【第七回・四】うさもさ
いつも眠そうな制多迦
そんな制多迦が庭で見つけたのは
眠そうにあくびをした制多迦が伸びをして目を擦った
「…ったかい…」
栄野家の縁側で一人春の日差しの中でポケポケ日光浴をしている制多迦はいつ眠ってもおかしくはない感じでコックリと頭を動かしては柱にぶつかりまた頭を上げるということを繰り返していた
「先客がいたんだやな」
トタトタという足音が聞こえ制多迦が顔を上げるとコマとイヌが制多迦を挟んで左右に座る
「ここは一番昼寝に最適な場所なんだやな」
前足を思い切り伸ばしてアクビをするとコマが丸くなった
「…こに座る?」
制多迦がにっこり微笑みながら自分の膝を指さした
「いいんだやな?」
イヌが嬉しそうに尻尾を振って聞き返すと制多迦が頷く
「ゼンもなんだやな!」
それを見ていたコマも制多迦の膝に飛び乗った
「人肌は落ち着くんだやな~…」
イヌが制多迦の膝の上で丸くなり大きくあくびをした
「…頭変形すんじゃねぇのか?;」
パックの伊右衛門を片手に持った京助がさっきからゴンゴン頭をぶつけている制多迦に声を掛けた
「…ょうすけ…」
だんだん痛くなってきたのか京助を見上げながら制多迦は自分の頭を撫でた
「よいこらせっと」
そんな制多迦の隣に腰を下ろすと京助がパック伊右衛門の中身を一気に飲み干す
「どうしてわざわざ眠気誘うような場所にいるかねお前さんも」
ベコベコと空になったパックに空気を入れつつ京助が聞く
「…って…気持ちいいし」
ほえほえした笑顔で制多迦が答えた
「いや…気持ちいいのはわかるけど…眠っちゃ駄目なんだろお前;」
京助が聞くと制多迦が頷く
「だから何で気持ちいいと眠くなるのにわざわざ…」
何を聞きたいのか自分でもわからなくなってきているらしい京助を見て制多迦が首をかしげる
「……; …もういいや;」
ついに諦めたのか京助が口からストローを放して溜息をついた
「…今日はお前一人か?」
気を取り直して話題転換なのか京助が制多迦に聞いた
「…ん…矜羯羅何か用事あるみたいで見えなかったから」
膝の上で寝ているコマとイヌを撫でて制多迦が目を細めた
「…ってか何でお前は眠ったら駄目なわけ?」
京助が聞くと制多迦の手が止まり少しだんまりが続いた
「もしかして…聞いちゃアカンかったか?;」
京助が制多迦の顔を覗き込みながら言う
「…くが眠ると目覚めた時は…周りがみんな赤かった」
制多迦が目を閉じて答えた
「…ままで何度か眠ったけど起きるといつもその赤い中に矜羯羅が悲しそうな顔でいるんだ」
再びコマとイヌを撫でながら制多迦が言う
「…夢か?」
京助が聞くと制多迦が苦笑いを返した
「…して言うんだ矜羯羅が…【僕がいるから】って」
京助がパックから抜いた(こんがら)ストローを咥えたまま制多迦の話を聞いていた
「…くは寝ちゃ駄目なんだ」
スコーン
そういいながら眠そうにあくびをする制多迦の頭に京助がパックを投げつけた
「…起きたか?」
「…こし中身かかったよ;」
制多迦が自分の袖口で中身がかかったらしい頬を拭った
ガサッ
ふいに庭先から聞こえた音に制多迦が片腕を京助の前に出した
「…制多迦?」
いきなりの制多迦の行動に京助が制多迦を呼ぶ
「…にかいる」
制多迦がボソッと言うと京助も庭を見渡した
「何かいるんだやな」
いつの間に目を覚ましたのかコマとイヌも尻尾を立てて庭に降り立った
「…がって京助」
制多迦も庭に足を下ろした
「そこなんだやなッ!!」
イヌが勢いよく駆け出した
「あ…オイ!?;」
イヌが駆けていった方向を制多迦と京助が見る
「…なんなんだやな…コレ」
ピンと立っていたイヌの尻尾がヘタリと地面についた
「なしたんだやな?」
コマが駆け出しイヌの元に向った
「…生き物…なんだやな?」
コマが何かに鼻を近づけて匂いをかいでいる
「…なしたよ?」
京助がサンダルを履いて庭に降り二匹の元に向う
「…まっくろクロスケ?;」
まだ新芽が出たばかりの庭木の下にあったのは黒く丸くそして
「…あったけぇけど…生きてるんだよな?;」
京助が恐る恐る手で触るとその黒く丸い (たぶん)生き物がピクっと動いた
「…ウサギ?;」
動いたことにより後ろに倒れていた長い耳がピンと立った
「ウサギなんだやな」
コマが言う
「黒ウサギなんだやな」
イヌも言う
「…サギ?」
制多迦が京助の肩に手を置いて覗き込んできた
「そ! ホレ」
抱き上げて制多迦の顔の前にウサギを突き出した
「…サギ?;」
いつも半分閉じているようなうつろな目を大きくして制多迦がウサギを見る
「…抱いてみ?」
京助に言われて制多迦が両手をゆっくり伸ばした
「…子供のウサギだなっと」
ウサギを制多迦に渡して京助が言う
「…ったかい」
ウサギを両手に抱いた制多迦が微笑んだ
「そりゃ生きてるからあったかいんだやな」
コマがケラケラ笑った
「あったかいから生きてるんだやな」
イヌもケラケラ笑う
「…きてる…」
制多迦がそっとウサギを撫でた
「…っか…だからあったかいんだ…」
ボソッと呟くと数回小さく頷いてまたウサギを撫で始めた制多迦が何かを思い出したようにふと空を見上げた
「…ょうすけもあったかいから生きてるんだね」
「はぁ?;」
ヘラリと笑った制多迦に京助が呆れた声を出した
「…お前って;」
ヘラヘラと笑顔を京助に向けている制多迦を見て京助が肩を落とした
「目ぇあけないんだやな」
制多迦の足に掴まって伸びをしたコマが言った
「寝てるんだやな?」
イヌも同じく伸びをする
「いや…ちょいまち…」
京助が制多迦に抱かれているウサギの顔をじっと見た
「…起きてはいるぞ」
京助がウサギの鼻を触ると鼻がヒクヒクと動きウサギが体を起した
「…も目…開けないね」
制多迦がウサギを撫でた
「…開けないんじゃなくて…開けられないんだな」
京助がウサギの目にそっと触った
「…けられないって…?」
制多迦がきょとんとして京助に聞いた
「病気か何か…だと思う…けどさ;…そのうち開くかナァ;」
フンフンと何かを鼻先で探すような行動をするウサギを制多迦と京助が見る
「…お前等ウサギ語とかわからないのか?」
京助がコマとイヌを見下ろして言う
「無理言うななんだやな」
イヌがむすっとした顔で言う
「わかるわけないんだやな」
コマが膨れてそっぽを向いた
「たっだいま~!!」
縁側で日向ぼっこを再開していた制多迦が玄関先から聞こえてきた元気のいい声にビクッとなり拍子で柱に頭をぶつけた
「おかえりだっちゃ悠助、慧喜」
緊那羅の声がしてバタバタと廊下を走る音がした
「あれ~…タカちゃんだッ!!」
「…わ;」
そして制多迦を見つけた悠助が後ろから制多迦に抱きついた
「制多迦様ずるいッ!!」
しかし速攻 慧喜によって制多迦から引き剥がされると悠助が制多迦の腕の中を見てきょとんとした
「…ぬいぐるみ?」
制多迦が首を横に振って微笑みながら腕の中の物を撫でるとソレが動いた
「ウサギだぁ!!」
悠助がキラキラした笑顔でウサギを見た
「ちいさーいっ」
ウサギに近づいて悠助が恐る恐る手を伸ばす
「制多迦様…どうしたんですか?これ…」
慧喜がウサギと制多迦を交互に見て聞く
「…こにいた」
庭の木を指さして制多迦が言う
「黒くてタカちゃんとおそろいだねー」
悠助が笑顔で言った
「…くと?」
悠助の言葉に制多迦が自分を指さして首をかしげた
「うん! 黒いしっ」
悠助が笑うと慧喜が笑いたいのを我慢しているのか口元を押さえて蹲った
「…っか」
しばらく何か考えた後 制多迦がヘラリと笑った
「ねぇねぇ! 名前なんていうの?」
悠助がウサギを撫でて制多迦に聞いた
「…かんない;さっき見つけたばっかりだし…」
制多迦が苦笑いを悠助に返した
「じゃぁつけようよ! 名前!! なにがいいかなぁ~…」
悠助がパンっと手を叩きウサギを見ながら名前を考え出した
「ピョン…とかありきたりだし…」
何個か候補があるのかソレとも思いつきなのか悠助がいくつか名前をあげていく
「タゴサクとかは?」
いつの間にいたのか京助が悠助の頭に手を置いてウサギを覗き込んだ
「駄目~そんな名前ッ!」
悠助が京助の手を払いのけて怒る
「そんなって…お前…全国のタゴサクさんが嘆くぞ? そんなって」
京助が悠助の頭をポフポフ軽く叩いて制多迦の隣にしゃがんだ
「どっかの家から逃げてきたのかなァ…コイツ」
京助がウサギを撫でるとウサギが鼻をヒクヒクさせる
「…だ目…開かないね」
制多迦が指でそっと開かないウサギの目元を撫でた
「え? 目開かないの?」
悠助と慧喜が同時に言うと制多迦が頷いた
「もし逃げてきたんなら飼い主探してやらないとナァ…心配してるだろうし」
チョイチョイとウサギの鼻を突付いて京助が言う
「家で飼えないかなぁ?」
悠助がチラっと京助を見上げた
「…たぶん駄目って言うと思うぞ;」
京助が悠助から目を逸らしてボソッと言うと悠助が膨れた
「…ょうすけ」
制多迦が京助を呼んだ
「なした? …ハイハイ;」
京助が制多迦を見るなり数回頷き歩き出した
「…どうしたんですか?せいた…」
上から制多迦を覗き込んだ慧喜が言葉を止めた
「…うんこ…」
悠助が制多迦の膝にあった5つのこげ茶色の玉を見てボソッと言った
「硬めでよかったじゃん」
ヘッと笑いながら戻ってきた京助の手にはティッシュの箱があった
「…なにそれ」
制多迦の腕の中の黒い生き物を見て矜羯羅が顔を歪めた
「…サギ」
ヘラリと笑って制多迦が答える
「…どうしたの?」
腰に手を当てて矜羯羅が再び制多迦に聞く
「…わにいた」
ヘラリ笑顔は矜羯羅に向けたまま制多迦はウサギを撫でた
「…で?」
矜羯羅が言うと制多迦が首をかしげた
「どうするのさソレ…まさか連れてはいけないよ?」
しゃがんでウサギを突付いた矜羯羅に制多迦が少し上を向いて何かを考えている
「…うしようか;」
そしてヘラリと言う笑顔をまた矜羯羅に向けた
「…制多迦…だんだん…馬鹿になってきてない?」
矜羯羅が溜息をついて制多迦の髪を引っ張った
「…たいよ;」
制多迦が髪を掴んでいる矜羯羅の手を掴んだ
「…なんだかお前等…だんだん鳥類と乾闥婆に似てきてねぇ?;」
二人のやり取りを見ていた京助が口の端をあげて言った
時計が示した時刻は午後八時
「…はぁ」
矜羯羅が溜息をついて制多迦を見るとウサギを撫でながら笑みを浮かべていた
「…仕方ないね」
呆れたように呟くと戸口へ向って歩き出した矜羯羅の足音に京助が見ていたテレビからその足音の方向に目を向けた
「帰んのか?」
矜羯羅に向って声を掛けると矜羯羅が振り返った
「今回は何も告げないで来てるからね…僕だけ戻るよ」
口元に笑みを浮かべて矜羯羅が言う
「…連れて戻るわけにはいかないし…」
そしてチラッと制多迦の腕の中のウサギを見た
「ずいぶんと懐かれたなお前」
制多迦の腕の中で安心しきって眠っているウサギを覗き込んで京助が笑った
「…んがら…」
制多迦が矜羯羅を申しわけなさそうに見上げた
「…くれぐれも制多迦を寝せないようにね」
そんな制多迦ににっこりと微笑を返すと矜羯羅が部屋から出て行った
「…そういやさ…矜羯羅って寝てんのか?」
京助が矜羯羅の出て行った戸を見て制多迦に聞いた
「…まにしばらく目を閉じてることがあるけど…横になって寝てるところ僕は見たことないな…」
制多迦が小さく言う
「…っと僕が寝ないようにずっと見ててくれてるんだと思う」
ゆっくりとウサギを撫でて制多迦が言う
「なのに何であんなに元気なんだろなァ;」
「義兄様と一緒にしないでよ」
いつの間にか後ろに立っていた慧喜が頬を膨らませて言った
「矜羯羅様は義兄様とは違うの」
そして座ると制多迦を見る
「矜羯羅様と制多迦様は俺達とも義兄様達とも…違うんだよ」
慧喜が言う
「は? そりゃどういう意味なんだよ;」
ガコン!!
京助が阿呆面で慧喜に聞くと制多迦が(たぶん力は加減したんだろうと思われるんだけど)テーブルを叩きテーブルが少し反動で浮いた
「…き…」
制多迦が慧喜をゆっくりと見た
「…す…いません…」
慧喜が慌てて謝る
「…途中まで言って最後まで言わないっていっちゃん気になるのですが;」
京助が慧喜と制多迦を見る
「…ぶん…そのうちわかるよ…」
制多迦がヘラッと笑って京助を見た
「…お前等そればっか;」
はぁと溜息を吐いて京助が寝転がった
「タカちゃん…それ最新ファッション?」
校門前で悠助と慧喜と共に京助達を待っていたらしい制多迦の頭の上を見て南が笑いをこらえながら言った
「…や…なんだか気に入ったらしくて…降りてくれない;」
いつもの摩訶不思議服ではなく京助の服を着た制多迦の頭の上には黒いあの子ウサギが気持ちよさそうに居座っている
「生きたウサギの帽子ってこれまたオッシャレ~」
坂田が茶化すように制多迦を肘でつついた
「しかしよく落ちないでいるよなァ…コイツ;」
京助がウサギの鼻を指で突付きながら言う
「あのね~タカちゃんの髪僕が結んだんだよ~」
悠助が制多迦を見上げて笑う
「だいぶ上達したよな~凄いぞ悠!」
坂田が悠助の頭をわしゃわしゃ撫でると慧喜に睨まれた
「赤毛のアンみたいで可愛いぞタカちゃん!」
中島が言うと絶対わかっていないんだろうが制多迦がヘラリ笑顔を中島に向ける
「ってかコイツ名前は?」
背伸びをしてウサギを撫でた南が聞く
「いやまだついてない…んだよな?」
京助が制多迦を見ると制多迦が頷いた
「我輩は黒ウサギである、名前はまだない」
坂田がボソッと言う
「あ、それ確か旧千円札の…リンカーン?」
中島が言う
「ちゃうだろ~? 夏樹さんだか…アレ?;」
言った坂田が何かおかしいと考え込む
「西城ヒデキだったか?」
京助も答える
「ソレはワ~イエムシエ~のヤツじゃん! …なんつったっけなぁ~; タカモリだっけ?」
坂田が丁寧にも【YMCA】と振り付けも交えて突っ込んだ
「土方歳三」
「聖徳太子」
「碇シンジ」
「諸葛亮」
「南と京助の人物はあからさまに違うと思います先生」
帰り道で【吾輩は猫である】の著者の名前が思い出せない3馬鹿と京助の思いつく名前をあげていこう作戦が実行されていた
「…制多迦様首疲れませんか?」
慧喜が制多迦を見上げて聞く
「…いじょうぶ」
上目を使ってウサギが頭に乗っていることを確認しながら制多迦が笑う
「そのウサギ本当タカちゃんが好きなんだねッ」
慧喜と制多迦と手を繋いで挟まれるように歩いていた悠助が制多迦を見上げて笑う
「俺は悠助が好き」
慧喜がそんな悠助に笑顔を向ける
「僕も慧喜好き~」
そんな慧喜に悠助も満面の笑みを返した
「でもタカちゃんも好きだよ」
またも笑顔を向けてきた悠助に制多迦がきょとんとした
「一番は慧喜だけどタカちゃんもきょんがらさんも好き~」
【タカちゃんも好き】発言に少々ムッとした顔をした慧喜だったがその後の【一番】という言葉を聞いて顔を赤らめ嬉しそうに笑った
「…く?」
制多迦が自分を指さして悠助に聞く
「うん!」
悠助が笑顔で頷く
「俺も制多迦様好きですよ?あ、一番は悠助ですけど」
慧喜も制多迦に向かって言った
「…んとうに?」
制多迦が信じられないというような顔で二人を見た
「本当! 僕タカちゃん好きだよ?」
悠助が言うと慧喜も頷いた
「俺もタカちゃん好きよ!」
「…わ;」
いきなり抱きついてきた中島に制多迦が頭の上のウサギを押さえて足を踏ん張った
「危ないじゃないか! でっかいの!!」
悠助を庇った慧喜が中島を睨む
「まぁまぁ慧喜ッちゃん落ち着いて; コレが愛情表現だということで」
南がヘラヘラ笑ながら制多迦の肩を叩いた
「タカちゃんは? 俺等のこと好き?」
中島が抱きついたまま制多迦を見る
「あ、中島の方若干背ぇ高ぇんだな」
京助がボソッと言う
「…くも好き」
しばらく間をおいてヘラリと笑いながら制多迦が言った
「…本当気に入られたんだね…」
制多迦の頭の上から降りようとしないウサギを見て矜羯羅が言うと制多迦が困ったようなしかしどことなく嬉しそうな笑顔を向けた
「…これからどうするのさ…まさか慧喜みたくココに居座るって言わないでよね」
矜羯羅が流し目入りの視線で制多迦と慧喜を見た
「あらぁ! ウチは構わないわよ?」
矜羯羅の話をきいていた母ハルミが嬉しそうに言う
「私大家族に憧れていたんだもの! にぎやかで!! なんなら矜羯羅君も居座ってもいいのよ?」
「オイオイオイオイ;」
にっこりと矜羯羅に笑顔を向けた母ハルミに京助が裏手突っ込みのポーズで突っ込む
「あら京助…アンタお兄さん欲しいって言ってたじゃないの」
母ハルミが言う
「いつの話しだ;いつの; …第一…矜羯羅と制多迦が俺の上って…さぁ;」
京助が矜羯羅と制多迦を見て言う
「格好いいお兄さんで自慢じゃない」
母ハルミがにっこり笑う
「…あのなぁ;」
溜息をつきながら京助が肩を落とす
「タカちゃんときょんがらさん一緒に住むの?」
話に入ってきた悠助が嬉しそうに矜羯羅を見た
「…住めないよ…僕達は」
微笑みながら矜羯羅が言う
「なんで~?」
残念そうな顔をして悠助が聞く
「…なんでも」
悠助の頭を撫でて矜羯羅が言うとぷぅっと悠助が膨れた
「じゃぁこのウサギはどうするんですか?」
慧喜が少し怒った様に矜羯羅に聞く
「ハルミママ~飼っちゃ駄目?」
悠助が母ハルミに向けておねだりビーム (と言うか眼差し)を放った
「…そうねぇ…このまま飼い主がみつからなかったら…考えてもいいわよ? でも…」
母ハルミの次の言葉に一同が耳を傾けた
「…ウサギってね…寂しいと死んじゃうのよ」
眉を下げて言った母ハルミを一同が見る
「…死んじゃう…?」
悠助が制多迦の頭の上のウサギを見た
「だから飼うのは結構難しいの…甘えん坊さんなのよ」
母ハルミが更に言う
「……」
制多迦が頭の上からそっとウサギを降ろして腕に抱いた
「もしあん時…見つけてなかったら死んでたかもな…ソイツ」
京助がボソッと言った
「人間だってそうでしょ? 誰にも構ってもらえないで生きていけはしないんじゃないかしら…どんな小さな事だって誰かに手を借りているものじゃない? 一人では生きてはいけないの…どんな時も誰かしろ手を差し伸べてくれてるんじゃないかしら」
母ハルミの言葉に制多迦が矜羯羅を見た
「…何?」
制多迦の視線に気付いたのか矜羯羅が制多迦を見た
「…っか…だから僕には矜羯羅がいるんだね」
ヘラリと制多迦が笑った
「俺には悠助がいる」
慧喜が思い切り悠助を抱きしめる
「慧喜苦しいよ~;」
抱きしめられた悠助が足をバタバタさせた
「義兄様には緊那羅?」
「は?;」
我関せずのごとくハナクソをほじっていた京助の片鼻からたらりと鼻血が流れた
「っくしょッ!!;」
「まぁ! 緊那羅様お風邪を召しましたのではないのですか?」
元・開かずの間でヒマ子さんに水をやっていた緊那羅がくしゃみをして鼻を啜った
「や…違うと思うっちゃ;」
微妙な鼻声で緊那羅が言った
「…どうしたんだっちゃ京助…;」
片ッポの鼻にティッシュでツッペをした京助に緊那羅が聞く
「なんでもねぇよ;」
京助はほんのり鼻血がにじんできたティッシュを抜いてまた新たなティッシュをつめた
「変なこと考えてたんじゃないんだっちゃ?」
緊那羅が突っ込む
「…お前…言うようになったよなァ;」
クイクイとティッシュを詰めてフンっと鼻を鳴らした京助が緊那羅にいった
「君が変えたんじゃないの?京助」
矜羯羅が言うと京助がきょとんとして矜羯羅を見た
「…は?」
阿呆面で自分を指さした京助の鼻からしっかり詰めたはずのツッペが抜けて床に落ちた
「君と悠助が…」
微笑みながら矜羯羅が悠助を見ると悠助が慧喜と共に矜羯羅を見る
「僕?」
にっこり頷いた矜羯羅に悠助が慧喜を見上げる
「緊那羅だけじゃない…慧喜も制多迦も…そして僕も君たちに変えられている様な気がする」
口元に笑みを浮かべたまま矜羯羅が目を閉じて言う
「…もう少し早くこの空気に出会いたかったよ」
ボソッと聞こえないくらい小さな声で矜羯羅が言った
「ハイ、矜羯羅先生」
京助がスチャっと挙手した
「…何?」
矜羯羅が京助を指さすと手を下ろし矜羯羅に尻歩きで近づく
「…それはいい方に変わったんですか? それとも悪い方に変わったんですか?」
真顔で聞いてきた京助に矜羯羅が少し目を大きくしてしばらく止まった
「……プッ」
そして小さく噴出すと制多迦の肩に手を置いて声なく笑い出した
「なっ!; なんで笑うか!!」
京助が怒鳴る
「…いきん矜羯羅よく笑うよね」
ヘラヘラと笑いながら制多迦が嬉しそうに言う
「笑うことは体にも心にもいいのよ?」
そんな様子を見て母ハルミが言う
「…んがらが笑うと僕も嬉しい」
ウサギの鼻に自分の鼻を付けて制多迦が笑顔で言う
「僕も~! 僕もみんなが笑うと僕も笑いたくなる~!」
悠助が言った
「それはつられて笑ってるんじゃないんですかね? 悠助君」
京助が床に落ちた元ツッペをゴミ箱に向って投げながら言う
「…はぁ~…本当に…」
落ち着いたのか矜羯羅が顔を上げた
「…変えられちゃったみたいだよ僕は」
少し耳が赤くどことなく照れたような顔で矜羯羅が言う
「…くも…」
そんな矜羯羅を見て笑った制多迦が口を開いた
「…くも変わってる?」
そう矜羯羅に向って聞いた制多迦の腕の中でウサギがモゾモゾと動いた
「あら? おトイレかしらウサギさん」
「…;」
母ハルミの言葉に制多迦が慌ててウサギを体から離す
「あ…あ-----------!!」
悠助が大声を上げた
「…ひぃ~らいたひらいた…でっけぇ目~…」
悠助が指さしたウサギの目は大きくどこを見ているのかしきりに鼻をヒクヒクさせて顔を小刻みに向きを変えている
「赤い目だったんだね~可愛い~」
悠助がウサギに近づき撫でると慧喜がむすっと膨れた
「…タカちゃん?」
ウサギを抱いていた制多迦の手が震えていることに気付いた悠助が制多迦を見上げた
「…っ」
いつも半分閉じかけの眠そうな目から一転して見開かれた制多迦の目は黙って赤いウサギの目を見ていた
「おい…大丈夫か??」
あからさまにいつもの制多迦とは違う制多迦の様子に京助が声を掛けた
「僕は…」
矜羯羅以外の全員が自分の耳を疑ったのは制多迦独特の最初の一言が聞き取れない前消し喋りではなかったからだった
「今…はっきり最初の言葉…言ったっちゃよね…?」
緊那羅がもしかして自分だけだったのではと思い京助を見た
「…あ…あぁ…俺も聞こえた…」
京助が呆気に取られた顔で頷く
「あっ! ウサギっ!;」
制多迦の手の力が弱まったのかウサギが床に落とされたのを見て悠助が声を上げた
「矜羯羅様…!!」
慧喜が尋常じゃない制多迦の様子を見て矜羯羅の服を掴んだ
「制多迦様は…」
「…大丈夫」
そんな慧喜の手をゆっくり放して矜羯羅が制多迦(せいたか9の額に人差し指をつけた
「…【僕がいるから】…」
矜羯羅が制多迦に言った言葉を聞いて京助が制多迦を見た
『…くが眠ると目覚めた時は…周りがみんな赤かった』
縁側で聞いた制多迦の話を思い出す
『…ままで何度か眠ったけど起きるといつもその赤い中に矜羯羅が悲しそうな顔でいるんだ』
「…でもね…」
矜羯羅は更に何かを言おうとしていた
「今は僕だけじゃない…皆いるから…だからホラ…【帰って】おいで」
トン…と軽く制多迦の額を突いて矜羯羅が言った
「…催眠術か…?」
しばらくして京助が口を開いた
「違うよ」
矜羯羅が制多迦の額から指を離した
「僕はただ制多迦を呼んだだけ」
そして矜羯羅が指を鳴らすと玉が勢いよく制多迦の頭に気持ちい音と共に当たった
「…たい;」
そして頭をさすりながら制多迦が言う
「…最初の言葉は…」
緊那羅が京助を見た
「…聞こえなかったな」
ホッとした空気が茶の間に流れた
「タカちゃんどっかいってたの?」
ウサギを抱えて悠助が制多迦の顔を覗き込んだ
「…?」
きょとんとした制多迦が悠助を見る
「だってきょんがらさんが…」
「悠助」
途中まで言いかけた悠助の言葉を矜羯羅が遮った
「ウサギの名前考えようか」
にっこりと笑顔で言ってきた矜羯羅に悠助が躊躇いながらも頷く
「まだ飼うって決まったわけじゃないんんだけどなぁ;」
鼻血が中で固まっているのがいずいのか京助がしきりに鼻をフンフンと鳴らしながら言う
「京助…ウサギみたいだっちゃね」
同じく鼻をフンフンさせているウサギを見て緊那羅が言うと一瞬茶の間が静まった後
「…ブッ!!」
慧喜の噴出しと共に笑いが巻き起こった
「あはははははは!! 緊ちゃん! 上手いこと言うわね~!! 座布団4枚!!」
母ハルミが手を叩いて笑う
「…う…さっ…義兄様ウサギ…ッ!!」
何がそんなにツボに入ったのか慧喜が苦しそうに震えながら言う
「慧喜笑いすぎ~」
悠助もまわりにつられたのか笑い出した
「…バニーボーイにでもなろうか? え?」
そんな一同を見て京助が言うと更に笑い声が大きくなる
「…んがらも笑いすぎ;」
自分も涙を流して笑っているのにもかかわらず畳をバンバン叩いて声を出さずに笑っている矜羯羅の背中をさすりながら制多迦が言う
「…本当にバニースーツ着るぞコラ」
一向に笑いが止まない茶の間で京助がボソッと言った
「ば…バニースーツって…どんなんなんだっちゃ?」
ヒーヒー言いながら緊那羅が京助に聞く
「…こう…ここがこう! クィっとなって…あっはん?」
「義兄様もうや--------------------------!!」
もうヤケになったのか京助が立ち上がりコマネチラインをクイっとなぞりながらバニースーツの説明をすると慧喜が倒れこんで涙を流しながら笑い出した
「やだもう京助…ッ! お腹痛いわぁ!!」
母ハルミも涙を流しながら笑っている
「…っく…」
蹲った矜羯羅の背中に突っ伏して制多迦も限界とばかりに肩を震わせて笑い続ける
「京助へんたーい」
悠助が京助を指さして笑う
「今更だ!ばかめ!! …じゃないたわけ!」
京助が笑いながら誰かの真似をすると慧喜がひっくり返って足をばたつかせて笑う
栄野家の茶の間発爆笑トルネードが落ち着いたのはそれから結構経ってからだった
「あ~…無駄に疲れた…;」
でべろ~っと床に長まった京助が気力なく呟いた
「義兄様が…変なことするから…」
一番笑い転げていたと思われる慧喜が悠助に膝枕されて疲れきった顔をしている
「緊那羅が元はだろうが;」
ペシっと隣にいた緊那羅の足を京助が叩いた
「…私はただ本当のこと…言っただけだっちゃ…;」
ズリズリと緊那羅がずり落ちてきて京助の背中に頭をつけて同じく長まった
「…笑うのって結構体力使うよね…」
矜羯羅も壁に寄りかかって溜息を吐いた
「…も」
制多迦が体を起した
「…くは笑うの好き」
ヘラリと笑顔で制多迦が言うと同感とばかりに皆笑顔になった
「ホクロ?」
悠助がきょとんとした顔で坂田を見上げた
「そ!そのウサギの名前…黒い子ってかいて【ホクロ】ってどうよ?」
坂田が制多迦の頭の上で目を閉じているウサギを見ていった
「…羊の子って書いて【ラム子】といい勝負だなァ…」
そう言いながら京助がチラリと緊那羅を見た
「私は緊那羅だっちゃッ!;」
聞こえたのか緊那羅が京助に食って掛かる
「ホクロかぁ~…」
結構長身の制多迦の頭の上でバランスを保ちながら安心しきったように目を閉じているホクロ (仮)をを悠助が見上げる
「…クロ…」
「いや、タカちゃんが言うとただの【クロ】にしか聞こえねぇし;」
制多迦が言うと中島が突っ込んだ
「…クロ?」
制多迦がもう一度言うとウサギがピクっと反応した
「あ、ホクロ(仮)がお目覚め~?」
南がソレに気付き言う
「ホクロおはよ~」
悠助が笑顔でピョンピョン跳ねながら言うとホクロ 仮)はまた鼻をヒクヒクさせただけで蹲る
「…クロおはよう」
制多迦が悠助同様ホクロ (仮)に声を掛けると今度は目をパッチリと開けた
「…クロ?」
京助がホクロではなくクロと呼んでみると京助の方向をウサギが向いた
「クロだっちゃね…」
緊那羅がボソッと言う
「ホクロ却下、クロ決定」
中島が言う
「…んにゃろ…」
坂田が多少悔しそうな顔でウサギを見た
「…ロ…」
制多迦がヘラリと笑って上目で頭の上のウサギを見ようとする
「いや…お前はホクロでいい;」
京助が制多迦の肩を叩いた
「…んで?」
制多迦がウサギを押さえつつ首をかしげる
「ロじゃあんまりにも…だねぇ?;」
南がハッハと笑いながらウサギを見上げた
「一文字だもんな」
中島が制多迦の頭の上のクロ (仮)を撫でた
「じゃぁクロ! クロだね~」
悠助が満面の笑みで制多迦を見上げる
「…んなはクロで僕だけホクロ?;」
制多迦が自分を指さして呟く
「タカちゃん微妙な話し方だからねぇ」
中島が笑いながら制多迦の背中を叩いた
「でもその話し方じゃないと制多迦じゃないっちゃ」
緊那羅が言うと京助が頷く
「その話し方があってこそのお前だ」
そういいながら京助が結構強く制多迦の背中を叩いた
「…たいよ;」
制多迦が苦笑いを京助に向けた
キシキシと廊下が鳴る音がして制多迦が顔を上げると春の日差しの逆光に矜羯羅が浮かび上がった
「…っほ」
片手を上げてヘラリ笑顔を返した制多迦の隣に矜羯羅が腰を下ろす
「…京助達は?」
足を組んで頬に手を当てた矜羯羅が制多迦に聞く
「…ら山に浅葱とかいうの取りに行った」
春先一番に取れる食べられる浅葱は細いネギのようでおひたしにするもよし刻んでネギの代わりにするもよしの結構何でも使える山菜である
「…制多迦は行かなかったんだね」
矜羯羅の言葉に軽く頷くと腕の中のウサギに目を向けた
「…うだ…名前決まったんだよ」
思い出して制多迦が言う
「…ふぅん…何?」
矜羯羅が頬から手を放しウサギを覗き込んだ
「…ロ…だけど僕だけホクロ」
「は?」
制多迦がヘラヘラ笑いながら言うと矜羯羅が呆れ顔で疑問形の返事をした
「クロ?なんで制多迦だけホクロ?」
やはりワケがわからないのか矜羯羅が聞き返す
「…かんないけど中島がそういったから僕はホクロってよばなきゃいけないんだ…ねー? ホクロ」
ヘラヘラ笑顔はそのままで制多迦がホクロ (クロ)を撫でる
「…僕はクロでいいのかな」
矜羯羅が言うとホクロ (クロ)がピクッと鼻を動かして目を開けた
「本当綺麗な赤い目だね」
矜羯羅がボソッと言うと制多迦が小さく頷いた
「…うだね…ホクロの目は綺麗」
フンフンと鼻を制多迦に向けて動かしたホクロ (クロ)の鼻を制多迦が指で触った
「…も僕は…」
鼻を触った指を力なく横に落として制多迦が俯く
「僕は制多迦が好きだよ」
突然 矜羯羅が言った
「全部ひっくるめて…ね」
言ったのはいいが照れくさいのか矜羯羅はそっぽを向いていた
「…りがと」
制多迦の顔がほころんだ
「…僕がいなくなっても今は皆がいるから」
にっこり笑った矜羯羅が制多迦の手を取って何かを握らせた
「…にコレ?」
透明な薄い板の中には桜の花弁が一枚
「お守り」
矜羯羅が自分の分のソレを制多迦に見せた
「…そろいなんだね」
太陽に透かして制多迦が嬉しそうに言う
「緊那羅がくれたんだ…願いが叶うらしいけど」
矜羯羅も制多迦の真似をしてなのか太陽に透かしてソレを見る
「…がい…」
薄い花弁が太陽の陽射しを通し制多迦の顔に当てる
「…くの願いはね矜羯羅…」
「…臭いよ」
茶の間に充満しているなんともいえないネギ類独特の匂いに矜羯羅が顔をしかめた
「仕方ないじゃーん;」
南が買い物袋いっぱいの浅葱をゴミと浅葱とに分けながら言った
「なにこれ? 食べられるの? やたら臭いんだけど」
新聞紙の上に広げられた分けられた浅葱を一本摘んで矜羯羅が匂いを嗅いだ
「食えないものワザワザ泥だらけになりながらとりゃしないだろうが;」
京助が浅葱ではないゴミを買い物袋に入れて口を縛る
「おひたしにしてさ~かつおぶしと醤油かけて食うと美味いんだなぁコレが」
坂田がハッハと笑う
「でも臭いね」
矜羯羅が手に持っていた一本の浅葱をペイッと投げた
「ドリアンよかは臭くないとおもうぞ」
綺麗に分けられた浅葱を持って立ち上がった京助が言う
「嗅いだことあんのかお前」
中島が辺りに散らばった木っ端木やらを手でかき集めながら京助を見上げた
「否 !…でもまぁ…うん…いいじゃん」
ヘラヘラと手を振りながら京助が言う
「ドッドドドリアン臭っさくってプゥ!」
南が分けの輪返らない即席のドリアンのテーマらしき歌を歌った
「…君たちやっぱり馬鹿だよね」
矜羯羅がフッと横を向いて笑った
「そういやタカちゃんは?」
中島が矜羯羅に聞く
「…いつものところ」
矜羯羅がボソッと答えた
「喧嘩でもしたのか~?」
坂田が冗談交じりに言うと矜羯羅が流し目加減で坂田を見た
「…図星?」
「ウメボシ?」
「流れ星?」
京助、南、中島が言うと茶の間に沈黙がやってきた
「…何だか制多迦…左側のほっぺ…腫れてないっちゃ?;」
浅葱を茹でようと台所に向っていた緊那羅が制多迦を見つけ聞いた
「…ん; ちょっと矜羯羅にこう…」
制多迦が右手でグーを作り自分の頬に当てた
「…なんでまた…;」
緊那羅が聞くと制多迦が腕の中のホクロ (クロ)を撫でた
「…クロが原因なんだっちゃ?」
浅葱でいっぱいのザルを持ち直して緊那羅がホクロ (クロ)を見た
「…れ…」
制多迦が緊那羅に何かを差し出した
「…あ…これ私があげた…矜羯羅は制多迦にあげたんだっちゃね」
桜の花弁が挟まれた透明な板を制多迦が太陽にかざした
「…がいが叶うって言ったから僕の願いを言ったら…」
「殴られたんだっちゃね;」
苦笑いで言った緊那羅に制多迦が頷く
「何て言ったんだっちゃ」
あの矜羯羅がグーで殴るほどの制多迦の願いはどんなものなのか気になったらしい緊那羅が聞く
「…くの願いは僕が…僕が僕でなくなること」
緊那羅が制多迦を見たまま止まった
「なん…で…そんな…矜羯羅が怒るの当たり前だっちゃッ!!」
そして次の瞬間 緊那羅は持っていた浅葱入りのザルを制多迦目掛けて投げつけた
「…ラムちゃんの声聞こえなかった?」
沈黙が続いていた茶の間で南が言った
「聞こえたな」
中島が言う
「しかも怒鳴ってたな」
坂田も言う
「…なんだか…ややこしいことが巻き起こりそうじゃないですか…;」
京助が立ち膝に手をつき立ち上がる
「そのややこしいことに首突っ込んじゃう俺らって相当暇人?」
南がケラケラ笑った
「京助」
茶の間の戸に手をかけていた京助に中島が声を掛けた
「緊那羅の方は俺等がいくからさ…その…お前は…」
そう言った中島がチラッと矜羯羅を見る
「…あいさ」
京助が苦笑いを返すと中島も苦笑いを返した
「じゃ、まぁ頼んだ」
「了解」
茶の間の戸を開けると南と坂田に続き中島が廊下に出た
「おンまえもいいだけ意地っ張りだよなァ;」
茶の間の隣の和室に向いながら京助が言う
「ホラよ」
ほんのり柚の香りがするバスタオルが宙を飛んで矜羯羅にかかるとそのバスタオルを矜羯羅が掴んで顔を隠す
「…俺最近泣きに付き合ってばっか」
テーブルを挟んで反対側に京助が座った
「きゃー! 浅葱散乱!!;」
南の声に緊那羅と制多迦が振り返る
「あ…ごめんだっちゃ;」
緊那羅がはっとして慌てて浅葱を拾い出した
「タカちゃん最近変わったファッション多いねぇ;」
中島が制多迦の頭やら肩についている浅葱を払いながら言う
「で? 何が原因」
坂田が緊那羅に聞くと緊那羅が浅葱を拾う手を止めた
「…さっきの矜羯羅から繋がってるように思えるんだけどさ」
更に坂田が聞く
「矜羯羅は…矜羯羅は制多迦だからあげたと思うっちゃ…なのに…ッ」
緊那羅が浅葱を握り締める
「ラムちゃん落ち着いて落ち着いて; ハイ深呼吸~」
南が緊那羅の背中を撫でながら言う
「…タカちゃん…ほっぺ腫れて話しにくいかもしれねぇけど…」
中島が制多迦を見た
「…くは…僕の願い事を話しただけで;」
片手で頬をさすりながら制多迦が言う
「っ…あんな願い事なんて認めないっちゃッ!!」
「ラムちゃんどーどー!!;」
怒鳴った緊那羅を南が宥める
「制多迦が制多迦じゃなくなったら矜羯羅は一人になるんじゃないっちゃかッ!!」
南の宥めを振り切って緊那羅が言った
「…も僕がいなくても皆がいるし…僕がいなくても…」
「…ッ阿呆--------------------------------------------!!!!!」
正月町中に聞こえたかもしれない緊那羅の声に3馬鹿が耳を塞いだ
「…スッゲェ声量;」
坂田が目を丸くして呟いた
「…俺モロ耳元; うぇあ;」
緊那羅のすぐ隣にいた南が小指で耳の中をほじっている
「なんで矜羯羅が制多迦にあのお守りを渡したのか…どうして考えないんだっちゃ…矜羯羅は…ッ」
「落ち着けメガホンいらず;」
京助が緊那羅のポニーテールを引っ張った
「いっ…; …京助…と…矜羯羅だっちゃ?;」
京助の後ろから逮捕された時の容疑者のごとく頭からバスタオルを被っている矜羯羅を見て緊那羅が言う
「…んがら…」
制多迦が矜羯羅に声を掛けると矜羯羅らしきバスタオルを被った人物がピクッと反応した
「お前声でかすぎ;」
京助が頭を掻きながら言う
「だってッ;」
「だってもヘチマもヘッタクレもあるか;」
はぁと溜息をついた京助に緊那羅がしゅんとなる
「制多迦」
京助がカムカムポーズで制多迦を呼ぶと制多迦が首をかしげながら京助に近づいた
「さってと…じゃもう一回言ってくれないかね? お前の願い事」
京助が制多迦に言うと矜羯羅がバスタオルを払って制多迦を見た
「皆の衆耳の穴かっぽじってよぉ聞くようにの」
京助が3馬鹿に向って言うと3馬鹿が揃って耳を制多迦に向けた
「…京助…何…」
緊那羅が【もう一回同じ願い言ったらもう一回殴るぞ】的目で制多迦を見ている矜羯羅を見て京助の肩を掴んだ
「…いいから」
そんな緊那羅の手を掴んで京助はニカッと笑うと制多迦を見た
「…くの願いは僕が僕でなくなること…」
「ッ…!!」
制多迦の言葉に矜羯羅が眉を吊り上げた
「ハイ! 皆聞きましたか? 聞こえましたか?」
京助がパンっと手を叩いた
「はーいせんせー! しっかり聞こえましたー!!」
坂田が元気よく手を上げた
「よちよちいいこでちゅねー」
そんな坂田の頭を京助が撫でる
「僕も聞こえましたせんせー!!」
ハイハーイと南も両手を上げ中島は足を上げた
「ハイ! みんないい子でちゅねー。緊那羅君はどうかな~」
京助がきょとんとしている緊那羅を見るとおずおずながら緊那羅が頷いた
「まぁ! なんてこと! なんていい子達なんでしょう! せんせー感激だわ」
緊那羅の頭をグシャグシャに撫でて京助が笑う
「や…何するちゃッ!!;」
京助の手を振り払って緊那羅が言う
「矜羯羅も聞こえたか?」
緊那羅に払われた手を振りながら京助が矜羯羅に聞く
「…聞こえたよ…しっかりね」
誰が聞いても怒っているとしか思えない口調で矜羯羅が答えた
「ってことだ制多迦…残念だったな」
京助が制多迦の肩を叩く
「…んで?」
京助がどうして【残念】と言ったのかわからない制多迦が首をかしげる
「願い事って人に話したら叶う確立大幅に下がるんだ」
京助が言うと矜羯羅がバスタオルを床に落とした
「こんだけの人数がしっかり聞いちゃったんだからタカちゃんの願い事叶わないかもねぇ」
中島が言う
「…うなの?」
制多迦が中島を見て聞く
「願いは密かにってよく言うじゃん?」
坂田が笑う
「ま、この願いは諦めるんだな制多迦さん」
京助がバシバシ制多迦の背中を叩いた
「…んがら…」
叩かれながら制多迦が矜羯羅を見る
「…僕もしっかり聞こえたからね」
床に落ちたバスタオルをまた頭から被って矜羯羅が小さく言う
「…っか…」
しばし黙り込んだ後 制多迦がヘラリ笑顔を矜羯羅に向けた
「…京助…って…」
緊那羅が京助を見た
「なんだよ」
京助も緊那羅を見る
「…なんでもないっちゃ」
緊那羅が笑顔で首を振ると京助が首をかしげた
「なぁ」
南がハイと手を上げた
「はい、南君」
中島がソレを指名する
「…浅葱…拾わない?」
足元にいいだけ散乱している浅葱を指さして南が言う
「…やっぱり臭いね」
床に落とした時についてきていたのかバスタオルについていた浅葱を矜羯羅が摘んでペイッと投げた
シャクシャクという音が昼下がりの縁側から途切れ途切れに聞こえてくる栄野家の日曜
「次オレ~!!」
なんとも触り心地のよさそうな坊主刈りの少年がスティック状の人参を高らかに掲げた
「じゃあこうちゃんの次は麻衣ね? いでしょ? ね? ね?」
黄色いスカートをヒラヒラさせた麻衣がこうちゃんと呼んだ少年の肩を掴んで揺すった
「クロ~ク~ロクロ~」
こうちゃんが人参をクロ (ホクロ)の前でチラつかるとクロ (ホクロ)が鼻をヒクヒクさせて目をあける
「可愛い~!!」
ソレを見て麻衣が言った
「でしょ? でしょ?」
悠助が笑いながら言う
「ねぇタカちゃん!! オレにも抱かして?」
こうちゃんが制多迦を見上げて聞くとヘラリ笑顔で制多迦が頷いた
「ああん! ずるい!! 麻衣も~!!」
「…大盛況だな」
「おかげさまで」
部屋まで聞こえてくる縁側の賑わいに京助がヘッと口の端を上げた
「で? 結局飼うことになったんか?」
南が椅子をギーギー鳴らしながら聞いた
「まぁ…一応な; …飼い主見つかるまでって条件付で」
京助がかりんとうを齧りながら言う
「最終手段学校って手もあったんだけどな」
中島がテレビ画面から目を離さずに言う
「一匹だけってかわいそうじゃ~ん」
南が笑いながら言った
「そうだよなぁ…一人って寂しいよなァ…だからバイキンマンもグレたんだよなぁ…」
坂田がコントローラーの○ボタンを連打しながら言う
「ってかアンパンマンの体って何で出来てるんだろな?」
ふと南が言うと中島と坂田の手が止まった
「…何って…」
京助が口を開いた
「…何だろな」
そして真剣に考え込む3馬鹿と京助
「…愛と勇気しか友達いないって言ってるけど話しの中に愛ってのも勇気ってのも名前でてきてねぇしな…空想の友達か?」
中島が言う
「…なんかそう言うと…アンパンマンってやたら怪しい正義の味方になるナァ;」
南が苦笑いで言った
「奥が深いな…アンパンマン」
坂田が言うと京助と中島、南が頷いた
「…クロ取られたの?」
微かな風を感じて制多迦が横を見ると足を組み頬に手を置いた矜羯羅が隣に腰掛けてクロ(ホクロ)を触りあう悠助達を見ていた
「…んがら…いつ来たの?」
制多迦が少し驚いたように聞いた
「今」
それにさらっと答えた矜羯羅がゆっくりと制多迦の方を見た
「…だ怒ってる?」
制多迦がボソッと聞くと矜羯羅が立ち上がった
「…もうその願いは叶わないんだからね」
腕を組み制多迦に背中を向けた矜羯羅が言う
「…ん」
制多迦が頷く
「…つの願い事…しても大丈夫かな」
制多迦が花弁の入った板を取り出して太陽に透かして見る
「…いいんじゃない? 一つ目は叶わないんだし」
矜羯羅が背中を向けたまま答える
「…うだね」
ヘラッと笑った制多迦が立ち上がった
「…めん…矜羯羅」
ボソッと謝って矜羯羅の背中に制多迦が頭をつけた
「…運命って変えられると思う?」
矜羯羅が俯いて制多迦に聞いた
「…制多迦…僕は生きたい…」
小さく矜羯羅が言う
「…ん」
それに対し制多迦が目をとじて返事をする
「僕は生きてるんだよ」
さっきよりは大きな声で矜羯羅が言う
「…ん知ってる…だってあったかいもん矜羯羅は生きてる」
目を閉じたままで微笑んで制多迦が言うと制多迦の頭から矜羯羅の背中が離れた
「…生きたいって願ってもいいんだよね」
そう言った矜羯羅の手には花弁の入った板
「…ん」
微笑んで制多迦が頷く
「…ありがとう」
振り向いた矜羯羅が笑顔で言った