流れるように叩きながら乾闥婆が言った
「犬的語尾でお送りしましたワン」
頭をさすりながら南が言う
「にしても…困りましたね…」
乾闥婆が難しい顔をして俯いた
「何とかならんのか? 乾闥婆…」
中島が真顔で聞く
「鳥さんなら飛んで探せるんじゃない?」
南が言う
「迦楼羅の手は借りません」
乾闥婆がキッパリと言い切った
「貴方達を連れてきたのは僕です…僕が責任を持ちます」
乾闥婆が顔を上げた
ダダダダダダダダダダダダダダダダ
「だぁッ!!; しつこいッ!!」
阿修羅が走りながら喚く
「宮司は律儀だからね」
鳥倶婆迦が言う
「このままじゃ…;」
緊那羅がチラッと後ろを振り返った
「捕まるより先に誰かにばれると思う」
鳥倶婆迦が言うと阿修羅と緊那羅が顔を見合わせた
「ねぇ」
そんな二人に鳥倶婆迦が呼びかけた
「外に逃げるとかしないの?」
桃色の玉が黒い紐の先で揺れている
「変わってるねーやっぱり格好からしてそうかとは思ったんだけど」
マホが京助を見て言う
「宮に行きたいなんてさ」
頭の後ろで手を組んだマホが宮の方を見た
遠くかすむ宮と呼ばれる建物
巨大で美しくそしてどこか好きになれないそんなオーラが感じられる
「どんくらいでつくんだ?」
京助がマホに聞いた
「お前次第」
マホが京助の背中に回った
「コレが使えるならあっという間」
そして手を京助の背中に伸ばす
「コレ…って」
京助が身をねじって背中を見ようとする
「でも使えそうにないな…コリャ…」
ツンツンと京助の背中にある半透明の羽根をマホが突付いた
「…お前もしかして鳥類…迦楼羅の仲間かなんかか?」
京助が言うとマホが目を大きく見開いた後
「し------------------ッ!!;」
そう言って京助の口を手で押えながら周りをキョロキョロ見回した
「…ココじゃそいつ等の名前は言わない方がいいぜ」
手を離しながらマホが言う
「何でだよ;」
口を拭いながら京助が聞く
「何でも」
マホが口の前に人差し指を立てて言った
「捕まってもいいなら言ってもいいけど」
マホの目は至って真剣そのもので京助は黙った
「…やつ等の力と宝珠と立場…欲しいやつ等はわんさかいるんだ…」
小さな溜息混じりでマホが言った
「んなの…別にあってもなくても同じなんだと思うんだけどな」
腰に手を当てたマホが言う
「ってかソレ…隠せないのか?」
マホが京助の羽根を軽く引っ張った
「隠せって…言われてもナァ; 俺は見えねぇし…感覚もねぇし;」
京助が言うと羽根がパフパフと動いた
「動かせはするのか」
マホが言う
「は? 別に動…いてんのか?;」
京助が聞くとマホが頷いた
「ピンポンパンポ~~~~~~~~~~~ン」
「迷子のお知らせです~正月町からお越しの栄野京助君~栄野京助君~ご友人がお待ちです~」
「至急カモンだコンチクショー!!」
3馬鹿が言った
「聞こえるわけないんだやな」
ゴが冷静に突っ込む
「本当…どうすんだよ;」
坂田が乾闥婆を見た
「探すしかないでしょう」
乾闥婆が言う
「探すって…どうやってだよ」
中島が聞く
「探すといったら探すんです」
寄りかかっていた壁から身を離すと乾闥婆が歩き出した
「まさか地道にこの町探すのか?;」
中島が再度聞く
「それしかないでしょう?」
乾闥婆が言った
「…だな」
坂田が軽く頷くと小走りで乾闥婆に追いついた
「帰ったら京助にジューシー肉まんおごってもらうか」
南が中島を肘で小突いて走り出した
「…ホットココアもつけたれ」
ヘッと笑った中島も後を追いかけた
天井まで詰まれた資料や本
透明な容器に入れられている薬品のようなもの
「ワシにはむやみにいくなと言っているくせに」
そんな部屋の中を見渡した後 迦楼羅がむすっとしながら言った
「まったく…」
観音開き状の戸を閉めると迦楼羅が長い上着を翻した
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
遠くから聞こえてきた駆け足の音
「…なんだ?」
来た道を振り返りそして足を一歩進めるとT字廊下から現れたのは緊那羅
「な…!!?;」
「迦楼羅!?;」
「おぁ!; かるらん!!?;」
迦楼羅の名前を言いつつその迦楼羅の横を駆け抜けた阿修羅と緊那羅につられたのか何故か迦楼羅まで走っていた
「何をしているのだ!!;」
走りながら迦楼羅が聞く
「宮司に追われてるんだっちゃ;」
緊那羅が答えた
「何故お前達が宮司に追われているのだ!!;」
迦楼羅がまたも聞く
「おいちゃんがいるからだよ」
阿修羅の小脇から鳥倶婆迦が言うと迦楼羅が口をパクパクさせて鳥倶婆迦を指差した
「あっはっはかるらん変な顔ー」
阿修羅が笑う
「やかましいわたわけッ!!;」
スパーン!!
阿修羅の頭を迦楼羅がジャンプして引っぱたいた
「おいちゃんは緊那羅を連れ戻しにきたんだ」
鳥倶婆迦が帽子を押えながら言う
「たわけッ!!; お前がココに来るということはどうなることかわかって来てているのか!?;」
迦楼羅が鳥倶婆迦に怒鳴る
「知ってるよ」
鳥倶婆迦がさらっと答えると迦楼羅がまた口をパクパクさせた
「でもおいちゃん笑っていて欲しかったから来たんだ」
鳥倶婆迦が言う
「緊那羅が戻れば皆が笑顔になるからだからおいちゃんは来たんだ」
「鳥倶婆迦…」
緊那羅が鳥倶婆迦を見た
「だぁッ!!; 揃いも揃ってたわけものどもめッ!!;」
迦楼羅がいきなり大声で怒鳴った
「ハイ、いっちにいちに」
パンパンとマホが手を叩く
「…ドゥ?」
京助がチラッとマホを見て聞く
「さっきよりはちゃんと動いてるけど…なんで半透明なのかな」
京助の背中にある羽根っぽいソレを見てマホが言う
「てか…なんでお前こんなん生やしてるワケ?」
羽根っぽいソレを突付きながらマホが聞く
「知らんがな;」
京助が言った
「こりゃ…地道に歩いて宮に行った方はやいな」
マホが頭を掻いて宮を見た
「ところでお前は何で宮に行きたいわけ?」
歩きながらマホが京助に聞く
「なぁ?」
返事がなかった京助にマホが再度呼びかける
「返事くらいしろよ」
溜息を吐きつつマホが振り返った
「いないねぇ;」
南が腰をトントン叩いて伸びをしながら言った
「結構探したけどサァ;」
坂田が溜息をついた
「手分けが出来ない分時間が掛かるよな…」
中島が辺りを見渡しながら言った
「貴方達まで迷子になってはお手上げですから」
乾闥婆が言う
「けんちゃん~なんかこう…探し物発見する術とかないの?」
南が聞く
「僕等は魔法使いではないんですよ? そんなものはありません」
乾闥婆が言い切った
「じゃあの技とかって何」
坂田が聞く
「アレは宝珠の力です…宝珠とその宝珠に選ばれた…僕や迦楼羅…緊那羅の心が合わさって初めて宝珠の力を引き出せるんですよ」
乾闥婆が言った
「宝珠が選ぶのか?」
中島が聞く
「そうです…何をどう基準として宝珠が使い手を選ぶのかはわかりませんが…僕自身も宝珠に選ばれた理由はわかりません…何故僕を選んだのか…僕は自分の解釈で受け入れていますけど」
乾闥婆が言う
「自分の解釈? 何?」
南が聞くと乾闥婆が一呼吸置いて口を開いた
「罪です」
乾闥婆がにっこりと笑って言った
「罪…ってお前何かやったのか?」
坂田が聞いた
「やったから罪なんじゃないんですか?」
乾闥婆がにっこりと笑顔で返した
「まぁ…そらそうだけど…結構大きなことやらかしちゃったの?」
南が聞くと乾闥婆が自分の胸に手を添えて目を閉じた
「…結構どころじゃない…ですね…僕は罪の塊なんです」
乾闥婆が言うと3馬鹿とゴが顔を見合わせた
「けんちゃん…ワル?」
南が言う
「…さぁ京助を探さないと」
南の質問には答えず乾闥婆が歩き出した
「…深く突っ込んでいいところだと思う?」
坂田がボソッと投げかける
「いや…埋めたほうがいいとおもう」
中島が答えると一同が頷き先を歩く乾闥婆の背中を見た
「おいていきますよ」
乾闥婆が振り向いて言った
「お前の知り合い?」
「知るか!!; 俺は自慢じゃねぇけどこんな素敵なお知り合いはいませんッ!!;」
マホが聞くと京助が喚いた
「うるせぇ!」
京助の手首を掴んでいた少し色黒の男が怒鳴った
「なんなんだよッ!!;」
京助がその男を見上げて怒鳴り返した
「お前の背中のソレといい向こうのヤツの宝珠といい…お前等宮のモンだろ」
ゾロゾロと出るわ出るわしてくる柄の悪い集団の頭っぽい男が京助とマホを顎で指して言う
「違うって言ったら?」
マホが言った
「お前は違うって言ってもコッチのヤツの背中…こりゃ間違いなく宮の力持ちだってことは俺らでもわかる」
頭っぽい男が京助を見た
「俺は健全な良い子の遅刻常習犯な一般男子中学生だッ!!;」
京助が怒鳴った
「何わけのわからねぇことぬかしてやがんだコイツ」
京助の腕を持つ男がヘッと笑う
「てかもし宮のヤツだったとしてお前等俺達をどうしたいんだよ」
マホが面倒くさいことになっちゃったよマイッタネという感じにやる気なく聞いた
「宝珠を渡せ」
「簡潔だな」
頭っぽい男が言うとマホが突っ込んだ
「そうすりゃ何もしねぇで離してやる」
「てッ!;」
頭っぽい男の言葉に京助の腕を掴む男が京助の腕をもつ手に力を入れた
「俺のお気に入りなんだよねソイツ」
マホが京助を見た
「だったら宝珠を渡せ」
頭っぽい男がマホに近付く
「コレは宝珠じゃない」
マホがキッパリと言い切ると頭っぽい男の口元が笑った
「それにソイツは宮のヤツでもない」
マホが京助を指差した
「宮のヤツ以外にこんな変なモンつけてるヤツなんざいねぇだろ?なぁ?」
「いてぇッ!!; はなせッ!!;」
京助の腕を掴む男が京助の背中にある羽根っぽいソレをぐいっと引っ張ると京助が痛がった
「なんだ感覚あるんじゃん」
マホがけろっとした顔で言う
「知らねぇって!; はなせって!!;」
京助が喚く
「うるせぇッ!!」
集団の中の一人の男が京助めがけて拳を振り下ろしてきた
3馬鹿や緊那羅とかからはふざけあいやそんなカンジではよく殴られていた京助の体がぐらついた
「さっきの威勢はどこいった?」
殴った男がヘラヘラ笑ながら京助の髪を掴んだ
「コレ本当に飾りなんじゃないか? 宮のヤツがこんな弱ぇえわけねぇぞ?」
集団の中から声が上がった
「そうかもしれない…がコレはコレでいい見世物になりそうじゃん?」
京助の腕を持つ男が頭っぽい男を見た
「助けてほしい?」
霞む京助の目に映ったのは下から笑顔で覗き込むマホ
「…すけろよ…;」
まるで某どっかの眠い人の様な話し方で京助が言う
「なんだお前も…」
京助を殴った男が今度はマホめがけて拳を上げた
「…緊那羅!!」
足を止めた緊那羅を振り返り阿修羅が緊那羅を呼んだ
「止まるな!; 宮司がきてんだぞ!!;」
阿修羅の声に躊躇いながらも緊那羅が走り出した
「どうしたのだ;」
何故か一緒に走っている迦楼羅が緊那羅に聞く
「ううん…なんだか…なんでもないっちゃ」
ボソボソッと言うと緊那羅が顔を上げた
「にしても本当このままじゃ…;」
阿修羅が後ろをチラッと見てそしてすぐさま前を見た
「だから外に逃げようって言ってるじゃない」
阿修羅の小脇で黙っていた鳥倶婆迦の言葉に三人が鳥倶婆迦を見た
「外…!!」
そして迦楼羅が足を止め並ぶ窓に手を…伸ばしたが届かない
「窓から出てもここは…ッ;」
迦楼羅が開けようとしていた窓を緊那羅が開けると一気に風が入り込んで緊那羅と迦楼羅の髪が靡いた
「ヒョー; 高っかい高っかい;」
阿修羅が窓の下を見て言う
「いくぞ」
迦楼羅が窓枠に手をかけてよじのぼろうと試みるのを緊那羅が脇の下に手を入れて手伝う
「いくぞって…かるらん…」
ミョンミョンした飾りを風に遊ばれながら阿修羅が窓枠に立った迦楼羅を見上げた
「迦楼羅…」
「少ししゃがんでいろ」
迦楼羅が言うと風が少し強くなったのを感じた阿修羅と緊那羅がしゃがむ
「お面押えておけよ? ばか」
「鳥倶婆迦だ…ッおわ!!;」
阿修羅が笑いながら言った言葉に突っ込んでいた鳥倶婆迦が慌ててお面と帽子を押えた
「いきなりは駄目でしょ」
パシンという音をさせてマホが男の拳を止めた
「な…ッ;」
拳を止められた男はもちろん回りの集団も驚いてマホを見る
「戦いはまず礼から」
黒い髪結い紐の先の桃色の飾りが宙を舞いマホが集団から離れ立ち上がった
「礼だぁ?」
立ち上がったマホがまるで英国紳士のように胸に手を当てそして深々と礼をした
「いったでしょ? ソイツ俺のお気に入りだって」
顔を上げたマホの目が開く
「面白いし変わってるし…」
開けたマホの目が鮮やかな緑色から桃色に変わっていく
「案の定退屈をしのげるみたいだしね」
京助はマホの口元が笑ったのをうっすら見たような気がした
「乾闥婆?」
足を止めて上を見た乾闥婆に坂田が声をかけた
「どうしたんだやな? 京助いたんだやな?」
ゴが乾闥婆に駆け寄った
「いえ…そうではなく…なんだか胸騒ぎが…」
自分の胸元を掴んだ乾闥婆が宮の方を見る
「まさか京助…」
「シャラ-----------------------------ッ(プ)」
スパ----------------------------ン!!!!
言いかけた中島の口を坂田が勢いよく平手でふさぐ
「気のせいだ気のせい! うん!! そうだ! そう思って! お願いだから!!;」
乾闥婆の肩を叩きながら南が言う
「そう…だと…僕も思うようにします」
肩を叩いていた南の手を掴んだ乾闥婆が言った
マホの右目が完全な桃色になる
「なんだ…?」
集団がざわめきだした
「俺ってね」
マホがにこっと笑った
「特別って言葉嫌いなんだ~」
そして集団を見る
「宮のヤツ等だって宝珠が無きゃお前達と一緒だし…別に特別じゃないでしょ」
腕をつかまれたままさっきまではかろうじて意識はあったと思われる京助を見てマホが言う
「だからなんだって言うんだ?」
頭っぽい男がマホを睨んだ
「…俺に力を使わせないでよ」
にっこり笑っていた目が鋭く集団を睨むと集団が一斉に息を呑んだ
「俺は特別はいらないし特別にはなりたくない」
マホの左手がスゥッと集団に向いた
「だから俺に力を使わせるな」
まるで蛇に睨まれたカエルのように黙ったままの集団にマホが言う
「ッ…; オィ!!」
頭っぽい男が何とか声を出すとハッとした集団が一斉に走り出した
腕をつかまれたまま気を失っているっぽい京助を数人で運ぼうとしている男達にマホが視線を移した
「もしかして…もうアソコに先にいたりしないもんかね」
坂田が言うと先頭を歩いていた乾闥婆が足を止めた
「いくら京助でも無理無理; だいいち道がわかんないじゃん」
南が言う
「…ココの道は全て宮に通じます」
乾闥婆が言った
「どの道も必ず宮へ通じます…どんなに時間がかかっても必ず宮へ」
乾闥婆の言葉に3馬鹿とゴが顔を見合わせた後ニーっと笑った
「それを早く言ってほしかったんだやな!!」
ゴが言う
「そうそう!じゃ最初からアソコめざしゃよかったんじゃん!!」
中島が嬉しそうに宮を見た
「…必ず宮には通じますけど距離を考えてください…道はそれぞれ長さがあります…どの道も決して同じではないんです」
乾闥婆が言う
「もし僕等が一番早い最短の道を来て京助が一番遠い道を歩くならば決して出会うことは無いんです」
3馬鹿とゴを流れるように見ながら乾闥婆が言った
「それって…」
少し間を置いて坂田が乾闥婆に聞く
「宮への道は…詳しい人でも詳しく知らない…わかっていてもわからない…それが宮への道なんです」
乾闥婆が言う
「じゃあ乾闥婆は何でこの道を選んだんだ?」
中島が自分達の立っている道を足で数回踏んで言う
「宝珠の導きです」
乾闥婆が言った
「また宝珠…」
南が呟いた
「僕等は宝珠に導かれるまま…」
乾闥婆が俯き呟く
「全部宝珠かよ…;」
坂田が言う
「…宝珠がなければ…何もなかったんですよ…そう…何もなかったんです」
乾闥婆がどこか悔しそうに言った
「全てが…僕の罪も迦楼羅の罪も【時】も…宝珠なんかがあるから…」
自分の胸を掴んだ乾闥婆が唇をかみ締めた
「お…落ち着いてけんちゃん;」
そんな乾闥婆の腕を掴んで南が軽く肩を叩いた
「今は京助京助;」
南の言葉に深く深呼吸をした乾闥婆が顔を上げた
「…そうでしたね…すいません」
自分の胸から手を離した乾闥婆が南を見た
「何?」
南がきょとんとして乾闥婆を見返す
「いえ…ありがとうございました」
お礼を言った乾闥婆が肩から南の手を外し宮を見る
「とりあえず行ってみようぜ? それっきゃねぇべ」
坂田が歩き出す
「だな」
顔を見合わせて同時に頷いた中島とゴも歩き出した
「…いこっか」
南が乾闥婆に声をかけると乾闥婆が軽く頷き歩き出す
「…なぁ乾闥婆」
追いついてきた乾闥婆に中島が声をかけた
「なんです?」
「や…のな? …アイツもアソコにいるのか?」
「アイツ? 緊那羅ですか?」
ボソボソと言う中島に乾闥婆が聞き返す
「緊那羅じゃなく…その…ヨシコ」
「吉祥?」
かろうじて聞き取れる大きさで言った中島の言葉を乾闥婆が繰り返した
「だッ; …まぁ…うん;」
中島が気まずそうな顔をそらした
「…いますよ」
乾闥婆が答える
「そっか…」
中島が嬉しそうに宮を見た
真っ白な真っ白な空間
天井と床と壁の境目なんか見当たらない真っ白な空間
自分が今ここにいることも疑いたくなるような真っ白な空間
足元を見ても影は無く見えたのは自分の足だけ
声が出るのかもわからないから出さないのかそれとも出せないのか自分にもよくわからない
自分が【栄野京助】であることもわからなくなりそうな
あまりにも真っ白な空間
止まってたら本当に自分が自分…栄野京助であることもこの景色のように頭の中が真っ白になってわからなくなりそうで京助は足
を一歩踏み出した
当ても無くどこなのかもわからずでもただ足を進める
歌が聞こえた
聞いたことのある声が優しく歌い真っ白な空間と京助の頭に響く
決して大きな声ではなく逆に小さくもなく心地よい大きさの歌声
真っ白な空間に京助がその歌声の主の姿を探す
歩いていた京助の足が小走りから駆け足になりそして走り出した
あまりにも真っ白な空間に眩暈まで覚えた
それでも聞こえる歌声に京助は走る
変わらないままの真っ白な空間
変わらないままの大きさで聞こえ続ける歌声
さすがの京助も息が上がって足を止め膝に手をついた
一体どれだけ走ったのだろう
全校マラソン大会で5キロは軽く走れた
登山も走って登り走って下山してそれでもまだ素手で魚を取る元気があった
そんな京助が息を切らせるまで走り続けても真っ白な空間と歌声は全く変わらなかった
「…いるんだろ」
自分が言ったのかもわからない自分はこんな声だったろうか
「ッ…」
唇をかみ締めて京助が顔を上げた
薄い青…青銀が目の前にあった
細い指がすっと上がり指し示したのは京助のジャケットの右ポケット
「…何…」
指されたポケットを見てその後再び顔を上げるとそこはまた真っ白な空間
今さっきまで人がいた形跡はどこにもない真っ白な空間
それでも歌声はまだ聞こえ続けていた
変わらない大きさで
変わらない優しさで
「…財布…」
とりあえず右ポケットに手を突っ込んだ京助が取り出したのは黒い自分の財布
後は何もポケットには入っていない
「…なんだってんだ…?」
京助が財布をひっくり返しもっ繰り返しして見た後何気にそっと財布を耳に当てた
「…まさか…」
耳から財布を放すと京助が財布のファスナーを開けた
はらりとレシートが落ちたが拾う気はなく
「…これ…か…?」
落ちたレシートともに取り出した物を京助は耳に当てた
『これが京助のだっちゃ』
そんな言葉とともに緊那羅から手渡された【最後に咲いた桜の花の花びら】が一枚入っているプラ板で作られたお守りのような物
間違いなく歌声はコレをくれた緊那羅のもので
そしてその歌声は間違いなくソレから聞こえていた
「…そいや…こんなのももらったっけな」
入れっぱなしで忘れていたそのお守り (?)を見て京助が口の端をあげた
財布をポケットにしまいお守りを手に握って顔を上げると見えたのは再び青銀の髪
『願って』
小さく一言青銀の髪が言った
「願うって…」
『貴方はまだ負けていない…私の様になっては駄目』
細い指がお守りを握る京助の手に添えられた
『会いたい人…聞こえるでしょう?向こうも同じ…』
京助の手を包む細い指に少し力がこもった
『名前を…今なら大丈夫』
細い指が離れて京助の手が暖かくなる
「コレ…」
京助が手を開くとお守りの中の花びらが鮮やかに光っていた
『戻って…』
真っ白な空間にその声だけが歌声に混じって響いて消えた
「かるらんカッチョイー!!」
「やかましい!たわけッ!!;」
金色の翼が大きく羽ばたく
「落ちる落ちるッ!!;」
青年の姿になった迦楼羅の手を掴む緊那羅の腰を掴む阿修羅
その阿修羅の背中に必死でしがみついている鳥倶婆迦
「迦楼羅…大丈夫なんだっちゃ?」
緊那羅が迦楼羅を見上げた
「大丈夫でなければこんなことはしない」
迦楼羅8かるら)が言う
「たぁまに大丈夫じゃなくても大丈夫だっつーてやっちゃってだっぱに怒られてんやの」
阿修羅が笑いながら言う
「コチラには【元】があるからな…多少のことでは力は減らん」
迦楼羅が金色の翼を大きく羽ばたかせる
「でも乾闥婆に見つかったら怖いね」
鳥倶婆迦が言うと迦楼羅が口に端を引くつかせる
「ソレを言っちゃ駄目だっしょばか;」
「鳥倶婆迦だッ!!」
阿修羅が突っ込むと鳥倶婆迦が阿修羅のミョンミョンを引っ張ってキーキー喚いた
「暴れるな! たわけッ!;」
迦楼羅が怒鳴る
「緊那羅どうした?」
「え…?;」
迦楼羅の身を案じたっきり黙って下を見ていた緊那羅に阿修羅が声をかけた
「ううん…ただ…正月町を上から見たらどうなのかなって」
緊那羅が苦笑いで答えた
「…お前の頭は向こうの事で一杯のようだな」
迦楼羅が言うと緊那羅が迦楼羅を見上げた
どこか悲しそうな顔で迦楼羅も緊那羅を見てそしてふっと笑った
「おいちゃんの計算じゃ緊那羅は冷蔵庫の中の心配もしてるよ」
鳥倶婆迦が言う
「ああ~牛乳の賞味期限がどうのってたなぁ」
阿修羅が笑いながら言った
「お前は…;」
迦楼羅が半分呆れたような口調で言うと溜息をついた
「や…ソレも心配だっちゃけどッ;」
緊那羅が慌てる
「でもおいちゃんの計算ではそれ以上に京助の心配をしてる」
鳥倶婆迦が言うと緊那羅が何かを思い出したのかハッとした顔をした
「…京助…足の傷…」
緊那羅が呟いた
右の足の指がヌルヌルする頭ががんがんする
「…ぅあ…」
喉から声が出た
「…ッ;」
頭と足に走った痛みに一度は起こしていた体をまた地面につけた
背中に固い地面の感触を感じながら京助はうっすらと目を開けた
「…変な空」
七色にも透明にも何色にも捕らえられる上に広がる…自分達の世界では空があるところに広がるソレを見て京助が呟いた
「…この大空にー翼を広げーとんで~ゆきた~い~よ~…ってかぁ…はぁ~ぁ;」
ボソボソと歌った京助が最後に溜息をついた
「…なんで俺こんなトコで寝てんだ…いや殴られて…」
京助が自分に聞いて自分で答えた
「マホだか…言うのが…」
ズキズキする頭で記憶を引っ張る
「…俺どうなんだろ…」
しばらく間を置いて京助が呟く
「…なんでこう…一人になると独り言が増えるんでしょーねー…アッハー」
変な空を見上げて京助が一人で話し始めた
「いや~…このまま戻れなかったらどうなるンザマショ俺…」
ぐぅ
短めに腹の虫が鳴いた
「…鳥類みたいに飛べたらな~…っても俺には羽根…あるじゃん」
はたと背中にある羽根っぽい物の存在を思い出して京助が指を鳴らした
「お礼は?」
ふっと影がかぶさったかと思うと黒い紐の先についていた玉がコンっと京助のデコに当たった
「…アリガトゴザマス…?;」
笑顔で影を作ったマホに京助がわけもわからずお礼を言った
「いやいいんだ~退屈しのげたし? やっぱお前のこと気にいた俺」
そういって笑いながらマホが手を差し出した
「マホって…言ったっけお前」
京助がマホの手につかまりながら聞いた
「そう俺はマホ」
京助の手を引っ張りながらマホが答えた
「この羽根みたいなヤツ…飛べると思うか?」
頭を押えて立ち上がった京助がマホに聞く
「それは俺に聞かれても」
マホが片手をヤレヤレというカンジであげた
「飛んだことは?」
マホが聞くと京助が首を横に振った
「いきなり生えてたんだし;コレ」
京助が羽根っぽいものを見ようと体をねじった
「いきなり…ってなんでまた」
マホが京助の後ろに回った
「何かきっかけとかなかったのか?」
チョイチョイと羽根っぽいものを突付きながらマホが聞く
「…きっかけ…かぁ…」
京助が羽根っぽいものが現れたところまで少ない脳みそから記憶を引っ張り出す
「…きっかけ…」
呟きながら京助が何気にポケットに手を突っ込んだ
「…キッカケ…きっかけ…」
そして取り出したのは
「なにそれ」
透明な板に挟まれた桜色の花びら
「…コレくれたヤツを一発引っ叩きたくてさ」
京助が取り出したお守りをマホに見せた
「それで宮に行くのか?」
マホが聞く
「何でもそこにいるっちゅーんだけどさぁ…; はぐれて」
京助が口の端をあげて言う
「あ~…迷子だって言ってたもんな」
マホが頷きながら言った後顔を上げて止まった
「あれ…?;」
南の声に一同が足を止めた
「どうした? 南」
中島が聞くと南が何もいわずに上を指差した
「上?」
坂田が上を見ると残りの面々も上を見た
「おりょ?」
「どうしたの?」
阿修羅が変な声を出し鳥倶婆迦がどうしたのか聞いた
「あれって…でっかいのとちっこいのとメガネとワンコの片割れと…」
阿修羅がまじまじと下を見てそんなまさかこんなところにという言葉を上げていく
「…だっぱ…」
そして最後に言った言葉で迦楼羅がバッと下を見た
「何であいつ等がコッチにいるんやん~?;」
阿修羅が言う
「でも京助がいないね」
鳥倶婆迦も下を見て言った
「鳥…さんだね…ってけんちゃ--------ん!!?;」
タッと駆け出した乾闥婆を3馬鹿とゴが追いかける
「…見つかった見たいだっちゃね…;」
「おいちゃんの計算ではおとなしく降りた方がいいと思う」
「オライもばかに同感」
緊那羅と鳥倶婆迦そして阿修羅が迦楼羅を見上げた
「…っ;」
迦楼羅の顔が引きつった
乾闥婆が人通りの少ない裏路地に入り耳の飾りを障ったかと思うと一瞬にしていつもの乾闥婆の格好になりそしてタンッと地面を蹴り飛び上がった
「飛んだ!!;」
追いかけてきた坂田が声を上げた
「けんちゃんが飛んだ! けんちゃんが…ゲハッゴハッ;」
運動神経皆無の南が息を切らせて走ってきてそういったかと思うと思い切り咽る
「血の雨が降るんだやな」
ゴが上を見上げてどことなくワクワクした口調で言った
「…なぁ」
京助がマホを引きつった顔で見た
「…なんだコレ;」
バサッと音を立てて大きく広がったのはさっきまで半透明で小さかったであろう京助の背中の羽根っぽいモノ
「俺が聞きたいんだけど」
マホがヤレヤレをいうカンジで言う
「俺とうとう人外魔境?;」
京助が顔を引くつらせた
「まぁ…それが原因なのは明らかだな」
マホが指差したのは京助の手の中のお守り
「コレ…か?;」
京助がお守りをマジマジと見た後マホを見る
「というか…ソレをくれたヤツが原因だろうな…よっぽど力が強いんだろうな」
マホが腰に手を当てて笑う
「でもコイツ自分が弱いからってアソコに帰ったんだ…俺に何も言わねぇでさ~…だからムカついて一発」
京助が言いながら腕をスイングさせる
「力っても想いの力だ」
マホがウィンクした
「んでお前もそいつに会いたいっていう想いがあるんだろう? だからじゃないのか?」
「…まぁ…会ってひっぱたきたい…しな」
京助がモゴモゴと言う
「想いってのも力の一つじゃないか?」
マホが京助の胸を人差し指で軽く突付いた
「想いの強さが力になってる…俺はそう思う」
にっこりとマホが笑った
「…すげぇんじゃん…アイツの力って…俺を人外にしちまうんだから」
京助が背中の今は誰が見ても羽根と答えるモノを軽く羽ばたかせた
「いやお前の想いも込みだから」
マホが言う
「俺の?」
京助が言った
「そう…まぁ双方の思いの力の形?」
マホが羽根を撫でた
「空に道はないからな俺はココでお役目ごめんになるな」
マホが京助に笑いかけながら羽根から手を離す
「…そういやあのなんだか人の悪い方々はドコいったんですか?;」
京助がハタと思い出してマホに聞く
「あ~…逃げてった?」
何故かマホが疑問系で答えると京助が微妙に納得した
「…ありがとな」
京助が間を置いて笑って言う
「いい顔するなお前…本当気に入った」
マホも笑った
「また会えるといいけどな」
「だな」
京助が羽根を開いた
「俺との練習が無駄にならなかったな」
マホが広げられた羽根を見て言う
「…そういややったっけなそんなこと」
忘れていた京助が言った
「相手によろしくな」
マホがヒラヒラと手を振る
「おう!!」
笑った京助の顔が羽根に隠れてそして風が巻き起こった
「乾闥婆…;」
緊那羅が目の前に来た乾闥婆の名前を呼んだ
「…;」
迦楼羅は乾闥婆を直視したまま固まっている
「…降りましょうか」
乾闥婆が静かに言う
「…顔は笑ってるね」
「シッ!!;」
鳥倶婆迦がボソッと言うと阿修羅が人差し指を口に当てて焦る
「乾闥婆飛べたんじゃん;」
降りてきた乾闥婆に中島が言う
「羽衣の力で浮けるだけです」
乾闥婆が背中に大きく作られたリボン上の布を前に持ってきて言った
「迦楼羅の様に飛ぶことはできません」
そう言いながら地面に降りてきた迦楼羅達を乾闥婆が見る
「…あ…のだな; これは…;」
いつもの大きさに戻った迦楼羅が気まずそうに何かを言おうとしている
「…鳥倶婆迦」
そんな迦楼羅から乾闥婆が鳥倶婆迦に視線を移した
「何?」
鳥倶婆迦が返事をする
「貴方は何故こんな無謀なことをしたんですか?」
乾闥婆が聞く
「笑ってて欲しかったから」
鳥倶婆迦が答える
「緊那羅がいなくなったら皆笑わなかったから」
「鳥倶婆迦…」
緊那羅が鳥倶婆迦を見た
「自分の身の危険は考えなかったんですか?」
「けんちゃん;」
さっきより口調がきつくなった乾闥婆の方を南が軽く叩く
「それより何で3馬鹿がいるんだよ」
今度は鳥倶婆迦が乾闥婆に聞いた
「ゴもいるんだやな」
中島の後ろからごが顔を出してぷーっと膨れた
「というか…なんで3馬鹿がいて竜のボンがいないん?」
阿修羅が聞くと乾闥婆がきゅっと手を握り締めた
「…僕の不注意で」
「迷子の迷子の京助君~…に…ね;犬のおまわりさんは使い物になんないし」
「ゴは悪くないんだやなッ!!」
俯いた乾闥婆に言葉に坂田が言うとゴが反論した
「迷子…って…」
阿修羅がチラッと緊那羅を見ると緑色の髪飾りが靡いた
「緊那羅!!;」
中島が駆けて行く緊那羅を呼んだ
靡く緑色の髪飾りに人ごみが視線を向けた
「緊那羅様?」
「そうだ緊那羅様だ!!」
誰かが言った一言に誰かが便乗してその波紋が広がる
「ばっか!!; あの格好で…ッ;」
「貴方もその格好で行ってどうするんです!!」
緊那羅を追いかけようとした阿修羅の服を掴んで乾闥婆が言う
「でもじゃ…ッ!!;」
阿修羅が緊那羅の駆けて行った方向と乾闥婆を交互に見て焦る
「俺等が…」
「迷子になります確実に手間が増えるのでやめてください」
申し出ようと挙手した坂田に乾闥婆が言うと坂田がメソリメソリと泣き真似をしその坂田の頭を中島が撫でた
「ラムちゃん京助絡むと突っ走るねぇ」
南がヤレヤレというカンジで溜息を吐いた
「ワシが上から…」
「貴方ほどの階級所持者が出て行っては余計大騒ぎになるでしょう?」
迦楼羅が上を見て言うと乾闥婆がまたすかさず返す
「じゃぁどうするんだやなッ!!;」
ゴが両手を忙しなく動かして聞く
「おいちゃんの計算によると乾闥婆自分で行く気だね」
鳥倶婆迦がまだ阿修羅の背中に負ぶさったままで言った
「お前が行ったとて同じことだろう! たわけッ!!」
迦楼羅が怒鳴った
「僕の責任です」
乾闥婆が言う
「何でもかんでも一人でやろうとするな! たわけ!!」
迦楼羅が怒鳴ると小さく炎が出た
「僕が責任を持つと言う約束で連れて来たんですから僕の責任です」
「しかし緊那羅をココに連れてきたのはワシだ!!」
「つか緊那羅を向こうに連れて行こうって言ったんはオライ」
「俺等だって結構無理矢理ついてきたし?」
「許可なくコッチにきたのはおいちゃんだよ」
あーだこーだと言い合う一同の中の迦楼羅の服をゴがチョイチョイと引っ張った
「何だ?」
「緊那羅放置プレイなんだやな」
ゴの言葉にはたと空間の時間が止まった
「宝珠持ちに触ると願いが叶うんだぜ!!」
「声を聞くと病気が治るとか」
「髪の毛を財布に入れておくと水虫が治るんだってさ!!」
出所のわからないウワサを信じているのか人々が走る緊那羅を追いかける
「ちょ…退いてほしいっちゃ!! 通して!!;」
前からもやってきた人ごみに身動きを封じられた緊那羅が言う
「私は…ッ!; 痛ッ!!; 引っ張るなっちゃッ!!;」
まるでバーゲンセールの目玉商品のように人々の手が緊那羅に伸びた
「通してくれっちゃッ!!;」
緊那羅が叫ぶ
「おお! 宝珠だ!!」
「触るといいことあるんだろ!?」
一人が緊那羅の右腕を掴んだ
「やっ…; ちょ…離すっちゃッ!!;」
緊那羅が腕を振って捕まれているのを解こうとする
「私は京助を…ッ!!;」
身動きが取れなくなった緊那羅がそれでも何とか動こうと体を動かす
「ありがたやありがたや」
とうとう拝み始める人も出て緊那羅の周りが厚い人垣で囲まれた
「ッ…京助---------ッ!!」
緊那羅が京助を呼んだ
「キョウスケって何だ?」
聞き慣れない言語に人々が疑問じみた会話を始める
「竜様の穴埋めに入った方の名前か?」
「いやソレにしては変な名前…」
ザワザワと話していた声が一瞬で静まり緊那羅を掴んでいた手からも力が抜けた
「…何…」
力の緩まった人々の手を離し顔を上げた緊那羅が人々が同じ方向を見てぽかんとしていることに気付いき緊那羅もその方向を見た
「何してんだお前」
影が出来て風が起こって声がした
「なん…」
人々同様ぽかんとした顔をしていた緊那羅がやっと一言言葉を言った
「でっけぇ声で人の名前呼びやがって」
また風が起きてヘッと口の端をあげた京助が緊那羅を見下ろした
「手を上にッ!」
「えっ; あ…う…上?;」
京助の言葉に緊那羅がはっとして手を上に上げると頷いた京助が羽根を広げそして滑空してきたかと思うと上がっていた緊那羅の腕を掴んだ
「うわっ;」
「重ッ;」
緊那羅の体が浮かんだ
「っでぇええええええええええええええぃッ!!;」
気合を入れた声を上げると京助が思いっきり羽根を広げて羽ばたいた
「うわぁ!!;」
「キャー!!;」
まともに羽ばたきの風を受けた人々が悲鳴を上げる
「スンマセーンッ!;」
高く上がった京助が下にいる人々に謝った
「京助…な」
「何してたんだよ」
口を開いたのは緊那羅が先で言い終わったのは京助が先
「…京助が迷子になったって坂田達が言ったから…」
少し間を置いて緊那羅が答えた
「ふぅん…で? その坂田達はドコにいんだ」
京助が聞くと緊那羅が自分がかけてきた裏路地を指差しそれを見た京助が何も言わずにその方向に向きを変えた
「…落ちるぞ」
そう言われて緊那羅が京助の首に捕まる腕に力を入れた
「何で何にも言わねけで行ったんだよ」
京助が聞く
「言ったっちゃ」
緊那羅が返した
「聞いてねぇ」
それに対し京助がまた返す
「言ったっちゃ!! そしたら行って来いって京助言ったっちゃ!!」
声を大きくして緊那羅が言う
「聞いてねぇっつーの!」
「言ったっちゃッ!」
「聞いてねぇったら聞いてねぇ!!」
「言ったって言ったら言ったっちゃッ!!」
「何をしているのだたわけッ!!!;」
いつの間にか怒鳴りあいレベルまで発展した口喧嘩に怒鳴りでは負けないぞというヤツが突っ込んだ
「鳥類…」
「迦楼羅…;」
金色の羽根を広げ呆れ顔で迦楼羅が二人を見る
「だって京助が聞いてないって…」
「聞いてねぇってんだから聞いてねぇんだよ!!」
「だぁッ!! とにかく下に下りるぞ!;」
また始まりそうになった怒鳴り合いを一刀両断して迦楼羅が言った
「わぁお;」
坂田が声を上げた
「ゴジラ!! ゴジラ!!」
南がアッハッハと笑いながら京助の羽根をベシベシ叩く
「ゴジラは飛べねぇじゃん;キングギドラ?」
中島が南に突っ込む
「いや~…こりゃまさしく竜のモンだぞ…;」
阿修羅が羽根を触りながら言う
「主と同じなんだやな京助」
ゴが嬉しそうに尻尾を振って京助が見上げた
ゴス
「無事で何よりです」
「…おぅよ;」
乾闥婆が笑顔で京助にチョップを放った
「貴方もよく見つからなかったですね」
「いだだだっ!!;」
乾闥婆が今度は迦楼羅の前髪を思いっきり引っ張った
「何をするたわけッ!!;」
迦楼羅が怒鳴る
「言ったでしょう? 貴方ほどの階級がもし見つかったら…」
髪を引っ張る乾闥婆に手に更に力がこもっていく
「いだだだだだだッ!; 抜ける抜けるッ!!;」
迦楼羅がぎゃんぎゃん喚く
「ラムちゃんも無事で何よりだっちゃん」
南が緊那羅を見た
「あ…私は…」
いきなり名前を呼ばれて緊那羅が焦る
「…ごめんだっちゃ…今回のことは私が…」
「きんなラリア--------------------------------ット!!!!」
「だっ!!;」
ボソボソと言いはじめた緊那羅に京助が必殺!と言わんばかりにラリアットをかました
「でました! 栄野選手の必殺技!! モロに食らったラム子! 立てるか!!」
司会なら任せろ!的坂田が手をマイク代わりに実況を始める
「何するっちゃッ!!;」
緊那羅が怒鳴る
「おおぉーっと! ラム子起き上がりました!!」
「やかましいっちゃッ!!;」
坂田が言うと緊那羅が坂田に怒鳴った
「前にも言ったろが。誰が悪い彼が悪いゆーてたらキリがねぇんだっつーの」
京助が言う
「でも…ッ!」
「でもでもハワイでもイスカンダルでもねく!! キリがねぇってんだろが」
「たっ!;」
反論しようとした緊那羅の頭を京助が叩いた
「…今日の晩飯エビフライな」
「おっ! いいねぇ!!」
京助が言うと中島が京助の肩に腕を回して親指を立てた
「お前等もくんのかい;」
「アタリキシャンシャン!!」
3馬鹿が揃って小躍りする
「オライも」
ハイと阿修羅が手を上げた
「おいちゃんも行きたい」
「おし! 皆まとめて来い!!」
「お前が言うな!!;」
鳥倶婆迦も言うと坂田が親指を立てそれに京助が突っ込む
「…行きたいんですね」
そんな様子を見ていた迦楼羅に乾闥婆が言うと迦楼羅の肩がぴくっと動いた
「…仕方ないですね」
乾闥婆が言うと迦楼羅の頬が少し赤くなった
「あ…そうだかるらんとでっかいのにオライちょ~っとお願い事あんだわさ」
阿修羅が迦楼羅と中島を見て言うと手招きをした
「何だ?」
手招きされた二人が阿修羅の元に向かった
「…帰るぞ」
京助が緊那羅に声をかけた
「買い物付き合ってやっから」
緊那羅が顔を上げると京助がそっぽを向いたままで言った
「悠待ってる」
「…うん」
緊那羅が笑った
「帰るぞ~は…いいんだけどコレはどうすんの」
坂田が京助の片羽根を引っ張った
「どうすんのって……どうすんの」
「どうすんの…ってかどうすんの」
「え~…どうすんの」
「どうすんのって言われても…どうするんだっちゃ?;」
「ワシに聞くな!; どうするのだ!!」
「僕にも聞かないでください…どうするんですか」
「アッハッハ~どうすんきに?」
「おいちゃんもわからないよどうするの?」
「ゴもわからないんだやな~どうするんだやな?」
坂田が京助に聞きそれからテンポよく南、中島、緊那羅、迦楼羅、乾闥婆、阿修羅、鳥倶婆迦、ゴの順に回る
「そもそもどうしてこうなったのだ」
迦楼羅が聞くと京助と3馬鹿が顔を見合わせた後揃って緊那羅を見た
「何だっちゃ;」
四つの視線を受けた緊那羅が少し後ずさる
「…街中で世話んなったヤツ…お前が原因だって言ってた」
京助がそういいながら取り出したのは
「それ…」
見覚えある桜の花びら入りのプラ板のお守り
「お前の想いの強さが云々って言ってた」
お守りを握って京助が言う
「戸が見えれば連れて行くって乾闥婆が言って…そしたら戸も見えて京助にソレが出たんだよな」
中島が言うと南と坂田も頷く
「かるらん…」
「んはいらんといっているだろう!; …感情の高ぶりだな…落ち着けばおそらく消えるだろう」
「感情~?;」
迦楼羅が言うと京助が口の端をあげた
「感情が一時的に上昇したことで竜の力も一時的に現れたということです」
乾闥婆が補足説明をつけると迦楼羅が横で頷いた
「ってか今までも何だかんだ怒り狂ったりしてたけど…こんなん出ませんでしたが;」
京助が羽根を動かした
「…【時】が迫っているからと考えてもおかしくはない…明確ではないがな」
迦楼羅が口にした【時】という言葉に摩訶不思議服集団が表情を曇らせた
「…【時】ねぇ…俺にはよくわからないけど…とにかく帰らない?」
重苦しい空気に耐えられなくなったのか南が言った
「ソレ賛成」
坂田が挙手する
「あ、の前に…」
阿修羅が帰ろう帰ろう言っている一同に向かって声をかけた
「…はいよ」
中島が阿修羅の元に歩み寄った
「…仕方ないな;」
迦楼羅も溜息を吐きながら阿修羅に向かって足を進めた
「先に行っててくりゃれん」
迦楼羅を右に中島を左に連れて阿修羅が一同を見送った
ギィという音にゆっくりと顔を上げたのはヨシコ
「…あっくん? 今日の課題おわったでしょ?」
あの露出の高い格好ではなく落ち着きのある格好でヨシコが扉を開けた阿修羅に歩み寄った
「そうだな~…課題は終わった…からご褒美」
阿修羅がニーっと笑った
「ご褒美?」
ヨシコが首をかしげると同時に開いた窓
「何…」
いきなり入り込んできた風にヨシコが顔を向けた
「ゆー…」
「その呼び方はやめろ;」
迦楼羅に両手をつかまれた中島が窓辺に足をかけた
「…!?; どうして!? どうしてゆーちゃんがここにいるの!?; そうよ!! どうして!?;」
ヨシコが阿修羅の胸倉を掴んでガクガク揺すった
「言ったろが~; ご褒美」
揺すられながら阿修羅が言う
「な…んで…」
ヨシコが阿修羅の胸倉からは手を離さずゆっくりと窓を振り返った
「…元気か」
何故か照れながら中島が言う
「…元気に見える?」
ヨシコが俯いたまま返した
「わかんねぇから聞いたんじゃん;」
中島が言う
「…むかつくわ…っ…」
阿修羅の方に向きを変えたヨシコが呟いた
「そろそろ離れなければまた厄介なことになる; 行くぞ」
迦楼羅が羽根を広げた
「…またな」
中島のその言葉にヨシコがバッと振り向いた
長く垂れた布が風に靡いていた
「…あっくん…」
阿修羅がヨシコの頭を撫でた
「私…苦しいわ…」
ヨシコの声が震えていた