崩せ!完璧主義の城壁――心の隙間に揺さぶりを
翌日――水曜日、中間休み。
たけるは、ある男の机の前に立った。
男の名は細の島良太。あの“野球五人衆”のひとりで、ポジションはピッチャーだ。
「やあ、良太。元気?」
「元気じゃないよ。1時間目に漢字テストがあるから、めっちゃ緊張してる」
「漢字テストって、小テストだろ? そんなの気にするなよ、テキトーに済ませばいいじゃん」
「やだよ! 絶対に満点とらなきゃ!」
良太は筋金入りの完璧主義者だ。
ミスを嫌い、何ごとにも全力で取り組むタイプ。
野球でもその姿勢は変わらない。正確無比なコントロールで三振を奪うが――ひとたび崩れると、脆い。
(さて……そろそろ本題に入るか)
たけるは良太の机に両手を置き、身を乗り出した。
「なあ良太。金曜の体育、どっちに入れるつもり?」
「えっ、それは……ソフトボール、だけど?」
「なんで?」
「だって僕、野球やってるし。あと他の野球メンバーからも、ソフトボールに入れろって言われてるし……」
「……それでいいのか? 本当に?」
「えっ、なにが!?」
戸惑う良太を見て、たけるはニヤリと笑った。
「お前、ピッチャーだろ? この前の体育、覚えてるよな」
良太の表情がみるみる曇っていく。
こないだの体育のソフトボール。
最終回、ピッチャーの良太はヒットを許したあと、まさかの3連続フォアボール。
その結果――サヨナラ押し出し負け。
「あーっ! 思い出させないでよ! 忘れかけてたのに!」
「また同じミス、したくないだろ?」
「そ、そりゃ……」
「またチームメートに怒鳴られるかもな」
「い、嫌だ……!」
「だったら、サッカーに入れたほうが良くない? ピッチャーやらなくて済むし」
「そ、そうだね……サッカーに、しようかな……」
「よし、頼んだぞ」
たけるは冷や汗を浮かべた良太の肩を、軽くポンと叩いてからその場を離れた。




