【第九回】ばかVSバカ
居残りさせられてろのかなんなのか京助が帰ってこない
緊那羅と阿修羅が学校へと向かったのはいいが…そこではとんでもないことがおきていた
「飯の後の体育ってやめて欲しいもんナリ;」
南が横っ腹を押さえながら溜息を吐いた
「しかも鉄棒;」
同じく横っ腹をさすりつつ坂田が言う
生徒が少ない正月中の体育は男女別に全クラスで行う
男子が二時間体育をやっている間女子は家庭科一時間と技術一時間、女子が二時間体育をやっている間は男子が家庭科一時間と技術一時間というカンジの特殊時間割になっている
「そういや今日女子の家庭科って二時間使って調理実習だったよな」
ジャージの上着を腰に巻きつけた京助が自分の順番を終えて坂田と南の元にやってきた
「秋のお菓子だっけ」
南が言う
「たしかそんなん」
坂田が答える
「おすそわけとかないモンかねぇ」
隣で寝転がっていた浜本が体を起こした
「六時間目始まる前の休み時間にちょろっと覗きに行って見ませんこと?」
坂田が奥様口調で言う
「いいざますね」
京助が親指を立てた
「おーぃ!! 二周目いくってさー!」
中島が鉄棒の下から京助達に声をかける
「うげぇ; 出るって昼飯;」
南ががっくり肩を落とした
「頑張ってるねぇ体育委員;」
坂田が立ち上がって尻についた土を払った
「俺らの順番来る前に休み時間はいんじゃね?」
京助が歩きながら言う
「俺一番最後でいいわ…」
南がよろり立ち上がってのらりくらりと歩き出した
「六時間目も鉄棒なワケ?」
南と同じペースで歩きながら坂田が聞く
「じゃねぇの?」
坂田と南が来るのを待っていた京助が言う
「同じ棒なら鉄よりうまい棒がいいなぁ俺」
南が言った
「次! 京助!!」
体育教師が京助の名前を呼んだ
「はっ!?; なんで俺; さっきやったばっかじゃんエッチー;」
京助が【エッチー】というらしき体育教師に言う
「さっきできたヤツから逆回転」
エッチーと呼ばれた体育教師が答えた
「うっわ…;」
京助が顔をそらして口の端を上げた
「逆上がり連続何回できるかな」
エッチーが笑いながら言う
「五回以上できたらジュースなエッチー」
京助が鉄棒の棒を掴みながら言った
「いや十回だなお前は」」
エッチーが言う
「何でだよ;」
ソレに対し京助が反論すると問答無用のごとくエッチーの笛が鳴った
「片ッ腹痛てェ~;」
京助が片腹を押さえながら教室へと続く廊下を3馬鹿と共に歩く
「調子に乗ってやりまくるからだろが」
坂田が言う
「本当運動神経はいいんだよなぁ京助」
中島が京助の尻を叩いた
「性格もいいぞ」
京助がキュピィンポーズで言うと坂田がすかさず裏手で突っ込む
「何かいい匂いしない?」
そんな京助を無視して南が言う
「…忘れてた! 調理実習!!;」
坂田が声を上げた
「どおりで教室に戻ってくるやつ少ねぇワケだ! 家庭科室!!;」
京助が向きを変えた
「おこぼれおこぼれ!!」
南も笑いながら方向展開して駆け足を始める
「残っててくれよッ;」
中島と坂田も階段を駆け下りた
「だぁれにあげるのかしらん?」
ミヨコが阿部の肩を軽く叩いた
「え…や…別に;」
エプロンに三角巾をした阿部が慌てて背中に何かを隠した
調理実習が終わり後片付けに入っていた家庭科室に体育を終えおこぼれを授かろうとやってきた男子が班ごとに分かれていた親しい女子に声をかけている
「阿部っちゃん!!」
浜本とハルが阿部の班に近づいてきた
「何作ったんだ?」
ハルがマイハニーミヨコに聞く
「アップルパイだよ」
ミヨコがハルに残しておいたらしき切り分けられたアップルパイを差し出した
「サンキュ」
照れながらもハルが受け取ると二人の周りだけが何処となく桃色幸せオーラに包まれた
「いいねぇ…決まった相手がいるてのは…ってことで阿部ちゃん!!」
浜本が阿部を振り返る
「あげないからね」
そんな浜本に向かって阿部がキッパリといった
「…本間」
阿部に断られた浜本が本間を振り返った
「…何?」
本間がにっこり笑って言うと浜本が苦笑いを返した
「うるぁ---------------!!!!」
急ブレーキで止まった事で上履きが廊下の床と擦れる音がして京助が家庭科室の中に入ってきた
「遅いぞ~」
男子生徒が京助に続いて家庭科室内に入ってきた3馬鹿に向かって笑いながら言った
「余ってねぇ?」
坂田が一番近くの班に声をかける
「石田が食った」
一人の女子が隣の男子を指差した
「吐け」
坂田が石田というらしき男子生徒に言う
「早い者勝ち~ぃ」
石田が笑いながら言った
「くっそ~…遅かったカァ;」
南が溜息をつく
「…あげるんでしょ?」
「へっ?;」
本間が阿部に聞いた
「栄野に」
本間が阿部に小さい声で言うと阿部の顔がカッと赤くなる
「ななな…ん…ッ;」
どもりながら後ずさった阿部の手からラップに包まったアップルパイが床に落ちた
「あ…」
「三秒ルール発動!!」
アップルパイが床に落ちると同時に数人の男子が揃って【三秒ルール】を発動させ阿部の落としたアップルパイめがけて駆け寄る
「ちょ…だ…!!」
「だりゃ-----------ッ!!!!」
阿部の言葉が男子の雄叫びでかき消された
「…も~らいッ;」
数人の男子にジャージを掴まれながら京助が言う
「判定は?」
南が坂田に三秒ルール判定を聞く
「…まぁ…適応?」
坂田が適当に答えた
「ヨッシャ--------------!!」
床に倒れたまま京助が叫んだ
「後から食べようと思ってたのに」
教室に向かう廊下を歩きながら阿部が言う
「焦げてんぞ阿部~」
京助が三秒ルール適応で手に入れたアップルパイを食いながら言った
「うっさいッ!!; 黙って食えッ!!」
文句を言った京助に阿部が怒鳴る
「まぁ…結果オーライ?」
怒鳴った阿部の肩を叩いて本間が言う
「う…;」
阿部の顔が赤くなった
「うるさいなッ!!;」
そして本間に向かって怒鳴りながら阿部が教室の戸を開ける
「…阿部?」
戸をあけたのはいいが中に入らない阿部に本間が声をかけた
「どうした?」
その本間の後ろから坂田も声をかける
ヂ~…チキチキチキチキ…
という機械音らしき音が聞こえた
「何…コレ…」
阿部が小さく言うと顔を見合わせた京助と坂田が阿部の体を押しのけて教室の中を見た
「な…」
京助と坂田が同時に声を出した
「何じゃこりゃ---------------ッ!!;」
坂田の声が廊下に響いた
「っ…だしょっ; あ”~…;」
カンブリを布で拭いていた阿修羅の鼻から鼻水が流れた
「汚いんだやな;」
コマが言う
「拭くんだやな;」
イヌが尻尾でティッシュの箱を阿修羅の元に飛ばした
「あんがとさんワンコ」
ティッシュを二枚抜いた阿修羅が勢いよく鼻をかむ
「風邪でもひいたっちゃ?」
洗濯物を取り込んでいた緊那羅が阿修羅に聞いた
「いんや~…どうだか…急に寒気がしたんよ;」
鼻をかんだティッシュをゴミ箱の方向へ投げ捨てながら阿修羅が答える
「ヘンタイも風邪引くんだやな?」
イヌが言う
「コラコラワンコ; 誰がヘンタイだっちゅーん;」
阿修羅がイヌの首根っこを掴んで持ち上げた
「京助達がいってたんだやな」
イヌが言う
「竜のボンけ…;」
阿修羅が苦笑いをした
「でも京助達も馬鹿だからどっこいどっこいなんだやな」
コマが耳の後ろを掻いて伸びをしながら言う
「馬鹿ねぇ…」
阿修羅がイヌを下ろすと足を組んで空を見上げた
「…そういや…馬鹿っちゅーと…」
阿修羅がハタと何かを思い出したのか足を組みなおした
「馬鹿がどうかしたんだっちゃ?」
「わぷ;」
緊那羅がコマの上に洗濯物を下ろしながら阿修羅に聞く
「緊那羅何するんだやなっ;」
洗濯物の下からイヌの手を借りて這い出してきたコマが緊那羅に抗議の声を上げた
「そんなとこにいるからだっちゃ。ホラホラどいたどいた」
緊那羅がサンダルを脱いで縁側に上がると洗濯物をかき集めて和室へと運ぶ
「…緊那羅だんだんハルミママさんに似てきたんだやな;」
イヌがボソッと言った
「京助が帰ってこない?」
仕事を終え自宅に戻ってきた母ハルミが悠助と慧喜に聞いた
「うん…もう六時なのに」
悠助が不安そうな顔をすると慧喜が悠助を抱きしめた
「どうせまたなんかやらかして居残りさせられてるんでしょ」
そう苦笑いで言いながら母ハルミが巫女服を脱ぎ部屋着に着替える
「そう…かなぁ…」
悠助が呟いた
「ハルミママさん」
緊那羅が部屋のふすまをノックしてひょいっと顔を覗かせた
「私ちょっと学校まで行ってくるっちゃ」
「僕も行く」
「悠助が行くなら俺も行く」
緊那羅が言うと間を置かず悠助と慧喜が続け様に言った
「あら~みんないっちゃうと母さん寂しいじゃない」
母ハルミが言うと悠助が考え込む
「…ハルミママ寂しい…なら僕待ってる」
「じゃぁ俺も待ってる」
悠助が言うと慧喜も言う
「すぐ連れて戻ってくるっちゃ」
緊那羅が悠助に笑いかけた
「よ」
「阿修羅?」
玄関の壁に寄りかかっていた阿修羅が片手を上げた
「オライも行くわ」
壁から体を離して阿修羅が軽く伸びをして言う
「ちょっと見に行くだけだっちゃよ?」
靴を履きながら緊那羅が言った
「ヨシコがまだアレなんで教育係はヒマなわけさね」
阿修羅が言うと緊那羅が顔をしかめた
「…吉祥はまだ…?」
緊那羅が聞くと阿修羅が頷く
「面会は許可されたんだけどな…まだ宮の中からはでらんないわけさ」
阿修羅が言う
「ってことで同行すんわ」
緊那羅の頭に手を置いて阿修羅が笑った
ヂー…チキチキチキチキ…
そしてカタカタカタという音が教室に響く
「…腹減った…;」
京助がぼそっと呟いた
「お前さっき三秒ルール適応でアップルパイ食っただろ」
浜本が小声で言う
「さっきって何時間前だッ; もう晩飯の時間じゃん;」
京助が小声だけど怒鳴る様に言った
「ってか俺等隣のクラスなんですが;」
南が遠い目をして呟く
「俺に言うな俺に;」
京助がまたも小声で怒鳴る
「あんな太陽にほえろみたいな何じゃこりゃーっての聞いて見に来ないほうがおかしいだろが;」
中島が言う
『ウリュサイ』
ジャキという音がすると小声の討論が静まり返った
「おいちゃんの計算ではもうすぐなんだ」
教卓の上で黒板に背を向けた赤いナイトキャップのような帽子をかぶった人物が言った
そんなにも大きな声ではなかったのだが静まり返った教室には充分響く
「そう…こうして捕獲しておけばきっと来るはず」
ヒョイと教卓から飛び降りたその人物がチョークを持ち黒板にカリカリと何かを書き出す
「ここでこう…するとこういう状況ができて…」
カツカツとチョークを黒板に打ちつけながらわけのわからない数学のような科学のようなそんな式を組み立てていくその人物を教室の隅に固められた二年三組の生徒 (一部二組も含む)が黙ってみている
「思うに…」
坂田が小さく言うと京助を見た
「…これって」
南も京助を見た
「間違いなくお前関係だよな」
そして中島がトドメと言わんばかりの一言を京助に言う
ヂー…チキチキチキ…
また機械音が聞こえ3馬鹿が黙った
『ウリュサイ』
ジャキンという音ともに生徒たちに向けられたのはどう見てもバズーカ砲
ソレを持つのは20センチくらいの機械仕掛けの人形
「…今度こそおいちゃんの方が天才だってこと…証明するんだ」
計算式を見上げて赤いナイトキャップのような帽子を被った人物が呟いた
「おかしい」
本間が呟いた
「何が」
阿部が聞く
「…先生が来ない」
本間が言うとハタと生徒達が本間を見た
「そういや…そうだよな…ウニが来ない」
浜本が担任であるウニの姿を見ていないことを思い出して呟く
「それに静か過ぎない?」
更に本間が言うと生徒達が耳を澄ませた
「…そう…だね…」
物音一つせず静まり返っている校内に南が首をかしげる
「当たり前。邪魔が入っちゃ困るから計算済み」
聞こえたのか帽子の人物が答えた
「何したんだ?;」
京助が聞く
「丸一日眠ってもらっている」
帽子の人物が言った
「…アンタ誰? 何がしたいわけ?」
阿部が帽子の人物に向かって喧嘩腰の口調で言う
「…うっさいなぁ…」
帽子の人物が嫌そうに言うとチキチキという音と共にバズーカ砲をもった人形が阿部の方を向いた
「ソコの馬鹿っぽいのが栄野京助だろ?」
帽子の人物が京助の名前を口にすると生徒が一斉に京助を見た
「やっぱか…」
坂田が京助の肩を叩いて言う
「何? 京助の知り合い?」
阿部が京助に聞く
「しらねぇよ;」
京助が口の端を上げて答える
「怪我はさせないよ。大事なヤツだし」
帽子の人物が言う
「ただちょっとおいちゃんに協力してもらうだけ…お二方に怒られるの嫌だし」
「お二方?」
帽子の人物が言った言葉に京助が眉をひそめた
「…お二方…お二方…な~んか前に同じ様な呼び方してたヤツが…」
京助が必死で何かを思い出そうとしている
「ってかアンタずっと背中向けたままで失礼じゃない?」
阿部が言う
「阿部ちゃん強ぇえなぁ;」
浜本が阿部を見て言った
「本当うるさいなぁっ」
「…ぶ」
苛立った口調と共に振り返った帽子の人物を見るなり生徒一同が噴出した
生徒達が見た帽子の人物の顔は真っ白い間の抜けた顔のお面の額に【笑】の文字が書かれたものだった
「一つだけ明かりがついてるっちゃ…あそこは…」
「ダハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」
京助を迎えに来た緊那羅が一つだけ明かりのついていた教室の下に来るとほぼ同時に聞こえた生徒の大爆笑の声
「おぉ~? 何か楽しそうだな?」
阿修羅が教室を見上げて言う
「何がおかしいんだッ!!」
爆笑の声の中から聞こえた声に阿修羅が目を大きくした
「…あんれまぁ;」
そして呆れたような顔になる
「阿修羅?」
そんな阿修羅を緊那羅が見た
「こりゃ…ちょっくら帰んの遅くなりそうださ」
阿修羅が腰に手を当てて頭を掻くと地面を蹴って飛び上がり明かりのついた教室の窓に手をかけた
「やは」
爆笑の声が響く教室内に向かって阿修羅が片手を上げた
「ヒー…; …阿修羅!?;」
涙目で笑い転げていた京助が阿修羅の姿に声を上げると爆笑トルネードがやや落ちついた
「やっぱりおいちゃんの計算どおりだった」
帽子の人物が阿修羅の方を振り返る
「久しゅ~ばか」
阿修羅が教室内に入ってくるなり帽子の人物に挨拶をした
「上の名前を抜かすなッ!! おいちゃんは鳥倶婆迦だっ!!」
鳥倶婆迦が阿修羅に向かって怒鳴った
鳥倶婆迦と名乗ったその人物がやたら無駄に長い袖口を引きずりながら阿修羅の前に来た
「相変わらずオチャラケた顔してんのー」
阿修羅が鳥倶婆迦を見て笑った
「うっさいッ!!;」
鳥倶婆迦が片足を踏み出して怒鳴る
「おいちゃんと勝負しろ阿修羅ッ!! 今日こそおいちゃんの方が天才だってこと証明してやるんだッ!! 嫌とは言わせないからなッ!」
そう言って鳥倶婆迦が背中に背負っていた鞄に繋がっているらしき腰の紐を引っ張ると鞄の中から一体どうやって入っていたのか何対もの機械仕掛けの人形が飛び出して生徒達を取り囲んだ
『ホウイホウイ』
人形がキャッキャと踊りながら生徒達の周りを回り始める
「めんこいなぁ」
阿修羅がしゃがんで人形の踊る姿を見て言う
「勝負だ阿修羅ッ!! 嫌…」
「やだね」
鳥倶婆迦が言っている途中で阿修羅が早くも拒否の言葉を吐いた
「…っていったらって最後までいわせろよッ!!」
鳥倶婆迦がキーキー地団太を踏んで怒鳴る
「…馬鹿漫才だ…」
坂田がぼそっと呟いた
「馬鹿って言うな---------------ッ!!!!」
坂田の言葉が聞こえたのか鳥倶婆迦が大声を上げると人形が一斉にジャキンとバズーカ砲を構えた
「竜のボン!!;」
阿修羅が駆け出そうと床に手をつき体を前に倒すと同時に人形の目が光った
「ギャ-----------!; 何だかスッゲヤバ気------------ッ!!!!;」
生徒達が悲鳴を上げてできるだけ人形から放れようと隅っこまでおしくらまんじゅうの様にして逃げる
「…んの…ッ!!」
隅に立っていた掃除用具入れを開けて阿部が中から箒を取り出した
「いいかげんにしなさいよッ!!!」
阿部がそう怒鳴りながら箒で人形に足払いをかけると人形が次々にすっ転んで足をバタバタさせる
「ウッチャンズ----------!!;」
鳥倶婆迦が人形の名前らしき言葉を叫びながら人形に駆け寄った
「…つぇえ…」
箒を握り締めて息を切らせている阿部を見て中島が呟いた
「壊れたらどうするんだッ!」
人形に一つを手に持って鳥倶婆迦が怒鳴った
「大事ならしまっておきなさいよ!!」
負けじと阿部が怒鳴り返す
「こぇえ…;」
京助が口の端を上げて言った
「いや~見事見事」
阿修羅が立ち上がって拍手をする
「アンタも!!」
阿部が今度は箒の柄を阿修羅に突きつけた
「勝負の一つや二つ受けてやれないの!?」
そして阿修羅に向かって怒鳴る
「いいストレス発散になったみたい」
本間がボソッと言う
「いや…あのな嬢…;」
「いやでもあのでもないッ!! してやりゃいいじゃないッ!! そうすれば気が済むんでしょッ!?」
阿部が鳥倶婆迦に向かって怒鳴るとビクッとした後 鳥倶婆迦が頷いた
「京助!!」
ガラッという音がして緊那羅が教室の戸を開けた
「…何事…なんだっちゃ?;」
箒を持った阿部、隅っこで固まっている生徒、足をバタバタさせている人形、それらが一気に視界に入ってきた緊那羅が思わず教室内の全員に向かって聞いた
「…何…やってるんだっちゃ?;」
緊那羅がソロソロと教室内に入って静かに戸を閉める
「ンッンン!!;」
阿修羅がわざとらしく咳払いをするとハッとした生徒達がざわめきはじめた
「…あの…一体何あったんだっちゃ?;」
京助と3馬鹿の元にやってきた緊那羅が京助に聞いた
「…いや…女ってこぇえなぁって…」
京助が小さく言うと男子生徒が揃って頷く
「…女?;」
わけのわからない緊那羅が箒を持って立っている阿部を見て首をかしげた
「あのなぁばか…」
阿修羅が頭を掻きながら鳥倶婆迦を見た
「前の名前を抜かすなって言ってるだろッ!!;」
無駄に長い袖で見えないがおそらく阿修羅を指差しながら鳥倶婆迦が怒鳴る
「おいちゃんはバカじゃないッ!! 天才なんだ!!」
ずずいと鳥倶婆迦が阿修羅に向かっておそらく指を突きつけた
「…聞き捨てなりませんねぇ」
南が言った
「馬鹿を馬鹿にすんなよなー」
京助が口を尖らせて言う
「…馬鹿だから馬鹿にするんじゃないんだっちゃ?;」
そんな京助に緊那羅が控えめに突っ込んだ
「それにさぁ…お前知らないのか?」
坂田が鳥倶婆迦に近づき鳥倶婆迦の肩を叩いた
「…何をだよ?」
鳥倶婆迦が坂田を振り返る
「馬鹿と天才紙一重って言葉」
坂田が言うと京助と南、中島とその他数人の生徒が頷いた
「…馬鹿と…天才…紙一重?」
鳥倶婆迦が言葉を繰り返す
「まぁ要するに…馬鹿と天才は同じようなもんだってことだ」
坂田が鳥倶婆迦の肩をポンポン叩きながら頷く
「そうなんだっちゃ?」
緊那羅が京助に聞く
「おうよ! 馬鹿は実は偉大なんだぞ? だから俺は胸を張って言う!! 俺は馬鹿だ!!」
京助が自分に親指を向けて宣言した
「ハイハーィ! 俺も馬鹿--------!!」
南が挙手して言う
「馬鹿ばっか---------!!」
中島が笑いながら言った
「本当にね」
本間が溜息をつきながら言う
「だとさ」
しばらく黙っている鳥倶婆迦に阿修羅が声をかけた
「だからオライと勝負しなくても…」
「…お前ら馬鹿なのか?」
阿修羅の言葉を聞くことなく鳥倶婆迦が生徒達の方に体を向けた
「まかせろ!!」
3馬鹿と京助そしてその他数人の生徒が揃って親指を立てる
「…何を任せるってのよ…;」
阿部か呆れ顔で言う
「…馬鹿と天才は紙一重…」
「そうそう」
鳥倶婆迦が呟くと坂田が頷く
「天才は馬鹿…馬鹿は天才…」
鳥倶婆迦がブツブツ言いながら阿修羅と生徒達を交互に見る
「馬鹿…天才…」
そして黒板の方に歩き出しチョークを手に取った鳥倶婆迦が黒板になにやらまた計算式を書き出した
「…誰なんだっちゃあの子…」
緊那羅が言う
「お前知らねぇのか?」
京助が聞くと緊那羅が頷いた
「ってことは…アレか矜羯羅とかの方か…」
「正解」
京助が言うと阿修羅が笑いながら答えた
「アイツは【空】の鳥倶婆迦ってぇヤツ…前の【時】ンときにいなかった緊那羅は知らなくて当たり前なんよ…滅多に出てこないんよなアイツ」
阿修羅が言う
「ヒッキーはよくないよ~? 子供はお外で遊ばないとさぁ」
南が言った
「オライを勝手に敵視してんのさねー…; なんだか知らんけど」
阿修羅が困ったねというカンジの顔で言う
「…本当一緒にいるよね」
本間が阿部に言う
「…だから?」
阿部が箒を持つ手に少し力が込められた
「別に?」
本間が阿部の肩を数回叩く
「素直になりなさい素直に」
ミヨコもやって来て同じく阿部の肩を叩く
「うっさいなッ!!!;」
「わかったッ!!!」
阿部か赤い顔をして怒鳴ると同じくして鳥倶婆迦も声を上げた
「お前等! おいちゃんと勝負しろ!!」
鳥倶婆迦が教卓の上に飛び乗って隅っこに固まっている生徒達に向かって無駄に長い袖を振った
「はぁ?;」
ワケがわからない顔をする生徒をヨソに鳥倶婆迦が腰に手を当てて少し後ろにふんぞり返る
「嫌って言ったら…」
そして生徒達の足元でジタバタしている【ウッチャンズ】というらしき人形を見るなり教卓から飛び降りて一体一体大事そうに起こすとまた教卓に飛び乗って生徒達を見た
「嫌って言ったらま…」
「嫌だ」
鳥倶婆迦の言葉が生徒達の見事なハモリで止められた
「だから最後まで言わせろっていってるだろうッ!!」
教卓の上でキーキーと喚きながら鳥倶婆迦が地団太を踏む
「危ないっちゃ!!;」
「ばッ…!!;」
京助と緊那羅がほぼ同時に声を上げ低い姿勢のまま二人の体が動いた
「ぅわ…ッ!;」
古くてガタがきていた教卓の上で地団太を踏んだためかバランスを崩した鳥倶婆迦が教卓から足を踏み外して落ちる
「…っんの馬鹿ッ!!; ンなトコで暴れたら落ちんの目に見えてんじゃねぇかッ!!;」
京助の背中に顔面から落ちた鳥倶婆迦に京助が怒鳴る
「ナイススライディング京助!!」
中島が言った
「さすが体育馬鹿!!」
坂田も言う
「大丈夫? 京助…」
阿部が箒を持ったまま京助に声をかけた
「えと…大丈夫だっちゃ?」
京助に一歩遅れた緊那羅が鳥倶婆迦に言う
「とりあえず降りてくれ;」
京助が背中の鳥倶婆迦に言った
「お前…なんで…」
「ホイホイ早く降りる降りる」
何かを京助に言おうとした鳥倶婆迦を阿修羅が抱き上げた
「なんでおいちゃん…」
阿修羅に抱き上げられたままの鳥倶婆迦が京助に向かって言う
「何でって言われても…条件反射?」
座った京助が答えた
「京助腕すりむいてるじゃない;」
阿部が京助の腕を見て言う
「あ? ああ…まぁこんなんたいしたことねぇし」
京助が手首をぷらぷらさせながら言った
「舐めときゃなお…」
「うおおおお!!!;」
「キャー!!」
言いかけた京助の腕がグイっと引っ張られざわめきと黄色い悲鳴が広がった
「な…ッ!!!!!;」
阿部の目が大きく見開かれた
「ほほぉ~…」
阿修羅が感心したように笑いながら頷く
「うむ…今日の塩加減は塩一キロってトコですか中島さん」
坂田が中島に聞く
「いやいや…五キロは軽いですよ坂田さん」
中島が答える
「ラムちゃん素でやってるとこがなんともはや…だよねぇ?」
南がハッハと笑った
「…あの…緊那羅さん;」
京助が自分の腕の擦り傷に口をつけている緊那羅に声をかけた
「なんだっちゃ?」
緊那羅がきょとんとして返事をする
「何をなさっているんですかね?;」
京助が聞く
「舐めると治るって前に聞いた事あるし…今京助も言ったじゃないちゃ?」
緊那羅が真顔で言った
「いや…あのですね…; …なんだ…あ~…ナンデモアリマセン;」
緊那羅が本気で治ると思っているという事がわかった京助が口の端を上げて言う
「ッ…ここは教室ッ!!」
バシィッという音と阿部の怒鳴り声が教室に響いた
「ナイスバッティング」
本間が拍手して見る先には阿部の見事なフルスィングを頭に受けた京助の姿
「あ…阿部さん?;」
「いってぇッ!!; 何すんだ阿部ッ!!;」
驚く緊那羅に怒鳴る京助
「いちゃつくなら他でしてよ!! 馬鹿ッ!!」
「やーいばーか」
「ばーかばーか」
阿部の怒鳴り声に続いて3馬鹿含む生徒達が一斉に【馬鹿】コールを京助に浴びさせる
「やかましいッ!!!!;」
京助が怒鳴った
「さっきは自分で馬鹿宣言してたんじゃないっちゃ?;」
緊那羅が小さく突っ込む
「こうやって他人に言われると何だかめらのっそムカつくんだよッ!!;」
京助が言う
「…お前が一番馬鹿なのか?」
阿修羅に抱き上げられたままだった鳥倶婆迦が京助に聞いた
「ザ・キングオブ馬鹿」
「誰がじゃ!!」
坂田が京助を指差して言うと京助が怒鳴る
「キング~キング~ムテキング~」
南が得意の即席ソングを歌った
「なら…」
鳥倶婆迦が京助を見た
「なら栄野京助!! おいちゃんとしょ…」
「やなこった」
言いかけた鳥倶婆迦の言葉を京助が止める
「だから最後まで言わせろっていってるだろうッ!!」
阿修羅に抱きかかえられたままで鳥倶婆迦がキーキー暴れて怒鳴る
「コラコラ暴れなさんな;」
阿修羅がそんな鳥倶婆迦をなだめる
「お二方が怒る…けどおいちゃんと勝負しろ!! おいちゃんの方が馬鹿だってこと証明するんだッ!!」
鳥倶婆迦が京助に向かって怒鳴った
「…馬鹿っぷりを証明…ねぇ;」
浜本が苦笑いで言う
「充分証明されてるような…」
ミヨコが呟く
「うん馬鹿だよね」
南が言う
「でもおもしろそうじゃん?」
坂田が言う
「んだな」
中島と数人の生徒が頷いた
「ってことで勝負しろや京助」
ハッハと笑いながら中島が京助に言った
「何で俺が…」
「キングオブ馬鹿だし」
怒鳴りかけた京助に3馬鹿と数人の生徒が見事なハモリで返す
「代表だぞ~馬鹿の」
「嬉しくないっつーの!!;」
阿修羅も便乗して面白そうに京助に言う
「馬鹿になれば天才にもなれるんだろう? だから勝負だ!! 栄野京助!」
まだ阿修羅に抱きかかえられたままで鳥倶婆迦が長い袖で京助を指差した
「何で勝負させる?」
「人の意見を聞いてくださいませんかッ!!;」
京助の意見を聞き入れず生徒達が3馬鹿中心に話を進めると京助が抗議した
「…馬鹿だから仕方ないじゃない」
阿部が京助の隣で言う
「あのなッ; って…」
阿部の方を向いた京助の腕を阿部が持った
「…本当に馬鹿なんだから」
擦りむいた京助の傷に阿部がハンカチを巻きながら言う
「バイキン入ると化膿する」
軽く縛って阿部が京助の腕を放した
「あ…お…?;」
少し混乱しているらしい京助が何故かハンカチの色を口にした
「お礼は!!」
阿部が言う
「あ…ありがとうございます…?;」
どもりながら京助がお礼を言った
「ヨシ!!」
阿部が笑顔で言う
「じゃ…コレでいくか?もうグランド暗いけど外灯つければ見えるだろうし…京助が勝てるっていえば体育だし」
頭を寄せ合った生徒の群れから坂田の声がする
「楽しそうやなぁ~」
阿修羅がそんな生徒達を見て言う
「…何見てるんだ?」
「あ…いや…;」
阿修羅に抱きかかえられている鳥倶婆迦の顔を見ていた緊那羅に鳥倶婆迦が聞いた
「さっき顔から落ちたから…その…大丈夫かなっておもっただけだっちゃ;」
緊那羅が苦笑いで答えた
「…お前 緊那羅だろ?」
「ほぉ~よく知ってたなぁ」
鳥倶婆迦が言うと阿修羅が感心したような声を上げた
「知ってるさおいちゃんだって一応【時】にかかわるんだ」
鳥倶婆迦が言う
「そだな…お前もかかわるんだしな…知ってるわな」
阿修羅が鳥倶婆迦を下ろしながら言った
「おいちゃん【時】は嫌いだよ」
鳥倶婆迦が帽子を直しながら言う
「…みんな笑わなくなるから」
小さく鳥倶婆迦が言うと阿修羅がふと笑って鳥倶婆迦の頭に手を置いた
「だからおいちゃん…【時】は嫌いでだから栄野ってのも嫌い…だと思ってた」
「私もだっちゃ」
緊那羅がしゃがんで鳥倶婆迦に笑いかける
「私も【時】は大嫌いだっちゃけど京助と悠助は好きだっちゃ。おそろいだっちゃね…えと…ばか…?;」
「鳥倶婆迦だッ!!!」
緊那羅が言うと鳥倶婆迦が怒鳴った
暗くなったグランド、その一角にできた生徒の壁、そしてその中心にあるのは
「鉄棒かよ;」
京助が本日嫌というだけ授業で回った鉄棒を見て横っ腹を押さえた
「体育馬鹿のお前に合わせてやったんだ感謝しろ」
坂田が言う
「…なんだこれ」
鳥倶婆迦が鉄棒を見上げた
「コッチは京助用。おみゃーさんはコッチ」
南が三種ある高さの鉄棒の中で一番低い鉄棒を指差した
「…コレでどうやって馬鹿を決めるんだ?」
鳥倶婆迦が聞く
「まぁソレをこれから説明するんですよってことで坂田君」
浜本が坂田に自分の拳で作った即席マイクを向けた
「あ~…コホン…コレより第一回馬鹿キング杯馬鹿決定戦を行ないます!」
「ワ--------------------------!!!」
リリリリ…という涼しげな虫の鳴き声が生徒達の拍手と歓声でかき消された
「黄土色コォォナァ~!! 栄野京助~!!」
「…微妙な色だナァオイ;」
坂田が京助を紹介すると京助が呟いた
「そして群青コォォナァ~!! 馬鹿------------!!」
「鳥倶婆迦だっ!!」
京助と同じく鳥倶婆迦を坂田が紹介すると鳥倶婆迦がキーキー地団太を踏んで怒鳴る
「落ち着け~ばか~」
阿修羅が笑いながら鳥倶婆迦の頭をポフポフと叩いた
「細胞が減るじゃないかッ! 叩くな阿修羅!! おいちゃんは鳥倶婆迦だっ!!」
鳥倶婆迦が喚きながら自分の頭に置かれた阿修羅の手を引っぺがそうとする
「まぁまぁ…ホレ、馬鹿同士握手握手」
阿修羅が鳥倶婆迦の体を押して京助の方に向けた
「…真面目にすんのかよ…;」
京助の顔が引きつった
「一回勝負すれば気が済むっていってんだからやってやんなさいよ京助」
阿部が京助に言う
「ルールは簡単!! 馬鹿でもわかる!!」
坂田が説明をし始めた
「この鉄棒でより多く逆上がりをやってのけた方が体育馬鹿だ!」
鉄棒を手で掴みながら坂田が言う
「また逆上がりかよ…;」
京助が溜息をついた
「逆上がり?」
緊那羅が坂田に聞く
「あれ~? ラムちゃん逆上がり知らないんだ」
浜本が坂田を押しのけて緊那羅に聞き返した
「うん…逆上がりって…坂を上るとはまた意味が違うんだっちゃ?」
緊那羅がまた聞く
「あ~【さか】違いだねぇ; ……えっと…京助!!;」
南が京助を見た
「ヘイヘイ; …逆上がりってのはこう…この棒を掴んで…ッ」
鉄棒を掴んだ京助の体が空に向かって一周する
「…っと…コレが逆上がり」
一回回って着地した京助が緊那羅の方を見た
「やってみ?」
京助が緊那羅に言う
「…こう…だっちゃ?」
地面を勢いよく蹴った緊那羅が京助と同じように空に向かって一周して着地する
「すげー! ラムちゃん!!」
浜本が言った
「ラムちゃん何でもできるねぇ…料理も上手いし」
南が言う
「…だってさ」
本間が阿部を肘で突付いた
「り…料理くらいアタシだって…ッ;」
「卵割ると必ず殻が入るのに」
阿部が言いかけるとミヨコが突っ込んだ
「バターを直火で溶かそうとするし」
ミヨコに続いて本間も言う
「剥いた林檎は最初から比べると三分の二くらいになるし」
またミヨコが言う
「い…いいじゃないッ;」
阿部が少し大きな声で言った
「これから上手くなるんだもん;」
そして小声で言う
「胸の大きさは互角だもん;」
阿部が更に小声で緊那羅を見ながら言うと緊那羅と目が合い緊那羅が阿部に笑いかけた
「じゃまず京助いってみよー!!」
坂田が言うと生徒達から歓声が上がる
「負けんなよ馬鹿!」
「やかましいッ! お前らも馬鹿だろうが!!;」
鉄棒を掴みながら京助が怒鳴る
「馬鹿だけどキングレベルじゃないし~?」
浜本が言うと一同が頷く
「でも馬鹿なんでしょ」
本間が言う
「まぁねぇ」
南が笑った
「何かしろ馬鹿なトコは誰だってあるさ」
中島が言う
「坂田はハルミさん馬鹿」
中島が坂田を指差して言うと坂田がまかせろ!! というカンジで親指を立てた
「南はありす馬鹿プラス裁縫馬鹿」
今度は南を見て言う
「そうそう! そして浜本は写真馬鹿」
南が浜本に言った
「一つでも馬鹿を作っておかないと疲れるよナァ」
京助が言う
「馬鹿って…こう聞くといいものに聞こえるっちゃね」
緊那羅が言った
「だろ?」
京助が笑う
「アンタは栄野馬鹿?」
「なっ!!;」
緊那羅に向けた京助の笑顔を見ていた阿部に本間が突っ込むと阿部が真っ赤になった
「否定しない否定しない」
ミヨコがポンポン阿部の肩を叩いた
「ひ…ひていってッ!!;」
「声裏返ってる」
阿部が言うと本間がまた突っ込む
「いいじゃない馬鹿で」
ミヨコが阿部に軽く体当たりをして言った
「で! ハイ! 気を取り直して~…レッツラ!!」
坂田が鉄棒の柱を叩いて言う
「ヘイヘイ;」
坂田に催促されて京助が地面を蹴った
「お~…回る回る」
男子生徒が拍手をしだした
「やるねぇ竜のボン」
阿修羅が言う
「あんなのおいちゃんだってできるよ」
どこか拗ねた口調で鳥倶婆迦が言った
「お~エッライ自信だなばか」
「鳥倶婆迦だッ!!」
阿修羅が鳥倶婆迦の頭に手を置いて言うと鳥倶婆迦がキーキー地団太を踏みながら怒鳴る
「でもお前…本当にできるんかぃ?」
阿修羅が鳥倶婆迦に聞く
「簡単だよただ回ればいいんだろう?」
そういうと鳥倶婆迦が近くに落ちていた棒っきれでグランドにガリガリと何かの式を書き出した
「栄野京助がこう回るってことは…ここに…おいちゃんの…」
長い袖をずるずる引きずりながら鳥倶婆迦が式を拡大させていく
「よし! おいちゃんの計算ではおいちゃんが勝つ!」
鳥倶婆迦が嬉しそうに言う
「そっかそか」
阿修羅が笑いながら言った
「京助18回!!」
坂田の声がすると生徒の歓声が上がる
「腹痛ッテェ~;」
京助が鉄棒の下に座った
「大丈夫だっちゃ?;」
緊那羅が駆け寄って声をかける
「出遅れ…」
「うっさいッ!!;」
一歩足を進めたが止まった阿部に本間が言うと阿部が怒鳴った
「ラムちゃん本当京助に付っきりだナァ…俺入り込めないじゃん;」
浜本が口を尖らせた
「まぁ…緊那羅と京助はな」
坂田が小さく言った
「ラムちゃんってある意味京助馬鹿なんだよねぇ…過保護っていうか」
南が言う
「第二の母?」
中島が言う
「父じゃないよねぇ…どう見ても」
南が笑う
「男だけどな」
「ヘッ!?;」
中島が言うと浜本が素っ頓狂な声をあげた
「男…って…」
「緊那羅は男」
浜本が聞くと3馬鹿がハモる
「マジで-----------------------------------!!!!?;」
浜本の叫びが夜空に響いた
「まじで…かよ;」
浜本が緊那羅の方をゆっくり見て言う
「嘘ついてなんの特になるっちゅーん;」
坂田が言った
「だって…アレで?;」
浜本が緊那羅を指差した
「ちゃんとついてたよ同じのが」
南が浜本の股間を触った
「…うわぁ~…ぉ;」
股間を押さえつつ浜本が溜息をついた
「…まさかお前…」
中島が浜本に言う
「浜本…緊那羅の…」
「言うな;」
坂田が言いかけるとソレを浜本が止めてしゃがみこんだ
「お前 緊那羅好きだったんか…;」
「ダァ-----------------------------ッ!!; 言うなってんだろがっ!!;」
止められてもなお続行して言った坂田に浜本が怒鳴る
「最悪の結末だねぇ;」
南がハッハと笑う
「…しんじらんねー…; …一目惚れだったのによぉ;」
浜本が呟くと3馬鹿が同時に浜本の肩を叩いた
「何盛り上がってんだ?」
緊那羅と共にやってきた京助が3馬鹿に聞く
「いや…ね…強く生きろと…」
中島が遠い目をして答える
「ラムちゃんたら罪なお方」
「へっ?;」
南が緊那羅に抱きついた
「何があったんだ?;」
京助が3馬鹿と浜本を見て聞くと坂田が京助の肩に手を置いて無言で頷く
「はぁ~ぁ…;」
浜本の重い溜息が聞こえた
「オ~ィ!! 司会者ー!!」
男子生徒が坂田に向かって手を振る
「おー!! 今行くー!!」
坂田が京助の肩から手を離して鉄棒のところまで駆けていった
「じゃ次はばかの番」
「鳥倶婆迦だっ!!」
坂田が一番低い鉄棒の前にいた鳥倶婆迦に向かって言うと鳥倶婆迦が例のごとくキーキー喚きながら地団太を踏んだ
「やり方はわかるよな?」
後から来た京助が鳥倶婆迦に聞く
「わかるさ」
鳥倶婆迦が鉄棒を見上げた
「おいちゃんの計算ではおいちゃんが勝つって答えが出たんだ」
鳥倶婆迦が鉄棒に向かって手を伸ばした
「袖捲くらないとすべるんじゃない?」
阿部が言う
「うるさいなぁ…」
鳥倶婆迦が阿部に言った
「かっわいくないなぁっ」
阿部がむっとして膨れた
「まま; 許してやってくんれ嬢;」
そんな阿部に阿修羅が【スマン】と片手で謝る
「馬鹿になれば天才なんだ」
鳥倶婆迦が鉄棒を掴んで呟いた
「おいちゃんは…」
鉄棒を掴んだ鳥倶婆迦の手に力がこもって足が地面を蹴った
そして宙を蹴ってまわらず地面にまた足が戻る
「…できてないじゃん」
本間がボソッと言った
「な…んで…だっておいちゃんの計算じゃ…」
鳥倶婆迦が声を震わせながら言う
「おいちゃんの計算じゃ…ッ!!」
鳥倶婆迦がまた鉄棒を掴んだ
「簡単に勝てる…て…」
また地面を蹴った鳥倶婆迦の足がやはり回らず地面に戻る
「…勝てるって計算で…でたんだ…」
鉄棒から手を離した鳥倶婆迦が袖にくるまれている自分の手を見た
「勝負になんねぇじゃん;」
生徒の一人が言うと生徒達がざわめきだす
「一回もできないんじゃねぇ」
女子生徒が言う
「ダッメ駄目」
「京助の勝ちか?」
「そらな~…」
ザワザワと生徒達が話し出す
「おいちゃんは…」
鳥倶婆迦が自分の手を見たまま止まった
「よっこいしょッ」
「うゎっ;」
阿修羅がいきなり鳥倶婆迦を抱き上げた
「何するんだッ!!;」
鳥倶婆迦が怒鳴る
「痛て痛て痛てッ; 暴れなさんなッばかッ;」
鳥倶婆迦が手足をばたつかせて怒鳴りその手足が阿修羅を攻撃するようなカンジになっている
「も一回やってみー? 手伝ってやっから;」
少し鳥倶婆迦から体を離して阿修羅が言う
「もう一回…って」
鳥倶婆迦がちょうど自分の胸のところにある鉄棒を見た
「手伝いなんて…っ; おいちゃんは…」
「蹴る力が弱ぇえんだよ…あと腕の力」
京助が言った
「蹴る力…でもおいちゃんの計算では…」
鳥倶婆迦が京助を見る
「俺は計算なんかできねぇからわからんけど…もう少し強く地面蹴ってみ?」
京助が地面を踏んで言った
「計算では…」
鳥倶婆迦が小さく呟く
「頭で考えるより行動してみていいときもあると思うよん?ばか」
「鳥倶婆迦だッ!!」
南が言うと鳥倶婆迦が怒鳴る
「いーから! ホレ! 支えててやっからまずやってみ?」
阿修羅が言った
「…おいちゃんの…」
鳥倶婆迦が躊躇いがちに鉄棒を掴んだ
「ちっがーぅ; もち方はこう!! 逆!!」
男子生徒が京助の隣で逆上がりの持ち方をやってみせる
「…こ…う?」
ソレを見た鳥倶婆迦が手のもち方を変えた
「そうそう~そんで…引き寄せて蹴って回るッ!!」
一番高い鉄棒で中島が実践して見せた
「お~やるねぇでっかいの」
阿修羅が笑いながら言う
「ホレ! 次はばかの番」
中島を見ていた鳥倶婆迦に阿修羅が言った
「おいちゃん…こんなの…」
鳥倶婆迦が鉄棒から片手を離した
「こんなの計算に出なかった…」
「…なぁにがさね」
ボソッと言った鳥倶婆迦を抱きなおして阿修羅が聞く
「なんで…こんな…構うんだよ…」
聞こえるか聞こえないかの声で鳥倶婆迦が言った
「構いたいからじゃないのけ?」
阿修羅がさらっと言う
「だっておいちゃんの計さ…」
ゴス
言いかけた鳥倶婆迦の丁度額の文字に阿修羅が指をつきたてた
「なにするんだッ!!;」
鳥倶婆迦が額を押さえて怒鳴る
「計算計算計算…計算で出るのは計算できるものだけなんでよ? ばか」
阿修羅が言う
「あんなぁ…ばか…計算できないものもあるんよ?」
「何…」
鳥倶婆迦を下ろした阿修羅が腰に手を当てた
「ここ?」
阿修羅が自分の胸を親指で刺した
「うっわクッサ~;」
ソレを見ていた京助と中島が同時に言う
「うっわヒッド~; 竜のボンもでっかいのも;」
阿修羅が言った
「ココってことはアレでしょ? ハーツ?」
南が指でハートを作った
「気を取り直しまして…いいか? ばか…ココロっちゅーのは絶対計算できないんよ」
阿修羅が鳥倶婆迦の胸を指で押して言う
「ココロは十人十色って…人それぞれそしてソレがまた変わってそれぞれ…わからないか? こんがらっちょとタカちゃんが変わったって」
阿修羅が言うと京助が手を叩いた
「そっか! 思い出した思い出した【お二方】!! 慧喜だ慧喜ッ!!」
京助が言う
「その慧喜だってそうだろがや? 変わったぞ~…びっくらすんぞばか」
阿修羅が笑う
「…でも…おいちゃん…計算が…」
鳥倶婆迦が俯いた
「おいちゃん…計算ができなかったら…何もできないんだよ…だから計算…は…」
ペンッ
「な…;」
阿修羅が鳥倶婆迦の頭の上にのせた自分の手の上から鳥倶婆迦の頭を叩いた
「やってみ?」
にーっと笑った阿修羅が鉄棒を指さした
阿修羅の指差した鉄棒を鳥倶婆迦が黙って見る
「おいちゃんはできなかったんだ…」
鳥倶婆迦が俯いて呟いた
「初めてやったんだろ? できなくてもいいじゃん」
京助が言う
「でも!! でも…緊那羅はできてたんだ…おいちゃんはできなかったけど…」
そう言った鳥倶婆迦の声は震えていた
「私は…;」
いきなり名指しで口に出された緊那羅がうろたえる
「ラムちゃんはラムちゃん!! アンタはアンタでしょ」
阿部が鳥倶婆迦の顔を覗き込んだ
「アタシだってできるかできないかだもん今も」
「俺なんかできないよ~?」
阿部が言うと南も言う
「できなかったから…おいちゃんは天才じゃないんだ…よ…計算も間違ったし…っ」
鳥倶婆迦が鼻を啜りながら言った
「違うだろがばか」
阿修羅が鳥倶婆迦の頭を撫でて言う
「お前さんが今なりたいってゆーて竜のボンと勝負してるのは何だや?」
ポフポフと鳥倶婆迦の頭を軽く叩いて阿修羅が聞いた
「……馬鹿…」
鳥倶婆迦が小さく言った
「だろがな? だからいいんよ」
阿修羅が鳥倶婆迦を抱きあげた
「馬鹿は一発でできなくてもいいんよ。何回も何回もやっていいんよ…な?」
阿修羅が生徒達を振り返ってニーっと笑う
「まぁ…そーいうことにしときますか」
坂田が口の端をあげて笑って言った
「計算一回間違えたってことはお前も馬鹿の秘めたる可能性があるってことだ! 頑張れ~!」
男子生徒が言う
「そー! 馬鹿になれるなれる!!」
女子生徒も口を挟んだ
「おいちゃんも…馬鹿になれるの?」
鳥倶婆迦が鼻声で聞く
「なれるだろうさ~!! なんたって名前に馬鹿がついてるんだからさ」
京助が笑った
「お! 上手い事いうなぁ竜のボン!!」
阿修羅がカラカラと笑う
「あのね…私はただこんな風に体を動かすのが得意だっただけなんだっちゃ」
緊那羅が鳥倶婆迦に言う
「えと…だから…ばかみたく計算はできないと思うっちゃ;」
苦笑いで緊那羅が言った
「…おいちゃん…みたく?」
鳥倶婆迦が緊那羅を見ると緊那羅が頷いた
「俺もそうだぞ」
京助も言う
「オライもそうさね…小面倒くさいのは苦手なんよな;」
阿修羅が苦笑いを鳥倶婆迦に向けた
「…でもおいちゃん…計算も間違えたんだよ…?」
鳥倶婆迦が言う
「…お!! そうだ!! いいかばかよぉっく聞けよ?」
阿修羅が何かをひらめいたらしく笑顔で鳥倶婆迦を見た
「
お前は【計算の天才】じゃなくて【計算の馬鹿】になりゃいいんよ」
「おお~!!! いいねぇソレ!!」
阿修羅が言うと中島が言った
「だからお前はもう立派な馬鹿の仲間になってなさんのよな」
黙って阿修羅の話を聞いていた鳥倶婆迦が鼻を啜る
「計算…馬鹿…」
そして小さく言った
「ハイ!! ようこそ馬鹿仲間!」
男子生徒が言う
「おいちゃん…馬鹿になったの…?」
鳥倶婆迦が言うと阿修羅が笑顔で頷いた
「…じゃこの勝負ってどうなるワケ?」
本間が言うと一同がハタと止まった
「…司会者!!;」
中島が坂田にふる
「ワタクシ、ただ司会進行するだけなのでワッカリッマセーン」
坂田がエセ外国人口調で答えた
「引き分け?」
「いや…それもどうかと…」
「もういいじゃん;帰ろうよ~」
生徒達がザワザワとし始める
「…ばか?」
ふと阿修羅が鳥倶婆迦に目をやると鳥倶婆迦がどこかを見ていた
「遅かったわね~…って…」
玄関から聞こえた物音を確かめに出てきた母ハルミが目を丸くした
「ただいまだっちゃ;」
緊那羅が苦笑いで言った
「母さん…飯…;」
玄関に倒れこんでいた京助が力なく言う
「んで余ってる布団あったら敷いてほしいんだよな; 竜のカミさん」
阿修羅が京助に続いて言った
「ご飯は台所と冷蔵庫に残してるわ…そして…布団ねハイハイ」
阿修羅のほうを見てふふっと笑った母ハルミが家の奥に歩いていった
「…寝る時もお面つけてんのかソイツ;」
のらりと体を起こした京助が阿修羅の背中を見て言う
「本当に寝てるんだっちゃ?;」
緊那羅が背伸びをして阿修羅の背中でたぶん寝ている鳥倶婆迦を覗き込んだ
「まぁ…コイツにもいろいろあるんよな…」
阿修羅が微笑みながら背中の鳥倶婆迦を見る
「誰にだって…イロイロあるわけさね」
少しずり落ちてきた鳥倶婆迦の体を持ち直して阿修羅が言う
「言えない事言いたくない事出来ない事…いろいろあるわけさ」
阿修羅が緊那羅の頭に手を置いてニーっと笑った
「…しっかし…ソイツ意外と根性あんだな」
京助が靴を脱ぎながら鳥倶婆迦を見て言う
「うん…凄いっちゃ」
緊那羅が笑った
「だろ? オライはコイツのそんなトコ気に入ってるんよな」
「布団準備できたわよ~? 味噌汁あっためてるから食べちゃいなさい」
阿修羅が言い終わると共に母ハルミの声が奥からした
「京助達帰ってきてるの? ハルミママ」
悠助の声も聞こえる
「さって…飯ッ!」
京助が立ち上がった
「私もさすがにお腹すいたっちゃ;」
緊那羅も靴を脱いで家に上がる
「ちゃんと手洗ってからね? 阿修羅君も一緒に行って手洗ってきなさいな」
母ハルミが京助の脱いだ靴をそろえながら阿修羅に微笑んだ
「あんがとさん竜のカミさん」
阿修羅が笑って靴を脱ぐ
「その子私が寝かせてくるから」
そう言って母ハルミが鳥倶婆迦を阿修羅の背中から抱き上げた
「よいしょ…あらあらお面つけたままなのね」
足で鳥倶婆迦の体を支えて抱き直した母ハルミが鳥倶婆迦のお面顔を見て笑う
「安心して頂戴? 外さないから」
まさに今何かを言おうとしていたかのような阿修羅の方を見て言うと母ハルミが鳥倶婆迦を抱いて奥へと歩いていった
「…さっすが…だなぁ」
阿修羅が笑いながら呟くと歩き出した
「やるって…逆上がりをか?;」
中島が聞くと鳥倶婆迦が頷いた
「おいちゃん中途半端は嫌なんだ」
腰に手を当てた鳥倶婆迦が言う
「おいちゃんは馬鹿だから一回で出来なくてもいいんだろう?」
生徒の半数が遅い家路につきはじめ自分達も帰ろうといっていた京助と3馬鹿が顔を見合わせた
「だったらやるんだ…だって悔しい」
鳥倶婆迦が鉄棒を見る
「せっかくの馬鹿なんだからおいちゃんはトコトン馬鹿になるんだ」
鉄棒に向かって鳥倶婆迦が手を伸ばした
「…しゃぁねぇなぁ;」
京助が溜息混じりに言うと3馬鹿も顔を見合わせて笑いながら頷いた
「ココまできたら付き合っていきますわん」
南が鉄棒横の草むらに腰を下ろした
「コーチが必要だろ?」
京助が鉄棒を叩いて言う
「実況中継も」
「いやソレはあんま必要なさげ」
坂田が言うと中島が突っ込む
「保護者も」
阿修羅が笑って言う
「えっと…私は…;」
緊那羅も何か言おうとしてるのか必死で考えている
「…お前等…だからどうしておいちゃんにこんなに付き合うんだよ」
鳥倶婆迦がボソッと言った
「…どうしてって…付き合いたいから?」
坂田が言うと一同が頷き緊那羅も一歩出遅れて頷いた
「…ヘンなヤツ等だね」
鳥倶婆迦が言う
「だって馬鹿だし」
「そー馬鹿だし」
「うむ馬鹿だし」
「馬鹿だしねぇ」
笑いながら京助と3馬鹿が言った
「いいねぇ~馬鹿って」
阿修羅が笑う
「そうだっちゃね」
緊那羅も笑って言った
「阿修羅は馬鹿の前か後にヘンタイがつきます」
京助が言う
「オイオイ;」
ソレに対して阿修羅が遠巻きに裏手でなんでやねん突込みをした
「起きるっちゃ----------------------ッ!!!;」
「い~や~だ---------------------ッ!!!;」
朝っぱらから掛け布団の引っ張り合いをしている緊那羅と京助の声が京助の部屋から聞こえる
「遅刻するっちゃよッ!!?;」
思い切り布団を引っ張りながら緊那羅が言う
「後5分ッ!!;」
負けじと布団を体に巻きつけて京助が返す
「京助の5分は5分じゃないっちゃッ!!; 起きるっちゃ-------------------ッ!!;」
足を踏ん張って緊那羅が布団を引っ張る
「ホレ~頑張れ~」
部屋の入り口からいきなり聞こえたどちらに向けられたのかわからない声援に緊那羅と京助が揃ってソチラを見た
「阿修羅?;」
布団を引っ張ったまま緊那羅が言うと阿修羅がよっと片手を挙げた
「はよさん緊那羅、竜のボン」
部屋に入ってきた阿修羅が笑いながら言った
「ばかは?」
そして鳥倶婆迦のことを聞く
「あ…ばかならハルミママさんが…」
布団の横に置かれた救急箱
「痛くない?」
ポンポン綿球で母ハルミが鳥倶婆迦の手に薬を塗っている
「うん…大丈夫…」
両手の平を出した鳥倶婆迦が小さく言った
「こんなにマメが出来るまで頑張ったのね逆上がり…聞いたわよ」
母ハルミが包帯とガーゼを手に持って言う
「だっておいちゃん…馬鹿になったんだもん…だから」
くるくる自分の手に巻かれていく包帯を見ながら鳥倶婆迦が言う
「馬鹿に? あっははは!! 面白いこというのねぇ…アナタ名前は?」
片手を巻き終えた母ハルミが鳥倶婆迦のもう片方の手にも包帯を巻き始めた
「…鳥倶婆迦…」
鳥倶婆迦が小さく答えた
「そう…鳥倶婆迦君…面白い名前ね」
テープで包帯を止めた母ハルミがにっこり笑う
「こんな可愛い馬鹿なら歓迎するわ? さぁご飯にしましょか…他に痛いところはない?」
母ハルミが救急箱を片付けながら鳥倶婆迦に聞く
「ない…」
鳥倶婆迦がボソッと答えると母ハルミが鳥倶婆迦の頭を撫でた
「おばさん頑張り屋さんは大好きだけど無理する子はあまり好きじゃないの…わかるかしら?」
そしてお面の上から鳥倶婆迦の頬を撫でた
「ね…?」
母ハルミの指が鳥倶婆迦のお面を外すと同時に鳥倶婆迦が母ハルミに抱きついた
「あらあら; おでこ赤くなってるわ;」
泣き声と共に母ハルミの何処となく呆れたような声が和室から聞こえた
「ホラ!! やっぱり5分じゃなかったじゃないっちゃかッ!!;」
「俺の中では5分だったんだよッ!!;」
ドタドタと廊下を走る音がして京助が玄関に現れるとソレに続いて緊那羅が弁当箱を手にやってきた
「あっはっは」
阿修羅が面白そうに後をついてきて笑う
「いってらっしゃい義兄様」
悠助を見送っていつものごとく玄関にいた慧喜が京助に手を振った
「まぁた遅刻なの? 京助」
和室から繋がる縁側で母ハルミが玄関かあわただしく出てきた京助に言う
「まだ遅刻してねぇよッ!; ってきま…お?」
怒鳴った京助が母ハルミにへばりついている鳥倶婆迦を見て止まった
「…お前お面さかさま」
京助が言うと鳥倶婆迦が慌てて母ハルミの後ろに隠れた
「ほぉ~…外したんか…ばか」
「うっ…うるさいなぁっ;」
お面を直した鳥倶婆迦が阿修羅に言った
「ホラホラ!! 本当に遅刻するわよ!?」
立ち止まったままだった京助に母ハルミが大きな声で言う
「うっお!; ってきまーッ!!;」
「京助弁当わすれてるっちゃッ!!;」
駆け出した京助の後ろをサンダル履きの緊那羅が追いかけていった
「…どうしたもんかねぇ…」
生徒玄関前に出来た生徒の人垣
「っはよさ…んって何してんだ?」
息を切らせて玄関に入ってきた京助が人垣に向かって声をかけた
「いや…忘れてたけど…」
坂田が斜め少し下を指差して言うと京助がその指先を見る
「…そういや…言ってたっけな;」
坂田の指の先には安らかに眠っている生徒達
廊下を見てもあちらこちらで生徒や先生が寝こけている
「丸一日って…言ってたもんね;」
阿部が言う
「今日一日どうしませう?;」
男子生徒が言った
「どうしませうっても…なぁ?;」
中島が隣にいた京助を見た
「…なぁ?;」
そして京助が振り返り生徒達にふる
「臨時休校」
本間が言うとおそらく一時間目開始と思われるチャイムが鳴った