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【第二回】届け恋の光合成

夏本番

降り注ぐ太陽の光をめいいっぱい浴びて咲いた向日葵を見て嬉しそうに笑う悠助と面倒くさそうに庭に水をまく京助

その二人を御神木の上から見ている人物が二人

京助たちの【日常】が【ちょっと変わった日常】へと本格的に動き出す

「でっかく育ったなぁ…」

「僕より大きくなっちゃったね~」

夏休み目前の日曜日栄野家の庭先では京助がホースで水をまき悠助がそれを手伝って(邪魔して?)いた

「こないだまで双葉だったと思っていたのにもう花咲きそうでやがんの」

栄野兄弟が『大きくなった』といっているのは初夏に悠助が植えた向日葵のことで鉢には【ヒマ子さん】とかろうじて読める悠助のミミズ文字で書かれていた

「それはアンタが世話してなかった証拠でしょう?」

背後から母ハルミのごもっともな意見が飛んできて後頭部に容赦なくグッサリとつき刺さった

京助の母、ハルミは一見おとなしそうでおっとりしているような印象の大和撫子風の日本美人だがその性格は日本男児顔負けである

女手一つで兄弟を育てているということもありかなり気が強く結構口も悪く人使いも荒い

「部活だか補習だか知らないけど休みの日くらいは家の手伝いはやってもらうわよ?水まき終わったら境内の拭き掃除お願いね? 掃き掃除は緊ちゃんがやってくれているはずだから」

「…ヘイヘイ…;」

ゴン

京助の後頭部に今度は缶ジュースが勢いよくめり込んだ

「…返事はハイと一回気持ちよく!! …水まき終わったらそれ、緊ちゃんにも持っていって拭き掃除の前に一服しなさい」

挙句躾にも厳しい…が優しい所はきちんと優しかった

「京助たんこぶ~」

後頭部を抑えてしゃがみこんでいる京助の頭を悠助が泥だらけの手で笑いながら撫でている

足元では京助が手放した暴れホースでコマとイヌが水をかぶりながら遊んでいた

「ったく…; あ~痛ぇ…」

立ち上がった京助は再びホースで水をまき始める

悠助も小さな自分のじょうろに水を入れて【ヒマ子さん】にかけている

「綺麗に咲くといいな」

ある程度水をまき終えた京助はホースを片付けながら悠助に声をかけた

「明日に咲く? 明後日?僕早くヒマ子さんの咲いたところ見てみたい~」

「来週中には咲くんじゃねぇかな…ホラ、蕾開きかけてるし…ブッ!!;」

と京助がヒマ子さんに顔を近づけたときいきなり強い風が吹き京助はヒマ子さんの頭突きを顔面で受けた

「…今日は…首から上に注意報発令か?;」

後に缶ジュース、前にヒマ子さんの頭突き…朝っぱらから災難が頭だけに降りそそいでいた


「もうちょっと静かに着地できなかったんですか? 結構風起きちゃいましたよ?」

「出来ないこともなかったがな…どんくさい輩のことだ気にも留めぬであろう」

緑豊かな栄之神社の中で最高樹齢の御神木『しんちゃん(悠助命名)』の中枝から微かに聞こえる会話

「まったく…迦楼羅かるらはそんなだから階級高いのに子ども扱いされるんですよ」

迦楼羅かるら】と呼ばれた目つきの悪い少年(?)はムスっとしてもう一人の少年を睨んだ

「ワシに指図するな!!」

迦楼羅かるらが声を張り上げるとその髪についていた赤玉の飾りがはずれはるか地面へと落ちていった

「大体!乾闥婆けんだっぱはあーだこーだいちいちこまかいのだッ!!」

迦楼羅かるらに【乾闥婆けんだっぱ】と呼ばれた少年はしれっとした顔で

迦楼羅かるらが大雑把過ぎるんですよ。ほっといたら食事もしないじゃないですか」

と言い放った

どうやら二人とも落ちていった飾りのことは気づいていないらしく口げんかに夢中になっていた


悠助と共に緊那羅きんならがいる境内へとやってきた京助は御神木の葉がやけに落ちていることに気が付き近づいて上を見上げた

「…さっきの強風で飛んだんかなぁ…」

葉の間から夏の日差しが射し地面に微妙な文様を作っている

「…さっき掃いたばっかりだっちゃのに…;」

独特の『~ちゃ』(キンナラムちゃん語/命名坂田)を語尾につけ、ため息混じりに緊那羅きんならが境内の方からやってきた

片手に箒を持ち片手で悠助の手を引いている

緊那羅きんならが栄野家に居候するようになって一週間が経過していた

あの演劇部のような服ではさすがに目立つということで京助の服を着ている

ここの生活にも慣れてきて『働かざるもの食うべからず』という母ハルミの一言で神社の手伝いをするようになったらしい

「…掃きなおさないと駄目だっちゃね…これは」

「僕も手伝う~!!!」

緊那羅きんならが箒を持ち直しザカザカと葉を集め始めると悠助も手で葉をかき集め始めた

「ストーップ!」

とそこに京助が割って入り緊那羅きんならの頬に缶ジュースを付ける

「暑い中ご苦労サン、ここらで一服してくれって母さんが」

「一服…」

緊那羅きんならは缶ジュースを両手で受け取ると上から下から…色々な角度から不思議そうにそれを見た

どうやら開け方がわからないらしい

「京助、コレ…」

「あぁスマン、こうやって開けるんだ」

カシ、と京助がタブを起こして開けてみせると緊那羅きんならもタブに手をかけた

「緊ちゃんのファンタ(グレープ)だね」

ブシー!!

悠助の声とともに感の中身が勢いよく噴出し小さな虹ができた

見事ファンタ(グレープ)まみれになった三人は髪から雫を滴らせながら顔を見合わせた


「…緊那羅きんならいつから水出せるワザできる様になったんでしょう」

その様子を見ていた乾闥婆けんだっぱが小首をかしげる

「あれは…出したというよりは…あの筒から勝手に噴出したともとれるがな」

迦楼羅かるらが枝に座ったまま答える

「しかし…緊那羅きんならにも困ったものだな…役目を忘れ、挙句馴染んでいるとは…」

迦楼羅かるらの右前頭部に【怒】マークの象徴である血管が浮かんでいた

「落ち着いてください迦楼羅もうしばらく様子見ることにしましょう? 緊那羅きんならだって何か考えがあってこうしているのかもしれませんし…」

乾闥婆けんだっぱがあつくなった迦楼羅かるらをなだめる


「!!……」

「緊ちゃん?」

何かに気づいたように突然御神木を見上げた緊那羅きんならに悠助が声をかけた

「…いや…なんでもないっちゃ…」

気のせいだと自分に言い聞かせるように緊那羅きんならが呟いた

「こりゃ風呂はいらねぇと…ベタついてしょうがないな;」

ベトベトする髪をかき上げて京助が言った

緊那羅きんなら、悠、先入って来い。俺掃いててやっから」

緊那羅きんならから箒を取り『ホレホレ』と手でいってこいと合図する

「じゃぁ…いくっちゃ悠助」

「うん」

緊那羅きんならが手を差し出すと悠助は嬉しそうにその手につかまって歩き出す

その姿を見送った後京助は箒を動かし始めた


コロコロ…

「お?」

どう聞いても葉っぱを掃いた時の音とは違う何か丸い物が転がる音がした

京助は掃くのをやめ足元に目をやると木漏れ日を浴びて光る赤い小さな玉を見つけた

ふさふさした毛(?)のようなものが付いていて宝石類に全く興味の無い京助にも結構な価値があるということがわかった

「…落し物…高そうだなぁ…なんでも鑑定団にだしてみっか…」

冗談にも本気にも聞こえる言葉を呟くとその玉をハーフパンツのパケットに入れ再び箒を動かし始めた

「京助、代わるっちゃ」

甚平を着た緊那羅きんならが小走りでやってきた悠助の姿は無い

「もう入って来たのか? ってかまだ髪乾いてねぇじゃん」

「暑いしいいっちゃ」

ポニーテールにした髪から水が滴っているのを絞りながら緊那羅きんならが笑う

「京助、頭にハエとまってるし足からアリ登ってきてるっちゃ」

緊那羅きんならに言われて足を見ると三匹のアリが登ってきていた

ソレを片足で払うと

「んじゃ、バトンタッチな」

「ん、了解だっちゃ」

箒を緊那羅きんならに渡すと京助は駆け足で家の方向に向かっていった

「…迦楼羅かるらと…乾闥婆けんだっぱだっちゃね」

御神木を見上げ名前を呼ぶと二人が降りてきた

「久しぶりですね緊那羅きんなら、元気そうで何よりです」

乾闥婆けんだっぱがにっこり微笑んだ

迦楼羅かるら…」

にこにこしている乾闥婆けんだっぱとは対照的にブスっとしている迦楼羅かるら

「…お前は何をしておるのだ?」

ガンを飛ばし【怒】を抑え(ているようにも抑えていない様にもとれる)ながら緊那羅きんならに問う

迦楼羅かるら

今にも何か怒鳴りそうな迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱが抑える

「…今日は何も聞きません…このまま帰ります。が…」

ふっと笑って乾闥婆けんだっぱが言った

「次回は…わかっていますね?」

先程の笑顔は何処へやら…ビフォーアフター的目つきで緊那羅きんならを凝視した

「……」

無言でコクリ、と緊那羅きんならが頷くと迦楼羅かるらがフンと鼻を鳴らし

「自分の役目を忘れないことだな」

と言うと同時に強風が起こった

ザアァと御神木がざわめき葉が大量に落ちてくる

「…役目…」

落ちてくる葉を見上げながら緊那羅きんならが苦い顔をした


「きーんちゃーんっ!!」

「おわっ!?;」

悠助に不意打ちアタック抱きつきVerをくらった緊那羅きんならは前にのめって御神木に顔面をぶつけた

「また風吹いたねぇ~」

悠助が抱きついたままはしゃぎながら言った

「また掃きなおしだねっ」

「…そう…だっちゃね;」

強打した顔をおさえて起き上がると御神木を見上げた

葉っぱが1枚遅れて落ちてきた


「っでえええええぃ!!!!!!!!!!;」

月曜日、栄野家はいつも通り(強調)の朝を迎えた

寝坊した京助が家の廊下を走り回るバタバタという足音と朝食(と弁当)を作っている良い香りに混ざり洗濯機のまわる音と洗剤の香りもする

「京助! 弁当忘れてるっちゃッ!!」

自分の部屋の戸を勢いよく開けて鞄を持ち玄関で靴の踵を踏んだまま走り出そうとしている京助に緊那羅きんならが慌てて弁当を手渡すと『サンキュ』というように片手を挙げて走り出す

これも【いつも通り】の一つになっていた

小学生の悠助は近所の子供会で集団登校をしているということでもう家をとっくに出ていた

「…さてと…」

京助を慌しく見送ると緊那羅きんならは立てかけてあった箒を持ち境内に向かう

もうすっかり習慣になってしまっているらしい

母ハルミは庭で洗濯物を干していた

皺を伸ばす音が気持ちよく響き干された洗濯物が風になびく

昨日ファンタ(グレープ)まみれになった服も綺麗に洗濯され干されていく

母ハルミが京助の履いていたハーフパンツも他の洗濯物と同様に皺を伸ばすため宙に打ち付けるとそのポケットから何かが飛び出した

「あら…今何か出たかしら? …気のせいかしらねぇ?」

キョロキョロと自分の周りを見てからハンガーにハーフパンツを干した

赤い玉が鉢の中でキラリ、と光った


「どうよキンナラムちゃんは」

昼休み、南がペットボトル片手に聞いてきた

「どうよって何がどうよ?」

玉子焼きを箸で挟んだまま京助が聞き返す

「天だかから何か来たか?しばらくしたら誰か来るとかゆーてたじゃん?もう結構【しばらく】してると思うんだけどさ」

机に腰掛けて坂田の弁当からおしんこを失敬しパリパリ噛みながら中島が言った

「別に…なーんの音沙汰もねぇぞ?…緊那羅は毎日母さんの手伝いしてるし…」

玉子焼きを口に含みここ数日のことを頭の中で振り返る

「今日辺り来そうな気しなくもないんだけどさぁ…来たら来たらでアレだろ?」

「どれだよ」

箸を上下に動かして溜息をつく京助に再び弁当を狙ってきた中島の手を箸で刺しながら坂田が突っ込む

「面倒っていうか…その誰か来たらまたこの間みたいな感じになるんだろ? 緊那羅きんならが来たときみたいにさ~…守るだの殺すだのダーリンだの…」

「アレはもう御免だねぇ…」

南が遠い目をしながら呟く

緊那羅きんならとの初対面(及びその他)を思い返し4人はそろって溜息をつく

「俺今度あんなんなったら京助と友達やめるわ」

キラキラと爽やかな(エセっぽい)笑顔を浮かべて坂田が申し訳なさそうに手を振った

南、中島も同じく爽やかな(エセっぽい)笑顔でコクコク頷いている

「…俺も自分と友達やめてぇよ…」

京助はガックリと肩を落とした

「いや、無理だから」

追い討ちをかけるように更に爽やかな笑顔で南が京助の落ちまくった肩に手を乗せた


「じゃあまた明日ね~」

一学期中はほぼ午前授業の小学一年生悠助が友達と別れ、石段を駆け上って元気よく玄関の戸を開けて

「ただいまー!!」

と家の奥に向かって叫ぶと

「おかえりだっちゃ」

後から緊那羅きんならが声をかけてきた

「ただいま緊ちゃんー」

腰に抱きつき満面の笑みで緊那羅を見上げると緊那羅きんならも笑顔で少し汗ばんだ悠助の前髪を撫で上げる

ゴト…

ふと庭で何か重たいものが動く音がした気がする

「…今何か気こえたよ…ね?」

悠助が庭の方を見ながら緊那羅きんならに聞いた

「…悠助も聞こえたなら気のせいじゃないっちゃね…」

昨日の迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱを思い出し緊那羅きんならの顔つきが険しくなる

腰から悠助を引き離し庭へと向かう

その手にはいつの間にかあの棒のようなものが二本握られている

「緊ちゃん…」

「悠助はそこにいるっちゃ」

声をかけてきた悠助に振り向かないで言った

ゴト…ゴト…

音がだんだん近づいてくる

緊那羅きんならが庭に近づいているせいもあるが向こうの音も緊那羅きんならに近づいている様な気がする

「…私の…役目…京助、悠助…」

グッと手に力を入れて棒のようなものを構えた緊那羅きんならが庭に足を踏み入れた

「!!?; ッーーーうわぁぁっ!!!!」

「緊ちゃん!!?」

玄関先で緊那羅きんならに言われたとおり待っていた悠助は緊那羅きんならの叫び声を聞いて一瞬迷った後庭へと駆けていった


自宅玄関の引き戸を開けた京助は再び玄関の引き戸をゆっくりと閉めた

そして表札を見、ここが自分の生まれ育っている【栄野】という家であることを確認した

「おかえり~京助~」

悠助が閉めた戸をカラカラと開けて抱きついてくる

「なぁ…悠…お兄ちゃん今な~んか変なもの見えたんだけどアレ、何かなぁ~?」

悠助を見るわけでもなくどこか遠くのメルヘンな世界を見ているような遠い目で京助は訊ねた

「ヒマ子さんだよ」

玄関の中を振り返るとそこには

「お帰りなさいませ京様」

そういって両手(?)をつき頭(?)を下げている物体がいた

「ヒマ子さんって…あのヒマ子さんか?」

京助は庭で悠助が育てている鉢植えの向日葵を思い出した

そしてその物体を改めてみると確かに【ヒマ子さん】と書かれた鉢がついている

「そうでございます…わたくし悠様に植えていただいた向日葵、ヒマ子でございます」

ヒマ子は両手…いや両葉をついたまま頭…(?)をあげ京助を見ると顔を赤らめた

「…ナンダヨその行動は;」

まるで恋する乙女のようなヒマ子のしぐさに京助が突っ込む

「ヒマ子さん、京助が好きなんだって」

「は?」

悠助の耳を疑いたくなる問題発言に京助が固まる

「いやですわ悠様!! そんなはっきり…私困ってしまいますわ…」

ヒマ子が両葉で顔を支えイヤイヤと横に振る

「…困ってしまうのは俺の方だ…」

玄関の柱に頭をつけて溜息をつく

チラリとヒマ子の方を見ると片葉で床に【の】の字を書きながらモジモジしている

京助はガックリとその場にへたり込んだ

「あ!! そうだ京助! 緊ちゃんが大変なのー!!」

悠助がへたり込んだ京助の制服を引っ張って騒ぐ

「大変~? 何が…;」

のろのろと立ち上がると手を引っ張って庭につれて行こうとする悠助に身を任せよろよろとついていった

「…何してんだ緊那羅きんなら…」

庭に出ると緊那羅きんならが洗濯物干し竿の下に座り込んでいた

「…緊那羅きんならって」

「ギャーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!;」

「だーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!?;」

呼んでも返事をしない緊那羅きんならの肩を京助が叩くと途端に上がった緊那羅きんならの悲鳴

ゴン

「落ち着け;」

それに対して京助が緊那羅きんならの頭を殴った

「きょ…うすけ…」

ハッとして顔を上げた緊那羅きんならが京助と悠助を見、安心したように溜息をついた

「緊ちゃん、もう大丈夫だからね? 京助帰ってきたから」

悠助が『ねー』っと京助を見上げて笑う

「…で? 何が大変なんだ?」

確か悠助は緊那羅きんならが大変ということで京助を庭に連れてきた

見たところ別に何も【大変】そうには見えない緊那羅きんならとその周辺に何が大変なのか悠助に尋ねた

「緊ちゃんね~立てないの」

「…は?」

緊那羅きんならを見ると真っ赤になって俯いた

「…腰…抜けたのか?」

「あんなもんみりゃ誰だって腰抜かすっちゃッ!!;」

ぼそっといった一言に真っ赤になりながら緊那羅きんならが声を張り上げて言い返す

【あんなもん】とはヒマ子さんのことらしい

迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱがやってきたのかと思い覚悟を決めて庭に入ったのはいいがいたのは迦楼羅かるらでも乾闥婆けんだっぱでもなく動いて話す向日葵のヒマ子さん

極度の緊張と決死の覚悟で精神がいっぱいいっぱいの状態で【あんなもん】のヒマ子さんを見た緊那羅きんならは腰が抜けてしまったのだ

「俺は抜かさなかったぞ」

ざまぁみろ的笑みを浮かべ胸を張る京助を緊那羅きんならは赤い顔でにらんだ

「僕も抜かさなかったー!!」

悠助がピョンピョン飛び跳ねながらはしゃぐ

「わかったっちゃから…起こして…;」

はぁ~っと深い溜息をつき緊那羅きんならが手を差し出すと京助がその手を掴んで立たせる

結構長い時間その場に座り込んでいたらしく立てた後も足が笑っている緊那羅きんならを京助と悠助が支えながら家に入る様子をみていた【あんなもん】のヒマ子は密かに緊那羅きんならに対し女のジェラスィーというものを燃やしていた

「このままではいけませんわ…私女として男の緊那羅きんなら様に負けては一生の恥…京様は私のものでしてよ…」

緊那羅きんならはただならぬ殺気を感じぶるっと震えた

それはこれから始まるヒマ子の勘違いな敵対心の幕開けの合図だったのかもしれない


ジー…パシン

「…なにしてるっちゃ?;」

メジャーを持ち緊那羅きんならの腰に両葉を回しているヒマ子に声をかける

「…57.4cm…勝ちましたわ…」

ボソッと呟くと緊那羅きんならに背をむけて走り出す(鉢引きずったまんま)

「京様ー!! 私勝ちましたわーーー!」

ヒマ子が何にどうして何を勝ったのかわからないが京助の名前を高らかに叫びながらゴトゴト鉢のまま走るヒマ子の後姿を緊那羅きんならは箒を持ったままぽかんと見ていた

「京様!! 私やりましてよ!緊那羅きんなら様に勝ちましたわ!」

「ぶへほッ!!;」

鉢がついたままタックル抱きつきを直で受けた京助は数メートル吹っ飛んだ

緊那羅きんなら様ウエスト57.4cmに対し私ヒマ子なんと14cm!」

ヒマ子は腰(にあたる部分と思われる)に葉をやりセクスィーポーズを決めて勝利宣言をする

「勝った…つうかお前3サイズ全部同じなんじゃねぇの?」

タックルをくらって埃まみれになった京助の言葉を受けてヒマ子はメジャーで3サイズを計り始め、そしてガックリとその場に座り込む

「…おなじ…でしたわ…」

ヒマ子の頭上に【ずん胴】の文字が浮かんで見えた(様な気がした)

「…ボンキュッボンの向日葵がいてもどうよって感じだけどな」

胸と尻をプリプリさせているヒマ子を想像して京助は青い顔で遠くを見つめた


「なにしてるの~?」

庭でコマとイヌと遊んでいた悠助はヒマ子のいつもと違う格好を見て声をかける

日傘をさしサングラスをかけ挙句日焼け止めのクリームを塗っていた

「白い肌は女の命ですわ焼くなんてもってのほか!! 美の敵ですわ!! 美肌なら緊那羅きんなら様に負けませんわよ!」

そう力説するヒマ子に

「でもヒマ子さん緑色だよ?」

悠助の痛恨の一撃、ヒマ子は固まってしまった(RPG風に)

「ピッ●ロさん(ドラゴ●ボール)と同じだね~」

夏休み特番放送でドラゴ●ボールを昨日見た悠助は楽しそうにヒマ子に言った(悪気皆無)


「…京様…」

白い布きんが掛かった皿を真っ赤になりながら両葉で京助に差し出た

「暑い中草むしりご苦労様です…あの…よろしかったらお食べになってください…元気になりますわ」

京助が皿を受け取ると両葉で顔を覆い、恥ずかしそうに身をくねらせる

その様子を頬を引きつらせながら見ていた京助と目が合うと『キャッ』と小さく声を上げてしゃがみこんでしまった

「ま…ぁ何だありがとうな;」

引きつった笑顔で皿の布きんを取った京助は中のものを見て固まった

「…なんだ…コレ」

異臭を放つ土のような物体…

「榎樹屋の植物用肥料『元樹君ハイパー』ですわvVどうぞお食べに…」

「食えるかッ!!;」

体育のみ5の京助が力いっぱい放り投げた『元樹君ハイパー』は皿ごとはるか彼方に飛んでいった


「何なんだよアイツはッ!!;」

散々ヒマ子に付きまとわれ夕方、京助がついにキレた

「ヒマ子さんは京助のこと好きなんだってば」

「こちとら迷惑なんじゃっ!! てか何で向日葵が動いて話してるんだよッ!」

頭をかきむしり声を荒げながら京助はキレていた

「大体俺をどうして好きになったのかがわからんッ!!;」

「本人に聞いてみたらどうだっちゃ?」

意味も無く歩き回っては意味も無い動きをする京助に緊那羅きんならがさらりといった

「私もなんで敵視されているのか丁度聞こうと思っていたところだっちゃし…」

敵視される理由がわからないのに敵視されている緊那羅きんならも疲れてきているらしい

「僕もいく~」

3人はヒマ子のいる庭に向かうことにした


「ヒマ子さんっ!?」

先に庭にはいった悠助の尋常じゃない声を聞いて京助と緊那羅きんならが急いで庭に入る

そこにはぐったりとしてヒマ子が倒れていた

「ヒマ子さん!! ヒマ子さん!!」

悠助が泣きそうになりながらヒマ子の体を揺すって起こそうとする

「悠助ストップだっちゃ!」

ヒマ子をガクガクと揺すっている悠助を捕まえて緊那羅きんならが押さえる

「ヒマ子さん! ヒマ子さんー!! 死んじゃやだぁー!!」

うわーんと声を上げて悠助が泣き出すと京助がぐったりしているヒマ子に近づいた

「京助…」

泣いたままの悠助を抱きながら緊那羅きんならもヒマ子に近づく

「…なんだ? これ…」

ヒマ子の葉に触った京助はぬるっとした感触を手に感じた

「なんだっちゃ?」

緊那羅きんならも悠助を抱いたまま京助の手を見る

ヌルヌルした物体が京助の手についていた

「…何か…どっかで嗅いだことのある匂いなんだけど…」

京助はフンフンと手の匂いを嗅いで何かを思い出そうとしている

「…まさか…日焼け止めか?;」

日差しの強い日母ハルミがよくつけていた日焼け止めクリームの匂いであることを思い出したらしい

「京助嗅覚犬レベルだっちゃね…」

緊那羅きんならが感心して(?)いる

「そう…いえばね、昼間緊ちゃんが美肌で緑色の女の命だからピッコロさんで焼かないって…」

「は?;」

悠助が泣いた後特有ののしゃっくり地獄に陥りながら昼間ヒマ子が日焼け止めクリームを塗っていたことを告げた

「そりゃ…ぐったりするの当たり前だわな…そんなもん塗ったら光合成できねぇし…;」

京助が溜息をついた

「…助かるっちゃ?」

「助かるの?」

緊那羅きんならと悠助が恐る恐る京助に聞く

「…クリーム落として水やって…明日日光浴びたら元気になるだろうさ」

頭をかきながら京助が立ち上がり家の中にはいっていった

「…よかったっちゃね悠助」

悠助を地面に降ろして頭をなでてやると目をこすって

「うんっ!!」

と赤い目のまま満面の笑みで緊那羅きんならを見上げた

「はーぃお前らも手伝えよ?」

手にタオルとバケツを持って京助が家から出てきた


体が軽くなっていくのを感じてヒマ子がうっすらと目を開けるとすっかり暗くなった空に星が見えた

「私…」

ゆっくりと頭を右の方に向けると縁側に緊那羅きんならの姿があった

「きん…なら様…」

その声に気づいた緊那羅きんならは小走りで近づいてきてしゃがむとヒマ子の顔を覗き込んだ

「大丈夫だっちゃ?」

額(にあたる部分)に手を当てて心配そうに聞いてきた

「私…どうしたのでしょう…」

何も覚えていないらしいうつろな眼で空を見るヒマ子に緊那羅きんならが日焼け止めのせいで光合成ができなかったということを説明した

「…そうでしたの…私ったら…申し訳ありません…」

ヒマ子は目を閉て緊那羅きんならに謝った

「ヒマ子さんは本当に京助が好きなんだっちゃね」

「俺の何処がいいんだかな」

振り返ると縁側には柱に背中を預けて京助が座っていた

「京様…」

ヒマ子が名前を口にすると京助が庭に下りてきた

「私向こういってるっちゃ」

緊那羅きんならは立ち上がり京助とバトンタッチというように手を合わせると家の中に入って行った

しばらく沈黙が続いた後京助が口を開いた

「…もう大丈夫なのか?」

「はい…ご迷惑をお掛けいたしました…」

申し訳なさそうに謝るヒマ子に京助は続きの言葉を詰まらせまたしばらくの沈黙

「あの…さ俺の何処が良くて好きなわけ?」

ラチがあかないと判断した京助はいきなり核心…一番聞きたかったことを聞いてみた

「…初めてだったのですわ…」

頬をほんのり赤くしてヒマ子が京助をチラリと見た

「何が?」

その仕草に多少悪寒を感じつつ京助が聞き返す

「…接吻…ですわ」

「はぁッ!?;」

ヒマ子の口から出た『せっぷん』という言葉に京助の顔がこの世のものとは思えないものに変わった

ヒマ子とキス

向日葵とキス…

「忘れもしない強風の吹いたあの日…私の心は京様に奪われたのですわ…」

両葉を頬にあて一人ヒマ子は盛り上がっていく

「あの激しく痛いキス…その瞬間私は京様に操を立てたのですわ! いやんもう!! 恥ずかしいですわっ!!」

身をくねらせ更に一人で盛り上がるヒマ子に対し全く身に覚えの無い京助は激しく混乱しつつ歯止めの一言をヒマ子に言った

「…俺キスした覚え全ッ然ないんですけども;」

その一言で今度はヒマ子の顔がこの世のものとは思えないものに変わり…

「ひ…ひどいですわーーーーーッ!!」

声を上げて泣き出した

その声を聞いて緊那羅きんならと悠助、母ハルミまでもが庭にやってきた

「私は真剣でしたのにッ!! やはり緊那羅きんなら様とできてらしたのですわねッ!! 私は遊びだったのですわねーーーッ!!!!」

緊那羅きんならの姿を見たヒマ子は更に声を上げて泣き出す

「ハィ!?;」

京助と自分ができているといわれ緊那羅きんならは京助とともに素っ頓狂な声を上げた

「ねぇねぇできてるってなに?」

悠助が母ハルミのスカートを引っ張ってのんきに聞くと母ハルミも

「そうねぇ…らぶらぶ…ってことかしら」

とのんきに答えた

緊那羅きんなら様と違ってしょせん私は植物!どんなに頑張って光合成しても京様との子供なんて出来ないですわ!!葉緑体しか増えないのですわーーー!!!」

「いや私もできないっちゃ子供(男だし)」

緊那羅きんならの小さなツッコミに一瞬動きを止めたヒマ子だが

「でもラブいですわーーーーー!!!」

と叫び再び泣き出した

「落ち着け」

コツン、と京助がヒマ子の頭を軽く小突いた

驚いて泣くのを忘れたヒマ子が顔を上げると

「あの…さぁ」

京助は面倒くさそうに何かを言おうとしている

「…キスしたとかしてないとか? 緊那羅きんならとできてるとかはこっちに置いて置いて…頑張って光合成で葉緑体だかが増えるってのはいいんじゃねぇ? ソレ増えたらお前綺麗に咲き続けられるんだろ? …俺理科嫌いだからよくわからねぇけど…向日葵って花好きぞ」

目を細めてどこか呆れたように優しく笑う京助を見てヒマ子は頬を赤くした

「僕も向日葵大好きだよー!!」

庭に下りてきた悠助がヒマ子に抱きついて頬擦りをする

「青空と向日葵ってすっごく綺麗なんだよーだから好きー!! だからヒマ子さんも【こうごうせい】たくさんして綺麗なままでいてね?」

にっこりと笑って悠助がヒマ子を抱きしめる

「折角綺麗に咲いてるのにそんなにないたら花弁取れちゃうっちゃよ?」

緊那羅きんならもしゃがんでヒマ子を撫でた

「私…私…」

「向日葵はね顔をお日様に向けて咲くから輝くの…明日もいい天気だそうだから…また綺麗になれるわね…もっと綺麗になって京助を見返してあげたら? ヒマ子さん?」

母ハルミが悠助の頭に手を置き笑いながら言った

「なんじゃそれ;」

京助が苦笑いで反論する

「…ありがとう…」

ヒマ子が小さく言った


挿絵(By みてみん)


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