【第四回・参】恋のタコヤキ合戦
焼肉がかかった文化祭の出し物は【タコヤキ】の屋台
その焼肉勝負とは別に男と男の戦いが繰り広げられることになろうとは誰も想像してもいなかった
黒板にあげられている名前の下にはそれぞれ役割が書いてあった
たこやき処アシハポーン役割
坂田 (タコヤキ神)
池田・は (タコヤキ王)
阿部 (タコヤキ魔人)
栄野 (タコヤキ会長)
高橋・ミ (タコヤキあゆみ)
本間 (タコヤキ班長)
浜本 (タコヤキ浣腸)
「俺のどう見ても食い物屋台の役割じゃない様な気がすんだけど;」
【浜本】と名札をつけた少年が黒板に向かって文字を書いていた坂田に言った
「細かいこと気にしなーい」
そういって浜本の肩をポンポンと叩いた女子は【阿部】という名札をつけている
「まぁ最高責任者がわかればいいんだから…ねぇ? タコヤキ神」
「そーそーミヨコの言うとおり気にしない。な!! 浣腸!!」
ショートカットの『ミヨコ』と呼ばれた女子に鼻水をすすりながら京助が同意する
「そいやタコの方どうなってる?もらえそうか?」
坂田が浜本に聞いた
「今日はナギたから船でたし…大丈夫だと思うぞ」
【解説しよう。『ナギている』とは海が穏やかだという意味で反対に荒れている場合には『シケている』という漁師用語である】
「タコがないんじゃ始まらないしな~…ウチも漁師だけど今大船だからアキアジ獲ってるからな~…;」
【本間】とかかれた名札をつけた女子が爪をかじりながら言った
「【タコ】ない【タコヤキ】なんてただの【ヤキ】だし…うっわ売れねぇ~!!」
京助が笑いながら言うとまわりも頷いて笑った
「目指せ焼肉!! 目指せ総合優勝!!」
さっきまで一言も話していなかった【池田】の名札をつけた長身の少年が立ち上がって燃えている
「…ハルなにかあったのか?;」
「何もないサ!! さぁ! キアイいれて!!」
無駄に大きな動きをする池田ことハル (本名・池田ハルヒコ)を見て京助が声をかけた
「…またミヨにフラれたか」
坂田がボソっと言うとハルが固まった
「ハイハーイ!! ミヨまぁたふっちゃいましたー!!」
ミヨコが手を上げて言うとハルがヨヨヨ…と床に泣き崩れた
「お前何回ミヨに告ったよ;」
浜本が椅子をギーギーさせながら呆れ顔で言う
「幼稚園からの片思いだしねぇ…こんなガチャピンの何処がいいのか」
「ガチャいうな;」
ミヨコは目が大きく少し前歯が大きいゆえ某子供向け番組の緑色の怪獣にちょっと似ている
「純だと言ってくれ」
ハルが立ち上がり腰に手を当てながらフンっと鼻を鳴らした
「純は純でも単純」
「お!! 上手い!」
本間が言うと坂田が拍手した
「ハルもね~結構モテるのに」
阿部が笑いながら言った
「俺はミヨがいいの!」
ハルがキッパリと言い切ると歓声が沸き起こる
「ミヨ愛されてる~」
ミヨコが恥らう真似をして笑った
「とにかくだ!! 何が何でも焼肉! 目指すは総合優勝!! 特に2組なんざに負けられねぇ! やるぜ!! お前ら!!」
坂田が机に足をかけて着気合の一言を言った
「ウッス! 若組長!!」
京助とハル、浜本が敬礼をしてハモって言った
「俺は神だッ!!」
坂田が丸めたノートで三人を叩いた
「明日何時に行けばいい?」
母ハルミが捲り上げていた袖口をおろしながら京助に聞いた
「あ~? 何時でも? 生徒集合は普通通りだけど文化祭自体は9時半からだし?」
足の爪を切りながら京助が言った
「僕劇みたい~!!」
悠助が手を上げていうと
「じゃぁ劇に間に合うようにいくわ」
母ハルミが笑いながら言った
「…私も行っていいっちゃ?」
さっきまで悠助の三つ編み修行の練習台になっていた緊那羅が京助に聞いた
「まぁ…明日は一般公開だから…来たきゃ来ていいぞ?」
京助がそういうと緊那羅が嬉しそうに笑った
「緊ちゃんよかったねー!!」
悠助が緊那羅に抱きつく
「せいぜい俺らの売り上げに貢献してくれ」
パチンと京助が爪を切った
「えー…というわけでー…今日は好天にも恵まれー…」
ところどころにキーンという音をはさみながら校長の長ったらしい挨拶が続いていた
しかし生徒はおそらく (てか絶対)校長の話など右の耳から入れてはすぐに左の耳から抜けているだろう
あちこちでボソボソと話し声が聞こえている
その度に校長が ゴホン!! と咳払いをするのだがまるで効果がない
例えて言うと 田んぼにカカシを置いているんだけど効果ないのよね みたいな感じだった
「…では今日はハメを外し過ぎない程度に盛り上がっていきましょう」
最後にキーィインとい音を残して長ったらしい話が終わると生徒達はよっしゃ!と心の中で思いながら姿勢を正して校長のいなくなったステージを見た
「それではこれより第42回正月中学校文化祭二日目開始の言葉を実行委員長の佐藤さんよりお願いいたします」
司会進行役がそういうとステージの上に【佐藤さん】と呼ばれた文化祭実行委員長が立った
「皆さん今日は待ちに待った文化祭です。総合優勝クラスには毎年恒例の焼肉食えんぞ権が与えられるので気合を入れて頑張ってください…それでは…」
文化祭実行委員長の佐藤さんがマイクから一歩後退しメガホンを手にとって叫んだ
「正月中文化祭ー…スタート!!」
その掛け声とともに生徒は駆け出して体育館を後にする
「坂田! 生徒玄関に親父がタコ持ってきているはずだからハルと取ってくる!!」
浜本がハルの腕を引っ張って生徒の波の中玄関に向かった
「窓から垂れ幕下ろしてから生地持ってくるね!」
阿部がミヨコと本間と共に階段を駆け上っていった
「じゃ俺らは…ヤりますか若組長」
「俺は神だ」
坂田と京助は生徒でごった返している廊下を屋台のある教室に向かった
【たこやき処あしはぽーん】
そう書かれた旗が立っている簡易屋台
屋台の名付け親はタコヤキ神の坂田だった
「ふっざけた名前だよナァ…」
チャイナドレスを着た人物が腰に手を当てて旗を見上げてている
「…お前の格好もふざけてるとおもうぞ」
京助が教室に入るなりチャイナドレスの人物に声をかけた
「お前らんトコは韓流ブームに乗っかって飲茶喫茶だっけか?」
「ピンポーン」
振り向き扇を広げたその人物は南だった
「今日は【ミナ・ミンミン】とよんでくれ!」
「…お前実は女装好きだろ」
坂田が京助の後ろから南に言った
「んやぁ…お前らに勝つためならねぇ?」
パチンと扇を閉じて南がニーっと笑う
「今日だけは敵同士ってことで…容赦なしに」
ビッと閉じた扇で南がで坂田を指した
「のぞむところだ変態」
坂田もニッと笑った
ピンポンパンポーン…というメロディと共にザザ…という雑音がスピーカーから流れた
「只今より一般入場を開始いたします生徒のみなさんは各自の持ち場についてください。尚演劇の…」
放送が一般入場開始のアナウンスを流した
「…いざ…勝負!」
昨日の友は今日の敵でも明日はまた友
文化祭が幕をあけた
生徒でごった返している廊下に更に一般入場客が追加された
「ミヨ!! 危ないって!!;」
紙袋を片手にミヨコがそのごった返している廊下を足早に進んでいく
「早く行かなくちゃ坂田達まってるもん」
後ろを軽く振り返りながらミヨが言った
「だからって…馬鹿!! ミヨ! 前!! 階段っ!!;」
「え? っわっ!!」
本間が叫ぶとミヨコの体がグラッと傾いた
「ミヨ!!」
落ちる-…! 周りの誰もがそう思ったに違いないのだろうが誰も助けようとはしなかった
あまりにも突然でただ宙に放りあがった紙袋と階段から足を踏み外して崩れたミヨコを見ているしか出来なかった
「や…っ!!」
ミヨが痛さを覚悟してぎゅっと目を瞑った
トン…
何かにぶつかった
でもソレは痛くも冷たくもなくて逆に温度を感じた
「…気をつけなよ。危ない」
「え…?」
バサバサと紙袋が階段を転がり落ちて中に入っていた半被が散らばった
「ミヨ!!」
阿部と本間が駆け寄る
「ありがとうございました…あの…」
阿部が頭を下げる
「…別に…じゃあね」
ミヨコを本間に預けて頭を下げている阿部の横を静かに通り過ぎる
「…格好いい…人だったね…役得じゃんミヨ」
人ごみに消えていった後姿を三人がぽーっと見ている
「…高校生かな…」
ボソッと本間が言った
「でもあの格好…演劇?」
阿部が本間とミヨに近づきながら言った
「でも演劇ってたしかあんな服装じゃなかった様な気がする…。…ミヨ?」
固まったまま動かないミヨコの頬を本間がペチペチと叩いた
「…かっこいぃ…」
頬をほんのり赤く染めてミヨコが呟いた
「…惚れちゃった?」
阿部が半被を拾い集めてきてミヨコに言うとミヨコがコクリと頷いた
「…お前やっぱ類友の類なんだな」
坂田が壁に寄りかかりながら京助に言った
その視線の先には悠助と緊那羅そして…
「…いとも?」
あいかわらず眠そうな制多迦がいた
「ハルミママはバザー見てから来るって」
悠助が制多迦と緊那羅の間に挟まって二人と手をつなぎながら言った
「あ・そ;」
京助が顔を引きつらせながら返事をした
「コイツも緊那羅と同類だろ?」
坂田が制多迦をタコヤキを返すアレで指した
「…同類…っていうか…同類…?;」
緊那羅が横目で制多迦を見る
「…んならは【天】で僕は【空】なんだけど」
その視線に気づいたのか制多迦が緊那羅を見ながら言う
「…【天】に【空】ねぇ…よくわからんけどまぁ同類にしとけ」
坂田が手をひらひらさせながら言った
「にしても…阿部達もハル達も遅ぇな」
京助が廊下に顔を出す
「お!! 来た来た!」
発泡スチロールの箱をキュッキュ言わせながら浜本とハルが駆けてくる
「スマン!! 親父が生と茹でたやつ間違えてきやがってさ;」
「しっかり親父さん!!;」
浜本の言葉に京助が突っ込む
「あれ? 悠じゃん!! 久~! …でこの方たちは…」
ハルが緊那羅と制多迦を見て京助の方を向く
「京助の従兄弟ズだ」
坂田がハルの質問に答えた
「…コスプレが趣味なんだコイツ」
京助が制多迦の格好を突っ込まれる前にここぞと坂田の【従兄弟】という答えに乗っかってつけたした
「…へぇ…」
浜本とハルが制多迦をまじまじと見ていたところにミヨコ達が入ってきた
「ねぇねぇ!! 聞いて聞いて!! ミヨがね! ミヨがね!!」
本間が教室に入るなり話し出した
「ミヨが?」
【ミヨ】という言葉に反応してハルが言う
「ミヨが一目惚れしましたッ!!」
阿部が言うと一斉にミヨコに視線が集まった
ミヨコは俯き加減で顔を赤く染めている
ハルはというと白く固まったまま動かない
「…誰に」
浜本が本間に聞いた
「さっきミヨが階段から落ちそうになったとき助けてくれた超格好いい人。高校生くらいなんだけど…」
「けど?」
本間の言葉に坂田が突っ込む
「…嫌な予感がするんだけど;」
京助の右の鼻の穴から鼻水がたりっと垂れた
「演劇に出るような格好してたんだけどね」
「演劇…」
本間のそんな言葉に京助が鼻水を啜って制多迦の方向を見ると制多迦と目が合った
「あ!!! ミヨ!! 見て見てっ!」
阿部がミヨコをゆすって制多迦を指差した
「きゃぁあぁああ!!」
制多迦を見るなり悲鳴を上げてミヨコが阿部の後ろに隠れる
何で自分を見て悲鳴をあげたのかわからない制多迦がぽかんとミヨコを見る
「…に?;」
視線を集中させられて制多迦があわわと挙動不審になった
「あ…でも違うよ似てるけど…髪の色とか服も…」
本間が制多迦の全身を見て言った
オタオタしている制多迦に京助がカニ歩きで近づいて小声で言った
「…矜羯羅もきてるのか?;」
制多迦がコクリと頷いた
「すいませーん…まだ開いてないんですか?」
髪にウェーブのかかった子連の女性が入り口から覗き込むように言った
「え? …うっわ! お客さんだよ!;」
お客さん第一号が来店したもののまだ何も準備をしておらずわたわたと半被を着込み材料を準備する
「ママ-見て見てこのお兄ちゃん変な格好ー!!」
3歳くらいの女の子がトテトテ走ってきて制多迦を指差した
「…んな格好?;」
女の子の言葉に制多迦が自分の全身を見る
「…私も京助達に散々言われたっちゃ; …こっちじゃこんな格好しないみたいだっちゃ」
「でも僕格好いいとおもうけどなぁ」
緊那羅が言うと悠助が付け足していって制多迦を見上げた
「すいません…あの写真撮らせていただいて構いませんか?」
女の子の母親が申し訳なさそうに制多迦に言う
「どうぞどうぞ~俺シャッター押しますんで」
京助が親子に近づいてカメラを受け取った
「お兄ちゃん抱っこー」
女の子が制多迦を見上げてクイクイ服を引っ張った
制多迦がオロオロしながら京助を見ると京助は【やれ】というサインを出した
「ハァイ!! チーズ!! サンドイッチ!!」
ピロリン♪ という音がした
「…坂田…京助の従兄弟使えるんじゃねぇ?」
浜本がタコヤキを焼きながら坂田に言った
「…使えるものは阿呆でも使え…だな」
坂田がニヤリと笑った
「ありがとうございましたー!!」
女の子が制多迦に手を振りながらタコヤキを持って出て行った
「京助」
坂田と浜本が手招きして京助を呼び寄せそして何やら耳打ちをすると京助がグッと親指を立てた
「緊那羅」
そして今度は京助が緊那羅を呼ぶと緊那羅が首をかしげながらも京助の元に小走りで向かった
そしてやはり何か耳打ちされている
「えぇええ!?;」
突然緊那羅が大声を上げた
「そんくらい協力しろよなー」
京助が言うとしぶしぶながらも
「…わかったっちゃよっ!!;」
緊那羅が承諾した
「階段降りて右がトイレだから。よろしく」
京助がヒラヒラ手を振ると坂田もヒラヒラ手を振って緊那羅を見送った
「緊ちゃんどこいったの?」
悠助が制多迦を見上げて聞くと制多迦が首をかしげた
「あ!! いらっしゃいませーどうぞー!!」
第一号に続いて第二号のお客が顔を覗かせる
その後ろには第三号、第四号と続いている
そしてその後ろにはアノ格好の緊那羅が続いて入ってきた
やはり目を引くのかタコヤキが焼けるまでの間制多迦と緊那羅の周りにお客が集まっている
「劇か何かに出るんですか?」
「コレ自分で作ったの?」
「変な格好ー!!」
マダムの質問攻めとお子様の相手で制多迦も眠気の波が今のところきていないらしい
「…使えたなお前の従兄弟 (強調)」
坂田がクリンとタコヤキを返しながら言った
「使えるものは何でも使え」
京助が生地の中にタコを落としながら返事した
「ちょっと! 京助!!」
阿部が京助の半被を引っ張って京助を呼んだ
「何だよ今忙しいだろが」
「アタシが代わるからそっち行って」
本間が京助からタコの入ったボウルを奪い取った
「…何だよ;」
屋台の隅にしゃがんだ京助が阿部に聞いた
「あの…背の高い色黒の人京助の従兄弟?」
「あ?; …はぁまぁ…一応」
阿部の質問にドギマギしながら答えた
「双子とか兄弟とかいないの?」
今度は横からミヨコが聞いてきた
「…兄弟…」
京助がお客に囲まれてオタオタしている制多迦を見た
そして浮かんできたのは
「…矜羯羅…;」
制多迦と目元がそっくりな矜羯羅
「いるの!?」
「ぐぇっ!!;」
ミヨコが京助の襟首をつかんで声を上げた
「いるの!? いるんだね!?」
京助をガクガクゆすりながらミヨコが聞いてくる
どこにココまでの力があったのか恋する女は恐ろしい
「母さんこの人動かないよ?」
男の子の言葉にふと顔を上げた面々は白く固まったまま忘れ去られていたハルの姿を目にした
コポコポコポ…
「もう7杯目よ? いい加減にしたら?」
コトリと急須をカップのそばに置いてその人物は溜息をついた
「いいんだ…今は飲みたい気分なんだ」
グイッとカップの中身を飲み干すとズイッとカップを差し出した
「もう一杯」
「もうやめておきなさいよ。おねしょでもしたらおケツ…ペンペンされちゃうわよ?」
差し出されたカップをそっと押し返す
「コレが飲まずにいられるかてんだッ!! いいから!ついでくれッ!!」
「何しとんじゃワレ」
坂田の肘鉄が見事つむじ辺りにヒットした
「よー!! ウチの売り上げ貢献に有難う組長!」
急須を持ったチャイナドレス姿の南が笑いながら言った
「神だっ!! …おんまえは…何敵んトコでやさぐれてティータイムしとんじゃ」
肘をそのままグリグリと押し付けて坂田が言った
「やー…ミヨが一目惚れしたって? そりゃ飲みたくなる気持ちもわからんでもないけどさぁ…7杯でしめて700円になりまっせ」
南が坂田の下でつぶれているハルに手を差し出して請求した
「まいどおおきに~」
ヒラヒラと手を振る南に見送られて坂田とハルは敵陣を後にした
「今戻ったぞ」
ハルの首根っこを掴んで屋台のある教室に帰還した坂田がチャッと手を上げた
「ご苦労さん若」
「神だっつーの!!」
本間が手を上げて迎えると坂田がハルをペイっと離した
「コイツ2組んとこに700円も貢献しくさっててさぁ…どうよ」
坂田が頭を掻きながら溜息をついた
「700円は…でっかいな;」
京助が生地を混ぜながら言った
「何してんのさ!! もー…この馬鹿ハル!!」
ミヨコがハルの頭を叩いた
「…元はアンタが原因でしょ」
阿部が突っ込んだ
「タコヤキ1セットが250円だから…3つ…か」
京助が呟く
「でももう昼時だから飯の方に客足いってるしなぁ…難しいよなぁ…」
浜本がタコヤキを返しながら言う
「そういやウチの看板どうした?」
坂田が教室内を見回して聞いた
「制多迦と緊那羅なら母さんと悠助と一緒に飯に行った」
京助が答えた
「何ッ!?」
坂田が叫んだ
「痛いよなぁ…看板までいなくなっちゃぁ…」
浜本がはぁと溜息とつく
「ハルミさんきてったのか!?; っあぁあああ!!」
「そっちかい」
坂田が嘆きの叫び声をあげると本間がスパーンと突っ込んだ
「だって!! ハルミさんきてたんだろ!? ハルミさん!! くぅううう~…ハル! これもそれもお前のせいだッ!! 馬鹿野郎!!」
坂田がハルに向かって怒鳴った
「っとに…ココの男どもときたら…アノ人みたいなのいないのかしら」
ミヨコが言うとハルがぴくっと反応した
「…そんなに格好よかったのかソイツ」
ハルがミヨコに聞いた
「え? …そりゃぁもう格好よかったよ? 名前も言わないで助けて当たり前のように振舞って…ねぇ? 阿部!!」
ミヨコが思い出しながら話すと阿部の肩をバシッと叩いた
「…そっか」
ハルが俯きながら言った
「…ミヨ…俺は…」
ハルが何かを言おうとした時教室の後ろの戸がガラリと開いた
「若!!」
やたらとでっかく低い声が教室中に響いて一般のお客が静まりかえった
「馬鹿!! 三浦!!」
そしてその後に聞こえた声に三浦が誰かに引っ張られ戸口から消えた
「…若お客さん」
本間が壁にへばりついて今だ母ハルミに会えなかったことを嘆いている坂田に声をかけた
ぞろぞろと教室に入ってきたのは黒系スーツを身にまとった坂田組の面々
ソレを見ても何事も無かったかのようにタコヤキを購入していく客
ココら辺で坂田組が町民とうまくいっていることがわかる
「ミッツ、半被少し大きかったんでないかい?」
髪をビシッと結い上げて眼鏡をかけ着物を着た女性が坂田の半被を引っ張って言った
「仕方ないですよ姐さん。組の者が着てたものですし」
柴田が言った
「半被有難うございましたおばさん」
阿部と本間、浜本が着物の女性に頭を下げた
「やだよぉ!! 可愛い息子の出しモンだってぇんだ。なんでも貸してやるさね」
カラカラと笑って坂田の頭を叩く
「じゃぁその可愛い息子が焼いたタコヤキ買ってってくださいよ」
京助がココゾと売り込む
「ったく調子いいねぇキョン助は。ハルちゃんと悠は来てないのかい?」
坂田母が京助に聞いた
「今さっきまでいたんスけど飯の方行ったっスよ」
客にタコヤキを渡してお金を受け取りながら京助が言う
「…親父は?」
坂田が柴田に聞いた
「あぁ…組長なら…」
ガラガラガラガラガラガラ…
「…坂田…親父さん来るって言ってたのか?」
京助が坂田に耳打ちした
「…あぁ; この前のヤツで母さんブチ切れてそれから人の多いところに強制的に連れ出してるんよ; で…今日も…つれてくるとか言ってたんだけど」
ガラガラガラガラ…
廊下の向こうからだんだんと近づいてくる台車の音
「…俺さぁ…最近嫌な予感ってことごとく当たるんだわ…」
京助がフッと笑って坂田の肩を叩く
「…俺も今日、今、この音に関しての嫌な予感はノストラさんと対張るくらい的中すると思いますぜダンナ」
坂田と京助がそろって教室の戸口に目をやると丁度台車が止まった
台車の上には【愛別産おいしいキノコ】と書かれた明らかにどっかのスーパーから持ってきたと思われる大きなダンボールが二つ繋がってガムテープで固定されている
「…どきな菅原」
坂田母が台車を押してきた組員に言い放つと大股で台車に近づきダンボールを掴んで投げた
「…坂田のお父さんって…」
阿部が小声で言うと
「…何やってる人だっけ…」
ミヨがそれに続いていった
「…どっから借りてきたんだい…」
ダンボールの中にいたのは正月町のマスコットキャラクター【カモメのマーシー君】 (の着ぐるみを着た坂田父)だった
「…相変わらずだなお前の親父さん」
京助がヘッと笑って坂田に言った
「…おかげさまで」
坂田が顔をそらして返した
「今すぐ脱ぎなッ!! こンの阿呆!!」
足をむき出しにして坂田母が着ぐるみに手をかけ脱がそうとする
「やめッ…母さん!!; 勘弁してくれ!!」
坂田父が着ぐるみで必死に抵抗する
「…なぁ坂田…アレ…ってかお前の親父さん新しく看板で使えんじゃねぇ?」
浜本が言った
ソレを聞いた坂田の眼鏡がキュピーンと光った
ガラガラガラガラガラ…
後ろに【タコヤキ処あしはぽーん】ののぼりを掲げマーシー君(坂田父)をのせた台車が教室から旅立った
「使えるものは親でも使え」
坂田が悟ったように言った
「ところで若」
柴田が坂田を呼んだ
「何だ?」
「若の彼女って誰です? この間ウチまで訪ねてきたと組の者から聞いたんですが…俺見れなかったんで…文化祭に来れば見れるかと思ったんですが」
柴田がにっこり笑って聞いてきた
「…なぁ…柴田さんの言ってるのもしかして…」
京助が笑いをこらえながら坂田に言った
「言うな」
坂田が引きつりながら京助の腹に肘鉄を食らわせた
「何? ミッツ彼女いるのかぃ? キョン助?」
坂田母がタコヤキを爪楊枝にさしたまま話しに入ってきた
「いますヨー隣のクラスで看板娘やってますヨー」
「京助テメェッ!!;」
爽やかに(エセっぽい爽やかさ満開)笑いながら京助が言うと坂田が京助の半被の襟を掴む
「照れるんじゃないよぉこの子は…どれどれ…隣のクラスかい?」
坂田母がタコヤキを持ったままそそくさと隣の教室に向かっていった
「ちょ…ま…っ母さんッ!!;」
坂田が慌てて後を追おうとするのを京助が笑いながら止めた
「若、俺も見てきます」
柴田も教室から出ていった
「俺も!」
「じゃあ俺も!!」
次々に組員が教室を後にする
「待てって!!; コラ!お前らーーーッ!!;」
坂田の叫び声が廊下まで響いた
「三番テーブルあんまんとカレーまんおねがいしまぁすー」
だいぶ客足が飯に向かったとはいえ結構お客が入っている2組の教室
その半分以上がやたら黒い服を着ている
「…可愛い息子より敵に協力すんなよ…」
京助を振りほどいてやってきた坂田が2組の売り上げに貢献している母等を見てがっくり肩を落とした
「いや~っはっは! まっさか南だとはおもってなんだよ!」
坂田母が豪快に笑ってカップのお茶を飲み干した
「あはははははは!! まま! グィっと!!」
そして空になったカップに南が再び茶を注ぐ
「似合ってますよ南君。去年も可愛かったですけど」
柴田が笑いながら言う
「いやーん有難うございますぅ~サービスしちゃおうかしらっ」
そう言いながら身をくねらせて南が笑う
「…駄目だこりゃ…;」
はぁと溜息をついて坂田は2組を後にした
「どうだった?」
ミヨが戻ってきた坂田に聞いた
「すっかり出来上がってましたヨ…こりゃ…かなり痛いぞ; …どうすんだ京助」
坂田が鼻水をティッシュでかんでいる京助に言った
「何で俺に振るよ」
丸めたテイッシュをゴミ箱に突っ込みながら京助が言った
「元はお前が母さんを捲し上げて2組に向かわせたのが原因だ。何とかしろ」
坂田が京助に指を突きつけて言った
「んなこと言ったって…;」
「京助ー!!たっだいまー!!」
トフっと京助の腰に悠助が抱きついた
「お客さんいないねー?」
教室内を見渡して悠助が言った
「いないだろ~? それはな~京助のせいなんだぞ~」
浜本が悠助に言った
「お前な…;」
京助がジトッとした目で浜本を見る
「そうそう。京助が悪いんだよ悠」
阿部が頷くとミヨコも本間も頷いた
「何やらかしたの京助」
母ハルミと制多迦、緊那羅が少し遅れて入ってくると坂田が目を大きくした
「ハっ…ハルミさんっ」
「あら坂田君。京助が何かやらかしたの?」
母ハルミがにっこり笑って坂田に話しかけると坂田の顔が緩む
「え~…いや…その~…」
頭をかきながら照れて俯く坂田を見て京助が
「坂田の彼女が見たいって言った坂田の母さんに坂田の彼女は隣にいますよ~って親切に教えただけだ」
と母ハルミに言った
「なっ!?; 京助ッ!! お前ハルミさんにまでっ!!;」
坂田が京助の肩を掴んでガクガク揺すった
「…うすけ」
ガクガク揺すられている京助の腰にくっついている悠助に制多迦が声をかけた
「…たいて…」
どうやら眠気がきたらしく自分を指差して悠助に言った
「え? あ…うんわかった」
悠助が京助の腰から離れて手を振り上げた
「悠ちゃん!!」
母ハルミが声を上げた
「駄目でしょ!! 人を叩いちゃいけませんっ!! 京助も止めなさいッ!! まったく…」
母ハルミが悠助に近づいて京助を小突いた
「何で俺が怒られるよ;」
「ごめんなさいねタカちゃん」
悠助の手を取って母ハルミが制多迦に謝る
「…や…あの…叩いて欲しいんだけど;」
制多迦が眠そうにそして困ったように母ハルミを見る
「…お前マゾか?」
坂田が京助の肩に両手を置いたまま制多迦に言った
「制多迦は寝ちゃ駄目なんだっちゃ; だから寝せないようにこうやって…」
緊那羅が近づいてきて悠助の代わりに制多迦を叩こうと手を上げると
「緊ちゃんまで!! 何してるのッ!! やめなさいッ!!」
母ハルミに怒鳴られて手を引っ込めた
「むやみに人に手を上げるもんじゃありませんッ!!」
ペシっと緊那羅の手を叩いて母ハルミが怒る
「ご…ごめんなさい;」
緊那羅が謝った
「京助のお母さん怒ると怖いね…」
阿部が京助に言った
「…あぁ;」
京助が説教食らっている悠助と緊那羅を見ながら言うと坂田が京助の肩を叩いた
「なぁ…お前の従兄弟(仮)頭ふらついてるぞ」
そういわれて制多迦に目をやるともはや限界らしく頭が一定のリズムで動いている
まるで制多迦の周りだけブラームスの子守唄が流れているかのようだった
「…寝かせちゃ駄目なんじゃなかったか? お前の従兄弟(仮)」
「…たぶん;」
坂田が言うと京助が頷いた
「…起さなくていいの?」
阿部が言った
「お前はあそこに俺を送り込みたいのか;」
京助が親指で【あそこ】と指した場所ではまだ母ハルミに説教を食らっている緊那羅と悠助がいた
「俺なら喜んでいくね」
坂田が言った
「じゃぁお前いけよ; バシッと思いっきり。何ならハリセン作って」
京助が言うと坂田がチッチッと指を立てて
「行ってもいいが行ったらハルミさんの俺に対する好感度下がっちゃいますから。残・念」
と言った
「あ!!」
ミヨコが声を上げた
「…たい;」
制多迦が頭をさすっている
「…出やがった…;」
京助が目を背けながら呟いた
「ハル! あの人だよ!!ミヨを庇ったの!!」
本間がハルに言った
「え…?」
本間の言葉にハルが顔を上げた
ゆっくり手を頬に添えるとカチャリと手首にはめた輪がぶつかって音を立てた
お決まりの人を見下しているようなポーズ
そしてやっぱり口元には笑み
「…んがら…」
頭をさすりながら制多迦が名前を呼んだ
「だから一緒に行動しろっていったのに」
頬に手を当てたまま矜羯羅が呆れたように笑った
「きょんがらさん!!」
やっぱり上手く名前がいえない悠助が矜羯羅に駆け寄る
「悠助…僕は【こ・ん・が・ら】なんだけど」
にっこり笑って一言一言区切りながら自分の名前を悠助に教える
「こ…んがら…」
悠助が繰り返す
「ハイ、言ってみて」
しゃがんで悠助に言う
「…きょんがら」
「……」
そしてそのまま固まる
「…仕方ねぇよなすっげぇ言いにくい名前してるし」
京助が言った
「…早口言葉になりそうだよな…」
坂田も言った
「絶対早口で言ったらカムって」
浜本も言う
「言いにくいナァ」
三人がハモって言った
「…人の名前にケチつけないでくれる?」
矜羯羅が微笑みながらでもどこかムカッときているっぽく言った
「矜羯羅こんがらがってころがりおちてこんがらがる」
京助がボソッと言う
「おお!! いいじゃんソレ!! こんがらきょ…」
「いや言えてねぇし」
京助の即席で作った早口言葉に挑戦した浜本があえなく撃沈した
「だーかーらー!こんがらこんぎゃ…こ…きゃ?」
坂田も挑戦してこれもまたあえなく敗れる
「…怒るよ?」
矜羯羅が笑顔のまましかしドスの聞いた声で言った
「アイツか…」
ハルがボソッと言う
「え? …そうだよ?」
ミヨコがソレに気づいて返事をした
「格好いいでしょ。…名前言いずらいっぽいけど」
チラッと矜羯羅のほうを見てミヨコが赤くなる
「きょ…こ…矜羯羅さんっていうんだ……言いにくいけど…名前わかって嬉しい」
そんなミヨコを見てハルが俯いた
「ハァーイ!! 皆さんリピーッアフターミ~ィ? 【矜羯羅こんがらがってころがりおちてきょんがらがる】!! OK?」
京助がネィテイブなエセ外国人になってレクチャーし始める
「先生言えてません」
本間が突っ込んだ
「ハァィそこ!! 突っ込まナァ~ィ」
京助が本間を指指して言うとスコーンという小気味いい音が自分の後頭部から聞こえその直後ジンジンと痛み出した
「本気で僕を怒らせたい? 京助」
振り向くと【エェ加減にせんかワレ】オーラをかもし出しながらも矜羯羅が笑顔で指を弾いている
どうやら高速で玉を飛ばしたらしい
「…指パッチン上手いなアイツ…」
浜本が感心して呟いた
そして矜羯羅がもう一回指を弾くと今度は制多迦の額に玉がヒットする
「…りがとさん」
制多迦が額をさすりながら矜羯羅に言う
「…以心伝心してるなお前の従兄弟(仮)達…双子か?」
坂田が後頭部を押さえてしゃがんでいる京助に聞いた
「知るかッ;」
涙目で京助が怒鳴った横をハルが無言で通り過ぎ矜羯羅の前で止まった
「…ハル?」
ミヨコがハルの名前を呼んだ
「…何? 君…」
矜羯羅が頬から手を離し腕を組んでハルを見た
矜羯羅より背の高いハルは矜羯羅を少し見下ろすようにして黙って見る
「…ぶだ」
ハルがボソッと言う
「は?」
矜羯羅が聞き取れなかったらしく聞き返す
「勝負だ!! きょんからだか言うお前ッ!!」
ハルが大声で矜羯羅に宣戦布告をした
「勝負って…ハル!?」
浜本がハルに駆け寄って肩を掴む
「無理だハル!! 名前の言いずらさじゃお前はもう負けている!! 考え直せ!!」
坂田も駆け寄ってハルを宥めてんだかわからないがとにかく言った
「…勝負? 僕と?」
矜羯羅がクスクス笑う
「…ばっか…ハル…ッ;」
京助が【あのヘンテコリンな出来事】で見た矜羯羅の強さを思い出す
「京助!!」
緊那羅が京助に駆け寄ってきた
「あの人止めないと…もし本当に勝負とかになったら私じゃ…矜羯羅は止められないっちゃ」
緊那羅が悔しそうに言った
「わかってる…っけど;」
止めないとヤバイという事は京助でもわかる
しかしハルがミヨコの事となると猪突猛進でもうどうにも止まらない山本リンダになってしまうということもわかっている
「とめるったって…; …制多迦…!! 制多迦なら…」
京助が制多迦を振り返ると制多迦が眠そうな顔のまま胸の前に両手でペケを作っている
「…っつかえねぇ…;」
京助と緊那羅がそろって肩を落とした
「何か穏便に解決…」
京助が辺りをきょろきょろしてハルと矜羯羅の勝負をやめさせれないかとする
「とうちゃ~く…ご苦労様でした組長!!」
その時【たこやき処あしはぽーん】ののぼりをつけたマーシー君 (坂田父)を乗せた台車が校内一周客集めツアーから帰還した
「…!! そうだッ! い~こっと考えたッ!」
坂田父を見て京助が何かを思いついたらしくハルを止めようとしている坂田と浜本の元に走って何やらモソモソ伝えている
「ナァイス!! 京助!! よく思いついたッ!! 一石二鳥じゃん!! 偉い!! 褒めてつかわす!」
坂田が京助の背中を笑いながらバシバシ叩く
「な? な? いいだろ~? いや~俺って天才?」
京助が浜本と坂田そしてハルに指を差しながら自分の考えのすばらしさを主張する
「ハイハイハイハイ!! 注目!!」
坂田が手を叩きながら言った
「レディ~ス!! ア~ンドジェントルメ~ン?」
坂田が両手を広げてエセ司会を開始する
「うっわ微妙に疑問形な呼びかけだし」
それに対して阿部が突っ込む
「これより! 我がたこやき処あしはぽーん主催!! 高橋ミヨコ争奪!! タコヤキ大食い大会を開催イタシマ~ス!!」
坂田が大声で言うと廊下を歩いていた生徒や客が覗き込み始めた
「それでは~!! 選手の紹介!! まずは~…あぁかコォオナァ!! ミヨの事となると猪突猛進山本リンダ!!! 風林火山もカニ歩き!! 身長184センチ! 結構モテてるけどミヨ以外は眼中になし!! 池田ハルヒコーーー!!」
坂田がよくわからない言葉を並べてハルを紹介する
「続いてあぁおコォオナァ!! キダムからの使者か!! はたまた中国雑技団か劇団四季の役者か何かか!! 俺には負けるが結構美形!! 名前のいいずらさは天下一品! 栄野京助の従兄弟(仮)!! きょ…こ……とにかくコイツーーー!!!」
名前を言うところでかんでしまった坂田が矜羯羅を指差して紹介する
そんな坂田の大声の紹介に教室前の廊下にはギャラリーが集まりだしていた
「…一体何?」
坂田に指を指されたまま矜羯羅が言った
「いいか? よぉく聞けよ?」
京助が矜羯羅に近づいて小声で話し出した
「…ハルはお前と違って普通のヤツなんだ」
「わかってるよそんなこと…だから何?」
矜羯羅が溜息混じりに聞き返す
「そんな普通のヤツとお前が戦ってどっちが勝つかなんて俺でもわかる」
京助が矜羯羅に指を突きつけて言った
「そこでだ。ココは一つ力と力の戦いではなく他のことで戦ってみたらどうだ?」
「他?」
矜羯羅が京助の手を掴んで突きつけられていた指を下ろさせる
「そ!! 他」
にーっと京助が笑う
「…別にいいよ…?」
矜羯羅がにっこりと笑ってハルを見た
「どんな勝負でも勝つのは僕だから」
そう言って掴んでいた京助の手を離した
京助が坂田と浜本に向かって親指を立て【やったぜ!丸め込み成功!!】と合図すると坂田と浜本も親指を立てて返した
「ルールは簡単!! どっちが多くのタコヤキを腹ン中に収められるかで勝敗が決まるだけ!! 負けたヤツは勝ったヤツの分までお会計御願い致します!! 審判は俺! タコヤキ神坂田深弦が担当させていただきます!」
そう言って坂田がお辞儀するといつの間にか教室の中まで入ってきていた客から歓声が沸き起こった
「頑張れ~!! 池田ンとこの一番下!!」
「ハルちゃん! 頑張るんだよ!!」
さすが地元とあってハルに対する声援が多い
「ヘンな格好の人~!! 頑張って~!!」
「こっちむいて~!!」
ソレに対して矜羯羅に声援を飛ばすのは比較的若い女性とお子様だった
携帯でバシバシ写真も撮られている
「…うるさいなぁ…」
矜羯羅が溜息をついて言った
「おい…お前」
ハルが矜羯羅を呼んだ
「ミヨは渡さないからな」
「…よくわからないけど僕は負けないよ」
ハルのミヨは渡さない宣言に矜羯羅が不敵な笑みで返した
ガタガタと机を移動させて決戦の場を作ると矜羯羅とハルが席に着いた
「ねぇねぇ何やるの?」
悠助が京助の半被を引っ張って聞いた
「俺らの栄光の焼肉ロードへの足掛け」
京助が顎に手を添えてフッと笑った
「…んがら負けず嫌いだから…」
頭をふらふらさせながら制多迦が呟いた
「…寝るなよお前;」
京助が叩こうとして手を上げるとふと母ハルミが目に入り手を下ろす
「…つに頭叩かなくても他のところでいいんだけど…叩いてくれない?」
制多迦のその言葉に悠助と京助は顔を見合わせて同時に制多迦の尻を叩いた
「…りでいいんだけど;」
二人に片方ずつ尻を叩かれた制多迦が尻をさすりながら言った
「なんの騒ぎだい?」
隣でお茶していた坂田組の面々が騒ぎを聞きつけて戻ってきた
ふと柴田が京助のほうを見るとペコリと頭を下げた
「…柴田さん?」
京助は柴田の行動に疑問を持ちつつも次の瞬間には忘れていた
隣からただならぬ気配を感じて目をやると緊那羅が柴田をじっと睨んでいる
「お前…まだ柴田さん嫌いなのか;」
京助の問いかけに緊那羅は力強く頷いた
「大っ嫌いだちゃッ!!!」
ハルと矜羯羅の前に焼きたてのタコヤキがのっそりと積みあがった皿が置かれた
「…何コレ…匂い的にすっぱいんだけど」
矜羯羅が山盛りてんこ盛りのタコヤキを突付いた
「しかも熱そうだし…何の勝負なわけ?」
ソースのついた指をペロっと舐めながら坂田に聞いた
「…人の話聞けよアメリカンクラッカー頭め…振って鳴らすぞ」
坂田が言う
「鳴らせるものなら?」
そんな坂田に矜羯羅がにっこりと笑顔で言った
「…ムッカ~……まぁ簡単に言うとコレ!! コレをたくさん食ったほうが勝ちなわけだ」
坂田が【コレ】とタコヤキを指差して説明する
「…ふぅん…」
矜羯羅が目を細めてタコヤキを見た
「二人の男が決闘するようないい女なのかねぇ…このガチャ」
阿部がミヨコを見る
「…ハル…馬鹿…」
ミヨコが大きな目を半分閉じて呟いた
「…本当は好きなんでしょ。ハル」
阿部が小さな声で耳打ちするとミヨコが飛びのいた
「な…;」
「ばればれだよ。何年アンタと友達やってるとおもってんの? いい加減のトコで素直にならないと」
阿部がミヨコの鼻を摘んで言った
「みんななくすことになるよ?」
阿部がそう言って手を離したとき金属製のボウルを叩いた乾いた音が教室に鳴り響いた
沸き起こる歓声の中ハルがタコヤキをものすごい速さで口に運んでいく
「…お前食わないのか?」
京助が机に肘をついている矜羯羅に言った
「…まずそうだし?」
矜羯羅がにっこり笑ってタコヤキを指差した
「俺が焼いたタコヤキにケチつけるたぁいい度胸だ!! 口あけろ口ッ!!」
京助がタコヤキを爪楊枝に指して矜羯羅に突きつける
「い・や・だ・よ」
その手を掴んで矜羯羅が言うと後ろから坂田と浜本が押さえつけた
「…食え」
押さえられていない方の手で直手掴みで矜羯羅の顔にタコヤキを押し付ける
周りから沸き起こる【食え食え】コール
「…助けないんだっちゃ?」
緊那羅が制多迦に聞くと制多迦が苦笑いを返してきた
「きょんがらさんタコヤキ嫌いなの?」
悠助が制多迦を見上げて聞いた
「…んない; 僕も初めてみる食べ物だし」
制多迦がタコヤキを押し付けられている矜羯羅に目を向けた
「いいか…ムグ!?」
矜羯羅がいい加減にしろと口を開き言いかけて【か】のところで京助がタコヤキを押し込む
そして
「ヨッシャー!!!」
っと声を上げると拍手が起こった
矜羯羅はというと机に手をついて口を押さえたまま動かない
隣ではハルがタコヤキを周り気にせずかっ食らっている
「きょんがらさん負けちゃうよ?」
悠助が緊那羅と制多迦を見ていった
「…怒ったんじゃないんだっちゃ?;」
動かない矜羯羅を見て緊那羅が制多迦に聞いた
「…かんない;」
制多迦が首をかしげた
ゆっくりと口から手を離して矜羯羅が顔を上げた
口の端に微妙にソースが着いていたらしくそれを手で拭うとタコヤキに刺してあった爪楊枝を掴んだ
「これで食べればいいんだね?」
矜羯羅がにっこりと笑った
矜羯羅を見たまま周りの観客そして京助達も止まってしまった
「…すごぉい…」
悠助が目をきらきらさせて矜羯羅を見ている
「…これで終わり?」
クィっと手の甲で口を拭うと矜羯羅が微笑んだ
「お前…爪楊枝持った意味ねぇじゃん…;」
京助が矜羯羅の持っている爪楊枝を指差して言うと観客がどよめきだした
「あの山盛りてんこ盛りのタコヤキを一気にかきこみやがった…;」
「…どこに入ったのかしら…;」
「すげぇ…」
「やっぱり雑技団の人なのかしらねぇ…格好もアレだし」
客がざわざわと話し出す
「お…おかわり追加ッ!!」
坂田が屋台の中でタコヤキを焼いている本間と浜本に向かって叫んだ
「ッ…俺もッ!!」
最後の3個のタコヤキを口に突っ込んでハルも手を上げると客から拍手が起こった
「…不味そうで食うの嫌だったんじゃないのか?」
矜羯羅の前に再び山盛りてんこ盛りのタコヤキを置きながら京助が言った
「いいじゃない? 別に…それに僕は不味そうって言ったんであって不味いとは言ってないからね」
「…ようは気に入ったわけか」
ヘッと口の端で京助が笑った
「きょんがらさん頑張れー!!」
悠助がピョンピョン跳ねて矜羯羅を応援すると制多迦がひょいと悠助を肩車した
そんな悠助に矜羯羅が笑顔で手を振る
「…面白いね…」
矜羯羅が呟いた
「は? 何が」
京助が聞き返す
「…悠助も京助も」
矜羯羅が京助に向かって微笑みながら返す
「僕が君を殺そうとしたこと…いくら馬鹿だからって忘れちゃいないでしょ?」
「…そりゃぁなスッゲェ痛かったし?」
京助が自分の肩をさすりながら言った
「それなのに自分から僕に近づいてくるんだから…面白いよ京助は…。そして悠助も…制多迦があんなに懐いてる」
矜羯羅が目を細めて制多迦を見ると京助も同じく制多迦を見た
「俺には悠が懐いてるように見えるけどな…どっちにしろいいんじゃねぇ? 仲がいいんだからさ」
制多迦に肩車をされてはしゃぐ悠助を見て京助は目を細めて微笑む
「俺ン家父親いねぇから…悠は父親の顔もしらないし父親がどんなものなのかもわからないだろ? …俺も顔覚えてねぇんだけどさ; …だからなのかな悠には笑っていて欲しいんだわ俺。笑ってる悠を見てると俺も嬉しいし」
「…やぱり面白いよ京助は…僕にそんな話しちゃうんだから…」
矜羯羅がフフッと笑う
「なっ;いいだろ別に!; …早く食えよ負けるぞ」
京助が矜羯羅に食って掛かった
「…でも…わかる気がするよその気持ち…僕にも…」
矜羯羅が呟いてタコヤキに爪楊枝を刺した
「こんな僕にも大切なものがあるからね…でさ話し変わるんだけど」
いきなり話題転換宣言をして矜羯羅が京助を見た
「この勝負なんの為にしてるわけ?」
矜羯羅のその言葉に京助が勢いよく肩を落とした
「…あのな;」
机に手をついて起き上がった京助が隣でタコヤキを一心不乱に口に運んでいるハルを指差した
「…コイツの」
そして次に屋台の横で二人の勝負を見ているミヨコを指差す
「…コイツにとってそこにいるのが大切なものなんだ。コレはソレをかけた戦いなわけよ。OK?」
「ふぅん…」
矜羯羅がハルとミヨコを交互に見て溜息をついた
「僕の大切なものがなくなるわけじゃないからどうでもいいんだけど…勝負に負けるってのは嫌だからね」
爪楊枝に刺してあったタコヤキを口に入れて矜羯羅が言った
「…本気でいくから」
そういうと山盛りてんこ盛りのタコヤキが乗った皿を口元に運んだ
そしてまたも沸き起こる歓声
一瞬で消えたタコヤキの山
そして口の端を手の甲で拭って矜羯羅がハルを見て微笑んだ
「別に君の大切なもの欲しいわけじゃないんだけど…勝負だからね…僕が勝たせてもらうよ?」
そんな矜羯羅を見てハルがタコヤキを一気に口に押し込んだ
「だから…爪楊枝いらねぇじゃん;」
京助が矜羯羅の爪楊枝を指差して言った
【保健室】
廊下に突き出してある微妙に緑かかった黒い板にはそう書いてあった
「馬鹿騒ぎするからよ。反省なさい!」
胸に【保健・山本】というネームバッチをつけた中年の女教師が水の入ったコップをハルに差し出した
「すんません;」
白いベッドの上でハルはそのコップを受け取ると手の中にあった錠剤と一緒に水を飲んだ
「文化祭で気分が盛り上がるのはわかるけど…体壊したら元もこのないでしょう? 一体何個その腹にタコヤキが詰まってるんだか…」
山本先生が溜息をつきキュルっと音をさせて椅子に座りペンを走らせる
「単なる食べすぎ」
そう言ってペンを置きハルに【来室者症状票】と印刷された用紙を差し出した
「ご迷惑かけました」
「本当だよ」
ハルが戸口で言うと山本先生が笑いながら言った
「ひっでぇ優子ちゃん;」
「山本先生だろ!! …まったく」
名前で呼ばれて山本先生が声を上げたがハルはそのまま戸を閉めた
「よー」
ふと声をかけられて顔を上げると坂田と京助…屋台チームの面子がチャッと手を上げた
「大丈夫か?」
京助がハルに近づき腹をさするとハルは腰を引いて苦笑いを浮かべた
「格好悪りぃから慰めんなよ?」
ハルが引きつり笑いのまま言うとミヨコが京助を押しのけてハルの前に立った
「ばっかじゃない!?」
大きな目を吊り上げてミヨコが怒鳴った
「廊下では静かに!!」
保健室の戸が開いて山本先生が怒った
「す…すいやせ~ん;」
浜本が顔の前に手を立てて謝るとそそくさとその場を離れて教室に戻った
「…静粛に穏便に和やかに」
坂田がミヨコを宥める
「…アイツは?」
ハルが誰もいなくなってあとは屋台の解体だけとなった馬鹿騒ぎの後の教室をぐるッと見渡してまた正面を見ると左頬に平手打ちを食らった
「だから穏やかにってゆーたろが!! ミヨッ!!;」
坂田がミヨコの腕を掴んで本間がハルとミヨコの間に割って入りミヨコを止める
「矜羯羅ならいねぇよお前がぶっ倒れたあとで悠達と先帰った」
京助が言うとハルが左頬を押させえながら俯いた
「負けたんだ俺…」
「まだ言う!?」
ハルがボソッと呟くとミヨコがまた手を振り上げた
「ノーノー!!; 暴力反対!暴力反対!!;」
ソレを浜本と坂田そして本間が止める
「アンタなに考えてるの!? なんであんなことしたの!?」
「おーちーつーけーって;」
怒鳴り散らすミヨコに京助が言った
「元はアンタが素直にならないから悪いんじゃない」
さっきまで黙っていた阿部が言うとミヨコが振り上げていた手を下ろした
阿部がハルに近づきハルの腕を引っ張ってミヨコの前に押し出した
「とっくの昔にカップル成立してたはずなのにこのガチャが変なところで乙女するもんだからこんなことになったんでしょ」
ミヨコ以外には阿部がなにを言っているのかわからなくて顔を見合わせる
「不安だったんだもん」
ミヨコが俯いた
「だって!! だって不安だったんだもん!! ハルがあんまり好きって言ってくれるから…ミヨは…」
言葉に詰まったミヨコの頭を阿部が撫でる
「…え~…ハイ?;」
坂田が手を上げた
「…つまりは両思いだったってこと」
阿部がさらっというと一同が固まる
「このコは天邪鬼だから。ハルがすこたま好き好き言ってくるのが本当なのかわからなくなってたわけ。それを隠すため変な意地はっちゃってたんだよね?」
阿部がフォローするとミヨコが鼻を啜って頷いた
「…ねるとん…」
「古ッ;」
浜本がぼそっと呟くと京助が突っ込んだ
「でもミヨはき……名前のいいづらいアイツを…」
ハルが小さく言うと阿部がハルを見た
「憧れと好きとは別モンでしょが阿呆」
その言葉にミヨコが頷く
「言えるね?」
阿部がミヨコの耳元で囁くとミヨコが目をこすって顔を上げた
「いや~ぁ…青春でしたな!!」
坂田が伸びをしてしみじみと言った
「焼肉は逃したけどな」
その横で愛車【にぼし】を押しながら南が言うと
「お前らだって」
京助が突っ込んだ
「屋台部門の優勝がまさか取り消し食らうとはな~;…まぁ売り上げの半分以上があれの分だったし…仕方ないけどさ」
はぁと溜息をついて京助が言うと坂田が頷いた
【あれ】とはタコヤキ大食い勝負のことであまりにも馬鹿騒ぎをしたために売り上げ的には優勝だったにもかかわらず2年3組の屋台部門は失格となってしまった
「いい線いってたんだけどなぁ…坂田組のおかげで」
中島が坂田の肩を叩いた
2組の飲茶喫茶は売り上げ第三位だったらしい
「露出が足りなかったんかなぁ…」
南が遠い目をして言うと
「いやたぶんソレは関係ない」
三人がハモって言った
「…お!! ユキムシ!!」
京助がふわふわと飛び回る綿毛に包まれたような小さな虫を見つけた
「冬ですナァ…」
坂田がユキムシを目で追いかけて言うと京助が勢いよくくしゃみをした
「っだ! 汚ったねッ!!;」
三人が京助から離れる
「今のでユキムシどっかいっちゃいましたがな;」
中島がユキムシを探してキョロキョロする
「また出てくるって; あとはもう冬待つだけだし」
ズビーッと鼻を啜りながら京助が言う
「…その前に中間テストですよー…」
南のその一言で固まった三人に冷たくなった夕暮れの風が吹き付けた