11話 場違いな場所
その人の言葉を理解するのには少しだけ時間が必要だった。
「大丈夫ー、怪我してない? 怪我してたらボクが怒られそうー」
考えているうちにその人は支えていた腕を離して特に心配した様子は見せずにそう聞いてくる。
「怪我は、してないです、ありがとうございます」
心配されてはいないとはいえ一応助けて貰った身だからお礼と怪我はしていないことを伝える。
「本当に気をつけてよね、兄さんの足だけは引っ張らないで」
「兄……さん……」
兄さんと言われて現状想像できるのはただ一人だけ。
「そ、ボクはマシロ・ウォード、ハクト・ウォードの弟様、偉いの、分かる?」
「は、はい……」
マシロ様と名乗った彼に私は頷き返すけどハクト様の兄弟とは思えない程に軽い物言いに少しだけたじろぐ。
「それで、勿論ボクの兄のハクトだって偉い、何せこの国の国軍大将でありながら自ら戦場に立って敵はバッタバッタとなぎ倒す、顔色ひとつ変えずに敵の息を止める兄さんに付いた異名は感情を失った白夜の龍帝、カッコいいよねー、ボクは龍だけど戦闘面はまっぴらだから羨ましいよ全くー」
「……」
マシロ様の口からパラパラと吐き出される初めて知るハクト様の身の上に私は黙り込んでしまう。
国軍に所属しているのは知っていたが戦場に立っていることは知らなかった。
私が勝手に何故この場にいないのかと不満を持っていた時、彼は戦場で戦っていたのかもしれない。
それなのに、私はそれすら知らなかった。
だけど、白夜の龍帝という名前は聞いたことがある。
この国に住み、国の情勢などに興味のあるものなら誰しも聞いたことがあるだろう。
そして、血も涙もないなんて言われることもあるその異名の持ち主は、それを知らずに関わってきた私からすればあまりにもハクト様には似合わない異名だった。
「あれ? 兄さんから聞いてなかったの、仕事の話しとか色々、君一応妻だよね? 情報共有もしてもらえてねーの?」
「そう、なりますね……」
思考を中断される形でマシロ様がふざけた様子で私の顔を覗くから、肯定するしか私には出来ない。
「ねぇ、この話聞いてて分からない?」
「……何が、ですか」
ふと、マシロ様の声のトーンが明らかに下がる。
言いたいことはなんとなく察しがついた、それでも、私は聞き返すことを選択した。
「自分がいる場所がいかに場違いか、ってこと」
「……」
マシロ様の発した言葉を私は黙って受け入れる。
それは、自分が一番よく分かっていることだから。
「ただの人間、病気持ちだから役にも立てない、兄さんにも何も教えられてない、ここは白龍の巣だよ、何も出来ないやつが居ていい場所じゃないんだ、分かったら早々にお家に帰ったほうがいいよー、兄さんにはボクから言っておくから」
マシロ様は私が黙っていれば大袈裟な身振り手振りをつけてそれだけ宣告すると早々に追い出すようにしっしと手を振る。
だから私は
「……それは、申し訳ないけど出来ません」
真っ向から、それを断った。