投票、決着のとき
翌日、金曜日、投票当日
投票は4時間目の学級会の時間でやるので
動けるのは中間休みのみ
「佐太郎、権蔵に気づかれないよう、クラスの男子に言ってくれないか?」
「何を?」
「権蔵が暴れない秘策がある。だからサッカーに投票してくれって」
「秘策って?」
「それは……」
たけるは佐太郎の耳元で何かを言った。
「なるほどな、それだったらもしかしたら……」
「うん。じゃあ頼んだ」
「おう!」
佐太郎は勢いよく席を立ち男子達のもとへと向かっていった。
たけるは教室の前にある時計を見あげた。
さぁ勝負はすぐそこだ。
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4時間目 学級会の時間
「では、投票を始めます!」
担任の福崎が宣言すると、長方形の小さな紙が一人ひとりに配られていく。
やがて、たけるのもとにも紙が回ってきた。
そこには「サッカー」と「ソフトボール」、二つの選択肢が並んでいる。
たけるは迷うことなく、「サッカー」に◯をつけた。
数分後――
「それじゃあ、順番に投票箱に入れてください!」
福崎の合図で、廊下側の列から順に、教卓に置かれた投票箱へと票が投じられていく。
(みんな……頼むぞ)
たけるは静かに目を閉じ、心の中で祈った。
やがて、全員の投票が終わる。
「じゃあ学級委員、お願いします!」
福崎の言葉で、男子1人と朝宮涼香が教壇の上に移動した。
「では、投票結果を発表します!」
涼香の声が響き、たけるは緊張を紛らわせるように窓の方を見た。
「ソフトボール1票、サッカー1票、ソフトボール1票……」
涼香が一枚ずつ票を読み上げ、もう一人の学級委員が黒板に「正」の字で数を記していく。
「サッカー1票、サッカー1票、ソフトボール1票……」
教室には涼香の声だけが響き、誰もが固唾を飲んで見守った。
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「では、4時間目を終わります」
福崎の言葉に合わせてチャイムが鳴った。
福崎が教室を出て行くと、クラスはざわつきはじめた。
たけるは黒板に書かれた投票結果を見つめる。
結果は――ソフトボール12票、サッカー18票!
(よっしゃ!)
たけるはガッツポーズを取る手に力を込めたが、それを目立たないよう静かに収めた。
だが、その安堵もつかの間だった。
「どういうことだ!」
教室の後ろから、怒気をはらんだ声が響いた。
権田山権蔵が、ギギッと椅子を引いて立ち上がる。
その瞬間、教室の空気が一気に凍りついた。
「誰だ……裏切ったのは!!」
怒声が響き渡り、男子たちは目を逸らし、誰も言葉を発せなかった。
いよいよ権蔵が暴れ出すか――
そのときだった。
「ちょっと待って!」
パッと席を立ったのは、学級委員の朝宮涼香だった。
次々に、他の女子たちも立ち上がる。
「なんだよお前ら!」
権蔵が女子たちを睨みつける。
「権田山君」
涼香は静かな声で呼びかけた。
「朝宮……なんだよ」
睨む権蔵と、真剣な顔で見つめ返す涼香。
一瞬、教室の時間が止まったかのような静寂。
だが、次の瞬間――
朝宮涼香はふっと笑って言った。
「私、権田山くんがサッカーしてるところ、見てみたいな」
「……えっ?」
権蔵は一瞬、目を丸くした。
「うんうん、走ってる姿とか絶対カッコいいって!」
「ゴール決めたらヒーローだよ!」
「キャー!想像したらヤバい~!」
他の女子たちも笑顔で権蔵を見ながら口々に言う。
「なっ……お、お前ら……」
権蔵は顔を赤くし、目を逸らした。
そして、ひと呼吸置いて――
「……仕方ねぇな。サッカー、やるか」
その瞬間、ピリついていた教室の空気が一気に和らいだ。
(ふぅ、良かった良かった……)
たけるは机に両手をついて、そっと深呼吸した。




