8話 分からないけど分かりたい
「あれで、良かったのか?」
呆然とする母君を置いて私たちは馬車に乗り込むも一応、スミレさんに訪ねておく。
あれでも一応彼女の母であることに変わりはない。
これは話し合って決めた結果だが喧嘩別れのような形で出てきたことを後悔していないか、少しだけ気にかかった。
「はい」
「……君がいいなら私はそれで構わない」
だけど彼女の声にも瞳にも迷いはなくて、それだけ悩んで決めた結果がこれなのだとしたら私から言うことは何もない。
「そういえば、私の立場の関係で大きな祝いの場を設けられないのはすまない」
「謝らないでください、私は気にしていませんから」
ふと、先ほど皆の前でも話したことを思い出して謝るもスミレさんはそれすらも全く気にしていないといった様子で笑う。
これは、作った笑顔か本来の笑顔か、残念なことに私では見分けはつかない。
「……だが女性はそういうのものを好む、と聞いたことがある、本当はしたいのではないか?」
これは婚姻を結ぶにあたって色々と聞き齧った結果知ったことだ。
恥ずかしいことにこの年になるまで恋なんてものをしては来ず、ずっと仕事に生きてきた私に恋路なんて分かる筈もなく、恥を承知で色々と聞いて回った。
「……私の場合はこの手のこともありますが、こういうもの絶対にしたほうがいいってことじゃないと思ってるんです、お互いが気にしないならそれもひとつの形です、父の受け売りなんですけどね」
「そうか……」
スミレさんから母君の話を聞くときは必ずスミレさんの心に陰りが見える、だが逆に父君の話をしている時は陰りなんて全く無くて、それだけ心を許せる相手だったのだろうと思い図るにはあまりある。
ただ私の事情でそういうことが出来ないのはやはり少しだけ気にかかることではあるが。
「ハクト様……?」
ふと、彼女の右手に視線を向ければスミレさんはすぐに気が付いて私の名前を呼ぶ
そんなにじっと見たわけじゃない、それでも気付くということはそれだけこの石化したひび割れが彼女の人生を蝕んできた、そういうことだろう。
「この手、気になるか?」
私は言いながらそっと彼女の右手に触れる。
「……それは、まぁ、そうですね」
「……それなら、これを君に送りたい」
彼女の当たり前の肯定を受けて私は懐からあるものを取り出して彼女に渡す。
「これは……手袋、ですか?」
「私は君が石弱病でも手にアザがあっても気にはしないが君が気にするならこれで隠せばいい、いずれ治るその日まで」
彼女に渡したのは皮で出来た手袋、厚みはそんなにないから日常生活に支障は来さないだろう。
「……ありがとう、ございます」
「……他に、何か必要になればすぐに言ってくれ、用意する」
ふっと笑んで手袋をつける彼女を見て、また心臓に違和感を感じる。
何故か少しだけ気まずくなった私はそれだけ付け足すと早々に馬車の窓から道端の草木に視線を移した。




