【第七回・伍】ごー・あ・(田)うぇい
田舎ならではの小中学校合同行事の日事件は起こった
よく晴れた空の下紺色の学校指定ジャージを着た集団と私服を着た集団とが規律よくならんでいた
「それでは小学生の皆さんは中学生のお兄さん、お姉さんのいうことをよく聞くようにしてくださいね」
ガーガーとノイズ交じりの声が響いた
「二年生と五年生は一組、三年生と四年生は二組、そして一年生と六年生は三組が担当します。それぞれの委員長と副委員長は小学生を誘導してください」
その声と共に紺色の学校指定ジャージ集団から計九人の生徒が私服軍団の元に小走りで向かう
「…南~中島~ウチの康平【こうへい】頼むな」
浜本が丁度近くにいた南と中島に言う
「お~バッチリ可愛がってやっからなッ」
南がまかせろ!とばかりの笑みを浜本に向けた
「その点京助は悠と一緒なんだな」
中島が頭にタオルを巻いていた京助に言った
「みたいだな~…まぁ…どうなるってわけでもねぇし」
頭の後ろでしっかりタオルを縛った京助がジャージの袖を捲り上げる
「京助~!!」
やたら元気のいい悠助の声が聞こえ京助含め周りの皆が声の方を振り向くと悠助が大きく手を振っていた
「お~コッチコッチ」
坂田が大きく手を振り替えして悠助を呼んだ
「よかったねー悠助~京助と一緒で」
指定ジャージを膝下で切ったいわゆるハーフパンツをはいた阿部が本間とミヨコと共に悠助の後ろからついてきた
「うんっ!」
満面の笑みで悠助が言う
「本ッ当悠はおにいちゃんッ子だよなぁ…可愛い可愛い」
浜本がグリグリと悠助の頭を撫でた
「悠助から離れろッ!!」
その次の瞬間聞こえたこの場にはいては駄目であろう人物の声
「慧喜!?;」
阿部がその人物の名前を呼んだ
「おま…っ!!;」
京助が驚いた顔で慧喜を指さす
「悠助に触るな!」
慧喜は浜本を睨みながら大股で近づくと悠助を取り上げた
「慧喜? なんでここにいるの?」
痛いくらいの抱きしめにも慣れたのか悠助が慧喜を見上げた
「アンタは確か…ラムちゃんと一緒にいた…ってことはッ!!」
浜本がウキウキ加減で辺りを何か探し始める
「あっれ~慧喜ッちゃん?」
いがぐり頭の少年を連れた南が慧喜を見つけ軽く手を振った
「こうちゃ~ん!!」
「お! 悠助!!」
悠助がそのいがぐり頭の少年に向けて【こうちゃん】と名前を呼びながら手を振るとこうちゃんも悠助に向けて手を振った
「ウチの馬鹿アニキよろしくなー!!」
こうちゃんが大声で言うと浜本がこうちゃんに無言で近づき一発
バコッ
「…って-----------------ッ!!; 何すんだこの馬鹿兄!!」
こうちゃんが頭を押さえて浜本に向って怒鳴る
「やかましい!」
浜本がソレに怒鳴り返す
「同じ兄弟なのにお前んトコとエッライ違いだなぁ;」
坂田が京助と悠助を見ながら言った
「…でもアタシ反抗的な悠助って想像できないわ」
阿部が悠助をチラッと見て言う
「何~?」
悠助が笑顔のまま首をかしげると阿部も悠助に笑顔を返した
今日は京助達の通う正月中学校の二年生と悠助の通う正月町立別苅小学校児童との合同田植えというなんとも田舎町ならではの行事が行われている
正月町には小学校が5校、中学校が2校、高校が1校ある
年々少子化が進んでいく中でせめて兄弟がいるように思ってほしいという小学中学の校長、そして教育委員長の計らいの下代々行われてきたなんだかそれなりに伝統のある行事だという
「京助~僕もタオルでぎゅってやりたい~」
悠助が自分の持っていたタオルを京助に差し出した
「俺が結んであげるよ悠助」
慧喜が悠助ににっこりと微笑みかけながらいう
「いいねぇ…ラブラブ」
本間が阿部をチラッと見て言った
「…何よ」
そんな本間に阿部がむすっとした顔を向ける
「ね! ね!! あのさラムちゃんは?」
浜本が悠助の頭にタオルを巻いていた慧喜に聞く
「ラム…? あぁ緊那羅ならいないよ?」
優しくでも解けてこない程度の力でタオルを縛った慧喜が浜本に淡々と答えた
「んじゃお前どうやってここまで…」
京助が慧喜に聞く
「よ! 竜のボンボン~」
やたら明るい声に一同が振り向く
「あっくんにいちゃん!」
悠助が阿修羅に向かって手を振った
「…変態」
本間がぼそっと呟く
「変態だな」
坂田が口の端を上げて言った
「なんつー格好してんだよ…何だよその背中の物体は;」
京助が呆れ顔で聞く
「コレか? コレはほら…ッジャ----------------------------------------ンvV」
阿修羅が嬉しそうにそして高らかに掲げたのは
「…ハニワ?;」
阿部が引きつったような顔で阿修羅の掲げた埴輪を見る
「ハニワじゃなきによ!! 嬢!」
阿修羅が阿部を指差した
「ハニワじゃなきゃ何なんだよ」
緊那羅ではなく見知らぬしかもハニワを背負った阿修羅に向かって浜本がどことなく不機嫌そうに聞く
「コレはだな…オライの最愛の恋人なんっって」
そういいながらハニワに頬擦りし始めた阿修羅に対し一同が固まる
「…変態だな」
浜本が言うと揃って頷く
「コラ! そこ!! さっさと取り掛かりなさい!」
先生に言われて周りを見ると自分達以外が皆キャーキャーワーワー言いながら田んぼの中に入っている
「くっそ! 出遅れた!!;」
京助と坂田がジャージの裾を捲り上げてスタンバるのを見て悠助も真似をする
「おっそいぞ~ソコ~」
中島と南を始め他のクラスからも野次や笑いが飛んでくる中笑いながら京助が田んぼに足を入れる
「今年の一年生少ないんだね~…8人?」
阿部が紺色のジャージ集団の中にぽつぽついる小学一年生を数えて言う
「六年だって4人だろ」
浜本が歩きながら言った
「俺達の時が一番人数いたんだね」
南が言う
「15人だっけ」
坂田がおいてあった苗の株を適当にもぎ取って田んぼの中にいる京助に投げ渡す
「なげんなっーの!;」
京助が怒鳴る
「俺ー南ー京助ー中島ーにしばぴー…」
浜本が指折り別苅小学校出身の同学年の名前を挙げていく
「少なくなったよねー…」
南が溜息混じりに言った
「で…何の用があってきたんだよ変態」
坂田が田んぼの中から阿修羅に向かって聞く
「オライ? オライはだな…」
「俺は悠助に会いに来た」
阿修羅が答えるより先に慧喜が聞かれてもいないのに答える
「ありがと~慧喜~」
悠助が笑顔を向けると慧喜がほほを赤らめて微笑む
「…麻衣の入る隙間ないじゃない」
その様子を見ていた麻衣が頬を膨らませる
「あれ? 麻衣ちゃん悠助好きなの?」
阿部が植えやすいよう苗を小分けにしながら隣にいた麻衣に聞く
「うんだって優しいし可愛いし」
都会から越してきたというだけあってどことなく他の子達よりませている麻衣が阿部の質問にさらりと答える
「…そっか…でも悠助にはえ…」
「負けないもん」
言いかけた阿部の言葉を麻衣が止めた
「だって麻衣だって悠助好きだもん」
そう言って立ち上がると麻衣が悠助に向かって小走りで駆け出した
「…強い子だね」
追加の苗を持ってきた本間が阿部をチラッと見て言う
「…何よ」
視線に気づいたのか阿部が本間を見上げる
「別に?」
苗を地面に置き本間がふっと笑った
「オライはでっかいのに用があって来たんきに」
阿修羅がハニワを背中に背負いながら笑う
「でかいの?」
浜本が田んぼの中で今にもコケそうになっているハルを見た
「中島か?」
坂田が腰に手を当てて後ろに反りながら言う
「そうそう!! ソイツさ! ありがとさんメガネ」
阿修羅が笑いながら坂田に言う
「俺はメガネかよ;」
坂田があきれたような顔で阿修羅を見た
「んで? 中島に何の用だよ?」
端まで植え終わった京助が泥のついた足のまま土手を歩いて阿修羅の隣に立って聞く
「おぉお帰り竜のボン! いやぁ…コノ…愛しい人のことを詳しく聞こうと思ってさ」
阿修羅が京助に背中を向け背負っているハニワを見せた
「…何をどう詳しく聞くんだ?;」
乾いた泥がついている手を腰に当てて京助がハニワを見る
「何って…まぁ…何かを?」
ハッハと笑うと阿修羅が止まった
「でっかいの見っけ-----------------!!」
「あっくん見っけ------------------ッ!!」
バキッ
「あ」
そして
バシャ
「もう! 信じらんない!! 私を置いていくなんてッ!」
田んぼの中に沈んでいく阿修羅の頭の上にそびえる紺色の二本のスラリとした脚
「おぉぉぉぉおお!!!」
他のクラスの男子からも上がる歓声
「ヨシコお姉さん!」
白い布 (羽衣)のオプションがついたヨシコこと吉祥が阿修羅の頭から飛び上がり土手に着地する
「…やっぱお前類は友を呼ぶってな」
坂田が京助の肩を叩き言う
「コラ!! そこ!」
この騒ぎを先生達が黙って見ているわけはなく
「…キタキタキタ…;」
京助と坂田が迫ってくる先生集団を見ないようにして目をそらした
「何を騒いでいるんだ…やっぱりお前か京助に坂田;」
メガネをかけて髪を微妙にオールバックにした男性教諭が呆れ顔で京助と坂田を見る
「順ちゃん…やっぱって何やっぱって;」
坂田が【順ちゃん】と呼んだ男性教諭の後ろから女性教諭がやってきた
「悠くん、お兄さんお姉さんの言うこときかないと駄目でしょ?」
中年の結構キャリアがありそうな女性教諭が悠助の頭をなでながら注意する
「悠助に触るな!! 悠助を怒るなッ!!」
途端 慧喜が悠助を抱き上げて女性教諭に怒鳴る
「慧喜! いいの! 渋谷先生は先生だからいいの!!」
抱き上げられた悠助が慧喜に必死に説明する
「…で…京助…この方々は?」
順ちゃんが阿修羅とヨシコ、そして慧喜を一通り見て最後に京助を見た
「従兄弟です」
京助が何のためらいもなくきっぱりと真顔で答えた
「…随分変わった格好の従兄弟なんだな」
順ちゃんがヨシコと阿修羅の格好を見て言う
「え~あ~…;」
京助が説明に困っているのを見て坂田のメガネが光った
「順ちゃん実はコノ京助の従兄弟達中国雑技団なんだ」
「マジ!!?」
坂田の言葉に周りの一同が阿修羅とヨシコを取り囲んだ
「だからそんな色っぽい格好してんのかー!!」
「ねね! 何かやってやって!!」
「にーはお! にぃはお~!!」
あちこちから誰が言ったのかわからない言葉が阿修羅とヨシコに降りかかっていく
「…悪化してないか?」
京助が横目で坂田を見る
「…そう…かもですね」
坂田がその京助の目から逃れるように顔をそらした
「ちょ…何!?; 何なの!?;」
ヨシコがわけもわからないまま生徒達にもみくちゃにされている
「…オライ等が中国人とか主張せばいいんかね~?」
阿修羅が手を上げて京助に聞いてきた
「…まぁ…うん;」
京助が躊躇いがちに頷く
「ほーほーぅ…え~…じゃぁ…」
阿修羅がコホっと軽く咳をした
「***************** (たぶん中国語)」
「おおぉおおお!!」
阿修羅の言った言葉に生徒達がどよめいた
「****************!**************!? (たぶん中国語)」
さらに阿修羅が何か言った
「順ちゃん何ていってるかわかる?」
阿部が順ちゃんに聞く
「…阿部…先生は英語専門だ;」
順ちゃんが苦笑いで言う
「***********?*********…********* (たぶん中国語)!!でっかいの------------------!」
阿修羅が中島を見つけぶんぶんと手を振った
「ちょーごめんなーハイハイ」
阿修羅が生徒達を掻き分けて中島の元に行こうとする
「あ! もう! 待ってってば…ッ!;」
ヨシコも必死に阿修羅を追いかけて生徒達を掻き分ける
「中島~ご氏名~」
坂田が中島に向かって手を振る
「あ?」
泥だらけの手で苗を植えていた中島が顔を上げた
「俺を呼ぶのは誰ぞ~?」
ぬちゃりぬちゃりとぬかった泥をこいで中島が生徒の垣根ができている土手に近づく
「んも…きゃぁッ!;」
生徒の垣根を掻き分けてきたヨシコが何かに足を引っ掛けたのか前のめりになって中島めがけて倒れてきた
「だぁッ!!;」
バシャ-------…
春を半分過ぎた時期にちょうどいい風が少し強めに吹く中小声でのざわめきが広がった
「…オイ…;」
耳元で聞こえた声にヨシコがゆっくりと目を開ける
「重い」
二言目の言葉でヨシコが目を見開いて起き上がった
「な…」
ヨシコの下には半分田んぼに埋まった中島
「…何してんの?」
そんな中島の上からどこうとせずにヨシコが真顔で中島に聞く
「お前が勝手に俺に倒れ掛かってきたんだろうが!!; 早くどけよ重い」
頭だけを何とか起こして中島が怒鳴る
「…どけって…言われても…」
周りを見てヨシコガ呟いた
「…俺の体踏んで飛びゃぁいいだろ。お前ならできんだろ?」
中島が言う
「…踏んでって…いいの?」
ヨシコが中島を見る
「いいってんだろ; 俺は早くどいて欲しいんだよ…;」
中島が疲れたのか頭をまた泥に落として再びまた頭を起こした
「それともどっか怪我とかしたんか?」
中島が聞くとヨシコが驚いた顔をした後首を横に振った
「救護班~到着~」
板を持った南と京助、坂田が中島とヨシコの周りに集まった
「ハイハイ~ヨシコちゃん立って~板に乗って~飛ぶ!」
南がヨシコの手を引っ張って立たせると板を田んぼの上に置いた
「ハイハイ~柚汰君は俺等につかまって~」
坂田と京助がヨシコのどいた後に中島の両腕を持って引っ張って中島を起こした
「いんや~災難だったなでっかいの」
土手の上で阿修羅がひょうひょうと笑いながら言った
「うっへぇ~; 泥臭せぇ;」
中島が背中全体泥まみれになった自分の匂いをかいで顔をしかめる
「あっちにたしか小川あっただろ?洗いに行くか?頭だけでも」
京助が右方向を指差して言う
「お~い! 皆の衆~使ってないタオルとかあったら貸してくりゃれ~」
南が生徒群に向かって叫ぶ
「何~誰かカッパしたん?」
【解説しよう。『カッパする』というのは『ひっくりがえる』または『水の中で転ぶ』という意味である】
「中島~」
南が中島の名前を出すとタオルを手に持った生徒が数名笑いながら集まってきた
「うっわ~泥だらけや~ん;」
南にタオルを手渡しながら男子生徒が苦笑いで中島を見る
「名誉あるカッパなんだぞ~」
先に土手に上がった京助が中島の手を引っ張る
「人命救助さ人命救助」
中島の尻を押しながら坂田が言う
「おうよ」
土手に上がった中島が腰に手を当てて胸を張った
「なっかじっまくんッおっはいんなさいっ」
南が手招きして小川の中に中島を招きいれようとする
「いい感じに冷てぇぞ~い; 風邪引かねぇか?;」
京助が先に小川に手を突っ込んで洗い中島に言う
「泥乾いてきて後ろカッパカペで重てぇんだわ;」
中島の髪や服についた泥が乾いて固まってきている
「でもさ~なんだかんだ言ってもヨシコちゃんを抱いたわけだし役得じゃん中島さんよ」
小川の中に入った中島をしゃがみこんで見下ろすと南がニヤニヤ笑った
「抱くっつーか…別に…ただ倒れてきただけだし?」
借りたタオルの一枚を小川の水につけて下を向き頭をぬらして泥を流しながら中島が答える
「柔らかかったんじゃねーの? 乳とか乳とか」
手を洗って小川から上がった京助が中島を見下ろして聞いた
「柔らかいもなにも感じ取るヒマねぇってんよ;…まぁ…しいていうなら…」
もう一枚タオルを濡らして仕上げに髪を拭きながら中島が頭を上げた
「しいて言うならなんだよ」
早く次の言葉を言わない中島に坂田が突っ込む
「重…」
ミシ…ッ
中島が言い終わらないうちに何かが軋む音がして京助達の視界から中島の頭が消え紺色の二本の足が現れた
「最ッ低!! 沈んじゃえ馬鹿ッ!」
真っ赤な顔をしたヨシコがガスガスと中島の頭を踏む
「ヨシコちゃん! ストップストップ!!; 死ぬって!! 中島死ぬ!!;」
南と坂田、京助が必死にヨシコの足を抑えてヨシコを宥める
「コラコラヨシコ;恩人になにしちょん;」
苦笑いで阿修羅がやってきてヨシコに言った
「…生きてるか~中島~;」
春の冷たい雪解け水で出来た小川の中に浮かぶ中島に向かって京助が声をかける
「…まぁ…生きてはいます…」
中島がヒラヒラ手を振った
「よ…よかったじゃん;背中綺麗になってるぞ?;」
坂田が手を差し伸べて中島を引っ張りあげようとする
「いや~; 散々だなでっかいの」
阿修羅も坂田を手伝い中島を引っ張り上げた
「ホラ! ヨシコ! お礼とスンマセンは?」
阿修羅がヨシコに向かって言う
「ありがとうは言うわ!! でも謝らないんだから!! そうよ! 絶対謝ってなんかやらないわ!!」
眉を吊り上げてヨシコが怒鳴る
「んな…ヨシコ…お前が重いのはじじ…」
バキッ
阿修羅が言い終わる前に坂田の顔面スレスレを紺色の二本の足が風を切って飛び阿修羅の顔面に見事なまでの両足キックをお見舞いしていた
「…乱暴な女ー…」
中島がボソッと言うとヨシコがキッと中島を睨んだ
「何よ! 何よ何なのよッ!! 乱暴で悪かったわねッ!!」
ヨシコがズカズカと大股で歩き中島に近づく
「別に誰も悪いとか言ってねぇだろ;」
タオルを首にかけた中島がヨシコに言い返す
「私にはそう聞こえたわ!! うん! そう! 聞こえたんだもの!!」
背の高い中島を上目で睨む形でヨシコが再度怒鳴る
「いちいちそんな大声出さなくてもいいじゃん! やかましい…」
さっきより少し大きな声になった中島がソレに言い返す
「怒鳴らせてるのはあなたじゃない!! そう! あなたが悪いんでしょ!?」
さらにヨシコが怒鳴ると中島がむっとした顔になった
「なんかスッゲームカツク」
中島が言う
「何よ! 私だってムカついてるわ!! うん! そう!! すごく嫌なヤツじゃない?!」
ヨシコが中島を睨みながら言った
「ハイハイハイハイ~…」
阿修羅がパンパンと手を叩いて二人の間に割ってはいる
「復活早ぇえなぁ;」
さっきヨシコの見た目にも相当威力のありそうな両足キックを喰らったばかりの阿修羅を見て南がつぶやく
「でっかいのもヨシコもまぁ座る座る」
阿修羅が二人の肩をつかんで押しなが座ると御互いを睨みあったままで中島とヨシコも座った
「竜のボンとメガネと…ちっこいのもコッチコッチ」
阿修羅が京助たちを手招きする
「お前はちっこいのだそうだぞ南」
坂田が南の肩を叩いて阿修羅のほうに歩き出した
「…傷つくなぁ; まだこれから成長期なのに…たぶん」
南が苦笑いで坂田の後に続くと京助もソレについていく
「まぁ…こんないい天気の下喧嘩すんのもいいけど」
「いいんかい;」
阿修羅の言葉に坂田と京助が同時に両方から突っ込んだ
「もっと気分良くなることしようや」
バンバンとヨシコと中島の背中を叩くと阿修羅が二人の間にハニワを置いた
「…俺のやったハニワじゃん」
中島が置かれたハニワを手に取った
「返せいっても返さなんだぞー?」
阿修羅が笑いながら言う
「言わねぇよ;」
中島がハニワを置いて溜息をついた
「ヨシコ…いい加減睨むのやめんさ;」
阿修羅が中島を睨んだまま顔つきを変えないヨシコに言う
「無理よ無理無理…だって私ムカついてるもの」
中島を睨んだままヨシコが阿修羅に言った
「ガキ」
中島がヘッと挑発的な笑いを浮かべながらヨシコに言う
「お前は…;」
そんな中島の頭を坂田がぺシッと叩いた
「まぁヨシコはまだ子供っちゃー子供だけどもさ」
阿修羅がヨシコを見て言う
「な…私のどこが子供なのよッ!!」
ヨシコが阿修羅に向かって怒鳴った
「そんなとこ」
阿修羅がヨシコの頭を小突いた
「我侭、自己中心的、攻撃的…その他」
言いながら阿修羅がコツンコツンとヨシコの頭を小突き続ける
「教育係りとしては結構頭を悩ませてるんだよなオライは」
「教育係!?;」
阿修羅の言った【教育係り】という言葉に3馬鹿と京助が声を揃えて言うと一斉に阿修羅を見た
「…お前…教育係って」
京助が阿修羅を指差すと阿修羅がにーっと言う笑みを返した
「一応オライはヨシコ…吉祥の教育全般を任せられてんだわな~コレが」
3馬鹿がヨシコと阿修羅を交互に見た
「…信じられねー…;」
南が呟く
「うわー…傷つくってちっこいの…; お前さん達にオライがどう思われてんのか知んないけどさー; 優秀なんよ? コレが」
阿修羅が苦笑いで言う
「んじゃ阿修羅って…」
京助が阿修羅を見る
「…ただの変態じゃなく」
南が付け加える
「優秀な変態?」
中島が更に付け加えた
「…変態なのは変わらないんだけどな」
坂田がハニワを撫でている阿修羅を見てシメの一言を言った
「ヨシコはコレでもアレでさ」
阿修羅がヨシコを見て言う
「…アレってなんだよ;」
坂田が聞いた
「あっくん!!」
ヨシコが声を張り上げた
「…それ以上言わなんで」
しかし次に発したヨシコの言葉はかなり小さいものだった
「…悪りかったな」
阿修羅がポンポンヨシコの頭を叩いて謝った
「…アレって何よ;」
中島が呟くとヨシコがキッと中島を睨んだ
「何だっていいじゃない!!」
そして怒鳴る
「いちいち怒鳴んなよナァ…; やかましい」
中島がため息と呆れ顔をセットにして呟く
「怒鳴らせてるのは貴方じゃない?!」
更にヨシコが怒鳴った
「まぁまぁ; …そろそろ戻らないとじゃない?」
南がヨシコを宥めながら立ち上がる
「そうだな~…いきますか」
京助も南に続いて立ち上がった
「…ほらよ」
立ち上がった中島がヨシコに手を差し伸べた
「そんなことしてくれなくたって立てるわよ!!」
すっくと立ち上がったヨシコが大股で歩き出した
「…かっわいくねぇ…;」
中島がボソッと言う
「すまんねぇ; でっかいの」
阿修羅が中島に申し訳なさそうに謝った
「俺の一番嫌いなタイプ」
ジト目でヨシコの後姿を追いながら中島が呟く
「まぁ…ヨシコも結構イロイロあんんだわな」
ハニワを大事そうに小脇に抱えながら阿修羅が言う
「あ! やっときた~!!」
悠助が京助の姿を見つけて手を振った
「遅かったな…って何やってきたんだ中島は;」
少し太めで頭はイガグリ、そしてメガネをかけて顎鬚を微妙に生やした男性教員がずぶ濡れの中島を見て聞いた
「ちょっと早い川遊び」
坂田が笑って言う
「もう後はオリエンテーションと昼食会だけだぞ」
浜本が泥のついた手足でやって来て言う
「そっかーそりゃーざんねーん」
南が全然残念とは思っていない様な口調で言った
「で…この二人と…こっちの悠助にべったりなのがお前のイトコか」
少し太めで (略)男性教員が阿修羅とヨシコそして慧喜を見て京助に聞く
「…まぁ…一応;」
京助が男性教員の顔を見ないようにして答える
「なぁウニ~コイツらも一緒に昼飯食ってもいい? ミナミのお・ね・が・い」
南がアイドルポーズで【ウニ】と呼んだ男性教員に聞いた
「…色気が足りないぞ南…まぁ…昼飯はジンギスカンだしな…いいぞ」
ウニがあっさり承諾する
「さっすがウニ!」
坂田がウニに向かって拍手した
「お前等の食いブチが減るだけだからな」
ハッハと笑いながらウニが言うとハッとした顔で3馬鹿と京助の動きが止まった
「ジンギスカンってぇヤツは羊肉やんか? 実はコレの肉って牛とか豚とかよか食べられてんで~?」
阿修羅がヒョイと肉を箸でつまんで言った
「マジ? そうなん?」
南が阿修羅の取った肉の後にまた肉を焼き始める
「そうなんさ~イスラム教やヒンズー教っちゅう世界の宗教じゃ牛や豚を食べることを禁じてんやん? でもさ羊はどの宗教でも食べることを禁じられてないわけで?んだもの豚牛食えなくても羊食うわけだから当たり前っちゃーあたり前なんだわいな」
口を動かしながら阿修羅が言う
「へぇ~…」
ジンギスカンの鍋を囲んでいた一同が感心して声を上げた
「もう一丁いきますと羊は中国とか中東にかけて広い地域で飼育されて食用とされてきたんだわ。まぁ毛を使うためもあったしな~…でもなおもしぃことにジンギスカンっつー料理名は世界中どこにもないんだわな」
阿修羅が端を上下に動かして言うと一同が顔を見合わせた
「まぁ…なんだ…そもそもは中国料理【コウヤンロウ (鍋羊肉)】がジンギスカンのルーツであろうともいわれてるちゃーいわれてっるんだけどさー…その料理を元に食いやすいよう味とか変えてできたんだわな~」
「へぇ~!!」
阿修羅が言い終わると心底感心しました!というカンジの声が上がった
「お前もしかしなくても頭いい?」
坂田が汁を吸って茶色くなった玉ねぎを紙皿にとって聞く
「あんなぁ; だからオライは一応ヨシコの教育係りなんだってば~の」
阿修羅が苦笑いで答えた
「歩く辞典ってよばれてんぜ? オライ」
クィっと自分を親指で指して阿修羅が言う
「あっくんは私達の中でも一番賢いかもしれないの」
ヨシコが紙コップの中のお茶を飲んで言う
「かもじゃなく賢いんだってばよヨシコ;じゃなきゃかるらんもオライをお前の教育係りなんぞにせんて」
阿修羅がヨシコに突っ込んだ
「何? 鳥さんってやっぱお前等のボスかなんかなワケ?」
南が肉をひっくり返しながら聞いた
「まぁ…中ボスくらいかね?」
阿修羅が答える
「うっわー; 中間管理職かよ;」
京助が本当に嫌そうな顔で言った
「アレだね一番胃をヤられるポジション…あ! だから乾闥婆がついてるんじゃねぇのか?」
坂田が言う
「かるらん胃悪いの?」
慧喜に肉をあーんされている悠助が聞く
「胃悪い割には良く食うよな~…」
中島が箸を噛んだ
「…なぁ」
南がハタと鍋を見つめたまま言うと一同が南に注目する
「…俺今スゲェこと思いついちゃった…話し全然変わるんだけど言っていい?」
真顔で言う南に京助たちが顔を見合わせる
「…なんだよ…」
中島が聞く
「…何?」
ヨシコも気になっているのか南を見て聞いた
「…あのさ…」
ジュウジュウと肉の焼ける音と周りの生徒の声だけが少しの間聞こえていた
「勿体つけないで言えよ;」
中島が南を肘で小突いた
「…じゃぁ言うぞ?」
南が真顔で顔を上げた
「…コレ何の肉?」
南がジンギスカンの鍋の上でいいカンジに食べごろになった肉を箸で指して言う
「…ヒツジ」
京助が答える
「…外来語で」
南がそんな京助を見て更に言う
「…なんだかお前の言いたいことがわかったような気がする;」
坂田が箸を紙皿にトントンつけて言った
「…俺も;」
京助も口の端をあげて言う
「何さ?」
阿修羅が京助達の顔を見て聞く
「…ヒツジはラム…ラム肉…ラム…キンナラムちゃん…」
南がボソボソと言いうと坂田と京助が案の定だったというカンジの顔をした
「…緊那羅か」
中島が南の答える前に言った
「そう!! 俺等さっきからラム肉! イコールキンナラムちゃんを食ってるー!!」
南が大声で言う
「これ緊ちゃんなの?」
悠助がきょとんとした顔で焼けている肉を見た
「違うよ悠助;」
慧喜が言う
「…あなた達馬鹿でしょ」
ヨシコが呆れ顔で言った
「おうよ!!」
3馬鹿と京助が【そうともさ!!】と胸を張った
「あっはっは!! おっかしいなぁお前等! 最高!」
阿修羅が笑う
「あっくん…;」
そんな阿修羅を見てヨシコが更に呆れる
「僕は馬鹿じゃないもん」
悠助が言う
「うん悠助は違う」
慧喜が悠助を抱きしめた
「コッチは熱いねぇ~…」
阿修羅がそんな慧喜と悠助を見ながら言った
騒がしく昼食会が終わって紺色の指定ジャージ集団の中にチラホラと私服が混ざった列が出来た
「オリエンテーションって何やるんだっけ?」
浜本が爪楊枝を咥えながら聞く
「確か宝探しとか」
阿部が答える
「チーム制? 個人?」
「今からソレを説明するんだろうが;少しおとなしくしろよな~お前等は;」
坂田が聞いているとウニが坂田の頭を小突いて言った
「ウニ~児童虐待~!!」
坂田がブーイングする
「残念お前はもう児童じゃないんだなコレが」
ウニがハッハと笑いながら言う
「宝物ってなにかなぁ~?」
悠助が京助を見上げて聞いた
「俺の宝物は悠助」
慧喜が豊満な胸に悠助を抱きしめるのを見て阿部が自分の胸を見る
「…目指せ暑寒岳」
本間がボソッと言うと阿部がハッとして胸を隠した
「それぞれ小学生も含めて7~8人のチームを作ってください。そして何かアイテムに名前を書いてソレを近くにいる先生に渡してください」
ノイズ交じりの声が昼下がりの空に響いた
「7~8人ってことは…俺~京助~坂田~中島~悠に慧喜っちゃん…に…」
南が名前を言いながら指をさしていく
「…ヨシコちゃんと阿修羅だかも入れるとちょうど8人?」
南が阿修羅とヨシコを指した
「いんじゃね? これで」
京助が言う
「…いいのか? コレで;」
中島がヨシコと阿修羅を見て言う
「…何よ!!」
中島と目が合ったヨシコが怒鳴る
「何でもねぇよ; …イチイチ怒鳴るなよなぁ…ったく」
中島がヨシコから顔をそらせてため息をついた
「で…何かアイテムって言ってたけど」
坂田が言う
「アイテムっていってもさぁ…」
ぐるり各持ち物を見渡した京助が阿修羅を見て止まった
「…京助?」
坂田が止まった京助に声をかけた
「何?」
阿修羅が京助を見る
「ソレに決めた」
京助が指差す方向を一同が揃って見る
「…なんだかすっごくイヤな予感がするんですが竜のボンや…」
阿修羅がどことなく引きつった笑顔で言った
「いやぁぁああああああああああああああああああああああ!! 勘弁な-----------------------!! 駄目!! アカン!! 堪忍----------------------!」
「ハイ。ウニ」
叫び散らす阿修羅をコレでもか! まだ動けるかキサマ!! 的に羽交い絞めにしている3馬鹿とエセくさい爽やかな笑顔でウニにハニワを手渡す京助
「ちょいまち------------------!! オライのやんけ! それ! オライのやんか--------------------!!; 堪忍!! ウギョ----------------------!!;」
ウニの手に渡ったハニワを見て半狂乱に叫び喚く阿修羅を冷静な笑顔で押さえつける3馬鹿
「マァマァ…落ち着いて」
中島が阿修羅を卍固めにしながら言う
「そうそうちょっと借りるだけなんだし~」
南が阿修羅の首にぶら下がって言う
「一生の別れとかじゃないんだし~」
坂田が阿修羅の足につかまって言う
「少しの間分かれたほうがお互いの良さを改めてわかるんじゃないんですか旦那」
京助が阿修羅の肩を叩いた
「では今から先生達がアイテムを隠します」
「ギャ--------------------------------------------------!!!;」
ノイズ交じりのスピーカーからの声と対を張るような阿修羅の声が青空にコレでもかというくらいに響いた
「それでは皆さんより多くの宝物を探し出したチームの勝ちですので頑張ってください」
その声とともにけだるそうに歩く者やる気満々で駆け出す者など私服と紺色指定ジャージ集団が動き出した
「のぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
そんな集団の中から大声とともに猛ダッシュで飛び出す一人の変態
「あっくん!!;」
それに続くは男子生徒の視線をコレでもかというくらいに浴びる少女
「…元気だナァ…」
京助がのたりくたりやる気なさそうに二人の後を追いかける
「いやぁ…ヨシコちゃんの格好見てると男の子はみんな元気になりますって」
南が笑いながら言った
「なぁ? 中島」
そして中島にふる
「別に」
中島がさらっと答えた
「悠助も吉祥の格好好き?」
3馬鹿と京助の会話を聞いていた慧喜が悠助に聞く
「ヨシコお姉さんも好きだけど慧喜はもっと好き~」
悠助が笑顔を慧喜に向ける
「麻衣も悠助好きだよ」
「うわっ;」
後ろから麻衣にいきなり抱きつかれた悠助が前のめりになる
「あっ!! 悠助から離れろよ!!」
前のめりになった悠助を抱きとめて慧喜が麻衣に怒鳴る
「ふーんだ!!」
そんな慧喜に麻衣が舌を出した
「…ッ…」
慧喜の後ろに見えるのが孫悟空 (ドラゴンボール)なら麻衣の後ろに見えるのはベジータ (同じく)
共に多分スーパーサイヤ人4であろう女の恋のバトルオーラが爆発している
「離れろったら離れろ!! 悠助は俺のだっ!!」
「麻衣だって悠助好きだもん! 嫌っ!!」
「俺のほうが好きだッ!!」
「麻衣だもん!」
マシンガンのごとく ズガガガガガガガガガガっ と言えば返す返して言うが繰り返される慧喜と麻衣をオロオロしながら見る悠助
「慧喜も麻衣ちゃんもやめてよぅ;」
何とかとめようと試みる悠助の肩を京助が叩いた
「…ほっとけ; その内治まる…と…思う;」
そして悠助の手を引いて京助が慧喜と麻衣から遠ざける
「俺のほうが悠助と一緒にいるんだっ!!」
「だからなんなの!?」
だんだん遠くなるマシンガン的口喧嘩を聞かないようにして京助が3馬鹿と合流する
「もてる男はつらいナァ悠」
坂田が悠助の頭をぐりぐり撫でた
「僕のせい…?」
坂田の背中を押されながら歩きだした悠助がうつむいて言う
「ちゃうって~; さぁ! 宝さがし宝探し! な?」
南が悠助に笑顔で言う
「早くいかねぇとあの二人見失うぞ」
先頭を歩いていた中島がすばやく行ったり来たりを繰り返す阿修羅を指差して言う
「アノ体形からして時間的に一キロ行くのは絶対無理だとして…」
ブツブツ言いながら阿修羅がガサガサと草むらを掻き分ける
「だからといって教師というくらいだからすぐに見つかるところにゃか隠さんだろし」
今度は木の枝に飛び乗って下を見下ろす
「お~い見っかったか~」
阿修羅の乗っている枝の真下から京助が阿修羅に声をかけた
「見っかってたらこんなとこ登らんてな!!; …うぁぁあああ! このまま見っからんかったらオライは…オライはぁ~!!;」
阿修羅が頭を抱えて喚く
「…なぁ…そういやヨシコだかってどこいったんだ?」
中島が見当たらないヨシコの名前を口にした
「あっくーん!! …もぅっ; どこよココっ!」
半分土に還りつつあるマツボクリや松の葉が地面を覆う薄暗い林の中でヨシコが腰に手を当て頬を膨らませた
「…ヨシコは?」
はたと中島の言葉で我に返ったのか阿修羅がスタンと地面に降り立ってヨシコの行方を聞く
「知るか; お前の後ついていったんだし;」
坂田が軽くブッチャーを阿修羅の額にかましながら言う
「…いや…オライはてっきり…」
ポリポリと頬を掻いて阿修羅が止まる
「…そういやヨシコ…方向音痴だったな」
ボソッと阿修羅が言うと周りの空気が固まる
「あっくーんッ!! …京助ー!? どこなのよ!! もう…ココいったいどこなのっ!!?;」
ゴ-------------------------------------… っという砂防ダムの水音に負けないくらいの大声でヨシコが阿修羅と京助を呼ぶ
「…どこなのよ…」
砂防ダムの水音が余計に不安にさせるのかヨシコの眉が下がった
「しっかりしろよ教育係!!;」
微妙に斜めになった林の中を京助と阿修羅、それに中島が続いて駆け上る
「いや…面目なー…;」
阿修羅が苦笑いで言いながら走る
「ハニワ探してる場合じゃなかったな;」
中島が阿修羅を追い越して先を走る
「いや! 場合だったんよ! オライには!!」
グッと握り拳を作って阿修羅が頷く
「こんのヘンタイ;」
そんな阿修羅の後頭部を京助がどつく
「何すん!! 竜のボン;」
後頭部を押さえて阿修羅が言う
「さっさと探さねぇともっと迷子になるんじゃねぇ?;」
微妙にドツキ漫才と化してきていた京助と阿修羅のやり取りに中島が突っ込んだ
「戻ってもわかるように南と坂田残してきたからまぁヨシとして…」
「んじゃオライは上から行くさね」
京助がもしも戻ってきた時の為に残してきた南と坂田の名前を口にすると阿修羅が地面を蹴って飛び上がった
「竜のボンとでっかいのは下頼むわ!!」
そして枝に着地するとバサバサと葉を落としながら枝から枝へと飛び移り林の奥へと入っていく
「…やっぱ中国雑技団だよなぁ;」
中島が落ち行く葉を見ながら呟いた
「…まぁヨシコだってそれなりに破壊力ある蹴りとかあるわけだから熊に出会ってても平気だと思いますが…」
京助がことあるごとに阿修羅に向けて繰り出されていた結構強力そうなヨシコの蹴りを思い出して言う
「…あんな蹴り持ってるっても…女だろうが一応」
中島が言うと京助が驚いた顔をして中島を見た
「…なんだよその顔;」
その京助の顔を見て中島が顔をしかめる
「柚汰君ってヤッサシィ~」
プー!!っと噴出して京助が言う
「なっ!!;」
赤くなった中島にタックルをかまして京助が笑う
「俺だってこんな暗いじめじめしたトコじゃ不安になるから!; ただそんだけだッ!!;」
京助にタックルをかまし返して中島が怒鳴った
上を見上げたヨシコが見たのは高く育った木々の間から見える微かな青空に飛ぶ鳥
おそらくカラスだと思えるその鳥をヨシコはただじっと見る
「…ひとりって…嫌よね」
眉を下げて笑ったヨシコが呟いた
「なら…駆け出すな; 方向音痴;」
ガサっという音に続いてズザサササ…っという音、そしてスザっという音で〆られた
「…き…キャ---------------------------------------------------!!!」
「うぃお!?;」
ヨシコが目をつぶって後ろ蹴りをかますが何にも当たらずただ宙を足が切る
「待て待て待て待て-------------ッ!!;」
「キャ-----------------!! イヤ--------------------------------!!」
連続で繰り出される当たれば吹っ飛びそうなヨシコの蹴りがヒュンヒュンと音を立てる
「待てっての!! ヨシコ!!;」
名前を呼ばれてヨシコが足を止めた
「…え…?」
ヨシコが足を下げて目を開けそして顔を上げた
「…あなた…確か京助の…」
ヨシコの目線の先には腕で顔を防御しつつヘッピリ腰の中島がいた
「俺を殺す気か;」
ハァ~っと溜息をついて中島が腕を下ろした
「なんで…」
ヨシコが中島を見上げる
「悪かったな阿修羅じゃなくて。探しにきたんだよ方向音痴」
汗でくっついていた前髪をかき上げて中島がヨシコを見下ろす
「私を…?」
ヨシコが自分を指差して聞く
「他に誰を」
中島が言う
「…頼んでないわ」
ヨシコが言うと中島がむっとした顔をした
「あ~ハイハイそうですね!! 頼まれてねぇですよ! お前にはな」
中島が怒ったように言う
「でも悠とか阿修羅には頼まれたんだよ」
腰に手を当てて中島がヨシコを見た
「だから言っただろうが。阿修羅じゃなくて悪かったなってよ…ついてこいよ」
中島がフィっと背中を向けた
「…嫌なら俺を見失わない程度に離れて歩けばいいだろ」
背中を向けたまま中島がヨシコに言う
「…わかってるわよッ!! …そんなこと言われなくたって…」
「なら早く来い」
立ち上がったヨシコに中島が言った
「お礼なんて言わないんだから…そう! 絶対言わないわ!! だって私は頼んでないもの!!」
「ヘイヘイご自由に」
声を張り上げたヨシコに対し中島が手をヒラヒラさせて言う
「…言わないわ…」
ヨシコが今度は小声で言った
パキッという小枝が折れる音が歩くたびに足元から聞こえる
「…何よ」
チラッと振り返った中島をヨシコが睨む
「別に…ちゃんとついてきてるか見ただけ」
歩きながら中島が言う
「ついて来てるわよ!!」
「今見たからわかってるっての」
ヨシコが怒鳴ると中島が前を向いて言った
「…ムカつくわ…」
ヨシコが呟く
「ご勝手に」
中島がさらっと返す
「…大ッ嫌いッ!!」
「ヘイヘイそりゃドウモ」
中島が目の前にあった枝を手でどけると見覚えある景色が広がった
「中島!! おっかえり~!! ヨシコちゃん大丈夫だった!?」
中島の姿を見つけるなり南がすっ飛んできて二人を交互に見て言う
「京助と阿修羅は?」
中島が南に聞く
「まだ…まぁそのうち戻ってくるって」
南が笑った
「ヨシコお姉さん!!」
悠助が慧喜と手をつないでやってきた
「大丈夫? 怖かったでしょ?」
心配そうに見上げる悠助をヨシコが黙って見る
「…うん…怖かったけど…大丈夫だったわ…」
声は悠助に向けたものだったと思われるがヨシコの視線は中島の背中に向けられていた
「本当!? よかったぁ~…」
むっとしたままの慧喜をよそに悠助が笑う
「コレで京助と阿修羅が迷子になったって言ったら笑い事だよナァ」
坂田が笑う
「一緒にしなさんなって~の」
ザザッという音がして阿修羅が木の枝から飛び降りてきた
「っとに…よかったナァ ヨシコ」
首をコキコキ鳴らしながら阿修羅がヨシコに近づいた
「っだ~!!; 戻ってるなら戻ってるってなんか連絡よこせ!!」
阿修羅とは逆方向から文句と共に京助が現れた
「連絡って…もなぁ?」
坂田が南を見た
「携帯は坂田しかもってない上に圏外だし?」
南が中島を見る
「以心伝心しかなかったんじゃないですかね?」
中島が京助を見た
「…はぁ;」
大きな溜息をついて京助がその場に座りそして何かを思い出したように顔を上げて再び立ち上がった
「どうしたの京助?」
悠助が京助に聞く
「そうそう…途中で…」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
阿修羅がジェット機にも負けないであろう大声を上げた
「…やかましい;」
揃って耳を塞いだ一同が阿修羅を見る
「りゅ…竜のボン…それ…ソレ-----------------------------!!」
「やかましいッ!!;」
ワナワナと体を震わせて京助に阿修羅が近づく
「あ、見つけたんだ?」
南が塞いでいた手を離して京助の手の中のものを見た
「ハニワ」
京助がペイっと阿修羅に向けてハニワを投げた
「うあぁああああああ!! お帰りぃぅ!!」
しっかとハニワを抱きしめて阿修羅が歓喜の声を上げる
「あっくん…私の無事よりソレのが大事?」
ヨシコが腕を組んで阿修羅に聞いた
「おうよ!!」
ガスッ
カラスが数回鳴いた
「自業自得だな」
地面にまるで海水浴に来て砂に埋められちゃったのvv的食い込み方をしている阿修羅を坂田が見下ろした
「…女心は難しいからねぇ」
南が側にあった枝で阿修羅を突付きながら言う
「やっぱ女じゃないかもしれねぇ…」
中島がヨシコを見て言う
「何よ!!」
そんな中島に気づいたヨシコが怒鳴った
「何でも」
ふいっと顔をそらした中島にヨシコがむっとした顔をする
「オ~イ! 閉会式やるぞ~って」
浜本が小走りでやってきた
「…オイ」
中島が振り返らずに呼びかける
「痛いから;」
そんな中島の後ろにいたのは鋭く中島を睨むヨシコ
「ヨシコちゃ~ん; せっかく可愛い顔してんのになんで睨んでんのさ~;」
現地解散ということでそれぞれ帰路についた生徒達の群衆の中一際目立つ衣装のヨシコとそんなヨシコの睨み視線を背中に受ける中島の少し後ろを歩いていた南が言う
「ムカツクからよ!! そうよ! きまってるじゃない!?」
ガ-----------ッ!! と食いつくようにヨシコが南に言った
「…こっちはコッチで…」
坂田がチラッと目線を後ろに向ける
「ああ~…お帰り~お帰り~!!」
涙目になりながらハニワに向かい呼びかけ頬擦りを繰り返す阿修羅を呆れ顔で見て坂田がヘッと笑う
「結局田植えという田植えはやってなんだな俺等;」
京助が鞄というには薄すぎる袋を背中でブラブラさせながら言った
「そうだねぇ~…ただ昼飯食って踊る大走査線やっただけっぽいねぇ~」
南が笑った
「あっくんお兄さん」
悠助が阿修羅の服の裾をクイクイ引っ張った
「何だ? 竜のボン?」
阿修羅がハニワに頬擦りしたまま悠助を見下ろした
「ハニワに何か書いてあるよ~?」
悠助が言う
「ああ~ソレはホラ、名前か何か書けって言われたじゃん?」
京助が足を止めて振り返った
「そういや…で? なんて書いたんだ?」
中島が足を止めた
「たっ!!;」
中島にヨシコがぶつかる
「いきなり止まらないでよ!!」
そしてヨシコが案の定怒鳴る
「避けていきゃいいだろが…イチイチ怒鳴んなってーの」
ヨシコの横をすり抜けて中島が阿修羅の側に歩いていく
「っ…ムカつくわ…!」
ダンッ!! と地面を踏んでヨシコが言った
「…お前…なんでこんな言葉思い浮かぶかナァ;」
南が呆れた笑いを京助に向けながら裏手で突っ込む
「やっぱお前【類友】の類体質なんだな」
坂田が京助の肩を叩いた
「竜のボン…なんつー…;」
阿修羅が深い溜息をついた
「いいじゃんか!; 何となくだよ何となくッ!!;」
京助が言う
「なんて書いてあったんだ?」
少し遅れてきた中島が背丈を利用して南の上からハニワを見た
「…カンブリ」
プっと噴出しながら慧喜が言う
「はぁ?;」
中島がすっとんきょうな声を上げた
「カンブリ」
京助がリピートして言う
「…カンブリ…」
「何でまたカンブリ…」
「命名カンブリ?」
3馬鹿が京助を見る
「…油性で書いたんだな」
坂田が聞くと京助がエセっぽい爽やか笑顔で親指を立てた