4話 妹の婚姻パーティーの場に現れたのは
ネリネの婚姻当日、大広間ではベネット家と繋がりのある一族達が呼ばれて大きなパーティーが開かれていた。
私も一応この場にいることにはいるが呪われたあの日からベネットの姓を名乗ることは許されなくなったから場違いも良いところだ。
「ネリネ様、やはりお美しいですなぁ、セイガ様の隣に立っても見劣りしていませんよ」
近くで母と話していた一人の初老の男性がネリネのことを見て褒め立てる。
確かに私から見てもその美しい桃色によく似合う純白のドレスを身にまとったネリネは蒼い長髪と深い深海色の瞳をした全体的に青みがかった優しい雰囲気を纏ったセイガ様ととてもお似合いだった。
「心根も清く優しく、どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘ですから」
母はいつもより数段外行きの高い声でこれまた外行きの顔を張り付けて嬉しそうに、慎ましやかにそう返す。
「……それと比べてお姉さんのほうは、呪われた証を隠しもせずに、よく祝いの場に出れたものですな」
それなりに近くにいるのだから聞こえることなんて分かっているだろうにその男は隠すこともせずに蔑んだ声で嫌そうにそうぼやく。
別に、出たいと私が頼んだわけでもないのに。
「ネリネが進言したのです、あのヒビも姉の一部だから隠さず、出席もさせてあげるべきだと」
母の言葉は確かに正しいが色々とネリネの内心が抜けている。
ヒビを隠さずにこの場に私がいたほうが自分がより引き立つから、それがネリネの言葉に含まれた本心だ。
一応姉だから昔から見てきたネリネの感情の移り変わりはよく分かる。
「なんと家族思いで優しい子でしょうか、ベネット家もこれから先安泰ですね、どうぞこれからもご好意に」
ほら、今度は自分の株も上がっているし、本当に抜け目のない子だ。
確かにネリネがいる限りこの家は安泰と言って良い。
それだけ彼女は昔から敏いし賢いから。
「こちらこそこれからもよろしくお願い致します」
母のそんな言葉を聞いて、もう引き立て役は充分にこなしたからと会場を後にしようとしたその時、会場の両開きの扉が大きく開け放たれた。
「突然の来訪失礼する、此度は龍の一族の婚姻の慶事、祝福を述べたい」
「貴方は昨日の……」
開かれた扉の前、そこに立っていたのは正装をした昨日、我が家を訪れたあの人、ハクトさんだった。
ハクトさんの祝福の言葉を受けて母がポツリと呟く。
昨日の夜中にいきなり現れた非常識な人物、そんな人がパーティーの場に途端に現れれば呆ける理由はよく分かる。
「……」
「……えっ、な、何故、貴方様がっ……」
一瞬、またハクトさんの視線が私のほうへ向けられた気がした。
だけど私が反応するより前にセイガ様が普段はあまり声を張るほうではないのに驚いたような、それでいて恐怖の色を混ぜたような声を漏らす。
「セイガ様……? あの人とお知り合いなの?」
昨日あの場にいたネリネは不思議そうに隣のセイガ様に聞き返す。
「し、知り合いも何も、あの方はハクト・ウォード様、白龍様の一族の方、しかも現当主様だ」
ウォード家、私でも聞いたことがあった。
一族は代々国軍に身を置いており一度戦場に彼らが舞い降りれば勝ちは確定したようなもの。
この国がここまで大きくなったのはウォード家の加護があったからこそ、そう言われる程に絶大な力を持つ白龍の一族の家だ。
「そんな……すごいわ……セイガ様の祝いの場には白龍様もいらっしゃるなんて! あの時か最初に言ってくだされば特別な席をご用意したのに……!」
「……いや、そんなこと、あり得ない、あの方は白龍の中でも上位の家のさらに当主です、オレは蒼龍の家の、しかも三男、本来ならばこの場にいらっしゃるようなかたじゃない……」
あからさまにテンションの上がった母にセイガ様は逆に震えた声でそれを否定する。
「まぁ、その通りだな、彼の言う通り私がここに来たのには別の理由がある」
じゃあ何故、そんなお方がこの場にいるのか、おそらくこの場にいる皆が考えて、気を張り詰めた中ハクトさん……様、自らそれを察した様子で語り始める。
「別の、理由ですか……?」
「彼女……スミレさんの妹の婚姻の場、だから私は馳せ参じた次第、勿論祝儀の品も少なからず持参させていただいた」
母の問いかけにハクト様は何故か私の名前を出して、それから使いの人らしき人達に一斉に沢山の物を運び込ませる。
祝儀の品だと言われたそれは瞬く間に山になり
「こ、こんなに沢山……」
それを見て母も唖然とした声を漏らす。
祝儀の数のせいだろう、焦った母の口からハクト様の話に私の名前が出たことに突っ込むことはない。
「それから、祝いの場だから便乗させて貰おう、スミレさん、君を我が家に迎えたいと思っているんだが、どうだろうか?」
ハクト様は皆が唖然とするなか迷うことなく私の前まで歩み寄るとそう言ってスッと片膝をついて私のほうへ手を差し出す。
「……え」
驚き過ぎた私はバカみたいに間の抜けた声を漏らすことしか出来なかった。




