【第九回・弐】パッパヤッパー
御近所さんからもらった甘酒を飲み酔っ払った緊那羅とコマイヌ
それにヒマ子さんが加わって京助に絡み始めた
途中阿修羅がやってきてそしてゼンゴが何かに気付いて…
「酔ってないぞ」
迦楼羅がきっぱりと言い切った
「ではコレは何本ですか?」
乾闥婆がにっこり笑いながら指を三本立てた
「三本」
迦楼羅が答えた
「…わかりました」
乾闥婆が指を下ろした
「貴方は酔ってはいないようですね…」
そう言いながら乾闥婆がチラリと後ろを振り返った
「あははははははははははははは!!!」
ゼンの馬鹿笑いが響く
「あははははははははははははは!!!」
同じくゴの馬鹿笑いも聞こえる
「へっへ~…ふふふふ…」
緊那羅が体を左右に揺すって奇妙な笑いをしていた
「この三人は間違いなく…」
「酔ってるな;」
乾闥婆の言葉に続いて京助が言った
「甘酒でも駄目なんかお前は;」
京助が緊那羅のデコを突付いて言う
「あ~…きょーしゅけー…ふっふふふ~」
起き上がりこぼしのごとく思い切り後ろに倒れた緊那羅が反動で起き上がりやはり奇妙な笑いをする
「酔ってないんだやな~」
ゴが畳の上で足をバタバタさせて言った
「酔ってない酔ってないよろろ~なんだやな~」
ゼンが乾闥婆の背中にかぶさった
「重いんですが」
ゼンを引っぺがしながら乾闥婆が言う
「だらしのない;」
迦楼羅が残っていた甘酒をくいっと飲み干した
急に甘酒が飲みたくなって作ったのはいいが作りすぎちゃって~という木村さん宅の奥さんからおすそ分けという田舎近所特有の付き合いでもらった甘酒を飲んだのはいいがこの始末
「た--------------------!!」
「ガフッ!!;」
酔っているらしき緊那羅が京助に思い切り体当たりをして抱きついた
「痛ッてぇ馬鹿!!;」
京助が怒鳴る
「た--------------------------------------!!」
「だッ!!;」
ゼンとゴが緊那羅と同じように京助に体当たりっぽく抱きついた
「何で俺にくるかッ!!;」
京助が再び怒鳴る
「にゃははははははははははは!!」
ゼンゴが揃って笑う
「ギャ---------------!! 何をなさっているのですかッ!;」
スパーンというなんとも心地いい音をさせて襖が開きヒマ子が現れた
「いいことなんだやな~」
ゼンが京助に抱きつきながら言う
「そうなんだやな~」
ゴも続いて言った
「んふふふふふふ~」
京助の腰に抱きついていた緊那羅がいきなりまた奇妙な笑いをし始めた
「キィィ!! お離れになってくださいませんことッ!!」
ヒマ子が鉢をゴトゴトとさせながら京助に近づいてくる
「い や だ っちゃ」
「い や な んだやな」
ゼンゴと緊那羅が揃って言うと更に京助に抱きつく
「俺を解放しろ!!; 巻き込むな!; 甘酒飲ませろ;」
三人に抱きつかれて身動きの取れない京助が喚いた
「…迦楼羅…何杯目ですか」
乾闥婆が鍋から甘酒を酌んでいる迦楼羅に聞いた
「…うまいのだ」
迦楼羅が指についた甘酒を舐める
「…懐かしい味がするのでな。お前は飲まないのか?」
迦楼羅が甘酒を酌んだカップを乾闥婆に差し出した
「飲んでみろ美味いぞ」
迦楼羅がにっこりと笑顔で言う
「…では…少し」
乾闥婆が迦楼羅の差し出したカップに手を添えた
「放れて下さいましッ!!」
「いだだだだだだだだッ!!!;」
ヒマ子が京助の頭を掴んでコレでもかッというくらいの力を込めて引っ張る
「いやだっちゃ~ッ!!」
「いやなんだやな~ッ!!」
ソレに対する酔っ払った緊那羅とゼンゴは京助の腰から下を掴み引っ張る
「いてぇってんだろがッ!!!;」
京助が怒鳴り暴れる
「…甘いんですね」
そんなギャースカ騒ぎの横で甘酒を飲んだ乾闥婆が一息ついて言った
「美味いだろう? お前は甘いものが好きだからな」
迦楼羅が言うと乾闥婆がどことなくムッとした様な顔になった
「どうせ僕は子供ですから」
乾闥婆が淡白に言う
「いや別にそういった意味ではないのだが;」
乾闥婆が不機嫌になったとなんとなく感じたのか迦楼羅が慌ててフォローらしく言った
「…何処まで行けば貴方に追いつくんですかね僕は」
乾闥婆はにっこり笑って言ったが何処と無くやはり不機嫌そうだった
「乾闥婆…わ…」
「よ--------------------------ッす!!」
ガラッと今度は窓が開いて阿修羅が笑いながら入ってきた
「…どうして貴方といい迦楼羅といい…玄関から入るって事を知らないんですか」
乾闥婆が軽く阿修羅を睨む
「いっや~ん; だっぱ怖いわ~;」
阿修羅が片足を上げて【キャッ】ポーズで言った
「痛ぇっつてんだろがッ!!;」
京助の怒鳴り声に迦楼羅と乾闥婆、そして阿修羅が声の方を見る
「お~お~…モッテモテだな竜のボン」
阿修羅が笑って言った
「助けろ阿修羅!!;」
京助が言う
「あはははははははは!!」
ゼンゴの笑いに緊那羅も参戦したのか三人が笑い出した
「きぃぃ!! 馬鹿にしてッ!! 大和撫子を甘く見ないでくださいましッ!!」
「貴方はひまわりですが」
ヒマ子の言葉に乾闥婆が冷静に突っ込む
「突っ込むなら助けろやッ!!!;」
半分ガラパン (今日は緑)をさらけ出した京助がやはり怒鳴って言う
「いいじゃないけ面白いしオライが」
「俺は面白くないんじゃッ!!;」
ハッハと笑っていった阿修羅に京助が指差して言った
「しゃぁないな~…ホレホレ緊那羅とワンコ、そんでひまわりの姉さんもそんなにしたら竜のボン分裂すんぞ」
阿修羅が言う
「よいせっと;」
「何すんだやな~っ!!」
阿修羅がゴを抱き上げて京助から引き離すとゴが阿修羅の腕の中で暴れる
「コラコラ; 暴れなさんなって」
暴れるゴを阿修羅が小脇に抱えた
「はな…」
抱えられたゴがいきなり言いかけた言葉を止めた
「…主…」
そして耳をぴんっと立てて匂いを探るように鼻をひくつかせ始める
「ゼン!!」
ゴが今だ京助にへばりついているゼンを呼んだ
「主の匂いするんだやな!!」
ゴの言葉に緊那羅とヒマ子を抜かした一同がゴを見る
「お前達の主…」
迦楼羅が京助に視線を移した
「竜…ですね」
乾闥婆も同じく京助を見る
「ヘンタイからするんだやなッ」
ゴがフンフンと阿修羅の匂いをかぎだす
「阿修羅から…父さんの…って…」
京助が緊那羅とヒマ子に今だ引っ張られながらも阿修羅を見た
「…あっちゃ~…;」
阿修羅が痛いくらいに注がれる視線から顔をそらした
顔をそらした阿修羅に痛い視線が降り注いでからかれこれ数分
「…脱兎ッ!!;」
阿修羅がゴを放り投げて駆け出した
「まつんだやなッ!!」
ゼンゴがハモって声を上げると阿修羅を追いかけ駆け出した
「ワシらも行くぞ!!」
迦楼羅が立ち上がりゼンゴの後に続く
「わかりました」
乾闥婆も迦楼羅に続いて部屋を出て行った
「ちょ…!; 俺も連れてけ--------------ッ!!;」
ヒマ子と緊那羅に引っ張られながら京助が皆が出て行った戸口に手を伸ばす
「うわぁッ!!;」
バシャ---------------------------------------…
悠助の声と水音が玄関先から聞こえた
「悠助!!」
そして慧喜の声
「…なんだ?;」
声を音だけを聞きながら京助が開けっ放しの戸口を見た
「…だ…いじょうぶか?; ワンコも竜のボンも…」
阿修羅に飛びつこうとしたゼンゴを阿修羅がひらりとかわしたところ丁度玄関を開けて入ってこようとした悠助に体当たりする形になったらしく…
「大丈夫ですか悠助;」
後から来た乾闥婆が慧喜に抱き起こされる悠助に声をかけた
「何なんだよもうッ!!」
慧喜が振り返って阿修羅に怒鳴る
「危ないじゃないかッ!! 悠助に怪我させたらただじゃ済まさないからなッ!!」
本気で怒りながら慧喜が阿修羅に言った
「いや~…ハッハッハ;」
阿修羅が苦笑いをする
「…ふぃっく」
ポタタ…っと水滴の落ちる音と微かなしゃっくりと思われる音
グ~ログ~ロ…と音を立てて地面に転がるのは【國稀】とかかれた地元で作られている地酒の一升瓶
「どうしよう; ハルミママ怒るかなぁ…」
転がっていた空の一升瓶を悠助が拾って眉を下げた
「大丈夫だ栄野弟…コイツに謝らせるんでな」
泣きそうな顔をした悠助に迦楼羅が言う
「オライかい;」
迦楼羅に親指で【コイツ】と指名された阿修羅が自分を指差して言った
パチ…ッ
何かが小さくはじけるような音がした
「…今…何か聞こえませんでしたか?」
乾闥婆が言うと一同が耳を澄ます
「放せっちゅ---------------ん!!;」
聞こえたのは京助の声
「別に…」
パチッパチパチ…ッ
【別に何も聞こえない】と言おうとした迦楼羅が再び耳を済ませる
「…何か…はじけてる…様な…」
慧喜が顔を上げて辺りを見渡した
「…ひ…っく」
パチ…ッ
「…っ;」
迦楼羅の体が何かにぴくっと反応した
「…迦楼羅…?」
乾闥婆が迦楼羅の異変に気付き迦楼羅を見る
「な…んだ…?;」
迦楼羅が膝をついた
「かるらん…?;」
阿修羅も迦楼羅の異変に気付き迦楼羅に近づく
「かるらん!!」
悠助が一升瓶を抱えて迦楼羅に駆け寄った
「ひぃっく…」
パシャン…ポタタ…
「ひっく…」
尻尾から水滴を落としつつゼンゴがゆらりと立ち上がった
「迦楼羅…!? どうしたんですか!? 迦楼羅!!」
膝を突いた迦楼羅を支えて乾闥婆が声を上げる
「かるらん!」
悠助が心配そうに迦楼羅の顔を覗き込む
「こりゃ…一体どうし…ッ!?;」
頭を書きながら顔を上げた阿修羅が止まった
「クルルル…」
犬が喉を鳴らす声が聞こえた
「一体…どうしたもんなんだか…ねぇ?;」
阿修羅の口元がひくついている
「な…ん…;」
阿修羅と同じ方向を見て慧喜も言葉をなくす
「…これは…」
乾闥婆も顔を上げた
「コマ…とイヌ…なの?」
悠助が見上げたソコには某お前にサンが救えるか!! という名台詞でおなじみのアニメ映画に出てくる山犬くらいの大きさの大きな一角の犬が二匹
「あははははははははははははは!!!!!」
そしてその二匹が揃って馬鹿笑いをし始めた
「…間違いなくあの二匹らしいですね」
笑い声と共に巻き起こった風の中 乾闥婆がピョン毛を揺らしながら言う
「…そうか; 酔っ払ってワシの力を吸っているのか;」
つかれきった顔で迦楼羅が言う
「ほっほーう…んで…こうなった…って…」
阿修羅が迦楼羅からでっかくなったコマイヌに視線を戻して止まる
「…外…でていっちゃった…」
悠助がボソッと言った
「いかん!; アレが外で騒いでは…ッ;」
迦楼羅が言う
「いかんのは貴方ですッ!!」
「だっ!!;」
立ち上がった迦楼羅の髪を乾闥婆が思いっきり引っ張った
「力がほとんど残っていない状態で行ってどうするのですか!」
乾闥婆が言う
「では放っておけというのか!?」
迦楼羅が怒鳴る
「僕が行きます」
乾闥婆がにっこり笑って立ち上がった
「一人でか?」
玄関に下りた乾闥婆に迦楼羅が聞く
「すぐ戻りますよ」
靴を履いた乾闥婆が振り返り言う
「やはりワシも行く」
迦楼羅がおぼつかない足取りで玄関に下りた
「…足手まといなだけですよ」
乾闥婆がキッパリ言い切った
「まぁまぁ; 二人とも落ち着いてってん;」
阿修羅が乾闥婆と迦楼羅の間に割って入って二人をなだめる
「貴方は自分の心配をしててください…僕の心配は無用です」
そう言うと乾闥婆が玄関を出駆けていった
「ちょ…!!; コラ!乾闥婆!! 待たんかッ!!;」
乾闥婆の後姿に迦楼羅が怒鳴る
「…相変わらずだねぇだっぱは…」
阿修羅が苦笑いで言う
「オライがついて行くからかるらんは休んどり?」
阿修羅が迦楼羅に言った
「ワシも行くといっているだろうッ!!」
迦楼羅が怒鳴る
「かるらん大丈夫なの?」
悠助が心配そうに迦楼羅に聞いた
「ワシは大丈夫だ!! …ワシより…」
迦楼羅が乾闥婆が出て行った後の玄関を見て顔をしかめた
「行くだけならいいんじゃないの?」
慧喜がさらっと言う
「ってもなぁ…かるらん…ヘロヘロしてんじゃないけ;」
阿修羅が迦楼羅を見て言った
「アンタがおぶっていけばいいんじゃない」
慧喜が阿修羅を指差して言うと迦楼羅と阿修羅が顔を見合わせた
「…頼んだぞ」
「…頼まれちゃったねぇ;」
迦楼羅がにっこり笑って言うと阿修羅もハッハと笑った
「ぅえええええええ~」
「泣くなッ!!;」
下半身トランクス一丁の京助が怒鳴った先には幼稚園児泣きをする緊那羅
「勝ちましたわ…!!」
その横でガッツポーズ取るのはヒマ子
「ズボン脱げただけだろがッ! …首が抜けたらアカンだろ;」
どうやら京助綱引きに負けたことが悔しいらしく緊那羅は泣いているらしい
「愛ですわ!!」
ヒマ子が京助を見て叫んだ
「何がだッ!!;」
京助が怒鳴る
「…ぅ」
緊那羅が口を押さえて小さく言った「う」に京助が動きを止める
「…オイオイ…; まさか…;」
京助が口の端をひくつかせながら緊那羅を見た
「出る…」
「ギャ-------------------------------!!; 待て待てッ! 出すなッ!!;」
叫んだ京助が緊那羅を抱き起こして廊下に出た
「ぅ…ぇ」
「うえじゃね----------------------------ッ!!;」
緊那羅の足を引きずりながら京助が目指すはおそらくトイレ
ジャ-----------------------…ゴポゴポ…
「うぇええええ;」
トイレから聞こえたのは緊那羅ではなく京助の声
「…っ…; なんで俺がもらいゲロ…;」
どうやら緊那羅の吐く姿を見て京助も吐き気を催したらしく
「コレって移るんだっちゃ…?」
狭いトイレの右側の壁にもたれながら緊那羅がボソッと言った
「移ってるから吐いてるんだっちゃよ;」
京助が便座に腕をついて小さくゲップをする
「…何してるの緊ちゃんと…京助…」
少し前の方が濡れているシャツの悠助と慧喜がトイレの戸を全開にして中にいた二人に聞く
「…ゲロ吐いてんだよ;」
疲れきった顔で京助が答えた
「義兄様匂いすっぱい…」
慧喜が鼻をつまんで言う
「具合悪いの? 京助も緊ちゃんも…大丈夫?」
悠助が京助の背中をさすりながら心配そうに聞いた
「あ~…大丈夫; 俺はもらいゲロだから;」
京助が悠助の頭を撫でながら言う
「かるらんも具合悪そうなのに大丈夫だったのかなぁ…」
悠助が眉を下げて言う
「鳥類が? …そういやさっき玄関で何してたんだ?」
京助が悠助と慧喜に聞く
「あのね…僕がコマとイヌにお酒かけたら大きくなってソレをけんちゃんが追っかけててそのけんちゃんをあっくんにいちゃんとかるらんが追っかけてったの」
悠助が答えた
「…そういやお前酒臭ぇな;」
京助が悠助のシャツを嗅いで言う
「…って…待てよ…?;」
京助がハタと動きを止めた
「追いかけてった…?」
京助が慧喜と悠助に聞くと二人が頷く
「…ただでさえ目立つあの格好で?」
京助が再び聞くと再び二人が頷く
「しかも何だか知らんけどでっかくなった犬二匹を追っかけてった?」
またも京助が聞くとまた二人が頷いた
「……」
そしてしばしの沈黙
「ぅぷ;」
緊那羅が口を押さえて京助を押しのけた
「お前まだ吐くのか;」
京助が緊那羅の背中をさすりながら言う
「…それって…結構…ヤバイと思うか?」
京助が慧喜と悠助に聞くと顔を見合わせた後二人して頷いた
「止まりなさいッ!!」
乾闥婆が前を走る大きなコマとイヌに呼びかけたが一向に二匹は止まる気配がない
田舎といえどまだ日中ということでソレ相応に人目がある
そんな正月町民の視線を受けつつ二匹と一人の追いかけっこは続いていた
「遅いぞたわけッ!!; 見失ったではないかッ!!;」
阿修羅の頭のミョンミョンした飾りを引っ張って阿修羅の背中で迦楼羅が喚いた
「仕方ないやんけ~; オライは飛べないんやし~; しかもかるらんおんぶってることで遅いんだし~;」
仲良くお手々を繋いだ標識は通学路のマークでその標識の横を迦楼羅をおぶった阿修羅が走る
「屋根渡ろうにも家少ないから道走るしかないやんけ;」
阿修羅が言うと上を見上げた迦楼羅が膨れた
「ではもっと早く走らんか!」
そして阿修羅の頭のミョンミョンを思い切り引っ張る
「ヘイヘイホゥ;」
溜息交じりで返事をした阿修羅が強く地面を蹴った
「止まりなさいと言ったでしょう」
電信柱から二匹の前に降り立った乾闥婆がにっこりと (どことなく怖い)笑顔を二匹に向けた
「グルルルルル…」
二匹が威嚇と捕らえられるような声を出す
「…見物は結構ですが…怪我をしたくないならば下がっててくださいね」
乾闥婆が今度はその笑顔を周りにいた正月町民に向けると正月町民からざわめきが生まれた
「酔っ払いには水をかけて目を覚ますのが一番ですね」
乾闥婆が片手を上げると数メートル後ろにあった消火栓からポタタッと水滴が落ちた
「グルルルルル…」
乾闥婆を見つつ二匹は相変わらず威嚇をやめない
「いきますよ」
乾闥婆が二匹を睨んだ
「さっきのやっぱ左だったんやかねー;」
阿修羅がボソッと言う
「迷ってるではないかたわけッ!!!;」
迦楼羅がスパンっと阿修羅の頭を叩いた
「仕方ないやんけ; オライはコッチにまだ慣れ親しんでおらんきにー;」
阿修羅が言う
「そんな言うならかるらんがだっぱの宝珠の力探ればいいやんけ」
阿修羅が言うと迦楼羅が一瞬黙った後軽く手を叩いた
「どうしてソレを早く言わんのだたわけッ!!!」
そして阿修羅の頭のミョンミョンを再び引っ張り怒鳴る
「やっぱりなんにしろオライが悪いのかーぃ;」
頭のミョンミョンを引っ張られながら阿修羅が言った
「私も行くっちゃッ!!」
「そんなヘロケソ状態で来てどーすんだッ!!;」
緊那羅が言うと京助が倍の大きさの声で返した
【解説しよう。ヘロケソとはヘロヘロに疲れている、または力が入らない、というようにいつもの元気がないぞという時に使う。また外見が弱々しいときにも使ったりする用語である】
「勝手についていくからいいっちゃッ!!」
強く言った緊那羅が一歩京助の前に出て速攻よろけた
「…駄目駄目じゃん;」
そんな緊那羅に京助がボソッと突っ込む
「だぁから!; お前は悠と慧喜と留守番してろって」
脱がされたズボンをはいた京助が緊那羅に言う
「嫌だっちゃッ!;」
壁に手をついた緊那羅が京助に向かって怒鳴る
「緊ちゃん大丈夫なの?」
悠助が緊那羅に聞く
「大丈夫だっちゃッ!!;」
よろよろと立ち上がりながら緊那羅が言う
「大丈夫そうには見えないよ」
慧喜が言うと緊那羅が慧喜をキッと見た
「大丈夫だっちゃッ!!; 私は京助と行くんだっちゃッ!!」
何が何でもついていく気の緊那羅を見て京助が溜息を吐いた
「…しゃぁねぇなぁ;」
京助が頭をかきながら言う
「何だってソコまでついてきたいよ…ホレ; シャキッとしろシャキッと」
京助が緊那羅の脇の下を持って立たせた
「私は京助をま…ッ;」
言いかけた緊那羅が口を押さえて俯く
「…悠; 洗面器持って来い;」
京助が悠助に言った
「あっちだ!!」
迦楼羅が叫んだ
「どっちッ!?;」
阿修羅も言う
「だからあっちだと言っているだろう!!」
再度 迦楼羅が言う
「だぁから!!; どっちだっつーの!;」
そしてまた阿修羅も言う
「あっちだと言っているではないかたわけッ!!」
怒鳴りながら迦楼羅が阿修羅の頭のミョンミョンを引っ張る
「あっち言われても見えないんだからどっちかわからんきにー!;」
阿修羅が走りながら言った
「犬は犬らしく言う事を聞いてください!!」
振り下ろされた大きな前足を避けつつ乾闥婆が言う
「クルルルル…カッフッ」
喉を鳴らした後コマの方がゲップをした
「ッ…; 酒臭い…;」
乾闥婆が顔をしかめて腕で鼻をふさぐと見物していた正月町民も酒臭さからか手で仰いだりしている
「あははははははははは!!」
そのコマの後ろでイヌが笑う
「…何だか腹立ってきました…」
笑い転げるイヌを見た乾闥婆があからさまに不機嫌だという顔をする
「水でも被って反省しなさいッ!!」
バシャ----------------------------!!!
乾闥婆が腕を空に上げると消火栓から勢いよく水が噴出した
「冷たいのは嫌なんだやなッ!!」
さっきまで笑い転げていたイヌが立ち上がり迫りくる水を睨む
「ゥオォオオオオオオ--------------ン!!」
イヌの遠吠えが響き渡り青い光の壁が二匹の前に現れた
「甘いですよ!!」
言った乾闥婆が手を返すと水が壁すれすれを上り上からコマとイヌに降りかかる
「おおおおお!!」
見物していた正月町民から歓声が上がった
「水芸!! 水芸!!」
「いいぞー!!」
「何これ? 何かのキャンペーン? 猛獣ショー?」
歓声の中から聞こえるそんな声を気にもせず乾闥婆が再び手を返した
「今なんか聞こえなかったか? かるらん」
足を止めた阿修羅が背中の迦楼羅に聞いた
「…あっちからだな」
迦楼羅が言う
「またアッチが始まったナァ;」
阿修羅がハッハと笑う
「あっちって本当どっち;」
阿修羅が迦楼羅(かるら9に聞く
「…こっちだ」
迦楼羅が答えた
「……かるらん~…;」
阿修羅ががっくりと肩を落とした
「ではどう答えればいいいのだ!!;」
迦楼羅が阿修羅の頭のミョンミョンを引っ張って怒鳴る
「イロイロあるんでしょが; 右ーとか木の立ってる方とかさぁ;」
阿修羅が言った
「…最初からそうしてくれと言えば良かったではないか! たわけッ!!」
しばし間を置いてから迦楼羅が阿修羅の頭のミョンミョンを引っ張りつつ怒鳴る
「やぁっぱオライが悪いんかーぃ;」
阿修羅が溜息を吐きながら言った
ポタポタと水滴が水溜りに落ちる
「どうです? 少しは目が覚めましたか?」
乾闥婆がにっこりと笑顔を向ける先にはビショ濡れになったコマとイヌの姿
「やりやがったんだやな…」
ブルルッと体を震わせて水気を飛ばしたイヌが乾闥婆を見た
「冷たかったんだやな」
コマも同じく体を震わせて水気を飛ばすと乾闥婆を見る
「…まだ足りませんか?」
乾闥婆が二匹を睨むような笑顔で見る
「仕返しするんだやな」
二匹が威嚇ポーズをとった
「…やりますね」
ヒラヒラと宙を舞っている薄水色の布を見て乾闥婆が言った
「今は褒められても嬉しくないんだやな」
コマが前足の爪についていた薄水色の布を払いながら言う
よく見ると乾闥婆の背中に結んであった布が千切れていて背中も少し服が切れうっすらと赤くなっていた
「あの人だかりはもしかしなくて…もって…何やって…;」
ようやくソレっぽい騒ぎにたどり着いた阿修羅が言葉を失った
「どうしたのだ;」
阿修羅の背中から迦楼羅が聞く
「何で戦ってるんかいな;」
阿修羅が呆然とした口調で返す
「な…ッ?;」
阿修羅の言葉に迦楼羅が身を乗り出すと目の前の人垣の間から見えたのは顔をゆがめながら後ろに飛ぶ乾闥婆の姿と乾闥婆に牙をむく二匹の大きな犬
聞こえるのは拍手と喝采と野次、そして興奮していると思われる攻撃的な唸り声
「だっ…だッ!!;」
乾闥婆の元に駆け出そうとした阿修羅の頭を踏み台にして迦楼羅が飛んだ
「おおおお!!」
「凄い凄い!!」
突如大きくなった正月町民の歓声に乾闥婆が顔を上げる
「か…」
そして目を見開いてそのまま止まった
「
かるらんのいいトコどり~…;」
地面にうつ伏せになったまま阿修羅が呟く
「退かんかッ!!」
迦楼羅の声が響くと一瞬コマとイヌがすくみ上がった
「何をしているのだお前等は!!」
乾闥婆の前に降り立った迦楼羅が二匹を睨みながら言う
「何をしてるのだは貴方の方ですッ!!」
「だっ!;」
乾闥婆が迦楼羅の髪を思い切り引っ張って声を上げた
「何をするッ!!;」
「何できたんですか!!」
迦楼羅が怒鳴ると乾闥婆も負けじと言った
「貴方から力を吸い大きくなったということは貴方がココに来ればまた力を吸われることになるんですよ!?」
「いだだだだッ!!;」
乾闥婆が今度は両方の髪を引っ張って言う
「仕方なかろうッ; 心配だったのだッ!!」
「僕の心配は無用だと言ったはずですッ!!」
「しかし心配だったのだと言っているではないかッ!!;」
「しかしでもカカシでもありませんッ!! 貴方は自分の心配をしてくださいッ!!」
ギャーギャーと言い合いをはじめた二人に正月町民からざわめきが起こり始めた
「何? ドラマの撮影だったの?」
「猛獣ショーじゃなく?」
「そういえばあのでかい犬話してた気がする」
「最近の技術は進んでるね~」
等という気の抜けた話し声が聞こえてきた
「ただでさえ貴方は…ッ!!」
乾闥婆が言いかけて顔をゆがめた
「…けん…」
「下がっててくださいッ!!!!;」
「だぁッ!!;」
乾闥婆に声をかけた迦楼羅の服を掴み乾闥婆が迦楼羅を放り投げた
「口喧嘩は終わったんだやな?」
イヌが乾闥婆に聞く
「ええ…」
乾闥婆が立ち上がって笑顔を向けた
「…おかえりかるらん;」
うつ伏せに地面に倒れたままの阿修羅が自分の背中に字のごとく飛んで帰ってきた迦楼羅に言う
「乾闥婆め…まったく可愛げのない;」
迦楼羅がボソッと言った
「まぁ…だっぱの気持ちも…わからんではないんだけどなぁ…;」
阿修羅が頬杖をついて言う
「心配するなという方が無理なのだ…ッ!!」
「ガフッ!!;」
反動をつけて飛び起きた迦楼羅の踵が阿修羅の後頭部に直撃した
「いつまで寝ている気だ!! たわけッ!!」
再び人だかりに向かいながら迦楼羅が阿修羅に怒鳴る
「…ぅいっさー…;」
阿修羅がのらりと起き上がった
「退けッ!!」
迦楼羅が人垣に向かって怒鳴ったが完全無視をされた
「…っ…退けと…」
迦楼羅がフルフルと震え出した
「退けと言って…!!!」
「だぁッ!!; かるらんスト------------------------ップッ!!;」
小さく炎の出た迦楼羅の口を阿修羅が慌てて手でふさいだ
「はにほふふ!!!;」
口を塞がれたまま迦楼羅が阿修羅を睨む
「ココで火ィ吐いちゃ後々だっぱにしかられんでしょ;」
阿修羅が言うと迦楼羅が目をそらした
「しかし乾闥婆が…!!」
阿修羅が手を離すと迦楼羅が言う
「まぁ…退かぬなら飛んで行け行け諦めず」
「は?;」
阿修羅がにっこり笑って迦楼羅を持ち上げた
「何をする気だ…;」
何だか嫌な予感がするらしい迦楼羅が阿修羅に聞く
「いってらっさい」
阿修羅がにっこり笑って片足を上げた
「…キタロウ袋持ってきて正解だな;」
電信柱に手をついて紙袋の中に更にビニール袋を重ねた袋を口に当てている緊那羅の背中をさすりながら京助が言った
【解説しよう。「キタロウ袋」とはその名のとおり『ゲゲゲの~』…いわばゲロ袋のことである。作り方としてはゲロが見えないよう紙袋でビニール袋を覆うというただそれだけの代物なのだが中身だけ替えればまた使えるという画期的な物である。主に学校行事でバスで長距離移動というときに活躍をする】
「…一体どこにいるんだっちゃ…;」
涙目で緊那羅が呟いた
「まぁ…騒ぎがあるところにいるってことは間違いないだろうナァ;」
京助が頭をかきながら言う
「早く見つけねぇと…;」
緊那羅が立ち上がると京助が歩き出した
「…京助ソレなんだっちゃ?」
緊那羅が京助が手に持っている袋を見て聞く
「コレ? 最終兵器」
京助が袋を緊那羅に見せた
「最終…兵器?;」
緊那羅が袋をまじまじと見る
「どっちにしろ見つけないことには始まらないし…最終も何もあったもんじゃないからナァ;…走れるか?」
京助が緊那羅に聞くと緊那羅が頷いた
「…阿修羅め…;」
フサフサの毛の上で迦楼羅が口の端を引くつかせて呟いた
「痛かったんだやな;」
コマが言った
「…貴方という人は…ッ」
コマの背中から飛び降りた迦楼羅を乾闥婆がキッと睨んだ
「どうして…!!」
「たわけッ!!!!」
乾闥婆の声より数倍もの大きさで迦楼羅が怒鳴った
「ワシの隣を歩きたいならばワシもお前の隣を歩かせんかッ!!」
「痛ッ!!;」
迦楼羅が乾闥婆のピョン毛を引っ張った
「何するんですかッ!!;」
「だッ!!;」
負けじと乾闥婆も迦楼羅の前髪を引っ張る
「隣というのは一緒に歩いているからこそだろうがッ!! 一人で歩いては…」
「迦楼羅ッ!!;」
迦楼羅が言っていた言葉の途中 乾闥婆が叫んだ
「下がれッ!!」
迦楼羅に振り下ろされようとした爪の主であるコマに迦楼羅が声を張り上げて言うとコマがビクッとした後爪を止めた
「ワシに勝てると思うか」
迦楼羅がコマとイヌを横目で見る
「勝てると思うならば来るがいい」
「何言ってるんですかッ!!」
「だッ!!;」
迦楼羅が言うと乾闥婆がまた迦楼羅の髪を引っ張った
「貴方は…貴方は自分の…ッ!!」
迦楼羅の髪を引っ張る乾闥婆の手がかすかに震え始めた
「ッ…自分の心配をしていてくださいッ!!」
「いだだだだだッ!!;」
乾闥婆がコレでもかっという力で迦楼羅の髪を引っ張った
「抜けたらどうする気だたわけッ!!;」
よほど痛かったのか迦楼羅が涙目で乾闥婆に怒鳴った
「また生えてくるのを待てばいいだけのことです…」
乾闥婆が迦楼羅の髪から手を離した
「…抜けても今の髪を同じ長さになるくらい…それ以上に僕は貴方に…」
ぐきゅるるるるるるるる…
乾闥婆の声が段々と小さくなっていくのと反比例して大きく響いた迦楼羅の腹の虫の声
「でかっ…;」
そして誰がが言うのと同時に迦楼羅の体がふらついた
「迦楼羅!!;」
乾闥婆が迦楼羅の体を支えて声をかける
「大丈夫だ; …少々腹が…」
きゅぅううううう…
切ない腹の虫の声が迦楼羅の声より数倍大きく鳴いた
「だから下がっていてくださいと言ったんですッ」
乾闥婆が言う
「だから心配だったんだと言って…!!;」
ぐぅぅううううう…
迦楼羅が何か言う度に一緒になって腹の虫も鳴く
「相変わらず体に似合わず豪快な音なんだやな」
イヌが言った
「誰のせいですか」
乾闥婆が二匹を睨んだ
「ゼン等はべつになにもしてないんだやな~」
コマがさらっと言うと乾闥婆がさっきよりも目つきを鋭くして二匹を見る
「そうなんだやな~勝手に力が流れ込んできてるだけなんだやな~」
イヌも言う
「…お…落ち着け乾闥婆…;」
自分を支えてくれている乾闥婆の手に力がこもり始めるのを感じた迦楼羅が乾闥婆を宥めた
「…もう一回水を被りたいですか…? それとも…」
いつの間にか乾闥婆の周りを二つの布が飛び始めていた
「それとも…なんなんだやな」
コマが聞く
「待て!!; 落ち着け乾闥婆!!;」
ピシ…ピシッ…
という何かにひびが入るような音がすると正月町民がなんだなんだと辺りを見渡し始めた
「でっかッ!!;」
突如聞こえた聞き覚えのある声が響くとハッとした一同が声の方向を見た
「ホッホ~…; 成長期かいな;」
人垣を掻き分けてきたのは京助と緊那羅そして阿修羅
「本当に…大きいっちゃね…;」
緊那羅が二匹を見て呟いた
「つぅか何してんだ…って怪我してんじゃんお前!;」
京助が乾闥婆の背中を見て言った
「何!?」
迦楼羅が目を見開いて乾闥婆を見た
「かすり傷です…心配には及びません」
乾闥婆が言う
「何故黙っていたのだ!! たわけッ!! 見せてみろ!!」
迦楼羅が立ち上がり乾闥婆の背中を見ようと乾闥婆の後ろに回る
「大丈夫です」
そんな迦楼羅に背中を見せまいとするかのように乾闥婆が向きを変えた
「見せてみろといっているだろう!; たわけッ!!」
負けじと迦楼羅が乾闥婆の後ろに回る
「大丈夫だといっているんですッ!!」
対する乾闥婆も見せまいとまた向きを変えた
「大丈夫なら見せんかッ!!;」
「大丈夫だから見せないんですッ!!」
迦楼羅が怒鳴ると乾闥婆も声を張り上げた
「…漫才だナァ;」
京助がボソッと呟いた
「というか…どうして乾闥婆が怪我したんだっちゃ?」
緊那羅が言うと正月町民の視線がコマとイヌに向けたれた
「…お前等がやったんか?;」
京助がコマとイヌに聞く
「やったというか…仕返ししただけなんだやな」
コマが言うとイヌが頷いた
「仕返しって…」
京助が乾闥婆を見た
「酔っ払いの目を覚ますために水をかけたまでのことです」
迦楼羅から背中を隠しつつ乾闥婆が答えた
「冷たかったんだやな」
イヌが言う
「水なのだから当たり前でしょう」
乾闥婆が言う
「まま…; 双方落ち着いて…ようは仕返しでこうなったんだきに?」
阿修羅が言う
「仕返し…というかこの二匹が止まらなかったのが…」
乾闥婆が二匹をチラッと見た
「追いかけてくるから逃げただけなんだやな」
コマが答えた
「勝手に酔っ払って飛び出したのは貴方達でしょう」
乾闥婆がにっこりと笑って言う
「勝手に酔っ払ったんじゃないんだやな!! アレは…」
イヌが言いかけて言葉を止めると何かを思い出したのか阿修羅を見た
「アレは…?」
正月町民も含めその場にいた一同がイヌの次の言葉を待っている
「…アレは主の…」
イヌが小さく言うと体がぐらついた
その後ろでコマのが倒れた
「お…おいッ!!;」
京助が倒れたコマに駆け寄り体を揺さぶった
「どうしたの?;」
「アレ神社の…」
ザワザワと正月町民がざわめきだした
「…ハイッ!!」
パンっという手を叩いた音と阿修羅の声がざわめきを一刀両断した
「練習終わりッ!!」
「へ?;」
阿修羅が言うと京助と緊那羅、そして乾闥婆と迦楼羅がきょとんとした顔で阿修羅を見た
「お騒がせしまして~…ホレ! 撤収!!」
阿修羅が倒れたイヌの前足を肩に担いだ
「あ…ああ?;」
京助が疑問系のようなそうでないような微妙な返事を返すと緊那羅と顔を見合わせて首をかしげる
「通行の邪魔だろが~? 急げや急げ~?」
ズルズルをイヌの足を足を引きずりながら阿修羅が振り返って言う
「…俺が運ぶのか?; やっぱ…コレ;」
京助が倒れているコマを見下ろして呟いた
「私も手伝うっちゃ;」
緊那羅がコマの右前足を肩に担いだ
「はぁ~ぁ;」
京助が溜息をつきながらコマの左前足を肩に担いで歩き出した
「んだば!!」
阿修羅がぽかんとしている正月町民に片手を上げてハッハと笑った
「大丈夫ですか迦楼羅」
乾闥婆が迦楼羅に聞きながら立ち上がった
「ソレはワシの台詞だ!!」
すっくと立ち上がった迦楼羅が乾闥婆に言う
「僕の心配は無用と言った筈ですよ」
乾闥婆が言った
「…ちょいまち緊那羅」
そんな二人のやり取りを聞いた京助が足を止めて着ていたパーカーを脱いだ
「ちょ…; 重ッ;」
さすがに一人では巨大化したコマを支えるのが無理だった緊那羅が膝をつく
「ホレ」
「え…あ…」
バフっと頭にパーカーをかけられた乾闥婆が驚いて京助を見た
「見せたくないんだろ?」
京助がそう言い残して緊那羅の元に戻って行く
「あ…りがとうございます…」
乾闥婆が京助の背中に向かって小さく言った
「…行くぞ」
迦楼羅が不機嫌そうに言う
「何怒ってるんですか」
乾闥婆が聞きながら足を進める
「怒ってなどおらん!!」
ぎゅきゅうぅうう…
「怒ってるじゃないですか」
「怒っていないと言っているだろう!!」
きゅぅううううう~…
「怒ってます」
「ない!!」
きゅるるるるる~…
ギャーギャーと一方的に迦楼羅が声を上げては一緒になって鳴く腹の虫に乾闥婆がさらっと返すという口喧嘩らしきことをしながら阿修羅と京助達の後に続く乾闥婆と迦楼羅を正月町民はただ見ていた
「…なんだったんだ?」
一人のオッサンがボソッと言った
「悪酔いですね」
元のサイズに戻ってはいるものの青い顔をしている二匹を見て乾闥婆が言った
「酒が入っているのにあんなに暴れる走るをすれば酔いがまわりますよ」
京助のパーカーを羽織ったままの乾闥婆がコマの頭を撫でた
「気持ち悪いんだやな~…;」
イヌが言う
「吐けば楽になるっちゃ」
「経験者は語る」
緊那羅が言うと京助がすかさず突っ込んだ
「お水持ってきたよ~」
悠助と慧喜がボウルに水をくんで部屋に入ってきた
「コマもイヌも大丈夫?」
コマとイヌの傍にボウルを置いた悠助が心配そうに聞く
「しばらく休めば酒が抜けます大丈夫ですよ」
乾闥婆がにっこり笑って言う
「よかったぁ~…」
悠助の顔がほころんだ
「…かるらんなんで怒ってるの?」
顔を上げた悠助が部屋の隅っこでむすっとした顔をしている迦楼羅に聞く
「怒ってなどおらん!!」
迦楼羅が必要以上の声で返すと悠助がビクッとした後眉を下げた
「あ…;」
悠助の表情の変化に気付いた迦楼羅がおたおたと慌てだした
「お…怒ってはいな…;」
慧喜に抱きしめられた悠助を見た後の乾闥婆と慧喜の視線が迦楼羅に向けられた
キュッと音をさせて緊那羅が洗面所の蛇口を閉めた
「ふぅ…;」
顔を上げると鏡に映った自分の顔を黙って見た後、後ろに映る阿修羅に気付いて緊那羅が振り返る
「緊那羅手ぇだし?」
口をぬぐう緊那羅に阿修羅が近寄って言う
「手…だっちゃ?」
拭って濡れている手を手拭タオルで拭くと緊那羅が手を出した
「なくすなよ?」
そう言った阿修羅が自分の首に巻いていた布の先についていた飾りを外して緊那羅に手渡した
「これ…」
手渡された飾りを緊那羅がまじまじと見る
「お前が時期見て竜のボンに渡したってくりゃれ」
阿修羅が緊那羅の手の中の飾りの玉の部分を突付くと玉が割れて中には
「金色の…かけら…?」
中にあった玉のかけらのような小さな物体を見て緊那羅が言った
「宝珠のかけら」
阿修羅が言うと緊那羅が顔を上げた
「オライから渡すよりお前からのほうがいいんじゃないかって」
阿修羅が再び玉をしめた
「竜の忘れモン…なんよなコレ…」
「阿修羅…もしかして全部知って…るんだっちゃ…?」
飾りごと玉を握らされた緊那羅が阿修羅に聞く
「ああ…知ってんよ…知ってたんきに…竜のボン等がまだ目覚めない理由も竜のことを何も覚えていないであやふやな理由も…オライは全部見てきたからな」
阿修羅が苦笑いで答えた
「でも教えられんのよな」
緊那羅の頭に手を置いた阿修羅が言う
「ソレが竜との約束なんよ」
クシャっと緊那羅の頭を撫でた後 阿修羅が手を離した
「でも…これ…よく迦楼羅とかに見つからなかったっちゃね」
緊那羅が飾りを見て言った
「特別結界…竜しか出来ない上級ワザかかってんよソレ…だから焦ったんよな~; ワンコ達に感じ取られたときは;」
ソレと阿修羅が玉を指差した
「…任せるぞ緊那羅」
阿修羅がいつもはなかなか見せないんじゃないかという真面目な顔を緊那羅に向けた
「お前が竜のボン等を【時】から守るんよ…竜の代わりに」
緊那羅が強く頷いた
「…何してんだ鳥類;」
救急箱片手に部屋に入ってきた京助が座布団を頭に被って背中を向けている迦楼羅に声をかけた
「…気のせいだ」
迦楼羅が言う
「何がだよ; 何グレてんだお前;」
救急箱を床に置きならが京助が利く
「放っておきなよ義兄様! 迦楼羅が悪いんだ」
慧喜が怒った口調で言う
「違うの! 違うの京助!! 僕がね…っ」
慧喜に抱きしめられていた悠助が口をはさんだ
「…何あったんだかしんねぇけどさぁ…;」
溜息をついた京助が乾闥婆を見た
「…なんですか?」
乾闥婆が言う
「背中見せてみろ」
「嫌です」
京助が言うと乾闥婆が笑顔で即答した
「背中じゃいくらお前でも自分じゃ無理だろが;」
京助が救急箱の蓋を開けて消毒といえばマキロンを取り出した
「大丈夫だといっているんです」
乾闥婆が羽織っているパーカーの前を握った
「誰も脱げって言ってるわけじゃねぇだろが; 傷を見せてみろってんだよ…消毒だけ」
京助が言う
「…けんちゃん…ちゃんと消毒しないとバイキンはいっちゃうよ?」
悠助が心配そうな顔で乾闥婆を見た
「…わかりました…」
乾闥婆がパーカーを脱いで背中を京助に向けた
「…どこがかすり傷だたわけッ!!;」
傷を見た迦楼羅が座布団を掴んで立ち上がり声を上げた
「痛そう…」
悠助が泣きそうな顔で傷を見る
「少し捲くっていいか? 服」
京助が聞くと乾闥婆が小さく頷いた
「あ~…コレ…一回風呂はいったほういいかもしんねぇ…血が固まって…;」
傷の周りにこびりついている血の塊をそっと触った京助が言う
「ソレかお湯でふき取るか…どっちにしろ沸かさねぇとな」
京助が立ち上がった
「ワシがやる」
立ち上がった京助に迦楼羅が言った
「ワシがやるって…何をだよ」
京助が戸に手をかけたままで聞く
「手当てだ」
迦楼羅が言った
「できるの?」
慧喜が疑うような目で迦楼羅を見た
「…ワシがやるといったらやっるのだッ!!」
「むやみに大きな声を出さないでくださいッ」
「だっ!!;」
怒鳴るように言い返した迦楼羅の後ろ髪を乾闥婆が引っ張った
「…ありがとうございます」
髪は引っ張ったままで乾闥婆が言う
「…わーったよ; とにかくお湯だなお湯」
京助が口の端を上げて言うと部屋を出て行った
「俺達も行こうか悠助」
慧喜が悠助に言う
「でも僕けんちゃんが心配…」
悠助が乾闥婆を見ると乾闥婆がにっこり笑った
「ありがとうございます悠助…僕は大丈夫です…だからすいません…少しだけ席を外してくれませんか?」
乾闥婆が言うと少し考えた後悠助が頷いた
「すまんな…栄野弟」
迦楼羅も言う
「ううん…いいのけんちゃんもかるらんもかるらんとけんちゃんが大事なんだね」
悠助が笑いながら言った
「え…?」
「そうだぞ」
悠助の言葉に乾闥婆と迦楼羅がそれぞれの反応をした
「僕も慧喜大事なの」
悠助が言うと慧喜が嬉しそうに笑う
「乾闥婆は大事だ」
迦楼羅が言うと乾闥婆が眉を下げた後俯きそして顔を上げる
「…そうですね…大事です」
小さく乾闥婆が言った
「洗面器~洗面器~…」
廊下から「アミダババァ」の替え歌を歌っている京助の声が聞こえた
「おっまた~」
京助が足で戸を開けて部屋に入ると持ってきたヤカンと氷の入った洗面器とタオルを床に置いた
「コレで温度調節して丁度よくしてやりよ?」
京助がヤカンを指差して迦楼羅に言う
「わかった」
迦楼羅が頷く
「ありがとうございます京助」
乾闥婆がお礼を言った
「じゃ…なんかあったら呼べよ?」
京助が言いながら立ち上がり開けておいた戸から廊下へ出ると悠助と慧喜も続いた
湯気の立つ洗面器に乾闥婆が手を入れた
「…丁度いいです…」
「そうか」
乾闥婆が言うと迦楼羅が目を細めて笑った
「痛かったら言うんだぞ?」
チャポっとタオルを湯に浸した迦楼羅が言うと乾闥婆が背中を向けたままで頷いた
「…痛いか?」
迦楼羅が黙ったままの乾闥婆に聞くと乾闥婆が首を振った
湯気にほんのり混じった血の匂いが部屋に広がる
「迦楼羅…」
ずっと黙ったままの乾闥婆が口を開いた
「なんだ?」
迦楼羅が手を止めて聞き返す
「今日…晩御飯竜田揚げにしてくれないかハルミママさんに聞いてみますね…」
乾闥婆が言う
「…ああ…楽しみにしている」
迦楼羅が笑った
「何で俺が付き合わなアカンねん;」
正月スーパーの生肉売り場で黄色い買い物籠を持った京助が呟いた
「つべこべ言わないんだっちゃ」
緊那羅が【本日のお買い得!! 3時からのシークレットセール】と書かれている表示を見てそれから並べられている肉を見ながら言った
「今日は竜田揚げに決定したんだっちゃから…肉がなかったらはじまらないっちゃ」
買い物籠に二キロで780円だという鳥胸肉を入れて緊那羅が歩き出す
「付け合せ…付け合せ…」
緊那羅が野菜売り場のほうに足をむけた
「緊那羅味噌汁ふのりとイモがいい」
京助が緊那羅に言う
「この間もそう言ってなかったっちゃ?;」
緊那羅が足を止めて言った
「好きなんだよいいじゃん; 買い物付き合ってるんだし」
「…わかったっちゃ;」
膨れた京助に緊那羅が承諾の返事をした
「すっかり主婦だよナァお前」
「ハイハイ」
京助が言うと緊那羅が大根を選びながら適当に返事を返す
「お前等はすっかり夫婦だよナァ」
「はッ!?;」
背後からいきなり言われて京助と緊那羅が揃って振り返ったソコには中島
「聞いてて本当夫婦にしか聞こえねぇもん会話」
米を小脇に抱えた中島が京助と緊那羅に言う
「こんにちはラムちゃん」
中島の後ろから蜜柑が笑顔で緊那羅に手を振った
「あ、蜜柑さん」
緊那羅も笑顔で手を振り返す
「今日は?」
蜜柑が緊那羅に聞いた
「今日は竜田揚げなんだっちゃ」
緊那羅が答えた
「へぇ~!! ウチは何にしようかなって…お肉安いならウチも竜田揚げにしようかゆーちゃん」
蜜柑が中島を見上げた
「…なんだかスゲェ仲良くなってねぇ?;」
京助が緊那羅と蜜柑を見て言う
「あ、よく会うんだっちゃ買い物してると」
緊那羅が笑顔で言った
「ねー?」
蜜柑も笑顔で言う
「…へぇ;」
京助が口の端を上げてやる気なく言った
「この前教えてもらった炒め物凄くおいしかったっちゃ」
「簡単でしょ~? あとアレに少しナンバン入れるとね~…」
楽しそうに話し始めた緊那羅と蜜柑を中島と京助はただ黙って見ている
「緊那羅が段々奥様化していってますなぁ…」
中島がボソッと言う
「まぁ…な;」
京助が籠を床に置いて腰に手を当てた
「いい妻になりそうだな」
中島が言う
「欲しいのか?;」
京助が中島を見て聞く
「浜本が欲しそうにしてたぞ」
中島が米を床に置いた
「ほぉ~…」
京助がそうかそうかというカンジに数回頷く
「確かにいいヤツだぞ緊那羅は…少し抜けてたりするけどさ;」
京助が言う
「お前 緊那羅好きだろ…いや変な意味じゃなくて」
中島が聞く
「…さぁな; どうだべ…わっかんね」
京助が籠を持ち上げた
「…でもいると和む」
京助が照れくさそうに笑いながら答える
「ホラ!! n早く帰らねぇと鳥類餓死すんぞ」
話し込んでいた緊那羅に京助が声をかけた
「あ…わかったっちゃ;」
緊那羅がはっとして京助を見た
「んじゃな」
中島が片手を上げると京助も片手を上げた
「ごめんだっちゃ京助;」
大根を籠の中に入れると緊那羅が謝った
「別に」
京助が言う
「イモ」
「は?;」
京助がいきなり言った【イモ】に緊那羅が思わず疑問系の声を出した
「味噌汁のイモでっかくしてくれればいい」
籠を持ち直しながら京助が言う
「わかったっちゃ」
緊那羅が笑って答えた
「ぉうえええええ~…;」
「ぅおえええええ~…;」
「ハイハイハイハイ;」
阿修羅に背中をさすられているのはゼンとゴの姿になったコマとイヌ
「ぎもぢわるいんだやな~;」
涙目で洗面器を抱えたゼンが言った
「甘酒でも酔っ払うのにまともに酒被ったからナァ…; そら酔っ払い悪酔いするんきに」
阿修羅が言う
「アレはヘンタイが避けたからわるいんだやな~…っぷ;」
ゼンに同じく涙目で言ったゴが吐き気を催して洗面器に顔を突っ込んだ
「見事なゲロ吐き二重奏」
阿修羅がハッハと笑って言った
「そもそもヘンタイから主の匂いがしたんだやな…そっから始まったんだやな~…」
ゴが阿修羅を見て言う
「…懐かしかったんだやな…」
クイッと口を手の甲で拭いながらゴが呟いた
「ゼンも嗅ぎたかったんだやな」
ゼンが尻尾を下げて言う
「ワンコ等の竜のボンを守りたいっつー気持ちがありゃ…また会えると思うぞ」
阿修羅が言うとゼンゴが揃って阿修羅を見る
「主に?」
そしてハモって言った
「そ…竜に」
阿修羅が笑う
「でも主は…」
ゴがしゅんとなりながら小さくこぼすと阿修羅がゴの頭に手を置いた
「オライの言葉信じてみって」
二人を両手で抱き寄せた阿修羅が笑いながら言った
「休んでてくれっちゃッ!!;」
「嫌です」
台所からギャーギャー聞こえる乾闥婆に言い合いの相手はいつもの迦楼羅ではなく緊那羅
「怪我してるんだっちゃよ!?;」
「それがなんですか」
緊那羅が言うと乾闥婆がさらっと返す
「怪我人は休んでるものだっちゃよッ!!;」
「僕は怪我人になった覚えはありません。そこの箸取ってください」
「あんな怪我してれば立派な怪我人だっちゃッ!!;」
声を上げる緊那羅に乾闥婆が言うと箸を渡しつつ緊那羅が更に声を上げた
「料理に唾が入りますよ緊那羅」
乾闥婆が言うと緊那羅がハッとして口を押さえた
「…さすが;」
その様子を台所の暖簾の向こうから見ていた京助が呟いた
「口で乾闥婆には勝てん;」
京助の隣で迦楼羅がボソッと言った
「だろうナァ…;」
京助が口の端を上げて言う
「まったく…可愛げのない…」
迦楼羅が目を細めて言うとスコーンという音と共に箸は迦楼羅の額に突き立った
「可愛げがなくてすいません」
にっこりと笑いながら乾闥婆が一本になった箸を手に言う
「…いえ;」
何故か京助が手を横に振って言った
「痛いではないかたわけッ!!;」
箸一本を握り締め額に赤くワンポイントチャクラを作った迦楼羅が怒鳴った
「竜田揚げできなくてもいいんですか?」
乾闥婆がにっこり笑って言うと迦楼羅が止まった
「…迦楼羅…;」
緊那羅が炊飯ジャーのコンセントを持ったまま迦楼羅を見て呟く
「…コレでも食べておとなしくしててください」
止まったままだった迦楼羅の口に乾闥婆がミニトマトを一つ押し付けた
「…うむ」
少し間を置いてミニトマトを口に含んだ迦楼羅が頷いた
「餌付けされてんじゃん;」
京助が言う
「貴方もですよ京助。手伝う気がないなら邪魔なだけです」
乾闥婆が京助に言った
「ヘイヘイ;」
スコーン
「返事はハイと一回、ですよ」
乾闥婆が手に持っていたもう一本の箸が京助にヒットした
「まったりなまったりな」
阿修羅が湯気の立つ湯飲みを持って迦楼羅の隣に腰掛けた
「かるらんも飲むけ?」
縁側に一人座っていた迦楼羅に阿修羅が湯飲みを差し出した
「…うむ」
湯飲みの中は昼間の騒動の引き金となった木村さん宅の甘酒
「追い出されたんやねぇ…;」
阿修羅が迦楼羅の額を見て苦笑いで言った
「…うむ;」
迦楼羅が湯飲みを持って小さく頷いた
「まったく…可愛げのない…強情なヤツだ…」
迦楼羅が甘酒をぐいっと一気に飲み干して
「ぶはっ;」
そして噴出した
「熱いぞ!!;」
迦楼羅が怒鳴る
「そら熱いやよ; 湯気たっとーに;」
阿修羅が言った
「初めに言わんかッ!!;」
服の裾で口を拭いながら迦楼羅が言う
「オライのせいかい;」
阿修羅が甘酒を一口飲んで言った
「あ、かるらんとあっくんにいちゃん~!」
玄関の方からした声に迦楼羅と阿修羅が反応する
「栄野弟…」
「よー!! 竜のボンー!」
ガラガラと玄関の戸を開け閉めする音が終わったかと思うとバタバタと廊下を走る音が近づいてきて和室の障子が開いた
「なにしてるの~?」
悠助が迦楼羅と阿修羅の間から顔を出して聞く
「晩飯前のまったりまったり」
阿修羅が言う
「甘酒だぁ!! いいなーいいなー!」
悠助が湯気の立つ阿修羅の湯飲みを見て言った
「熱いから気ぃつけよ?」
阿修羅が自分の湯飲みを悠助に渡す
「かるらんみたく一気はしたら駄目だぞぃ?」
「やかましいッ;」
フーフーと息を吹きかけて甘酒を冷ます悠助に阿修羅が言うと迦楼羅が突っ込む
「慧喜はどうした?」
迦楼羅がいつもなら悠助にべったりの慧喜が見えないことに気がついて悠助に聞く
「慧喜はハルミママのお手伝い」
悠助が湯飲みを口につけながら答えた
「おっ珍しい~!! 悠が単品じゃん」
開けっ放しだった和室から京助がやってきた
「ハイ暇人全員集合」
阿修羅がハッハと笑って言う
「なんだそれは;」
迦楼羅が言った
「あながち間違いじゃねぇよな; 飯はまだだし…ぶっちゃけ暇」
京助が阿修羅の少し後ろに腰を下ろした
「…何か面白いことねぇですか」
京助が聞く
「面白いことねぇ…面白い…うーん…」
阿修羅が頬杖をついて人差し指をトントン頬に当てながら考え込む
「僕も暇~」
悠助が湯飲みを持ったまま言った
「慧喜いないし…」
ぷぅっと頬を膨らませた悠助を迦楼羅が見る
「…栄野弟は慧喜が好きか」
迦楼羅が悠助に聞く
「うん!! だって慧喜は僕の子供産んでくれるんだもん」
「オイオイオイオイ;」
悠助が言うと京助が裏手で軽く悠助の背中に突っ込んだ
「かるらんは好きな人いるの?」
悠助が聞くと迦楼羅と阿修羅がハタと動きを止めた
「…かるらん?」
しばらく動かなかった迦楼羅に悠助が声をかける
「竜のボンそら…」
「いた…な」
阿修羅が何かを言おうとすると迦楼羅が口を開いた
「いた…の? 今は? もう好きじゃなくなったの?」
悠助が聞く
「いや…そうではない…」
迦楼羅が答えた
「悠; そりゃもしかして聞いちゃいけない質問なんじゃないかとお兄さんは思うのですが;」
京助が言う
「オライもそう思います;」
阿修羅が京助に賛同した
「なんで?」
悠助がきょとんとした顔で聞く
「何でって…あぁ…無垢無知って怖いよ阿修羅さん;」
京助が言う
「かまわん」
迦楼羅が言った
「構わんって…かるらん…」
阿修羅が迦楼羅を見た
「いずれは全て知るのだ…栄野弟…ワシの話を聞きたいか?」
迦楼羅が目を細めて微笑みながら悠助に聞いた
「うんっ!」
悠助が大きく頷く
「…そうか…」
迦楼羅が空を見上げた