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【第五回】 垂れ流しからの恩恵

栄野家で飼われている二匹の犬

名前はそれぞれ コマ と イヌ

京助が小さい頃から居るらしいその二匹には実はとんでもない秘密が…

「ただいま~!!」

ガラッという音と共に家中に響く悠助の元気な声

しばらくしてトタトタトタトタをいう足音が聞こえソレがだんだんと悠助に近づいてくる

「コマ! イヌ! ただいまっ!」

靴を脱いで玄関に上がり二匹の犬を抱きしめる

「ふぃ~…あったかぁ…」

冬が近いせいか最近は気温が低くいくら上着を着ているからといっても結構寒い

帰宅したばかりの悠助は頬が赤く少し鼻水も垂れてきていた

「おかえりだっちゃ悠助」

玄関に座り込んだままコマとイヌで暖を取っていた悠助に緊那羅きんならが声をかけた

「ただいま緊ちゃん!!」

悠助が笑ってただいまを言うと鼻水が垂れてイヌについた

「やー!! ついたんだなッ!」

聞いたことのない声が聞こえて緊那羅きんならと悠助が止まった

「馬ッ鹿!」

そして今度もまた聞いたことのない声が聞こえた

「…悠助何か言ったっちゃ?」

緊那羅きんならが悠助に聞くと悠助が首を横に振った

「緊ちゃんじゃないの?」

今度は悠助が緊那羅きんならに聞いた

「私じゃないっちゃ…じゃぁ一体…」

少しの間沈黙が続いた

悠助が二匹の犬を抱いたまま緊那羅きんならに駆け寄った

「緊ちゃん…」

緊那羅きんならがそんな悠助の頭を撫でて微笑む

「大丈夫だっちゃ。きっと空耳だっちゃ」

不安がる悠助に言った

「…悠助は私が守るっちゃ」

そして緊那羅きんならが自分に言い聞かせるように呟くとガタガタと縁側の外戸が音を立てた

「緊ちゃん~;」

悠助が緊那羅きんならにしがみつくと二匹の犬が悠助の腕から飛び出し縁側のほうに走っていった

そして聞こえはじめた二匹の犬の吠え声に混じって

「吠えるなッ!! やかましいわたわけ!!」

聞き覚えのある怒鳴り声と御馴染みになった口癖が聞こえた

「…かるらん?」「迦楼羅かるら…?;」

緊那羅きんならと悠助が同時に迦楼羅かるらの名前を呟いて顔を見合わせる

「こら! 吠えるなッ! だぁあッ!! 離れんか!! たわけッ!!;」

ドタドタと聞こえる走りまわっているような足音とハモって聞こえる二匹の吠え声

そして

「だぁッ!;」

という声と ドタッ!! ゴン!! という大きな音

「…コケたっちゃね」

緊那羅きんならがボソッと呟くと悠助が緊那羅きんならの腰から離れて縁側に向かった

悠助の後をおって緊那羅きんならも縁側に向かう

「…何やってるんだっちゃ…;」

縁側がある和室の戸口で緊那羅きんならが見たものは額を押さえて蹲る迦楼羅かるらとその周りを吠えながら回っているコマとイヌ

どうやら和室に入る際段差に躓いてそのまま倒れた時にテーブルに頭をぶつけたらしい

相当痛かったらしく額が赤くなっていて目が少し潤んでいる

「かるらん大丈夫?」

悠助が赤くなっている迦楼羅かるらの額に手を当てて顔を覗き込んだ

その周りをなおも二匹の犬が吠えながら回っている

「えぇい!! やかましわッ!!;」

涙目のまま迦楼羅かるらが二匹に向かって怒鳴る

「やかましいのは貴方です」

ビンッ と後ろ髪を引っ張られて迦楼羅かるらの首が ゴキッ と鈍い音を立てた

「けんちゃん!」

迦楼羅かるらの後ろ髪を持ったまま乾闥婆けんだっぱが悠助に笑顔を向けた

「だから玄関から入れといったんですまったく…」

乾闥婆けんだっぱが引っ張っていた後ろ髪を離すと迦楼羅かるらがそのまま後ろに倒れた

「だからといって引っ張るなたわけッ!!;」

乾闥婆けんだっぱを見上げて迦楼羅かるらが言う

「どうしたんだっちゃ? 二人とも…」

緊那羅きんならが二人に歩み寄る

「別にどうもしませんが…ただ…」

そういって乾闥婆けんだっぱがチラリと迦楼羅かるらを見る

「遊びに来たの? かるらん?」

悠助が仰向けに倒れている迦楼羅かるらの顔を見て聞いた

「だ…誰がッ!!!」

迦楼羅かるらが飛び起きるとタイミングよく乾闥婆けんだっぱが言った

迦楼羅かるらが駄々をこねるものですから」

古典的表現をすると今まさに阿呆面をした黒いカラスが『あほーあほー』鳴きながら【…】を引き連れて和室を横断したであろうそんな変な空気が流れた

「…遊びにきたんじゃないっちゃか…;」

緊那羅きんならが呆れ顔で溜息混じりに言った

「ち…違うといっているだろうが!! たわけッ!!;」

その言葉に迦楼羅かるらが反論する

「まったく…最近わがままがすぎますよ迦楼羅かるら

乾闥婆けんだっぱがピシャリというと迦楼羅かるらが図星だったのか黙ってむくれた


「…ここはいつから託児所になったんだ?;」

「京助」

緊那羅きんならの後ろから帰宅した京助が和室の中を見て言った

「おっかえりー京助ー!」

悠助が手を振るとコマとイヌが京助の元に走っていく

「おかえりなさい京助」

乾闥婆けんだっぱが笑顔で言った

「ウィッス…で今日は何の用で来たんだ? また竜田揚げか?」

京助が足元で尻尾を振っている二匹を抱き上げて和室に入る

「遊びに来たの!! ね~? かるらん?」

「はぁ?;」

悠助の言葉に京助が素っ頓狂な声を上げて緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱを見ると二人がそろって頷いた

「…い…いいではないかッ!! 別に用が無くともッ!!;」

迦楼羅かるらが声を上げる

「…開き直ったっちゃ…」

緊那羅きんならが呟いた

「…ごくろうさん」

京助が乾闥婆けんだっぱの肩を叩いて言った

「…ありがとうございます…でもまぁ…いつものことですから」

乾闥婆けんだっぱがにっこりと笑って言うと迦楼羅かるらを見る

迦楼羅かるらに…置いていかれるよりはマシです」

一瞬乾闥婆けんだっぱの表情が曇った様な気がした

「痛ッ;」

突然胸に痛みを感じて京助が声を上げた

「痛ェ;…なんだ?;」

抱いていた二匹を下ろして胸をさする

「どうしたんですか?」

乾闥婆けんだっぱが聞いた

「いや…何か…チクっとして…なんだったんだ?;」

京助が制服のワイシャツのボタンの隙間から自分の胸元を覗いた

「見せてください」

乾闥婆けんだっぱが京助に近づいて制服を脱がせた

「…寒ぃんだけど;」

上半身スッポンポンにされた京助が乾闥婆けんだっぱに言った

「何かに刺されたみたいだっちゃ」

「そうですね」

乾闥婆と緊那羅きんならが京助の胸の辺りにできている赤い跡を見て言う

「…気分はダビデ像…;」

京助がボソッと呟いて溜息をついた

「ねーねー」

悠助がむくれている迦楼羅かるらに声をかける

「…何だ」

迦楼羅かるらがちらっと悠助を見た

「何して遊ぶ?」

にっこり笑って悠助が迦楼羅かるらに近づく

「わ…ワシはだから遊びに来たのではないと…ッ!!;」

そう言って後ろに下がっていく迦楼羅かるらにコマが吠えそしてイヌが尻尾を振りながら飛び掛った

「だぁっ!!;」

「あ!」

悠助と迦楼羅かるらの声に京助と緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱがそろってそっちを見ると尻尾を振りながら押し倒された迦楼羅かるらの額をイヌが舐めている

「…ほほえましい光景だな」

京助が呟いた

そんなほほえましい光景を見ていた乾闥婆けんだっぱが何かに気づいて迦楼羅かるらに近づいた

「…角?」

迦楼羅かるらの額を舐めていたイヌの頭の毛から飛び出している突起を触る

「…こっちにも」

そして今度はコマを見て同じように出ている突起にも触った

「京助…これが刺さったんじゃないんですか?胸」

赤くなっている自分の胸とコマとイヌの頭の突起を交互に見て京助がポンっと手を叩いた

「そっか…さっき抱き上げたときか…」

さすさすと胸を撫でて納得する

「にしても…妙ですね…この角みたいなのは前から?」

乾闥婆けんだっぱが京助と悠助に聞いた

「あぁ。ずっと前からだぞ? …てかコイツらは俺の生まれる前からいるらしいからそれよか前はわかんねぇけど…でも」

京助コマを抱き上げる

「…なんだか伸びてるような…」

頭の突起の先端を指でつつくとコマが嬉しそうに尻尾を振る

ぐきゅぅううううう…

「…迦楼羅かるら…」

もう御馴染みとなってしまったのか迦楼羅かるらのその体とは正反対の馬鹿でっかい腹の虫の声に乾闥婆けんだっぱが溜息をつく

「…おかしい」

むくりと起き上がった迦楼羅かるらが呟く

「いくらなんでも早すぎる」

迦楼羅かるらが腹を撫でる

「どこかで力使ってきたとかじゃないんだっちゃ?」

緊那羅きんなら迦楼羅かるらに聞くと迦楼羅かるらは首を横に振った

「ココに来る前に渋々ながらも食べてきたばかりですが…本当に力使っていないのですか?」

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらの前に座って聞く

「使っておらんと言っているだろう;」

迦楼羅かるらが膨れて言った

ぐぅううう…きゅぅうう~

「…あいかわらずやかましいな」

和室に響く迦楼羅かるらの腹の音に京助が口の端で笑う

「京助ーコマが下ろしてくれって」

京助の腕の中でジタバタしていたコマに気づいた悠助が京助に言った

「お?あ…ハイハイ」

京助がコマを下に下ろすと縁側の廊下に向かってコマが走り出した

「…トイレか?」

コマの走り去った方向を見て京助が呟いた

「ずるいんだやなッ!!」

突如聞こえた怒鳴り声

「早いもの勝ちだやな~」

そしてその怒鳴り声に対する返事だと思われる声

「…この声…」

緊那羅きんならが悠助を見ると悠助はきょとんとしている

「悠助…今の声さっき玄関で聞いた声に似てないっちゃ?」

緊那羅きんならにそう聞かれて悠助は少し考えたあと何かを思い出したらしく大きく頷いた

「何? 緊那羅きんならと悠助の知り合いの声か?」

京助が縁側の廊下に向かって歩いた

「さっき玄関で声だけ聞こえたんだっちゃ。その声に似てる…っちゃ」

緊那羅きんならも京助の後に続く

「声だけ…ですか?」

乾闥婆けんだっぱも立ち上がった

「そうだよ~声だけ聞こえて…でも誰もいなくて」

悠助がそういいながら京助の隣を歩く

「それは…妙だな」

迦楼羅かるらも立って後に続いた

「…誰もいねぇぞ…」

5人そろって何度も右左に首を振って縁側の廊下を見るがそこには誰もいなかった

「う~…;」

悠助が乾闥婆けんだっぱの長く垂れた布を握りしめて一歩後退する

「…大丈夫だ」

そんな悠助の頭を迦楼羅かるらがポンと軽く叩いた

「お前たち兄弟はワシらが守る」

迦楼羅かるらが悠助の斜め前に立った

「ゴ等も一緒に守りたいんだやな」

京助の目の前にいきなりさかさまになった顔が下がってきた

「…っでぇぇぇぇええええ!!!!?;」

一瞬沈黙した後京助が大声を上げて後ろに飛びのくと後ろにいた緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱそして迦楼羅かるらを巻き込んで将棋倒しになった

「重いわ!早くどかんかッ!! たわけ!;」

迦楼羅かるらが三人の下敷きとなりながら叫ぶとコマがとたとたと迦楼羅かるらに駆け寄りさっきイヌがしていたように迦楼羅かるらの額を舐め始めた

「な…やめんかッ!! コラッ!!;」

下敷きとなっているせいで身動きが取れない迦楼羅かるらがコマに向かって叫ぶ

「すぐ済むんだなや」

さかさまになってぶらぶらしている少年(?)が笑いながら言った

「…アイツもお前等のお仲間か?」

京助が起き上がりながら緊那羅きんならに聞く

「知らないっちゃ…乾闥婆けんだっぱは?」

京助に腕を引っ張られて立った緊那羅きんならが乾闥婆に手を差し伸べながら聞いた

「僕も知りません…というか迦楼羅も知らないみたいですし…」

緊那羅きんならの手を掴んで乾闥婆けんだっぱが立ち上がるとその下にいた迦楼羅かるらがガバッと起き上がった

「何なんだ!! お前等はッ!!;」

舐められていた額を服の裾でゴシゴシ拭いながら迦楼羅かるらが怒鳴る

「何なんだっていわれてるんだなや?」

さかさまになっていた少年(?)がクルンと体を回して着地した

「ゼン等はお守り役なんだやな」

着地した少年(?)の傍にコマが駆け寄る

「なー?」

そして笑顔ではハモるとコマが後ろ空中宙返り…いわゆるバック宙をした

「…な…」

和室にいる全員が目を丸くした

コマが一瞬で少年(?)の姿に変わった

「我はゼン!!」

「我はゴ!!」

「栄野の前後は我等が守る!!」

シャキーーン! と言う効果音が聞こえそうな勢いで二人の少年(?)がポーズと決め台詞的言葉を言った

「やー! 久々にもどれただなやーーー!!」

【ゼン】と名乗った髪の赤いほうが伸びをして体をクイクイと軽くひねる

「何年ぶりだなや?」

【ゴ】と名乗っていた少年も肩をぐるぐる回しながら言った

「…すいません…どちら様でしょう?;」

京助がおそるおそる敬語で二人の少年(?)に声をかけた

「…どう見ても…人間ってぇナマモノじゃないですよね?あなた達;」

普段言いなれてないせいか京助の敬語は微妙におかしいが京助のその言葉に一同が頷く

確かに二人の少年(?)は京助や悠助だけでなく摩訶不思議服集団の迦楼羅かるら緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱとも外見が異なっている

まず目に付いたのが腰の辺りについているふさふさしている尻尾

そして明らかにそれは反則だろうという萌え要素の一つに数えられる獣のようなふさふさした耳

も一つオマケに額のチョコッと上から出ているとがった角らしき物体

「…何者でございますか?;」

京助が言うとゼンとゴが顔を見合わせる

「京助覚えてないみたいなんだなや」

ゴがゼンに言う

「しょうがないんだなや。まだこーんなちっこかったんだなや」

ゼンが胸の前に両手で【こんくらい】と10センチくらいの大きさを表した

「それはちっこすぎなんだやな!」

ゴがゼンに突っ込んだ

「…何なんだ?;」

京助達はわけもわからずゼンとゴのやり取りを見ている

「…漫才してるみたいだっちゃね…」

緊那羅きんならがボソッと呟いた

「ねーねー!! どっちがコマ?」

いつの間にか悠助がゼンとゴの目の前にいた

「っだ!?; 悠?;」

京助が悠助の名前を呼ぶ

「君達コマとイヌでしょ?」

悠助がにっこり笑って二人に聞いた

「さっすが悠なんだやな!」

「ゼンがコマでゴがイヌなんだやな悠!」

二人同時に悠助の頭に手をのせた

「…は?;」

「…あの二人が…さっきの犬二匹…ってことらしいですね…」

さすがの乾闥婆けんだっぱも理解に苦しんでいるようで言葉にいつもの切れが無い

「…まさかとは思うが」

ずっと黙っていた迦楼羅かるらが呟く

「…あいつ等は…」

ぐきゅぅうぅぅうう~…

折角真顔で言っていた言葉を腹の虫がかき消した

「…【あいつ等は】なんですか?? 迦楼羅かるら

迦楼羅かるらを支えるように後ろに立った乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらに聞いた

「…あいつ等は【式】だ」

迦楼羅かるらが言った

「劇団?」

京助がすかさずそういったが誰もギャグわかってくれなかった

「…坂田…中島…そして南…俺今ほどお前等との友情が恋しくなったことねぇかもしれねぇ…」

和室内には【劇団四季】という団体を知っているものはいなくそれで京助のギャグに誰も気づかなかったと思われる

「どうしたんだっちゃ? 京助」

遠い目をして四人で育んだ阿呆い日常…ボケたら誰かしろが必ず突っ込んでくれる幸せを思い出している京助に緊那羅きんならが声をかけた

「…友達って…いいよな…」

そういって遠い目のままほくそ笑む京助を見て緊那羅きんならが首をかしげる

「…【式】ってあの…」

乾闥婆けんだっぱがゼンとゴを見て呟いた

「そうだ【式神】だ」

迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱに言う

「ピンポーーーン!!!! なんだやな!! さっすが馬鹿でっかい力もってるだけのことはあるんだなやー」

ゴが尻尾を振って迦楼羅かるらを指差しながら言った

緊那羅きんならからはちょこっとしか吸えなかったんだなや」

ゴが緊那羅きんならを見た

「吸うって…私から?; え?;」

「ようは緊那羅きんならの力が弱いってことだなや」

ゼンが笑いながら緊那羅きんならの肩を叩いて言った

緊那羅きんならが京助んトコ来たときやっと戻れると思ったんだけど…な?」

ゼンがゴを振り返った

緊那羅きんならの力はゴ等をこの姿に戻すまでの量じゃなかったんだなや」

ゴが頷きながら言う

「宝珠ももってなかったし、期待はしてなかったんだやな」

「まぁ話せるまでにはなったんだなや」

ゼンがゴの隣に戻る

散々【弱い】といわれて緊那羅きんならが座り込んで黄昏始めた

「…ワシから吸っていたわけか?」

迦楼羅かるらが言った

「吸っていたというか…」

ゼンがゴを見る

「傍に行くと勝手に流れ込んできたんだなや」

ゴもゼンを見てその後そろって迦楼羅かるらを見た

「いわば垂れ流しのおこぼれ拝借?」

ゼンとゴがハモって言った

その言葉を聞いて迦楼羅かるらが固まった

そしてなるべく顔を動かさないように乾闥婆けんだっぱを見る

迦楼羅かるらの力はかなりのものですからあなた達をその姿に戻す分なんてほんの一部でしかないと思いますが…」

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらを見た

「【宝珠】を一つ貸し出し中なものであなた達が傍に寄れば寄るほどあなた達に流れ込んでいってしまうのでしょう」

「…知っていたのか?;」

迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱを見上げて聞いた

「あたりまえです」

乾闥婆けんだっぱがしれっとした顔で返した

「【宝珠】と普通の玉の区別くらい僕にもわかりますよ馬鹿にしないで下さい」

「…そうか…すまなんだ」

ふっと笑いながら迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱに謝った

「…とにかくです。こんな状態なのであまり迦楼羅かるらの傍に寄らないでほしいんですが」

乾闥婆けんだっぱがゼンとゴに向って言った

「寄るなといわれても…」

ゴがゼンを見る

「ゼン等は栄野を守らないとなんだなや」

ゼンが悠助の頭を撫でながら言った

「…ちょっと待つっちゃ」

【弱い】を連呼されて黄昏ていた緊那羅きんならがゼンとゴに近づいた

「なんだなや?」

「京助と悠助は私が守るんだっちゃ!」

緊那羅きんならが言った

「緊ちゃん?」

悠助が緊那羅きんならを見上げる

「私が守るって言われても…」

ゼンがゴを見る

「ゴ等が(強調)栄野守るんだなや。緊那羅きんなら達は用無しなんだなや」

ゴが笑いながら緊那羅きんならに言った

「な…ッ」

「聞き捨てなりませんね」

何か反論しようとした緊那羅きんならより先に乾闥婆けんだっぱが言った

乾闥婆けんだっぱの周りの空気が変わった

例えて言うなら暖房が一気に冷房に切り替わったという感じだ

「…けん…」

緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱに声をかけようとして途中で言葉を止めた

「…勝手に迦楼羅かるらの力を吸ってなにがお守り役ですか」

乾闥婆けんだっぱが言った

「吸ったんじゃなく勝手にながれこんできたんだやな」

ゼンがすかさず言う

「許可無く他人のものを自分のものにするということには変わりないでしょう」

乾闥婆けんだっぱが静かに言った

しかしその声は微妙に震えており怒りがたんまりとこもっているということがわかる

「…けん…ちゃん?」

悠助が乾闥婆けんだっぱの名前を呼んだが乾闥婆けんだっぱは返事をしなかった

ただ黙ってゼンとゴを見据えている


完全にキレてる


和室にいる全員が瞬時に察知した

「お…おぃ?; けんだ…」

迦楼羅が乾闥婆けんだっぱに恐る恐る声をかけようと見上げるとさっきまで支えるようにそえてあった乾闥婆けんだっぱの手が迦楼羅かるらの体から離された

「他人の…迦楼羅かるらの力がないと実態を保っていられないくせに何が…」

乾闥婆けんだっぱが袖口をくくってあった細長い布を解いた

「…!; 乾闥婆けんだっぱ!! こら!! ソコの二人!! 乾闥婆けんだっぱを止めるのを手伝え!!;」

迦楼羅かるらが京助と緊那羅きんならに向かって叫んだ

しかし時すでに遅し

乾闥婆けんだっぱが両方の布を解くとその布が乾闥婆けんだっぱの体の周りをまるで生きているように飛び出した

「…なんだ?;」

京助がソレを見て呟いた

「悠助!! 京助!! 離れるっちゃ!!; 迦楼羅かるら! 悠助をッ!!」

緊那羅きんならが京助の手を引っ張って縁側の戸を開け外に走る

「栄野弟!」

緊那羅きんならに続き迦楼羅かるらも悠助を引っ張って外に出る

「な…何なんだよっ!;」

境内の前あたりまで来たところで緊那羅きんならの手を振り解き京助が言うと同時に家の中から

何かが壊れる…というか壊されているというような音が聞こえ始めた

「…乾闥婆8けんだっぱ)がキレたっちゃ…;」

緊那羅きんならが言った

「そんなもん空気でわかるけど……上着着る時間くらいよこせ;」

上半身スッポンのまま連れ出された京助が鼻水を啜りながら言う

「たわけ!; 死ぬよりは風邪を引いたほうがマシだろう!! …コレでも羽織っていろ!!」

迦楼羅かるらが自分の上着(?)を京助に放り投げた

「…サンキュ」

京助が迦楼羅かるらの上着を羽織る

「かるらん大丈夫? 寒くない?」

悠助が迦楼羅かるらに聞く

「…ワシより自分の心配をしろ栄野弟。…鼻水を拭け;」

タリ… と垂れてきた悠助の鼻水を迦楼羅が自分の服で拭った


ドガシャーーー!!!

今までに無い大きな音がして一同家に目を向けると庭からは巨大な水柱が立ち上っていた

「な…ッ!?;」

京助が口を金魚のようにパクパクさせた

「…すっごぉい…」

悠助が目をキラキラさせる

「…本気で怒らせたみたいだっちゃねあのふ…二匹?;」

緊那羅きんならが悠助と京助を後ろに庇いながら立ち上る水柱を見上げた

ゼンとゴが同時に飛びのくとソコに水の刃が無数突き刺さった

「危ないんだなやー;」

ゴがただの水に戻っていく刃を見ながら言った

「この青い人も結構力あるみたいなんだなや」

ゼンが乾闥婆けんだっぱを見て言う

乾闥婆けんだっぱは元いた場所から一歩も動いていなく動いているのはあの布だけだった

乾闥婆けんだっぱは水を操れるんだっちゃ」

緊那羅きんならが言った

「…ってことは何か?; さっき出たでっけぇ噴水みたいな水柱って…」

乾闥婆けんだっぱだ」

京助が鼻水を啜って庭を見ると迦楼羅かるらが言う

「けんちゃん凄いんだね~!!」

悠助が呑気に目をキラキラさせている

「おそらく地下水か何かだろう…しかし…」

迦楼羅かるらがそう言いかけたときゼンとゴがそろって走ってきた

その後を水が追いかけてくる

「ばっ…!!; こっちくるなってッ!!;」

京助が叫んだ

「来るなといわれても」

「仕方ないんだなや」

ゼンとゴはそういうと京助の前で飛び上がって京助の後ろに着地した

「京助!!」

いきなりゼンとゴが避けたせいで水が京助めがけて迫ってきた

緊那羅きんならが武器笛を構え京助の前に立ち水を止める

「緊ちゃん!! 京助!!」

悠助が叫ぶと水が地面に流れ落ちた

「いや-危なかったんだなや」

ゴが京助の後ろからひょっこり現れた

緊那羅きんならも結構やるんだなや」

ゼンが緊那羅きんならに向かって言った

「…お前等な;」

鼻水を垂らしたまま京助がゼンとゴに言うと緊那羅きんならが武器笛でゼンとゴを カカーン!! と叩いた

「緊那羅?;」「緊ちゃん…?;」

京助と悠助が驚いて緊那羅きんならの名前を同時に呼んだ

「い…痛いんだなやッ!!;」

ゼンとゴがハモって叫んだ

「黙れッ!!」

緊那羅きんならの声が響く

「…何がお守り役だっちゃ…」

緊那羅きんならがゼンとゴを睨んだ

「…あそこで避けたら京助に当たるってわかってて何で避けたんだっちゃ!!」

緊那羅きんならの言葉にゼンとゴは顔を見合わせてそろって俯いた

「…緊ちゃんが怒ってる…」

悠助が呟いた

「お守り役なら…お守り役なら…っ」

武器笛を握り締めて緊那羅きんならが肩を震わせた

緊那羅きんなら

京助が緊那羅きんならの肩を叩いた

「なん…」

振り向いた緊那羅きんならの頬に京助の指が刺さる

「サンキュな」

京助が笑いながら緊那羅きんならの頬を軽くつねった

「お前のおかげで俺は怪我してねぇしもういいだろ」

「でもッ!!」

声を上げた緊那羅きんならのもう片方の頬も京助が軽くつねった

「済んじまったことは気にするなっての」

そういいながら緊那羅きんならの頬を引っ張る

「緊ちゃん変な顔-」

悠助がそれをみて笑った

「な? 了解?」

手を離して京助が言う

「…わかったっちゃ…けど…」

緊那羅きんならがゼンとゴに目を向けると二人がしょぼくれたまま俯いている

「…そこの二人。京助に何か言うことあるんじゃないんだっちゃ?」

緊那羅きんならの言葉にゼンとゴが顔を見合わせる

「言う…こと…?」

「なんだや…?」

首をかしげたゼンとゴに悠助が駆け寄った

「間違ったことしたときに言う言葉だよコマ、イヌ」

そういって二人の手を引っ張って京助の前に連れてきた

「…ほら」

緊那羅きんならがゼンの背中を軽く叩くと顔を見合わせ二人同時に

「ごめんなんだやな」

京助に向かって頭を下げた


外戸が外れて(というか吹っ飛んで)いる縁側

割れた蛍光灯

水のしみ込んだ畳

庭に開いた穴からいまだちょろちょろと流れている地下水と思われる水

「…落ち着いたか?」

そう言った迦楼羅かるらの視線の先には座り込んで顔を下げている乾闥婆けんだっぱがいた

迦楼羅かるらの服はずぶ濡れで髪からも水滴がポタポタ落ちている

乾闥婆けんだっぱの周りを飛んでいた布は迦楼羅かるらの手の中にあった

「…すいません…でした」

乾闥婆けんだっぱが小さく言った

「…気にするな。ホラ、腕を出せ」

迦楼羅かるらが言うと乾闥婆けんだっぱは黙って腕を出した

乾闥婆けんだっぱの服の袖を引っ張って迦楼羅かるらが手首に布を巻く

キュッと軽くしかし解けない位の力で止めるともう片方も同じように止める

迦楼羅かるら…」

布を巻き終えた迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱが声をかけた

「何だ」

ぬれている前髪が顔にくっついて邪魔くさいのか手で後ろにやって迦楼羅かるらが返事をした

「…僕はもう…居場所を失いたくないんです」

迦楼羅かるらが巻いた手首の布を掴んで乾闥婆けんだっぱが言った

「僕の居場所は…貴方の隣です」

俯いたまま言った乾闥婆けんだっぱの頭を迦楼羅かるらが撫でた

「…あぁ…そうだな…」

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらの服の裾を掴むと水が搾り出された

「…あの二匹に実態を保たせる力くらい…竜田揚げを食べればすぐだ」

迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱの頭を撫でながらしゃがんで

「…お前には本当世話ばかりかけているな」

そう言った迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱが顔を上げる

「ワシの前で強がるな乾闥婆けんだっぱ

乾闥婆けんだっぱの大きな目には涙が今にも流れそうなくらい溜まっていた

「貴方の前だからこそ強がるんです…ッ」

乾闥婆けんだっぱの目から涙が零れた

「ワシの前で弱音を吐かずして誰の前で吐くのだ!! たわけ!」

迦楼羅かるらが怒鳴って乾闥婆けんだっぱの頭を抱き寄せる

「子供扱いしないで下さいッ!!」

乾闥婆けんだっぱが暴れて離れようとするが迦楼羅かるらは手を離さない

「僕は…っ!! 貴方の隣を歩いていたいんです!!」

そう言った乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらは更に抱きしめる

「…っ離して…下さい…ッ…」

抵抗する力が弱くなり乾闥婆けんだっぱの肩が小さく震えだした

そんな乾闥婆けんだっぱの頭を迦楼羅かるらが撫でると小さく嗚咽が聞こえ始めた


ぐぅうううう~…

「…乾闥婆けんだっぱ

迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱに声をかけた

「…まったく…貴方という人は…」

体に似合わない大きな腹の虫の音をさせた迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱが溜息をつきながら目が少し赤いだけでいつもと変わりない顔で迦楼羅かるらを見た

「うっわ; どーすんだこの穴!!;」

戻ってきた京助が庭の穴を見て言うと

「…片付けないと…だっちゃね;」

和室中心にしっちゃかめっちゃかになってる様を見て緊那羅きんならが言った


畳に風が当たるように固定された栄野家の二台のドライヤーが ンゴーっ という音をさせて温風を噴出し濡れのひどいところを乾かしていく

比較的水害の少ない所に敷かれた新聞紙の上を悠助とゼンゴが走り回りその後には染み出した水であしあとが新聞紙に残る

「コラ!! 悠そっち蛍光灯割れてんだからあんまいくな!」

京助が吹っ飛んだ外戸をはめながら悠助に向かって叫ぶ

「ちょい緊那羅きんならそっち先に掃いてくれ」

外戸をはめて身を乗り出し和室内を掃いていた緊那羅きんならに蛍光灯の残骸が散らばるところを指差していった

「わかったっちゃ。ホラ悠助もゼンもゴも危ないっちゃ」

ちり取と箒でお子様三人を隅に追いやる

「つまんないんだなや」

ゼンが口を尖らせる

「んなら手伝えッ!!;」

京助が怒鳴った

「遊びたいお年頃なんだやな」

ゴが笑いながら言うと

「なー?」

ゼンとゴがハモって言った

「僕も手伝いますよ」

廊下から乾闥婆けんだっぱが和室に入ってきた

「あれ? 迦楼羅かるらは…まだ風呂だっちゃ?」

緊那羅きんならが聞く

「ええ…まだ浸かっています」

いいだけ水を吸った新聞紙を集めながら乾闥婆けんだっぱが言った

「…本当にすいませんでした」

乾闥婆けんだっぱの言葉に一同動きを止める

「まだまだ…僕も子供ですね」

集めた新聞紙を近くに置いてあったゴミ袋に入れながら乾闥婆けんだっぱが小さく言った

そしてまた新聞紙を集めようと顔を上げると目の前には二つの顔

「…な…んですか?;」

乾闥婆けんだっぱもさすがに驚いたらしく言葉が詰まってしまった

「ゼン等は栄野を守りたいんだやな」

「青いのは馬鹿でっかい力のヤツを守りたいんだなや」

ゼンとゴが言った

「…は…ぁ」

乾闥婆8けんだっぱ)がわけもわからず頷くと

「ごめんだったんだやな」

ゴス

ゼンとゴが頭を下げて謝り二人の頭が乾闥婆けんだっぱの頭に当たった

「…痛いんですけど。角が」

二人の角が乾闥婆けんだっぱの額に赤く二つの点を残した

「けんちゃん緊ちゃんとおそろい~!」

悠助がソレを見て言うと京助が乾闥婆けんだっぱの額を覗き込み緊那羅きんならを見てまた乾闥婆けんだっぱを見、

「ブッ」

と噴出した

「失礼ですね」

乾闥婆けんだっぱの必殺技といてもいい容赦ないチョップが京助に直撃した

「そいや緊那羅きんならも栄野守りたいとかいってたんだなや?」

ゴが言うと揃って緊那羅きんならを見る

「…じゃぁ緊那羅きんならは栄野のワキをまもるんだなや!」

「は!?;」

ゼンの言葉に緊那羅きんならが声を上げた

「前後はゼン等が守ってワキは緊那羅きんならが守るんだなや! 完璧なんだなや!!」

「ナイス考えなんだなや!!」

ゼンゴが勝手に【栄野お守りポジション】を決定した

「…お守り戦隊マモルンジャー…」

京助がぼそっと呟いた

「戦隊物には人数足りないんだなや」

ゴが言うと

「あの馬鹿でっかい力のヤツも入れてしまっていいだなや」

ゼンが言う

「じゃぁここの青いのも入れるんだなや。おお! 丁度五人なんだなや!」

ゴが目をキラキラさせた

「…勝手に組み込まないで下さい」

乾闥婆けんだっぱが溜息混じりに言った

「…なぁ話変えていいか?」

京助が言う

「…何だっちゃ?」

京助に視線が集まった

「…知ってるか? 鶏肉って茹でるとカプチーノみたく灰汁がでるんだ」

「…何ですかそのカプチーノって…」

京助の言葉に乾闥婆けんだっぱが突っ込む

「…まぁいいや;単刀直入に言いますと…」

ネタをわかってもらえなかった京助が手をヒラヒラさせた後人差し指を立てた

「…のぼせてんじゃねぇ?」

立てた人差し指を風呂の方向に向けて京助が言った


「…三時間と二十三分」

箸で傍にあった切干大根を摘んで京助が言った

「…長すぎだろう;」

その切干大根を口に運ぶ

「何を言う。ゆっくり浸かってこその風呂だ」

迦楼羅かるらが竜田揚げを齧る

「今日はまだ短いほうですよ」

乾闥婆けんだっぱが湯気のたった味噌汁を啜りながら言った

本日の栄野家の晩餐のメニューは白米に始まりフノリとじゃが芋の味噌汁、切干大根、竜田揚げにほうれん草の御浸しとなっている

「京助~お肉とって~!!」

悠助が飯粒のついた箸で竜田揚げの皿を指して言った

「ほら悠ちゃんご飯粒おちたわよ」

母ハルミがおかわりをした京助に茶碗を渡しながら悠助に向かって言った

悠助が落としたご飯粒を緊那羅きんならが拾い皿の隅に載せる

「…お前等はそれでいいのか?;」

悠助の皿に竜田揚げを二つ乗せて後ろで犬の姿のまま味噌汁ぶっかけご飯を食べているゼンとゴ(コマとイヌ)に声をかけた

「ゴ等は箸苦手なんだなや」

鼻の先に飯粒をつけて尻尾を振りながらゴが言った

「こっちのがいいんだなや」

空になった皿をゼンが舐める

「…そうか;」

京助がそういいながら軽くゲップをした

「ハルミ殿は肝が据わっているな」

夕食後京助の部屋で迦楼羅かるらが言った

「あぁ…母さん細かいこととか気にしないから」

京助が小さなハロゲン式ヒーターのスイッチを入れる

「ヒマ子さんの時も全然驚かなかったしな」

「私が来た時もそうだったっちゃ」

緊那羅きんならが言った

「…でさお前等一体何なんよ?【式】って何?」

京助が緊那羅きんならの膝の上で丸くなっている二匹に言う

「眠いんだなや~…」

ゴが欠伸をしてもそもそ動く

ゼンはもう夢の中だった

「…コイツら…;」

ゼンの角をつつくと乾闥婆けんだっぱと悠助が部屋に入ってきた

「片付けご苦労様だっちゃ」

緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱに向かってい言った

「…オイ;それ外して大丈夫なのか?;」

京助が袖口を止めてあった布を指差して乾闥婆けんだっぱに聞く

昼間その布が乾闥婆けんだっぱの周りを飛び始めると緊那羅きんなら迦楼羅かるらが自分たちを連れて避難した事を思い出していた

「大丈夫ですよ」

そう言って乾闥婆けんだっぱが袖を下ろし布で縛って止めた

「…ならいいんだけどよ…で…早速だけど」

京助が乾闥婆けんだっぱから迦楼羅かるらに視線を移した

「…【式】とは【式神】という一種の術のようなものだ」

迦楼羅かるらが話し出した

「そしてコイツ等はその【式神】の【前鬼】と【後鬼】であろう」

緊那羅きんならの膝で寝ている二匹に視線が集まった

「【前鬼・後鬼】は術者の命によりその者の前と後を守るものだ…が」

迦楼羅かるらがふと考え込んだ

「…一体誰が…」

迦楼羅かるらのその呟きからしばらく沈黙が続いた

「…京助」

乾闥婆けんだっぱが京助に声をかけた

「…貴方が生まれる前からこの二匹はいるんでしたよね?」

乾闥婆けんだっぱの言葉に京助が頷く

「…ならばハルミさんに聞けばわかるのではないですか?」

乾闥婆けんだっぱの言葉に今度は全員が大きく頷いた


「…なんだこの修学旅行のお泊りのように敷かれた布団は;」

ゼンとゴが乗っていて動けない緊那羅きんならを残して京助達は母ハルミがいると思われる明かりのついている部屋にやってきた

そこで見たものは襖を全部開いて繋げた部屋に敷かれた5組の布団

「何って…見ての通りでしょう」

母ハルミが腰に手を当てて言った

「今日はもう遅いからかるらんとけんちゃんも泊まっていきなさい?」

京助の後ろにいる迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱに母ハルミが言う

「え…いやワシ等は…;」

「かるらん!! けんちゃん一緒に寝よー!!」

丁重に断ろうとした迦楼羅かるらの前に悠助が万歳をして布団にダイブする

「朝方は冷えるから後からヒーターもって来なさい」

布団の上で転がる悠助を見て微笑んだ母ハルミが廊下に出た

「あ…母さん!」

京助が呼ぶと母ハルミが振り返る

「なぁに?」

「…ゼ…じゃない;コマとイヌっていつからウチにいるんだ?」

京助が聞くと母ハルミは一瞬目を大きくして驚いたような表情をした

「…ずっと前からよ? …コマとイヌ…ゼンちゃんとゴちゃんだったわね…あの子達はアンタの父さんが連れてきたの」

ゆっくりと母ハルミが言った

「アンタは覚えてるかどうかわからないけどねアンタの父さんにはちょっと不思議な力があったの。よくその力でアンタをあやしていたのよ」

京助は黙って母ハルミの言葉を聞いていた

「…あの子達はウチの神社をずっと守っていた前の狛犬なの」

母ハルミのその言葉に迦楼羅が反応した

「…狛犬に式神を入れたのか…」

ボソッと迦楼羅かるらが言うと母ハルミが頷いた

「自分に何かあった時…代わりに京助と悠ちゃんを守るようにって…でもまさかあんな可愛い姿になれるなんて知らなかったわ。母さんびっくりしちゃった」

母ハルミが笑う

「…さ…もう九時になるわ。お風呂入って寝なさいね」


「京助」

月明かりでぼんやりかろうじてそこにいるのが誰なのかがわかった

「…寝ないのか?」

仏壇の前に座っていた京助の隣に緊那羅きんならが立った

「京助こそ…また遅刻するっちゃよ?」

「…も少ししたら俺も行くから…」

京助が仏壇を見ながら言った

「なぁ」

部屋に戻ろうとした緊那羅きんならを京助が呼び止める

「…俺って…俺と悠って何なんだ? どうして…お前等も父さんもそんなに必死で俺と悠を守るって言うんだ? 俺は大統領でも殿でも有名人でもねぇのに…」

風で窓がカタカタとなった

「…京助…私は…」

「あ…あ~そっか; 忘れてたお前何も知らないって言ってたっけな; スマン;」

言葉に詰まった緊那羅きんならに京助が笑いながら謝った

「きょ…」

「さーって!! 寒みぃし寝るか!」

何か言おうとした緊那羅きんならの背中を押して仏間から出ると廊下に迦楼羅かるらの姿があった

「…何してんだ?;」

京助が緊那羅きんならの背中に手を当てたまま迦楼羅かるらに聞いた

「今はまだ多くは言えないがな…一つだけ言っておきたいことがある」

迦楼羅かるらがゆっくり京助に近づいた

「…京助…これから何があっても自分の存在理由から逃げ出すな」

迦楼羅かるらの言葉に緊那羅きんならがきゅっと唇を噛み締めて俯いた

「…存在…理由?」

京助が繰り返すと迦楼羅かるらは背を向けて暗い廊下を歩いていった

「…何なんだ…?;」

いきなりわけのわからないことを言われた京助はしばらく呆然とその場に立っていた


「騒がしくてごめんなさいね」

母ハルミが京助の弁当を包みながら言った

「はい緊ちゃん」

そしてその弁当を京助ではなく緊那羅きんならに手渡すと緊那羅きんならが小走りで玄関に向かっていった

「ってきまーすッ!!」

玄関から聞こえた京助の声と

「京助!お弁当忘れてるっちゃ----ッ!!」

それに続く緊那羅きんならの声

栄野家の毎朝の恒例

「…毎日こうなのですか?」

戻ってきた緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱが聞いた

「え? あ…うん;そうだっちゃ」

緊那羅きんならが答えた

「京助は朝によわいんだやな」

部屋の隅でゴ(イヌ)が言った

「昔からかわらないんだやな」

ゼン(コマ)も言う

「…貴方たちは…」

「お前たちの主は誰なのだ?」

乾闥婆けんだっぱの声に迦楼羅かるらの声がかぶさった

迦楼羅かるら…」

緊那羅きんならが降り向くと迦楼羅が近づいてきた

「京助と悠助の父親…というのは昨日ハルミ殿から聞いた」

迦楼羅かるらの言葉に二匹が顔を見合わせた

「そうなんだやな」

ゼン(コマ)が頷く

「…栄野兄弟の父親…まさかとは思うが…」

迦楼羅かるらがチラっと乾闥婆を見た

「…その可能性は大きいです…丁度時期的にも合いますから…だとしたら京助と悠助が選ばれた理由も幾分か納得いきますし」

乾闥婆けんだっぱが言う

「…彼なら…【式】を使えてもおかしくはないですから」

「…そうだな…どちらにせよ…緊那羅きんなら

迦楼羅かるらに名前を呼ばれて緊那羅きんならが顔を上げた

「…わかっているな? この事は二人に話すな…【時】がくるまでは…そして…」

「わかってるっちゃ」

緊那羅きんなら迦楼羅かるらの言葉を止めた

「京助と悠助は…何があっても守るっちゃ」

緊那羅きんならのその言葉に迦楼羅かるらが頷く

「…迦楼羅かるら

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらに声をかけた

「…また…あんなことが繰り返されるのですか…?」

乾闥婆けんだっぱが自分の服の裾を握り締めた

「今度は京助と悠助が僕と同じ思いをするのですか…?」

乾闥婆けんだっぱの肩が小さく震える

「…乾闥婆けんだっぱ…」

緊那羅きんなら乾闥婆けんだっぱの顔を覗き込んだ

「…すまなんだ…わ…」

ぐきゅるるるるるるる…

シリアスな場面が音を立てて崩れた

「…迦楼羅かるら…」

乾闥婆けんだっぱ緊那羅きんならがハモって言った

「ハラヘリなんだやな?」

ゼン(コマ)が迦楼羅かるらを見上げて尻尾を振った

「だっ…誰のせいだッ!!;」

迦楼羅かるらがゼン(コマ)に向かって怒鳴った

「ゴ等は悪くないんだやな」

ゴ(イヌ)が言うと

「なー?」

といって二匹揃って首をかしげて笑うと緊那羅きんならも苦笑いを浮かべる

「お…お前等はっ…っ;」

迦楼羅かるらが顔を引きつらせながら言った

「かるらーん、けんちゃん、緊ちゃん朝ごはん食べちゃいなさい」

台所から母ハルミの声が届いた

「はーいっ迦楼羅丁度よかったっちゃね」

返事を返して緊那羅きんなら迦楼羅かるらに言うと迦楼羅かるらの顔が何処となく嬉しそうな顔に変わる

「ゼン等もハラヘリなんだやな」

ゼン(コマ)とゴ(イヌ)がトテトテ走って台所に向かっていく

「私たちも行くっちゃ」

緊那羅きんなら迦楼羅かるら乾闥婆けんだっぱに言った

「…そうですね…行きましょう」

乾闥婆けんだっぱ迦楼羅かるらの背中をトンと押した

「うむ…」

迦楼羅かるらが歩き出すと緊那羅きんならが部屋から出た

最後に部屋を出た乾闥婆けんだっぱは誰もいなくなった部屋を見渡して眉をひそめた

乾闥婆けんだっぱ…?」

迦楼羅かるらに呼ばれて乾闥婆けんだっぱが部屋の戸を静かに閉めた


挿絵(By みてみん)


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