【第七回・弐】焼き焦げ
自他共に認めている悠助と慧喜のラブラブカップルに訪れた試練とは
玄関で膝を抱えたままピクリとも動かない慧喜の横をゼンゴがパタパタと通り過ぎて器用に玄関の戸を開けて外に出て行く
数分後 緊那羅が箒を片手に玄関掃除を始めたが慧喜には声を掛けない
慧喜が栄野家に来てから慧喜の悠助帰宅待ちは日常化していた
朝悠助を送り出した後は玄関でただひたすらこうして悠助が学校から帰るのをを待っている
「……」
そんな慧喜が顔を上げて立ち上がるとおもむろにサンダルを履き戸の前に立った
「あ、もうそんな時間だっちゃ?」
緊那羅が箒を持って一歩戸から離れるとタタタタ…という足音が近づいてくると慧喜の顔がほころんでくる
「ただいまっ!」
「悠助っ!」
戸を開けると同時に慧喜が悠助に抱きつく
「おかえりだっちゃ悠助」
慧喜に抱きしめられている悠助に緊那羅が言う
「ただいま慧喜さん緊ちゃん」
悠助は笑顔でただいまを言った後 慧喜と共に家の中に入った
「……」
そんな二人の後姿をどことなく悲しそうな表情で見ていた緊那羅が再び箒を動かし始めた
「今日は学校どうだった?」
壁に寄りかかり伸ばした足の上に悠助を座らせて慧喜が聞く
「今日はね~まず朝の会で転校生がきてね~」
悠助が学校での出来事を嬉しそうに話すのを慧喜が嬉しそうに聞く
「明日一緒に遊ぶ約束したの」
悠助の髪を撫でていた慧喜の手が止まった
「…一緒に遊ぶのって女?」
慧喜が不安げな目で悠助を見る
「男の子もいるよ?皆で遊ぶの」
悠助が答えるとホッとして慧喜が再び悠助の髪を撫でると悠助が眠そうに目をこすった
「眠いの?悠助」
その後あくびもした悠助に慧喜が聞く
「少し…わ;」
慧喜が少し眠いと言った悠助の頭を抱き寄せて自分の胸につけると悠助の腰の辺りを軽くポンポンと叩き出した
「寝ていいよ?」
悠助の頭に自分の頭を付けて慧喜が優しく囁いた
「…風邪ひくっちゃね;」
玄関掃除を終えて茶の間に入ってきた緊那羅が寝息を立てている慧喜と悠助にかけるものを探しにいった
「何だまだ悠帰ってないのか?」
カラカラという戸が閉まる音と京助の声に慧喜が顔を上げた
「義兄様…おかえり」
膝を抱えたままで慧喜が京助を見上げた
「珍しいな悠が四時過ぎて帰らないなんて」
靴を脱ぎながら京助が言う
「今日友達と遊ぶとか言ってたっちゃ。お帰りだっちゃ京助」
家の奥から出てきた緊那羅の手には大きめのタオルがあった
「へぇ…そっかまぁ雪溶けてきたしな…【愛の鐘】なったら帰ってくるだろうしな」
京助が頭をかきながら言う
「慧喜寒くなってきたからこれ…」
緊那羅が大き目のタオルを慧喜の肩に掛ける
「ありがと…」
慧喜がふっと微笑んでまた膝に顔を埋めた
「…なぁいつもこんな?」
鞄を肩から降ろして京助が緊那羅に聞く
「うん…毎日悠助がいない間の慧喜はいつもこうだっちゃ」
「ふぅん…」
緊那羅の説明に京助が何度か頷いて慧喜を見た
「悠は慧喜にとっての活力源なんだな」
鞄を引きずりながら京助が自室に向い歩き出す
「慧喜は本当悠助が好きなんだっちゃね」
先を歩く京助に小走りで追いついた緊那羅が言うと京助が足を止めた
「…京助?」
京助が急に止まったせいで京助より一歩進んだ緊那羅が京助を見た
「緊那羅お前さ…無理してんだろ」
京助の言葉に京助に向けられていた緊那羅の目が大きくなる
「え…なん…」
【何でもない】そう言おうとしたらしいが図星だったのか緊那羅は言葉をかんだ
「作り笑いバレバレ」
京助はそういながら緊那羅に指を突きつけた
「乾闥婆になんか教えられただかされてからお前ずっとそうだろ」
またも図星だったらしく緊那羅は黙って俯いた
「俺でよかったら話してみてもいいし? 一応【関係者】なんだろ? 俺もその【時】だかいうのに。少しでも話すと結構楽になるかもだぞ」
俯いたままの緊那羅の横を通って京助は再び自室に向って歩き出した
「…ま、気が向いたらでいいけどさ」
ズルズルという鞄を引きずる音とに混じって聞こえた言葉に緊那羅が顔を上げる
そしてきゅっと唇を噛み締めた後二歩後退して茶の間の戸を開けた
顔を上げた慧喜が玄関の戸の方を見て顔をほころばせた後何故か顔をこわばらせた
聞こえてきたタタタタ…という足音は二人分で足音に混じって笑い声も聞こえてきた
「ちょっと待っててね」
悠助のそんな声とともに玄関の戸が開いた
「おかえり悠助」
息を切らせながら玄関に入ってきた悠助にどことなく不器用な笑顔で慧喜がいう
「ただいま慧喜さん!!」
悠助は満面の笑顔を慧喜に向けた後せわしなく靴を脱いで家の奥に走っていく
「あ…悠助?」
悠助を抱きしめようとした手を伸ばして後を追おうとした慧喜が開けっ放しの戸の方から視線を感じて動きを止めた
「悠助のお姉さん?」
慧喜が振り向くとソコには髪をツインテールに結んだ小さな女の子が一人慧喜を見ていた
「…誰アンタ」
そんな女の子を慧喜が軽く睨む
「高橋麻衣…」
【たかはしまい】と名乗った女の子が慧喜の睨みに脅える様子もなくそれどころか玄関の中に入ってきた
「お姉さんは?」
「…どうして俺がアンタに名前教えないといけないのさ」
慧喜が見上げてきた麻衣からふいっと顔を逸らせた
「麻衣ちゃんはい!」
パタパタと何かを持って走ってきた悠助が麻衣にその何かを手渡した
「ありがとう悠助」
麻衣が悠助から受け取ったのは一冊のノートで表紙には何人かの名前と【こうかんにっき】という大きな文字が書かれていた
「あ、慧喜さんこの子はね昨日いってた転校生の麻衣ちゃんっていってねー同じ班なの」
悠助が嬉しそうに慧喜を見上げた
「隣の席なんだよねー」
麻衣が悠助に言う
「今日僕が交換日記ノート忘れたから取りに来てくれたんだ」
そう言いながら悠助が靴を履き出した
「…どこか行くの? 悠助…」
慧喜がしゃがんで悠助に聞いた
「うん!麻衣ちゃん送っていくの」
立ち上がった悠助を慧喜がしゃがんだまま見上げた
「俺も行く」
慧喜が立ち上がると
「麻衣…このお姉ちゃん嫌い」
麻衣が慧喜をチラッと見ていった
「俺だってアンタ嫌いだよ」
そんな麻衣を慧喜が睨む
「いこ、悠助」
慧喜をジトッと睨んだ麻衣が悠助の腕掴んだ
「な…ちょ…!!」
そのまま麻衣に引っ張られて悠助が玄関から出たのを慧喜が裸足のまま追いかけると悠助のもう片方の腕を掴んだ
「悠助は俺のッ!!」
慧喜がそう言いながら悠助を引っ張る
「慧喜さん!?;」
慧喜の行動に驚いた悠助が麻衣に引っ張られながらも慧喜を見た
「駄目だよ! 裸足だもん!! 足冷たいし怪我…うわっ;」
力比べを本気ですれば当たり前に結果がわかる
慧喜の方に思い切り引っ張られた悠助と麻衣が倒れ慧喜が悠助だけを抱きとめた
見事に顔から転んだ麻衣はそのまま動かない
「麻衣…ちゃん?」
慧喜の腕の中から悠助が麻衣を呼んだ
「ふ…うゎあああああ!!」
顔を上げずに麻衣が大声で泣き出した
「麻衣ちゃん!!」
慧喜の腕からするりと抜けて悠助が麻衣に駆け寄った
「悠助…」
自分の腕から抜け出した悠助に慧喜が手を伸ばす
「大丈夫?どっか怪我したの?どっか痛い?」
膝を地面について麻衣に思い切り顔を近づけている悠助を見て慧喜が伸ばしていた手を下げた
「あのお姉ちゃん嫌ーッ!! 怖いーーッ!!」
悠助にすがるように抱きついて麻衣が慧喜を指差した
「悠助から離れろよッ!! 悠助は…!!」
「慧喜さんッ!!」
悠助に抱きついていた麻衣の服の襟に手をかけた慧喜に悠助が怒鳴った
「駄目だよ! 麻衣ちゃん泣いてるんだから」
悠助の言葉に慧喜が目を丸くした
「悠助…」
そのまま一歩後退した慧喜を悠助の腕の中から麻衣がチラリと見た
「お姉さん怖いお姑さんみたい」
麻衣が涙を拭いながら言う
「違う!! 俺は悠助の子供産むんだから嫁だッ!!」
麻衣の言葉に慧喜が怒鳴る
「姉さん女房が好きなの? 悠助」
きょとんとしている悠助に麻衣が聞いた
「姉さん女房ってやめたほういいよ? オッパイすぐ垂れるんだよ? お姉さん大きいからすぐ垂れるね」
麻衣が慧喜の胸を見て言う
「麻衣と付き合って?」
そして悠助を真っ直ぐ見て麻衣が告白した
「駄目ッ!! 悠助は俺のッ!!」
状況がイマイチ飲み込めない悠助を慧喜が後ろから抱き寄せた
「慧喜さん?;」
力いっぱい抱きしめられて悠助が手をバタバタさせる
「まだ【さん】って呼ばれてるじゃない。麻衣は【麻衣ちゃん】って呼ばれてるもんね。【ちゃん】の方仲良しなんだから」
立ち上がり服についた泥を叩き落して麻衣が慧喜を見た
「…そうなの? 悠助…」
麻衣の言葉に慧喜が悠助に聞く
「え…?;」
不安げな顔で見下ろす慧喜を悠助が見上げる
「俺より…コイツの方好きなの?」
少し震えた消えそうな声で慧喜が聞く
「きまってるじゃない」
麻衣が答えると悠助を抱きしめていた慧喜の腕の力が抜けた
「…慧喜さん…?」
ゆっくり悠助を放すと慧喜は無言のまま家の中に入っていった
「慧喜が部屋から出てこない?;」
箸を持ったまま京助が声を上げると悠助がコクリと頷いた
「…何かあったっちゃ?」
京助と顔を見合わせた後 緊那羅が悠助に聞く
「麻衣ちゃんが…でも僕 慧喜さん好きだもん…」
小さな声でボソボソと慧喜が出てこない理由らしきことを話す
「麻衣ちゃん?」
聞いたことのない名前を京助が繰り返す
「転校生…麻衣ちゃんは慧喜さんより僕と仲良しだから付き合ってって」
「…あ…あ~あ~; ハイハイ; なんとなく…なんとなぁ~くお前の言いたいことはわかった;」
京助が箸を上下に動かして言った
「よくわかるっちゃね;私は全然…」
緊那羅が苦笑いを京助に向けた
「まぁ一応兄弟ということで…で?」
緊那羅に答えた後京助は悠助を見た
「悠はどうしたいんだ?」
箸をおいて悠助に京助が聞く
「え…僕…は…」
悠助が京助からだんだん視線を下に下げて俯いた
「…ふぅ;」
そんな悠助を見て京助が溜息をついた
「ちょっと難しい展開だぁねぇ…コリャ;」
両手を頭の後ろで組んで軽く緊那羅に寄りかかりながら京助が呟く
「そうなんだっちゃ?」
「超稀に見る微妙な三角関係」
緊那羅が聞くと京助が口の端を上げて言う
電話の子機の画面が明るく光った
プルルル…プルルル…
「お…」
緊那羅に寄りかかっていた体を起して京助が子機に手を伸ばした
「ハイもしもし~…なんだ南か」
かかってきた電話の相手は南らしく京助がそのまま話し始める
「…もう一回 慧喜を呼びに行くっちゃ?」
俯いたままだった悠助に緊那羅が声を掛けると悠助が頷きゆっくり立ち上がると緊那羅も一緒に立ち上がる
「もう一回いって来るっちゃ」
一応京助にどこに行くのかを継げた緊那羅に向って京助がヒラヒラと手を振った
『でさぁサイズ測りたいわけよ』
電話越しに南が話す
「サイズってもなぁ…;」
京助が壁に寄りかかり天井を見た
「今 慧喜さんは引き篭もりなんですわ」
『は?』
南が素っ頓狂な声を出すと京助が溜息をついた後 慧喜が引き篭もった理由を話しだした
「慧喜さん…ご飯だよ?」
慧喜の部屋の前で悠助が部屋の中に向って言う
「慧喜…」
緊那羅も呼びかけるが応答がなく戸を開けようとしても何かがつっかえていて戸は開かなかった
「慧喜さん…」
俯いた悠助の頭を撫でて緊那羅が開かない慧喜の部屋の戸を見つめた
「…緊ちゃん…僕…」
俯いたまま悠助が呟いた
「…大丈夫だっちゃよ」
そんな悠助に緊那羅は微笑を向けて軽く背中を押した
「明日はきっと出てくるっちゃ」
ゆっくりと慧喜の部屋から離れつつ緊那羅は慧喜の部屋を軽く振り返った
「…大丈夫」
緊那羅が二回目に呟いた言葉はどこか自分にも言い聞かせているような感じだった
翌日の土曜日
栄之神社の石段の前に自転車が止まった
「やー雪解けって最高!」
約半年の眠りから復活した愛車の【ニボシ】から降りて南が伸びをする
「あれ? 南?」
自転車のブレーキ音に気付いた緊那羅が石段の上から南を見下ろした
「おっはーラムちゃん!!」
まだほんのり息が白く残る気温の中南のやたらテンションの高い挨拶が響く
「京助ならまだ寝てると思うっちゃけど…」
箒片手に石段を駆け下りてきた緊那羅の後ろにはコマとイヌがついてきていた
「いんや俺今日は慧喜ッちゃんに用事あるんですわ」
ニボシのカゴから鞄を取り出して肩に掛けると南が笑った
「慧喜に?」
一緒に石段を登りながら緊那羅が南に聞く
「そー」
南が鞄の中からメジャーを引っ張り出した
「…何だっちゃソレ」
足を止めて珍しそうにメジャーを見る緊那羅
「あ、そっかラムちゃん初めて見るのか…コレはこうやって…サイズ…長さとか測るんだ。へー! ラムちゃん細いンだなァ…ミナミ負けそう」
緊那羅の腰にメジャーをまわして南が説明する
「…何だか昔ヒマ子さんに同じ様なことされた覚えがあるっちゃ;」
緊那羅が過去を思い出して呟いた
「あ…でも慧喜は今…」
「わかってる」
慧喜が今どんな状況か言おうとした緊那羅に南がにっこりと笑顔を向けた
「だからこそ何とかしたくて」
南が玄関の戸を開けた緊那羅の後ろを通って庭の方に向う
「南? どこいくっちゃ?」
少し開けた玄関の戸をそのままに緊那羅が南の後を追う
「庭からはいるんだやな?」
コマが南に話しかけた
「おぉお; 忘れてたお前等話せたんだっけな;」
まだ雪の残る庭を横切って屋根から落ちた雪が積もってできた雪山に埋まりながら南が辿り付いた所は
「ここだっけ?」
少し息を切らせながら南が後からついてきていた緊那羅に聞く
「え…ここって…」
箒片手に緊那羅が南の指が差している窓を見た
「慧喜ッちゃんの部屋」
ニーっと南が笑った
ココンコン…
「慧喜ッちゃーん! あ・け・て」
南が慧喜の部屋だという所の窓をノックして声を掛けた
「南…たぶん慧喜は…」
緊那羅が南に声を掛けると南が振り返り笑った
「見えないかもしれないけど俺結構しつこいんだよねぇ? 粘るよ? 山芋」
南がハハッと笑って再び窓の方を見る
「慧喜ッちゃーんってばー!! あーけーてー!!」
二回目の南の呼びかけにも慧喜は反応がない
「…ここは大丈夫だからラムちゃんは掃除してきなよ。まだ途中なんだろ?」
緊那羅に笑顔で言った南を緊那羅が黙ってみる
「慧喜ッちゃん…じゃぁ開けなくてもいいから話だけチョロッと聞いてくんない? ってか勝手に話すから」
そういうと南は上着を思いっきり引っ張ってそのまま雪の上に座った
「京助から少しだけ慧喜ッちゃんのヒッキーの原因聞いたんだけどさ…」
手に持っていた袋を側に置いて南が話し始めると緊那羅もしゃがんで話を聞き始める
「悠には境界線っていうか誰にでも平等に優しいって言うか…とにかく俺も悠に助けられたんだよね慧喜ッちゃんと一緒で」
少し気温が上がってきたのか屋根に残っていた雪が水になってポタポタと垂れてきた
「俺サァ…今でこそこうやって明るく元気でよい子でやってるけど昔はスッゲェおとなしくて暗くて友達なんていなくてサァ」
ハハッと苦笑いをした南を緊那羅が見る
「…しかも俺実は正月町の生まれじゃなくていわゆるアレ…前は別のところに住んでてさ今はもういないけど婆ちゃんと同居するって言うから引っ越してきたんだ。小学校4年の時だったかなァ前にいたところでも一人だったのに引っ越してきたばっかのコッチに知り合いとかいるわけないだろ?だからいつも一人でさ…」
南が過去を思い出したのか少し表情が暗くなった
「そうして何日か過ごして…悠に会ったんだ」
南が顔を上げた
「なにそれ?」
両膝に生暖かく少し湿ったような感覚がして南が顔を上げると見知らぬ子供が大きな目で南の手を見ていた
「え…」
いきなり見ず知らずの子供に話しかけられて南が慌てる
「見して~」
その子供は満面の笑みを惜しげもなく南に向けた
南の膝に両手を付いて身を乗り出して何とか南の手の中のものを見ようとしている子供を南はどうすればいいのかわからずただ戸惑っていた
「悠!! 何して…てアレ? お前確か南とか言う…何してんだ?」
今度は自分と同じくらいの歳の少年がやってきて南に声を掛けた
「え…あ…あの…」
それまで滅多に人に話しかけてもらったことなんてなかった南が返答に困っていると【悠】と少年に呼ばれていた子供が南の手の中のものを取った
「あ…」
「すごぉい!! うさぎしゃんだ!」
縫いかけだったウサギのマスコットを目をキラキラさせながら悠が笑った
「おぉ!! すげぇ! なにこれお前が作ってるん?」
少年も悠の手にしているウサギのマスコットを見て声を上げた
「あ…針…ついてるよ? 危ない…」
南が悠の手にそっと触れた
「ねぇねぇ!! 僕にも作って~?」
ウサギのマスコットを南に返しながら悠が言う
「え…」
「こぉら悠! 困ってるだろ??」
悠の言葉に固まっていた南を見て少年が悠を軽く小突いた
「あ…」
「だって~凄いんだもんこのお兄ちゃんのうさぎしゃん!! 可愛いねぇ凄いねぇ」
笑顔で南を見上げて悠が言う
「えと…もう少しでできるから…そしたらコレあげる…よ?」
「ほんとう!!? お兄ちゃんあいがとー!!」
小さく消えそうな声で南が言うと悠が南に抱きついた
「いいのか?」
南の隣に腰を下ろした少年が聞く
「うん…別にただ作ってただけだし」
そう言って南が針を動かし始めるとそれを少年と悠が黙って見る
「…すげぇ~…器用だなお前」
「ウサギしゃん♪ ウサギしゃん♪」
感心する少年と嬉しそうな悠をチラッと見て顔を赤くしながら南はウサギを縫っていった
「あ…慧喜」
ふと窓の方を見た緊那羅が窓に手をかけて鍵をあけようとしている慧喜を見つけた
「…ありがと慧喜ッちゃん」
南が笑顔で慧喜に言う
「窓から失礼しまっせ~」
靴を脱いで部屋の中に入った南が外に置いていた鞄も部屋入れる
「…ラムちゃんは? 入らないの?」
外にいる緊那羅に南が聞くと緊那羅が窓の側まで来て顔だけを中に入れた
「さて慧喜ッちゃん…悠と喧嘩したんだって?」
「ちがう!」
南が言うと慧喜が声をあげた
「俺は…ッ…俺は悠助が好きだけど…悠助は…」
声をだんだん小さくして慧喜が言った
「ねぇ慧喜ッちゃん…悠が言ったの? ソレ」
黙り込んだ慧喜に南が聞く
「え…?」
問われて慧喜が顔を上げた
「慧喜ッちゃんよりそっちの女の子の方が好きだって悠が言ったの?」
南が再度聞く
「違う…けどでも…」
慧喜が答えると南が大きな溜息を吐いて苦笑いを向けた
「じゃぁ悠が直接言ったわけじゃないんじゃない;」
「でもッ!!」
苦笑いのまま南が言うと慧喜が何か言おうと口を開いた
「慧喜ッちゃんは悠の考えがわかるの?」
南が聞くと慧喜が首を横に振った
「…わからないけど…でも…」
そしてまた黙り込んだ慧喜に南が近づいた
「…悠の気持ち知りたい?」
南の言葉に慧喜がすばやく顔を上げた
「…お前は悠助の考えがわかるの?」
慧喜が南を真っ直ぐみて言うと南がにっこり笑う
「わかるわけないじゃん?」
そしてその南の言葉で慧喜がムッとなる
「でも確かめることに協力は出来るよ」
付け足した言葉に慧喜がきょとんとした顔をする
「それには…もう少し協力者が必要かなぁ?」
南が窓の外にいる緊那羅に目を向けた
「…相変わらずチョ汚ねぇのなお前の部屋;」
京助が南の部屋を見渡して呟いた
「まぁ適当に居座ってくりゃれ」
慣れた足取りで足元のものを避けつつ南がクローゼットから丸めた大きな紙を取りだした
「居座れってもナァ;」
京助の後ろから顔を出した中島も南の部屋を見渡して言う
「少し片付けろよお前;」
中島を押しのけて南の部屋に第一歩を踏み入れながら坂田が言った
「仕方ないじゃん;京助ン家はいつ悠が帰ってくるかわからないしさぁ」
南が鉛筆と消しゴムを持ち戸に向って歩いてきた
「ハイハイどいてどいて」
そして南が廊下に紙を広げる
「あ、ラムちゃんそこの長い定規とって」
緊那羅のすぐ後ろに立てかけてある定規を南が指さした
「あ…うん;」
慧喜が取った定規を受け取り緊那羅がソレを南に渡す
「サンキュ~…でこんなとこに集まってもらったのはほかでもないんだ~…56ッと」
広げた紙にいくつかの数字を書いたあと長い定規を当てて印を付けながら南が言った
「他でもなかったらなんなんだよ;」
緊那羅に叩き起こされた京助があくびをしながら聞く
「作戦名は…ビバセイシュンIng!ヤキモチひっくり返し大作戦!っていってだな」
南が線を引きながら言った
「お前ソレ絶対今即席で考えただろ」
中島が南に突っ込んだ
「まぁいいじゃん? …そしてこの作戦には君達の協力が必要不可欠なんですわ」
南がにーッと笑って慧喜を見た
「悠助元気ないね?」
並んで歩いていた悠助に麻衣が声を掛けた
「…そうかな?」
明らかに無理してます的笑顔を麻衣に向けた悠助が足を止めた
「麻衣といるのつまんない? 麻衣のこと嫌い?」
悠助の顔を覗き込んで麻衣が聞く
「嫌いじゃない…けど…けど…」
俯いた悠助が口ごもる
「あのお姉さんの方が好きなの?麻衣は嫌い?ねぇ?」
そんな悠助に麻衣が容赦なく質問攻めをする
「悠助ーッ!!」
前方から自分の名前を呼ばれて悠助が顔を上げると緊那羅が走ってきた
「緊ちゃん?」
悠助と麻衣の前で足を止めた緊那羅がポケットから何か紙切れを出してブツブツ言った後紙切れをしまい息を吸った
「大変だっちゃ!!(棒読み)慧喜が無理矢理連れていかれたっちゃ(棒読み)」
傍から聞けばあきらかに演技だとバレバレの緊那羅のセリフに悠助が目を丸くした
「慧喜さんが…?」
「そうだっちゃ!!(棒読み)慧喜が心配なら一緒に来てくれないとうわーお!! ビックリ!! 慧喜があんなことやこんなことされちゃうかもしれないっちゃ(棒読み)…ってなんなんだっちゃこの文;」
さすがの緊那羅も最後の方の文章に突っ込んだ
「慧喜さんが…」
そんな緊那羅の明らかに演技ですセリフを完全に信じているような悠助が顔を上げて緊那羅を見た
「一緒に行けばいいの?」
真顔で見上げてきた悠助に緊那羅が頷いた
「一緒に行けば慧喜さん助かるんだね?」
いつものほほんとしている悠助の顔がいわゆる【漢】の顔になった
「悠助…行くの?」
麻衣が悠助に聞く
「ごめんね麻衣ちゃん!! またね!!」
麻衣に悠助が手を振って緊那羅が走ってきた方向に走っていく
「…ごめんだっちゃ」
麻衣の頭を軽く撫でて緊那羅も悠助の後を追った
「…子供だましね」
ふぅと溜息をついて麻衣は悠助と緊那羅に背中を向けて歩き出した
「情報によると慧喜は坂田の家にいるらしいっちゃ(棒読み)」
悠助に速さにあわせて走りながら緊那羅が紙切れを見て言う
「じゃぁ坂田に連れて行かれたの?」
悠助が走りながら聞く
「えーと…えーと…;あ、コレだ…柴田……」
紙切れに書いてある【柴田】の二文字を見た緊那羅の表情が変わった
「し…柴田さんにくわしいことはきいてほしいっちゃ…ッ」
そしてめちゃくちゃ嫌そうに続きのセリフを言った
「柴田さんに?」
悠助が振り向いて聞くと慌てて紙切れを隠しながら緊那羅が頷いた
「わかった!!」
そんな緊那羅の行動を微塵も怪しいとは思っていないらしい悠助はただ走っている
「…ごめんだっちゃ悠助;」
悠助の後姿を見ながら緊那羅が小さく謝った
「よぉーしヨシ!!」
南が満足気に大きく頷いた
「…あいかわらずトコトン器用だよなお前…」
京助が感心したように言う
「後はもう一人の主役を待つのみだな」
中島が言うと南が頷いた
「…俺は何すればいいんだ?」
慧喜が南に聞く
「慧喜ッちゃんはただ悠助を待っていればいいよ」
南が笑った
「…待つ…」
慧喜が小声で繰り返し眉を下げた
「…来るのかな…来てくれるのかな…悠助は…」
いつになく全身から不安オーラを出している慧喜を見て3馬鹿と京助は顔を見合わせた
「俺…待ってたんだよずっと…でも…でも来てくれなかった…ッ」
膝の上の両手に力が入り慧喜の声が震えた
「誰が来てくれなかったんだよ;」
坂田が慧喜に聞く
「俺はずっと待ってたのに…まって…」
「悠は来るよ」
坂田の質問に答えず【待っていた】を繰り返す慧喜に南が言う
「悠は来る」
顔を上げた慧喜に南が笑顔で言った
「…なんでい言い切れるんだよ…」
そんな南を慧喜が睨む
「え? 信じてるから」
何の戸惑いもなく南がさらっと答えると京助と坂田、中島も頷いた
「…ソレだけ?」
言い切った南に慧喜が聞く
「うん」
南が頷くと京助と坂田、中島も頷いた
「慧喜は悠を信じられないのか?」
京助が聞く
「…俺は…俺…は…好きだけど…信じたいけど…」
「ど?」
小さく聞こえる慧喜の声に一同は耳を澄ませた
「…怖い…信じて裏切られて傷ついて捨てられて…もう嫌なんだ俺…」
「捨てられたならまた僕等が拾うよ」
「うぉおおおおおぅ!!!!!;」
突如聞こえてきた矜羯羅の声に3馬鹿と京助がビビリまくりの声を上げた
「きょ…きょんがらしゃん;」
「矜羯羅」
矜羯羅が中島を睨んだ
「…し…捨てられても僕と矜羯羅がまた拾うから…信じてもいい」
矜羯羅の少し後ろから制多迦が言う
「でも…」
「でもじゃない。せっかく僕等がまた拾ってあげるって言ってるんだから…信じてみなよ」
不安いっぱいの顔で矜羯羅を見上げる慧喜に矜羯羅が言う
「…うすけは絶対裏切らない…だから大丈夫」
制多迦が微笑みながら慧喜の頭に手を置いた
「…ってかお前等いつから…;」
坂田が制多迦と矜羯羅を指差して言う
「お二方を指差すなよ」
慧喜が坂田に言った
「とにかくさ!! そのお二方もこう言って下さってる事だし…慧喜ッちゃんは全力で悠を信じてもいいと思うよ?」
南が慧喜に笑顔で言った
「そーそー! お二方のお心使い無駄にしちゃァねぇ?」
京助が口の端を上げて言う
「んだんだ!! 無駄にしちゃなんねぇ!!」
中島もハッハと笑って言った
「…ね?」
南が慧喜の肩を軽く叩くと慧喜は少し赤くなりなりながら小さく頷いた
緊那羅から聞いたことを疑うこともせず走り続けて坂田家の前に来た悠助が膝に手をついて荒く乱れた息を整えた
「し…柴田さんに…会えばいいんだよね?」
顔を真っ赤にして少し息苦しそうな悠助の背中をさすっていた緊那羅に悠助が聞いた
「え? …あ…うん;」
緊那羅が慌てて頷く
「…本当にごめんだっちゃ悠助;」
悠助の背中をさすりつつ緊那羅がボソッと謝ると悠助が門の隣にある小さい方の出入り口に足を進めた
「…慧喜さん…」
ぐっと握りこぶしを作った後ソレを解いてインターホンに指を伸ばした
「柴田さんお見えになりやした」
三枚目のチーズおかきを半分に割っていた柴田に三浦が声を掛けた
「わかった。お前は若に伝えて来い」
側にあった番茶を一口口に含むと割りかけていたチーズおかきを咥え柴田が歩き出した
「…変わりつつあるな…」
柴田が独り言をいいふっと笑った
玄関まで通じる長い石畳の道に通された緊那羅と悠助の前に笑顔で現れた柴田を緊那羅が思いっきり睨む
「やだなァ; まだ嫌われてるみたんだな;」
苦笑いで緊那羅を見て柴田が言う
「柴田さん!!! 慧喜さんは!?」
そんな柴田のスーツの裾をつかんで悠助が聞いた
「大丈夫今は無事だよ悠助君」
ポフっと悠助の頭の上に置いた柴田の手を緊那羅がペシッと叩いた
「…ははは; 本当に嫌われてるんだね俺…; …さてっと…」
緊那羅に叩かれた手を振りながら柴田が悠助を見た
「悠助君は慧喜さんをどう思っているんだい?」
「え…?」
しゃがんで悠助の目線にあわせるようになった柴田が笑顔で聞く
「難しいかな…じゃぁ悠助君は誰と一緒にいたい?」
質問を変えて柴田が再び聞いた
「一緒…に?」
悠助が質問を繰り返して俯いた
「…視線がちょっと痛いかな緊那羅君;」
突き刺さるような視線を絶えず柴田の背中に送っている緊那羅に柴田が言った
「…僕はみんなと一緒にいたい…慧喜さんとも一緒で…京助とも緊ちゃんとも…」
悠助が答える
「うん、そうだね…じゃぁ今一番会いたい人は?」
柴田が笑顔で再び聞いた
「今…?」
「そう、今一番会いたい人…悠助君は誰に会いに何のためにここに来たのかな?」
顔を上げた悠助に柴田が笑顔を向けた
「…じれったい」
矜羯羅が吐き捨てるように言った
「じれったいって言ってもしょうがねぇじゃん;」
京助が矜羯羅に言う
「悠も悩んで…ってオイ!!;」
「矜羯羅様?;」
慧喜の手を掴んだ矜羯羅が部屋から出て行く
「コラ!!; 主役連れてドコ行くんだよ!!;」
中島と坂田が追いかける
「…っこう短気だから矜羯羅」
半分呆れたような笑顔を南と京助に向けた制多迦も矜羯羅たちの後を追って部屋から出た
「…そのようで」
ヘッと笑った京助も南と共に部屋から出る
「矜羯羅様…」
「今回だけだからね…面倒くさいことは嫌いだから」
慧喜を振り返りもせずに矜羯羅が言う
「オイってば!!;」
追いついた坂田が矜羯羅と慧喜の手を掴んだ
「どこ行くってんよ;」
同じく追いついてきた中島が聞く
「決まってるじゃない…悠助の所」
ゆっくりと振り返った矜羯羅が坂田の手を振り払う
「は?;」
「僕面倒なこと嫌いなんだよね」
再び慧喜の手を掴むと矜羯羅が歩き出す
「ちょい待ち!!; 行くならせめてコレ着て!」
南が両手に何やら持って追いついた
「コレ…」
慧喜がソレを少し摘んで持ち上げる
「即席だからあんま見栄えはよくないけど勘弁ね; お姫様?」
南が笑った
「悠助…」
慧喜の声がして悠助が顔を上げた
「え…慧喜…その格好…」
真っ白いドレスの裾を引きずらないよう軽く持った慧喜の隣には矜羯羅がいた
「慧喜さん…」
悠助に名前を呼ばれたからなのか嬉しそうに眉を下げた慧喜を見て矜羯羅が慧喜を片手で抱き寄せた
「こ…んがら様?」
「きょんがらさん…?」
目をぱちくりさせて矜羯羅を見上げる慧喜と呆然としている悠助に矜羯羅が微笑を向けた
「矜羯羅…?」
緊那羅と柴田も矜羯羅を見る
「コッチの世界で結婚する時に着る服なんだってねこれ…」
矜羯羅がにっこりと笑ったまま悠助に言った
「え…うん…ウェデイングドレスだよ?」
悠助が答える
「結婚…?」
緊那羅が慧喜の格好を改めてまじまじと見た
「南君の手作りだね…相変わらず器用だなぁ」
柴田が立ち上がり目を細めた
「あの服は女性が一番幸せになりたい男性と幸せになるために着る服なんだ」
腰に手を当ててさりげなく柴田が緊那羅に説明する
「幸せになるために着る服…だっちゃ?」
真っ白く長く時たま風に靡くそのウェディングドレスを緊那羅が見つめる
「着たい?」
柴田がいたずらっぽく緊那羅に笑いかける
「な…ッ!! 私は男だっちゃッ!!」
緊那羅が怒鳴った
「似合うと思うよ緊那羅君」
ハハッと笑って柴田が緊那羅に背中を向けた
「…ッ…;」
何かまた怒鳴ろうとして緊那羅が口を開こうとすると肩を叩かれて振り返る
「よ、ご苦労ご苦労…台本と違うけどな;」
京助が緊那羅の肩に手を置いたまま悠助を見る
「ラムちゃんお疲れ~」
ヒラヒラと手を振って3馬鹿もやってきた
「若…展開違うんですけどいいんですか?」
柴田が坂田に聞く
「…いんじゃね?予定は未定で決定じゃなきに」
坂田が柴田に言う
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんだ」
坂田が答えると南と中島、京助も【同感】とばかりに頷いた
「その服を着た慧喜の隣に僕がいる…ということはね」
悠助の目が大きく見開いた
「矜羯羅様!?;」
同時に慧喜も声を上げた
「わかる? 慧喜は僕と結婚するの」
慧喜をいわゆるお姫様抱きをして矜羯羅が悠助に笑みを向ける
「…役者だな」
「…上手いな」
「…劇団四季に売り飛ばすか」
「…アドリブ大王」
3馬鹿と京助が矜羯羅を見て言う
「…んだかんだいって面倒見がいいというか世話焼きなんだよね矜羯羅って」
あくびをしつつ制多迦が矜羯羅を見て微笑んだ
「…ぶんから悪役を買って出るとか…よくある」
自分で自分の頬をつねって制多迦が小さく言った
「…んとうはね矜羯羅は凄く優しいんだ…でも不器用なんだよね; だからよく人に恨まれたり憎まれたり…矜羯羅言い訳もしないから」
そして制多迦がうんうんと頷く
「それはそれは…やたらいいヤツじゃん;」
中島が矜羯羅を見た
「…ん、いいヤツ」
制多迦が笑う
「…くの相方が矜羯羅でよかった」
そう言って目を細めた制多迦を3馬鹿と京助、緊那羅が見て顔を見合わせた後自然と笑顔になる
「…そうですね…」
軽く会釈のように頭を動かして柴田が微笑みを制多迦に向けた
「…ん」
制多迦も柴田に微笑みで返した
「慧喜さん…」
悠助が慧喜を見た
「…矜羯羅様…」
矜羯羅に抱き上げられたまま慧喜が困った顔で矜羯羅と悠助を交互に見た
「きょんがらさん…」
名前を呼ばれて矜羯羅が笑顔を悠助に向けた
「何?」
慧喜を抱えなおして矜羯羅が返事をする
「…慧喜さん…と結婚するの?」
悠助が聞く
「悠助…俺は…」
「黙って」
慧喜が悠助に何か言おうと口を開くと矜羯羅が慧喜の耳元で小さく言った
「悠助には可愛い子がいるんでしょ?ならいいじゃない…」
矜羯羅がにっこり笑う
「麻衣ちゃんは…僕は…」
悠助の両手がぎゅっと握られた
「僕は…慧喜さん…」
そんな悠助を慧喜が不安そうな顔でじっと見ている
「なんだか俺今スゲェドラマ見てるような気がしてならないのですが」
中島が隣にいる京助に言う
「…なんだかなぁ…;」
京助が頭の後ろで手を組んで口の端を上げた
「どうですか京助さん自分の弟が今一皮剥けようとしている現場を目の当たりにして」
坂田が京助の前にマイク(と思ってください的右手)を出して聞く
「いやぁ…本人二股してますし」
南が言うと京助が南をどつく
「しかも男とヒマワリに」
坂田がハッハと笑う
「してねぇッてんだろがッ!!!!;」
京助が怒鳴る
「どうですか緊那羅さん二股かけられている感想は」
中島が緊那羅にマイク(と思ってください的左手)を出して聞く
「へっ!?;」
いきなり話題にいれられた緊那羅が素っ頓狂な声を出した
「私…が何だっちゃ?;」
「反論しねぇのかよッ!!!;」
自分を指さしてうろたえる緊那羅に京助が怒鳴る
「反論って…いわれても;」
緊那羅が耳を塞いで京助に言う
「夫婦喧嘩は犬も食わないってねぇ」
「誰が誰と夫婦だ!!!;」
坂田の胸倉をつかんでガクガク揺すりながら怒鳴る京助に何が何だか把握できていない緊那羅はただ京助を見る
その横で制多迦がアクビと伸びを同時にしていた
「なんなら…此処で誓いの口付けとか…してみようか? 慧喜」
矜羯羅が言うと悠助が目を大きく見開いた
「え…っ…」
悠助に負けないくらいに目を大きく見開いた慧喜が矜羯羅を見る
「ね?」
そんな慧喜を矜羯羅が笑顔で見ると顔を近づける
「…ッ…駄目----------------------------ッ!!!」
突然悠助が叫んで駆け出して
ドテッ
お約束といわんばかりに転んだ
「悠助!!!」
慧喜が悠助の名前を呼んで矜羯羅の腕から離れようとする
「悠!;」「悠助!;」「悠助君!;」「…うすけ!;」
京助と3馬鹿、そして緊那羅と柴田、制多迦も慧喜とほぼ同時に叫んだ
「放してください矜羯羅様!! 悠助が!!」
慧喜が必死になって悠助に伸ばした手を矜羯羅が掴んで引き寄せた
「矜羯羅様!!」
慧喜が泣きそうな顔で矜羯羅を見る
「…駄目…」
悠助の声が聞こえて慧喜が振り向くと膝から血を流している悠助が立っていた
「悠助…血…」
「慧喜は僕の子供産むんだもんッ!!」
悠助が叫ぶと辺りがシン…となった
「だから…だからきょんがらさんと結婚したら駄目…ッ」
転んだ痛さをこらえているのかはたはまた別の何かを我慢しているのか悠助の目には涙が溜まっている
「…もういいね」
矜羯羅が慧喜を降ろして掴んでいた腕を放した
「…矜羯羅様…」
慧喜が矜羯羅を見上げた
「行けば?」
フッと笑みを浮かべると矜羯羅は慧喜に背中を向けた
「お疲れさん」
京助が矜羯羅の背中を叩いた
「…何が」
3馬鹿の後ろで大あくびをしていた制多迦に玉をぶつけながら矜羯羅が言う
「ご苦労様でした」
柴田が矜羯羅に言った
「…別に…僕が何かした?」
横目で制多迦を見つつ矜羯羅が言うと制多迦が笑顔を向けた
「悠助…血でて…」
白いドレスを引きずりながら悠助の元に来た慧喜がしゃがんで悠助の膝にそっと触った
「慧喜…さ…」
「慧喜って呼んでくれたね」
慧喜が本当に嬉しそうな笑顔で悠助を見た
「…初めて…だね」
白いドレスを少し破いて悠助の膝に巻きながら慧喜が鼻を啜った
「…僕…」
悠助が慧喜の頭を抱きかかえた
「僕 慧喜と一緒にいたい…一番一緒にいたい…」
「…うん…俺も」
悠助の背中に慧喜が手を回して抱きしめた
「俺悠助の子供絶対産む…」
少し血がにじんできた白い布を膝に巻いたまま悠助は地面に膝をついて慧喜と目線を合わせた
「はーい皆さん回れ右」
中島が声を掛けると一同規律よく回れ右をして悠助と慧喜に背中を向けた
「そのまま~静かに退散!!」
坂田が言うと小走りで一同が駆け出す
「ハッピーエンドでよかよか!! 本当の結婚の時にはもっと豪華なドレス作りたいもんだぁね」
「ぅわ;」
南がチラッと振り返って満足気に笑った横で緊那羅が躓く
「ホレ!! しっかりせんかい;」
京助が緊那羅の腕を掴んで立ち直らせる
「…うん…; ごめんだっちゃ…」
苦笑いを返した緊那羅を制多迦と矜羯羅が黙って見る
「…お茶でも用意しますか? 若」
柴田が坂田に言う
「いいねぇ~!!」
中島と南、京助が柴田の背中を叩いて親指を立てた
「チーズおかきでいいですか?」
柴田が笑いながら言う
「…チーズおかき本当好きだなお前;」
坂田が口の端を上げて笑った