ただし君ダイエットは明日から
3時間目、4時間目が終わり、待ちに待った給食の時間がやってきた。
今日のメインメニューは、カレーライス。
真っ先におかわりに並んだのは、太山ただし。
ぽっちゃり――いや、控えめに言ってデブだ。
たけるは、カレーを鍋から山盛りよそうただしの背中を見つめながら、皿を手に取って立ち上がった。
自分もおかわりするふりをして、ただしに近づき声をかける。
「ねえ、ただしってさ、ダイエットしたいって言ってたよな。……おかわりして大丈夫?」
これは、佐太郎から仕入れた情報だ。
「そ、それは……明日から頑張るつもりで……」
「ふーん。まあ、無理すんなよ。けどな、どれだけ食べても痩せられる方法、あるんだよなぁ」
「えっ!? なにそれ!」
ただしは目を丸くした。
たけるは不敵に口元をゆがめ、ささやくように言った。
「サッカーだよ。テレビでやってたんだけどさ、ソフトボールの3倍カロリー消費するらしいぜ」
もちろん嘘だ。3倍かどうかなんて知らない。
だが「テレビで言ってた」とつければ、相手は信じやすい。――これは経験則だ。
「そっか……じゃあ金曜の体育は……」
「サッカーで決まりだな!」
「うん!」
ただしは満足げにうなずくと、鼻歌まじりに自分の席へ戻っていった。
(ちょろいな)
たけるは冷たく笑った。
いくら激しい運動をしても、その量のカレーを食ってるようじゃ痩せるはずがない。
――彼がその事実に気づくのは、何年後だろうか。
ともあれ、ただしをサッカー派にできたのは大きい。
なぜなら、ただしには“デブ友”が2人いるからだ。
きっと、たけるの話を2人に吹き込んでくれることだろう。
たけるはカレーを少しだけご飯にかけて、ゆっくりと席へ戻った。