悪女らしく、復讐します。
私は絶望のどん底にいた。令嬢の私、ニーナは同じ身分の令嬢であるステナに悪女に仕立てられた。とても可愛らしく、美しいステナは何故か私に嫌がらせをされていると嘘をつき始めた。悪口を言われた、物を壊された、紅茶をかけられた、転ばされた等、全て私にやられたと言って回った。周りの人間は全員ステナの味方で、私は孤立した。どんなに信じて欲しいと訴えても、私の声は届かない。ステナは、私と二人きりになると小気味よさそうに笑う。ある日、私はステナに何故こんな事をするのかを聞くと、
「決まってるでしょ? アンタ如きがアステル様の婚約者だなんて烏滸がましいのよ! アステル様に相応しいのはこの私よ!!」
そう言われた。アステル様は私の婚約者だ。優しくて格好良くて、私も彼の婚約者であることが誇らしいと思っていたし、愛していた。けれど、ステナに陥れられた時から、彼は私に冷たくなった。周りの人達と同じで、私を信じてくれなかった。彼との仲も良好で、お互いに信頼関係が築けていると思っていたのに…そして、
「ニーナ、君は何時になったらステナ令嬢に謝罪をするんだ。いい加減にしないと婚約破棄を申し入れるぞ? …ステナ令嬢が美しいからといって嫉妬するのはやめろ。」
アステル様に、美しい人に嫉妬して危害を加える存在だと、そう思われていた事がショックだった。孤立した絶望的な状況に、私はもう限界が来ていた。
「…分かりました。婚約破棄しましょう、さようなら。」
「!? …な、何を言って、ニーナ!」
アステル様にそう言って、私は彼の元から早足に去った。アステル様の戸惑った声が聞こえてきたけれどどうでも良かった。今この瞬間に、彼に対する愛情がなくなってしまった。私は自分が思っている以上に薄情な性格なのかもしれないと自嘲した。
そして、どうせ悪者にされるならば、私が出来る最大限の方法で復讐してやろうと思った。
◇◆◇
「ニーナ、いい加減にアステル様の隣から消えなさいよ!!」
数日後、私の目の前に再びステナが現れた、予想通りだった。ステナは度々私の前に現れていたから。私に虐められてると言う癖に、護衛もないなんて周りの人間も馬鹿なのではないかと思う。
「…直に婚約破棄されると思うわよ。」
私に婚約破棄の報告がまだきていなかった。数日前にアステル様は婚約破棄すると言っていた筈なのに、何か事情があるのかもしれない…もうどうでもいいけれど。
「あら、やっとなのね! ようやく身の程を弁えたのね。それじゃあ、後は沢山の人の前で私に土下座して謝って頂戴ね? 今まで私を虐めてごめんなさいって!!」
「…分かってるでしょう。私はそんな事をしてないわ。何を謝罪しろというのよ。」
ステナは上機嫌でいたのに、不機嫌そうな顔をした。私が無表情で、臆する方なく反論した事に少し驚いているのかもしれない。今までの私は必死になって、喚いていただろうから。そんな私を見て、ステナは楽しんでいたから。
「馬鹿なの? アンタは周りにとって私を虐めてる悪女なのよ? 美しい私に嫉妬して、何の罪もない私に危害を加える最低な女なの!! そんな事も分からないくらい追い詰められちゃったの?」
でもすぐに、ステナは勝ち誇ったように馬鹿にしたように笑ってきた。
「悪女、ね。でも、たとえ周りがそう思っていても私は虐めなんてしてないし、悪女じゃない……今まではね。」
私はそう言うと、ステナに近づいて、隠していた瓶を取り出した。
「だから最後に、貴女の言った通りの悪女になってあげるね?」
「え? …!? ぎ、ギャアアアアアっ!!!」
私はニコリと微笑んで、瓶の中身をステナの顔めがけてぶち撒けた。ステナは両手で顔を覆いながら絶叫をあげて、地面に伏せるとゴロゴロと左右に転がり暴れ始めた。暫くすると、ステナの悲鳴を聞いて駆け付けた誰かに発見されて、私は拘束された。
◇◆◇
その後、私は牢屋に入れられていたが、後に釈放された。何かしらの処罰が下されると思っていたのに、事態は思わぬ方向に動いていった。
私はあの日、薬品を使ってステナの顔を爛れさせた。どうなってもいいから、ステナの取り柄である美しさを奪ってやりたいと思った。令嬢じゃなくなろうと、最悪、処刑されようとどうでも良かった。でも、美しさを奪われたステナは自身の本来の性格を取り繕う事が出来なくなり、自爆したそうだ。実はステナは、弱みを握った使用人や下級貴族に対して私にしたように嫌がらせをしていたらしく、恨みを買っていたらしい。その人達からの暴露もあり、周りからは軽蔑され、醜くなった顔を侮辱され、社交界から姿を消す事になったそうだ。
私は社交界に戻った。けれど私がステナに薬品をかけた事は知れ渡っていた為、私がステナを虐めていたと信じて嫌がらせをしてきた人達は私からの報復を恐れてか離れていき、ステナに恨みを抱いていた人達は私に感謝を示すようにすり寄ってきた。そして、
「…ニーナ、本当にすまなかった!! 君を信じず、ステナ令嬢の味方をしてしまって。」
アステル様は、私を見つけるとすぐに駆け寄ってきて頭を下げてきた。そういえば、何時になったら婚約破棄をするのだろうか。
「…もう過ぎた事です。それより、婚約破棄は何時するのですか?」
例え私の無実が証明されても、私がやった事は事実だし、悪い意味で好奇の目に晒されている私との婚約にメリットはない。それに、私はもうアステル様と婚約したいと思ってなかった。
「そ、それは…やっぱり、俺の事が許せないよな。」
沈んだように言うアステル様に、何故そんな反応をするのか分からずにいたけれど、会話を長引かせるのはもう面倒臭いと思った。
「私はどちらでも構いませんよ。婚約破棄するなら我が家に連絡をお願いします。」
「……ニーナ。」
本当にどちらでも良かったのでそう言った。私にこの先、良い縁談が来るとは思えない。でもアステル様と婚約破棄した後に誰が相手になっても、何とかなるだろうと思っているから。
アステル様は呆然とした顔をした後、何処か悲しそうな顔をして去って行った。
今後、誰であれ、アステル様であれ、私に危害を加えるのならば、排除すれば良いだけだもの。
「だって私は、悪女ですもの。」
薬品を使ったのにお咎め無し。主人公たちの両親は? などツッコミどころが多いと思いますがご容赦下さい 笑
主人公を甘く見て二人きりになったり、陥れる為にわざと殴られたりするパターンをよく見ますが、もしとんでもない事されたらどうなるかと思って想像してみました。
読んで下さりありがとうございました!