エンディング
金曜日の5時間目、体育の時間。
運動場にはサッカーゴールが2つ設置され、試合が始まっていた。
たけるはビブスを着ていない待機組。コートの脇から、試合を見守っていた。
そのとき。
「よかったわね、サッカーになって」
背後から聞こえた声に振り向くと、朝宮涼香が笑みを浮かべて立っていた。
「ああ、ほんとに良かった。涼香、ありがとうな。票を集めてくれたのも、権田山をうまくおだててくれたのも、全部助かったよ」
「ホント感謝してほしいわ。権田山権蔵をおだてるなんて、罰ゲームでしかないんだから。他の女子なんて、私が『お願い』って言ったら、目そらして逃げるんだよ?」
「罰ゲームか、ハハハ」
たけるが笑うと、涼香は少しムスッとした顔で言った。
「笑いごとじゃないっての。ホント1ヶ月分のデザートじゃなくて2ヶ月分にすれば良かったわ」
「2ヶ月分はきつすぎるよ……でも、本当に感謝してる」
「ま、わかってくれたらいいのよ」
そう言って、涼香はたけるの横に並んでフィールドを見つめた。
そのときだった。
「うおぉぉぉっ!」
叫び声とともに権田山権蔵が、一直線にボールを追い、思い切り右足を振り抜いた。
――ズドンッ!
鋭いシュートが、ゴールの左隅に突き刺さる。
「ゴーーール!!」
「やるじゃん権田山!」
「マジで決めたよ!」
歓声が上がる中、権蔵は照れたように小さくガッツポーズを決め、胸を張って自陣に戻っていった。
「まじか、あいつあんなうまかったっけ?」
たけるは大きく目を開け驚いた。
「人はおだてられると成長するみたいね」
対して涼香はふっと笑った。
ピィーーーッ!
ホイッスルが鳴り、選手が交代になる。
「次、たけるたちの番だよ!」
「おう!」
たけるは軽く肩を回しながら、コートへと駆け出した。
青空の下、白いシャツが風にはためいていた。
――やっと、思い描いた通りの体育が始まった。(完)




