【第一回】始まりはエビフライ
北海道日本海沿岸のちょっとさびれかけた町
ごくごく普通の男子中学生 栄野京助は空腹と戦っていた
いつもならとっくに早弁をしているのだが今日は弁当を忘れている
きっと たぶん 誰かが届けてくれるだろうという期待を胸に時間が過ぎるのを待つ
午前の授業が終わり全力で玄関へと向かった京助を待っていたのは弁当ではなく…
三時間目が始まった頃だろうか…正月中学2年3組の教室内にはちらほらと『ハラヘッタゾ』という腹の鳴き声が聞こえ始めていた
弁当時間まであと一時間
それまで我慢する者、早々に弁当や食い物を取り出しコソコソ(または堂々と)食す者が男子生徒を中心にに見え始めた
そんな中彼【栄野京助】も泣き喚く腹と格闘の真っ最中だった
いつもならとっくに早弁をしている時間だった
「…ちっくしょ~…腹減って勉強に集中できねぇ…」
「普段でも集中して無いだろうが」
机に突っ伏してうだうだ空腹だと文句を垂れる京助の隣で幼稚園からの腐れ縁【坂田深弦】が眼鏡を拭きながら淡々と突っ込みを入れてきた
「折角ハルミさんがお前の様な馬鹿息子の為に丹精込めて作ってくれた弁当を忘れるからだ。 ざまあみろ」
『んべ』と舌を出し京助を小馬鹿にすると眼鏡をかけなおした
「しかたねぇだろが…寝坊しちまったんだから…はぁ~あぁ…」
遡る事二時間前
「こまったわねぇ…」
【栄之神社】古びた石段の柱にはそう記されている
「京助…お弁当忘れて行っちゃって…私は神社を離れるわけにはいかないし…」
京助の母【栄野ハルミ】はかれこれ数十分ほど青い弁当の包みを溜息混じりに見つめていた
そこへパタパタと足音が近づいてきてハルミの後ろで止まった
「僕が届ける~」
どんぐり眼をキラキラさせながらハルミを見上げていたのは京助の弟【悠助】だった
「あら悠ちゃん…そっか今日は小学校開校記念日とかで休みだったのよね…たしか」
そうぽつりと呟き改めて悠助を見下ろす
今年小学校に入学したばかりの悠助は最近積極的に人の手伝いをしたがっていた
「大丈夫だよ~僕もう一年生だもん!それにコマとイヌもついてきてくれるっていってるもん!だから~!!」
そう主張する悠助の横には白い二匹の犬(?)ともとって見えなくも無い犬がふさふさしたなんともさわり心地のよさそうな尻尾を左右に振っていた
「…じゃぁ…お願いしようかしら」
ふふっと微笑んで青い弁当包みを悠助に手渡した
「まっかせてよハルミママ! コマ、イヌ行こう!!」
嬉しそうに玄関に向かって走り出した悠助の後ろをコマとイヌが追いかける
「いってらっしゃい」
多分聞こえていないと思いながらハルミは手を振って見送った
「…あんなに振り回して…中身きっとぐちゃぐちゃね」
三時間目終了のチャイムが鳴り終わると京助は玄関まで猛ダッシュした
腹の限界が近いらしく目が血走っている
「よう! 京助便所か~?」
途中隣のクラスの【中島柚汰】と【南朔夜】とすれ違ったが多分、いや絶対気づいていないだろう
「空腹は盲目ってか」
京助の後を追ってきた坂田がひょうひょうと言い放つ
意味の分からない中島と南は京助の走り去った廊下をぽかんと眺めていた
玄関についた京助は自分の下駄箱を上下左右隈なく見た
しかしあるのはちょっと臭う自分のスニーカーのみで愛しの青い弁当箱は何処にも見当たらなかった
「っつだ~…まだ届いてねぇし~; …俺を餓死させる気か…」
ヘロヘロとスノコの上に座り込んでそのままパタリと倒れこむ
同時に腹の叫び声が空しく玄関に木霊した
「おかずはきっと昨日の残りのエビフライだろーなー…それと多分ミニトマトー…玉子焼きー…」
一段と大きくなってきた腹の叫びはもうどうにもならない
人間とは追い詰められると並み半端じゃない能力を発揮するものだとよく言うものだ
京助は普段なら聞こえるはずの無い微かな足音をその耳に入れていた
「俺のエサーーー!!」
がばっと起き上がると足音のしたとおもわれる方向に向かってダッシュしていった
「誰だお前…」
『お前こそ誰だよ』と返ってくるだろうと思い京助は名乗るスタンバイをしていた
そこにいたのは愛しの弁当箱…じゃない悠助ではなく何とも不可思議な格好をした一人の少年(?)だった
間をおいても『お前こそ誰だよ』がこなかったので京助はとりあえず悠助のことを聞いてみることにした
「なぁ、青い弁当箱持ってるやつ見なかったか?」
「…栄野…京助」
「はぃ?」
いきなり唐突に名前を呼ばれて上ずった返事をしてしまった
少年はふっと微笑むとゆっくり近づいてきた
「えと…どっかであったっけ? 演劇部のヤツか?」
懸命に思い出そうとしていると少年が更に近づいてきた
「栄野京助」
「な…」
ついには今にもキッス(昔表現)ができそうなくらいまで顔を近づけてきた
「きゃー!!健全なる青少年育成の場でなんということでしょう!!」
京助の後を(面白そうだから)追ってきた南が声を上げた
「お前…いくら綺麗でも可愛くても男に手ェだすなよ…」
「ハルミさん…かなしむだろうなぁ…息子がホモだなんて…」
中島、坂田も後に続き口を挟む
「ちが…;これはっ;!!」
少年の肩を掴み引き離す
「栄野京助」
少年が京助の手を振り払い再び名前を呼ぶ
「何なんだよお前ッ!! 俺に何の用なんだっての!!」
坂田達のいる位置まで下がると京助は食って掛かるように少年に問いかけた
少年はまたふっと笑った
「お前…明らかに小馬鹿にされているな」
「るっさいッ!!;」
坂田が同情の目で見つつ京助の肩に手を乗せた
「なぁ京助…お前演劇部か劇団四季に知合いいたのか?」
南の問いかけに京助は首を大きく横に振った
「じゃあ中国雑技団かキダムには?」
「はぁ? いるわけねー…」
中島のふざけている問いかけに『いるわけねーじゃん!』と返そうとして何気に少年の方を見ると少年は玄関前に建っている旗棒(高さ30m位)のてっぺんに立っていた
「ありえねー…」
4人は口をそろえてハモった
「我は緊那羅!! 栄野京助! 上の命によりお前が護るべき者か滅する者かこの緊那羅が判断するっちゃ!!」
「…ちゃ?」
おそらく、いや絶対4人は同じことが脳裏に浮かんだであろう
「ちゃ、だってさ」
「好きよ好きよ好きよ うっふん だな」
「だーりーん だな」
「トラビキニだな」
(多分)危機に立たされているのだろうが今はあんまりソワソワしないでvVというかソワソワどころかむしろ笑いたくてムズムズしている4人であった
玄関先から4人の笑いのトルネードが発生したのはそれから間もなくの事だった
「何がおかしいっちゃッ!!;」
笑いまくる4人にキレた緊那羅
笑い声にまぎれて聞こえてくる腹の虫の声
そして更にその中から聞こえた…
「きょぉすけ~」
という声と明らかに何かを振り回して落とした音
そのどちらかに各々が反応して振り返る
目に入ったのはうつ伏せに倒れている悠助と二匹の犬、そして待ちに待った愛しの弁当箱だった
「…悠?;」
なかなか起き上がらない悠助に比較的遠くから京助が声をかける
するとどんぐり眼に涙を溜めて泣くのを懸命に我慢しながら悠助が顔を上げた
「ほ~ら悠! 泣かない泣かない~もう一年生なんだろー? 痛くないぞー痛くない痛くない」
「そうそう! えらいぞー! 泣かなかったらもっとえらいぞー!!」
「一年生だもんなー一人で立てるもんなー?」
南、中島、坂田の三人があやすと悠助は鼻水を啜って立ち上がった
「いたくないもん…僕泣かないもん…いたくないもん」
ぐしぐししながら弁当箱を拾うと京助の方に向かって歩き出した
そして京助に辿りつくと足にしがみついた
「よ~しよく我慢した! えらいぞ悠!」
三人から拍手が巻き起こる
「そこ!! 無視するなっちゃッ!!」
すっかり忘れ去られていた緊那羅がついに突っ込んだ
「あぁ! ラムちゃん!! いたことすっかり忘れていた」
「ラムってだれだっちゃッ!!」
悠助の頭を撫でながら『スマンスマン』と謝るしぐさをした
「お前ら…私を馬鹿にしてるっちゃね」
「え? そんな格好してお前が馬鹿じゃなかったんか?」
南が突っ込んだその時だった
緊那羅が両足につけていた棒のようなものを両手に持つとくるくると回し
「…そこの4人…覚悟するっちゃーー!!」
高さ30mの旗棒の上から京助達めがけて飛び降りてきた
「でぇぇぇー!!!?;」
間一髪攻撃をよけた(っぽい)京助達は逃げるが勝ちというように一目散に走りだした
「逃がすかぁっ!!」
緊那羅は体勢を立て直すと後を追った
4時間目開始のチャイムが鳴り響く中階段を駆け上り教室を走りぬけ生徒を薙倒し先生のヅラを飛ばしながら4人は逃げていた(悠助は京助に抱きかかえられている)
その後を緊那羅が二本の棒の様な物で更に被害を広めながら追いかけていく
「京助~僕一人でも走れるよ~? 足とかもう痛くないもん一年生だもん体育のとき先生に早いねって褒められたし」
「今はだぁっとれーッ!!;」
降りて自分も一緒に走ると言い出した悠助に怒鳴ると悠助は『ぷー』と膨れてそっぽを向いた
「待つっちゃー!!」
周りのもの(人間含)を破壊しながら緊那羅は尚もしつこく追いかけてくる
「やはり馬鹿 逃げてる相手に 待てという」
「お、上手いこと作ったな」
坂田が一句詠むと中島が『ナイス!』と親指を立てた
「いや~…照れますな」
そして照れるしぐさをする坂田
「しっかししつこいなぁ…」
むくれたままの悠助を抱きかかえて走る京助が息を切らせながら呟いた
「このまま校外にバックレてもいいんだけどさぁそうなると地域住民の方々にご迷惑がかかるしなぁ…」
「校内の皆様にはいいんかい(片手突っ込み)」
地域住民の安全優先を主張する中島に南が突っ込む
「つうかさ~…この先って確か…」
坂田が何かを思い出して爽やかに笑いながら3人を見ると3人も頷いて笑った
角を曲がって階段を上るとそこは…
「屋上ダァ~…;」
屋上=てっぺん=行き止まり=逃げ道ナシ
青い空と風が気持ちよく正月町内がよく見える
「逃げ道ナシだっちゃね」
4人が振り向くと緊那羅が微笑みながら屋上に入ってきた
「…覚悟、するっちゃ」
二本の棒のようなものを構えた
4人はフェンスを背中に感じながら緊那羅と距離を置く
「ねぇねぇ京助~」
さっきまでむくれて静かだった悠助が口を開いた
「…なんだよ」
京助は緊那羅から目を逸らさず返事だけした
「トイレ」
辺りの空気が一瞬にして緩んだ
「トイレ~!!」
「だーッ!; もう我慢しろんなもんッ!!;」
「ヤダー! できないー!!『しぜんげんしょう』だもん!! トイレー!!」
「だったらその辺でしろッ!!;」
「ヤダー!! トイレー!! トイレいくー!!!」
しょうもない兄弟喧嘩のゴングが鳴った
「どうして来る前に家でしてこなかったんだよ馬鹿ッ!!」
「馬鹿じゃないもん!! 京助がお弁当忘れるから京助の方が馬鹿だもん!!」
「お、悠それは正論だな」
「やかましい坂田ッ!!;」
ぎゃーぎゃー喧嘩する栄野兄弟に坂田がハッハと笑いながら口を挟む
「京助馬鹿説に賛同のものー挙手!」
南の声に中島、坂田、悠助、そしてコマとイヌまでもが手を挙げた
「おのれらはーッ!!;」
ゴスッ
ほぼ同時だった
京助が声を張り上げたそのとき悠助の持っていた弁当箱が空中分解し中身が舞った
カランカランと空しい音を立てて空の弁当箱が屋上の床に落ちた
「人を無視するなっちゃ」
弁当箱の後に続いて中身が床に落ちてゆく
ミニトマト、白米、玉子焼き…
「俺のエビフライーーーーッ!!!;」
京助の叫び声が青く晴れた空に響いた
屋上の床に無残にも落ちたエビフライ(とその他)
散々腹の叫び声と格闘して待っていたエビフライ(とその他)
変な服装のラムちゃんに追いかけられながら守っていたエビフライ(とその他)…
「俺のエビフライーーーー!!!!!!!!!」
「京助!! 3秒ルールだ!! 3秒ルールッ!!」
「駄目だ!! 無理だ南! もう3秒以上経ってる!! ルールは無効だ!」
【解説しよう。3秒ルールとは床に食べ物が落ちても3秒以内なら拾って口にすることが出来るという素敵的ルールであり、きちんとした同盟もあるのである】
半狂乱でエビフライと叫ぶ京助を南と中島が落ち着かせようとする
「弁当と自分の命と…どっちが大事だっちゃ…」
これから殺される(かもしれない)状況にあるのになおも床に落ちた(元)弁当に対して喚く京助を緊那羅は呆れたように見ていた
「とにかく…栄野京助、及びその取り巻き…覚悟するっちゃ」
二本の棒を回し緊那羅が近づいて…
「何さらしとんじゃきさーーーーんッ!!!」
…来たかと思ったら何処からかとんできた未確認亜光速飛行物体が緊那羅を直撃し、緊那羅は白目で倒れた
倒れた緊那羅の頭の上には目を回しているコマがいた
「ハルミさんが折角馬鹿息子の為に朝早くから作った弁当様を…ッ」
コマは屋上の入り口に立っていた坂田がぶん投げたらしい
片手にはコマを外した時用に予備が捕まっていた
「あ~食べ物粗末にしちゃあ駄目なんだぞー」
坂田の後ろから現れた悠助が白目むいて倒れている緊那羅に向かって怒っている
「人が悠を便所に連れて行ってる間になにしくさってんじゃワレ…アァン?」
ぐりぐりと気を失っている緊那羅を足蹴にする坂田を見て
「なんというか…やっぱり組長の血筋だよな」
「つうかハルミさん絡むと本当性格変わるよな」
「ウチの母さんのどこがいいんだか…;」
緊那羅が目を覚ましたのは放課後だった
「…こんなことしてただで済むと思うなっちゃ」
屋上の避雷針にくくりつけられた緊那羅は京助達をにらんだ
その顔には『ダーリン命』とか『キダム参上』などという落書きが油性ペンで書かれていた
「さぁてと…お前には聞きたいことがわんさかあるんだよな」
緊那羅と目の高さをあわせるために京助がしゃがむとその上に悠助が乗っかってきた
「ねぇねぇ! 緊ちゃんはどっからきたのー?」
緊張感のカケラもない悠助が質問をした
「…ラムちゃんからキンちゃんに呼び方変更ー」
「ダーリン からなんでこうなるの!! に変更ー」
南と中島が更に緊張感を崩す発言を連発した
「ソコとソコとココッ!! 少しだぁっとれッ!!」
中島、南、悠助と順に指を刺しながら京助が怒鳴る
「ねぇ、どこからきたのー?」
「…天」
悠助の質問に緊那羅がボソっと答えた
「ふぅん~何しに来たの?」
「…栄野兄弟を護るべき者か滅する者か…確かめるためだっちゃ」
悠助の気の抜けた尋問に小声ながらも緊那羅は答えていった
「あのさ、お前…緊那羅が嘘ついてる様には見えないんだけどさぁ…天からきて俺と悠を護るか殺すか確かめるとか…なんなんだ?」
緊張感がすっかり無くなった中京助が緊那羅に聞く
「それは…私も詳しくはわからない…ただ上の命に従ってきただけだっちゃ」
緊那羅は俯き答えた
「なら上に聞けばいいじゃん? 連絡手段とかあるんだろ?」
坂田が眼鏡を拭きながら言った
「あった…にはあったんだっちゃけど…」
「ど?」
「さっきこのイヌがぶつかってきた時壊れたっちゃ」
辺りがモノクロの空気に変わった
ホラ、と耳を見せられて4人はソコについていたのだろう【連絡手段】の残骸を見た
ピアスになっていたらしいがぶら下がっていたと思われる部分がなくなっていた
「なら一旦帰ればいいじゃん? そして…」
「こっちからは帰れないんだっちゃ…こっちからじゃ扉が開けられないから…確認が終ったら連絡して開けて貰う手筈になっていたんだっちゃ」
「なんてこったい…;」
京助が溜息をついてガックリと肩を落とす
「…じゃあ緊ちゃん帰れないの?」
悠助が京助から降りて緊那羅の顔を覗き込む
「しばらく…しばらくしたら…音信不通になったということでまた誰か来ると思うっちゃ…」
緊那羅は空を見上げた
つられたのかどうなのか京助達も空を見た
ゆっくりと流れていく雲と青い空
「つか…天からきたとか言ってるけどさぁ…天って空にあるのか?」
中島が何気に呟いた
「空…といえば空だっちゃ…でも空じゃないといえば空じゃない…天は天なんだっちゃ」
「…ようわからんトコから来たからようわからん格好してるんだなお前」
南が緊那羅の格好を改めてまじまじと見ていたその時
『ピンポンパンポーン…♪2年2組中島君、南君及び2年3組栄野君、坂田君…前田先生が至急生徒相談室まで来る様にとのことです…繰り返します…』
前田先生というのは緊那羅との追いかけっこの時ヅラと吹っ飛ばした先生のことでしつこいことで有名な中年教師であった
「…バックレるか?」
中島が3人を見渡した
「今日逃げても明日、明日も逃げると明後日…」
南が両手を挙げて【お手上げサ】というように首を振った
「んっじゃま…叱られにいきますか…」
坂田があーぁといいながら屋上の出口に向かった
「しゃぁねぇなぁ…おい悠、母さんに遅くなるからって言っておいてくれ」
京助も後に続いて屋上から去った
風が吹いて緊那羅の髪飾りを弄んだ
「緊ちゃんっていい人なんだ」
「へ?」
悠助が緊那羅に顔を近づけてニコニコ笑う
「私は…」
「だってコマとイヌが懐いてるもん」
言われてふと膝を見ると二匹は気持ちよさそうに緊那羅の膝で丸くなっていた
「学校壊したり京助達いじめたりお弁当粗末にしたことは悪いことだけど…謝ったらきっと絶対みんな許してくれるよ。僕も前に玉ネギ残して隠れて捨てた時謝ったらハルミママ許してくれたもん、だから謝ったら大丈夫だよ」
しばらくきょとんとして悠助の話を聞いていた緊那羅は目を細めると
「…そう…だっちゃね…」
ふっと笑った
午後八時
「つっだ~…疲れた…めっちゃくそ疲れた…前ドゥーの野郎3時間説教の後に後片付け…腹減った~…」
京助は帰宅するなり玄関に座り込んだ
「おかえり~!」
バタバタという足音とワンワンという鳴き声とともに悠助とコマとイヌがのしかかってきた
「悠…重いからドケロ;」
コマとイヌを払い落とし悠助を降ろす
「腹減ってんだよ…;朝昼食ってねぇし、いらねぇ体力使うしで…」
ブツブツ言いながら廊下を歩き茶の間の障子を開ける
「おかえりだっちゃ」
「あ~ただいまだっちゃ…ッ!!!!?;」
違和感なく返事してしまった後 緊那羅の姿を見て目を丸くした
「き…!?ってか悠!!? キンナラムちゃん!?;」
パニくってよくわからない言葉を連発しながら悠助と緊那羅を交互に見る
「緊ちゃんね、いいたい事があるんだって」
悠助が京助にを見上げてにっこり笑った
「いい…たいこと?」
「ね? 緊ちゃん」
緊那羅は悠助とアイコンタクトした後コクリと頷いて
「ごめんなさい」
そういって頭を下げた
京助は何が起こったのかわからなくて固まったままだった
「ほらほら京助、そんな所に立っていたらおかず運べないわ今日から家族増えたんだから少し手伝ってちょうだい?」
お盆に夕飯のおかずをのせ母ハルミが茶の間に入ってきた
「京助~緊ちゃん謝ってるよ?」
悠助に制服の裾を引っ張られハッとして京助は緊那羅を見た
緊那羅はまだ頭を下げたままだった
悠助を見ると【許してあげてオーラ】が全開で出ていた
母ハルミを見ると…微笑みながら真新しい箸を手渡された
「…母さん昨日のエビフライ…まだ残ってたっけか?」
「冷蔵庫にあったはずよ?」
「…とってくる」
そういうと京助は茶の間を出て行った
しばらくして戻って来たかと思うと真新しい箸にエビフライを一本刺し緊那羅に差し出した
「きょ…」
「さっさと持てよ温めてきたから皿あちぃんだから」
恐る恐る緊那羅が箸を受け取ると京助は意地悪そうに笑い
「食ってみろよ昼間弁当に入ってたエビフライと同じヤツだから…食べられなくしたことぜってぇ後悔する美味さだぞ」
そう言って席に着いた
「じゃぁいただきますしましょうね? ホラ悠ちゃんも緊ちゃんさんも座って…」
母ハルミが仕切りだす
「よかったね!緊ちゃん!」
箸を持ったまま立ち尽くしていた緊那羅に悠助が笑いかける
「…うん…」
緊那羅が少し照れながら頷いた