【第五回・参】ヘリカメ様
北海道には本州で恐れられている【イニシャルG】という虫は居ない
そのかわり【臭い】【とぶ】【キモい】と三拍子揃った悪魔が大量に発生する
その名は…
「母さんガムテープあったっけ?」
京助が茶の間の戸を開けてTVを見ていた母ハルミに聞いてきた
「ガムテープ?」
母ハルミが立ち上がり茶箪笥の戸を開け始める
「たしか…このへんに…あら~…?」
次々と箪笥の戸を開けてガムテープを捜索し始めた母ハルミを見て京助も近くの棚を探す
「京助コレ?」
緊那羅がTVの下の棚から何かを出して京助に見せた
「それはセロテープ! ガムテープってのはこう……でかい」
京助が手で丸を作り緊那羅にガムテープを説明する
「…でかい…んだっちゃ?」
緊那羅が京助の真似をして手で丸を作りそれをまじまじと見た
「おかしいわねぇ…この前新谷のおばさんの所に荷物送ったときに使って…この辺に置いたはずなんだけど」
母ハルミが何処に置いたのか思い出そうとしている
「母さん結構あっちこっちにおきっぱだからなぁ…しっかり;」
棚という棚を探したが一向に姿を見せてくれないガムテープ
「仕方ねぇ; 買ってくるか…;」
京助が溜息をついて立ち上がる
「じゃあ丁度いいわ!! 牛乳と何かおやつ買ってきて!」
母ハルミが【その言葉を待っていた!】的に嬉しそうに財布を取り出した
「…この母親は…;」
京助が呆れながらも母ハルミから千円札二枚を受け取る
「暗いから気をつけて行くのよ?」
母ハルミが財布をパチンと閉めた
「…へいよ;」
京助が少し厚手のパーカーを羽織って返事をする
「行くぞ緊那羅」
「へ?; 私もだっちゃ?;」
薪ストーブに薪を追加していた緊那羅がご指名されて驚きの声を上げた
「荷物持ち!! 母さん緊那羅に何か着る物貸してやって」
「うぇえ~; 寒いっちゃ~;」
緊那羅が外に出るなり嘆いた
「お前な…;これからもっと寒くなるのにこんくらいで寒い言うなよ;」
石段を降りながら京助が緊那羅を振り返る
「う~;」
パーカー一枚羽織っただけの京助に対し緊那羅はマフラーも巻いて挙句手袋までしている
「私寒いのは苦手なんだっちゃ;」
早足で京助に追いついて隣を歩きながら緊那羅が言った
「まだ今日はあったけぇ方だぞ?」
「これで!?;」
京助の言葉に緊那羅が信じられないという声を上げた
「だってまだ息がそんなに白くねぇし」
京助がは-っと息を吐くと少し白くなってすぐ消える
「…私…凍死するかもしれないっちゃ…;」
緊那羅が立ち止まって遠い目をしながら呟いた
「しねぇしねぇ;」
京助も立ち止まり【それはない】とばかりに顔の前で手を横に振った
「まぁ…寒いならパッパと買うものかって帰るべし」
緊那羅が京助の言葉にのらりくらりと足を動かす
「…しゃきっとしろよしゃきっと; …ったく;」
そんな緊那羅の手首を掴むと京助は大股で歩き出した
田舎町の正月町は午後八時ともなるとメインストリートといえど車も人も滅多に取らない
そして大抵の店は七時かそこらでシャッターやらカーテンを閉めている
「…遅かったか;」
近所の小さな商店はもうカーテンが閉まっていた
時間は午後七時と十五分を少し過ぎた所
「…しゃかねぇ…セブンまで行くか…今からじゃスーパーも閉まるだろうし」
京助が溜息をついて向きを変えると歩き出す
「ちょっくらセブンまで行って来るって母さんに伝えといて」
後ろをチョコチョコとついてきていた緊那羅に言う
「え…伝えとけ…って…?」
緊那羅が立ち止まって京助に聞いた
「お前寒いんだろ? 先帰ってろ。悪かったな連れ出して。帰って風呂でも入ってあったまってろ」
そう言って京助が走り出した
「あ! ちょ…っ;」
遠ざかっていく足音を緊那羅が慌てて追いかける
「京助!;」
「うぇっ;」
緊那羅が京助のパーカーのフードを掴んだ
「何だよ;」
掴まれて伸びたフードを軽く直して京助が聞く
「私も行くっちゃ」
「は?; だってお前…」
「行くんだっちゃッ!」
声を上げた緊那羅の息が白く吐き出された
「散々寒がってるのに…変なヤツ;」
京助が頭を掻きながら少し早足で歩き出すと緊那羅もそれに合わせて歩く
海岸線を歩いて行くと数字の【7】の看板が見えてきた
暖房の為に片方が締切になっている反対の戸を開けて中に入る
「いらっしゃいませー」
数人いた店員が一斉に言った
「あったかいっちゃ~…」
中に入るなり緊那羅が安心したように呟いたのを聞いて京助が口の端で笑う
「あれ? 京助?」
雑誌コーナーから聞き覚えのある声で名前を呼ばれて京助が顔を向ける
「阿部?」
白い短めのコートにブーツを履いた阿部がファッション誌を開いて片手に持ったまま手を振った
「何してんだよ」
京助が阿部に話しかけた
「何って…塾の帰りだけど? アンタこそ何してんの? ってか…ほっぺ真っ赤じゃん; まさかと思うけど歩いてココまで?」
阿部が雑誌を閉じて京助を見る
「そのまさかだ」
「うっわ~;」
京助が何気に威張ると阿部が呆れ半分驚き半分の声を上げた
「…あ…れ? その子…たしか…」
視線を感じて緊那羅が顔を上げると阿部と目が合ってペコリと頭を下げた
「……イトコ…なんだよね?」
阿部が京助に聞く
「へ? …あ~…あぁまぁ;」
京助が緊那羅をチラッと見て生ぬるく答えた
「ふ~ん…そっか…」
緊那羅の全身を見ながら阿部がボソッと呟いた
全身を見られて緊那羅が少し後ずさる
「…で? 何でココまで歩いてきたわけ? こんな時間に…」
阿部が鞄を持ち直して聞く
「あ~ガムテープと母さんの菓子とか買いに来た」
京助が雑誌コーナーの向かいにあった日用品の棚からガムテープを手に取った
「あぁ…そろそろ時期だしね~…出たときはよろしく」
阿部が笑いながら言った
「まぁな~…一応は心に留めておいてやるよ」
京助も笑いながら返すと阿部の横を通って飲み物が並べられた棚に向かった
「…イトコ…か」
緊那羅が阿部の横を取ると小さくそう聞こえた様な気がして緊那羅が振り返ると阿部が戸を開けて外に出て行った
「…何してんだお前;」
会計を済ませてやや大きめのと小さな袋を一つずつ持った京助が店のある一点に立っていた緊那羅に声をかけた
「ここからあったかい空気が来るんだっちゃ」
そう言って緊那羅が嬉しそうに指を差した先には温風暖房機の吐き出し口があった
「…そうですか; …帰るぞ」
京助が戸口に向かって歩き出すと名残惜しそうに振り返りながら緊那羅も(きんなら)後を追いかける
店に入ろうとしてきた若い男を先に入れて店を出た
「さ~む~い~;」
緊那羅がまた嘆きの声を上げた
「ほらよ」
京助が小さい袋を緊那羅に差し出して歩き出した
「…この袋あったかいっちゃ…?」
両手で袋を受けとった緊那羅が袋の温度に驚く
「肉まん。冷めないうちに食うなりなんなりしろ」
お菓子や牛乳の入った袋を右手から左手に持ち替え京助が緊那羅に言った
「カイロにするもヨシ! 食っても美味い! 最高じゃん肉まん」
ニッと笑って京助が歩き出すと緊那羅が小走りで隣に並ぶ
「コレ…」
緊那羅が袋から肉まんを取り出した
「火傷すんなよ」
まじまじと湯気のたつ肉まんを見ている緊那羅に京助が言う
「京助のは?」
袋に入っていたのは肉まん一つだった
「俺はいいよって…何;」
京助が顔を向けると半分に割れた肉まんを目の前に差し出された
「半分こだっちゃ」
半分の肉まんを差し出して緊那羅が笑う
「…さんきゅ」
袋をまた持ち替えて京助が半分の肉まんを受け取って口に運ぶのを見て緊那羅も肉まんを齧った
「きゃぁあああああああ!!!!!」
「うわッ!」
「出たッ!!!」
翌日の三時間目
正月中学の二年三組の教室に生徒の悲鳴が響いた
「いやーーーッ! コッチ来る! 来た!!来たーーーー!!;」
一人の女子生徒が半泣きで机を倒しながら友達の近くに逃げる
「ヘリカメ! 覚悟! 行け!! 選ばれし勇者京助!!」
ハルが叫ぶと京助がガムテープを取り出して10センチ位の長さに切った
「ニフラム!!」
京助が叫びながら壁にガムテープを貼り付けると教室内に安堵の溜息があふれた
「ご苦労だったな京助。ホラホラ机直して! 続けるぞ」
こげ茶色の背広を着た教師が黒板に文字を書き始めると生徒達がガタガタと机を直し始めた
「今年もやってきましたナァ…本格的にヤツの季節が」
坂田がガムテープを机にしまっている京助に言った
「去年は少なかったから今年は多いんだろうなー…」
「やめてよ!! もー…いやだなぁ」
京助の言葉に阿部が突っ込む
「ちゃんと庇ってよね京助!! 隣なんだから」
阿部が京助に向かって言った
「じゃないともうノートとか見せてやらないんだから」
肩にかかる髪を後ろにやって阿部が黒板の方を向いた
「…ヘイヘイ;」
京助が椅子に座りながらやる気のない返事をする
壁に貼り付けられたガムテープの真ん中からカサカサと何かがうごめく音が小さくしていた
壁に貼られたガムテープの数は6箇所
どれも真ん中が微妙に膨らんでいるそのガムテープ
「今日の収穫は6匹か…一日で6ってやっぱ結構な数だよな」
京助が箒でガムテープをペソペソ叩くと坂田が頷く
「ウチんトコは今日2匹だったぞ」
中島と南が【二階廊下】と書かれたゴミ箱を片手に教室に入ってきた
「やっぱり昨日寒い思いしてガムテープ買っておいて正解だったなー…まさかこんなに出現するとは」
京助がしみじみ言った
「よくもまぁ歩いてあそこまでいくよねー」
後ろから阿部の声がした
「何? お前どこまでガムテープ買いに行ったわけ?;」
阿部の言葉に坂田が京助に聞く
「セブン」
京助がさらっと言った
「しかも可愛いコつれて」
「可愛いコ!!?」
阿部のその言葉に教室中の視線という視線がが京助に集まった
「そぉ!! 金髪で…こう…この辺だけちょっと色の違う髪してブーツ履いたアタシより少し小さいカンジの」
阿部が前髪の一部を持って説明する
「あ!! 俺そのコ見たことある! 三つ編みしてなかったっけか?」
男子の一人が阿部を指差して言った
「昨日はポニーテールだったけど…文化祭に来てたよね? 京助」
阿部が京助を振り返る
「来てたよね…って俺見たとき制服着てたんだけど生徒じゃねぇの?」
「うそー!! だって文化祭じゃ…ほら! ミヨも見たじゃん! 仮装して客集めてくれたコ!」
男子の言葉を聞いて阿部がミヨコに聞いた
「…おい京助」
南が京助にカニ歩きで近づいた
「…まさかと思うけど」
坂田も同じくカニ歩きで京助に近づく
「金髪、三つ編み、制服、文化祭…んでヘンな仮装…次に来るワードは何でしょう京助君」
中島もカニ歩きで近づき京助に聞いた
「…だっちゃ」
京助が口の端で笑って言うと
「ブプーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
3馬鹿がものゴッツイ勢いで噴出した
「イトコだかって言ってなかったっけ? コスプレ好きの」
ミヨコが京助に聞く
「…そういやそういう事にしてくれたんだよナァ坂田君」
京助が腹を押さえて笑い震えている坂田の尻を箒で叩いた
「あ~ぁウケる~…安心しろ京助!」
中島が涙目になって京助に言う
「何を」
京助が箒で今度は中島の頭を叩く
「イトコでも結婚はできるから…っくくく」
そう言うとまた笑い出した中島を京助が思いっきり蹴った
「っおめでとう~…ヒヒっ」
南がヒーヒー言いながら拍手すると
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
教室中から拍手と【おめでとう】コールが巻き起こった
例えて言うならそうまるで 某逃げちゃ駄目だ! と繰り返していた社会現象アニメの最終回のような光景
その騒ぎに廊下を行きかう生徒が教室を覗き込んでいく
「…あ」
南が笑うのをやめていきなり声を上げた
「どうした南」
坂田が聞く
「一つ重大なこと忘れてる」
南が京助を見て言った
「…なんだよ;」
京助がビビって少し後ずさる
「ヒマ子さん」
南が言うと教室が一瞬静まり返った
「…お前二股してんのか?」
男子生徒がボソッと言った
「はぁ?!;」
その男子生徒の言葉に京助が声を上げる
「ヒマワリとイトコ(オス)…どっちを取る気だね? ん?」
坂田が京助の肩を叩いて聞いた
「今夜のご注文はどっち!!」
中島が言った
「うっわ何だかその台詞エロくない?中島…今夜て」
ミヨコが中島に突っ込む
「桃色吐息の世界だな~あぁ~ン」
坂田が身をくねらせたその時
ブー……ン…という音が聞こえた
【カメムシ(別称・ヘリカメ、ヘッタレプップ等)】…晩秋に大量に家の中に入ってきて、いやな臭いを出す。 (マルカメムシ、クサギカメムシなどがよく見られる)普段は樹木や雑草に付き、樹液や草の汁を吸っている。家まわりの雑草に付く種類に問題となるものが多い。
冬の寒さの厳しい地方 (東北、北海道など)で、特に被害が大きい。
ゴキブリが出ない北海道にとってのゴキブリレベル的害虫扱いを受けるヘリカメ
上記にもある様に秋から冬にかけて出現するヘリカメ
掃除機で吸ったら後がくさいヘリカメ
潰すと余計くさいヘリカメ
死んだ後も触るとくさいヘリカメ
そんなヘリカメが阿部の肩に止まった
それに気づいたミヨコがそぉ~っと阿部から離れてマイ・ダーリンとなったハルの後ろに隠れると
「あ…阿部…肩…」
小さく言って阿部の肩を指差した
「肩?」
阿部が初めは左肩を見て次に右肩を見て…
固まった
阿部を中心に生徒がサークルを描くように後ずさる
阿部の肩に蠢く茶色くい2センチほどの悪魔…いや魔王…いやいや邪神
「…ぃ」
涙目になりながら何かを言おうとしているが声にならないらしく只右肩を指差して助けを求める阿部
「騒ぐなよ?;」
京助が掃き掃除の為に下げられた机をガタガタ動かし自分の机の中からガムテープを取り出した
「行け!! 勇者!」
ミヨコを後ろに庇いながらハルが何処となく偉そうに京助に言う
「そう言うお前が取れよお前が;…後からガムテープ代全員からもらうぞ? ったく…」
生徒が見守る中京助が少し長めに切ったガムテープをそっと阿部の肩につけてゆっくりはがすとソコには仰向けになり足をバタバタさせるヘリカメがくっついていた
ソレを潰さないよう器用に周りだけをくっつけてガムテープにへリカメを閉じ込めると中島の持っていた【二階廊下】のゴミ箱に投げ入れる
「あっ!; ばっかお前臭せぇじゃんか;」
中島がゴミ箱の中を見て言った
邪神( ヘリカメ)が (ガムテープに)封印され教室中に和やかムードが戻る
「しかしお前よく平気だよナァ…」
南が倒れた箒を拾う京助に言った
「只の虫だろうが」
手首にガムテープをはめて拾い上げた箒の柄で肩をトントン叩きながら京助が言う
「臭いだろうヘリカメ。ソレが嫌なんだよヘリカメ」
坂田が京助をイチイチ押しながら言った
「匂いついたらなかなか取れないしさぁ…最悪最低。飛ぶし臭いしキモいしの三本立てだぞ?」
南が指を三本立てて京助の前に出す
「何にもしなきゃ臭くもなんともないだろー?無意味に騒ぐからだろうが…;」
京助が南を指差して言った
「アレ見て騒がない奴の方がおかしいって」
京助の指に自分の指を合わせてE.Tの名場面をやりながら南が言う
そんな3馬鹿と京助のやり取りを黒板消しを持ったまま阿部が黙って見ていた
「きょうすけぇ~…」
家に帰って着替えている京助の部屋の戸が少しだけ開いて半泣きの悠助の声が聞こえた
「…出たのか?」
トレーナーの首元に顔を引っ掛けたまま京助が振り返ると悠助が目をこすって頷いた
「今行くから…ってガムテープ学校だ;」
トレーナーから頭を出して裾を軽く直して京助が部屋から出る
「茶の間にいるの~;」
悠助が京助を見上げて言った
「緊那羅は(きんなら)?」
そう言いつつ茶の間に入ると緊那羅が立ったまま部屋を見回している
「…何してんだお前…ウチに温風器なんざねぇぞ?」
京助が声をかけると緊那羅が振り向く
「ブーンって…聞こえて…そしたら悠助がいきなり部屋から出ていったんだっちゃ…って悠助?」
おそるおそる部屋に入ってきた悠助が京助のトレーナーを掴んで部屋を見渡した
「…どうしたんだっちゃ悠助?」
緊那羅がしゃがんで悠助に聞いた
「ヘリカメが出たんだとさ」
京助が部屋を見渡しながら言った
「ヘリカメ?」
緊那羅が首をかしげる
「そ。さっきのブーンってのはヘリカメの飛んでる音だったんだろうよ」
一通り部屋を見回して京助が悠助の頭を撫でる
「なんだっちゃ? その…へーなんとかって」
緊那羅が聞いてきた
「ヘリカメは臭いんだよそして嫌なの」
悠助が答える
「…臭い? 京助の屁より?」
緊那羅が悠助に聞くと悠助が少し考えてから頷いた
「…俺の麗しき屁とヘリカメを一緒にするなよな;」
京助が緊那羅の頭を軽く叩く
ブー…ン…
部屋の何処からか音が聞こえてきた
「音はせども姿は見えずってかぁ?」
京助が部屋中を見渡す
「そんなに嫌な物なんだっちゃ?」
悠助のあまりの脅え様に緊那羅が京助に聞いた
「俺はそんなんでもないんだけどな…嫌なヤツにとっちゃ嫌なんだろうさ」
悠助が京助に思いっきり身を寄せて天井を黙って見る
ブー…ン…コツン…
何かに当たった音がした
「この部屋ん中にいるってのは間違いないだろうな~…お?」
京助が何かを見つけて腰に悠助をつけたまま歩き出した
「めっけ~…ってかあるじゃんガムテープ…;」
新聞紙が畳んで入れてある袋の横に立てておいてあったガムテープを拾い上げて京助が言う
「あったところに戻して置けよな~ったく;母さんも人のこと言えないじゃん…」
ブツブツいいながらガムテープを15センチくらい伸ばして切った
「どうするんだっちゃ?」
緊那羅が切ったガムテープを見て聞く
「コレでヘリカメを封印するんだ」
ブーン…
しばらく音がしなかったのはどこかに止まっていたからなのだろうかそれとも【コツン】とどこかに当たって気を失っていたからなのだろうか
またも聞こえ出した音に京助、緊那羅、悠助の三人が部屋を見渡していると
「お邪魔します。きょ…」
スコ-ン
戸が開いて丁寧な口調の言葉が途中で止まった
「…けん…ちゃん?」
悠助が乾闥婆に駆け寄った
「な…んですか今の…額に何か…;」
乾闥婆が自分の額を押させて部屋に入ってきた
「ヘリカメタックルだな…たぶん」
京助が言うと悠助が後ずさって乾闥婆から離れる
「ヘリカメ…?」
乾闥婆が額から手を離し首をかしげた
「臭くて嫌なんだって悠助が言ってるっちゃ」
緊那羅が言うと悠助が何度も頷いた
「…何なんですそれは…生き物なんですか?」
乾闥婆が京助に聞く
「虫」
京助が一言で答える
「虫…って言いますが特徴とか…こう他に何かないのですか?」
乾闥婆が更に聞き返す
「そうだなぁ…ってか今お前のそのピョン毛の先っちょにぶら下がってるのがヘリカメ様であらせられます」
悠助が京助の後ろに完全に隠れた
「え?」
乾闥婆が目を上に向けるとピョン毛の先に蠢く何か
「コレが…? こんなのが怖いのですか? 悠助」
乾闥婆が手を伸ばしてピョン毛にぶら下がっているヘリカメに触った
「あ!;」
悠助が声を上げる
「…あ~ぁ…;」
京助も【やっちゃった】という言葉が後につきそうな声を出した
「…何ですか;」
兄弟二人のそれぞれの反応に乾闥婆が怪訝そうな顔をした
「…虫だっちゃね」
緊那羅が乾闥婆の手の中のヘリカメを見て呟いた
「触るなよ緊那羅」
京助が緊那羅に言う
「…僕は触ってるのですが…何かあるのですか?
乾闥婆が京助に近づくと
「いやーーー!!;」
と言って悠助が緊那羅のほうに逃げた
「…手、匂い嗅いでみろ」
京助がヘリカメをガムテープにくっつけながら乾闥婆に言う
「手…?」
京助がヘリカメの封じられたガムテープを薪ストーブにくべた
「………っ;」
自分の手の匂いを買いだ乾闥婆が小さく声を上げた
「乾闥婆?;」
緊那羅が恐る恐る乾闥婆に声をかける
「何ですかコノ匂いッ!;」
乾闥婆が声を上げる
「ヘリカメ臭。あ、ちなみに洗ってもなかなかとれないんだわなコレが」
京助が口の端をあげて言った
「だから僕ヘリカメ嫌いなの~;」
悠助が緊那羅の後ろから言う
「…嫌な匂いだっちゃね;」
乾闥婆の手の匂いを嗅いだ緊那羅も顔をしかめて言った
洗面所から聞こえてくる水の流れる音
「…手の皮剥けるんちゃうか?;」
京助がそう呟くと乾闥婆は水を止めて手を鼻に持っていった
「…っ;」
どうやらまだヘリカメ臭が取れないらしい
「どうしてこうもしつこいんですか!この匂いはッ!;」
乾闥婆が京助に言った
「俺に言うな俺に;」
京助が傍にあった手拭タオルを放り投げて言う
「その匂いがあるから嫌だってヤツ多いんだよなヘリカメ」
「僕も嫌です」
京助が言うと乾闥婆が間髪いれず言い切った
「てかお前何か用事あってきたんだろ?何だ?」
袖口をおろす乾闥婆に京助が聞く
「………」
乾闥婆の動きが止まった
「オ~イ?」
京助が乾闥婆の顔を覗き込む
「…っさっきの騒ぎで何のために来たのか忘れちゃったじゃないですかッ!;」
少し顔を赤らめながら乾闥婆が言った
「…さいでっか;」
京助が口の端で呆れたように笑うと乾闥婆は少し膨れて袖口に布を結んだ
「なーーー!;」
悠助の変な声が聞こえて次にバタバタと走る足音が近づいてきた
「出た---ッ!!;」
悠助がそう叫びながら京助に飛びつく
「またか?;」
ヘリカメの恐怖に脅える悠助を腰につけたまま京助が戦地に赴く
「出たって…あの虫ですか?」
乾闥婆が歩きながら京助の腰に半分引きずられながら掴まっている悠助に聞くと悠助が頷いた
それを見るや否や乾闥婆が大股で歩き出して京助を追い越し茶の間に入る
「…なんだアイツ…;」
京助が呟いた
少し遅れて京助が茶の間に入ると戸口に緊那羅が立っていた
「あ…京助…」
そして茶の間の照明灯の下で照明灯を見上げる乾闥婆
「あの中にいるんだっちゃ…ヘリカメ」
緊那羅が乾闥婆の見上げている照明灯を指差した
「京助」
乾闥婆がいきなり振り向いて京助を呼んだ
「な…んだよ;」
少しビビリながら京助が返事をする
「貴方に教えられるって言うのは不本意なのですがこの際です」
「はぁ…;」
乾闥婆の言葉に京助が気の抜けた返事をする
「…ってかお前今何だか俺をけなしたこと言わなかったか?;」
しばらくして京助が反論した
「本当のことを言ったまでです」
それに対してさらっと乾闥婆が返す
「…相変わらずだなお前;」
京助が口の端を片方あげて言った
「それはどうも」
乾闥婆がにっこり微笑んだ
「本題いいでしょうか?」
その笑顔のまま乾闥婆が京助に言う
「あ? あぁ」
京助が頷くと乾闥婆が棚の上に置いてあったガムテープを手に取った
「…けんちゃん?」
悠助が乾闥婆を見上げる
「乾闥婆…まさか…ヘリカメ…?;」
ガムテープと乾闥婆を交互に見てそう言った緊那羅に乾闥婆は (最凶の)微笑を向けて頷いた
「先程コレを使ってヘリカメとかいう虫を捕まえていましたよね?京助」
乾闥婆がガムテープを指差して言う
「ということはコレは対あの虫用の武器なんですよね?」
「…武器っていうか…いや…まぁ…;」
真剣に言ってくる乾闥婆に京助が曖昧な返事をする
「ガムテープはくっつける道具なんだよ」
悠助が京助の後ろから顔を出した
「くっつける?」
乾闥婆が首をかしげた
「こうやって…伸ばして…触ってみ?」
京助がガムテープを伸ばして乾闥婆の前に出す
「…ベタベタしますね…トリモチみたいな感じで」
指で突付きながら乾闥婆が言った
「このベタベタで捕獲するのですね?」
にっこりと (悪魔の)微笑で乾闥婆が京助を見上げた
「本当にやるんだちゃ?;」
「当たり前です」
緊那羅の言葉に乾闥婆が笑顔のまま即答する
「でも…何だか…かわいそうだっちゃ…そりゃ私もあの匂いは嫌だっちゃけど…でも」
緊那羅が照明灯の中の茶色い小さなヘリカメを見上げていった
「緊那羅」
乾闥婆が緊那羅の名前を呼んだ
「…優しいのはいいことですが優しいだけじゃ何も守れないんです」
乾闥婆が京助の手からガムテープを取った
「優しさは諸刃の刃にもなりかねないということ…覚えておいて下さい」
「でもそれが緊那羅のイイトコどと俺は思うぞ」
乾闥婆の言葉が終わるか終わらないかのタイミングで京助が言った
「京助…」
京助の言葉に悠助も頷く
「僕緊ちゃん優しくて好き~」
悠助が京助の後ろから笑顔を緊那羅に向けた
「…ありがとだっちゃ」
緊那羅が少し赤くなって笑った
ブーーーー…ン…
そんな和やか平和ムードをぶち壊したその音
悠助が京助にしがみつく
「動いたか…」
照明灯の中から消えた茶色い影
「空襲警報発令だな」
京助が部屋を見渡しながら言った
静まり返った部屋に一旦やんではまた響き渡る不気味な【ブーン】という音
古いつくりの栄野家の壁や天井とほぼ同じ色をしているヘリカメ
ましてや飛行中とあらば見つけるのは困難極まりない
何処からいつ来るのかわからない緊張感の中一同目を凝らす
「いたッ!!」
京助がすばやく乾闥婆からガムテープを奪い取り適当な長さに切ってTVの方向に近づき
「捕獲!」
ガムテープを貼り付けた
中心が少し膨らんでそこヘリカメが捕らわれているということがわかる
「…よく見つけられますね…」
乾闥婆が感心する
「慣れだな」
京助がそぉっとゆっくりガムテープをはがすとひっくり返って足をばたつかせるヘリカメがくっついていた
それを先程のように畳んでストーブにくべようとしたその時
ガラッ
窓が開き外の冷たい空気が茶の間に流れ込む
「ひょっぅ!;」
緊那羅が変な声を上げて廊下に非難した
「おわ!;」
流れ込んできた空気 (というか風)でヘリカメのついたままのガムテープが京助の手から離れ宙に舞う
「あ! 逃げたッ!;」
そしてそのガムテープから飛び立つヘリカメを見て悠助が叫んだ
一同開いた窓に目を向ける
「母さん…京助です…過去に同じような光景を目にしたことがあります…」
窓のサッシにかかった手を見て京助がボソっと言った
たまに見える金色の触覚(正確には前髪)
一息ついてはサッシにかかる手に力がこめられ必死によじ登ろうとしていることが伺えるのだが誰も手を貸さない
開けっ放しの窓からどんどん冷たい空気が流れ込んでくる
バサバサとそこら辺にある紙類、雑誌類が音を立てている
「手…貸さないのか?」
京助が乾闥婆を肘でつついて言った
「貴方こそ」
乾闥婆が返す
「…かるらんだよね?」
悠助が京助の服を引っ張って聞く
「まぁ…間違いないだろうな」
京助が【ヘッ】と口の端で笑った
「手を貸さんか! たわけッ!!!!!;」
「あ、降参した」
かれこれ十数分格闘していた迦楼羅がついに怒鳴った
京助が窓に近づき覗き込むと眉間にしわを寄せ迦楼羅が京助を見上げた
「上がれないなら玄関から来いよ…;」
迦楼羅の手を引っ張って室内に入れると窓を閉めた
ストーブの前では緊那羅が薪を追加しつつ暖を取っていた
「何しに来たんですか迦楼羅」
服の裾を直している迦楼羅に乾闥婆が言った
「お前がすぐに帰ってこないからだろうが!」
迦楼羅が怒鳴る
「渡したらすぐに帰るからと言われておとなしく待っていれば…なかなか帰ってこないわ…」
ぶつぶつ文句を言いながら腕を組み横目で乾闥婆を見た
「何かあったかと思うだろう! たわけ!!」
そしてまた迦楼羅が怒鳴る
「…すいませんでした…」
珍しくしおらしい乾闥婆に京助と緊那羅が少し驚く
「…まぁいい…それで? 緊那羅に渡したのか?」
いきなり迦楼羅の口から緊那羅の名前が出た
「私?」
緊那羅が自分を指差して言う
「…思い出しました。緊那羅」
乾闥婆がゴソゴソと何かを取り出して緊那羅に近づいた
「何だ何だ?」
京助と悠助も緊那羅に近づく
「手を出してください」
そう言われて緊那羅が手を差し出すとその手首に乾闥婆が何かをつけた
「これ…宝珠…?」
手首につけられた腕輪に3つ並んだ透明な玉
「そうだ。だがまだ完全な宝珠ではない」
迦楼羅が言った
「コレに完全とか不完全とかあるのか?」
京助が迦楼羅に聞く
「色がないだろう? 宝珠はもともと水晶の様に透明なのだ。それに色がついて初めて完全な宝珠になる」
京助と緊那羅をかしげた
「…つまりです。緊那羅のその宝珠はまだ完全な宝珠ではないということです。完全な宝珠にするためにはそれなりの試練というか…修行というか…とにかくその透明な宝珠に色をつけないといけないのです」
迦楼羅の説明に乾闥婆が付け足す
「色…」
緊那羅が自分の腕にある宝珠を見る
「色をつけるって…絵の具とかじゃないんだろ? やっぱ」
京助が聞く
「当たり前です」
乾闥婆が言い切った
「宝珠は己の心の色を映ししそれを色とする」
迦楼羅が言う
「己の…心の色…」
透明な宝珠に映った自分の顔を見て緊那羅が呟く
ブーーー…ン…
忘れていた恐怖がまた聞こえてきた
やんでは聞こえやんでは聞こえるその音に悠助が京助にしがみつく
「…何の音だ?」
迦楼羅が聞いた
「お前のせいで封印がとけた魔王の飛んでる音」
京助が風で飛んで床に落ちていたガムテープを拾い上げた
「コレにくっつけてたんだけどさ。お前が窓開けたせいで吹っ飛んで。んで開放されて。そんでもって飛び回ってるわけ」
ヒラヒラとガムテープを振って京助が言うと悠助がじとぉ~っとした眼差しで迦楼羅を見た
「…かるらんのばか」
「なっ;」
ボソッと言った悠助に迦楼羅が口をあけた
「迦楼羅」
乾闥婆が迦楼羅を呼ぶ
「…何だこれは…」
乾闥婆が迦楼羅の前にガムテープを差し出した
「責任もってヘリカメ退治してください」
にっこりと微笑みながら迦楼羅の手を取りガムテープを持たせる
「…コレで…か?」
迦楼羅がガムテープを物珍しそうに上下左右から見て真ん中の穴を覗きこんだ
「この穴は何だ? 何に使うんだ?」
迦楼羅が京助に聞くと乾闥婆と緊那羅も迦楼羅の周りに集まって真ん中の穴を見た
「…無知なヤツの行動っておんもしれぇよなぁ…」
京助が口の端をあげて笑う
「京助このあ…後ろ…」
緊那羅がガムテープの穴を指差して顔を上げるとその指を今度は茶箪笥に向かって刺した
振り返るとそこにはヤツがいた
昔こんなカンジのタイトルのドラマがあった様な気がするがまずそれは関係ない
そこにいたのは紛れもなくヘリカメだった
「きやー!!;」
悠助が悲鳴を上げて廊下へ逃げる
「な?なんだ?;」
悠助が逃げ出したのを見て迦楼羅が焦る
「…出ましたね…」
乾闥婆が黒い微笑を浮かべた
茶箪笥をやや斜めに上り始めたヘリカメに京助が近づくとヘリカメが動きを止めた
「鳥類。逃がした責任」
ヘリカメを指差して京助が迦楼羅を振り返る
「な…ワシが?;」
ご指名されて迦楼羅が目を丸くする
「頑張ってくださいね迦楼羅」
乾闥婆がそっと迦楼羅の背中を押した
「触ると凄くくさいっちゃ」
緊那羅も迦楼羅の背中を軽く押す
「お前ら…」
迦楼羅が二人を見上げる
「ちゃんと取ってねかるらん」
廊下から悠助が言うと迦楼羅がしぶしぶ歩き出した
「あ、飛んだ」
京助の声に一同茶箪笥を見たがソコにヘリカメの姿はなかった
「鳥類がもたもたしてるから…」
京助がヤレヤレと溜息をついた
「かるらんのばかーーー!!」
悠助が叫んだ
「なッ!?;」
怒鳴り返すにも返せない迦楼羅が詰まる
「見つけるの一苦労なんですよ?何してるんですかまったく…」
乾闥婆が溜息をついて腰に手を当てた
「…ワシが悪者か?;」
迦楼羅がガムテープを持ったまま呟く
「音がしないってことはどっかにとま…ってたよオイ」
京助が悠助の方を見て言うと悠助がすくみあがった
そして恐る恐る自分の周りを見渡して
「やーーーーーッ!!;」
服の腕の部分に蠢くヘリカメを見て叫んだ
「取って取って取って---ッ!;」
泣きながら腕をブンブン振るとヘリカメがまた飛び立って今度は迦楼羅めがけてタックル体勢に入った
「迦楼羅!」
乾闥婆が叫んだ
「のぁ?!!;」
乾闥婆の大声といきなり突進してきたヘリカメに驚いた迦楼羅の口から小さく炎が出た
ジュッ…
「…火葬…」
京助が呟いた
迦楼羅の足元には茶色から黒に色が変わってしまったヘリカメが落ちている
一同ソレを取り囲み見下ろした
辛うじて原形は留めているもののもはやヘリカメに息はなく
「…ヘリカメは?」
恐る恐る近づいてきた悠助の歩く振動でヘリカメの足がポロリと取れた
「昇天なされました」
京助がヘリカメに向かい合掌した
「…何だ?;」
何がどうでどうなっているのかさっぱりわからない迦楼羅がガムテープを持ったまま京助が合掌してるのを見て一緒に合掌しながら首をかしげる
「ヘリカメ退治した様ですよ迦楼羅が」
乾闥婆も何気に合掌しながら言った
「燃やすと匂いしないのですか?」
合掌したまま乾闥婆が京助に聞く
「何でかしないんだわな燃やすと。だから俺ストーブにくべてるじゃん?」
手に持っていた切れっぱしのガムテープにヘリカメをそっとくっつけながら京助が言った
「京助~ヘリカメの足残ってる~」
悠助がしゃがんで落ちているヘリカメの足を指差すと京助が素手で足を拾ってガムテープにくっつけた
「触っても大丈夫なんだっちゃ?」
その行動を見ていた緊那羅が京助に聞くと足を拾い上げた手を緊那羅の顔の前に出した
「嗅いでみ?」
緊那羅が恐る恐る京助の手に鼻を近づけると京助が緊那羅の鼻を摘んだ
「に”っ;」
緊那羅が鼻を押さえて飛びのくと京助が笑う
「してやったり」
笑いながらガムテープをストーブにくべる
「…そんなに臭いのか?あの虫の匂いは」
少し興味があるのか迦楼羅が乾闥婆に聞く
「嗅ぎたいですか?」
乾闥婆はそういうといまだ匂いの取れない手で迦楼羅の鼻と口をふさいだ
「ふがっ!!?;」
迦楼羅が声を上げる
「どうです?」
手を離して乾闥婆がにっこりと微笑んだ
「~…;」
開放された迦楼羅が床に手をつきハーハー言っている
「な…何なんだ!その匂いはッ!;」
涙目で怒鳴った迦楼羅の前に乾闥婆が匂いつきの手を出した
「ヘリカメの匂いです」
そう言った乾闥婆の顔は相変わらず笑顔だったが明らかに…
「八つ当たりというかハライセに見えるのは俺だけだろうか」
京助がボソッと言うと
「…私もそう見えるっちゃ…」
自分だけがヘリカメ臭に侵されているということが結構ムカついているらしい乾闥婆が執拗に迦楼羅に向かって匂いのついた手を嗅がせようといている
「やめんか!; やめろといっているだろう!たわけッ!!;」
ついに後ずさりから駆け足に変えて迦楼羅が逃げる
「遠慮しないで下さい。ヘリカメの匂いに興味があったのでしょう?」
それを(黒い)笑顔のまま乾闥婆が大股で追いかける
「一回嗅げばいいわ!;」
迦楼羅が怒鳴る
「追いかけっこ~」
乾闥婆の後を悠助が追いかけ始める
「お子様は元気どすナァ…」
京助がハッハと笑いながらその光景を見ていた