「第八回・伍】天体観測っぽく
夏休みの学生にとっての最大の敵である【宿題】
その敵に果敢に挑む勇者が今、栄野家に集まった
「なーんでこんなんわからんのかいのー; このXだかいうバッテン印を8にすりゃコノ答えでてるってんだろや?」
阿修羅がシャープペンでコツコツと京助の広げた教科書を突付いた
「わからんつーのッ!!;」
京助が怒鳴る
「基本はこのバッテン印とコッチの何だか両手広げてる印が比例することだろやがね?」
阿修羅が教科書の【X=Y】を丸で囲んだ
「…なんで一回基本説明しただけで解けるかねぇ;」
南がシャープペンの頭を押して芯を出しながら言う
「うあ~…; 頭痛してきた~;」
京助がちゃぶ台に突っ伏した
「俺ももうアカン; 吐き気が;」
坂田がプリントをそっと裏返しながら溜息をつく
「あっくん兄ちゃんこれでいい?」
悠助が阿修羅に夏休みの課題ドリルを見せた
「どれどれ…ほー! よくやった竜のボン! 全問正解!!」
ドリルを見た阿修羅が悠助の頭を撫でた
「俺…小学生に戻りたい;」
中島が呟くと京助と坂田、南が揃って頷く
夏休み終了カウントダウンが近づき溜め込んだ宿題を持ち寄った3馬鹿と京助が少ない脳みそをフル活用していた最中ひょっこりやってきた阿修羅が家庭教師を買って出て早2時間…普段勉強という事には三分の一も活用していない3馬鹿と京助の脳みそは限界に達しようとしていた
「だぁから…コレは【ざつもくりん】じゃなくて【ぞうきばやし】だっちゅーのさ; …さっきちっこいのが間違えたとき教えただろが~…」
阿修羅が中島のプリントを見て溜息をついた
「…ってか俺等に宿題をやれっていうこと事態が間違ってる」
京助がボソッと呟いた
「そうだよなぁ…普段でも宿題なんかやらねぇし…;」
坂田が同意する
「そもそも夏休みって休みなんだから頭も休んでもいいのに何で頭動かさないといけないんだろうねぇ…休ませて頭~…;」
南が言った
「脳みそストライキ起こすぞ」
中島が言う
「俺もう起こしてる」
京助が麦茶を飲みながら言った
「ウブファブハァ~!!;」
坂田が意味のわからない言葉を発しつつ後ろに倒れる
「ホレホレしっかり~」
阿修羅がパンパンと手を叩いて言った
「京様も皆様も頑張ってくださいませ」
庭先からヒマ子が声援を送ると南が苦笑いで手を振る
「そして暑いし…;」
寝転がった坂田が見上げた軒下の風鈴が鳴りそうで鳴らないそんなそよ風が風鈴の下についた紙をヒラリと揺らした
「…涼しくなってからやったほうがいいと思う人ー」
中島が突然手を上げて言うと京助と南が手を上げて坂田が足を上げた
「ってことで…」
京助が静かに教科書を閉じると南がペンケースにシャープペンをしまってファスナーをしめる
「一旦休止!!」
パンっと足の裏を合わせて音を出した坂田が飛び起きた
「カキ氷食うべカキ氷!」
中島が伸びをする
「僕ブルーハワイがいい~!」
悠助が両手を挙げて言った
「…進まんねぇ」
阿修羅がちゃぶ台に肘をついて笑った
「カキ氷にシロップかける~トゥらトゥラトゥラトゥラトゥラトゥララ~」
南が緑色のシロップを白く細かい氷の山にかけながら歌う
「お前かけすぎ」
ゴリゴリとカキ氷機の取っ手を回しながら京助が突っ込んだ
「慧喜あーん」
悠助が青いシロップがかかったカキ氷をスプーンにのせて慧喜に差し出した
「あーん」
慧喜が嬉しそうに口をあけると悠助が慧喜の口にカキ氷を入れる
「悠助もあーん」
今度は慧喜が赤いシロップのかかったカキ氷を悠助に差し出した
「あーん」
悠助が口をあけると慧喜が悠助の口の中にカキ氷を入れる
「…暑い暑い暑い;」
中島が青いシロップのかかったカキ氷をシャクシャクと食べながら言った
「ヘイ坂田」
こんもりと山になったカキ氷を坂田に差し出した
「サンキュカキ氷屋さん」
坂田がソレを受け取ると赤いシロップの入ったビンを開けた
「…誰もレモンはかけないんだねぇ」
南が少し離れたところにおいてある黄色いビンを見て言う
「…おいしくないんだっちゃ?」
赤いシロップのカキ氷を食べていた緊那羅が【レモン】とかかれたラベルのビンを持った
「いや…美味いんだけどな…こう…何かを想像してしまうわけですよ」
坂田がカキ氷とシロップを混ぜながら言う
「何か?」
緊那羅が首をかしげた
「季節は冬…真っ白く積もった雪の上…息子が描くは黄色い芸術」
京助がゴリゴリと再びカキ氷機の取っ手を動かしながら語る
「ぶっちゃけションベン」
中島が言った
「!?; コレ…!?」
緊那羅が慌ててビンを手放した
「いや…待って待ってラムちゃーん; その中身は違うから;ちゃんと食い物だから;」
南がスプーンを上下に振りながら緊那羅に言う
「お前等~いくら緊那羅が面白いからってあんまりからかいなさんなって」
阿修羅がカラになった容器をスプーンで鳴らしながら言った
「別にからかってないよねぇ?」
南が言うと京助と坂田と中島が頷く
「可愛がってるだけだし」
中島が言う
「そうそう可愛がってるだけだよなぁ? 金名羊子」
京助が青いシロップをかけながら言った
「京助は特にな」
坂田が言う
「…どういう意味ですか坂田さん」
京助がシロップのビンで坂田の顎をゴリゴリと攻撃する
「まんまの意味ですよ栄野君…金名羊子が栄野羊子になるかもってことですヨ~…ハッ!! てことはアレか! 俺 緊那羅の義父になるんだな!! そうか!!」
坂田が緊那羅を見て言った
「へ?;」
緊那羅がきょとんとした顔で坂田を見る
「お前も少し突っ込め!!;」
京助が緊那羅に言う
「ほほー!! 竜のボンと緊那羅がねぇ…そっかそか」
阿修羅がスプーンをくわえて何かを納得したように頷いた
「何納得してんだよッ;」
京助がシロップのビンで阿修羅の頭を叩く
「いやぁ…だってな? お前等…コノ地球でアレだ…同性別で愛し合ってるヤツらって六割位いんだぞ?」
「マジで!?」
阿修羅が言うと3馬鹿と京助が声を上げた
「わ…私は…何をどう何処に突っ込めばいいんだっちゃ?;」
溶けて液体になったカキ氷の入った容器を持った緊那羅がどうしていいのかわからずただボソッと言う
「よかったな京助!!」
中島が京助の肩を叩いた
「何がじゃ!;」
京助が中島の腹に肘をめり込ませた
「じゃぁヒマ子さんは?」
南が言う
「異種族同士でも結構結ばれてる種族あるからして…オケ?」
阿修羅が親指を立てた
「オケ!!」
「待てやゴルァ!!;」
3馬鹿も阿修羅に続いて親指を立てると京助が怒鳴った
「そういえばヨシコちゃんは?」
南が阿修羅とセットとなりつつあるヨシコがどうしたのかを聞いた
「ヨシコはアッチに残ってる」
阿修羅が小さくゲップをして答えた
「本当はなヨシコは【天】ってか…【宮】から好き勝手でちゃアカン立場なんよ」
阿修羅が言う
「それは緊那羅から聞いたけど…そんなに束縛されてんのか? アイツ」
中島が聞いた
「まぁ…それなりにヨシコは…な」
阿修羅が苦笑いで答えると中島が何故か黙った
「勝手が許されないんよな…自由っていう自由がないんよヨシコには」
阿修羅が言うと周りが中島と同じように黙った
「こないだもヨシコがいないいないで大騒動だったしな…しばらくは…謹慎だ」
阿修羅が静かに言う
「オライも今は面会許されていなんだよ」
「そんなに?;」
へラッと笑って言った阿修羅に南が聞く
「俺だったら逃げるね;」
坂田が言う
「逃げる事もできないんだナァこれが」
阿修羅が言った
「んだよソレ…」
中島がぼそっと言う
「そんなん生きてるっていえんのか?」
京助が言った
「自分の人生自分のために生きてなんぼだろがよ? 好きに生きてなんぼじゃん」
阿修羅が京助を見てややしばらく止まった後顔をほころばせる
「やぁ…やっぱ竜のボンだわ…」
阿修羅が言った
「そんなトコ竜ソックリだぞ竜のボン」
ニッと笑った阿修羅が京助の頭をぐりぐり撫で回す
「何者にも何事にも自分の意志を通す頑固モン…でも何故か憎めなくてのん」
チリンと軽く風鈴が鳴って涼しい風が和室に流れ込んできた
「へぇ~…京助は性格親父さん似なんだ」
南が撫でられ髪がもっさりとなった京助を見て言う
「…そうなのか?」
京助がボソっと阿修羅に聞いた
「言っただろが? お前ともう一人のボンを足したらソレが竜だって」
阿修羅が笑いながら答えると京助の顔が微かに笑顔になる
「ちゃんと継いでるんよ…お前らは」
阿修羅が笑った
「竜の周りには不思議な空気があったんよ…居心地がいい…何かを惹きつけるそんな空気がお前らにもあるぞ」
阿修羅が言うと3馬鹿が揃って京助を見る
「…お前らが言いたい事は手に取るようにわかる…あえて言いますか?」
京助が3馬鹿に聞いた
「類は友を呼ぶ」
3馬鹿が京助を指差してハモって言う
「…言いましたか…」
京助がヘッと口の端をあげて言った
「アッハッハ!! いや~…おんもしろいわ…」
阿修羅が京助の背中をバシバシ叩きながら笑う
「イテェっつーの!!;」
京助が怒鳴る
「何騒いでるんだっちゃ;」
カキ氷屋さんの後片付けをしていた緊那羅が和室に入ってくるなり聞こえた京助の怒鳴り声が何に対してのものなのかを聞いた
「よ! 緊那羅ご苦労さん」
京助の首に腕をかけた阿修羅が緊那羅に向かって手を上げた
「ラムちゃんお疲れサマー」
南もひらひらと緊那羅に向かって手を振る
「あ…うん」
笑顔を返した緊那羅が南の隣に腰を下ろすと風鈴がまたチリンと軽く一回鳴った
チリリィー…ン…という風鈴の音が辺りの虫の声と混ざって誰もいない和室に響いた
「坂田醤油とって」
京助が箸を持ったまま手を差し出した
「ういよ」
坂田が傍にあった醤油注しを京助に手渡す
「京助醤油たれてるっちゃ;」
緊那羅が布巾を差し出す
「にてもラムちゃんすごいねぇ…」
南が端をくわえたままテーブルに並べられた晩御飯のメニューを見て言った
「母さんに相当しこまれたしなお前」
京助がサンマを白米に乗せて口に運んだ
「いつでも嫁げるな」
坂田が肉巻き牛蒡を箸でつまんで言う
「とつ…って私はッ!!;」
緊那羅が声を上げると茶の間の戸がスパーンと景気よく開いた
「中島柚汰! 只今帰還-------------!!!!」
長方形の箱を傍に立てかけて中島がグリコのポーズで帰還宣言をする
「もいっちょオライも只今な~」
その中島の後ろから阿修羅も顔を出した
「お~!! なんだか美味そうなモン並んでんな~」
テーブルに近づくと阿修羅がトマトをひょいとつまんだ
「ここに乾闥婆がいたら間違いなくチョップだっちゃ…」
緊那羅がボソッと言う
「あら~今日はサンマなのね~いい匂いだわ~」
玄関の方から母ハルミの声が聞こえた
「僕ねトマトの皮剥いたんだよハルミママ~」
カランとサンダルを脱いだ音が聞こえてキシキシと廊下のきしむ音が近づいてくる
「偉いわねぇ悠ちゃん」
悠助を褒めながら巫女意衣姿のままの母ハルミと悠助そして慧喜が茶の間に入ってきた
「おかえり」
「おかえりなさいハルミさんッ」
京助が箸を振って言うと坂田が少し上ずった声で同じく言う
「ただいま。緊ちゃんありがとうね本当助かるわ~」
膝を折ってテーブルについた母ハルミが白米を盛っている緊那羅に言った
「私はコレくらいしかできないし;」
悠助に茶碗を渡しながら緊那羅が少し照れて言う
「竜のカミさんやってただけのことあるわなぁ…うんうん」
阿修羅が小さく言いながらレタスの味噌汁をズズッと啜った
今栄野家の晩御飯の支度は母ハルミによって家事全般をいいだけ仕込まれた緊那羅が請け負っている
「緊那羅…美味いわ」
阿修羅が【オカワリ】の合図なのかカラになった茶碗を緊那羅に差し出した
「ありがとだっちゃ」
緊那羅が嬉しそうに阿修羅から茶碗を受け取る
「僕緊ちゃんの作るカレー好き~!!」
慧喜にサンマの骨を取ってもらっていた悠助が言った
「俺は肉じゃが」
慧喜が悠助の口にサンマの身を運びながら言う
「…料理上手は愛情上手…いいねぇ」
南が最後の米粒を箸でつまんで口に運びながらしみじみと言った
「栄野兄弟はいい嫁さんもらったなァ」
坂田が箸を置きながら言う
「私は男だっちゃ;」
緊那羅が箸を軽くかじりながらジト目で坂田を見た
「俺は悠助の嫁だもん」
慧喜が悠助に抱きつく
「沢山家族がいて嬉しいわ~」
母ハルミが嬉しそうに笑って漬物をかじった
「おやつはさんびゃくえーん」
坂田が右手の指を三本立てて言った
「バナナはおやつにはいりませーん」
南が青い鞄を手にとって言う
「ゴミは持ち帰りましょう」
中島が長方形の箱を肩に担いだ
「午前二時じゃないですが始めようか天体観測ッ!!」
京助が肩掛け鞄を肩にかけて玄関の戸をあけた
「何だ? どっかに移動するのか?」
頭の後ろで手を組んだ阿修羅が聞く
「そー黒岩尻農道の方にな」
坂田がサンダルの踵のねじれた部分を指で直しながら答えた
「あそこ本当街頭がなくて真っ暗でよく見えるんだわ星」
先に玄関から出ていた京助が言う
「こっからでもまぁまぁ綺麗に見えるんだけど…どうせならねぇ?」
南が笑いながら言った
「夏休みなんだし」
坂田が頷きながら言う
「せっかくだし…なぁ?」
京助が笑う
「楽しくやりたいじゃん? 宿題でも何でも」
中島も笑って言った
「ほっほー…それにはオライも賛成だ」
阿修羅が親指を立てて笑う
「今度は僕も連れてってねッ!!」
遅くなったら絶対寝るからということで今回は留守番になった悠助が縁側から叫んだ
「10時過ぎても起きてられるようになったらな」
京助が言う
「俺は眠気スッキリガム持ったから大丈夫さ」
夜に弱い坂田がキシリトール配合のガムを高らかに掲げて言った
「おこちゃまめ」
京助が坂田の頭を撫でながら言う
「そもそも人間は夜寝るものなんだ!! そう! 俺は決して間違っていない!!!」
坂田が力説する
「ラムちゃーん! 行くよ~!!」
南が緊那羅を呼ぶと縁側の方から緊那羅が駆けてきた
「うっし! じゃレッツラ!!」
中島が指を立ててそれから石段の方を指差す
「いってらっしゃーい」
悠助と慧喜が手を振って見送った
【涼しくなったら宿題再開】
その宣言を自主的に守ってなのか3馬鹿と京助は理科の宿題として出されていた星の観察をすべく星がよく見えるという街頭のない【黒岩尻農道】まで菓子を持って向かう事にした
「お盆過ぎると一気に秋になったよねぇ…夏休みも短いけど夏も短いねぇ…もうススキでてら」
南が道端に生えてきていたススキを一本手にとって言った
「そうだよなぁ…しんみり」
京助が両手で胸を押さえてセンチメンタルに呟く
「また寒くなるんだっちゃ?;」
寒さが大の苦手な緊那羅が聞く
「北海道のチャームポイントのひとつが【寒さ】だからな」
坂田が言う
「うえぇ~…;」
緊那羅が本当に嫌そうな顔で声を出した
「なぁなぁでかいの…コレ何なん?」
阿修羅が中島の持っている長方形の箱を軽く持ち上げて聞く
「コレ?」
中島が足を止めて阿修羅に聞くと阿修羅が頷いた
「ついてからのお楽しみ」
中島がニッと笑って言う
「うへぇ~…じゃぁ楽しみにしとんわの」
阿修羅も笑って返した
木々がかろうじて車一台が通行できる広さの幅のかろうじて舗装はしてあるそんな道路の脇に競い合うように生えて夜空を隠している
「まっくらクラ~イクラ~イ」
木々が隠しきれなかった夜空からのかすかな光で見えているそんな道を南が歌いながらその道を歩く
「いや~…静かだな」
阿修羅が虫の声とたまに吹く風の音しか聞こえないことにどことなくしみじみといった
「街から離れてるしな」
京助が言う
「街中でも7時過ぎたら滅多に人とか通らないからねぇ~…ココじゃホフク前進してもだいじょうびん」
南が笑いながら言った
「もうちょいだぞ~」
先を歩いていた坂田と中島が少し後ろを振り返って言う
ソレからしばらくして木々のトンネルが終わりドングイとススキの壁に変わった後少し開けた場所に出た
「うっし到着!!」
中島が長方形の箱を下ろして伸びをした
「お~お! よく見えるよく見える!」
京助が空を見上げて言うと一同も空を見上げた
「うぉー…スゲェ」
坂田が声を上げる
「おちてきそうだねぇ」
南が手を額につけて言う
「これ全部星なんだっちゃ?」
緊那羅が聞いた
「そー…これ全部星…数えてみ?」
阿修羅が緊那羅に言う
「…無理だっちゃ;」
少し間をおいて緊那羅が言った
「…アッチは?」
緊那羅が指差した方向を一同が見る
「あ~アレは街の明かり」
中島が答える
「街…の明かりもきれいだっちゃね」
緊那羅が言った
「まぁ…こうしてみると結構な…100万ドルとはいかないけど」
京助が言う
「どのくらいだ?てかむしろ100万ドルって何円?」
坂田が京助に聞いた
「知らん;」
京助が即答する
「俺に為替市場わかるかい;」
坂田に突っ込みながら京助が言った
「まぁ一ドル104.47円だとして104,470,000円か」
阿修羅がさらっと言う
「…何でお前がわかってる…」
坂田が阿修羅を見て言う
「竜の家にあった北海道新聞とかいう紙読んだんよ。アレ面白いやな~」
阿修羅が言った
「俺新聞なんてテレビ欄しかみたことねぇし」
中島が言うと緊那羅以外の一同が頷いた
「…そういや南…火サスのアレやったのか?」
京助が南に聞いた
「…いっや~ソレがさぁ…どこに新聞置いたのかわからんちんで」
南がハッハと笑いながら答えた
「…片付けろ」
京助が裏手で突っ込みながら言う
「片付けると何処に何あるかわからなくなるしさぁ~」
南がお手上げポーズで言う
「今もわからないんじゃん」
京助が再び南に突っ込んだ
リーリーという虫の声とざわざわという木々が風邪に揺すられる音
「寝るな;」
そしてスパンという軽快な音と京助の声
「眠気スッキリガム役に立ってねぇし;」
悠助から借りたらしきピーポーくんの描かれた可愛らしいビニールシートの上にメガネのずれた坂田が寝息を立てていた
「ガム噛みながら寝てるねぇ;」
南がかすかに動いている坂田の頬を突付きながら言う
「まだ来てから30分もたってねぇじゃん…;ってかまだ9時半だぞ?;」
京助が腕にしていたリストバンド型の時計を見て言った
「うら!! 起きろメガネ~!!」
阿修羅が坂田の上に乗って坂田の頬を引っ張る
「うへぇにょ~…」
坂田がわけのわからない言葉を発しながら阿修羅の手を振り払う
「あっはっは!! おんもろ~!!!」
阿修羅が笑いながらさらに坂田の頬を引っ張り始めた
「何しに来たんだかわからないっちゃね;」
緊那羅が苦笑いで言う
「サクサクセッテイング完了!!」
中島の声に振り向くとソコには望遠鏡
「すげー!!」
京助が望遠鏡を撫でて言う
「買ったのいいけど父さん家にいねぇから埃かぶってたんだよなぁ…ちょい型古いけど」
中島がレンズをシャツで拭きながら言った
「うわー! すげー!! 見える見える!!」
覗き込んだ南が声を上げた
「何が見えるんだっちゃ?」
南の後ろから緊那羅が聞く
「星」
南が望遠鏡をのぞいたまま答えた
「星…なら見えてるっちゃ」
緊那羅が夜空を見上げて言う
「おっきく見えるんだよ見てみる?」
南が望遠鏡を指差して緊那羅に手招きした
「おっきく…?」
緊那羅がおそるおそる望遠鏡を覗き込む
「え…えええ!?; え!?;」
覗き込んだ緊那羅が【え】を連呼しながら夜空と望遠鏡を交互に見はじめた
「な…えええ!?;」
「落ち着け;」
【え】しかまともに言ってなかった緊那羅に京助がチョップをかます
「だって!!!;」
緊那羅が頭を抑えながら京助を見た
「コレは遠くのものをよく見えるようにするモン」
中島が望遠鏡に手を置いて言う
「筒の向こうに丸い玉があったっちゃ…」
緊那羅が望遠鏡の反対側に回った
「それが星」
京助が夜空を指差すと緊那羅が夜空を見上げた
「でも星ってこう…とげとげ…」
緊那羅が指でお絵かきでおなじみの☆を中に描く
「本当の星って丸いんだよ」
南が指で丸を描いて言った
「俺等が今住んでるコノ地球だって星で丸いんだぞ」
京助が地面を数回踏んで言う
「丸いのに何で平らなんだっちゃ?」
緊那羅が京助に聞いた
「あ~………」
京助が【あ】を伸ばして緊那羅から目をそらす
「何で丸いのに落ちないんだっちゃ?」
今度は南に緊那羅が聞いた
「…えっとねぇ~……;」
南が中島を見た
「…地球だから」
中島が答えた
「そう! 地球だから!!」
南がパンッと手を叩いて言う
「そうだ!! 地球だから平らだし落ちないんだ!! わかったか? わかっとけ!!」
京助が緊那羅の両肩を叩きながら言った
「そう…なんだっちゃ?;」
緊那羅が小さく聞き返すと揃った爽やかな笑顔が返ってきた
「あれが金星だろ?」
教科書を懐中電灯で照らした中島が周りの星より多少明るい星を見上げた
「…わからん; みんな一緒に見える…」
望遠鏡を覗き込んでいた京助が言う
「だっめじゃーん;」
南が突っ込んだ
「起きないナァ…メガネ」
一向に起きる気配のない坂田にちょっかいをかけるのも飽きてきたのか阿修羅がため息をついて立ち上がった
「ふぅ…お? アレ天の川だろ」
阿修羅が指差した先には細かい星でまるで川のように見えるミルキーウェイ
「北海道の七夕って八月だしねぇ…まだ見えるんだ」
南が天の川を見上げた
「織姫と彦星ってさぁ七月に本州で会って北海道にくりゃもう一回会えるじゃん」
京助が言う
「そうはいかないんじゃないか?;」
中島が突っ込む
「本当はどっちが本当の七夕なんだろうねぇ;」
南が言った
「七夕は七月七日だ」
阿修羅が歩み寄りながら答えた
「そもそも五節句の一個なんだわ七夕。そもそも技芸の上達を願う中国の祭りだったんだけどな~…いつの間に短冊ってなったんだか」
「ほぉ~…」
阿修羅が言うと一同がゆっくりと頷いた
「…あの川…広いんだっちゃ?」
緊那羅が天の川を指差して言う
「広い広い! なんつったってお前…あの星ひとつがこの!! 地球と同じような大きさなんだぞ?」
京助が【この】の部分で地面を足で強く踏んだ
「え…じゃ…あ……」
緊那羅が夜空を見上げて止まった
「超広い」
南が言う
「…そんなに広いようには見えないんだっちゃのに…」
緊那羅が呟いた
「目に見えて届きそうででも届かないモンって…結構沢山あるんよ緊那羅」
阿修羅が言う
「手を伸ばしてみ?」
阿修羅が天の川を指差して緊那羅に言った
「こ…うだっちゃ?」
緊那羅が言われるがまま天の川に向かって手を伸ばした
「触れないだろ」
阿修羅が言う
「当たり前だっちゃ;」
緊那羅が苦笑いで返す
「でもさぁ…こうみると…つかめそうなんだよな」
京助が緊那羅と同じように天の川に手を伸ばした
「でもつかめないんだよねぇ」
南も同じく手を伸ばしてスカスカと宙をつかむ
「近いようで遠い届きそうで届かないって…痛いんだよな結構」
阿修羅がふっと笑った
「…なんだよ;」
いきなり緊那羅に頬をつままれた京助が横目で緊那羅を見て言う
「や…なんとなくだっちゃ;」
緊那羅が慌てて手を離した
「不安になったんだろ緊那羅」
阿修羅が緊那羅に聞く
「竜のボンに急に手が届かなくなったらって…すぐ隣に居るのに手が届かなかったらとか思ったんちゃうか?」
阿修羅が言うと緊那羅がさっきまで京助の頬をつまんでいた自分の手を見た
「触れたろ」
京助が言った
「え…あ…うん…」
緊那羅が顔を上げて頷く
「じゃあいいじゃん」
「へ?;」
京助が頭を掻きながら言うと緊那羅がきょとんとして京助を見た
「触れたんならいいじゃんての。触れたんなら俺はココにいるってことだろが…安心したか?」
京助が言う
「どれ」
南が京助に抱きついた
「暑苦しいからやめい;」
京助が南を引き離そうとするとソレに輪をかけて中島も抱きつく
「おお! 触れる触れる!!」
笑いながら中島が京助をさらに強く抱きしめた
「暑いっちゅーねんッ!!;」
身動きの取れない京助が怒鳴る
「やかましいッ!!」
その声で起こされた坂田が怒鳴った
「今まで寝てたやつに言われたくないですわん」
その坂田の頭に南が蹴りをかます
「や~! はよさんメガネ」
阿修羅がしゃがんで片手を挙げ坂田に言った
「…なんで俺外で寝てんだ?」
シャツの中に手を入れてポリポリと胸の辺りを掻きながら辺りを見渡して坂田が言う
「しっかり起きろ」
京助が南と中島に抱きしめられたまま坂田を蹴った
「蹴るな!!;」
蹴られた後頭部を押さえて坂田が怒鳴ると口から噛んでいた眠気スッキリガムが飛び出した
「汚ッ!!;」
京助に抱きついたままの中島と南が絶妙な息を合わせてソレを避けると阿修羅と緊那羅もつられたかのように坂田から離れる
「ふぁ~…ぁ…っつく」
坂田があくびをした後伸びをして立ち上がった
「…あ~そっか天体観測」
伸びをしながら目を向けた先にあった望遠鏡を見た坂田が言う
「やっと思い出したか馬鹿め;」
京助から放れながら中島が言った
「開始直後から素敵な寝息立ててましたよ」
南がハッハと笑いながら言う
「いや~…どうもアレでしてねぇ」
坂田がヤレヤレポーズでため息を吐いた
「不安か」
自分の手を握り締めたまま3馬鹿と京助の漫才的やり取りを見ていた緊那羅に阿修羅が声をかけた
「今は触れてもいつかは手が届かなくなるかもしれないからの」
阿修羅が言う
「竜のボンだけじゃなくもしかしたらオライにも」
阿修羅が言うと緊那羅が顔を上げて阿修羅を見た
「今のうちに触っておきゃいいさ」
眉を下げた顔で阿修羅を見上げていた緊那羅の頭を撫でる
「後悔しない様…忘れない様…いつかは…届かなくなるんやしな」
緊那羅が自分の手を握り締めた
「届かなくするのは…お前かもしれないんだからな…」
阿修羅が言うと緊那羅が小さく頷く
「乾闥婆から聞いただろ…お前の役目」
阿修羅が聞くと緊那羅がまた頷いた
「でも…私は…ッ…」
握った緊那羅の手が小さく震えた
「…オライは何も手出しはできんしな…スマンけど」
緊那羅の頭を阿修羅が撫でる
「ひとついいこと教えちゃるよ…緊那羅」
阿修羅が言うと緊那羅が少し目の赤くなった顔を上げた
「ほうき星は願い星ってな」
阿修羅が夜空を指差して笑った
「ほうき…?」
緊那羅が鼻をズッと啜って夜空を見上げる
「たまになこう…尾っぽを引いた星が出るんよ」
阿修羅が指を斜め下にやりながら言った
「それが消える前に三回願い事繰り返して言うとな…叶うんよ」
阿修羅が三本指を立てた
「本当なんだっちゃ?」
緊那羅が阿修羅を見て聞く
「さぁなぁ…オライも言った事ないし…」
阿修羅がハッハと笑いながら答えた
「何なに? 流れ星の話?」
南が話しに入って来た
「流れ星?」
緊那羅が聞き返す
「いろんな呼ばれ方してんよな。ほうき星、願い星、流れ星…シューテンスター (ネイティブ)とかな」
阿修羅が言う
「しゅー…?;」
緊那羅が阿修羅が最後に言った言葉をどもりながらも言おうとしている
「でもみんな一緒なんだよね」
南が言った
「お星様にお願いかぁ…俺も小さい頃よくやったよ~」
南が懐かしそうに言う
「ちいっこいのは今でもちっこいぞ~ぃ」
阿修羅が南の頭をポフポフ叩きながら言った
「ひっど~…;」
南がジト目で阿修羅を見る
「南…その願い事は叶ったんだっちゃ?」
緊那羅が南に聞いた
「え? …ああ…叶ったよ? しっかりバッチリ」
南が阿修羅の手を払いながら答えた
「本当に叶ったんか?」
阿修羅が半分驚きながら南に聞く
「嘘ついてどーすんのさ;…叶ったってんじゃん」
南が呆れた様な笑顔で見た先には今だふざけあっている京助、中島、坂田の姿
「ラムちゃん…俺が前に慧喜っちゃんに話してた話…覚えてる?」
南が緊那羅を見て聞いた
「え…?」
緊那羅がきょとんとして声を出した
「俺が昔…友達が居なかったって話」
南が笑いながら言う
「ずっと…欲しかったんだよね…だから流れ星に願ったんだよ」
腰に手を当てた南が夜空を見上げた
「友達が欲しいってね」
夜空を見上げたまま南が言う
「南…」
緊那羅が小さく南の名前を言うと南が緊那羅を見て笑った
「そしたらばこんなに素敵にお馬鹿なお仲間が!!」
南が京助達を指差して言う
「誰が馬鹿じゃ」
聞こえた坂田が南に体当たりしてきた
「き・み・ら」
南も負けじと坂田に体当たりをし返す
「オイ; 今複数形だったろ;」
中島が言う
「そうそう! 君等って」
南がハッハと笑った
「…俺も?」
京助が自分を指差して聞くと南が爽やかに親指を立てた
「そして何を隠そう君等もなのだよ!」
そして南が今度は緊那羅と阿修羅を振り返った
「わ…」
「オライもけ?」
緊那羅と阿修羅が同時に言う
「そう!! 同じ馬鹿ってことでお仲間」
南がウインクついでに舌を出して親指を立てた
「いや~…ありがたいね」
ぽかんとしている緊那羅をよそに阿修羅が嬉しそうに笑った
「てことで!! …気を取り直して宿題といきますか~…」
中島がまだ何も記入されていないノートを手に取った
「うへぇ~;」
京助が本当に嫌そうに声を出した
「お~! エライエライ!!」
阿修羅が坂田と京助の頭を撫でる
「うわぁい褒められたァ~…」
坂田がやる気なさそうに万歳をした
「はぁ~あ…っと」
京助が溜息をついて望遠鏡に歩み寄る
「じゃ…ハジメマァス」
望遠鏡を覗き込んだ京助が言った
「ラムちゃん上ばっかり見てたら首疲れるからソコに寝ながら見てるといいと思うよ」
南がソコと指差したところにはさっきまで坂田が寝ていたビニールシート
「ありがとさんちっこいの」
阿修羅がひらひらと手を振ると南も手を振り返して望遠鏡の近くに駆けていった
「…いいな」
阿修羅が呟いた
「こりゃ…変わるわな…」
ふっと笑った阿修羅を緊那羅が見上げた
「あのお堅いだっぱやかるらん…【空】の面々…すんげく変わった…お前もな緊那羅」
阿修羅が首をコキコキ鳴らして言う
「いくら【時】にとっての重要人物だからってそうチョコチョコいかんくてもいいような気がしてたんだけんに…来たくなるのオライもわかった」
阿修羅の言葉に緊那羅が笑った
「…だから私は守りたいんだっちゃ」
緊那羅が言う
「役目は…大事なのはわかるっちゃ…でも私は…」
「言うな」
阿修羅が緊那羅の口に手を当てた
「…こないだの事忘れてないだろや? …上が何かしようとしてる…かもしれんよな」
緊那羅が目を見開いて阿修羅を見る
「…オライのカンが百発百中なら言い切れんだけどな…そうもよくはないんで」
阿修羅が緊那羅の口から手を離した
「もしかしたらなんだけんな…上は無理矢理に竜のボン達を起こそうとしてんのかもしれんのさ」
阿修羅が言う
「無理矢理…ってそんなことできるんだっちゃ?」
緊那羅が聞いた
「まぁ…オライの予測だけどな…でもアレだ…竜のボン達の役目としての力が起きれば【時】がくる…」
阿修羅が言うと緊那羅が眉をひそめた
「…【時】…」
緊那羅が少ない脳みそを集めてあーでもないこーでもないと宿題をこなそうとしている3馬鹿の中にいる京助を見た
「お前が役目を投げ出して竜のボン達を守るって言うなら」
阿修羅が緊那羅の頭をポンっと軽く叩いた
「オライもお前につくさ」
「あ…しゅら…」
緊那羅が阿修羅を見ると阿修羅がニーっと笑って緊那羅の頭をくしゃくしゃ撫でる
「竜の守りたかったもん…オライも守ってやるさ」
もっさりくっしゃくしゃになった頭で緊那羅が笑った
「うん…私は…京助と悠助を守るっちゃ…何があっても」
顔を見合わせて緊那羅と阿修羅が親指を立てて笑い合った
「しゅ-----------------------りょ----------------------ぉッ!!!」
中島が両手を空に投げ出して高らかに宿題終わったぜ宣言をした
「いや~…よくやったよ俺等…あってるかはまた別として」
坂田がノートを閉じて頷きながらしみじみ言う
「後はコレを各自写して提出…だな」
坂田がノートで仰ぎながら言った
「コピーじゃ駄目なもんかねぇ…ん~…」
南が伸びをするとヘソが見える
「この後どうする? 解散か?」
京助が屈伸した後立ち上がり3馬鹿を見た
「終わったんかい?」
阿修羅が緊那羅と共にやって来て聞く
「一応な~…俺は帰るわコレあるし」
中島がコレと言って望遠鏡をペンっと叩いた
「あ、じゃあ俺手伝うよってことで俺も帰るわ」
南が中島に言う
「じゃぁ~…おれふぉもへぇるかな~…っと」
坂田が大欠伸をしながら言った
「じゃ解散なワケだな」
京助が悠助から借りたビニールシートを畳みだした
「流れ星…見れなかったねラムちゃん」
南が緊那羅に言う
「まぁそうちょくちょく見れんもんでもないからよ~仕方ない仕方ない」
阿修羅が笑いながら緊那羅の頭をポンポン叩いた
「近いうちに見れると…あ」
苦笑いで夜空を見上げた緊那羅が声を上げる
「あ? あ~…赤鬼」
緊那羅の言った【あ】をつなげてなのか京助が言った
「に? に~…にがり」
続いて南が言う
「りか…」
中島が言う
「カマキリ」
「いや…まだ俺言ってなかったんだけど;」
坂田がすかさず言うと中島が突っ込んだ
「うっぉ~…いや…見てみ?」
そんな3馬鹿と京助に阿修羅が上を指差しながら言う
「…上?」
阿修羅の指差す上を3馬鹿と京助が見上げる
「…すげぇ…」
京助がボソッと言った
「これ…全部流れ星なんだっちゃ?」
緊那羅が空を見上げたまま誰かに聞くいた
さっきまで紺色の空縫い付けられていたビーズのような星がまるでぶちまけたように小さく光りながら降り注いでいる
「そういや…竜のボントコで読んだ新聞だかに流星群がどうのかいてたっけな」
阿修羅が思い出して笑った
「うお!! 願わんと!!;」
坂田が慌ててパパンと手を二回叩くと目を閉じた
「神社じゃねぇんだから別に手は叩かなくてもいいと思うんだけどナァ;」
中島がそんな坂田を見て呟く
「こんだけ降ってるんだから連呼してればどれかが叶えてくれるかもねぇ」
南が緊那羅に言う
「願え願えッ!!」
京助もブツブツ何かを繰り返して星に祈りはじめた
「…緊那羅」
阿修羅が緊那羅に笑いかけると緊那羅が夜空を見上げた
「…うん」
そして笑うと目を閉じて小さく何かを呟き始めた
「さって…オライも…やってみっかな」
真剣に流星群に向かって願っている3馬鹿と京助、そして緊那羅を見た阿修羅も流れ落ちる星に向かって目を閉じた
「すげぇなぁ…」
願い事を言い終えたのか京助がボソッと呟いた
「まだ降るか星よ…」
坂田が今だ降り止まない流星群を見上げて言う
「空から星がなくなっちゃいそうな勢いだなぁ…降る降る」
中島が笑いながら言った
「なぁ…俺さ婆ちゃんから聞いた話思い出したんだけどさ」
坂田が言う
「何で流れ星に願い事いうと叶うか知ってるか?」
坂田が一同を見て言った
「…知らん」
京助が答える
「教えてやっか?…コホン…坂田教授の~昔話でゴゥ!!」
坂田が軽く咳をして拍手し始めると京助達も拍手をし始めた
「ハイ静粛に~…コレはアクマで昔話として話すんだからな? …死んだ人が星になるって聞いたことあるだろ?」
坂田が言うと南と中島が頷いた
「…そうなんだっちゃ?」
緊那羅が京助に聞く
「まぁ…そう言われれば聞いたことがあるようなないような…」
京助があやふやな返答をした
「んで…流れ星って言うのは生きてるときに悪い事してたヤツの星なんだって…その星が空で罪滅ぼしで地上を見守ってくれてて…生まれ変わりますって地上に戻ってくる時に生まれ変われるのが嬉しくてその嬉しさを分けようとして願いを叶えているんだってさ」
坂田が話し終わると一同が揃って夜空を見上げた
「じゃぁ…こんなに沢山の星が降っているってことはこんだけ悪いことしたヤツがいるってことなんだぁね」
南が言う
「まぁ…俺達もチョコチョコ可愛い悪いことはしてるよな;」
京助が言った
「…だな;」
何か主思い当たる節があるのか中島が頷く
「誰だって悪い事の一個や百個してるもんだろ…と思う」
坂田が言う
「んだな~…オライだって…そうだ」
阿修羅が笑って言った
「ごめんなさいって言った事ないヤツ挙手!!」
京助が言うと3馬鹿が揃って胸のところでペケ印を作った
「…小さくても大きくても悪い事には変わりないってことで…俺等もいつか星になって誰かの願いを叶えるんだな…」
中島が呟く
「ってか俺等の前世だかはちゃんと願い叶えてやったんだろうかね?」
南が言った
「…さぁなぁ;」
京助が口の端をあげて言う
「明日辺り世界中で出産ラッシュ?」
坂田が言った
「オンギャァ大出血サービス!!」
南が両手を夜空に広げて言う
「フェイントかまして祝ってやりましょう!! 生まれ変わっておっめでと---------------------------ぅ!!」
坂田が降り注ぐ星に向かって叫んだ
「今何時?」
坂を下った分かれ道で南が聞く
「あ~っと…もうすぐ明日になる」
京助が時計を見て答えた
「じゃそろそろさっきの流れ星のどれかが生まれ変わろうとしているわけですな」
坂田が言った
「だねぇ…」
南が夜空を見上げると何事もなかったかのように星が光っていた
「んじゃ俺等コッチ」
中島が長方形の箱を担いで右方向を指差した
「んで俺はコッチっと…明日どうする?」
京助が左方向に体を向けて聞く
「そうだなぁ~…」
中島方向に足を進めつつ坂田が言った
「まぁ明日考えましょうって」
中島が笑いながら言う
「とりあえず俺は眠みぃし…」
坂田がメガネを外して目を擦った
「みちゅるんオネムでちゅー」
南が坂田の頭を撫でながら笑う
「ってことで…解散!」
京助がチャっと手を上げると3馬鹿も同じく手を上げた
「星が死んだヤツねぇ…」
阿修羅が歩きならが夜空を見上げて言った
「よぉ思いつくもんだぁなぁ…」
ハッハと阿修羅が笑う
「星になってまで見守りたいんだろ」
京助が言った
「ってか…そう考えると残ったヤツ…少しは気が楽だったんじゃねぇの?」
京助が足を止めて夜空を見上げた
「あそこにアイツがいるって思えば…寂しくねぇじゃん…」
言った京助の頭を阿修羅が軽く一回叩いた
「竜のボンは…竜がコノ星のどれかだとか思ったことあるん?」
阿修羅が聞く
「…昔な」
京助が笑って答えた
「…京助」
今まで黙っていた緊那羅が突然京助を呼んだ
「なした?」
京助が返事をする
「手…繋いで欲しいっちゃ」
「は?」
緊那羅が言うと京助がきょとんとした
「何でまた…」
京助が聞く
「なんとなく…あ…駄目なら…いいんだっちゃ;」
緊那羅が苦笑いをした
「ボン」
阿修羅が肘で京助を突付くと阿修羅が京助の手を握った
「…はぁ…;」
京助が溜息をついて緊那羅の手を掴んだ
「京助の手あったかいっちゃ」
手を握りなおした緊那羅が言う
「お前が冷てぇんだろが」
京助が言った
「お~てぇて~つぅないでぇ~」
阿修羅が嬉しそうに手を前後に振りながら歌い始める
「近所迷惑だっつーの;」
京助が阿修羅に突っ込む
「ったく…;」
京助が阿修羅に半分引きずられるようにして歩くとその京助に合わせて緊那羅も歩く
「……なんだよ;」
視線を感じた京助が緊那羅を見ると緊那羅が嬉しそうに笑った
「起きるっちゃ京助ッ!!!」
バサァっという音と緊那羅の声が響く朝七時
「ほらほらっ!! 遅刻するっちゃ!!」
緊那羅が京助の体をまたいで窓にかけられていたカーテンを全開にすると朝日が入り込んできた
「んぁ~…」
京助がうっすら目を開けて寝返りを打つとまた目を閉じる
「京助ッ!!」
「うごぁッ!!;」
緊那羅が敷布団を思い切り引っ張ると京助が転がり落ちた
「ハイ!! 起きた起きたッ!!」
戸口まで転がった京助の目に映るのは逆さまの世界の中でテキパキとさっきまで自分が寝ていた布団を片付けている緊那羅の姿
「…お前ここ数日何か吹っ切れたのかの様に元気だナァ;」
布団を片付け終わって近づいてきた緊那羅に京助が言った
「そうだっちゃ? ほら! 起きて起きて」
緊那羅が京助の手を引っ張って体を起こす
「ヘイヘイ…; っくふぁ~…ぁ」
起き上がった京助が大欠伸をした
「…あのね京助」
緊那羅が部屋を出ようとした京助に声をかけた
「う?」
ポリポリと腹を掻きながら京助が眠気たっぷりの顔を緊那羅に向ける
「守るから」
緊那羅が朝日の逆光の中満面の笑顔で言った
「私は京助を守るっちゃ」
もう一度 緊那羅が言う
「…ぁ?;」
寝起きに唐突に言われた京助が間を開けて声を出した
「ご飯盛っておくっちゃ」
緊那羅が京助の横を通って廊下に出た
「あ…あぁ?;」
京助が廊下を見て返事をすると緊那羅が笑顔で振り返った
「目玉焼きは半熟だっちゃ」
緊那羅が言いながら笑った
「…ヘンなヤツ;」
京助が呟いた
「あ!京助がおきてきてる~」
悠! が醤油に手を伸ばしながら茶の間に入ってきた京助を見て言った
「何だよ;」
席に着きながら京助が悠助を見て言う
「義兄様最近早く起きてるよね」
慧喜が麦茶を悠助のコップに注ぎながら言った
「コレが世間一般の朝なのよねぇ…」
母ハルミが頷きながら茶碗を手に取る
「ハイ京助」
緊那羅が京助の茶碗を差し出した
「さんきゅ~…ったまー」
茶碗を受け取った京助が【いただきます】を簡略して言うと箸を持った
「緊ちゃんは最近すごく元気だし…いいわねぇ」
母ハルミがにっこり笑って緊那羅を見る
「そう…だっちゃ?」
味噌汁茶碗をもった緊那羅が母ハルミを見た
「すごくイキイキしてるわよ?」
母ハルミが笑う
「何かいいことあったの?」
悠助が緊那羅に聞いた
「…いい…ことだっちゃ?」
緊那羅が呟きながら京助を見る
「…なんだよ;」
朝日に納豆の糸を輝かせながら納豆をかき混ぜていた京助が緊那羅の視線に顔を上げた
「何でもないっちゃ」
緊那羅が笑うと漬物を箸でつまんだ
「ヨシコ」
白く長いカーテンを手で上げた阿修羅がその先にいた吉祥に声をかけた
「…あっくん…?」
膝を抱えていたヨシコが顔を上げる
「ほいよ」
ヨシコの横に腰掛けながら阿修羅が手を差し出した
「何?」
ヨシコがその手を見る
「お土産」
阿修羅がニーッと笑った
「お土産…?」
ヨシコが首を傾げつつも手を伸ばすとチャリっという音とともにヨシコの手に何かが手渡された
「これ…」
「でっかいのから」
阿修羅が足の裏を合わせながら手を引っ込めた
「でっかいの…ってゆーちゃんから?」
ヨシコが手を開くとあったのは【ようこそ正月町へ!!】と書かれた観光土産としかとれないキーホルダー
「なぁでっかいの~」
阿修羅が先を歩く中島に声を開けた
「何だよ」
中島が足を止めて振り返る
「ヨシコのこと嫌わんといてな」
「はっ!?;」
阿修羅が言うと中島が声を上げた
「何をいきなり…;」
中島が言う
「いや…ヨシコはその…なんだ…」
阿修羅がどもりながら何かを言おうとしている
「別に嫌ってねぇよ俺は」
中島が言う
「…そっかそか」
中島の言葉に阿修羅が微笑んだ
「…いつくる?」
中島が阿修羅に聞く
「何が?」
「アイツ」
阿修羅が答えると中島がまた言う
「ヨシコ?」
阿修羅が聞き返すと中島が頷いた
「…さぁなぁ…どうだか…」
阿修羅が苦笑いを返す
「…俺宿題とかで夏休みなのに自由がないとか思ってたんだけどさ…アイツに比べたら俺等ってスゲェ自由なんだなって…さ」
中島が笑いながら言った
「…でっかいの…」
「コレ」
阿修羅が言うのとほぼ同時に中島が何かを差し出した
「渡してくんね? くだらないモンだけど」
中島が眉を下げて笑いながら阿修羅に何かを手渡した
「何で?」
ヨシコがキーホルダーから阿修羅に視線を移した
「さぁ?」
阿修羅が笑う
「これアワビって貝から作ってんだとさ…かざしてみ?」
阿修羅がヨシコの手を持って上にキーホルダーをかざした
「…綺麗…」
小さく開いている穴から室内の明かりがヨシコの顔に小さな夜空を作った
「ねぇあっくん…私…」
ヨシコが手を下ろして俯いた
「私…」
ヨシコがキーホルダーを握り締める
「お前は悪くないんよヨシコ…」
阿修羅がヨシコの頭を撫でた
「…お前は悪くない…」
阿修羅の視線の先には棚の上に置かれた紙コップ
「オライが近いうち連れてってやるさ」
笑いながら言った阿修羅が一瞬顔を曇らせた
「…いつか自由にしてやるさ…」
そして小さく呟く
「竜がしたかったこと…オライもしてぇしな」
阿修羅の胸の飾りがチャリっと鳴った