【第八回】お祭りマンボゥ
ヨサコイの準備のためにあつまった正月中の生徒達
まさか思いも寄らない出来事がまっていたとは
「財布よ~し!」
南が黒い自分の財布をイソイソと鞄の中に入れた
「着替えよ~し!」
坂田が黒いタンクトップと黒い短パン姿で腰に手を当てて言う
「胃袋よ~し!!」
京助が腹を一回叩いて言う
「遊ぶ気やる気よ~しッ!!」
中島が腕を上げて言った
「じゃ出発!」
夕方午後五時栄野家の玄関前で3馬鹿と京助がたむろっていた
「緊那羅は?」
ふと坂田が言った
「ラムちゃ----------ん! おいていくよ---------?」
南が家に向かって叫ぶとバタバタという足音が聞こえてガラッと戸が開いた
「ごめんだっちゃ;」
緊那羅が苦笑いで戸を閉めた
「あれ~京助もう行くの?」
お神酒用の一升瓶を持った慧喜と共に悠助が境内から歩いてきた
「おうよ」
京助が返事をする
「ちょっと待って僕も行きたい~」
悠助が言う
「じゃ速攻準備して来い」
「はぁいっ!」
中島が笑いながら言うと悠助が慧喜の手を引いて家の中に入っていった
「遅い;」
かれこれもう30分は待っているであろうまだ出てこない慧喜と悠助を3馬鹿と京助と緊那羅はしゃがんだり即席ゲームをしたりして待った
「…ちょっとみてく…」
ガラッ
様子を見てこようと立ち上がった緊那羅が戸の開く音に顔を上げた
「おおおお!!」
坂田が声を上げた
「可愛い可愛い!!」
南が立ち上がって拍手をする
「浴衣カァ…祭りだナァ」
京助が口の端を上げて言った
「僕は甚平~!!」
白地にアザミ模様の浴衣を着た慧喜の後ろから紺色の甚平を着た悠助が顔を出した
「悠助可愛い」
慧喜が悠助を抱きしめる
「いや慧喜ッちゃんも可愛いよ」
南が笑う
「ソレ着てたから遅かったんだっちゃね」
緊那羅が言った
「ハルミママ様が女の子は浴衣着ないとって」
慧喜が帯を軽く叩きながら言う
「少し苦しいけど…」
帯の間に指を入れながら慧喜が息を吐いた
「慧喜似合うよ~可愛い~」
悠助が満面の笑みで言うと顔を赤くした慧喜が嬉しそうに微笑んだ
「じゃ行くか~…慧喜と悠離れるなよ? 緊那羅も」
京助が歩き出す
「人多そうだしねぇ?」
南が言う
「本当; 毎年何処にこんなにいたんだっちゅーくらい湧いてくるしな」
中島が肩に袋をかけて言った
「そういや…最近アイツ等こないな」
坂田がボソッと言う
「…そういえば…」
京助が言う
「今日あたり来るんじゃねぇの? 祭りだし」
中島が頭の後ろで手を組んで言った
「なんったって暇らしいからね」
南が言うと3馬鹿と京助がハッハと笑い緊那羅も苦笑いをした
「待つんだやな!!」
コマの声がして一同が振り返った
「ゴ等もついていくんだやな」
イヌが京助の足元まで駆けてきた
「何?; お前等もくんのか?」
京助がしゃがんでイヌに言う
「…嫌な予感がするんだやな」
コマが尻尾をピンッと立てて言った
「…嫌な予感?」
緊那羅が眉をしかめた
「…コレから祭りではっちゃけようって時にこんなシリアスいや~ん;」
南が苦笑いで言う
「まぁ…ついてきたいなら…別にいいけど」
京助が溜息を吐きながら立ち上がった
「栄野の前後は我等が守るんだやな」
いつもの無邪気な笑顔から一転真顔でイヌが言った
「悠助は俺が守る」
慧喜が悠助を抱きしめた
「ってかさ…そろそろ行かねぇ? 集合7時じゃなかったか?」
坂田が携帯の画面を見せて言う
「…うっわ; ヤッベェ!!;」
携帯の画面に表示されている時刻は午後5時47分
「まだ時間あるじゃない」
慧喜が悠助を抱きしめたまま言った
「何を言う!! 祭りだぞ! 夜宮だぞ! 遊ぶ時間が欲しいだろう!!」
中島が胸を張って言うと京助と坂田、南も頷く
「踊る前にチョコっと型抜きとかヨーヨー釣りとかすんのがまた味があっていいんだよねぇ」
南がヨーヨー釣りの手真似をしながら笑った
「ってことで出発!!」
京助が走り出した
「レッツらゴゥ!!」
坂田が手を上げて京助に続いた
「まぁ~つりだ祭りだ祭りだ~♪」
南が北島三郎の有名な曲を口ずさみながら中島と共に石段を降りていく
「…一応注意はしたんだやな」
コマが駆け出すとイヌもソレに続く
「慧喜…」
緊那羅が慧喜を見た
「わかってる」
慧喜が悠助の手をしっかりと握った
「慧喜?」
悠助がきょとんとした顔で慧喜を見上げると慧喜が目を細めた笑顔を向ける
「俺は悠助を守るよ」
そしてそのまま慧喜は悠助の額に口付けた
石垣には正月町に5つある小学校の生徒が書いた書道や絵画が飾られその下には名前が張られている
神社の本殿に続く石畳には吊るされた寄贈者の名前が書かれた桃色の提灯が薄暗い中ぼやっという光を放っている
鳥居には真新しい注連飾りが飾られ神社前には本祭り当日に担がれる御輿が三台置かれその前には魚や果物、お菓子などのお供え物がされていた
天狗行列に使われる旗が通路に立てられ風にハタハタとなびいている
神社の社務所からは祭り実行委員のオッサンの酔っ払った笑い声が聞こえ取り付けられたスピーカーからは演歌がひっきりなしに流れている
「京助の家より大きいっちゃね」
緊那羅が本殿を見て言った
「まぁなぁ~こっちが本家というか…まぁ神社にもなんだか神社の神社による神社のなんたらがあるっぽいしな」
京助が言う
「何だっちゃそれ;」
緊那羅が呆れ顔をして言った
「慧喜と同じ格好してる人結構いるっちゃね」
行き交う人の中に浴衣を着ている人を見かけて緊那羅が言う
「祭りといえば浴衣でしょう」
坂田が言った
「でも慧喜が一番可愛いね~」
悠助が笑顔で言う
「その浴衣はハルミママさんの浴衣なんだやな」
「何!?」
イヌが言うと坂田が異常な反応をして慧喜を見た
「京助がまだちっこい時にその浴衣着て主と一緒に祭りに行ってたんだやな」
コマも慧喜を見上げた
「主って…京助パパン?」
南がコマに聞く
「そうなんだやな」
イヌが頷く
「久しぶりにこの浴衣見たんだやな」
イヌが尻尾を振った
「主がいなくなってからハルミママさん着てなかったんだやな」
コマが言うと慧喜が浴衣の袖を持ってまじまじと浴衣を見た
「ハルミママも似合ってたんだろうね~」
悠助が笑って言う
「当たり前だ悠!」
坂田が強く言った
「ハルミさん慧喜ッちゃんのこと本当の娘ってしてるのかもねぇ…そんな大事な浴衣着せたってことは…すげぇ状態いいしねコレ。保存法がよかったんだね~全然色あせてないもん」
南が浴衣を見て言う
「娘…」
慧喜が浴衣の袖の匂いを嗅いだ
「ハルミママ様の匂いがする」
慧喜が呟く
「俺にも!!」
坂田が真顔で慧喜に言うと中島がスパンと坂田の頭を叩いた
「いるいるいる~…; 本当何処から湧いて出たんだ人々よ…;」
石垣の上から人の波を見下ろして坂田が言った
「今年もお前んトコ協力してるのか?」
京助が坂田に聞いた
「ああ…まぁ…爺ィの代からずっとしてるみたいだし?」
坂田が石垣に取り付けられている手摺に寄りかかりながら答えた
「お!! 噂をすれば…しっばたさ--------------------------んッ!!」
南が人の波の中に見かけた柴田に向かって呼びかけた途端 緊那羅の表情が変わる
「…お前本当柴田さん嫌ってんなぁ;」
京助がそんな緊那羅を見て言う
「大ッ嫌いだっちゃッ! …京助はどうして怪我させられたのに嫌わないんだっちゃッ!」
緊那羅が京助に言った
「怪我? …あ~…あン時のか?」
京助が自分の腹をさすった
「じゃ俺も聞くけど…なんでお前は柴田さん嫌ってるわけ?」
今度は京助が緊那羅に聞いた
「だって京助を…」
「俺のせいか」
言いかけた緊那羅の言葉が京助の言葉で止められた
「俺がなんだ…怪我とかしなきゃお前は柴田さん嫌ってなかったんだな」
京助が頭を掻きながら言う
「ごめんな」
そして苦笑いを交えて謝る
「な…んで京助…!!」
「若!」
柴田の声がすると緊那羅が一歩下がった
「ばんわ~柴田さん今年も似合ってるぅ!」
腕に【正月町祭り警備委員】と書かれた腕章をした柴田が坂田組と書かれた半被を着てやってきた
「緊那羅君も今晩は」
柴田が笑顔を緊那羅に向けると緊那羅は京助の後ろに隠れるようにして逃げた
「ははは; まだ嫌われてるんだね俺は」
柴田が苦笑いをする
「ご苦労さん柴田」
坂田が柴田の肩に手をかけて言った
「踊りは七時半からでしたっけ? 今年も楽しみにしてますよ姐さんも…あ今年から組長も」
柴田が笑いながら言う
「お前の親父さんがこんな人がごっちゃりいるところに出てくるなんて珍しいな」
中島が坂田に言う
「どうせ母さんに無理やり引っ張ってこられたんだろうさ;」
坂田が口の端を上げてヘッと笑った
「何も起こらないといいんだけどねぇ?」
南が不吉なことを笑いながら言った
「慧喜?」
悠助が慧喜に浴衣の袖を引っ張った
「え…あ…何? 悠助」
ハッとして慧喜が悠助に笑顔を向けた
「どうしたの? 」
不安そうな顔で悠助が慧喜を見上げた
「なんでも…なんでもないよ? ちょっと…考え事…」
慧喜が顔を上げて3馬鹿と京助の方を見た
「…まさか…ね」
そう呟くとにっこり笑って悠助の手を握った
「じゃぁ俺は持ち場に戻ります皆頑張って」
柴田が坂田の頭を撫でて背中を向けた
「コルァ柴田!; 子ども扱いすんなってんだろが!!;」
坂田が柴田に向かって怒鳴ると柴田が手をヒラヒラ振った
「よちよちみちゅるくんいいこでちゅね~」
京助が坂田の頭を撫でながらからかう
「やめい!;」
坂田が京助の手を払いのけて怒鳴った
「いけまちぇんよ~ホ~ラいい子いい子」
南が京助とは反対側から坂田の頭を撫でた
「坂田赤ちゃんみたい~」
悠助が笑いながら言う
「どぉ~れ高い高い~」
中島が坂田を持ち上げた
「ワッショイワッショイ」
中島に持ち上げられた坂田の足を京助が持って人間タンカをし始めた
「やめいっつーの!!; ゲハッ!; コラ!! 悠!! 乗っかるな!;」
その坂田の上に悠助がよじ登ってきた
「出発~!!」
そして神社本殿を指差して悠助が掛け声をかけると京助と中島が坂田を人間タンカしたまま歩き出す
「ホラ! ラムちゃん置いていかれる! 乗り遅れる!!」
「えっ!; あ…うんっ!;」
南が緊那羅を手招きしながら駆け出すと緊那羅も駆け出した
「おーろーせーッ!!;」
坂田が悠助を落ちないように支えつつも抗議の声を上げる
「義兄様俺ものっていい?」
「アカン!!;」
慧喜が京助に聞くと坂田が間髪いれずに怒鳴った
本殿前にチラホラ見える正月中学校の生徒らしき男子群の集まりの中から誰かが駆け寄ってきた
「ラッムちゃんッ!!」
緊那羅の名前を呼びながら浜本が手を振った
「遅かったじゃん」
もう半纏を着たハルがミヨコと共に浜本の後をついてやってきた
「ミヨも浴衣着てくればよかった~可愛い~ぃ」
ミヨが慧喜の浴衣を見て溜息混じりに言った
「お前等やけに早いじゃん」
ようやく坂田の足を離した京助が浜本とハルに言う
「なんだか体が勝手にあああああ! ってカンジでさぁ…」
浜本が足踏みをしながら言った
「わかるわかる!! こう…何かキュンキュンすんだよな!」
坂田が浜本と同じく足踏みをして言う
「そうそう! 何だかムズムズってカンジもあるキュンキュン!」
南も同じく
「コレこそ祭りパワー!! キュン!!」
京助が自分の体を抱きしめて言った
「僕も~」
悠助も足踏みをして笑う
「いくつになっても祭りは楽しいもんだ」
中島が妙に年寄りくさいことを言った
「俺等まだ中学生ですよ中島さん」
そんな中島に京助が裏手で突っ込む
「お前等早く半纏持って来いよ。灯篭の下に鳴子と一緒にまとめて置いてあるから」
境内の方からやってきた半纏を来た男子生徒が京助たちにそう言って騒がしい出店の立ち並ぶ方向へ向かっていった
「そうだそうだ!; 半纏半纏!!」
南がパンッと手を叩いて言った
「鳴子鳴子!」
中島も同じく手を叩いてまとめて置いてあるという灯篭を探した
「ヨサコイメイクもあんだぞ?」
そう言って浜本が自分の顔を指差した
「優子ちゃんが境内の方でしてくれるからついでに行ってこい?」
ハルが言う
「了解~悠と慧喜はちょっとここで待ってな」
京助が悠助の頭を撫でて言う
「僕も化粧したい~…」
チラッと上目で悠助が京助を見た
「してくれるんじゃねぇ?化粧くらい…いいじゃん行ってこいよ悠」
浜本が鳴子をポケットに入れながら言う
「本当!?」
悠助が目をキラキラさせて浜本を見た
「そんなどっかの厚塗り壁造りマダムみたいなレベルの化粧じゃないんだし…まぁ頼んでみよっか」
南が言う
「わーいっ!!」
悠助が嬉しそうに万歳をする
「じゃいくか…遊ぶ時間本当になくなっちまう;」
坂田が境内の画面を見てそれから携帯を閉じて歩き出した
「…来るんだやな」
「あ?」
ふいに聞こえたコマの声に京助が振り返った
「ってか来てるんだやな…」
イヌが威嚇のポーズをし始める
「おッ!; なんだお前コマイヌコンビまで連れて来たのか~?」
浜本がしゃがんでコマを撫でようと手を伸ばした
「ワンッ!!」
「うおおお!;」
コマが大きく吼えたせいで浜本が後ろに尻餅をついた
「なしたよコマ;」
京助も驚いた顔でコマを見た
「ワンッ!! ワンッ!!」
コマだけではなくイヌまでもが威嚇ポーズで吠え出す
「どうしたの? コマもイヌも…」
悠助が不安そうな困ったような顔で慧喜の浴衣の裾を掴みながら言う
「尋常じゃない吼え方じゃない?;」
南が苦笑いで言った
「…一体なんなんだ?;」
吼え続けるコマとイヌの声を聞いた生徒達が集まりだす
「…緊那羅…」
慧喜が悠助を抱き寄せて緊那羅に呼びかけた
「…うん…凄く嫌な感じがするっちゃ」
緊那羅の顔が険しくなる
「上なんだやな!!!」
イヌが叫んだ
ヒュルルルルルル~…ドッパラパラララ…
「うわぁ~…」
悠助が見上げた空に咲いたのは大輪の花
「…花火やん;」
坂田がボソッと言った
「なんだ~お前等花火怖かったのか~ハッハッハ」
浜本が笑ながら立ち上がった
「違う…」
慧喜が足を肩幅に開いて構えの姿勢をする
「…来たんだやなッ!!」
「!?; 今イヌがしゃべ…!!」
イヌが浜本に体当たりして後ろに倒すとそのままゴへと姿を変えた
「下がってッ!!」
緊那羅の声にわけがわからずただ立ち尽くす3馬鹿や京助そしてその他正月中の生徒
「悠助ッ!!」
慧喜が悠助を抱えて跳ぶと今まで慧喜と悠助のいた場所にカツ----------ンと音を立てて何かが落ちた
「…玉…?」
南がボソッと呟いた
「…若…?」
柴田が空を見上げた
「柴田さん!!組長が…どうしやした?」
人にぶつかられながらもただ空を見上げている柴田を見た若い組員が不思議そうな顔で声をかけた
「……いや…なんでもない…」
そう言いながらも柴田は空から顔を逸らさない
「花火っスか? 今年は本数も増えてるみたいですよ」
先ほどから上がり始めた花火を見て若い組員が笑ながら言う
「…そうか…」
上がる花火に照らされながらも柴田は空を見ていた
「玉…だよな?」
京助が一歩その玉に近づいた
「京助!!」
緊那羅が京助を呼ぶ
「大丈夫だって; ただの玉っぽいし」
京助が緊那羅に向かって言った
「黒豆じゃないの? 黒豆ココアイソフレボンジュ~ル♪」
南も落ちてきた玉に近づいた
「離れるんだやな馬鹿ッ!!;」
「だぁッ!!;」「うおわッ!;」
くるっと一回宙返りしたコマがゼンへと姿を変えてそのまま京助と南の首根っこを掴んで放り投げた途端黒い玉が何もしていないのにふわりと宙に浮いた
「おおお!! 何だ何だ!?」
見ていた生徒達からざわめきが起き始める
「人を投げるなッ!!;」
思い切り尻から着地した京助が怒鳴る
「忠告を聞かないからなんだやなッ!!」
ゴがゼンの隣で京助に言った
「だからって…ッ!;」
「何だッ!?;」
再び怒鳴り返そうとした京助の声が誰かの声で止められふと玉の方を見ると玉からドロドロとした物体が大量に流れ出てきていた
「うっわキッショッ!;」
中島が鳥肌を立てた
「逃げてッ!!」
いつの間にか両手に武器笛を持った緊那羅が叫ぶと生徒達が顔を見合わせた後小走り、駆け出し、本気走りで散っていく
「京助達も早く逃げるっちゃッ!!」
武器笛を構えて緊那羅が言う
「いてッ!!;」
先頭を切って駆け出した男子生徒が何かに弾かれた様に尻餅をついた
「何だこれ…カベ?;」
数人の生徒がまるでパントマイムの様に宙をぺたぺたと触っている
「…結界…!!」
緊那羅が顔をしかめた
「結構やりそうなんだやな…どろろっちょ」
ゼンが一歩足を引いて構える
「倒すしかないみたいなんだやな」
ゴがゼンと同じく一歩足を引いて構える
「そう…みたいだっちゃね」
武器笛に息を吹き込み一瞬にして摩訶不思議服姿になった緊那羅がまっすぐ黒い玉から生まれ出た黒くドロドロした物体を見た
「さぁ…どうなるかな?」
花火が咲く夜空に浮んだ白い布が花火の光で七色に輝いて見える
その白い布の間から覗いた口元には微かな笑みが浮んでいた
黒い玉から生まれた物体は本殿境内前の鳥居を遥かに超える高さ、大きさまでになった
「な…んなんだ…;」
今目の前で起きていることが自分達の今まで見てきた育ってきた体験してきた物事からはかけ離れ過ぎているせいなのか【結界】らしき空間に閉じ込められたらしい生徒達はただ呆然、漠然として立ち尽くしている
「何かの出し物…だよな?」
一人の生徒が呟いた
「祭りだもんな…そうだよな」
誰かに同意を求めるように生徒が言う
「そう…だ! 出し物だ! 出し物ッ!!」
不安をかき消すかのように誰かが大声で言った
『ギュィィィイイイイイイ!!!!!』
その途端黒い玉から生まれた物体が鳴き声とも取れなくはない声を上げた
「い…いやぁああぁぁああああ!!」
糸が切れたかのようにミヨコが悲鳴に近い声をあげハルにしがみつく
「悠助には近づけさせない…ッ!!」
浴衣のままその物体よりも高く飛び上がった慧喜が宙返りをすると浴衣が一瞬で摩訶不思議服に変わり手には大きな三又の鉤が握られていた
「はぁッ!!」
そしてそのまま鋭い鉤をその物体に向け振り下ろす
「慧喜!!」
悠助が叫んだ
「ゴ等はとりあえず…」
ゴが結界の壁に沿ってざわめきだした生徒達を見た
「アイツ等を守るんだやな」
ゼンが駆け出すとゴもそれに続く
「コレもお前等の仲間か?;」
打った尻がまだ痛むのか尻をさすりながら京助が緊那羅に聞いた
「違うっちゃッ!; 下がってるっちゃ京助!!」
緊那羅が声を上げて京助に言う
ズジャ---------------------------ッ
という音がして慧喜が地面に着地し体制をすぐさま整え玉から生まれた物体を見上げた
「やった!?」
慧喜の鉤によって深く切り裂かれた物体を見上げて慧喜が声を上げる
『キョウ…ユウ…』
ゴポゴポと何かが湧き出るような音と共に聞こえたその声はおそらくその物体が発したもので
「もしかして…御指名はいっちゃってません?; 京助君…」
坂田が京助に言った
「俺ってばもててもててでまぁ…;」
京助が微かながらも後ずさった
「悠も…みたいだったけど」
南が引きつった笑顔で言う
『ギュイィイイイイイイ!!!!!!』
さっきと同じような鳴き声を上げた物体から黒い触手の様な物が数本生まれ勢いよく地面を走り出した
「うわぁあああッ!!!;」「きゃぁあッ!!」「ギャ-------------!!;」
無差別に走るその触手の様な物を見て生徒達が声を上げた
「起・承!!」
ゼンが叫んだ
「転・結!!」
ゴが続いて叫ぶとゼンゴの両手が光り始めた
「連結界!!」
生徒の群れを囲うようにゼンゴが走り出した
「発!!」
反対側で出会ったゼンゴがパンッと手を合わせるとゼンゴが走った後に赤と青の光の帯ができた
「きた--------------ッ!!;」
青と赤の光の壁の向こうに迫った黒い触手の様な物を見て生徒が声を上げる
「イヤだ-----------------------ッ!!;」
さまざまな泣き声とも取れる生徒達の叫びがし始める
バチィィッ!!!
その音と共に生徒達の泣き叫び声が治まった
「成功なんだやな」
ゼンがニ-っと笑みを浮かべた
「コノ中にいればたぶん安全なんだやな」
ゴが呆然として半べそをかいている一番前の生徒に笑いかけた
「悠助!!」
慧喜が悠助の前に立ち鉤で走ってきた触手を切り裂いた
「え…き…」
震えてはいないでも笑っても泣いてもいない悠助が慧喜の名前を呼んだ
「大丈夫…守るよ…」
そんな悠助を背に庇いながらまたも迫ってきた触手を慧喜は睨んだ
「でぇえええええええええ--------------ぃッ!!;」
ゼンゴの結界にうっかり (?)入り忘れた (入れ忘れられた?)京助と3馬鹿が全力疾走で無差別多方向から走ってくる触手から逃げている
「だから下がってっていったじゃないっちゃかっ!!;」
触手を武器笛で叩きながら緊那羅も京助達と並んで走っていた
「ギャー!!; 緊那羅コッチからキタ-----------------!!;」
中島が叫ぶ
「だ----------もうッ!!; アンタ等本当馬鹿だっちゃ-----------ッ!!;」
中島に迫っていた触手を叩きながら緊那羅が叫んだ
「…なんだか…運動会で競技を傍観しているおとーさんおかーさんの気分…」
ゼンゴの結界の中で浜本が呟いた
「お…俺もう…;」
南がゼーゼーいいながらぱたりと倒れた
「ギャー!! 南!!; しっかりしろ!!! 根性見せろ------------!!;」
そんな南を引っ張り起こして京助が引きずりながら走る
「今死んだらお前!! ありすとの甘い生活はどうなるんだッ!!; お前が30の時ありすは21だろ!?; ピッチピチなんだろうがッ!!;」
京助とは反対側を引っ張って坂田が南に叫んだ
「うふふふふ…パトラッシュ…僕はもう疲れたよ…」
ヒューヒュー息をさせながら南がほくそえんだ
「だ--------------!!; 来てる来てるッ!!;」
中島が南の足を持って走ると京助、坂田の速度も上がった
「ゼンゴ! 京助達にも結界をッ!!;」
後ろ向きで迫ってくる触手を叩きながら緊那羅がゼンゴに向かって叫んだ
「無理なんだやな」
ゼンがキッパリと言った
「もともとあんまり力蓄えてなかったもんだからコレ保ってるので精一杯なんだやな」
ゴがウンウンと頷いた
「あのばかでっかい力もったヤツがいればもうちょっと頑張れたんだやな」
ゼンが同じくウンウン頷きながら言う
「何でこういう時にこねぇんだアイツらは-------------------ッ!!;」
京助が叫んだ
「!!; 義兄様危ないからこっちこないでッ!!;」
目の前に迫って来ている触手に鉤を振り上げながら慧喜が横から向かってくる京助達に叫んだ
「無理ぬかせ-----------ッ!!;」
坂田が叫ぶ
「ッ----------------------------!!」
慧喜が鉤を放り投げて悠助を抱きしめた
「慧喜!!」
バシィイ!!!!
慧喜の体が数メートル吹っ飛んでゼンゴの結界のすぐそばに落ちた
「慧喜!! 慧喜ってばッ!;」
ミヨコが生徒を掻き分けて一番前まで来ると慧喜の名前を呼ぶ
「オイッ!;」
「大丈夫かっ!?;」
ミヨコにつられたのかなんなのか生徒達の中からも慧喜に声をかけるものが出始めた
「慧喜…?」
慧喜の腕の中に守られた悠助が慧喜の名前を呼んだ
「慧喜!!」
緊那羅が慧喜に呼びかける
「ラムちゃん前!!;」
浜本が叫んだ
「え…ッ!?」
「だッ!!;」
ヒュンと緊那羅の前を触手が通り京助の足に絡みつき京助がコケた
「だぁッ!!;」
「なぁッ!!;」
「ギャー! 重いッ!;」
京助がコケたせいで3馬鹿も次々と倒れ南が中島の下敷きとなって声を上げる
『…ト…キ…』
ゴポゴポさせながらまた言葉らしき声をだした物体を京助が見上げた
「っ…;」
「京助!!」
緊那羅が京助に駆け寄り京助の足に絡みついた触手のようなものに手を伸ばした
「いっつ~…; …!! 緊那羅ッ!!;」
中島が緊那羅の名前を叫ぶのと京助の目の前から緊那羅が一瞬で消えたのはほぼ同時だった
「ラムちゃんッ!!;」
土埃が京助の視界を遮り聞こえたのはズシャっという何かが落ちるような音と緊那羅の名前を呼ぶ3馬鹿の声
「っ…きしょ; 放せッ!!」
自分の足に絡み付いている触手をはずそうと京助が奮闘する
「ぅ…」
3馬鹿の声がやかましいほど届いたのか吹き飛ばされた緊那羅が身を起こした
「痛ぇって! もげるって!!;」
京助の声が響く
「我慢しなさいッ!; 足の一本や二本!!」
中島が京助の上半身を引っ張りながら言う
「そうそう! チンコ取られるわけじゃなし…っ!」
南が触手に手をかけ引っぺがそうとしながら言う
「死ぬよりマシだろがッ!!;」
坂田も南と共に触手を引っ張っている
「おわッ!!;」
「京助!!;」
触手がいきなり京助の足を引っ張った
「ギャ----------------!!;」
京助が3馬鹿にしがみついた
「京助ッ!!;」
緊那羅がバッと立ち上がり走り出した
「キャー!; キャトルミューテーショーン!!;」
南が京助を引っ張りながら言う
「いて-----------------ッ!!;」
綱引きの綱、もしくはバーゲンセールで主婦に両方から引っ張られるブランド品の様になりながら京助が叫ぶ
「オーエス! オーエス!!」
ゼンゴの結界の中から浜本がコールを送り始めると生徒達が浜本に続き声を出し始めそれが大合唱のようになった
「京助!」
緊那羅が武器笛で触手を攻撃した
「ラムちゃん!! だいじょう…うぉああッ!?;」
「でぇえッ!!;」
触手が京助を3馬鹿をつけたままで空中へと持ち上げた
「重いッ!! 重いし痛ぇッ!!;」
3馬鹿をくっつけた京助が宙ぶらりんで喚く
『キョウ…』
だんだんと京助を持った触手が物体へと近づいていった
「お前等放れろ!; この高さからならせいぜい捻挫くらいで済む!!;」
宙ぶらりんで3馬鹿をぶら下げた京助が3馬鹿に言った
「やだねッ;」
坂田が必死で京助にしがみつきながら答えた
「はッ!?; 怖くねぇのかよッ!!;」
京助が怒鳴る
「怖いさ!! 怖くねぇっていったら鼻がM88星雲あたりまで伸びちゃうってッ!;」
今度は南が言った
「捻挫がそんなに嫌なのかッ!?; いいから放せってッ!!; このまんまじゃお前等も…ッ!!;」
間近に迫ってきた物体本体を京助がチラッと見ながら言う
「捻挫も嫌だしスッゲェ怖いけどなッ! お前に化けて出てこられる方がよっぽど怖ぇえんだよッ!!;」
中島が京助にしがみつきながらも足で触覚を何とかはずそうとしながら言った
「慧喜…ねぇ…慧喜?」
悠助がくたっとなったまま動かない慧喜の名前を呼んだ
「悠!! ねぇ慧喜の鼻ントコに手当ててみて!?」
ミヨコが悠助に言う
「息してる!?」
ミヨコに言われるがまま悠助が慧喜の鼻に手をそっと伸ばした
「…してる…」
悠助が泣きそうな顔でミヨコを見た
「よかったぁ~…; 気ぃ失ってるだけなんだ…」
ミヨコがほっとして胸をなでおろした
『ユウ…』
ゴポッという音と共に聞こえた悠助の名前
「悠!! 逃げろッ!!;」
京助が悠助に向かって叫んだ
「いやだ…」
悠助が動かない慧喜の手を握りながら呟いた
「いやだッ!!」
そして今度は大きな声で叫んだ
「悠!?;」
めったに大声を出さない悠助が大声を出したことに3馬鹿と京助他の生徒が少し驚いている
「悠助…」
緊那羅が物体のすぐ側から悠助を見た
「慧喜は僕を守ってくれたんだもん!! 今度は僕が慧喜を守るんだッ!!」
目に涙を溜めながら顔を上げた悠助が立ち上がり物体をキッと睨んだ
「おお…漢の顔だ…」
坂田がぼそっと呟いた
「うぉい悠!!; よけろッ!!;」
再び地面を走り出した触手が悠助を目指す
「悠助!!」
緊那羅が駆け出し悠助の前で武器笛を交差させた
「緊ちゃん!」
ズザザザザザザ--------------------
交差させた武器笛で触手と居切合いをしている緊那羅を悠助が見上げた
「は…やく慧喜を連れて…ッ;」
押されている緊那羅が悠助に言う
「う…んッ;」
悠助が慧喜の体を引きずって緊那羅から放れる
「悠助!! こっちなんだやなッ!」
ゼンが悠助を手招きする
「結界は張れないけど守ることはできるんだやな」
ゴが足を一歩引いて構えた
「栄野の前後は我等が守る!」
同じく足を一歩引いたゼンと共にゴが叫んだ
「オイコラ!!; 俺ン時はどうした!! 俺ン時はッ!!;」
そんなゼンゴに京助が突っ込む
「面白かったからみてたんだやな」
ゴが構えながらさらっと言った
「正直に生きてるナァ…;」
中島がヘッと笑ながらボソッと言う
「ッ…;」
慧喜と悠助が無事ゼンゴの後ろに回ったのを見て緊那羅が側転をして触手から逃げるとその触手が今度は躊躇うことなくゼンゴの方向へと向きを変えた
「行ったぞ--ッ!!;」
坂田が京助によじ登りながら言う
「いでっ!; 坂田お前ソコ大事なところ膝で踏んでるってッ!!;」
京助が怒鳴る
「ああ…まぁ…落ち着け? な?」
そんな京助にハッハとエセっぽい爽やかな笑顔で坂田が言った
「悠助は任せたっちゃッ!!」
「オッケイなんだやなッ!!」
「任されたんだやなッ!!」
緊那羅が走りながらゼンゴに言うとふさふさの尻尾を立てて前後が触手を睨んだ
「緊那羅!;」
高く飛び上がった緊那羅が京助を掴んでいる触手の上に着地した
「ラムちゃーんッ;」
待ってましたというカンジで南が緊那羅を見上げた
「早く何とかしろッ!; じゃないと俺の息子が坂田に殺されるッ!!;」
右手をプルプルさせながら京助が坂田の膝から自分の大事なところを守りつつ緊那羅に言う
「…下と比べると緊張感が一気に薄れてるっちゃねココ」
緊那羅が団子になっている3馬鹿と京助を見てボソッと言った
「なんとかっても緊那羅の攻撃一時しか効いてなかったみたいじゃん?;どうすんだ?;」
中島が触手を足で突付いた
「そういやさぁ…ゲームでもこんなドロッドロした敵にゃ殴るとかの攻撃あんまり効かなかったよねぇ~…ラムちゃんの攻撃ってまさに殴ってますってのだし…」
南が緊那羅の手に握られている武器笛を見て言った
「じゃぁアカンやんッ!!;」
「ギャ-----------!!; 動くな坂田ッ!!;」
坂田が動くと京助が怒鳴った
「…私だってコレだけが武器ってワケじゃないっちゃ」
そういうと緊那羅が二本の武器笛のうちの左手に持っていた武器笛を腰に戻した
「…緊那羅?」
3馬鹿と京助に背を向け物体を見る緊那羅の名前を中島が呼ぶ
『キョウ…ユウ…』
物体がまた京助と悠助の名前を発すると緊那羅が武器笛に口をつけた
「ハッ!」
ゼンの着物の袖が翻りゴの爪が触手を切り裂いた
「やれ-----------ッ!!」
「いけいけッ!! そこだっ!!」
結界の中から生徒達の声援が巻き起こる
「慧喜…」
ゼンゴが触手を攻撃している場所から少し後ろに下がった場所で悠助が慧喜の頬に手を当てた
「大丈夫だよ悠」
そんな悠助にミヨコが笑いかける
「この子お前のこと大好きだっていってるしお前残していかねぇって」
背の高いハルが悠助を見下ろして言う
「うん…」
擦りむけた慧喜の頬の血を自分の甚平の裾でふき取るとソコに水滴がひとつ落ちた
「悠?」
浜本がしゃがんで結界越しに悠助の顔をのぞきこんだ
「僕が…僕がもうすこし強かったら…もう少し…っ」
白い布、ソコから見える口元が再び笑みを浮かべた
「…【来た】かな…?」
高らかに響いた緊那羅の笛の音
「何だ?;」
京助、そして京助にしがみついている3馬鹿、結界の中の生徒達が緊那羅を見る
「こんな時に笛なんか…」
坂田が言いかけたその時 緊那羅の周りに現れた5つの緑色の光
「ば…万国びっくりショー…」
南が呟く
「今更だろ;」
京助が口の端を上げて言った
「京助」
緊那羅が武器笛から口を離して京助の名前を呼んだ
「守るから」
突然名前を呼ばれてきょとんとしていた京助に緊那羅が振り返らずに言う
「…お…おう?;」
どもりながら京助が返事をした
「でも…捻挫くらいは許してほしいっちゃ」
そう言って振り返った緊那羅が苦笑いを3馬鹿に向けた
「…へ?;」
3馬鹿と京助がそろって声を上げると緊那羅が触手の上からまた飛び上がった
5つの光が楕円形になり多方向に向けて散らばる
「おおお!!;」
ソレを見ていた全員から声が上がった
『ギュィイイイイイイイイ!!』
緊那羅が放った光が物体を切り裂いていく
「何で早くやらなかったんだよ! そんな技もってんならさッ!!;」
中島が言った
「笛吹くヒマなかったんだっちゃッ!;」
「あ…なるほどね」
南が妙に納得したように言う
「すげぇ!!;」
「だから動く…」
スパッ
坂田がまた動いたことに怒鳴ろうとした京助が足に絡んでいた触手から力が抜けたことで怒鳴るのを途中で止めた
「…捻挫…くらいね;」
中島がほくそえんだ
「そういうことですか…;」
南が同じくほくそえんだ
「だ-----------------------------------------ッ!!;」
緊那羅の光が京助の足を掴んでいた触手を切ったらしく京助と3馬鹿がお約束のごとく落下を始めた
「ぅ…」
「慧喜!?」
微かに動いた慧喜のまつげを見て悠助が慧喜の名前を呼ぶ
「悠助……!! 怪我は!? どこも怪我してない!?」
慧喜が飛び起きて悠助の体を見る
「僕は…全然…でも慧喜…」
「よかった…」
言いかけた悠助の体を慧喜が抱きしめた
「俺は悠助が怪我してないなら大丈夫…」
悠助の手を取って慧喜が微笑んだ
「…悠…いい嫁さんもらったなぁ…チクショウ;」
浜本が口の端を上げて言った
「…アイツは!?」
慧喜が思い出したように物体の方向を見た
「…何してんだアイツ等…」
ハルがぼそっと呟いた
「…さぁ…」
ミヨコが答えた
「義兄様…馬鹿っぽい」
慧喜が顔を上げてみたのはいいだけ団子になってこんがらがってウゴウゴしている京助と3馬鹿
「見てないで助けんかいッ!!;」
坂田が怒鳴る
「…ッ;」
どうやら落下した時に誰かの何かが当たったのか中島が大事なところを抑えて振るえている
「重いッ!!;」
一番下敷きになっている京助が怒鳴った
「いや…だって出られないし」
結界内の一人の生徒が言うと生徒一同揃って頷く
「ギャー!; 南が白目むいてるッ!!;」
隣にいた南を見て坂田が叫ぶ
「早くバラけろバラけろ!;」
ウゴウゴ蠢きながらなんとか絡みを解除し南を人間タンカしつつ京助達が結界の側にやってきた
「悠助…ここにいて」
慧喜が悠助の肩に手を置いて立ち上がった
「慧喜…?」
悠助が慧喜を見上げた
「お前等悠助に怪我させたら毛皮にするからな」
ゼンゴを睨んで慧喜が言った
「…本当にしそうなんだやな;」
ゼンが呟いた
「慧喜; お前大丈夫なんか?;」
京助が南を下ろしながら慧喜に聞く
「俺はそんなにヤワじゃないよ義兄様…言ったでしょ? 俺は悠助の子供を産むって…」
慧喜が手を上げると投げ捨てたはずの鉤が現れた
「だから…大丈夫。…待ってて悠助」
泣きそうな顔で慧喜を見上げた悠助の頭を慧喜が笑顔で撫でた
「僕…僕は…僕も何かできないかな…ッ…僕だって慧喜を守りたいよ…っ」
悠助が慧喜に抱きついた
「…悠…」
白目をむいてる南を突付いたり頬を引っぱったりの手厚い看護 (仮)をしながら京助達が悠助を見た
「…じゃぁ悠助…」
慧喜がしゃがんで悠助と目線を合わせた
「アイツを倒したらね…」
慧喜が微笑んだ
「俺を思い切り抱きしめてそして【おかえり】って笑って言って?」
地面に着地した緊那羅が物体を見上げた
『キョ…ギョ…』
ゴボッと大きな音を出しながら京助を探しているようなその物体に緊那羅が顔をしかめた
「緊那羅!」
隣にスタンという着地音と微かな風を感じて緊那羅が隣を見る
「慧喜…!大丈夫なんだっちゃ!?」
いたるところに擦り傷を作った慧喜を見て緊那羅が慧喜に聞いた
「大丈夫…それより…」
慧喜が物体を見上げる
「コレの元になった黒い玉って…宝珠だと思う」
慧喜が言うと緊那羅が驚いた顔をした
「な…じゃぁ…【天】か【空】の仕業ってことになるっちゃよ!?」
緊那羅が言う
「だってそうとしか考えられないじゃない…黒…赤に並んで最強の宝珠って聞いたことある…だから持ってるヤツっていったら…」
『ギギギギギギギ…』
慧喜の言葉が終わらないうちに物体が触手を走らせてきた
「でも私は黒い宝珠なんて見たことないっちゃ!!」
触手をバク転でかわしつつ緊那羅が言う
「俺だってそうだよ!!」
慧喜が鉤を軸に高く飛び上がり物体に鉤を振り下ろす
「でも! でもだとしたらどうして…【時】がくるまでは…ッ」
緊那羅が触手を避けつつ言った
「そんなの俺にだってわからないッ!! でも…俺は【時】がこようがどうなろうが悠助を守るだけッ!!」
御輿の上に着地した慧喜が叫んだ
「慧喜…」
悠助が土埃の向こうの慧喜をじっと見ている
「京助…僕…」
言いかけた悠助の頭に京助が手を置いた
「何もできないのは俺だって同じ」
そう言いながら京助が悠助の頭を軽くポフポフと叩いた
「俺等は緊那羅や慧喜みたいにあんな風にゃ動けないし戦えない」
京助が物体の周りで激しく素早く動いては物体に向かって攻撃している二人を見て言う
「だから俺達は俺達にできることをやるしかないんだ」
悠助が京助を見上げると京助が悔しそうな顔で言った
「できる…こと?」
悠助がふと京助から顔をそらすと坂田と目が合った
「ま…ぶっちゃけ応援とお祈り?」
坂田が苦笑いで言う
「お祈り…」
坂田の言葉に少し考え込んだ悠助がキョロキョロと周りを見始めた
「悠?」
浜本がそんな悠助に声をかけた
「あった!!」
そして何かを見つけたのか悠助が駆け出した
「おい!?; 悠!!?;」
駆け出した悠助を京助が追いかける
「京助!!; 悠!!;」
中島が叫んだ
「危ないぞッ!!;」
「もどってこ--------ぃ!;」
生徒達も声を張り上げて呼びかけるが悠助は止まらずどこかに向かって走っていく
「悠助!!; どこいくんだやなッ!!;」
気付いたゴが低い姿勢で走り出す
「悠助に怪我させたらゼン等は毛皮になるんだやなッ!!;」
ゼンもゴに続く
「おい!!; 何処行くんだよ悠ツ!!;」
悠助の手を掴んだ京助が悠助に聞いた
「神社ッ!! お祈りするんだもんッ!!」
悠助が向かっていた方向には本殿の神社の社が御輿の向こうに立っていた
「ばっかッ!!; アソコいくには…;」
京助が御輿のすぐ側で動いている物体を見てそして少し考え込む
「…振り落とされんなよッ!!;」
「え…わッ!!;」
悠助を担いだ京助が全力疾走で御輿の横を通り過ぎた
「義兄様!?;」
慧喜が自分の後ろを通り過ぎた京助に驚き名前を呼んだ
「速ッ!!;」
浜本が声を上げる
「さすが年中早朝マラソン(遅刻)で鍛えてるだけあるナァ…;速い速い」
坂田が言った
「京助!; っなにしてるんだっちゃッ!!;」
物体の触手の上にいた緊那羅が京助を見て言った
『キョ…ユ…トキ…』
緊那羅を乗せた触手を含め三本の触手が動き出した
「悠助!! 義兄様!!」
慧喜が叫ぶと一斉に触手が京助と悠助に向かって走り出した
「んの…馬鹿ッ!!;」
緊那羅が触手の上を走りだしたその時
『ギュィィイイ!!ギギギ…』
物体が声を上げ御輿をなぎ倒した触手二本が動きを止めた
「…何だ?;」
よく見ると二本の触手から白い煙が上がっている
「…なんだか…痛がってない?」
ミヨコが呟いた
「…もしかしてお供え物の中に何か苦手なものあったんちゃう?」
浜本が言う
「…紅生姜」
「ソレはお前の苦手なもんだろ」
中島が言うと坂田が突っ込んだ
「…答えは…」
南がぼそっと声を出した
「あ、気がついた…」
生徒の一人が南に向かって手を振った
「あそこにいきゃわかる…な」
坂田が立ち上がった
「お祈りは悠と京助に任せて」
中島も立ち上がる
「俺達は俺達にできることやりませう」
南が中島と坂田の手を借りて立ち上がった
神社の社に辿り着いた京助が悠助を下ろし振り向いた
「好きなだけ祈れ悠ッ!!;」
半分ヤケになっているのか京助が両手を広げて触手を向かえる
『キョ…ウ…』
ゴポッと音をさせた物体から新たに5本の触手が生まれた
「京助!!」「義兄様!!」「京助ッ!!」
ゼンゴと慧喜そして緊那羅が叫んだ
「来るなら来いッ!!;」
ガラガラと鈴をを鳴らす音が結界の中に響いた
「神様ッ!! お願いしますッ!!」
パンパンと手を叩き合わせて悠助が大きな声で祈り始めた
「緊那羅! そっちは頼むんだやな!」
ゼンゴが一番近い触手2本に攻撃をし始める
「わかったっちゃッ!!」
自分が走っていた触手を緊那羅が思い切り叩く
「こっちくるなッ!!」
そして慧喜がもう1本に向かって鉤を振り下ろした
「後1本残ってるッ!!; 京助ッ!!」
結界の中からミヨコが叫ぶとハッとしたようにゼンゴ、緊那羅、慧喜が勢いよく京助に向かっていく触手を見た
「京助-----------------------ッ!!」
『ギュィキィイイイイイ!!』
緊那羅の叫んだ声と同じくらいの物体の悲鳴らしき声に全員が動きを止めた
「な…」
シュウシュウと白い煙が上がっている物体の下の方にはお供え物とされていたお菓子やら果物やらを両手に持ってポカンとしている3馬鹿
「…どれかがやっぱ効いたみたいだぞ;」
中島が自分の腕の中のお供え物を見て言う
「…どれだろ;」
南が持っていたキュウリを試しに物体に投げつけてみるが軽く跳ね返って地面に落ちただけだった
「どれだ?;」
坂田が手に持っていた塩を物体に向かってぶちまけた
『ギュィイイイイイイ!!』
「うぉおおお!!;」
坂田が塩をかけた部分から白い煙が上がり物体が声を上げた
「…塩?」
南と中島が坂田の手の中にある御輿の時に撒く塩をみた
「…塩…だな」
坂田が呟くと3馬鹿が顔を見合わせた後ニヤッと笑って一斉に物体を見上げた
「いっくぜぇッ!!」
中島が倒された御輿に盛られていた塩がのった皿を手に持ち勢いよく物体に塩を投げつけた
「健全一般中学生をなめんなよッ!!」
南が同じく倒されていた子供御輿の塩が乗った皿を手に持って塩を撒きつけた
「はっかったの塩----------------------ッ!!」
坂田が皿ごと塩を物体に向かって投げた
『ギュギィイイイイ!!』
塩がかけられた部分から大量の白い煙を上げながら物体が悲鳴を上げる
「おおおお!! 効いてる効いてるッ!!」
「でかした!!」
「やれやれ---ッ!!」
意外な活躍をしている3馬鹿に向かって結界内の生徒から歓声と声援が巻き起こった
「あいつら…」
京助が苦笑いで3馬鹿を見た
「京助…」
悠助が京助を呼んだ
「どうした? 祈ったんか?」
京助が悠助を見た
「お賽銭忘れた」
「…;」
眉を下げて言った悠助に京助がポケットから無言で10円玉を取り出し賽銭箱に投げ入れた
「神様ッ!! お願いします………ッ」
真剣に両手を合わせて祈る悠助を見て京助が頭を掻いた後両手を合わせ目を閉じた
「ギャ------------------!!; ソルトショック!!;」
南の声に京助が振り返ると塩を投げつくした3馬鹿が塩の代わりになるような物をお供え物の中から探している
「ばッ…; 逃げろお前等ッ!!;」
京助がまだ祈っていた悠助を抱えて階段を飛び降りた
『ギョ…ユゥ…』
ゴボゴボと物体が再び動き出す
「京助!! まだお祈り終わってないよッ!!」
悠助が足をバタバタさせながら言った
「こっからでも届くッ!!;」
動き出した触手から全力で逃げながら京助が叫んだ
「義兄様ッ!!」
すぐ近くにいた慧喜が京助を追ってきた触手に鉤を振り下ろした
「慧喜!!」
悠助の顔がぱぁっと明るくなった
「サンキュ慧喜;」
京助が慧喜に向かって言う
「何してたんだっちゃッ!! 危ないじゃないっちゃかッ!!;」
緊那羅が京助の隣を走りながら言った
「俺達にできること」
京助がへっと笑いながら答える
「は?;」
緊那羅が疑問系の声を出した
『ド…トキ……ギュィイイイイイ!!』
今までにない大きな声を上げた物体が京助と悠助めがけて覆いかぶさろうとしはじめた
「ッ-------------------------!!;」
京助と悠助を背中に庇いながら緊那羅が武器笛2本を交差させ物体を迎え撃とうとする
「京助ッ!!;」
「悠助----------ッ!!;」
「ラムちゃんッ!! 京助! 悠!!」
もはや誰が誰を呼んだのかわからない声が結界内に飛び交ったその時
パァン!!!!!!!
「なぁああッ!!;」「だぁッ!!;」「きゃぁッ!!」「うおぉ!!;」
というまるで巨大風船が割れたような音と強風、そして生徒達の悲鳴やらが巻き起こった
「うわぁっ!!;」
悠助が京助にしがみついた
「わッ;」
「ッ…!!;」
その強風でよろけた緊那羅を支えつつ京助が足を踏ん張って悠助をしっかり掴みながら強風に耐える
「なんな…んだッ!!;」
京助が細く目を開けていったい何が起こっているのかを見ようとする
「たぶん結界が壊されたんだっちゃっ;」
緊那羅が京助の腕につかまりながら言った
『ギュィィイイイイイ!!』
強風の中聞こえた物体の声
「ってか結界だか壊れたって…じゃぁ…あいつは…!!」
京助が物体の方に顔を向けたが強風で巻き上がった砂埃で目が上手く開けられない
「目に砂はいった~っ;」
悠助が言うと京助が悠助を下ろし緊那羅と自分の間に匿う
スカカカカカカカカカ
パチン
誰かに抱きしめられたかと思うと硬い何かが軽快に続けて落ちるような音と指をはじく音が聞こえ強風がピタッと止まった
「……?;」
京助がおそるおそる目を開けると目の前にふわっと靡いた布
「タカちゃん!! きょんがらさんッ!!」
悠助が言った
「オライ等もいるんだがね~」
ひょうひょうとした声が聞こえて京助が振り返ると頭にポフッと置かれた手
「あ…」「阿修羅…」
緊那羅と京助が同時に言う
「結界は矜羯羅っちょが張り直してくれたし…」
阿修羅がニッと笑った
「こんがら…っちょ…」
京助と緊那羅が矜羯羅をチラッと見た
「…ブッ;」
そして京助が噴出すとソレを見ていた制多迦がヘラリ笑い矜羯羅にお約束の玉をくらう
「…殴るよ?」
矜羯羅が振り返って阿修羅に笑顔 (殺意100%)を向けた
「京助!! 緊那羅!! 悠!!」
3馬鹿が京助達の元に走ってきた
「お前等無事だったか」
京助がホッとした様な顔をした
「慧喜っちゃんの怪我は乾闥婆が見てくれてるぞ悠」
南がクイッと親指で後ろを指した
「けんちゃん…?」
悠助が京助から離れて南が指した方を見ると乾闥婆が慧喜に何かしているのが見えた
「んで…後はコイツの処理か」
阿修羅が物体を見上げた
「…ってか今コイツ動いてねぇんじゃねぇ?」
中島が呟いた
「ああ…そりゃ動いてるわけないわ~見てみ?」
阿修羅がケラケラ笑って物体を指差した
「…かるらん!!」
阿修羅の指差した方を見た悠助が名前を呼ぶと悠助の声が聞こえたのか掲げていた右手を下ろし迦楼羅が京助達に近づいてきた
「無事のようだな」
ふっと笑って迦楼羅が悠助の頭を撫でた
「遅いんだよ; 来るのがッ;」
京助が呆れた苦笑いで言った
「まぁまぁ…とにかく先にあいつだろ?」
阿修羅が言うと一同が物体を見上げる
「問題はどうやって倒すか…」
阿修羅がブツブツ言った
「弱点はわかってるんだけどねぇ~; もう塩ないし」
南が言う
「何? アイツは塩弱点なん?」
阿修羅が聞くと3馬鹿がうなずいた
「…ほほうほうほう…そっかそか」
阿修羅が何かに納得して何度も頷くと物体を見上げた
「なぁ矜羯羅っちょ…一時的に結界一瞬だけ開けるか?」
何か考えがあるのか阿修羅が矜羯羅に言った
「…できるけど…その呼び方やめてくれない?」
矜羯羅が阿修羅を軽く睨みながら言う
「そっかそか…後は…だっぱ------------------!!」
大声で阿修羅が乾闥婆を呼ぶと顔を上げた乾闥婆の後ろで笑いを堪えているようなしぐさをしている慧喜も見えた
「ちょいちょい------------!」
ツカツカとあからさまに怒っていますという歩き方で乾闥婆がやってきた
「なんですか?」
そしてやってくるなり阿修羅に必殺チョップを笑顔で放った
「相変わらずイイ切れ味の…; で…とどめはかるらんっと」
乾闥婆にチョップされた頭をさすりながら阿修羅が迦楼羅を見る
「んはいらんといっているだろうがッ!!; たわけッ!!;」
「むやみに炎を出さないでください」
迦楼羅が怒鳴ると小さく炎が出て乾闥婆が笑顔で迦楼羅の前髪を引っ張った
「じゃ…いくよ?」
矜羯羅がスッと左手を前に出した
「いいですよ」
乾闥婆が一歩足を下げる
「は~ぃ残りのは下がって下がって~」
阿修羅が3馬鹿の背中を押して迦楼羅、乾闥婆、矜羯羅から離れる
「しっかし…よく思いつくよなァ; 頭いいんだなお前」
中島が阿修羅に言う
「だ~か~ら~; オライは一応ヨシコの教育係で…」
パチン
言いかけた阿修羅の言葉が矜羯羅の指をはじく音で止まり先程と同じように物凄い強風が巻き起こった
「何とかならねぇのかこの風ッ!!;」
阿修羅と制多迦に守られながら京助が言った
「結界の中は空間が違うから仕方ないんだわな~;」
慣れているのか阿修羅が笑いながら答える
「いでっ; 今なんか固いの当たったッ!!;」
坂田が頭をさすっている
乾闥婆が手首の布を解いて地面を蹴り飛び上がった
「…っといっけね; 忘れてたわ…タカちゃんここ任せていいか?」
阿修羅が制多迦を見て言う
「…ッケ」
制多迦が親指を立ててヘラリ笑うと阿修羅が迦楼羅の元に駆けて行く
「…くから離れないようにね」
そう言うと制多迦が指で宙に何かを書き始めた
「何…;」
強風に踏ん張りながら3馬鹿と京助、緊那羅と悠助が制多迦に注目すると制多迦がなぞった宙から光が生まれた
「おおおお!!;」
3馬鹿と京助が声を上げる
「…んがらみたく上手く張れないんだけどね;」
その光が一同を包むとソコだけ風が止んだ
「充分すげぇ…タカちゃん;」
中島が自分を包んでいる光に手を伸ばしながら言う
「慣れた慣れたと思ってても…こう次から次にビックリショーが展開するとやっぱドッキリするよねぇ; いくら俺等でも」
南が苦笑いで言う
「てかさ…どうすんだ?」
中島が京助に顔を向けた
「何が」
京助が中島に返す
「いや…こんな出来事のフォロー…もう中国雑技団ですよ~キダムですよ~は…いくらなんでも…もう…さ;」
中島がどもりながら言う
「…そう…だよね; 変な生き物が出て来て犬がいきなり話して人型になってゲームみたいな技使って…不思議な服着て戦い始めて…挙句人数増加して…だしね;」
南が緊那羅と制多迦を見た
「…話すしかねぇだろ」
京助がさらっと言った
「絶対何かかんか言われんぞ?;」
坂田が言う
「しょうがねぇじゃん?; 信じる信じないってか…本当の事なんだし」
京助が緊那羅を見た
「その方俺もスッキリするし…お前もスッキリすんじゃねぇ?」
京助が緊那羅に聞く
「え…?」
いきなり話題を振られた緊那羅が京助を見た
「私は…」
「とにかく!! …たぶんアイツはおそらく…ってか間違いなく俺と悠を狙ってた」
緊那羅の言葉を京助が遮った
「…悪かったな巻き込ん…」
スパン!
バシッ!!
ゲシッ!!
3馬鹿に向かって謝りかけた京助を3馬鹿が順に叩いた
「阿呆か」
坂田が言う
「京助阿呆なの?」
制多迦にしがみついてた悠助が聞く
「そうだぞ~悠!! 京助は阿呆も阿呆!! 超阿呆なんだぞ」
南が言った
「なっ…;」
京助が後頭部を押さえながら顔を上げた
「誰が巻き込まれたのが嫌だっていってますかね? 京助君」
坂田が京助を睨む
「俺等は好きでここにいるわけで」
中島が京助の首に腕をかけた
「こんなのも結構嫌じゃないんだよな…っ!!」
かけた腕に思い切り力を込めて中島が京助の首を絞めた
宙に浮いたままの乾闥婆が両手を前に出し息を吸った後その両手を上に上げた
「いきますよ!!」
乾闥婆が下にいる迦楼羅に叫んだ
「わかった!!」
迦楼羅が返す
「ちょーいまち!! かるらんッ!!;」
阿修羅が迦楼羅(かるら9の肩につかまった
「何だ?;」
迦楼羅が阿修羅を見る
「この風じゃ折角のアレも舞い散っちゃいますんで…」
阿修羅が地面に手をついた
「防壁作成しにきたんよ…ッ!!」
阿修羅が手をついた地面が光ったかと思うとまるで何かに引っ張られたように地面が立ち上がった
「じゃあとヨロシクかるらん」
立ち上がって上を見た阿修羅が乾闥婆に手を振りながら言った
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
地面が揺すられる音がした
「んはいらんと…ッ!!;」
「ほぉら来た来た~」
怒鳴りかけた迦楼羅に阿修羅がハッハと笑いながら一歩後退した
「迦楼羅!!」(かるら)
乾闥婆の声に上を見た迦楼羅の目に入ったのは俗に言う【大波小波】…の【大波】も大波のぶっちゃけ【大々波】と言ってもおかしくはないほどの海水の壁
「…まったく…;」
阿修羅を軽く睨んだ迦楼羅が今度は大津波っぽい海水の壁を睨んだ
「
おおおお!!;」
ゼンゴの結界の中の生徒、京助や3馬鹿も制多迦の結界の中で声を上げた
「ねぇねぇ!; この結界大丈夫なのッ!?;」
ミヨコがゼンゴに聞く
「一応耐水性っぽいんだやな」
ゴがニッと笑って言う
「てかお前等はいいのか?;」
ハルがゼンゴに聞く
「ゼン等はイヌカキ得意なんだやな」
ゼンがニッと笑って答えた
「かるら~ん…ファイヤ----------------------------!!」
「やかましいッ!!!!;」
阿修羅が叫ぶと迦楼羅が怒鳴った
「迦楼羅!!」
今度は乾闥婆が怒鳴った
「…;」
乾闥婆に怒鳴られた迦楼羅が阿修羅をギラッと睨んだ後思い切り息を吸い込むと思い切り巨大な炎を吐き出した
「うっわ; ココまで暑い;」
南が迦楼羅の吐いている赤い炎を見て言った
「迦楼羅の炎は凄く熱いんだっちゃ」
緊那羅が言う
「…まさに火気厳禁…竜田揚げが燃料のライターだな」
坂田がヘッと笑いながら言った
迦楼羅の炎に熱せられた海水の壁が白い粉状になって物体に降りかかる
『ギュキィィィィ!!!』
白い煙を上げながら物体が悲鳴のような声を上げた
「海水は熱せられると塩になるんだっぴょん」
阿修羅が物体を見上げてニッと笑って言った
「…どうして邪魔した?」
白い布から見えた口元に笑みはなく
「それなりの覚悟があってのことだろう?」
誰かに向かっての言葉らしく
「…まぁ…いいさ…暇つぶしにはなったし…しかし驚いたよ【天】【空】両方がこんなにも仲良くなっているなんてね」
白い布がハタハタと夜風に靡く
「でも…やっぱりちょっと腹が立ったかな…折角面白かったのに…」
白い布からスッと伸びた黒い腕
「だから…オシオキだ」
白い布から見えた口元にはうっすらとした笑みが浮んでいた
ノイズ混じりの演歌がエンドレスで流れピンク色の提灯がぼやっとした光を放っている
「…信じられねぇよな…; やっぱ」
浜本が言うと数人の生徒が頷いた
「でも見たし…実際…現実なんだよな」
一人の生徒が言った
「京助と…悠が生粋の人間じゃないかもってのも…」
ハルが京助を見た
「お前等は知ってたのか?」
浜本が3馬鹿に聞く
「まぁ…うん」
坂田が頷く
「ラムちゃん…と慧喜とか…きょ…矜羯羅さんもミヨ達とはちょっと違うんだ…」
ミヨコが少し後ろの方にいる摩訶不思議服集団に目を向けた
「…あ~…;」
京助がガシガシ頭を掻いた後顔を上げた
「信じる信じないは勝手だけどさ…まぁ…なんだ…その…また…こんなことがあるかも…知れねぇんだわ」
生徒達がシン…となったせいか周りの雑音が大きく聞こえる中京助が話し始めた
「…だから…」
京助が口篭ると浜本が京助を後ろから羽交い絞めにした
「な…;」
京助が驚いて浜本を見た
「はぁい一人一回ずつ」
浜本が言うとハルが京助に軽くでこピンをした
「いっ;」
京助が小さく声を上げる
「ばぁか」
ハルがふっと笑ってその場から立ち退くと今度はミヨコが京助の両頬を引っ張った
「なんでもっと早く言ってくれなかったのさ」
最後に京助の両頬を叩いてミヨコがその場をどけると男子生徒が京助の頭を叩いた
「何なんだよッ!!;」
京助が怒鳴る
「まだまだ!! ハイ! 次!!」
浜本が暴れる京助を押さえつけて言うといつの間にか列を成している生徒達が京助を叩いたり抓ったりしながら一言二言かけて次の生徒にバトンタッチしていく
「いい環境に生まれたんだナァ竜のボン」
阿修羅が笑いながらその様を見ている
「いくら叩かれてもあれ以上馬鹿になることはないと思いますし…いいんじゃないですか?」
乾闥婆が言う
「にしてもスゲかったよなぁ…さすがに死ぬかと思ったけど」
中島が思い出して言った
「本当本当!! …でも夢じゃないんだよね…夢に思えても」
南が事前と何も変わっていない本殿前をぐるり見渡して言う
「結界の中は違う空間だからな…術者が倒れぬ限りどんなに壊れようが物は元に戻るのだ」
迦楼羅が言った
「怪我は治らないんだな」
坂田がチラッと目を横に向けた
「あ…私はかすり傷程度だっちゃし…;」
緊那羅が苦笑いで言う
「俺のは乾闥婆が大分看てくれたし悠助に怪我がなかったからもう平気」
浴衣に戻った慧喜が悠助の頭に頬すりしながら言った
「俺でラストだな」
浜本が京助かを放して間髪いれずに京助の頭を思い切り頭を叩いた
「って-----------------ッ!!;」
京助が頭をおさて叫んだ
「俺等の怒り受け取れ」
浜本がさすがに痛かったのか手をプラプラさせながら舌を出して言う
「だから巻き込んで悪かったって…ッ;」
スッパパパン!!!!
京助が言いかけると今度は3馬鹿がそれぞれの履いていた靴で京助に叩きかかった
「全然わかってないようですが皆さん」
靴で自分の肩をトントン叩きながら中島が生徒達を見渡した
「何がだよ!; バコバコ集団で叩きやがってッ!; そんなに嫌だったなら…」
スッパパパパン!!!!
3馬鹿が再び京助を叩いた
「誰かが嫌だったって言ったか?」
坂田が言う
「さっきも言ったはずだけどな俺」
中島がトフトフを靴で軽く京助の頭を叩く
「俺だったら嫌なことあった場所にはいたくないんだけど」
南が言うと京助が顔を上げた
「…一番ツラいのお前だろ」
坂田が京助の肩を軽く叩いた
「ミヨたちが怒ってるのは今回のことじゃないよ京助が話してくれてなかったって事…そりゃ親友ってレベルじゃないかもしれないけど友達だよ?」
ミヨコが言う
「できることをするしかないならできることするさ俺達だって」
ハルが京助の頭を撫でた
「…」
ぽかんとしたままの京助の肩に南が両手を置いた
「ラムちゃん達みたく戦いとかできない俺等がお前と悠にしてやれることっていったらたった一つしかないかもしれないけどいいですかね?」
南が京助の両肩を叩きながら言う
「何だよ…」
京助が小さく呟いた
「お前と友達でいることッ」
中島が京助の首に腕をまきつけて言った
本殿前にぐるりできた人垣
和楽器を手に持ったお囃子担当の生徒達が境内の階段に並んでいる
「ラムちゃん口の端切れてるみたいだけど…大丈夫?」
あの出来事の事後にきた宮津が緊那羅の顔をのぞきこんだ
「あ…大丈夫だっちゃ;」
緊那羅が苦笑いを返して言った
プツンとマイクの電源が入る音がしてお約束のキィイインという音が響く
「…無理なところは私がフォローするからね」
宮津が小さく緊那羅に耳打ちした
「一体何が始まるのさ」
矜羯羅が規律よく並んでいる男子生徒群を見て言った
「ヨサコイって言ってね~」
慧喜に抱かれた悠助が矜羯羅を見上げて答える
「ヨサコイ?」
乾闥婆が悠助に聞き返す
「うん! ソーランソーランって踊るんだ~」
悠助が手だけを動かしてヨサコイの踊りをしてみせる
「楽しそうだな~」
阿修羅がカンブリを片手に笑った
「あ、はじまるんだやな!!」
イヌに戻ったゴが尻尾を振った
和笛の音色が夜宮の夜空に響いた
「ただいま~!!」
玄関の戸をあけた悠助が家の中に向かって元気よく言った
「おかえりなさい」
母ハルミが小走りで出迎える
「…あっ!!」
靴を脱いでいた京助と緊那羅、そして悠助の後ろにいた慧喜が悠助が上げた声に動きを止めた
「…忘れモンか? 買い忘れなら明日…」
京助が靴を脱ぐ動きを再開しながら言う
「慧喜!!」
悠助が慧喜を見上げると慧喜が笑顔で首をかしげた
「しゃがんで?」
悠助に言われるがまましゃがんだ慧喜を悠助が思い切り抱きしめた
「おかえりっ」
「あ……うん…ただいま…」
慧喜が幸せそうな顔で目を閉じた
チリリ…と風鈴がまだ少し肌寒い北海道の夏の夜風に鳴った
「あれ…?」
風呂があいたことを告げに来た緊那羅が物抜けの殻の京助の部屋の戸を閉めた
「…どこいったんだっちゃ…」
顔を上げ右に行こうか左に行こうかと緊那羅がまるで横断歩道でも渡るかのように首を振ると右に行くことが決まったのか向きを変え右方向に足を進めた
古い造りの栄野家はやたら広く部屋数が多いがすの殆どはまったく使われていなく掃除すらまともにされていなかった
「…京助?」
奥へ奥へを足を進めた結果 緊那羅が辿り着いたのは【元・開かずの間】
「なにしてるんだっちゃ…明かりもつけないで」
月明かりだけが差し込んで薄暗い部屋の中窓際にいた人影に緊那羅が声をかけ室内灯の紐に手を伸ばした
「つけるな」
京助が短く言った
「あ…うん…;」
緊那羅が慌てて手を引っ込める
「…なしたよ」
小さく京助が聞く
「風呂…」
緊那羅が躊躇いながらとりあえず主語を言った
「…あぁ」
もぞっと動いて京助が返事をするとそれから長く沈黙の時間が流れた
「…もう少ししたらいくから…」
京助が小さく言った
「だから…」
ふわっと香ったのはたぶん今日の入浴剤で少し湿っているのはたぶん緊那羅が使った後のタオルだからで
「…京助だって」
そしてその上から感じたのは緊那羅の体温
「京助だっていっぱいいっぱいじゃない…」
すぐ側から聞こえた緊那羅の声に京助がピクッと動いた
「顔は…見えないっちゃ」
緊那羅がゆっくりと京助の頭を撫で始める
「…だからなんだよ…」
京助がタオルを掴んで顔を隠しながら小さく言う
「…泣きたい時は泣くんだって京助が言ってたじゃないっちゃ?」
緊那羅が優しく静かに言った
「私が守るから…京助の心も全部守るからだから…泣いていいっちゃ」
京助の頭に自分の頭をつけて緊那羅が言う
「…俺…ッ…」
鼻を啜る音が聞こえた
「俺って…何なんだよ…ッ!!! 俺が栄野京助じゃなかったら…俺が栄野京助だからまた…ッ!!」
緊那羅のシャツを掴んだ京助の手は震えていた
「俺…ッ…」
何かが切れたかのように小さな子供のように泣き出した京助の頭をゆっくりと緊那羅が撫でる
「今私にできること…」
泣きしゃっくりが起こり始めた京助を緊那羅が抱きしめた
「貴方を守ります…」
緊那羅が小さく言った
本祭り当日子供御輿に出る小学生の付き添いや天狗行列の旗持ちをして小遣いを稼ごうと名乗りを上げた正月中学校の生徒が本殿社務所前に集まっていた
「あれ? 坂田は?」
自分が一番最後だと思っていた京助が見えない坂田の行方を南と中島に聞いた
「あ~…なんだか柴田さんが昨日警備してて怪我しただかで…」
南が言う
「…それ本当?」
「うおおおお!!!!?;」
いつの間に後ろにいたのか本間の声に中島と南が飛び上がった
「ほ…本間ちゃん;」
南が苦笑いで本間に手を振った
「柴田さん怪我したって本当?」
旗持ちに参加するのか制服姿の本間の手には2メートルくらいはあろうかという大きな紫色の旗が握られている
「あ…ああ; 今朝電話来た…んだ; 遅れるかもって」
中島が言うと南も頷いた
「俺ンとこにはきてねぇぞ?」
京助が言う
「どうせかけても寝てるから無駄だって坂田だってソレくらいわかってるわよ」
赤い色の旗を持った阿部が本間の隣にきて京助に言った
「何だよソレ;」
京助が黄色い布でタスキをしながら口の端を上げて言う
「じゃぁ聞くけど起きてたの?」
阿部が京助に聞いた
「ほっぺについた赤い跡が全てを物語っているなぁ…; さっきまで寝ておりましたってサァ;」
南が苦笑いで京助の頬を指差した
「仕方ねぇじゃん; 寝る気は無かったんだけど泣き疲れ…」
言った京助がハッとして言葉を止めた
「泣き疲れ?」
中島が京助を見ると京助の顔が赤くなった
「…泣いたの?京助」
阿部が驚いた顔で京助を見る
「だ…っ; …俺が泣いちゃおかしいですかいッ!!;」
半分ヤケになっているらしい京助が声を張り上げて言う
「俺だって泣く気なかったさ!; でも緊那羅が…」
緊那羅の名前が京助の口から出ると阿部がぴくッと反応した
「ラムちゃんが?」
南が京助に聞く
「…なんでもねぇ」
豆絞り手ぬぐいを首からかけた京助が呟いた
「…そういや緊那羅は?悠と慧喜はさっき見たけど…」
中島が子供御輿の方を見て言った
「ああ…立てないから後で来るって言ってた」
京助がさらっと答えると中島と南が揃って京助を見た
「…なんだよその顔;」
京助が南と中島を見て言う
「…いや…うん…いいんだよ? 京助君…男の子だしね。若いしね。」
南が爽やかな笑顔で京助の肩に手を乗せた
「は?;」
京助が疑問系の返事を返した
「あんまり無理させんなよ?」
中島もウンウン頷きながら京助の肩に手を乗せた
「…お前等…何考えてるんだか手に取るようにわかってるんだけどさ…あえて教育上それに触れないでおくわ…」
京助が乗せられていた中島と南の手を静かに剥がしながら言う
「それにご期待に添えないようですが緊那羅はただ膝枕してくれてただけだしそれに…」
ヒュッ
ガンッ
風を切る音が聞こえたかと思うと何かをおもいきり棒で叩いた音がした
「あ…べちゃん?;」
南が阿部を見た
「あっそ!!」
持っていた旗でおもいきり京助を叩いた…というかぶん殴った阿部が眉を吊り上げながら言うとフイっと背中を向けて大股で歩き出した
「…坂田きたら柴田さんの容態聞いておいてね」
本間はそう言うと阿部の後を追いかけていった
「…どうする…コレ?;」
中島が白目をむいてる京助を突付いた
「どうするってもナァ;」
南も京助を突付く
社務所の中からおっさん達が祭り着に着替えて出てくるとスピーカーからまたノイズ混じりの演歌が流れ始め本祭りの開始を告げた