【第七回】感想肌の君
学校から帰ると聞こえた悲鳴
駆けつけた京助たちが見たものは…
元開かずの間は今現在本来ならば真夏に咲く可憐な向日葵が使用していた
「…何だっちゃコレ…;」
そんなヒマ子さんの肥料&水分補給係りとなった緊那羅が床の間っぽくなっている板の間の上の棚に置いてあるなんとも不可思議な置物を見つけた
「ヒマ子さん…コレ…」
その物体を指差してヒマ子さんを振り返る
「ああ…それは京様のご友人の方が御造りになった…なんでしたっけ何だか伝統の在る人形のようですわ」
ヒマ子さんが両葉で肥料を丁寧に土に埋め込んでいく
「ふぅん…面白いっちゃね形が」
上から下からその置物を見て緊那羅が笑った
「きーんちゃーん」
ガラッと戸が開いて悠助が顔を出した
「あら悠様」
ヒマ子さんが軽く悠助に向って会釈する
「こんにちはヒマ子さん~」
悠助もヒマ子さんの真似をして頭を下げた
「どうしたんだっちゃ悠助」
置物を手に持ったまま緊那羅が悠助に近づく
「あのねハルミママがお使い行ってほしいんだって~僕も行っていい?
ハイと差し出された紙と財布を受け取ろうとして緊那羅は手に持ていた置物に気付いた
「あ! ハニワ!!」
悠助がその置物を見て言う
「はにわ?」
緊那羅もその置物を見た
「…ハニワっていうんだっちゃ? 」
緊那羅が財布と紙を受け取ってハニワを悠助に渡した
「そうそう! ハニワ様でございましたわ! 中島様お手製だとおっしゃっていましたわ」
ヒマ子さんが両葉をあわせて言った
「悠助ー!! どこ~?」
慧喜の声が聞こえる
「…悠助呼ばれてるっちゃよ?」
紙を財布をポケットに入れて緊那羅が悠助の背中を軽く叩いた
「あ、うん。…コレどこにあったの?」
悠助がハニワをもったまま緊那羅を見上げた
「そこの棚だっちゃ」
緊那羅が指差した棚に悠助は小走りで近づきハニワを置いて再び小走りで部屋から出て行った
「あ、悠助!」
慧喜の嬉しそうな声が聞こえた
「じゃぁ私もいくっちゃね」
緊那羅がヒマ子さんに笑顔で言う
「ええ、ありがとうございました緊那羅様」
ヒマ子さんが深々と礼をした
「寒い!」
雪の上に紺色の足が二本肩幅に開かれて立っている
「そりゃそうだろ;」
サクサクと雪を踏む音がして呆れ顔の青年が腰に手を当てて溜息をついた
「しかし相変わらずだなヨシコの方向音痴ッぷり。ってかオライまで巻き込みやがって」
青年が溜息混じりに言うと【ヨシコ】と呼ばれた人物が振り返る
「だって確実よ!! 確かよ! 間違いないわよ!! この辺からりゅー様の気配がしたのだもの!! 私がりゅー様の気配まちがうわけないでしょ?」
なんとも冬の北海道には似合わない格好の少女が自信満々に言う
「それにあっくんが勝手についてきたんでしょ? それとヨシコってやめてくれない?」
指を突きつけられて【あっくん】が腰に置いていた手を頭の後ろで組んだ
「お前がオライのこと【あっくん】って呼ばなくなったらオライも【ヨシコ】はやめてやるさね」
片足でもう片足をポリポリ掻きながらあっくんがしれッとして言った
「てかさぁ…アイツの気配っていうよかは…アレだろ?」
あっくんが再び腰に手を当てて言う
「アイツっていわなんでッ!!」
ヨシコがあっくんに食って掛かる
「でも…アレよね…きっと絶対そうよ! 生き写した様にそっくりなんだろうと思うわけよ」
うんうんと頷きながらヨシコが言うとあっくんが呆れたように横を向いて溜息を吐いた
「あっくんだって見てみたいでしょ!? だからきたんでしょ? ね? 」
背伸びをして言い寄るヨシコを避けるようにあっくんが後ずさる
「…オライはただ暇つぶしに来ただけだしな」
「んっもう!!」
あっくんが言うとヨシコがあっくんの足を思い切り踏んだ
「微かだけど宝珠も反応してるから絶対確かに確実にこの辺りなのよ」
ヨシコが相当の力で踏んだのか声も無く疼くなって足先を掴んだまま震えているあっくんをそっちのけにヨシコが辺りを見渡す
「…お前少し体重減らせ;」
涙目であっくんが言うと今度は無言でヨシコが後頭部に蹴りをかました
「おっかしいわ…」
何事も無かったかのように呟くヨシコの後ろには雪に顔面から埋まったあっくんの姿があった
「あら、慧喜ちゃんと悠ちゃんも行くの?」
石段を降りようとしていた緊那羅と慧喜、悠助が母ハルミの声で止まった
「うん!!」
悠助が元気に返事をした
「そう、気をつけてね?」
にっこり笑った母ハルミに一同手を振って石段を降りはじめた
「…ねぇ緊那羅」
慧喜が歩きながら小声で緊那羅を呼ぶ
「? 何だっちゃ?」
緊那羅が返事をすると慧喜が緊那羅の耳元まで顔を近づけてきた
「悠助とハルミママ様って全然似てないよね」
慧喜に言われて緊那羅が先頭を歩く悠助の背中に目をやった
「義兄様とハルミママ様はそれなりに似てるけど…」
慧喜が呟く
「…きっとお父さん似なんだっちゃ」
緊那羅が笑顔で言った
「俺悠助の父さんって見たこと無い」
慧喜が少しむすっとして言う
「私だって見たこと無いっちゃ; それに…」
緊那羅が足を止めた
「京助あんまり父親については話してくれないんだっちゃ; …知らないって事もあるかもだけど…」
苦笑いで緊那羅が言う
「聞いても?」
慧喜が聞く
「…私は京助が自分から話してくれるまで聞かないつもりだっちゃ」
どんどん離れて行っている悠助の背中を追いかけて緊那羅が小走りで慧喜の横を通り過ぎた
「知りたいって気持ち満々のくせに…」
溜息をついて慧喜も小走りで駆け出した
「あれ? 中島お前どこいくんよ?」
下校途中自宅とは反対方向に足を向けた中島に南が声を掛けた
「京助ン家」
中島が隣にいた京助の肩を軽く叩きながら言う
「何しに」
坂田と南がハモった
「愛を語りに」
中島が京助を抱きしめると京助も中島を抱きしめ返す
「まあ!! 奥さん! 見てくださいませ!! こんな公衆の面前で破廉恥な!!」
南が【きゃぁ】と声を上げて顔を両手で覆いながら言う
「本当! 何を考えておりますの!?」
坂田が片手を口元に当てて【いやーねー】のポーズをする
「ってか公衆いねぇし」
中島が突っ込む
「まぁ…うんそうなんだけどね」
さすがは田舎の正月町人通りが滅多に無い
「貸してたCD取りに行くんだ」
京助との抱擁をといて中島が鞄を肩に掛けなおす
「明日持ってきてもらえばいいじゃん」
坂田が言う
「…忘れる可能性はいくつですか京助君」
中島が手でマイクの形を作って京助に向けた
「100%は軽く越えると思われます」
京助が胸を張って言う
「100%軽いのか~…」
南が苦笑いした
「もうかれこれ10日は出張してるんでそろそろな」
雪の溶けてきた道を歩きながら中島が京助を見る
「ハイハイ; お返しいたしますヨ;」
京助がヘッと口の端を上げる
「…てか…なんでお前等もコッチきてるんよ」
違和感無く一緒に並んで歩いている坂田と南に京助が聞く
「なんとなく」
南が言うと坂田が頷いた
緊那羅に入れてもらった肥料を丁寧に根元に埋め込んだヒマ子さんが軽く伸びをした
「そろそろ京様がご帰宅なされますわね」
ガタッ
「…?」
京助を出迎えようと気合を入れて鉢ごと体を戸に向けたヒマ子さんが窓の方からの物音に振り向いた
「どなたですか? ゼン様? ゴ様?」
ヒマ子さんが物音のしたほうに向ってゼンゴの名前を呼んだが返事は無く
「風でしょうか…」
再び戸口に向けて鉢ごと動こうとヒマ子さんが気合を入れる
「開かないんだけど」
聞き覚えの無い声がしてヒマ子さんが振り返った
ソコには紺色の二本の足
「凍ってるんちゃうかい? 壊しても…って」
その足のほかに見えたのはしゃがみこんだ青年の顔
「やは」
その青年はヒマ子さんに向って笑顔で手を上げて挨拶をした
「何?」
すると紺色の二本の足が折れて今度は少女が顔を覗かせた
「…何あれ」
少女がヒマ子さんを見るなりヒマ子さんを指差して隣の青年に尋ねた
「あ…あれとは失礼なッ!! 私には悠様のくださった【ヒマ子】というれっきとした名前がございましてよ!!」
ヒマ子さんが鉢に書かれているミミズ文字を見せて怒鳴った
「いや~そりゃ悪かったよな;」
青年が苦笑いで謝った
「オライは【阿修羅】んでこっちがヨシコ」
阿修羅と名乗った青年が隣の少女を指差して言うとヨシコの踵落しが阿修羅の頭にヒットした
「ねぇねぇヒマ子さんだっけアナタ」
ヨシコガ阿修羅の頭の上に踵を乗せたままヒマ子さんに聞く
「そうですわ」
ヒマ子さんが答えるとヨシコが少し何かを考え込んだ後部屋の中を覗き込んだ
積もった雪のせいでで部屋の中を見下ろす形で真剣に室内を見渡すヨシコをヒマ子さんが怪しい目で見ている
「…なんですの?」
躊躇いがちにヒマ子さんが声を掛けるとヨシコが体を起した
「間違いないここよ。ここだわ絶対そう」
ヨシコが嬉しそうに両手を合わせて笑った
「ここだわって…ヨシコお前…まさ…」
踵落しのダメージがまだ抜けてない様子の阿修羅が顔を引きつらせてヨシコを見ると時すでに遅しヨシコの紺色の片足が高らかに上がっていた
「安心しろ~? 茶とお菓子食ったら帰るだによん」
南がハッハと笑って石段を登り始めた
「お前が俺ン家に求めてるものは茶か」
京助が南に続いて石段を登る
「なんなら晩飯も求めてやろうか?」
坂田と中島がほぼ同時に石段に足をかけた
ガシャーーーーン!!!!!
「きゃぁあああ!!」
これが火曜サスペンス劇場ならばここで ジャジャーーン!! という迫力のBGMが流れ始めるのであろう的物音と悲鳴が聞こえた
「…今のって」
石段の途中で足を止めた3馬鹿と京助が顔を見合わせた
「…ヒマ子さん?」
五秒ほど沈黙した後揃って全力で残りの石段を駆け上がり栄野家の玄関の戸を思いきりあけるや否や履いていた靴を一応脱いで京助と中島がヒマ子さんのいる元開かずの間の前まで来たが止まりきれずにそのまま戸ごと室内になだれ込んだ
「京様!!」
ヒマ子さんの声で顔を上げた京助の目の前には割れたガラスと入りこんだ雪そして嬉しそうなヒマ子さんの顔
「うっわ! 窓割れたの?; コレ」
後から来た南が室内を見るなり声を上げた
「あ~あ…怪我ないか? ヒマ子さん」
「ぐぇ;」
坂田が倒れこんでいる京助と中島を踏んで室内に入る
「起そうって気持ちはないんかい;」
中島と京助が起き上がって坂田に聞く
「ないね」
坂田が舌を出して答える
「おんやぁ…おかえり」
窓の外から聞こえたおかえりという言葉に3馬鹿と京助が振り返った
「…誰アンタ」
南が言うと阿修羅がヒラヒラと手を振った
「南…誰アンタじゃなく…誰アンタ等だ…」
京助が阿修羅の横にある二本の紺色の足を指差して言う
「オライは阿修羅ってんだ」
ニッと笑って阿修羅が割れた窓から室内に入ってきた
「そんで…アソコに見えているのがヨシコ…の足」
阿修羅が親指で紺色の二本の足を差す
ゴキッ
鈍い音と同時に紺色の二本の足が阿修羅の後頭部にのめりこんだ
「ヨシコじゃないって言ってるでしょッ!!」
「おぉおおお!!!」
ヨシコの格好に3馬鹿と京助から歓声が上がった
「すげぇ!! 露出高っ!! 」
「寒そうだけど嬉しい格好ですなぁ!!」
「今までに来た奴らの中で一番嬉しい格好ですね京助さん」
「そうですね坂田さん」
興奮気味の3馬鹿と京助をヨシコがじっと見ていた
「ねぇ貴方たち…りゅー様って知らない?」
阿修羅を踏みつけたままヨシコが3馬鹿と京助を見た
「りゅー…?」
顔を見合わせた4人が首をかしげたあと首を横に振った
「…おっかしいわ…確かにここなの!! 絶対そう!間違いないの!! ねぇ隠してるとかじゃないわよね?」
ずいっと3馬鹿と京助に顔を近づけてヨシコが再び聞く
「京様からお離れになってくださいましッ!!」
ヨシコと京助 (3馬鹿も)の間に割って入ってヒマ子さんがヨシコを睨んだ
「京…様? って栄野京助?」
ヨシコが言うと3馬鹿が揃って京助を指差した
「あなたが? …待って待って? …栄野…父親の名前とかわからない?」
ヨシコがヒマ子さんを押しのけて京助に迫る
「俺の?;」
京助が聞くとヨシコが頷いた
「…わりぃ; 覚えてねぇんだ;」
京助が苦笑いで言うとヨシコがむすっと頬を膨らませた
「つっかえなーぃっ! 自分の父親の名前くらい覚えておきなさいよ!!」
「…ちょい待てよ」
立ち上がって腰に手をあててヨシコが言うと中島が同じく立ち上がってヨシコを見た
「…なによ」
自分より20センチくらい背の高い中島を上目で睨んでヨシコが言う
「京助のオヤジさんはなッ!! 京助が悠くらいん時に死んでるんだよッ!」
中島が怒鳴るとヨシコが目を丸くした
「…し…って…死んだ…って…うそ」
ヨシコが京助を見た
…初対面のお前に嘘ついてどうするよ; ってか何で中島がキレるわけさ;」
京助が頭を掻きながら言う
「お前がキレないから代わりにキレてるだけだろが」
中島が言うと南と坂田が頷いた
「…ねぇ…本当に父親の名前覚えてない…?」
さっきとは打って変わって小さな声でヨシコが聞く
「…悪ぃ…」
京助が言うとヨシコが泣きそうな顔を上げた
「じゃぁ!! じゃぁ…アナタ栄野京助じゃないんでしょ!! そうよね!!」
ヨシコが京助に再び顔を近づける
「失礼な!! この方はれっきとした栄野京助様でございましてよ!!」
ヨシコと京助の間に再び割って入ったヒマ子さんが怒鳴る
「だってッ!! …それじゃぁ…りゅー様…は…」
「どうしたのこの窓!!」
ヨシコが俯くと同時に後ろから驚きの声がした
「母さん…;」
外れた戸に割れた窓そして雪が溶けて畳の上にできた水溜り
「…京助」
母ハルミが京助を睨んだ
「俺じゃねぇよッ!!;」
京助が思いきり否定の声を上げて手を振る
「ハルミさん!; マジで京助じゃないから!! 本当に!」
南が慌てて京助を庇った
「母さん…?」
力なく垂れていたヨシコの手の指がピクッと動いた
「あら…京助の友達?」
母ハルミがヨシコとヨシコにとび蹴りをくらって今だ起き上がらない阿修羅に目を向けた
「京助の母親…?」
ヨシコが顔を上げて母ハルミを見た
「え? ええ…そうだけど…寒くないの? そんな格好で」
母ハルミがヨシコに笑顔を向けた
ヨシコが母ハルミにツカツカと迫ってじっと顔を見た
「…アナタの旦那のお名前は」
きょとんとしていた母ハルミに視線が集まる
「え…? 旦那…って竜之助のこと?」
「りゅう…のすけ…」
母ハルミの口から聞く初めてでは無いんだろうけど忘れていた父親の名前を京助が小さく繰り返した
「お前の父さん【竜之助】っていうんだな」
中島が京助の頭に手を置いた
「竜之助に京助に悠助か~…スケスケ親子め」
南が京助の脇腹を軽く小突いた
「ハルミさんが好きになったヤツかぁ…竜之助」
坂田がなんとなく残念そうに言うと中島が坂田の頭にも手を置いた
「ほら!! そうよ! やっぱりよ!! 聞いたでしょあっく…」
ヨシコが嬉しそうに阿修羅を振り返って止まった
「…何してんの」
棚に向って熱視線を送っている阿修羅にヨシコが言う
「…いい…」
阿修羅が呟く
「は?」
小さな呟きに一同が目を向けると微かに頬を赤らめた阿修羅の視線の先には
「あ、俺のハニワ」
中島が製作したハニワがのへ~んという間の抜けた表情で置かれていた
「この今にも吸い込まれそうな間のぬけた表情…今にも踊りだしそうな格好…」
阿修羅がふるふるとハニワに向って手を伸ばす
「惚れたぜチクショーーーーー!!」
叫びながらハニワを抱きしめた阿修羅に一同唖然とした表情を向ける
「これ!! これオライにくんかねッ!?」
阿修羅が目を輝かせて京助を見る
「や…それは…;」
そして京助は中島を見る
「俺じゃなく作ったコイツに聞いてくれ;」
京助が中島を指差すと坂田と南も中島に指を向けた
「まぁ!! 人を指差すものじゃないざます!」
中島が京助、南、坂田の頭をスパパーンと流れる様に叩く
「もうぅッ!! あっくん!! 今はそんな話…ッ!!」
ヨシコが怒鳴って片足を高く上げた
「駄目でしょッ!!」
高らかに上がったヨシコの片足を掴んで母ハルミが声を上げる
「女の子がそんな格好で足を上げないの!!」
そしてそのままヨシコの足を下げる
「な…!! なにすんのよッ!!」
ヨシコが母ハルミに食って掛かる
「危ないし駄目でしょッ!! まったく…そんな格好して風邪でも引いたら大変でしょう!」
母ハルミはそう言うと後ろのダンボールを開けて何か探し出した
「…あった」
しばらくして母ハルミはダンボールの中から何かを取り出しヨシコの足元にしゃがんだ
「コレ巻いていなさい? 少しはあったかいでしょう?」
白く長い布をヨシコの腰にゆっくりと巻きつけながら母ハルミがヨシコに笑顔を向けた
「あ、京助のオシメ」
坂田がヨシコに巻かれた布を指差した
「あ、違うわよ? 京助のオシメは全部雑巾にしたもの」
母ハルミがふふっと笑った
「コレはね竜之助が持って来た物なの」
「父さんが?」
京助が聞くと母ハルミが頷いた
「りゅー様が…?」
ヨシコが自分の腰から下に巻かれた布を見て呟く
「大事なものらしいんだけど置いていっちゃって…どうしょうもないじゃないのねぇ?」
どことなくさっきよりも悲しそうに母ハルミが笑った
「じゃぁ…もしかしてコレ…このさわり心地…そうよ…これ!! これもしかしなくても!!」
ヨシコが腰から下に巻かれていた布を剥ぎ取り割れた窓から外に飛び出した
「あ! ちょっと?!」
慌てて母ハルミが窓に駆け寄る
「ハルミさん!! 下! 足元ガラスガラス!!;」
坂田が叫んだ
「…母さん?」
窓から空を見上げたまま動かなくなった母ハルミに京助が声を掛けた
それでも返事をしない母ハルミに首をかしげて京助が近づき窓から空を見上げた
「…うぉあ;」
京助が変な声を上げた
ガサガサと音を立てて買い物袋が軽く前後に揺れる
「もうすぐ春だね~だいぶ明るいもんね」
冬ならばもうとっくに夕日が沈んでいる時間だった
「そうだちゃね」
緊那羅が笑顔を悠助に向けた
「悠助は春がすきなの?」
悠助の手を握って歩きながら慧喜が悠助に聞く
「うん!! あ、でもね夏も好き~秋も…寒いけど冬も好きだな~」
「全部好きなんだっちゃね」
悠助が言うと緊那羅が突っ込んだ
「…あれ?」
石段を登って玄関まできた悠助が開きっぱなしの戸を見て首をかしげた
「京助…?」
緊那羅が悠助と慧喜を見て言う
「と…何人かいるみたいだよ」
玄関の中には散乱している靴が数えて4人分
「坂田たちかなぁ?」
トテトテ歩いて靴を脱いだ悠助が家の中に入ると慧喜もソレに続いた
「…トイレでも我慢してたんだっちゃ?」
散乱している靴を揃えながら緊那羅が呟いた
「間違いないわ…そうよ! これ!! 羽衣ッ!!」
天高く浮かびながらヨシコがくるっと回り竜之助の忘れ形見だという布に頬刷りした
「怖くないのかしら…」
母ハルミがぽかんとヨシコを見て呟いた
「もうちょい驚くことあるんじゃないか?母さん;」
京助が母ハルミに突っ込んだ
「あら!! 失礼ね!! 高所恐怖症の人間にとっちゃ重大問題なのよ?」
母ハルミが京助の頭を軽く小突いて言う
「あの布…オシメから羽衣にクラスチェンジしたなぁ…」
南が京助の後ろからヨシコを見上げた
「羽衣纏って飛ぶハルミさん…綺麗だろうなぁ…まさに天女?」
ほぅっと溜息をついて坂田が何かを想像している
「ありゃぁ竜がいつも身に着けていた羽衣だとおもうぞ」
ハニワをしっかと抱きしめながら阿修羅が言う
「この世にもあの世にもどこにも2つとない羽衣だ」
阿修羅が目を細めてヨシコを見上げた
「阿修羅!!!?;」
突然聞こえた緊那羅の声に一同が振り向いた
「な…なんで…;」
阿修羅を指差して緊那羅が言う
「…緊那羅側のヤツだったみたいだな」
中島が言う
「ってぇと【天】か…これで…えーと鳥類、緊那羅、乾闥婆にコイツら入れて5人…?」
京助が指折り数える
「…俺思うにまだ増えると思うんだけど」
南が言う
「…俺もそう思う;」
立てていた指をぐっと握って京助が肩を落とした
「なんで阿修羅がいるんだっちゃ?;」
部屋に入ってきた緊那羅が阿修羅に聞いた
「ヨシコの御守り」
くぃっと阿修羅が親指で窓の外を差すと緊那羅が窓から外を見た
「吉祥…;」
がくっと緊那羅が肩を落とした
「きっしょう? ヨシコちゃんじゃないの?」
母ハルミが緊那羅に聞き返した
「吉祥ってのがアイツの本当の名前で。ヨシコはオライが呼びやすいからってぇことで呼んでるンよ」
阿修羅が答える
「漢字で書くとこう…吉に祥だからヨシコ」
雪に指で書いて説明していた阿修羅の頭に上にヨシコが着地した
「…コラ; ヨシコ;」
阿修羅がヨシコの足を掴んだ
「久しぶりだね緊那羅」
足を掴んでいた阿修羅の手の甲を思い切りつねりながらヨシコが緊那羅に笑顔を向けた
「吉祥もあいかわらず元気そうだっちゃね;」
緊那羅が苦笑いで答える
「…安心してよ別にアナタを連れて帰ろうとか思ってないから。迦楼羅が何も言わないんだもの私は勝手できないわ; ただ…マゴがちょっとグレ気味だけど」
阿修羅の頭を踏み付けてヨシコが部屋の中に入る
「ほぉらまた出た新しいお友達のお名前【マゴ】さんだって」
坂田が言う
「案の定やはし増加するみたいだねぇ」
南がはっはと笑う
「要はアレだ京助、お前は類友の【類】なんだな」
中島が言う
「俺主体?;」
京助が自分を指差すと3馬鹿が揃って親指を立てる
「…不名誉だ;」
部屋の中の面子を見渡して京助が溜息をついた
「…緊那羅ちょっと」
ヨシコ…もとい本名 吉祥が緊那羅の腕をグイと引っ張った
「なんだっちゃ?」
少しよろけた緊那羅に吉祥が小声で何かを言うと緊那羅の顔がほんのり赤くなった
「やっぱり…?」
ふふっと笑う吉祥を緊那羅が困ったような笑顔で見た
「慧喜といい吉祥といい…どうしてわかったんだっちゃ;」
緊那羅が聞くと吉祥がにっこり笑った
「京助ーおかえりー」
「のっ;」
唐突に悠助のお帰りタックル不意打ちをくらった京助が驚きの声を上げた
「義兄様ずるいッ!!」
そしてそれを慧喜が頬を膨らませて抗議する
「坂田と南と中島もいらっしゃい~」
慧喜に京助から引き剥がされながら悠助が3馬鹿に向って言う
「あいかわらずだなぁ…」
南が笑う
「おかえりなさい悠ちゃん、慧喜ちゃん」
母ハルミが悠助の頭を撫でた
「あ…袋もって来ちゃったっちゃ;」
右手に持ったままだった買い物袋を見て緊那羅が言う
「おかえりなさいませ悠様、慧喜様」
ヒマ子さんが礼をした
「ただいまヒマ子義姉様」
慧喜がヒマ子さんに礼を返した
「窓われてる~」
悠助が窓を見て言うとちらりと京助を見上げた
「…悠…お前まで俺が割ったと思ってるだろう;」
京助が言う
「違うの?」
悠助が首をかしげると京助ががくっと肩を落とした
「日頃の行いが悪いからよ」
母ハルミが言う
「…りゅー様と…同じ髪の色…」
吉祥が悠助をじっと見て呟いた
「…あれ?」
吉祥の視線に気付いたのか悠助が吉祥に目を向けた
「…あなた名前は?」
吉祥が悠助に聞いた
「悠助は俺のだぞ!! 吉祥!!」
慧喜が悠助を悪者から庇うかのように警戒して抱きしめる
「悠助…そう…悠助…」
吉祥が手に持っていた羽衣をぎゅっと握って苦笑いを悠助に向けた
「お姉さんはなんていうの?」
慧喜の腕の中から吉祥に向って悠助が笑った
「私は…」
「ヨシコ」
踏みつけられたままだった阿修羅が反撃というかのようにすかさず答える
「ヨシコさん?」
その名前を悠助が繰り返すと慧喜がプッと吹き出して悠助の頭に顔を埋めたまま肩を震わせて笑い出した
「あっくんッ!! もうッ!!」
「ガハッ!!;」
吉祥が阿修羅の上で飛び思いきり全体重をかけて両足で再び阿修羅を踏みつける
「二代にわたって失恋してショックなんだから怒らせないでッ!!」
そのままガスガスと阿修羅を踏みつけて吉祥が怒鳴る
「吉祥; 落ち着くっちゃッ;」
緊那羅が吉祥を後ろから押さえて制止させる
「今ヨシコちゃん二代にわたってって言ったけど…」
南が京助を見た後
「京助も入ってるのか?」
そう言いながら南が中島と坂田を見る
「二代ってことは一応 (強調)はいるんじゃないか?」
坂田が答える
「京様には私がおりますもの」
いつの間にか京助の隣にいたヒマ子さんが京助の腕にそっと葉を絡ませてきた
「いや…いないから;」
絡められた葉を京助がゆっくりと引き剥がした
ヒマ子さんの葉を接ぎ終えた京助がふと吉祥に目を向けた
「…お前父さん知ってるのか?」
緊那羅に後ろから押さえられ足で阿修羅を踏みつけていた吉祥が顔を上げた
「知らなかったら恋も失恋もできないでしょう?」
吉祥が軽く京助を睨む
「ごもっとも」
坂田が頷いた
「りゅー様は…そこの子と同じ様な髪の色で…」
吉祥が言うと母ハルミが頷く
「そして性格は結構破天荒」
そして母ハルミと吉祥の声がハモった
「でもさりげなく優しくて」
吉祥が言う
「結構抜けてて」
母ハルミが言う
「そうそう!!」
吉祥が嬉しそうに笑った
「…二人とも楽しそうだっちゃね」
やっとのことで吉祥の踏みつけから開放された阿修羅を起す手助けをしながら緊那羅が呟いた
「ねぇ阿修羅…吉祥の言う【りゅー様】って…あの?」
起き上がり首をコキコキ鳴らしている阿修羅に緊那羅が聞く
「ああ…たぶん間違いないって迦楼羅が言ってたしな…だからヨシコも確かめたくなったんだろうさ」
阿修羅が楽しそうに母ハルミと話している吉祥に目を向けた
「…俺さっぱり話の内容わからなんだぁにー」
南が言う
「俺もだぁにー」
中島も言う
「俺は一個だけわかっただぁにー」
坂田が【ハイ】と挙手した
「ハイ、坂田君」
南が指名する
「京助は類共の類だってことだぁに」
「オイ、コラ、待てソコ;」
坂田が京助を指差して言うと京助が坂田に裏手ツッコミを入れる
「それはいえてる」
中島が頷く
「主軸♪主軸♪」
南がアフリカかどっかの民族の踊りのような踊りを踊る
「類共♪類共♪」
中島と坂田も同じく踊りだした
「俺は生贄かッ!!;」
京助が怒鳴った
【りゅー様】こと栄野家の父親【竜之助】の話で大いに盛り上がっている母ハルミと吉祥を見て悠助が無言で慧喜を見上げた
「僕のお父さん…りゅうのすけって言うの?」
悠助が慧喜に聞いた
「竜之助…っていうか…竜? とにかくそうみたいだね」
慧喜が笑顔で答えた
「お父さんも慧喜さんと同じところから来たの?」
悠助が再び聞く
「竜は【天】からだから緊那羅とかと一緒」
さりげに慧喜が緊那羅の名前を口に出すと緊那羅が反応して慧喜を見た
「緊ちゃんと? じゃああるらんとかと一緒なんだ?」
悠助が緊那羅を見る
「? どうしたんだちゃ?」
悠助に視線を向けられて緊那羅が悠助に声を掛けた
「ねぇねぇ緊ちゃん…僕のお父さんってどんな? どんな? 」
をキラキラさせて悠助が緊那羅に聞いてきた
「竜のボン~緊那羅はたぶん竜のことはあんま知らないと思うぞ?」
ハニワを片手に阿修羅が言う
「…ゴメンだっちゃ;」
緊那羅が苦笑いで答えた
「緊那羅が来てからすぐ…いや…くる前か? とにかく突然姿くらませたからナァ…まぁ変わりにオライが教えてやるよ」
阿修羅がヘヘッと笑う
「本当!!!?」
悠助が嬉しそうな笑顔を阿修羅に向けると慧喜がどことなく不機嫌そうな顔になる
「そっちの竜のボンもこっち来て聞くか?」
京助を振り返り阿修羅が京助に声を掛けた
「竜のことだ殆ど壊してんだろうな記憶…全然覚えてないんだろ? 竜…オヤジのこと」
悪戯っぽく笑った阿修羅を真っ直ぐ見て京助が頷いた
「話して…迦楼羅に怒られないっちゃ?」
緊那羅がボソッと小声で阿修羅に言う
「ここまでおおっぴらに名前まで出しちまって今更…。コイツらには知る権利があるだろ?」
阿修羅がハニワを撫でながら言った
「だがそれにはまだ早いというのだたわけ!!」
割れた窓の方からした怒鳴り声はやっとスムーズに窓から登場できたのが嬉しいのかどことなく気合が入っているかのようにも聞こえた
「今日はこちらから失礼します」
割れた窓からするりと室内に入ってきた乾闥婆がにっこりと笑った
「阿修羅! 吉祥!!」
乾闥婆に続いて念願の窓からの登場を果たした迦楼羅が室内に入ってくるなり阿修羅と吉祥の名前を呼んだ
「よ!! かるちゃん」
ヘラヘラとした笑顔で阿修羅が迦楼羅に手を振る
「お兄さん違うよ~!! かるちゃんだとランドセルだからかるらんだよぅ」
悠助が迦楼羅のことをかるちゃんと呼んだ阿修羅に抗議する
「そうそう! かるらんかるらん」
坂田がうんうん頷く
「そうかじゃ…よ! かるらん」
阿修羅が訂正して再び迦楼羅に手を振る
「ちゃんもんもいらんッ!!; たわけッ!!」
迦楼羅が怒鳴ると口から小さな炎が出た
「むやみに火出さないで下さい」
乾闥婆が笑顔のまま迦楼羅の髪を引っ張った
乾闥婆が迦楼羅8かるら)の髪から手を離して部屋の中を見渡して溜息をついた
「…窓は吉祥の仕業ですね…僕が片付けておきますから迦楼羅、それに…」
てきぱきと行動し始めた乾闥婆が阿修羅の方を見た
「よ!! だっぱ」
阿修羅がハニワで乾闥婆に挨拶した
「たった二文字を略して呼んで下さっていつもながら有難う御座います阿修羅。迦楼羅の手助けお願いしますね」
にっこりと (でも怖い)笑顔で乾闥婆が阿修羅に向って言う
「了解~ん」
阿修羅がハニワ片手に敬礼をして迦楼羅の服を掴みそのままひょいと小脇に抱えた
「なっ; 降ろさんかたわけ!!; 自分で歩けるわ!!;」
迦楼羅が怒鳴る
「おい、竜のボン其の一、どこで話せばいい?」
阿修羅が京助に聞いた
「え…あ…あ~…じゃぁ茶の間…;」
京助が戸惑いながらも足を進めて茶の間に案内しようと部屋から出る
「俺らも行っていいわけ?」
南が阿修羅と京助に聞く
「来てもいいけど一個だけ約束してくれや」
阿修羅が笑顔を3馬鹿に向けた
「何聞いても竜のボンの友達でいてやってぇな?」
へらッと笑って言うと阿修羅は先に出ていた京助の後を追った
「…今更…だよねぇ?」
南が中島と坂田をちらっと見ながらボソっと呟いた
「まぁ…心臓が飛び出してイスカンダルにいくようなことあっても切れない腐れ縁だと思いますからねぇ?」
坂田が足を進めた
「ぶっちゃけ親友? 悪友? 俺らって」
中島が同じく足を進めて言う
「超悪親友?」
南が笑いながら歩き出す
「うわー何か戦隊モノの怪人みてぇ」
坂田が笑って部屋から出ると中島と南も坂田に続いた
そんな様子を見ていた乾闥婆がふっと笑ってそれから緊那羅を見た
「…乾闥婆?」
乾闥婆に視線を向けられて何か言われるのかと思った緊那羅が乾闥婆に声を掛ける
「…ハルミママさんも吉祥も…それにヒマ子さんと慧喜と悠助も一緒に話、聞いてきたらどうですか? ここは僕と緊那羅で片付けておきますから。暗くなってきましたし女性にこの部屋の寒さは体に悪いと思いますし」
乾闥婆がにっこり笑って言う
「相変わらず優しいのかキツイのかわからないのよね乾闥婆」
吉祥が笑顔で言う
「じゃぁ…お言葉に甘えようかしら? そのかわり晩御飯食べていってねけんちゃん?」
母ハルミがにっこり笑って言い乾闥婆に背中を向けて部屋から出た
「では失礼いたします乾闥婆様」
ヒマ子さんと慧喜が同時に礼をする
「けんちゃんまたねっ」
慧喜に抱きしめられている悠助が笑顔で手を振って部屋から出て行った
「…乾闥婆?」
悠助に向って笑顔で手を振っていた乾闥婆に緊那羅が声を掛けた
「…緊那羅」
振っていた手をゆっくり下ろしながら乾闥婆が緊那羅の方を向く
「…貴方は…」
乾闥婆が口を開いた
茶の間に最後に入ってきた慧喜が戸を閉めて戸のすぐ側に腰を降ろしてその膝の上に悠助を招き座らせる
「え~…あれ? 緊那羅は?」
揃った面子を見渡して緊那羅がいないことに気付いた阿修羅が言う
「緊ちゃんはけんちゃんとお掃除するんだって」
悠助が言う
「…任せたんか?」
阿修羅がボソッと迦楼羅に耳打ちすると迦楼羅が小さく頷いた
「そっか…じゃ…こっちはこっちで始めますか」
阿修羅がコトリとハニワをテーブルに置いた
「まずは」「竜は死んではいない」
阿修羅と迦楼羅の声が重なった
「…お先ドウゾ」
阿修羅が迦楼羅に言う
「…竜は死んでなどいない」
迦楼羅が再び言ったが何も反応が返ってこない
「…いきなりそれかいかるらん;」
阿修羅が苦笑いで迦楼羅の頭に手を置いた
「ってかマジ? 本当に竜生きてんの?;」
阿修羅が聞くと頭の上の手をうざったそうに払いのけながら迦楼羅が頷いた
「嘘でもなんでもない。竜は生きている…のだが…」
迦楼羅が京助と悠助、そして母ハルミを見る
「…記憶喪失とか?」
「…重症?」
「行方不明?」
3馬鹿がボソボソと意見を言い始める
「…そのうち会えばわかるだろうが…その…なんだ…」
迦楼羅が案の定言葉に詰まって口から出てくる言葉の間隔が開いてくる
「竜之助は生きているの…?」
母ハルミが迦楼羅に聞いた
「…そうだ」
迦楼羅が頷く
「…そう……」
迦楼羅からの返事を聞いた母ハルミがゆっくりと目を閉じた
「母さん…」
京助が母ハルミを呼んだが母ハルミは目を閉じたまま何かを思っているらしく返事をしなかった
「悠助の父様生きてるんだって」
慧喜が言うと悠助が慧喜を見上げた
「僕の…お父さん生きてるの?」
悠助が慧喜に聞くと慧喜がにっこり笑って頷いた
「…会いたいな…お父さん…」
そう言った悠助を慧喜は思い切り抱きしめた
「なぁ鳥類…生きて…父さんが生きてるんならどこにいるんだよ」
京助が迦楼羅に聞く
「【天】だ」
「うっそ!!!」
迦楼羅が答えると吉祥が立ち上がった
「うっそ!! だって私見たことないわ!! うん!! 見たことないもの!! 本当にいるの!? 宝珠も反応しなかったのよ!?」
吉祥が迦楼羅を指差しながら大声で言う
「やかましいわ!! たわけ!!; …まぁ…宝珠が反応しないのは宝珠が壊れているからだろう…」
迦楼羅が吉祥に向って怒鳴った後咳をひとつして言った
「壊れたァ?」
阿修羅が立てた小指を右耳に突っ込み動かしながら言う
「壊れた…よりは自ら壊したのだろうな」
迦楼羅が言う
「どうして!! 宝珠…」
吉祥が泣きそうな顔になる
「守りたいものの為だろうな」
そう言って迦楼羅が京助と悠助、そして母ハルミを見て微笑んだ
「あの式神達を残していったのもそうだろう」
迦楼羅が胡坐をかきなおす
「誰だろうと自分の守りたいものが危険に曝されるのは嫌だからな…」
シンとした茶の間にキシキシと廊下を歩いてくる音が聞こえた
慧喜が膝でずって少し横にずれると茶の間の戸が開いて乾闥婆と緊那羅が入ってきた
「二酸化炭素急激に増加傾向」
慧喜がずれたことで隣にいた南も少しずれながら言う
「こちらは一通り終わりましたが…」
乾闥婆がちらりと迦楼羅を見る
「こっちはまだ序盤だよん」
阿修羅がテーブルに置いたハニワを動かして乾闥婆に返事をした
「竜のことをだな…」
迦楼羅がコホと軽く咳をして言うと乾闥婆が溜息をつきながら迦楼羅の隣まで足を進めた
「緊那羅、座れば?」
坂田が横にずれて緊那羅が座れる位のスペースを作る
「あ…うん…」
ワンテンポずれて返事と苦笑いをした緊那羅がゆっくりそこに座った
「何か言われたのか?」
中島が身を乗り出して緊那羅に聞く
「え…あ…ちょっと」
緊那羅はさっきと同じくワンテンポずれて返事と苦笑いを中島にもするとそのまま中島の隣に座っている京助に目を向けた
「なした?」
何か言いたそうな感じの緊那羅に京助が笑いながら聞くと緊那羅が首を横に振った
「…なんでもないっちゃ」
そしてあからさまに作った笑顔を京助に向けた
「…そっか?」
京助が首をかしげながら緊那羅から目を逸らすと緊那羅が俯く
「ラムちゃん…本当になにもなかったんか?」
心配そうに緊那羅の顔を覗き込んだ南が声を掛けると俯いたまま緊那羅が頷いた
「ちょっとまとめますね」
乾闥婆が手をパンパン叩きながら茶の間に集合した一同に言う
「竜…京助と悠助の父親が死んではいないということはわかったんですよね?」
乾闥婆の言葉に一同が頷く
「そして京助と悠助は純粋な人間ではないということも」
今度は乾闥婆の言葉に一同が京助と悠助に視線を向けた
「まぁ…そうなるんだろうねぇ?」
南が言う
「ハーフだハーフ」
中島が京助の肩を叩きながら言う
「ってか何? 人間じゃないわけ?
坂田が乾闥婆に言う
「細かく言うとそうですね。人間…ではないです」
乾闥婆が答える
「じゃあ大雑把に言うと人間なワケ?」
坂田が更に突っ込む
「外見とかあんまかわらねぇし血とか赤いみたいだし? いいんじゃねぇの大雑把で人間で」
京助が前に矜羯羅の血が赤かったことを思い出して言う
「ってことはお前と悠助は微ハーフな!! 微ハーフ!」
中島が京助と悠助を交互に指差して笑いながら言った
「これまた微妙な言葉生まれたよ~?」
南がハッハと笑いながら言う
「話逸れてきたので元に戻します」
3馬鹿と京助の会話の骨をぽっきり折って乾闥婆が仕切りなおす
「京助と悠助は細かく ( 強調)言えば僕らと同じ力を持っっているのです。まだ目覚めてはいないにしろいずれは力が目覚めるはずです…【時】が来れば」
乾闥婆の声がだんだん小さくなっていった
「じゃぁアレか京助と悠助は竜田揚げばっか食ったり空飛んじゃったり口から火ィ出したり前髪が異様に伸びたりするわけか」
坂田が迦楼羅をチラッと見て言う
「そこ!! 何故今ワシを見た!!;」
すかさず迦楼羅が坂田を指差して怒鳴る
「つうかすげくねぇ?」
南が笑いながら言う
「そんな力が目覚めるかもよ なヤツと友達?」
南が京助を見る
「いや違うぞ南【超悪親友】だろが」
中島が元開かずの間から出る際に話していたことを思い出して言う
「んだよそれ;」
京助が半分呆れ顔で突っ込むと3馬鹿が揃って口元に人差し指を立てて
「乙女のヒ・ミ・ツ」
そう言って笑った
「ひとつ聞いてもいいかしら」
それまで黙ったままだった母ハルミが口を開いた
「竜之助は元気?」
一同の視線が向けられる中母ハルミが一言 迦楼羅達に聞いた
「元気といえば元気だ」
迦楼羅が答える
「そう…」
迦楼羅の答えを聞きどことなく嬉しそうに微笑むと母ハルミは立ち上がり
「晩御飯の用意してくるわ」
そう言って茶の間から出て行った
「さっきのハルミさんめっちゃ嬉しそうだったナァ」
坂田がボソッと言う
「…あの人…本当にりゅー様のこと好きなんだ…」
吉祥が手に持ったままだった羽衣を握り締めた
「そりゃそうだろ? 好きなヤツのだから子供産んだんだろう?」
慧喜がさらッと言う
「俺は悠助が好きだから悠助の子供産むんだ」
慧喜の発言に照れた3馬鹿と京助が明後日の方向を向いたり軽く咳をしたりしている
「そして好きなヤツとの子供だから好きなんだろう? ハルミママ様は竜が好きでその竜との子供の義兄様と悠助が好きなんだ…好きじゃなきゃ…俺だったら嫌だ」
慧喜はそう言うと悠助をぎゅっと抱きしめた
「いいこというねぇ慧喜っちゃん…過激発言込みだけど」
南がウンウンと頷く
「…私ハルミママさん手伝ってくるっちゃ」
いきなり緊那羅が立ち上がり振り返りもせずに茶の間から出て行った
「…乾闥婆お前緊那羅に何ゆーたんよ;」
緊那羅が出て行った後京助が乾闥婆に聞く
「事実と現実そして過去です」
「…サザエさんの予告のような三本立て」
乾闥婆の答えに中島が突っ込む
「緊那羅は知らないことが多い」
迦楼羅が言う
「知ることによって傷つくこともある…遅かれ早かれ知ることを乾闥婆は教えただけだ」
その迦楼羅の言葉から少しの間沈黙が茶の間にやってきた
コチコチという時計の音たまに吹く風の音や台所からなのかたぶん鍋の蓋を落とした音
「なぁ竜のボン等」
阿修羅が京助と悠助に声を掛けたところで沈黙が終わった
「お前さんたち緊那羅とか慧喜とか…好きか?」
「は?;」
「うん!!」
突然の阿修羅の質問に素っ頓狂な返事を返した京助と笑顔で大きく頷いた悠助
「俺も悠助好き」
慧喜が笑顔で悠助の頬にキスをした
「あ~ハイハイそこは熱い熱い…お前は?」
阿修羅が京助を見る
「京様!! 私のことは如何に!!?」
ヒマ子さんが真剣に聞いている
「何照れてるんだよ」
中島が京助の首に腕を巻きつける
「照れてねぇッ;」
京助が怒鳴る
「照れてるよねぇ?」
南が笑いながら京助の脇腹を突付く
「やめぃッ!!;」
「ウ~ラウラ白状しろ~スキデスカ~?」
南に向かって怒鳴った京助の反対の脇腹を坂田が突付きながらハッハと笑う
「やめぃゆーとるやろがッ!!;」
京助が首を左右に振って更に怒鳴る
「京様!! 私はッ!!」
ヒマ子さんが更に聞いてくる
「ええぇい!! やかましいわ!! たわけッ!!;」
3馬鹿と京助のドタバタ騒ぎに迦楼羅が怒鳴った
「貴方もうるさいですよ迦楼羅」
そして乾闥婆が迦楼羅の髪を引っ張る
「俺はッ!! 嫌いなやつと話すような広い心はもってねぇよッ!!;」
京助がそう大声で言うと3馬鹿含め茶の間にいるものの動きが止まった
「訳します。【俺はみんなが大好きよ】」
そして坂田が京助の言葉を解釈する
「そっか」
阿修羅はニッと笑い
「オライはコレも好きだぞ」
そしてテーブルの上のハニワを軽く指で弾いた
夕食が終わったあとのなんともいえない匂いがする茶の間で後片付けをしているのは乾闥婆と緊那羅
3馬鹿を見送りにちょっとソコまで出向いているのは京助と阿修羅
コマとイヌの枕になっているのが迦楼羅
あくびをした悠助の頭を撫でているのは慧喜
「…それは貴方が持っていて?」
元開かずの間の割れたガラス部分に即席補修をしていた母ハルミが羽衣を返そうとした吉祥に言った
「それは元々ヨシコちゃん達の国のものなんでしょう?」
ビーーーっとガムテープを伸ばしながら母ハルミが言う
「でも…これは貴方がりゅー様からもらった…」
吉祥が羽衣を握り締めて言う
「私は思い出と京助、悠助をもらったんだもの。それにその布…どう考えても私は有効につかえないと思うの…ホラ、言うじゃない? モノは使ってこそなんぼのもんって」
母ハルミが振り向いて笑った
「だから…ね?」
羽衣ぶ顔をうずめた吉祥がコクリと頷いた
石段の下からがふっというゲップが短発で聞こえてくる
「ちょい食いすぎたかナァ;」
口元に手をやりながら南がまた軽くゲップをした
「俺も…ッぷ」
坂田も同じく
「俺ン家食堂とかじゃねぇんんだけどねぇ;」
京助も微かなゲップ混じりに言う
「本当か!! 本当にいいんきにッ!?」
阿修羅のめちゃくちゃ嬉しそうな声がゲップに混じって聞こえる
「おーい!! 竜のボン! もらった!!」
そういって阿修羅が嬉しそうに高らかに掲げたのは中島作のあのハニワ
「あ~ハイハイ;よかったな;」
ハニワを両手で掲げヘラヘラと笑う阿修羅を見て京助が口の端を上げる
「んじゃま、ごっそさんでした」
「明日なー」
坂田と南が手を振って歩き出すと中島が小走りしながら京助の背中を叩いて坂田と南を追いかけた
「ありがとなー! そこのでっかいの!!」
阿修羅がブンブン手を振って3馬鹿を見送った
「…確かに大、中、小だな…」
並んで歩いていく3馬鹿の後姿を見て京助が呟いた
3馬鹿の後姿が豆くらいになったのを見計らって京助が石段に足をかけた
「…お前…阿修羅だっけ? 本当気に入ったんだなハニワ」
大事そうにハニワを手に持つ阿修羅に京助が言う
「おうさ!!」
ソレに対し親指を立てて嬉しそうに阿修羅が返事をした
「…なぁ俺の父さんってどんなヤツ?」
遠くで聞こえる豆腐のチャルメラがやたら大きく聞こえた
「竜か…」
阿修羅がハニワを片手で持ち空いた手で頭を掻いた
「性格はお前ともう一人のボン足したようなもんで…外見もお前ともう一人を足したようなもんだ」
阿修羅が答える
「似てるのか? 俺と悠と父さんって」
京助が聞く
「そりゃな親子だしな…似てるぞ」
阿修羅が言うと京助の顔がほころんだ
「…そっか」
そんな京助を見て阿修羅が微笑む
「今の笑った顔とか結構似てたんぞ?」
石段を登り京助の横を通り過ぎながら阿修羅が言うと照れ隠しからなのか京助が一段飛ばしで石段を駆け上って行った
洗い桶の中に溜まった水に蛇口から水滴が落ちて波紋ができそれがゆっくりと消えて緊那羅の顔が映った
「……私は…」
水面に映った顔がゆらゆらと揺れる
「緊ちゃん? テーブル拭いた?」
母ハルミに呼ばれて慌てて振り返った緊那羅の手が洗い桶に当たり水面が波立つ
「あ、さっき乾闥婆が…」
そういいながら台所から出て行った緊那羅
揺れる水面にまた水滴が落ちた