帰郷の桜
改札口を過ぎると、海の匂いが鼻孔をつんざいた。
観光客がよく口にしていた言葉が、今ようやく分かった気がする。
この故郷を離れて、どれほどの歳月が過ぎ去っただろう。
駅前は――随分と変わったらしいが、過去の情景はまだ、くっきりと脳裏に浮かぶ。
うららかな日差しが肌を撫でる。そろそろ桜が咲く季節か。
これから向かう場所は、桜の名所として知られた神社である。さぞかし綺麗なのだろう。
待つ事、十分少々。
私が、杖を頼りにバスへ乗り込んだ時――。
おそらく若い女性の方が、難儀している私の手助けをして下さった。
いくら時は経とうとも、一向に変わらない故郷の人情が身にしみた。
かつての己は、利益ばかりを追求していた。そんな事など考えた事も無かった。
世の中全て、カネなのだと。
カネがモノを言う世界なのだと。
今思えば、自分はなんと、愚かしい人間だったのだろう。
そのように我が身の所業を振り返っている時、まもなく目的地に到着するというバスのアナウンスが流れた。
杖を頼りに、幼少の頃に幾度も通った神社の石段を登ってゆく。
不摂生を繰り返して年月を経た身体の節々から、悲鳴があがる。
それでも止まる訳にはいかない。呻き声を上げる事もしたくない。
私は、生来の負けず嫌いである。
中途半端で投げ出した事は、これまでの人生において全く無い。
男が一度決めたからには、最後までやり通すのだ。
この性格のおかげで、過去に色んな人と火花を散らしたが、それについては後悔していない。
ようやく、神社の境内にたどり着いた。
夢でしか見れない風景。
懐かしの故郷。
春の香りが混じった優しい風を、肌で感じ取る。
もはや、この目は何も映さないが、我が心には確かに見えていた。
生命の限りを燃やして咲き誇る、満開の桜が――。
二ヶ月ぶりの更新になりました。
文学っぽい短文で、もちろんフィクションです。
作者は文学がまったく分かりません^^;
それでもよろしければ、拙い文章ですがお楽しみ下さい。