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【第九回・録】ムカムカパラダイス

滅多に怒らない緊那羅が怒っている

原因はどうも京助にあるみたいで…

ダンッ!! という勢い任せで叩きつけました的音が栄野家台所から聞こえたのは金曜日の夕方

「…まな板が今日のおかず?」

悠助と共にホットミルクに蜂蜜を溶かしていた慧喜えきが言った

「緊ちゃん…怖い」

包丁を片手にした緊那羅きんならの目は据わっていてソレを見た悠助がボソッと言った

「…ムカつくっちゃ…」

真っ二つになったタマネギを今度はリズムよく薄切りにしながら緊那羅きんならが言う

「何があったの緊ちゃん…」

恐る恐る悠助が緊那羅きんならに聞くと緊那羅が手を止めた

「今朝ッ!!」

そしてまた勢いよく包丁をタマネギめがけて振り下ろした

「おいちゃんの計算では次やったらまな板が割れると思うよ」

「あ、ばか」

「うぐちゃんだー」

聞こえた声に慧喜えきと悠助が反応して声の主の名前を言った

「う・ぐ・ば・かだってんだろっ!!」

慧喜えきの呼び方が気に食わなかった鳥倶婆迦うぐばかがキーキーと喚いた

「やかましっちゃッ!!!」

そんなモブに対して緊那羅きんならが珍しく怒鳴った

「…怖っ」

「京助だー」

「義兄様」

またも聞こえた別の声にまたも慧喜えきと悠助が反応して声の主の名前を言った

「で? 今朝がどうしたって?」

冷蔵庫を開けて牛乳を取り出しながら京助が聞いた

「今朝散々洗濯物出しておいてくれっていってたじゃないっちゃかッ!!」

緊那羅きんならが京助に向かっていった

「…義兄様のせい?」

慧喜えきが京助を見ると悠助と鳥倶婆迦うぐばかも揃って京助を見た

「あ~ワリワリ」

バタンと冷蔵庫の戸を閉めて京助がハッハと笑った

「第一あのシャツ何日間着てるんだっちゃッ! いい加減洗濯しろっちゃッ!!」

反省の色皆無の京助に緊那羅きんならが再び怒鳴る

「んな怒んなくたっていいじゃん;」

「京助汚い~」

「義兄様ソレ全部飲んでよ?」

牛乳をラッパ飲みしだした京助に慧喜えきと悠助が批難ゴーゴーした

「ちゃんとコップに注いで飲めっていってるじゃないっちゃッ!!」

「ヘイヘイ;」

更に緊那羅も批難ゴーゴーすると京助がやる気なく返事をして冷蔵庫に牛乳をしまった

「ほん…っと…痛ッ;」

溜息をついた直後片手で目を擦った緊那羅きんならが声を上げた

「ッ~~~~;」

緊那羅きんならが足踏みをしつつ目を押える

緊那羅きんなら?」

緊那羅きんならの変な行動を見て鳥倶婆迦うぐばかが声をかけた

「どうしたの緊ちゃん?;」

悠助も心配になったのかホットミルク入りのカップを置いて緊那羅きんならに駆け寄った

「いたたたたたた~~;」

足踏みを早めて緊那羅きんならが言う

「ばっかお前タマネギ触った手で目ェ擦ったろ;」

京助が口の端を上げて言った

「だってッ; うぁ~;」

「擦るなってのッ; 悠タオルとってんで濡らせ」

目を擦る緊那羅きんならの手を掴んで京助が悠助に言った

「痛い痛い~;」

緊那羅きんならが喚く

「うら」

京助が喚く緊那羅きんならの目に濡れたタオルを押し付けた

「治るの?」

鳥倶婆迦が京助を見上げた

「さぁ」

京助が言う

「義兄様無責任…」

慧喜えきが呟いた次の瞬間


「きゃぁあああああああああああああああああ!!!!」

黄色くそして可憐とは程遠い悲鳴が台所から正月町へ向けて発信された

「お約束だよね」

慧喜えきがその叫び声の主を見て言った

「何をなさってるんですの--------------!?」

緑の両葉を茶色の顔 (?)に添えて可憐な夏の妖精ヒマ子さんが声を上げた

「何って…見ての通りじゃないの?」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「ばっ…;」

京助が鳥倶婆迦うぐばかの言葉に反応した

「見ての通り…って…」

鳥倶婆迦うぐばかの言葉にヒマ子が再び京助と緊那羅きんならの方を見た

「…見ての…通り…」

京助に押し付けられたタオルで目を押えている緊那羅きんなら

ソレがどう彼女 (?)に映っているのかと一同黙ってヒマ子の次の言葉を待っていた

「まさか…」

ヒマ子が言葉を漏らすと一同息を呑んだ

「嬉し泣きですの------------------------------!?」

「はっ!?;」

ヒマ子が叫ぶと京助が変な声を出した

「嬉し泣き?;」

やっと目の痛みがひいたのか緊那羅きんならがタオルから目を離して顔を上げた

「何で嬉し泣きなの?」

慧喜えきが率直にヒマ子に聞く

「最近どうもハルミママ様のお手伝いをしてらっしゃると思ってましたわ…そうなんですのね…やっとわかりましたわ…」

ヒマ子がゴトリと鉢を引きずった

「…何だっちゃ?」

目の前に来たヒマ子を緊那羅きんならが見る


「花嫁修業…」

「へ?」

ボソッと聞き取れない声でヒマ子が言うと聞き取れなかった緊那羅きんならが聞き返す

「花嫁修業だったのですわね…」

ユラ~リとまさにアノNHK忍者アニメの剣客教師と同じような身の動きでヒマ子が体をくねらせた

「花…嫁?;」

わけがわからない緊那羅きんならが花嫁という言葉をリピートする

「…婿じゃないの?」

鳥倶婆迦うぐばかが突っ込む

「お婿さん修行?」

悠助が慧喜えきを見上げて言う

「花婿修行になるよね」

慧喜えきが悠助を見返して言った

「…緊那羅きんならって女だったの?」

鳥倶婆迦うぐばかがまた突っ込む

「私は男だっちゃ;」

緊那羅きんならが言った

「でも前にあっくん兄ちゃんが男同士でもケッコンはできるっていってたよね」

悠助が言う

「ばっ…; 悠;」

京助がオイオイソレを言っちゃアカンデショというカンジで悠助を見た

「俺と悠助は結婚も子供もできるもんね」

慧喜えきがにっこり笑って言うと悠助が嬉しそうに笑顔を返した

「ふ~ん…じゃぁ京助と緊那羅きんならはケッコンはできるんだ」

鳥倶婆迦うぐばかが妙に納得したように頷いた

「ソコ!; 納得すんな!!;」

京助が鳥倶婆迦うぐばかに向かって怒鳴る


「キ-----------------------------------!!」

ヒマ子がどこから取り出したのかピンクのハンカチをキリキリと歯で引っ張りながら悔しがる

「やはり緊那羅きんなら様は-----------ッ!!」

今にも食いちぎらんという勢いでヒマ子がハンカチを引っ張る

「私はただタマネギが…;」

喚き散らすヒマ子に緊那羅きんならが声をかける

「タマネギがなんだって言うんですの!?」

ヒマ子が緊那羅きんならに食って掛かる

「タマネギ切っててそれで目を擦ったら目が…だから京助が…」

緊那羅きんならが説明するとうんうんと一同が頷き始める

「京様が!?」

京助の名前に過敏反応したヒマ子が声を上げる

「こうやって濡れタオルで押えてただけだ;」

「うぷ;」

京助が再び濡れタオルで緊那羅きんならの顔を押えながら言った

「何するっちゃッ!!;」

京助を押した緊那羅きんならが少しよろけるとタマネギを切ったままだったまな板上の包丁が動いた


「なにしてるんですか…まったく…」

乾闥婆けんだっぱが大きな溜息をついた

「何事かと思いましたよ」

じと目で乾闥婆けんだっぱが見た先には右足の甲に包帯を巻いた京助と腕に絆創膏を二箇所貼ってる緊那羅きんなら

「第一台所で騒ぐ自体が間違っているんじゃないですか?」

乾闥婆けんだっぱが血のついたティッシュやら何やらをまとめながら少し怒った口調で言った

「ごめんだっちゃ…」

緊那羅きんならがしゅんとして謝った

「しばらくは走ったり飛んだりしないことです」

立ち上がった乾闥婆けんだっぱが京助を見下ろした

「あ~…」

京助が乾闥婆けんだっぱに向けて片手をヒラヒラさせた

「正装しないで飛び込んできたかと思うと説明もしないで手を引っ張って連れてこられてみれば…まったく…」

ゴミ箱にゴミを捨てながら乾闥婆けんだっぱがまた大きく溜息をついた

「僕だって暇なわけじゃないんですからいつもいるとは限らないんですよ?」

きつい口調で乾闥婆けんだっぱが言う

「…はい…」

緊那羅きんならが俯いたまま言った

「…さんきゅな乾闥婆けんだっぱ

京助がお礼を言うと乾闥婆けんだっぱが小さく肩で息をしてそれから戸を開けた

「もう大丈夫ですよ悠助」

廊下で待っていた悠助に乾闥婆けんだっぱが声をかけると泣きすぎてしゃっくり地獄に陥った悠助が慧喜えき鳥倶婆迦うぐばかと共に部屋に入ってきた

「義兄様大丈夫?」

慧喜が京助に聞く

「まぁ大丈夫といえば大丈夫だな;」

京助が右足を上げて言った

「貴方が本来ならば京助を守る立場なんですよ?」

「まぁまぁ;」

乾闥婆けんだっぱ緊那羅きんならに言うとそれを京助が宥める

「逆になってるじゃないですか」

乾闥婆けんだっぱの言葉に緊那羅きんならが膝の上においていた握りこぶしをぎゅっと握った

「平穏を楽しむのも駄目とは言いません…が役目を忘れては困ります」

「…はい…」

淡々と発せられる乾闥婆けんだっぱの言葉に緊那羅きんならが小さく返事を返す

「貴方の役目は見極め役と守護…わかっていますね?」

「…はい…」

乾闥婆けんだっぱの言葉に緊那羅きんならがまた小さく返事をした

「その返事…信用しますからね」

乾闥婆けんだっぱ緊那羅きんならの頭を軽く撫でて言うと緊那羅きんならがコクリと頷いた

「では僕はコレで」

緊那羅きんならの頭から手を離した乾闥婆けんだっぱがにっこり笑ってそして廊下に出た

「おーさんきゅなー」

廊下に向かって京助が言った


「…きっついね」

鳥倶婆迦うぐばかがボソッと廊下を見ながら言った

「でも乾闥婆けんだっぱは正しいこと言ってるんだよね…だって緊那羅きんならは…」

「…っわかってるっちゃ!!」

慧喜えきが言いかけると緊那羅きんならが声を上げた

「きん…なら?」

俯いたままの緊那羅きんならが大きな声を上げたのに驚いた一同が緊那羅きんならを見た

「わかってるっちゃ…私は…私は京助と悠助を守らないといけないってことは…わかってる…」

段々と声を小さくしながら緊那羅きんならが言った

「わかって…るんだっちゃ…」

ゆっくりと立ち上がった緊那羅きんならの次の行動を一同が待っている

「…ごめんだっちゃッ」

そう言って緊那羅きんならが足早に部屋を出ていた

「ごめんだっちゃって…言われてもナァ; 俺だって悪いんだし…」

緊那羅きんならが出て行った後京助が言った

緊那羅きんならなんだかムカムカしてるみたいだった」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「緊ちゃん…」

しゃっくり地獄から開放された悠助が呟いた

「ストレスでもまぁた溜めてんだろなぁ…」

京助が天井を見上げて言った


自室の戸棚を開けて緊那羅きんならが小さな箱を取り出しそして部屋のほぼ真ん中に腰を下ろした

暗くなった室内に街灯の明かりがほんのり差し込んで緊那羅きんならの横顔を照らす

「…【竜】…」

小さな箱を両手で包み緊那羅きんならが呟く

「私は貴方の意志を継げるんだっちゃ…?」

小さな箱に額をつけると緊那羅きんならの右手首の腕輪がコツンと音を立てて箱にぶつかった

その腕輪を緊那羅きんならが黙って見つめる

腕輪についているのはほんのり緑がかった宝珠と透明な宝珠が二つ

「…守る力…」

腕輪を撫でた緊那羅きんならがゆっくりと目を閉じた


「お…」

「あ…」

緊那羅きんならが部屋を出ると京助と鳥倶婆迦うぐばかが部屋の前に立っていた

「歩いて…大丈夫なんだっちゃ?」

京助の足を見た緊那羅きんならが京助に聞く

「走ったりしなきゃ大丈夫だって乾闥婆けんだっぱも言ってただろ」

京助も自分の足を見て言った

「おいちゃんの計算じゃあと4日もすれば走れるようになるよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「それより腹減ったんだよな」

きゅるぅ~っと京助の腹の虫が鳴いた

「おいちゃんも腹減った」

鳥倶婆迦うぐばかが京助の腹を見てそして緊那羅きんならを見ていった

「あ…うん…」

緊那羅きんならが返事をすると京助と鳥倶婆迦うぐばかが歩き出した

「…京助」

緊那羅きんならが京助を呼ぶと鳥倶婆迦うぐばかも一緒になって緊那羅きんならを振り返った

「なんだ?」

京助が聞く

「…私…【天】に…戻ろうと思うっちゃ」

緊那羅きんならが言った

「いんじゃね?」

京助がさらっと言う

「てか今日行ったばっかりじゃん? 忘れ物でもしてきたのか?」

ヘッと口の端を上げて言う京助を緊那羅きんならが見る

「…そうじゃなくて…その…だから…」

緊那羅きんならが京助の言葉を否定して何かを言おうとする

「まぁ後から行ってこいよ今はとにかくハラヘリだし」

京助が歩きながら言った

「母さんとかには俺が言っておくからさチャッチャと行ってこいや」

足をひょこひょこさせて歩く京助の横を鳥倶婆迦うぐばか緊那羅きんならの方を気にしながらも歩く

「…緊那羅きんなら?」

一向に足を出そうとしない緊那羅きんなら鳥倶婆迦うぐばかが声をかけた

「そう…するっちゃ」

いかにも今即席で無理して創りましたという笑顔で緊那羅きんならが言いそして小走りで京助と鳥倶婆迦うぐばかの後ろまで来ると何事もなかったかのように歩き出す

「手貸すっちゃ?」

緊那羅きんならが京助に聞く

「いいっちゃよー」

京助が笑いながら返すと緊那羅きんならが苦笑いを返した

「…緊那羅きんなら…」

鳥倶婆迦うぐばか緊那羅きんならのその苦笑いを見て呟いた


緊那羅きんなら

名前を呼ばれたのに少し驚いたのか緊那羅きんならがぴくっと肩を少し上げたあと振り向いた

「…鳥倶婆迦うぐばか…」

わいわいと騒がしい茶の間から一転静かな和室に街灯の明かりか月明かりかそれともその両方の灯りか…そんなほんのりとした明かりに照らされた二つの人影

「おいちゃんはお前のことはよく知らない」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「でもお前が役目を持ってるのは知ってる」

ずり落ちてきたのか鳥倶婆迦うぐばかが帽子をくいっと直しながら言った

「おいちゃんの計算ではお前の宝珠に完全に色がつく前に【時】はくるよ」

鳥倶婆迦うぐばかの言った【時】という言葉に緊那羅きんならが一瞬目を見開いた

「そしてお前は【役目】を果たさないといけないんだよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「それとも…迦楼羅かるらと同じ罪を負う?」

「え…?」

俯いて鳥倶婆迦うぐばかが小さく言った

迦楼羅かるらは前の【時】のとき役目を捨てたんだ…そして罪を負った」

鳥倶婆迦うぐばかがまた帽子を直した

「うん…乾闥婆けんだっぱからきいたっちゃ…でも…」

「おいちゃんも【時】は嫌いだよ」

緊那羅きんならの言葉を鳥倶婆迦うぐばかがさえぎった

矜羯羅こんがら様も制多迦せいたか様もみんなみんな笑わなくなるから」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「…うん…」

緊那羅きんならが頷く

「おいちゃんはみんなに笑っていて欲しいんだよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言った

「【天】に戻るって言ったけど…それがどういうことかおいちゃん計算してみた」

緊那羅きんならの顔が真顔になった

「緊那羅は気づいてないかもしれないけどお前の存在って凄く大きいんだ…特に京助にとっては」

「私もだっちゃ」

鳥倶婆迦うぐばかが言うと緊那羅きんならがふっと笑った

「私にとっても京助は大きい存在だから私は【天】に戻るんだっちゃ…守りたいから」

「…いいの?」

鳥倶婆迦うぐばかが聞くと緊那羅きんならがゆっくり頷いた

緊那羅きんならが今いなくなったら…」

「大丈夫だっちゃ…すぐ…すぐ戻ってくるっちゃ」

鳥倶婆迦うぐばかの頭を撫でた緊那羅きんならの腕で腕輪が光る

「だから…それまで京助と悠助を…」

撫でていた緊那羅きんならの手が鳥倶婆迦うぐばかの頭から離れた

「悠助には慧喜えきがいるよ」

鳥倶婆迦うぐばか緊那羅きんならを見た

「そうだっちゃね」

緊那羅きんならが苦笑いで言った

「朝とか本当寝起き悪いっちゃしすぐ忘れ物するっちゃから…そこらへんもお願いするっちゃ。あ、あと…」

「まだ何かあるの?」

栄野家の日常茶飯事を思い出しながら言う緊那羅きんなら鳥倶婆迦うぐばかが突っ込む

「いってらっしゃいとおかえりは忘れないで言って上げてほしいっちゃ」

「え…? あ…うん」

緊那羅きんならの言葉に鳥倶婆迦うぐばかが首をかしげながら返事をすると緊那羅きんならが笑った

「じゃぁ…頼むっちゃ」

「言っていかなくていいの?」

腕を前に伸ばした緊那羅きんなら鳥倶婆迦うぐばかが聞くと茶の間から京助の馬鹿笑いが聞こえてきた

「…でっかい笑い声だっちゃね」

その笑い声を聞いた緊那羅きんならが苦笑いで溜息をつくと緊那羅きんならの腕が何かにさえぎられたかのように消える

緊那羅きんなら

部屋に入っていくかのように消えていく緊那羅きんなら鳥倶婆迦うぐばかが声をかけた

「いってらっしゃい」

鳥倶婆迦うぐばかが言った


「京助!! アンタまた靴下投げ出してッ!!」

土曜日母ハルミの声が栄野家に響いた

「今片付けるってんだろッ!!」

それに負けじと劣らない京助の声も響く

「今今ってアンタの今はいつなのッ1!」

「今ったら今しかねーじゃんッ! 俺だって一人しかいねぇしやってることあんだからそんなすぐできるわけねーじゃんッ!!」

「脱いですぐ洗濯機に入れておけば一回で事がすむでしょ!? まったく…」

母ハルミと京助の声が交互に響く

「…今日コレで6回目だね」

鳥倶婆迦うぐばかがボソッと言う

緊那羅きんならいなくなってからまだ一日もたってないのに」

そう言いながら鳥倶婆迦うぐばかがチラッと横を見ると慧喜えきの膝の上に座っている悠助がつまらなそうな顔をしている

「なんだか…イヤなんだやな」

でべろ~っとうつ伏せに伸びたコマが言った

「自分の家なのに居心地わるいんだやな」

イヌも同じく言う

「なんでなんだろう…俺もそう」

慧喜えきが悠助の頭に頬ずりをして言う

「おいちゃんの計算では緊那羅きんならがいないからだよ」

そんな面々に鳥倶婆迦うぐばかが言った

「だって前は緊那羅きんならがいなかったんだやな」

起き上がったイヌが言う

「そうなんだやなでもこんなに居心地悪くなったことは…」

コマが言うとイヌが頷く

「まったく…ホラホラコマもイヌも! だらだらしないの!!」

茶の間に入ってくるなり母ハルミがコマとイヌに向かって言った

「ハルミママ…」

そんな母ハルミを見て悠助が眉を下げた

「こんな嫌な空気…主がいなくなったとき以来なんだやな…」

コマがボソッと呟いた


「面白いことになるかも」

栄之神社の鳥居の上クスリと笑みを浮かべ腰掛けているのは白い布を纏った誰か

伸ばした黒い腕には黒い玉で作られた数珠の様な腕飾り

「待ってるだけじゃ…いつになるかわからないし…また少し突付いてもいいかもね」

口元に笑みを浮かべたその誰かが耳から外したのはオレンジ色のフサ飾りがついた黒い耳飾

「ね…? 京助…悠助」

そしてその耳飾を鳥居の下に落とした


バチッ!!!


「な…」

落とした耳飾が何かにはじかれ石段をカツンカツンと音を立てながら落ちていく

「…結界…へぇ…あんな風になってまで守るんだね」

感心したような口調で言うとフワリと体を浮かせ転がり落ちた玉の元に着地すると玉を拾い上げる

「竜」

呟いたその言葉には憎しみ嬉しさその他イロイロな感情が込められて聞こえた

「京助!!」

母ハルミの声が再び響いた

「なんだよッ!!」

ソレに対してまた京助の怒鳴り声が返される

「でも…今回は手を出さなくてもいかもね」

母ハルミと京助の親子口げんかを聞いたその人物が耳飾を耳に付け直して呟く

「さぁ…どうなるかな?」

楽しそうに言うとすぅっとその人物は姿を消した


「京助が変?」

電話の子機を持ったまま中島がソファに腰掛けた

『そーヒマだから遊ばね? って電話したらさー不機嫌極まりない声で断られたんだよねぇ』

困ったようなでもどことなく楽しそうな南の声が受話器の向こうから聞こえた

「お前またふざけてからかったんじゃねーの?;」

南のいつもの行動から予測したのか中島が苦笑いで聞いた

『んな人がいつもギャグ路線行ってるような言い方すんなよなー…; でも…マジで変だぞ京助』

前半は笑って言っていた南の声が後半少しシリアスになった

「…お前がそういうなら変なんだろな」

中島がソファの背もたれから体を起こして言う

『どういう意味だそりゃ;』

南が突っ込む

「お前って何かしろ細かいこと気づくからさー…坂田には?」

『…まだ言ってない』

中島が言うと南が少し黙った後言った

「そか…とりあえず京助ン家で集合しねぇ? お前坂田つれてこいや」

反動を軽くつけて立ち上がった中島が尻を掻きながら子機の充電器の所まで歩く

『押しかけて大丈夫かね?』

南が聞く

「原因究明だろ?」

中島が言う

『事件は学校でおきているんじゃない!! 栄野家で起きているんだ! 的ですか』

南が言った

「まぁそんなトコ? 滑る大捜査線とでも仮につけとけ」

『ヒャー!! マイッタネ! 了解了解…じゃ石段の下で逢引ね柚汰さん』

南が笑いながら言うと電話が切れた

「…なんかあったな」

プープー…という電子音が出る子機を見つめて中島が呟いた


「土曜日に 起こされ何事 京助さん」

いつもは結っている髪をざんばらに解いた頭のまま坂田が石段の上を鳥居を見上げた

「お前よく即席で俳句できるよなぁ;」

中島が言う

「ソレより今は京助でしょ; …ラムちゃんに聞けばわかるかな」

南が石段に足をかけた

「お? コマイヌコンビじゃん」

同じく石段に足をかけた坂田が石段を上から降りてくる二匹を見て言った

「おーぃコマイヌー!!」

中島が二匹を呼ぶと気づいたのか3馬鹿に向かって二匹が石段を駆け下りてきた

「3馬鹿なんだやな」

コマが言う

「そうなんだやなん~…てか京助いる?」

南が二匹の独特の口調を真似して聞いた

「…いるんだやな…でも…」

「でも?」

答えたイヌに坂田が突っ込む

「凄い機嫌悪いんだやな」

「やっぱ?」

コマが言うと中島も言う

「原因は何なワケ?」

南がしゃがんでコマイヌと目線を合わせて聞いた

「…京助だけじゃないんだやな…家全部が不機嫌なんだやな」

しゅんと尻尾を下げてイヌが言う

「家…ってハルミさんも悠も?」

坂田が聞くとコマイヌが揃って頷いた

「親子喧嘩?」

南が聞くと今度は二匹揃って首を振った

「違うんだやな…緊那羅きんならがいなくなったんだやな」

「へー…緊那羅きんならがねぇ…いなく…」

イヌが言った言葉を何気なく聞いて次に移ろうとした3馬鹿が数秒間止まった

「…緊那羅きんなら【天】に帰ったんだやな」

コマが石段を見上げて言った

コマイヌの話を聞いた3馬鹿が顔を見合わせると揃って頷いた

「そかそか…原因は解明したな」

坂田が納豆ゴムで髪の毛を束ねながら言った


【解説しよう。「納豆ゴム」とは俗に言う布などでコーティングされていないただのゴムのことをいうのである】


「で? ラムちゃんはいつかえってくるのさ?」

南がコマイヌに聞く

「知らないんだやな」

「…つかえねぇ;」

イヌが言うと南が溜息をついた

「山口さん家のツトムくんよりタチが悪いかもよ?;」

南が中島と坂田を振り向いて言う

「えーいのさん家の京助くん~このごろ少し変よ~ってかぁ? …こりゃ…どうしますか?;」

中島がワンフレーズを歌い終わった後聞く

「どうするっても…」

坂田が顎に手を添えて考え込む

「でもなんだって急にラムちゃん帰っちゃったんだろね」

南が言った

「あんだけ京助を守る守る言ってたのに…愛想尽きたとか?」

「違うよ」

南の言葉に石段の方から突込みが入った

「ばかなんだやな」

鳥倶婆迦うぐばかだッ!! …守りたいから緊那羅きんならは【天】に戻ったんだ」

コマの言葉を怒鳴り半分で訂正したあと鳥倶婆迦うぐばかが言った

「守りたいから帰ったって…どゆこった?」

中島が聞く

緊那羅きんならは弱い」

鳥倶婆迦うぐばかが言った

「ソレが緊那羅きんならはイヤだったんだよ弱かったら京助も悠助も守れないだから緊那羅きんならは帰ったんだ」

鳥倶婆迦うぐばかが一通り言い終わると3馬鹿がほぼ同時に石段を見上げた

「でも…おいちゃん思うんだ…たしかに緊那羅きんならは力は弱いかもしれないけど緊那羅きんならにしかできないことがあるよねって。緊那羅きんならだけにしかできないこと…おいちゃんだけにしかできないこときっとあるよねって」

今度は3馬鹿が揃って鳥倶婆迦うぐばかを見た

「…いいこと言うじゃんばか」

坂田が言った

鳥倶婆迦うぐばかだッ!」

キーキーと鳥倶婆迦うぐばかが喚く

「ゼンにしかできないこともあるんだやな?」

「ゴにもあるんだやな?」

鳥倶婆迦うぐばかの言葉を聞いていたコマイヌが半分ハモりながら聞いてきた

「みんなにあるんじゃないかと俺は思う」

中島が言った


「解決!!」

坂田がパンッと手を叩いた

「栄野家に渦巻くこのムカムカパラダイスな空気を排除できるのは緊那羅きんならだけだと思います」

そして人差し指を立てて言った

「俺等にはたぶん無理だろな」

中島も同意した

「そう考えるとラムちゃんの力ってすげくね?」

南が言う

「おいちゃんもそう思う」

鳥倶婆迦うぐばかがずり落ちてきたのか帽子を直しながら南の言葉に頷いた

「おいちゃんは緊那羅きんなら好きだよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言った

「京助もお前等も好きだよ」

「…ど…ドウモ」

3馬鹿とコマイヌに向けて鳥倶婆迦うぐばかが言うと中島が何故か照れながらお礼らしき言葉を返した

「だからおいちゃんはみんなに笑っていて欲しいんだ」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「だから…」

そしてキュっと帽子を掴んでお面の顔を上げた

「おいちゃんが緊那羅きんならを連れて帰ってくる」


足に巻かれた包帯をただ黙って見ていた京助がずるずると足を延ばして最終的に仰向けに寝転がった

「気にしすぎなんだよ…」

ボソッと言うと鼻から息を出した

「ばかやろ」

「貴方に言われたら緊那羅きんならも終わりですね」

自分しかいないと思って吐き出した言葉に突込みが入ったことに京助が驚き体を起こした

「け…」

「いつも以上に阿呆な顔してますよ京助」

乾闥婆けんだっぱがにっこり笑いながらもいつものように毒舌で言った

「おま…なんで…」

緊那羅きんならの代わりに来たのか…と思っているなら外れです」

「あ…さいですか…;」

京助が聞こうとしたことに対し京助が聞く前に乾闥婆けんだっぱが答えた

「…き」

緊那羅きんならは元気ですよ表向きは」

「あ…そですか;」

またも乾闥婆けんだっぱが京助が聞こうとするより先に答えた

「…京助」

乾闥婆けんだっぱが小さく京助を呼んだ

「なん…」

返事を返そうとした京助の頬に薄水色のピョン毛が触れた

「繰り返さないでください…【時】を」

「な…乾闥婆けんだっぱ?;」

京助に抱きついた乾闥婆けんだっぱが静かに言った

「変えてください【時】を…悠助と共に…もうあんな【時】は最後にしてください」

「…それ鳥類…迦楼羅かるらにも言われたような気がする…」

抱きつかれたまま話を聞いていた京助が言った

「【時】の犠牲者は僕等で最後にしたいんです…だから…」

顔を上げた乾闥婆けんだっぱを見た京助が一瞬止まった


『変えてください』


乾闥婆けんだっぱと被って見えたのは黒髪の少女

そして乾闥婆けんだっぱの声と聞いたことのない少し高い少女の声がハモって聞こえた

「…乾闥婆けんだっぱ?」

数回瞬きをして目を擦った後京助が目の前にいる人物を確認するかのように呼びかけた

「なんです?」

乾闥婆けんだっぱが返事をするとどこかほっとしたように京助が息を吐いた

「いや…なんでもねぇ」

京助が言った


「京助貴方は今自分に負けています」

京助から離れた乾闥婆けんだっぱが真顔で言った

慧喜えきと出会ったときの悠助と同じ…」

「は?」

乾闥婆けんだっぱが京助を真っ直ぐ見る

「悠と…ってどーゆう…」

「心の拠所がない状態です」

京助が聞くと乾闥婆けんだっぱが即答した

「悠助にとっての貴方が今の貴方にとっての緊那羅きんならなんです」

乾闥婆けんだっぱが言う

「あの時の悠助は貴方という存在をなくしたと思って慧喜えきに心を壊されたの…覚えていますか?」

「…まぁ…うん…」

「今貴方の心を壊すのは簡単ですよ」

乾闥婆けんだっぱがキッパリと言った

「んなコトねぇだろ;」

ゴス

ソレに対し京助が笑いながら返すと思い切り頭にチョップを食らった

「ってぇッ!!;」

「んなことあるから言ってるんです」

少し睨みのきいた笑顔で乾闥婆けんだっぱが言う

「自分の弱さに気づいてください」

乾闥婆けんだっぱが言うと京助が黙った

「弱さとか強さとか…わけわかんなくなってきた」

京助がボソッと言った

「弱くたっていいじゃん強くたっていいじゃん」

さっきより少し大きな声で京助が言う

「強さも弱さも全部ひっくるめての自分だろ」

そして今度ははっきりと聞き取れる声で言った

「受け入れる受け入れないじゃなくてそう見えたらソコは俺の弱さなんだから仕方ねぇじゃん」

乾闥婆がきょとんとした顔をしたまま止まった

「人に言われるがまま自分を直して言ったら俺じゃなくなるじゃん」

京助が言う

「だから俺はコレでいいのだ」

フンっと鼻から息を出した京助を見たまま乾闥婆けんだっぱはまだ止まったままだった

「…ソレが貴方の強さですね…」

小さく乾闥婆けんだっぱが言った

「全てを認めて受け入れる…貴方も悠助も…だから人が集まる」

すっと乾闥婆けんだっぱが立ち上がって窓口へと歩き出しそして

「入ったらどうです?」

そう言いながら窓をガラっと開けた

「鳥類か?」


「ピーヨピヨピヨー」

「アホーバカーボケー」

「ホーホケキョ」

京助が言うと聞こえて来たのは鳥 (?)の泣き声をまねする聞き覚えのある声

「お引取りください」

ガシッと京助が閉めようとした窓を3馬鹿が掴んで閉めさせまいとする

「さーんばっかさーんッ!! おっかえんなさいッ!!;」

京助が歌いながら窓を閉めようとするのに対し

「えーいのさんちの京助君! こんごろすこっしへんよー!!」

南の歌にあわせて3馬鹿が京助とは逆方向に窓を引っ張る

「壊れますよ」

そんな光景を見ていた乾闥婆けんだっぱが冷静に突っ込んだ

緊那羅きんならがいないからってグレるなよー!」

中島が言った


ガラッ!!!


「ぉうわッ!!;」

京助がいきなり力を弱めたことで3馬鹿が揃って前のめりにコケた

「さすが旧知の仲といいますか…ばれてますね」

乾闥婆けんだっぱが言う

「ばかから聞いたぜ? 緊那羅きんなら帰ったんだって?」

坂田が言った

「あんやろ;」

京助が口の端を上げた

「お前って素直なのか素直じゃねぇのか今だわからねぇよな;」

中島が言う

「ソレが俺だ」

京助が胸を張って言った

「開き直んな;」

南がジャンプして京助の頭を叩いて突っ込む

「元気そうじゃん」

坂田が言う

「枕をぬらしてる儚げな姿でも想像してたのですかァン?」

京助が言った

「うぐっちゃんから聞いてたのはムカムカしてるお前のことだったからさーてっきりキレてるのかと思って様子見てたわけよ」

南が言う

「そういやばかは?」

さっきから話には出てくるものの姿が見えない鳥倶婆迦うぐばかのことを京助が3馬鹿に聞く

「あー緊那羅きんなら迎えにい…」

中島がソコまで言うと今まで黙っていた乾闥婆けんだっぱが驚いた表情で窓枠に掴みかかった

鳥倶婆迦うぐばかが何ですって!?」そして中島の胸倉を掴むや否や声を荒げて聞いた

「ど…どうしたよ乾闥婆けんだっぱ;」

押しのけられた京助が乾闥婆に聞く

鳥倶婆迦うぐばか緊那羅きんならを迎えに行ったんですか!?」

ガクガクと中島を揺すって乾闥婆けんだっぱが更に聞く

「そうだって!; そうだからなしたんだよ!!;」

乾闥婆けんだっぱの手を押えながら坂田が言った

「…ッ!! なんてこと…」

中島の胸倉を離した乾闥婆けんだっぱが其の手を握り締めた

「…何か…ヤヴァイのか?;」

京助が恐る恐る聞いた


「最悪…命を落とします」

窓枠にかけていた足を下ろした乾闥婆けんだっぱが真顔で言うと3馬鹿と京助が顔を見合わせた

「…マジで?」

乾闥婆けんだっぱが言った不吉な言葉に対し坂田と中島がほぼ同時に言った

「僕は嘘は嫌いです」

ソレに対し乾闥婆けんだっぱが真顔で返す

鳥倶婆迦うぐばかは【空】緊那羅きんならがいるのは【天】…分けられているということはいくら貴方達が馬鹿だといっても名前でわかりますよね?」

乾闥婆けんだっぱが言うと3馬鹿と京助が頷く

「…そして今は【時】がくるという時…忘れているかもしれませんが僕等【天】と【空】は敵対する存在です」

「そうなのか?」

「…さぁ;」

乾闥婆けんだっぱの説明を聞いた中島が京助に聞くと京助が顔をそらしながら答えた

「覚えている期待はしていませんでしたよ」

乾闥婆けんだっぱが笑顔で言った

「そっか! わーった! 【時】が来るから敵対心が上昇してるんだぁな!!」

南が言う

「そうです」

乾闥婆けんだっぱがにっこり笑顔を向けた

「わーぃ!! ほっめられたー」

南が万歳をして喜ぶ

「そんな中【空】の鳥倶婆迦うぐばかが【天】に行ったらどうなります?」

南に便乗して万歳三唱をやっていた3馬鹿と京助に乾闥婆けんだっぱが言った

「…どうって…」

両手を半分上げたままで京助が3馬鹿の顔を見渡した

「…ヤヴァイ?」

両手を挙げたままで坂田が言う

「少なくとも無傷で…とはいかないでしょうね…」

乾闥婆けんだっぱが踵を返して腕を前に出した

「俺も行く」

乾闥婆けんだっぱの肩を京助が掴んだ

「駄目です」

乾闥婆けんだっぱがきっぱりと断った

「俺等も行く」

窓からよじ登ってきた3馬鹿が靴を手に乾闥婆けんだっぱの周りに集まった

「駄目だって言ってるでしょう?」

乾闥婆けんだっぱが少し睨みを入れて3馬鹿と京助を見渡した

「俺らは【空】のヤツじゃないだろ」

坂田が言う

「俺等だって立派な関係者だもんね」

「無関係という最強の関係者だな」

南が言うと中島も言った

「貴方達にこの扉が見えますか?」

乾闥婆けんだっぱが聞いた

「見えるならば危険を承知で連れて行きます」

乾闥婆けんだっぱが指差す方向を見た3馬鹿と京助が少し止まった


「…見えないでしょう?」

しばしの沈黙を破って乾闥婆けんだっぱが言った

「おとなしく待っていてください」

乾闥婆けんだっぱが腕を伸ばすとその腕がすぅっと消えた

「最善をつくし…っ!?;」

言いかけた乾闥婆けんだっぱの消えかけた腕を京助が掴んだ

「俺だって【時】の関係者なんだろ? つれてけったらつれてけッ!!」

「離して下さいッ!!;」

ブンブン腕を振って京助の手を振り解こうとする乾闥婆けんだっぱを3馬鹿が押えた

「つれてけ~つれてけ~」

まるで置いていけ堀の怪談を髣髴させるように3馬鹿が呪文のように繰り返す

「駄目ですッ! 離して下さいッ!!」

「やかましいッ! 行くったら…行くってんじゃんかッ!!!」

京助が声を上げると3馬鹿が目を見開いて乾闥婆けんだっぱから手を離した


「…きょ…うすけくん?;」

中島が恐る恐る京助の名前を口にした

「んだよ」

京助が返事をする

「京助…だよな?」

南が京助の顔を覗き込むようにして聞く

「そうだからなんだよ;」

京助が言う

「…京助…貴方…」

3馬鹿と同じようにして乾闥婆けんだっぱも大きな目をさらに大きくして京助を見た

「その…背中…」

「はぁ?;」

乾闥婆けんだっぱが言うと京助が自分の背中を見ようとして体をねじった

「…ぉぉお!!?;」

そして声を上げた

「なんだコレ!!;」

しかし京助が驚いたのは3馬鹿と乾闥婆けんだっぱが見ているものではないらしく

「なんだって…お前…」

全然別のものを見て驚いているらしい京助と同じ方向に坂田が目をやってそして止まった

「…教室…の…」

中島が言う

「戸…だよ…オイ;」

中島の言葉に南が付け足して言った

「いつの間に俺等学校に…? …じゃない…ココ京助の部屋だ…よ!!;」

坂田が周りを見渡して言う

「貴方達…もしかして…扉が見えて…?」

乾闥婆けんだっぱが驚いた顔で言った

「がらっと」

「んぎゃー!; 開けたよオイ!!;」

京助が戸を開けると坂田が叫んだ

「…開けた…?;」

乾闥婆けんだっぱが更に驚いて言う

「…コレが【天】だかに行く戸かい…教室の戸とソックリだな」

中島が戸に近付いていった

「扉は…それぞれ異なる姿で見えるのです…一番印象の強い扉の姿で…」

乾闥婆けんだっぱが言う

「俺らにとって一番頭の中にある扉は教室の戸である…」

坂田が言った

「それより…京助…」

「あ?」

乾闥婆けんだっぱが京助に声をかけると3馬鹿も京助を見た

「貴方の背中…に…その…」

「だからなんだよ;」

乾闥婆けんだっぱがどう説明していいのか迷っていると

「激写」

パシャッという音がして坂田が携帯のカメラで京助の背中を撮った

「…見てみ?」

そして画像を確認すると京助にソレを向けた

「…何コレ…;」

携帯のカメラ画像を見た京助が少し間を置いて言った


「…悠助…?;」

「何?」

ほぼ同時刻

茶の間で悠助の耳掃除をしていた慧喜が手を止めて悠助に声をかけた

「どうしたの慧喜えき?」

信じられないという表情で悠助の顔ではなく上半身に目を向けている慧喜えきに今度は悠助が声をかけた

「…なんなんだやな…;」

コマが言う

「…コレは…」

イヌもポカンとした阿呆顔で身を起こした悠助の背中を見た


坂田が見せた携帯の画面に写っていたのは京助の背中と

「…羽根かコレ;」

自分の背中を写したっぽいその画面を見て京助が聞くと一同が頷いてそのあと首をかしげた

「でも半透明…ですね」

乾闥婆が恐る恐る京助の背中にあるという半透明っぽい羽根らしきものに手を伸ばすと廊下を騒がしく全力疾走してくる足音が近付いてきてそして


スッパァ---------------------------------------------------ン!!!!!


「義兄様ッ!!」

部屋の戸を勢いよく開けたのは小脇に悠助を抱えミニのスカートから少し下着を覗かせた慧喜えき

「…紫」

そんな慧喜えきを見て中島が呟いた

「悠助の背中……義兄様…それ…」

部屋の中を見た慧喜えきが京助で視線を止めて言った

「何~?」

モゾモゾと慧喜えきの小脇から抜け出た悠助が部屋の中に入る

「悠にも…でてんぞ;」

坂田が悠助を見て言った

「京助背中から何か出てるよ~?」

「お前もでてんぞ悠;」

悠助が言うと京助も言う

「コレは…一体…」

乾闥婆けんだっぱが京助の背中の半透明の羽根っぽい物体に触った

「天使の羽じゃないねぇ; どう見ても」

南が言う

「どっちかっていうと…悪魔ってか…爬虫類の羽」

坂田が言った

「竜…」

乾闥婆けんだっぱが呟いた

「でもまだ不完全ですね…半透明ですし…」

乾闥婆けんだっぱが今度は悠助の背中に目をやった

「感覚とかわかるのか?」

中島が京助に聞いた

「全然…」

京助が何とか自分の背中を見ようとさっきから体をひねっている

「消えるのか? コレ; 明後日までに消えないと学校とか…どうするわけ?」

南が言う

「…そもそもどうして急に…」

慧喜えきが悠助の隣に来て首をかしげた

「…まだ扉は見えてますか京助」

乾闥婆けんだっぱが聞くと京助が教室の戸によく似た扉が立っている方向を見た

「あるよな」

京助が言うより先に中島が言った

「アンタ達も見えてるの!?;」

慧喜えきが驚いた顔で言う

「何でココにどこでもドアがあるの?」

悠助が戸がある方向を見て言った

「…悠にはドラえもんのどこでもドアに見える見たいだねぇ」

南がハッハと笑った

「悠助まで…」

乾闥婆けんだっぱが多少混乱しているっぽい顔で言う

乾闥婆けんだっぱ…これって…」

慧喜えき乾闥婆けんだっぱを見た

「この羽根はおそらく【時】の力ではなく【竜】の力でしょう…」

乾闥婆けんだっぱが言う

「何らかの引き金で京助と悠助の中の竜の血…力が少しだけ目覚めた…と考えるのが最有力だと…確信はありませんが」

乾闥婆けんだっぱが言うと京助と悠助が顔を見合わせた

「じゃぁ何か? その…京助の親父さんの力が全部目覚めちゃうと京助と悠ってウロコとか生えちゃうわけ?」

坂田が言う

「そんでこの辺からツノがにょーんって?」

南も言う

「そしてアレか7個の玉集めて召喚されるのか」

中島が〆た

「…お前等の願い事はぜってぇ叶えてやらん」

京助が言う

「にしても…何故…」

乾闥婆けんだっぱが悠助の羽根を見て呟いた

「鳥さんとかわかんじゃないの?」

南が言う


迦楼羅かるら? ……!!」

南に突っ込まれて少し考え込んでいた乾闥婆けんだっぱがハッとして顔を上げた

「こんなことしてる場合じゃないじゃないですか! 鳥倶婆迦うぐばかが!!」

乾闥婆けんだっぱが先の問題を思い出して扉の方に体を向けた

鳥倶婆迦うぐばかが?」

慧喜えきが聞く

緊那羅きんならを迎えに【天】に…急がないと…」

乾闥婆けんだっぱの言葉を聞いた慧喜えきの顔つきが変わった

「な…それ本当!?;」

慧喜えきが声を上げる

「僕は嘘は嫌いです」

乾闥婆けんだっぱがキッパリと言い切った

「お二方に…!!」

慧喜えきが指にはめていた指輪に手を添えると一瞬にして摩訶不思議服に変わった

「事を大きくしないでください」

扉に入ろうとしていた慧喜えきの肩を乾闥婆けんだっぱが掴んだ

「でも!!」

「僕が何とかします」

慧喜えきの肩を軽く後ろに押して乾闥婆けんだっぱが扉の中に入ろうと…


「約束だぞん」

して坂田に肩を捕まれた

「扉が見えたら危険を承知で連れてくんでしょ?」

南が乾闥婆けんだっぱに並んだ

「うそは嫌いなんだよな?」

中島が言う

「じゃ…レッツラ!!」

京助が言うと乾闥婆けんだっぱが大きな溜息を吐いた

「…わかりました」

乾闥婆けんだっぱが顔を上げて3馬鹿と京助を見渡した

「ただし…僕から離れないでください」

乾闥婆けんだっぱの言葉に3馬鹿と京助がこれから初めての遠足にでも行くような幼稚園児の見せる笑顔で頷いた

「…不安;」

顔をそらして乾闥婆けんだっぱが呟いた

「僕も行きたい~!」

悠助が言った

「悠助はココに残っててください」

乾闥婆けんだっぱが悠助に言った

「京助達ばっかりずるいよー! 僕も行きたい行きたいー!!」

悠助が地団太を踏んで行きたさを主張する

「悠」

京助が悠助に声をかけた

「俺達は遊びに行くんじゃないんだぞ? 緊那羅きんならをつれてきて鳥倶婆迦うぐばかを助けに行くたいっ…せつな使命を負って行くんだ」

悠助の頭に手を置きながら京助が言うと3馬鹿も頷きその光景を乾闥婆けんだっぱが胡散臭そうな顔で見る

「…そんな大事なことしに行くのにウキウキ気分にみえるんだやな」

ゼンの姿になったコマが突っ込むと3馬鹿と京助の肩がぴくっと動いた

「ココから力が流れてきてるんだやな」

ゴの姿になったイヌが開いている扉を見て言う

「お前等にも見えてるって…いうの?;」

慧喜えきが驚きの顔で言った

「これは…間違いなく京助と悠助…いえ…竜の力ですね」

乾闥婆けんだっぱがゼンゴを見た後京助と悠助に目を向けた

「あったかいんだやな」

ゴが深く息を吸ってしみじみと言う

「懐かしいんだやな」

ゼンも同じく言った

「主」

そして二人揃って京助と悠助を見るとおすわりのポーズで頭を下げた

「ぉぉお?;」

いきなり今までされたことのない行動をされて京助が少し後ずさる

「栄野の前後は我等が御守りいたすんだやな」

ハモって言うと二人が顔を上げた

「今まで散々馬鹿にされてきただけにいきなりそうされるといくら俺でもどうすりゃいいのか混乱すんですけど;」

京助が言う

「我等ゼンゴは主の思いのままに」

京助の混乱をヨソにゼンゴが続けると悠助がしゃがんでゼンゴと目線を合わせた

「ゼンとゴなんだか知らない人みたいだよ?」

悠助が言った

「竜の力が目覚めた貴方達が新たな彼らの主…」

乾闥婆けんだっぱが言う

「よくわかんないけど…今まで通りがいいな」

悠助が満面の笑顔で言うと京助を見上げた

「…なぜ俺を見るか; …まぁ…でもそうだな…お前等に敬語程似合わねぇモンはねぇわな」

京助が言うとゼンゴが顔を見合わせてニーっと笑った

「やー!! 悠助と京助ならそういってくれると思ってたんだやなー」

ゴが背伸びをして立ち上がった

「堅ッ苦しくて肩凝ったんだやなー; ふぃー」

ゼンが肩をグルグル回して同じく立ち上がる

「そうそうお前等はそうじゃないとねー」

南が言う

「一応式としての礼儀だったんだやな」

ゼンが言った

「でも主もコレは嫌いだっていってたんだやな。やっぱり血筋なんだやな~」

ゴが京助と悠助を見て言う


「おい!! すげぇ!」

中島が声を上げると一同揃って中島の方を見た

「街があった街!!」

「な…何してるんですかッ!;」

坂田が言うと乾闥婆けんだっぱが怒鳴った

「だってお前等トロイんだもんよー好奇心の塊の男子中学生はやめられない止まらない」

中島が言う

「…殴りますよ?」

乾闥婆けんだっぱがにっこり (怖い)笑顔で言うと坂田と中島が引きつった笑顔で戻ってきた

「…では貴方達はココで悠助と慧喜と共にいてください」

「ゴがお前等とともにいくんだやな」

乾闥婆けんだっぱが言うとゴが京助の隣に立った

「我等ゼンゴは絶対二対の存在なんだやな」

ゼンが悠助の隣に立って言う

「離れていても二対は離れない存在なんだやな…だからもし何かあって扉が開かなくても大丈夫なんだやな」

ゴがニーっと笑って京助を見上げた

「…不吉な事言わんどけ;」

京助がゴのデコに軽くチョップを落とした


緑の布が窓にかかりソレが風か何かでふわっと持ち上がった

「何イライラしてんよ」

声をかけられ振り向いた緊那羅きんならの目に入ったのは戸口に腕をかけてこちらを見ている阿修羅あしゅら

「別にイライラなんてしてないっちゃ」

足早に阿修羅あしゅらの前を横切ると緊那羅きんならが椅子に腰掛けた

「自分の部屋なのに他人の部屋にいるみたいやよ?」

阿修羅あしゅらが部屋に入ってきて緊那羅きんならの部屋だというその部屋を見渡した

「…そんなこと…ないっちゃ」

緊那羅きんならも部屋の中を見渡して言う

「お前さんがコッチきてマゴッチョは喜んでるみたいだけどな」

阿修羅あしゅらが言った

「…そんなんで本当いいのかぃ」

俯いたままの緊那羅きんなら阿修羅あしゅらが聞いた

「私は…京助と悠助を守らないといけないんだっちゃ…だから私は強くならないといけないんだっちゃ」

俯いたまま緊那羅きんならが言う

「だからってきて早々こんな調子じゃァな」

阿修羅あしゅら緊那羅きんならの頭に手を置いた

「頑張るってのと無理するってんは似てても違うんやよ?」

「私は別に無理なんか…」

「してるだろが」

トントン拍子の会話が阿修羅あしゅらで始まり阿修羅あしゅらで終わった

「気になってる顔しとんもの」

阿修羅あしゅらが言う

「別に私は洗濯してこなかったこととか牛乳の賞味期限とか京助の…あ…し…」

顔を上げて実は気になっているっぽい事をあげていっていた緊那羅きんならが京助の足の怪我を思い出して言葉を止めた

「…お前はヨシコに比べて自由なんやよ緊那羅きんなら

再び俯いた緊那羅きんなら阿修羅あしゅらが言う

「…私は…」

膝に置かれた緊那羅きんならの手がぎゅっと握られた

「私はどうしていいかわからないんだっちゃ…強くなるために帰ってきたのに…こっちが本当に帰ってくるべきところなのに…あっちに…京助の家に帰りたい…んだっちゃ」

途切れ途切れに緊那羅きんならが言うと阿修羅あしゅらがふっと笑った

緊那羅きんなら

阿修羅あしゅらが名前を呼ぶと緊那羅きんならが顔を上げた

「力ってのは目に見えるもんだけじゃなかってさ…イロイロ力にもあるんきに」

阿修羅あしゅらが言った

「お前だけの力…たぶん気づいていないのはお前だけだとおもうんよ」

阿修羅あしゅらが言うと緊那羅きんならがきょとんとした顔をした

「私だけの…力…?」

緊那羅きんならが自分の腕にある腕輪を見た

緊那羅きんならの力は凄いとおいちゃんは思う」

「そうそう緊那羅きんならの…」

はたと阿修羅と緊那羅が止まった

緊那羅きんならがいなくなったってだけでアッチ凄いことになってるんだよ」

コツコツと足音をさせてココで聞こえてはいけない声が聞こえた

「う…」

同時に振り向いた阿修羅あしゅら緊那羅きんならが目を大きくさせて口を開いた

鳥倶婆迦うぐばか-------------------------!!!?;」

そして揃ってその名前を叫んだ


「すっげぇー…」

坂田が本気で驚いているという声を上げた

「ココが【天】だかいうトコ?」

南が乾闥婆けんだっぱを見て聞いた

「そうです」

乾闥婆けんだっぱが答えた

「ぶちゃけ聞くけどココってやっぱ【天】っていうくらいだから空の上なわけ?」

中島が聞く

「そういうわかではありません…どこにあるかは誰もが知っていてどこにあるのかは誰も知らない…僕もそう聞きました」

乾闥婆けんだっぱが言う

「まっくら森みたいだねぇ…まくらも~り~はぁ~」

南が歌いながら足を踏み出した

扉をくぐった前に見えたのは白と赤の門

その向こうには街並みが見えそしてその更に向こうには大きな建物が霞んで見えていた

「アソコまで行きます」

乾闥婆けんだっぱがその巨大な建物を指差した

「遠ッ!!;」

坂田が言う

「貴方達がいるから正道を通れないんです」

乾闥婆けんだっぱがにっこりと笑顔で (少しドスの聞いた声で)言った

「正道を通れば扉を出ればすぐ宮だったんですけど」

乾闥婆けんだっぱの言葉がサクサクと3馬鹿と京助とゴにまるで生け花の花のごとく突き刺さっていく

「いいですか? 決して僕から離れないでください」

乾闥婆けんだっぱが念を押して強く言うと3馬鹿と京助そしてゴが頷いた


「ばか…お前…;」

阿修羅あしゅらが口をパクパクさせてやっとのことで一言言葉を出した

鳥倶婆迦うぐばかだッ!!」

そんな阿修羅あしゅらに鳥倶婆迦がキーキー言う

「そんなんどうでもいいんわ!; 【空】のお前がココに来たことバレたらエッライことなんぜよ!!?;」

阿修羅あしゅらが怒鳴った

「よく…宮司に引っかからなかったっちゃね…【空】の血に過敏に反応するっちゃのに」

緊那羅きんならが言うと鳥倶婆迦うぐばかが止まった

「いや、そりゃ…鳥倶婆迦うぐばかの得意な計算ででろやな?」

そして途端慌てだした阿修羅あしゅら

「…おいちゃんは特別だから」

鳥倶婆迦うぐばかがクイッと帽子を直した

「…?」

二人の行動に緊那羅きんならが首をかしげた

「コレがおいちゃんの力でと思っていいよ」

鳥倶婆迦うぐばかが言う

「どんな小さなことでもその人の力だろ?」

「よく言ったばか!!」

鳥倶婆迦うぐばかの言葉に阿修羅あしゅらが嬉しそうに言った

「一つの大きな力もいいけど沢山の小さな力でも力には変わらないよ緊那羅きんなら

「…鳥倶婆迦うぐばか…」

緊那羅きんなら鳥倶婆迦うぐばかのお面顔をじっと見た

「大きな力だって小さな力が合わされば大きな力になるんじゃない? だって1+1は小さくならないよ」

表情が変わらないお面の鳥倶婆迦うぐばかが言った

「京助には緊那羅きんならが必要なんだ」

「私…」

緊那羅きんならが眉を下げた

「一人でやろうとしないこった」

阿修羅あしゅら鳥倶婆迦うぐばかの頭に手を置いた

「竜のボンの体を守ることはオライにも手伝えるんけどな…竜のボン…の上の方の心を守れるのはお前しかいないと思うんぜよ」

阿修羅あしゅらの言葉に緊那羅が少し驚いた顔を上げた

緊那羅きんならがいなくなって京助凄くムカムカしてた」

鳥倶婆迦うぐばかが京助の様子を伝えた

「それだけ緊那羅きんならは大きい力なんだよ京助にとって」

鳥倶婆迦うぐばかの言葉に緊那羅きんならが少し顔を赤らめてそして腕輪を見た

「…私は京助を守りたい…」

緊那羅きんならが小さく言う

「そのために帰ってきたんだっちゃ…けど…私は…」

腕輪を片手で押えて緊那羅きんならが目を閉じた

「いたいんだろ? 竜のボントコに」

阿修羅あしゅらが目を細めて言う

「つれて帰るっておいちゃん3馬鹿と約束しただから帰るよ一緒に緊那羅きんなら

鳥倶婆迦うぐばかが言うと緊那羅きんならがゆっくりと目を開けた

「…うん」

緊那羅きんならが強く頷いた

 

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