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【第八回・弐】お祭り神社

祭り当日

昨日の出来事を栄野家で話し合っていた摩訶不思議服集団

それとは別に起こっていた事件とは

「開けなかった…って」

緊那羅きんならが驚いた顔で言った

「そうだ」

迦楼羅が頷きながら答える

「【天】も【空】も…扉が開けられなかったんだよ」

矜羯羅こんがらが壁に寄りかかって言う

「どうして…」

緊那羅きんならがが呟いた

迦楼羅かるら矜羯羅こんがら制多迦せいたかの力でもあけられなかったということは…それ以上の高等な人物が何らかの術か…方法で空間を切っていたということになります」

乾闥婆けんだっぱが言う

栄野家の開かずの間には悠助についていった慧喜えき以外の摩訶不思議服集団が集合していた


「…黒い…宝珠…」

緊那羅きんならがぼそっと呟くと迦楼羅かるらの目が見開いた

緊那羅きんなら…今なんと…」

迦楼羅かるら緊那羅きんならに聞く

「え…あ…慧喜えきが…黒い宝珠からアノ生き物が生まれたかもしれないって言ってたんだっちゃ」

緊那羅きんならが答えた

「黒…」

矜羯羅こんがらも何処と無く驚いた顔をした

「…くらが知る中で最高位の…」

制多迦せいたかが呟く

「じゃぁやっぱり黒い宝珠ってあるんだっちゃ?」

緊那羅きんならが聞くと乾闥婆けんだっぱが頷いた

「僕も実物は見たことはありませんが…赤、黒それともうひとつ金…これらは最高位の宝珠だと…」

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらを見た

「…金色のもあるんだっちゃ?」

緊那羅きんならが聞く

「正確には…あったということになるがな」

迦楼羅かるらが言う

「今はもう無いんだよ…金の宝珠は」

矜羯羅こんがらが腕を組み直しながら言った

迦楼羅かるら制多迦せいたかがつけている赤い宝珠…ソレと対を張る位の…黒い宝珠を易々と使えるヤツが…いるとしたら…」

矜羯羅こんがらの顔が険しくなる

「…上…ですね」

乾闥婆が言った

「でも! だったらどうして京助と悠助を…!! 【時】までは…!!」

緊那羅きんならが声を張り上げた

「落ち着いてください緊那羅きんなら

「たッ!;」

緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱの結構強めなチョップが振り下ろされた

「ソレがわかれば苦労はしないでしょう?」

乾闥婆けんだっぱがにっこりと笑いながら緊那羅きんならの頭から手をどけた

「…く達がコッチに来れたのは…たぶん誰かが自分の宝珠の力を解放して作ってくれたからだと思う」

制多迦せいたかがいきなり話題を変えた

「僕はてっきり緊那羅きんなら慧喜えきだと思っていたのですが…」

「え?」

乾闥婆けんだっぱが痛そうに頭をさすっている緊那羅きんならを見た

「黒い宝珠を使う輩に対抗するとなれば…宝珠をひとつ犠牲にするくらいの覚悟が必要となる…それでも勝てるかどうかだ緊那羅きんなら…今のお前はな」

迦楼羅かるら緊那羅きんならに言った

「…も緊那羅きんならは頑張ったよね。偉い偉い」

制多迦せいたかがヘラリ笑ながら緊那羅きんならの頭を撫でた

「僕と戦った時より強くはなっているね…」

矜羯羅こんがらもふっと笑って言うと緊那羅きんならが赤い顔で俯いた

「そうですね…でも緊那羅きんなら慧喜えきじゃないとすれば…いったい誰が…」

乾闥婆けんだっぱが一瞬優しい笑顔を緊那羅きんならに向けた後真顔になって考え込む

吉祥きっしょうとか…じゃないんだっちゃ?」

緊那羅きんならが言う

「…それがだな…吉祥きっしょうの姿が見えなくなってな」

迦楼羅かるらがさらっと言うと乾闥婆けんだっぱが溜息をつき緊那羅きんならがぽかんとした顔をした

阿修羅あしゅらが探しているのですが…」

乾闥婆が言う

昨日けんだっぱももしかしたらコッチに来てるのではないかと探しに行こうとした矢先宝珠に呼ばれてな…しかし扉は開かないで…;」

迦楼羅かるらが溜息をついた

「一体ドコにいったんだか…;」

そして乾闥婆と迦楼羅かるらが同時に溜息をついた


畳の上に敷かれた布団の上で上半身を起こしていた柴田が自分の手を見てソレから天井を見て溜息をついた

「…ヤキが回ってきたか…俺も…それとも…」

ガラッ

「柴田」

ふすまが開いて顔を見せたのは七分のズボンをはいた坂田

「これから御輿ですか?」

柴田が坂田に聞く

「ああ…まぁ…うん」

坂田が頭を掻きながら答えた

「すいません俺がこんな怪我なんかしたから;」

柴田が自分の左肩をさすりながら申し訳なさそうに言う

「左肩の脱臼に左足の骨にヒビ、右足骨折に…体中に痣…ったく…」

坂田がふすまを開けたまま柴田の近くに歩み寄る

「お前ともあろうヤツが何してんだよ…ばぁか」

坂田が柴田を見下ろして言った

「スイマセン; ちょっと猫を;」

「猫より自分だろ」

言いかけた柴田の頭を坂田が叩いた

「ったく…昨日は本当…寿命縮まりまくりだぜ…」

坂田が柴田の髪を指でいじりながら言った

「あんま心配かけんな馬鹿」

「いっ;」

そう言いながら坂田が柴田の髪の毛を一本抜いた

「なにするんですか若;ハゲるじゃ…」

「白髪」

柴田の目の前に抜いた白髪を差し出して坂田が言う

「まだ白髪生やすには早ぇえんじゃねぇか?…俺まだ13だし…せめて俺が20になってから生やせ白髪」

坂田が言った

「若…」

「…いってくるッ」

柴田の手の上に抜いた白髪を置いて坂田が部屋を出てふすまを閉めた

「…あと…7年か…」

白髪を摘みあげて柴田が呟いた

「…お前も…あの時のお前もこんな気持ちだったんだろうな…」


「…で?」

京助が視線の半分を受けながら目の前の人物に聞く

「…でって何よ」

残り半分の視線を受けながら京助の目の前にいるヨシコが返す

「なんでお前がここにいるんだ…;」

京助が溜息をついた

「りゅー様の気辿ってきたの」

さらっとヨシコが言う

「じゃなく!!;」

京助が裏手でヨシコに突っ込んだ

「…迷った」

中島が言うとヨシコがぴくっと反応した

「…図星か」

更に中島が言うとヨシコがキッと中島を睨んだ

「何よ!! 何!!? 何なのよ!! 本当アナタムカツクわ!!」

ヨシコが怒鳴る

「まぁまぁヨシコちゃん;」

そんなヨシコを南が宥める

「やっぱ貴方達がいるんですか~っと」

人垣を突き進んできた坂田が片手をスチャと上げて京助達に声をかけた

「よっす坂田、柴田さん大丈夫か?」

京助が同じくスチャと片手を上げて言うと坂田がその手にハイタッチしてきた

「ああ…今部屋でおとなしく寝てた」

南と中島にもハイタッチして坂田が言った

「んで…今日はヨシコだけ? 昨日いなかったみたいだけど」

坂田がヨシコを見て京助に聞いた

「昨日?」

ヨシコがきょとんとして聞き返す

「昨日一騒動ありまして…って知らないの?」

南がヨシコに言うとヨシコが頷いた

「だって私…」

ヨシコが小声で言いながら俯いた

「…コッチにきてたのよ…でも」

ボソボソと聞き取れるか聞き取れないかの声でヨシコが言う

「迷ってました」

中島が言うとヨシコの顔が赤くなった

「…ッ!!」

「ぅおッ!!;」

そしていきなり繰り出された強力そうな後ろ蹴りを中島が変なポーズでかわす

「アナタやっぱりムカつくわッ!!」

ヨシコが赤い顔をして怒鳴った


歩くたびにシャンシャンと鈴が鳴りわさわさと飾りが揺れる

「ねぇちゃん寒くねぇのか?」

「何食ってそんな乳できんだ?」

御輿担当のおっさん達に質問攻めされつつヨシコが御輿の後をついて歩く

「…案の定セクハラってるねぇ;ヨシコちゃん…まぁ酔っ払いの言うことだし軽く受け…」

ドゴッ

苦笑いで南が言ったその矢先背後から聞こえた破壊音に全員が振り返る

「…しつこいわ…」

コンクリートの歩道に開いた穴と青い顔のおっさん達

「そんな格好してっからだろが;」

京助が溜息をついてヨシコに歩み寄った

「そんな格好ってなによ!」

ヨシコが開けた穴から足を抜いて言った

「確かに…男心を萌え萌えさせる格好だよねぇ…ヨシコちゃんの」

南がヨシコの全身を見て言うとほんのり顔を赤らめる

「目のやり場に困るというか;」

そしてハハッと笑ってごまかした

「小学生には刺激強いかもな」

坂田が御輿を持って歩く小学生集団をチラッと見て言う

「アノくらいの歳じゃ刺激なんてわかんねぇって;」

中島が言うとヨシコが中島を睨んだ

「ソレって私に魅力がないって事?」

ヨシコが中島を睨みながら言う

「は?;」

ソレに対し中島が素っ頓狂な声を出した

「それってすっごく失礼なことよ!! そうよ! 失礼だわ! 本当アナタって何処までムカつくのよ!!」

ヨシコが怒鳴る

「誰もんなこと一言も言ってねぇじゃん;」

中島が溜息をついて言った

「オーィ! ウチワ係ー!! 掛け声!!」

ある家の前で止まった御輿の方から一人のオッサンが京助達に向かって声をかけた

「ウィ~ッス」

巨大なウチワを持った京助が駆けて行く

「…コレでも着てろ」

中島が自分の半纏をヨシコに投げて京助の後に続いた

「なっ…;」

投げられた半纏を顔で受け止めたヨシコが半纏を掴む

「嫌かもしれないけど我慢してね~;」

南がヨシコに向かって両手を合わせ【ゴメン】の仕草をした後御輿の方に駆けていった

「せーの!!」

京助の声が響くとソレに続いて小学生の元気のいい声に合わせて御輿が揺すられ上げられる

ほんの一分もかからない御輿の舞が終わると家の人が鞄を持ったオッサンに封筒を手渡し御輿の小学生軍団が再び歩き始める


「ヨシコちゃんーん! おいていくよー?」

半纏を掴んだまま後ろの方で固まっていたヨシコに南が呼びかける

「方向音痴なんだからしっかりついてこーぃ!!」

坂田も同じく声をかけた

「ヨシコおねぇさーん! 早く~!!」

慧喜に手を引かれた悠助も手を振りながら呼ぶと他の小学生も手を振ってヨシコを呼ぶ

「あ…まって!」

半纏を手に持ったままヨシコが駆け出す

「おねぇさんヨシコっていうの?」

「何歳?」

「おっぱい大きいね~」

小学生の集団に囲まれたヨシコが両手を小学生とつないで歩く

「ヨシコじゃないわ吉祥っていうの」

小学生と手をつなぎながらヨシコが答える

「じゃぁ何で京助たちヨシコっていってるの?」

四年生くらいの女子児童が後ろからついてきている中学生男子軍団の中にいるウチワを持った京助を見て言う

「私は嫌なんだけどね」

ヨシコがその女子児童に苦笑いで答える

「…結構優しいところあんじゃん」

中島がそんなヨシコの後姿を見て言った

「ヨシコちゃんって同性に好かれるタイプだね~姉御肌っていうか…」

南が言う

「アノ子お前等の知り合い?」

男子生徒が興味津々な目つきで聞いてきた

「ええ乳してまんなぁ…」

男子生徒が言うと数人が揃って頷いた

「おッ! アレに見えるは中島家!!」

南が言った

「ゆぅちゃ-----------んッ」

南の指差した先には紺の巻きスカートの裾をヒラヒラさせながら白い封筒を片手に満面の笑みを向けている中島家長女の蜜柑

「ミカ姉…;」

中島が溜息をついて肩を落とすと京助と坂田が揃って中島の肩を叩いた

「お前もゆうって言うのか?」

慧喜が中島に聞く

「そうそう!! コイツ柚汰ってんの」

南が中島を指差して慧喜に答える

「ふぅん…同じゆうでも悠助の方が可愛い」

慧喜がキッパリ言い切った

「ハイハイ;」

中島が右手を振ってやる気なく返事をする

「あいかわらずメンコイなぁミッカ」

鞄を持ったオッサンが蜜柑に言った

「褒めても何もでないよ河合さん」

そう言って笑った蜜柑が封筒を手渡した

「いいなぁ…お前美人双子姉妹の姉持ちって」

男子生徒が中島に言う

「美人?;」

中島が口の端を上げた

「可愛いじゃん蜜柑も林檎も」

男子生徒が返す

「そうかぁ?;」

中島が蜜柑の方を見ると目が合い蜜柑がにっこり笑った

「…わかんね」

蜜柑から目をそらした中島が頭を掻きながら言う

「俺だったら蜜柑派」

男子生徒が言った

「俺も」

別の男子生徒が言う

「俺は…」

やいのやいのと盛り上がっている男子生徒を中島が半分呆れ顔で見ていると蜜柑が中島に歩み寄ってきた

「あれ? ゆーちゃん半纏は?」

一人だけ半纏を着ていなかった中島に蜜柑が聞く

「あぁ…貸した」

中島がクイッと顎でヨシコを指した

「へぇ…相変わらず優しくていい子ッ」

蜜柑が背伸びして中島の頭を撫でた

「やめろってのッ!!;」

口ではそういいつつ赤い顔をしている中島だったが蜜柑の手を払うことなく撫でられている

「女の子には優しく」

蜜柑がにっこり笑って言うと中島が赤い顔のまま頭を掻いた

「…お前蜜柑さんに弱いよな…」

京助が中島に小さく言った

「…;」

図星なのか中島が黙り込んだ


「あッ! 蜜柑!!」

ヨシコと手を繋いでいた小学生が蜜柑の姿を見て声を上げた

「蜜柑ねえちゃんだー!」

一年生らしき男子児童が蜜柑めがけて駆け出した

「ほらほら転ぶよ~?」

蜜柑が腰を低くして男子児童を迎える

「…さすが保母目指してるだけあってお子様に人気あんねぇ蜜柑さん」

南が頷きながら言う

「家事ができて子供好きで性格も顔もいい…いいなぁ…」

浜本が中島の首に腕をかけて言った

「ってかお前地味にシスコンだよな」

男子生徒が言う

「はぁ?;」

中島が素っ頓狂な声を出した

「俺なら断るし米の買出しとか」

男子生徒が言うと数人揃って頷いた

「いや…それは親父が単身赴任でいねぇし…男俺一人だし…;」

中島が答える

「でも…だからってなぁ?」

男子生徒が言う

「ゆーちゃん! 頑張ってね? 今日ちらし寿司作るから」

蜜柑が小学生に囲まれながら微笑んだ

「…あぁ;」

中島が照れながらも返事をすると浜本が中島を叩いた


「…誰アノ人」

ヨシコが蜜柑を見て言った

「なんだか私の時とは打って変わっておとなしいじゃない? そうよ! おとなしいわ」

ヨシコがむっとした顔で京助達を見た

「そりゃそうだろ; 姉さんだし」

京助が言う

「お姉さん?」

ヨシコが蜜柑を再び見ると蜜柑と目が合い蜜柑がにっこりと笑った

「蜜柑優しいんだよ~」

ヨシコと手を繋いでいた女子児童がヨシコを見上げて言う

「…可愛いじゃない」

ヨシコが赤い顔で呟いた

「可愛い子じゃない。ゆーちゃんもスミに置けないね~」

蜜柑が笑いながら言う

「何が;」

ソレに対して呆れ顔で中島が返す

「アレは京助ンとこの」

「きょうちゃんの?」

蜜柑が京助を見た

「でもきょうちゃんに彼女さんいなかったっけ?」

「マジ!!?」

蜜柑がさらっと言った一言にほぼ全員が京助を見た

「…またこのパターンかよ…;」

京助が巨大ウチワを地面に立ててぼそっと呟いた

「ラムちゃんだろ~?」

浜本が京助に寄りかかりながら言う

「ああ!! あの昨日必死で京助守ってた金髪の子?」

昨日のアノ現場にいたらしい男子生徒が言った

「おんまえ彼女に守ってもらっていいのかぁ?;」

昨日アノ現場にいなかったと思われる生徒が言う

「だから…あのなぁ; 緊那羅きんならは彼女じゃねぇし…あ~…; なんつえば…;」

京助が考え込む

「まぁ…かの【じょ】ではないよな彼女では」

坂田が言う

「そうだねぇ彼女ではないよね~」

南も笑いながら言った

「え!? 何? もしかして奥さん…!?」

蜜柑が驚きながら言う

「ミカ姉ミカ姉;」

中島が違う違うと手を振りながら蜜柑の肩を叩いた

「蜜柑さん相変わらず微天然;」

南が言う

「オ~ィ! 時間押してるから急ぐぞ~!!!」

中島家の前で数分間止まっている御輿衆におっさんが声をかけた

「ウィ~ッス」

数人の生徒が返事を返すとのらりくらりと御輿が動き出した

「いってらっしゃい~!」

蜜柑が手を振って見送った


「ヨシコさん?」

動こうとしないヨシコを女子児童が見上げた

「…先行ってて」

そういうとヨシコが女子児童の手を放して蜜柑の方へ歩き出した

「ちょっと!!」

家に入ろうとしていた蜜柑をヨシコが呼び止めた

「あれ…? アナタはゆーちゃんが半纏貸した…? 何?」

網戸になっている玄関の戸を閉めて蜜柑がヨシコに笑顔を向けた

「…アナタどうやってアノ人手なずけてるの?」

「…は?;」

真顔で言ったヨシコにわけがわからないという顔の蜜柑

「アノ人…って?」

蜜柑がヨシコに聞く

「アノ失礼な…アナタがゆーちゃんって呼んでる人よ!!」

ヨシコが答える

「ゆーちゃん?」

蜜柑が聞き返すとヨシコが頷いた

「別に私は…手なずけてなんかいないけど…どうかしたの? ゆーちゃんが何かした?」

ヨシコに近付きながら蜜柑が聞く

「何かどころじゃないわ! 人のこと重いだのうるさいだの…ッ!!」

ヨシコが言う

「だから決めたのッ!!」

ヨシコが声を張り上げて言うと蜜柑が首をかしげた

「アノ人が頭が上がらないみたいなアナタみたいになるわ!! そうよ!! 決めたのッ!! だから手なずけ方教えてもらうわ!!」

ヨシコが蜜柑を指差して高らかに宣言した


「ギャー!;」

坂田が悲鳴を上げた

「ハイ、ご苦労さん」

首からタオルをかけタバコを咥えたオッサンがミニ箒を坂田に手渡す

「あと…あと少しで500円だったのに…ッ;」

がっくりと肩を落とした坂田の前には微妙な形をした型抜きの壊れた無残な姿

「ここでハブラシかけりゃよかったに~…無理して画鋲で攻めるから」

オッサンが笑いながら言う

「でっきッ!!」

南が声を上げた

「おッ!! どれどれ…あ~!! こりゃいい! 完成!!」

「おぉおお~!!」

オッサンが言うと周りから歓声が起こる

「器用だよなァお前;」

南の隣で失敗した型抜きの型をポリポリ食いながら京助が言う

「ホイさ!! 400円」

オッサンが400円を南に手渡した

「くっそ~; ムカツクなぁ;」

坂田が渡された箒は使わず京助同様型抜きの型をポリポリ食い始めた

「根気だよ根気」

南が400円を財布に入れながら笑った

「にしても…結構ハードなスケジュールなのにまったく疲れてないのはアレですか…やっぱお祭りパワー?」

中島がヨーヨーをバインバイン打ちながら言う

「すげぇミラクルお祭りパワー…ってことで次いこ次!!」

型抜きの型を食い終えた京助が立ち上がった

「京助!」

ゴソゴソ動き出した京助が聞き覚えのある声に振り返ると3馬鹿もつられたのか一緒になって振り返った

「…うっわぁ;」

そして口の端を上げる

京助と3馬鹿の目の前にいたのは通行人の視線を集めに集めている摩訶不思議服集団と緊那羅きんなら

「…あ、タコヤキ」

矜羯羅こんがらが型抜き屋の隣にあるタコヤキの屋台に目を向けた

「ほう…コレがタコヤキ…」

背伸びをして迦楼羅かるらがタコヤキ屋のガラスから焼いている様子を覗こうとしている

「おッ!! べっぴんな兄ちゃん! 変わった格好だねぇ!! どうだい?」

タコヤキ屋のオッサンが矜羯羅こんがらに声をかける

緊那羅きんならさんや…」

京助が緊那羅きんならを見た

「なんだっちゃ?」

緊那羅きんならがきょとんとして京助を見た

ぐきゅぅううう…

その直後聞こえたかなり気持ちのいいくらいのでかい腹の虫の泣き声が更に通行人の視線を集めた

「…さっき型抜きでもらった400円…あるしね;」

そう言うと南がタコヤキ屋のオッサンに400円を手渡した

「南に礼言えよ? 鳥類」

京助が迦楼羅かるらに言う

「ワシがか?;」

迦楼羅が自分を指差して聞く

「まぁまぁ; 腹が減ってはなんとやらって言うじゃん? ハイ」

南が笑いながら迦楼羅かるらにパックに入ったタコヤキを手渡した

「…どうしたんです?」

乾闥婆けんだっぱがタコヤキを見つめたままの迦楼羅かるらに声をかける


「…生きているのか?;」

「はぁ?;」

迦楼羅かるらが言うと京助と3馬鹿が声を上げた

「何が;」

坂田が聞く

「この…上にのっている薄いものが動いているのだが…;」

迦楼羅かるらが指差したものはタコヤキの上で踊りまくっているカツオブシ

「…んきいいね」

制多迦せいたかがカツオブシを見てヘラリ笑ながら言う

「前に食べた時…こんなの乗ってた?」

矜羯羅こんがらがカツオブシを指差して京助に聞いた

「乗ってたけど…あんだけ一気にかきこみゃわからんわな;」

京助が言う

「ふぅん…」

矜羯羅こんがらがひょいとひとつタコヤキを摘んで口に入れた

「…!!;」

そして次の瞬間 矜羯羅こんがらが口を押さえて制多迦せいたかの肩を掴んだ

「…熱かったんだな」

中島が呟く

「手で摘むからです行儀の悪い…」

乾闥婆けんだっぱが言うと矜羯羅が口を押さえたまま涙目で乾闥婆けんだっぱを睨んだ


「僕が知ってる祭りとは随分違いますね…凄く…楽しそうで」

乾闥婆けんだっぱが笑顔で通り過ぎていく人の波を見ている

「何? お前等ンとこの祭りってどんなんなんだ?」

京助が綿飴を片手に乾闥婆けんだっぱに聞いた

「僕の知っている祭りは…静かで…厳かで…そして悲しかったことしか」

乾闥婆けんだっぱが小さく言った

「…そか…。…一口」

そんな乾闥婆けんだっぱに京助が綿飴を差し出した

「…コレは?」

はじめて見るふわふわした綿飴を指差して乾闥婆けんだっぱが京助に聞いた

「食える雲」

京助が少しちぎって乾闥婆けんだっぱの口につけた

「…甘い…」

口についた綿飴を少し舐めた乾闥婆けんだっぱの顔がほころんだ

「たまには息抜きしろや?」

そう言って京助が多めに綿飴をちぎると割り箸ごと乾闥婆けんだっぱに渡した

「疲れてるときには甘いものって言うだろ?」

綿飴を口に突っ込んで京助が笑った


「だぁッ!!; 逃げるな!! たわけッ!!;」

「ヘッタクソだなぁお前;」

金魚すくいの破れたポイを片手に迦楼羅かるらが声を上げると中島がその横で赤い金魚を水に浮かべた茶碗に掬って入れた

「素早いぞ!;」

迦楼羅かるらが怒鳴る

「…つかまるから逃げんのあたりまえじゃん;」

南が上から見下ろして突っ込んだ

「ムキになったら負けよ~? かるらん」

坂田がポフポフと迦楼羅かるらの頭を叩いた

「頭を叩くなッ!! たわけッ!!;」

再び迦楼羅かるらが怒鳴る

「…タカちゃんタカちゃん; 入れたら上げないと…紙…ふやけるぞ?;」

一方水の中にポイを入れたのはいいがそのまま入れっぱなしの制多迦せいたかに中島が声をかけると制多迦せいたかがヘラリ笑顔を向けた

「…コレ掬ったら何かあるの? 食べられるとか」

中島の掬った茶碗の中の金魚を見て矜羯羅こんがらが聞く

「食えん食えん;」

3馬鹿が揃って手を横に振った

「京助はやらないんだっちゃ?」

やいのやいの大騒ぎしながら金魚すくいに夢中になっている軍団を見て緊那羅きんならが京助に聞く

「あ? ああ…やらねぇ」

乾闥婆けんだっぱに渡した綿飴を少しちぎりながら京助が答えた

「ホレ」

そしてソレを緊那羅きんならに渡す

「あ…どうもだっちゃ」

渡された綿飴を緊那羅きんならが受け取る

「掬って持って帰ったら悠助が喜ぶんじゃないんですか?」

乾闥婆けんだっぱが京助に言った

「そりゃな…でも死んだ時悲しむのも悠だろ」

京助が言う

「…そう…ですね」

少し驚いた顔をした後 乾闥婆けんだっぱが小さく言った

「…京助って…」

そんな会話を聞いていた緊那羅きんならが呟く

「…何だよ;」

聞こえたのか京助が緊那羅きんならを見た

「京助って不思議だっちゃ」

「はぁ?; …不思議な格好をしたお前等に俺が不思議って言われちゃいましたが;」

緊那羅きんならが言うと京助が口の端を上げて返す

「そう…ですね…」

「オイオイ;アナタも同意するのですかい;」

乾闥婆けんだっぱもボソッと緊那羅きんならに賛同すると京助が裏手で突っ込んだ

「…貴方と話していると…どうしてか…こう…暖かい気持ちになるのです」

乾闥婆けんだっぱが自分の胸に手を置いて言う

「上手く言えないのですが」

そして乾闥婆けんだっぱが京助を見た

「…はぁ…;」

唐突に思いもよらないことを言われた京助が阿呆面を乾闥婆けんだっぱに向ける

「私も同じだっちゃ」

緊那羅きんならが笑顔で言った

「だから貴方の周りには人が集まる…」

乾闥婆けんだっぱが京助に微笑みながら言う

「…類は友を呼ぶとかか?;」

京助が最近散々3馬鹿に言われている台詞を呟いた


ぴゅひょろろるぅぅ~…というなんとも気の抜けた音

「…何だソレは」

迦楼羅かるらが音につられたのか半分脱力したように悠助に聞く

悠助が吹いていたのは息を吹き込むと三本の紙が延びるという笛

「これ? クジ引いたら当たったの」

そう言って悠助が再び笛を吹いた

「お前また変なクジ引いたんか;」

京助が悠助に言った

「いいじゃん~お祭りはくだらないものもお宝に見えるんだし…なー? 悠?」

南が悠助の頭を撫でて言うと悠助が嬉しそうに笛を吹いた

矜羯羅こんがら様も…なんですかソレ」

慧喜えき矜羯羅こんがらの手の中を見て聞く

「…坂田とかいうのに貰った…んだけど」

慧喜えきに聞かれて矜羯羅こんがらが自分の手の中にあるモノを見せた

「それ? スーパーボールってんの」

坂田が言った

「す…?」

矜羯羅こんがらが聞き返す

「地面に思いっきり投げつけてみ?」

京助が矜羯羅こんがらに言うと矜羯羅こんがらが首をかしげながらも手を振り上げ手の中のものを地面に投げつけた


ガッ


「あ…」

勢いよくバウンドしたスーパーボールが乾闥婆けんだっぱにヒットした

「……;」

周りの空気が一瞬で南極の温度になった

「だ…大丈夫か?; 乾闥婆けんだっぱ;」

迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱの顔をのぞきこみスーパーボールが当たったらしき額に手を添える

「…ごめん;」

矜羯羅こんがらが小さく何処となく何故か照れながら謝った

乾闥婆けんだっぱ?;」

緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱの顔をのぞきこんだ

「あ…アレだ!!; ホラ!! ツバつければ治るって!! ツバ!」

中島が必死のフォローをする

「ツバ?」

そう言った悠助が笛を持ったまま乾闥婆けんだっぱに近づくと乾闥婆けんだっぱの額を舐めた

「ゆ…!」

慧喜えきが驚いて声を上げた

「…悠助?;」

乾闥婆けんだっぱが目を丸くして悠助を見た

「治った?」

笛を片手に悠助が乾闥婆けんだっぱに笑顔を向ける

「え…あ…;」

返答に困っている乾闥婆けんだっぱの前に今度は制多迦せいたかがしゃがんで悠助と同じように乾闥婆けんだっぱに額を舐めた

「…おった?」

ヘラリ笑顔で制多迦せいたか乾闥婆けんだっぱに聞く

「…え…わ…ッ;」

そして今度は迦楼羅かるらが同じように舐めた

「コレで本当に治るのか?」

真顔で迦楼羅かるらが中島に聞いた

「…俺の婆ちゃんに聞いてくれ;」

中島が苦笑いで答えた

「まぁ全員で舐めれば治るんじゃないのか?」

京助がハッハと笑いながら言う

「ぜっ!!;」

ほんのり顔を赤くした乾闥婆けんだっぱが珍しく大きな声を出した

「もうだい…」

言いかけた乾闥婆けんだっぱの前に矜羯羅こんがらがしゃがむと軽く乾闥婆けんだっぱの額を舐めた

「…悪かったね」

そして顔をそらして小さく謝った

「…ッ;」

真っ赤になった乾闥婆けんだっぱが腕で顔を隠すと数歩後ずさった


「…俺等もやっとく?」

坂田がチロッと舌を出して京助に聞いた

「…ここは雰囲気に任せてやっときますか」

同じく舌を出した京助が南を見る

「踊る阿呆に見る阿呆同じ阿呆なら…ってヤツ?」

そしてやはり舌を出した南が中島を見た

「…決定!!」

中島が舌を出して言うと京助達が乾闥婆けんだっぱの肩を叩いた

「なん……まさか…;」

赤い顔のまま振り返った乾闥婆けんだっぱが見たものは舌を出してエセっぽく爽やかに微笑んだ京助と3馬鹿

「ま…そういうことで」

「何がですかッ!!; 放してくださいッ!!!;」

坂田が言うと怒鳴った乾闥婆けんだっぱを中島と京助が押さえた

「俺もした方いいの?」

慧喜えきが悠助に聞いた


「あれ? 京助どうしたのそのデコ」

旗持ち行列を終えた阿部が京助の顔を見て聞いた

「…いや…うんまぁ…なんだ」

京助と3馬鹿がエセっぽい笑顔で笑った

「…変なの」

ジトッと京助の顔を見て阿部が眉をひそめて言うと本間と共に歩いていった

「…けんちゃん…強いッすね」

南が迦楼羅かるらにボソッと言うと迦楼羅かるらが頷いた

「まさかアソコで二人まとめて一本背負いたぁ…本当可愛い顔してババンバン…; 参ったぜ;」

頬に擦り傷を作った中島が乾闥婆けんだぱを見て言う

「貴方達が悪いのでしょう?」

そんな中島ににっこりと笑顔 (しかし何処となく怖い)を返した

「俺達だってけんちゃんの怪我が早く治ればいいなって思って…ッ」

南が泣き真似をすると制多迦せいたかが南の頭を撫でた

「気持ちだけ受け取っておきます」

乾闥婆けんだっぱがキッパリと言い切った

「だから言ったであろう; 乾闥婆けんだっぱに逆らうなと;」

迦楼羅かるらが溜息をつきながら京助に言う

「…身をもって了解いたしました;」

京助が口の端を上げて言った

「あれ?」

坂田がふと顔を上げて何かを見つけた

「アレって…ヨシコと蜜柑さんじゃね?」

坂田に言われて一同がその方向を見ると摩訶不思議服ではない服を着たヨシコが蜜柑と共に近づいてきた

「…吉祥きっしょう!!」

迦楼羅かるらが声を上げた

「あ…迦楼羅かるら…と乾闥婆けんだっぱも?」

キャミソールにミニのパンツスタイルのヨシコがヒラヒラ乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらに手を振った

「なんだその格好は…; それよりお前…昨日はいったい何処に…」

「やーん!! 可愛い~!!」

言いかけた迦楼羅かるらが頭に感触を感じて言葉をとめた

「ボク、何処の子?」

蜜柑が迦楼羅かるらの頭を撫でながら聞く

「ぼ…!!;」

「ボク…」

迦楼羅かるらが驚いた顔で蜜柑を見ると迦楼羅かるら以外が迦楼羅かるらを見た

「…ブッ」

慧喜えきが噴出した

「ボク…」

リピートした3馬鹿と京助の顔が引きつり始め矜羯羅こんがらが後ろを向いて振るえはじめた

「かるらんって言うんだよ~蜜柑ねえちゃん」

悠助が笑顔で言う

「かるらんちゃん?」

蜜柑が聞き返す

「か…!?;」

「かるらん…ちゃん…」

迦楼羅かるらが更に驚いた顔で蜜柑を見上げると乾闥婆けんだっぱが繰り返した

「…威厳も何もあったもんじゃないわね【かるらんちゃん】」

ヨシコがあからさまに笑いを堪えていますよというカンジに肩を震わせながら言う

「可愛いってさ…よかったじゃん【かるらんちゃん】」

同じく堪えてますというカンジが目に見えてわかる京助が迦楼羅かるらの頭を撫でる

「…るらんちゃん…かるらんちゃん」

「やめんかッ!!; たわけッ!!!;」

制多迦せいたかがヘラリ笑顔で迦楼羅かるらの頭を撫でると迦楼羅かるらが怒鳴った

「ミカ姉最強」

中島がヒーヒー言いながら呟いた

「いや…最強で最高だ蜜柑さん」

笑いすぎて呼吸困難になりつつある坂田が中島につかまりながら言う

「かるらんちゃん何歳?」

蜜柑がにっこり笑いながら迦楼羅かるらに聞いた

「な…;」

迦楼羅かるらが数歩後ずさる

「おねえちゃんと遊ぶ?」

「はッ!?;」

蜜柑が言うと迦楼羅かるらが素っ頓狂な声を出し周りがまた笑いのスタンバイにはいった

「だ…ッ…誰が遊ぶかッ!! たわけッ!!;」

迦楼羅かるらが赤い顔をして怒鳴った

「こぉら! 駄目でしょ」

怒鳴った迦楼羅かるらの頭を蜜柑が軽く小突いた

「そんな偉そうに威張ってると誰も遊んでくれなくなっちゃうよ?」

蜜柑が言うと乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらが同時に驚いた顔をして辺りが一瞬静まった

…? どうしたの?」

蜜柑が迦楼羅かるらの顔を覗き込んで聞く

「…沙紗…」


「迦楼羅!(かるら)!」

迦楼羅かるらがボソッと呟くと乾闥婆けんだっぱがまるでその迦楼羅かるらの言葉をかき消そうとするかのように声を出した

「え…え?;」

蜜柑が驚いて乾闥婆けんだっぱを見る

「すいません…この人はこう見えても貴方より遥かに年上なんです」

乾闥婆けんだっぱがにっこり笑って蜜柑に言った

「えッ!?; そうなの!?;」

蜜柑が慌てて迦楼羅かるらの頭から手をどけた

「ゴメンナサイッ; 全然年上に見えなくて…可愛かったからつい…;」

そして頭を下げて謝る

「…そりゃそうだろな;」

中島が迦楼羅かるらを見ながら呟くと周り一同も頷いた

「それはそうと…なんですか吉祥きっしょうその格好…」

乾闥婆けんだっぱがヨシコの服装を見て聞いた

「これ? 蜜柑の服、借りたの」

ヨシコがキャミソールの裾をひっぱって笑顔で言う

「可愛いでしょ~?」

蜜柑がヨシコの肩に手を置いて言った

「お前は…;」

迦楼羅かるらが頭を押さえて溜息をついた

阿修羅あしゅらが今でもたぶん必死で探していると思いますが」

乾闥婆けんだっぱがヨシコに言う

「あっくんが?」

ヨシコがきょとんとした顔で聞き返す

「私なにかしたかしら…」

考え込んだヨシコを見て乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらが呆れ顔で肩を落とした

「貴方は少し…自覚というか自分の立場を考えてください;」

乾闥婆けんだっぱが疲れたような顔を上げて言う

「何? 吉祥きっしょうちゃんってお嬢様とか何か?」

蜜柑がヨシコを見た

「おじょうさまぁ?;」

蜜柑の言葉に3馬鹿と京助が揃ってヨシコを見た

「…じゃぁ阿修羅あしゅらってアレか? セバスチャンっぽいポジションになるわけ?」

坂田が言う

「ソレ言っちゃお前だって【若】なんだし」

中島が坂田に言った

「若言うなたわけ」

坂田がやる気なく中島に裏手で突っ込む

「…今お前等さりげなくワシの真似しなかったか?;」

迦楼羅かるらが言うと中島と坂田が顔の前で手を横に振ってナイナイとジェスチャーした

「で…吉祥きっしょうはどうしてそんな格好してるのさ」

一向に話が進まないのを見ていた矜羯羅こんがらが言う

「私?」

ヨシコが顔を上げた


「これはね…貴方!!」

「へ?」

ヨシコが腰に手を当てて中島を指差した

「…貴方…ううん…ゆーちゃん!!」

「ブッハッ!!;」

ヨシコが言うと中島が噴出した

「ゆーちゃんを手なずけるためよ! そうよ!!」

ヨシコが得意げに言う

「手なずけるって…」

南が中島を見る

「お前犬か猫か?」

京助が同じく中島を見る

「な…んなんだソレはッ!!;」

中島が怒鳴った

「だって貴方ムカつくんだもの」

ヨシコがさらっと言う

「だから決めたのゆーちゃんは蜜柑に頭が上がらない。だから私は蜜柑になるの」

ヨシコが蜜柑を見て言うと蜜柑がにっこり笑った

「ミカ姉ッ!!;」

中島が蜜柑を見る

「なぁに? ゆーちゃん?」

笑顔で聞き返した蜜柑に何か言おうとした中島が口ごもる

「やっぱり! ゆーちゃんは蜜柑に弱いのね!! かったわ!!」

ヨシコが嬉しそうに言うと蜜柑抱きついた

「…ま…頑張れやゆーちゃん」

坂田が中島の背中をほくそえみながら叩く

「うっさい若;」

中島が返すと坂田が中島の頭を叩いた

「…誰かアイツを止めてくれ;」

中島が迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱを見る

「止められるなら苦労せんわ;」

迦楼羅かるらが溜息をついた

「…まさかと思いますが吉祥…」

乾闥婆けんだっぱが真剣な面持ちでヨシコを見る

「何?」

ヨシコが乾闥婆けんだっぱを振り返った

「このまま…中島の家に…」

「そうよ?」

まだ乾闥婆の言葉が終わらないうちにヨシコが答えると一瞬辺りが凍った

「な…」

「何-----------------------------------------------------ッ!?;」

出だしは揃ったものの声のでかさは中島が群を抜いていた声

「母さんもりっちゃんもいいって言ったし」

蜜柑がにっこり笑う

「ばっ…; 俺は嫌だからな!!;」

中島が怒鳴る

「なんでよ!!」

そんな中島の怒鳴りにヨシコも怒鳴った

「何でもだッ!!;」

再度中島が怒鳴る

「ゆーちゃんッ!!」

蜜柑が怒鳴った

「…;」

中島が気まずそうに蜜柑を見た後黙り込む

「…勝てるわ」

そんな中島を見てヨシコの目がキラリと光った


「駄目」

「何でよッ!!!」

阿修羅あしゅらがカンブリを片手に言うとヨシコが怒鳴った

「あんのなぁヨシコ…;何のためにオライがお前のお目付け役…基教育係になったのかわかるだろが;」

溜息を交えて言う阿修羅あしゅらがヨシコの頭に手を置いた

「それは……でも!!」

「でもでもアレでもヘチマでもなく駄目ったら駄目だっての」

ヨシコが何か言おうとすると阿修羅あしゅらがヨシコの頭をポフポフ叩きながら言う

「…なぁ」

京助が緊那羅きんならを肘で突付いた

「ヨシコって…何?」

そして小声で緊那羅きんならに聞く

吉祥きっしょうは…その…えっと…上の嫁…? 候補というか…」

緊那羅きんならが京助に小声で返した

「ほほ~…じゃぁやっぱりお嬢様みたいなもんなんだねヨシコちゃん」

南が納得したように頷いた後ヨシコを見た

「だから…吉祥きっしょうは自由が限られてるんだっちゃ」

吉祥を見ながら緊那羅きんならが付け加えた

「私…吉祥きっしょうがコッチに来てから吉祥きっしょうの我侭が倍増している気がするんだっちゃ…」

緊那羅きんならが言う

「…そうかもな…」

迦楼羅かるらが呟いた

「コッチでは吉祥きっしょうはただの吉祥きっしょうというだけで何の役目も肩書きもないからな…ワシ等もだが…だから吉祥きっしょうも羽が伸ばせるのだろう」

目を細めて迦楼羅かるらが言うと一同がヨシコを見る

「【天】に戻れば僕等も吉祥きっしょうも【役目】や【地位】…肩書きに縛られていますしね…迦楼羅かるらもコッチに来るようになってから本ッ当 (強調)我侭が増しましたし」

そう言いながら乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらを見た

「…そうか?;」

乾闥婆けんだっぱに視線を向けられた迦楼羅かるらが気まずそうな顔で乾闥婆けんだっぱを見返すと乾闥婆けんだっぱが頷いた

「じゃぁ今日だけ!! 今日だけならいいじゃない? ね? あっくん!!」

ヨシコが阿修羅あしゅらの腕を引っ張って言う

「だぁから…;」


「私からもお願い!!」

駄目出しをしようとした阿修羅あしゅらの腕に蜜柑がつかまった

「ミカ姉?;」

中島が思わず蜜柑の名前を言う

「な…んですかい; このべっぴんさん;」

阿修羅あしゅらが蜜柑を見て言った

「コイツのお姉さん」

京助が言うと坂田と南が中島を指差した

「でっかいのの姉さん? …ってかオライ今両手に花?」

阿修羅あしゅらが蜜柑と中島を交互に見て言う

「お願いあっくん!! 私ゆーちゃんを手なずけたいの!!」

「オイ;」

ヨシコが阿修羅あしゅらに懇願すると中島が遠巻きに裏手突込みを入れる

「だってムカつくんだもの…凄くムカつくの!! だから…」

吉祥きっしょう

だんだん大声になってきたヨシコのお願いっぷりを見ていた迦楼羅かるらがヨシコを呼んだ

「…今日だけだ」

迦楼羅かるらが言うと一瞬辺りが静かになった

「…かるら~ん;」

静けさを打ち消した第一声は阿修羅あしゅらの呆れたような声だった

「ほ…んと? 本当!? いいの!? いいのね!! 有り難う迦楼羅かるらッ!!」

「ブッ;」

阿修羅あしゅらを突き放してヨシコが迦楼羅かるらに抱きついた

「苦しいわッ!!; 離れんか!! たわけッ!!;」

ヨシコより小さい迦楼羅かるらが丁度ヨシコの胸に顔を埋められる状態で怒鳴る

「…ぱふぱふだな」

京助が呟いた

「ぱふぱふだね…」

南も呟く

「男なら一度は夢だよな…」

中島も呟く

「…苦しさは醍醐味…」

坂田が呟くと揃って頷く

「…まったく…迦楼羅かるらは甘いんですから…ッ」

「だっ!;」

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらの後ろ髪を引っ張った


「あっ!!」

蜜柑が何かを思い出したように声を出した

「そろそろちらし寿司…作りにかからないといけないんだけど…ゆーちゃん…」

蜜柑がヨシコをちらっと見た後中島を上目遣いで見る

「…ハイハイ; …わーったよッ!!;」

中島が半ば投げヤリの返事をした

「ゆーちゃんいい子ッ! じゃぁヨロシクね」

そう言うと蜜柑が駆け出した

「蜜柑…?」

駆け出した蜜柑をヨシコが見る

吉祥っしょうちゃん!また後でね!」

振り返ってヨシコに蜜柑が手を振った

「ねぇ? 蜜柑は?」

ヨシコが中島を見た

「飯作りに行った」

中島が頭を掻きながら答える

「…飯? じゃぁ私はどうすればいいの?」

ヨシコが中島を揺すって聞く

「もう少しお祭り見て歩かない? 一緒にさ」

南が近づいてきてヨシコに言う

「今日一日好きにしていいらしいし」

京助がチラッと迦楼羅かるらを見ながら言うと迦楼羅かるらが小さく咳をした

「ついでだからお前等も今日は一日自由にしたら?」

坂田が摩訶不思議服集団を見て言う

「僕等も?」

矜羯羅こんがらが聞き返す

「そ!! なんたって今日は本祭りだし? いいじゃんいいじゃん!!」

南が笑いながら言った

「自由…ですか…」

乾闥婆けんだっぱがボソッと言うと迦楼羅かるらが無言で乾闥婆けんだっぱを見上げた

「たまにはいいんじゃないですか? 矜羯羅こんがら様、制多迦せいたか様」

慧喜えきが悠助と手を繋いだまま矜羯羅こんがら制多迦せいたかに言う

「ヨシ! 決定! …じゃぁまずはその目立つ格好…なんとかしょっか」

南が摩訶不思議服集団の格好を見て言った

「着替えだな」

坂田が言う

「着替えだね」

南も言う

乾闥婆けんだっぱは南と背格好近いから南の服だな~…鳥類は悠ので…制多迦せいたか矜羯羅こんがら…そして阿修羅あしゅらは俺の…か坂田のか」

京助が摩訶不思議服な面々を見て言った

「じゃぁ…」

坂田と南と京助が誰に誰の服を貸すかでやいのやいのしている

「俺は?」

中島が聞く

「お前はヨシコちゃん任せられただろ? しっかりやれ~…じゃぁタカちゃんと…」

南がお前はお呼びじゃないわよ的に中島に言う

「ホレ…ヨシコ」

阿修羅あしゅらがヨシコの手を掴んだ

「え…?」

ヨシコがきょとんとした顔で阿修羅あしゅらを見る

「っつうワケで…でっかいの」

そして阿修羅あしゅらが今度は中島の手を掴んだ

「へ?」

中島もきょとんとした顔をする

「仲良くなッ」

阿修羅あしゅらが中島の手にヨシコの手を握らせた

「はっ!?;」

中島とヨシコが揃って声を上げると阿修羅あしゅらがヒラヒラ手を振って京助の後ろを歩き始めた

「30分くらい後にまたココでな~!!」

南が乾闥婆けんだっぱをつれて、京助が阿修羅あしゅら迦楼羅かるらをつれて、坂田が矜羯羅こんがら制多迦せいたかをつれて散っていった

「ここでな~…って…」

取り残された中島が呟く

「緊ちゃん~トイレ~」

悠助が緊那羅きんならを見上げて言った

「あ…えっと…わかったっちゃ」

緊那羅きんならが悠助の手を取って歩きだす

「俺も行くッ」

そしてお約束といわんばかりに慧喜えきも悠助の手を握ったままついていく

「…わかったっちゃ…って…」

ヨシコが去り行く緊那羅きんなら達の背中を見ながら呟いた


「……」

しばしの無言の後ヨシコと中島が顔を見合わせる

「……」

そしてまたそのまま沈黙

「あ! ヨシコさん!!」

後ろから名前を呼ばれたヨシコが振り返ると御輿の時に手を繋いでいた女子児童とその友達らしき児童が手を振っていた

「あ…」

手を振り返そうとしたヨシコが何かに引っ張られている自分の手の方を見た

「…ちょっと」

阿修羅あしゅらによって中島に握らされたままの状態だったヨシコが中島を見上げた

「あ? …!? わり…ッ;」

中島が慌てて手を放す

「中島だー! 蜜柑姉は?」

児童の一人が中島に聞く

「中島じゃないだろ? 圭介…中島【さん】だろ中島さん」

中島が圭介の頭に手を置いて言った

「え~…さんってつけるレベルじゃねぇじゃん中島」

圭介の後ろからやってきた圭介より少し大きい児童が笑いながら言う

「ゆーちゃんはゆーちゃんよ」

女子児童に抱きつかれていたヨシコが言った

「…中島が女つれてる…」

圭介より少し大きい児童がヨシコを見て呟いた

「しかもこの人【ゆーちゃん】って蜜柑姉しか呼ばない呼び方で…」

圭介が中島を見た

「コイツは…」

「コイツって何よ!!」

圭介たちに何か言おうとした中島にヨシコが怒鳴る

「コイツって言い方気に食わないわ!! そうよ! やっぱりムカつくわッ!!」

ヨシコが中島を睨んで言った

「…オイ…中島…尻に敷かれてんぞ」

圭介より少し大きい児童が中島にささやいた

「最初が肝心だろ~?」

そして中島を押す

「だぁから; コ…ヨシコは…」

「ヨシコじゃないって言ってるじゃない!!」

言った中島にまたヨシコが怒鳴った

「じゃぁなんて呼びゃあいんだよ;」

中島が疲れきった顔でヨシコに聞いた

「私は吉祥ッ!!」

ヨシコが自分を親指で指して言った


パン

「…ヘッタクソ」

圭介が射的の最後の玉を使いきると中島が後ろからからかうように言った

「うるさいッ;」

圭介が中島に怒鳴る

「惜しかったじゃない?そうよ、もう少しだったわ」

むくれている圭介にヨシコが笑いかけた

「慰めなくていいっ」

圭介がヨシコに言う

「慰めじゃないわ本当に惜しかったから言ってるの」

微笑みながら言うヨシコを見た圭介の顔が赤くなる

「圭介顔赤い~!!」

ヨシコと手を繋いでいた女子児童が圭介の顔を指差して笑った

「うるさい亜沙子!」

圭介が怒鳴る

「ありゃ惚れたな」

中島の隣にいた圭介より少し大きな児童が言った

「誰が」

中島が聞き返す

「圭介がアノ人に」

児童が答える

「まだ手ェしか繋いでないんだろ中島」

ニヤニヤしながら児童が中島を見上げた

「あのなぁ…渉…俺は別に…」

「照れるな照れるな」

呆れ顔で言いかけた中島の背中を渉が数回叩いた

「雰囲気的に蜜柑に似てるしなアノ人」

渉がヨシコを見て言った

「…だからなんだよ」

中島がいやな予感がします的表情で渉をチラ見すると渉がニヤっと笑った

「図書室にあるんだぜ~? 文集~」

渉が笑いながら言うと中島がやっぱりかという顔で肩を落とした

「文集?」

「うお!?;」

圭介と亜沙子と共にいつの間にか隣にいたヨシコが渉に聞く

「そ~!! 中島が小学校の時書いた作文がさぁ~」

「だ--------------------------------------------------------ッ!!;」

答えようとした渉を中島が押さえる

「作文?」

ヨシコが首をかしげた

「あのね~中島の初恋の人は蜜柑なの」

「が------------------------------------------------------------ッ!!;」

中島が顔を赤くして声を上げた


「…おかしいとか思ってるんだろ」

渉達と別れた後人込みの中を歩きつつ中島が呟いた

「何がよ」

ヨシコが聞き返す

「初恋相手…ミカ姉だって笑いこらえてたんだろ」

中島の言葉にヨシコが足を止めた

「どうして?」

ヨシコが首を傾げる

「別にいいんじゃない? そうよ、別におかしくなんかないじゃない」

ヨシコが言った

「恋は恋だもの。そうでしょ? 好きになったから恋でソレが初めてだったから初恋なんでしょ? ゆーちゃんが初めて恋した相手は蜜柑、いいじゃない?」

言い終わるとまたヨシコが歩き出した

「私が初めて恋した相手はりゅー様で…ずっと見てきたの」

中島がヨシコの後ろをゆっくり歩き始めた

「私は今でもりゅー様に恋してるもの…ソレはおかしい?」

突然振り返ってヨシコが中島に聞いた

「京助の…親父さんだよな?」

中島が言うとヨシコが笑顔で頷いた

「片思いだって恋は恋でしょ? だったら私はずっと恋してるわ…もう凄く長い恋」

ヨシコの笑顔が一瞬悲しく曇る

「終わらなくてもいいの…私の恋は終わらないわ」

そう言ってヨシコが顔を上げ中島を見た

「こう見えて結構一筋なの。そう…私の恋はりゅー様への恋…もうずっと変わらないわ」

「…格好いいな」

ヨシコの言葉に中島が呟いた

「気付くの遅いわ」

ヨシコが腰に手を当てて言う

「恋すれば強くなるわ。ゆーちゃんも誰もかも」

ヨシコが笑顔で言った

「ゆーちゃんが蜜柑を好きになった時ゆーちゃんは強くなったと思うの。蜜柑を守りたいと思わなかった? 何かしてあげたいと思わなかった?」

自分の胸に手を置いたヨシコが中島を見上げた

「……」

見上げてきたヨシコを中島が黙って見た後顔をいきなり背けた

「…思った…」

顔を背けたまま中島が小さく答えた

「だから私はコッチにきたいの…一秒でも長くコッチにいたいわ…だってりゅー様が一番したかったこと…私だってしたいもの」

中島がヨシコをチラッと見た

「一番したかったこと…って…」

中島が聞く

「京助と悠助…そしてハルミママさんを守るわ…幸せにしたい…りゅー様にずっと恋してずっと見てきたからわかるの…それがりゅー様の一番したかったこと…そう…それが私のしたいこと」

ヨシコが足を止めた

「ソレが私のりゅー様への恋なんだもの」

数歩ヨシコより先に進んで足を止めた中島が振り返るとヨシコの右手が上がり目をこすった

「…っ…なんでゆーちゃんに話してるのかしら…おかしいわ…止まらないじゃない………だって…私…私だって…」

いきなり泣き始めたヨシコに中島は驚き人々の視線が集まった

「痴話喧嘩かしら」

「若いのに…」

「修羅場?」

ザワザワボソボソと人々の勝手な想像から生まれた言葉が聞こえ始める

「だぁッ!!!;」

耐えられなくなった中島がヨシコの手を引っ張って小走りで駆け出した

「逃げた~…」

後ろから聞こえた誰かの声を耳にくっつけながら中島が足早にその場を離れた


「いきなり泣くな; ビビるから;」

出店の最後にある綿飴屋の裏中島が足を止めてヨシコを振り返った

「泣きたくて泣いたんじゃないわ!! だって…勝手に…」

怒鳴ったヨシコの目からポロポロと涙が頬を伝う

「泣くなってのッ;」

中島がなすすべもなくただオロオロとしている

「もぉ…やだぁ…っ…」

本泣きが入ったヨシコがしゃがんだ

「…俺ももぅやだぁ;」

中島が呟いた


膝に顔をうずめたままのヨシコにかける言葉が見つからない中島がそのまま立ち尽くしてから早十数分

「…も…大丈夫か?;」

おそるおそる中島がヨシコに声をかけた

「…大丈夫じゃないわ…」

くぐもった声でヨシコが返した

「…もうすぐ待ち合わせの時間だけど…」

中島が京助達と落ち合う約束を思いだして言う

「…行けばいいじゃない…私も後から行くわ…そうだから先に行っていいわ」

ヨシコが小さく言うと中島がヨシコの隣に腰を下ろした

「…いけるわけねぇじゃん…」

中島が言う

「…なんでよ」

少しだけ顔をあげたヨシコが聞いた

「お前方向音痴だし」

中島が答えるとヨシコが顔を上げた

「な…!」

「それに」

怒鳴ろうとしたヨシコの言葉が中島の付け加えの言葉で止められた

「…それに…泣いてるヤツ放っておけるか…」

そっぽを向いた中島が小さく言う

「もう泣いてないわ…っ!」

ヨシコが鼻を啜って強がった

「目腫れてるし」

中島がチラッとヨシコを見て言うとヨシコが目を押さえた

「こんな腫れすぐ引くわ!! そうよ! すぐ追いつくから先行ってもいいわ!!!

顔を赤くしたヨシコが怒鳴った

「…そんなに嫌か俺といるの」

中島が溜息をつきながら立ち上がった

「だってムカつくわ! 今だってモヤモヤしてるもの!! そうしてるのッ!!」

ヨシコが赤い目のまま中島を見上げて怒鳴ると中島がヨシコに背を向けた

「そうよ…早く行っていいわ…」

歩き出した中島の背中から目をそらしてヨシコが呟いた

「…可愛くないわ…」

一人膝を抱えたヨシコが出店の最終である綿飴屋の影で呟いた

「私も蜜柑みたく可愛かったら…りゅー様は私と恋してくれたのかしら…」

ザリ…っと地面を足でこすってヨシコが空を見上げた

「…私だって…」

そしてそのまま目を閉じたヨシコの目じりからまたあふれ出そうとした涙が冷たい何かで止められた

「な…に!?;」

驚いたヨシコが目を開けてついでに身を避けた

「目冷やせ」

赤色のシロップがかかったカキ氷を差し出した中島がしゃがんでヨシコと目線を合わせて言った

「…ゆー…」

「そしてその呼び方はやめろ;」

早く持てというカンジにカキ氷を動かした中島が言う

「…行ったんじゃなかったの?」

差し出されたカキ氷を両手でおそるおそる受け取りながらヨシコが中島に聞いた

「別に…」

中島が小さく答えた

「目冷やした後食えよ」

中島がカキ氷を指差して言いながら立ち上がった

「…ガラパン見えてるんだけど…;」

立ち上がった中島のズボンをヨシコが掴んだ

「…い…」

「い?」

ヨシコがうつむいたまま一言を言うと中島がソレを繰り返した

「…いかないで…」

いつもの強気な顔ではなく弱気でまた今にも泣き出しそうな顔でヨシコが中島を見上げて言った

「……」

そしてゆっくり手を離すとヨシコがまた俯く

「行けっていったりいくなっていったり…面倒くさい女」

「悪か…」

怒鳴ろうと顔を上げたヨシコの隣に中島が腰を下ろした

「置いていって迷子になったらまた…面倒くさいからいてやる」

顔を背けたまま中島が言う

「…いてくれるの…?」

ヨシコが中島の肩を揺すって聞いた

「ソレ食い終わったら行くぞ」

そういった中島の耳は少し赤かった


「あっ; ほら切れたじゃないですかッ!!;」

紺色のTシャツに着替えても変わらない頭のピョン毛の乾闥婆けんだっぱが言った

「馬ッ鹿だなぁ…こう…くぃっと…ホラ」

横から京助が手を出してヒョイとヨーヨーを釣り上げた

「僕も切れたんだけど」

乾闥婆けんだっぱの逆隣で白い七分のシャツを着た矜羯羅こんがらが針が取れて紐だけになったものを京助に見せた

「ヘタクソ~」

ソレを見て南が笑う

「…タカちゃんタカちゃん…入れたら上げないと; 紐まで水吸って溶けてる溶けてる;」

中島が言うとシャツにタンクトップを重ねた服装の制多迦せいたかがヘラリ笑った

「ココの位置で斜めに入れると…うりゃ二個!!」

阿修羅あしゅらが二個同時に釣り上げた

「おおおおお!!」

見ていたギャラリーから歓声が起こった

「入れる角度と重さを計算してソレにオライの釣り上げる速度と…」

「ハイハイハイハイハイハイ~;」

阿修羅あしゅらが物理的説明を始めると京助と3馬鹿が声を揃えてソレを止めた


ピョルフィルル~

ピョロピュリル~

「…気の抜ける音だっちゃ…;」

迦楼羅かるらと悠助が同時に吹いた三本の紙がピロ~っと延びる笛の音を聞いた緊那羅きんならが苦笑いで言う

「…変わった笛だな」

濃い緑色に白で渦巻きが書かれた甚平を着て後ろの髪を上げた迦楼羅かるらが笛を見て言った

「それかるらんにあげるね」

悠助が笑顔で迦楼羅かるらに言う

「…いいのか?」

どことなく嬉しそうに迦楼羅かるらが聞く

「うん!」

頷いた悠助がまた笛を吹いた

迦楼羅かるらずるいッ」

慧喜えきがぷく~っと膨れて言う

「ずるいといわれても…;」

迦楼羅かるら慧喜えきを見る

「またクジ引いて当たったら慧喜えきにも上げる~」

そんな慧喜えきを見上げて悠助が笑った


吉祥きっしょう

「えっ;」

わいわいしている京助達の群れから少し離れた所にいたヨシコに乾闥婆けんだっぱが声をかけた

「浮かない顔をしていますが…」

乾闥婆けんだっぱが言う

「そう? そうかしら…なんでもない…そう何でもないの…」

そう言ってヨシコが乾闥婆けんだっぱに苦笑いを向ける

「ムカつくの…」

ヨシコが手の中にある中身のなくなった紙コップを見て言った

「凄く凄くムカつくの…」

ヨシコが言う

「何にですか…」

乾闥婆けんだっぱが溜息をついた

「泣き顔見られたの…側にいてくれたの…優しくされて嬉しいのにムカつくのよ…」

ヨシコが紙コップを撫でた

乾闥婆けんだっぱ…私…蜜柑になりたいわ…」

ヨシコが小さく言った

「貴方は吉祥きっしょうです」

乾闥婆けんだっぱがキッパリ言い切った

「…そう…よね…私は吉祥きっしょう…」

ヨシコが紙コップに頭をつけた

「コッチにきても吉祥きっしょう吉祥きっしょう…肩書きがないだけで吉祥きっしょうだってことは変わらないわ…そう…わかってるの…それはわかってるの…でも私…蜜柑になりたい」

ヨシコが言った

「…コレはある人の受け売りなのですが…」

乾闥婆けんだっぱが言うとヨシコが乾闥婆けんだっぱを見た

「理想というのは理想…理想に近づくのはいいがソレ相応に失うこともある…」

乾闥婆けんだっぱがヨシコを見て言った

「…どういう意味…?」

ヨシコが聞き返す

「…簡単に言いますと…今の吉祥を好いている人が…吉祥きっしょうが蜜柑さんという人物に近づけば今まで通りに吉祥きっしょうを好いてくれるかはわからない…ということです」

乾闥婆けんだっぱが答えた

「今の私…」

ヨシコが自分の手を見た

「ねぇ…乾闥婆けんだっぱ…私…」

「なんです?」

手を握り締めたヨシコが顔を上げた

「…何でもないわ…」

今だヨーヨーの屋台でワイワイやっている群れを見てヨシコが微かに笑った


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