説得して
“最初の風神”と“最初の火神”はとある場所にいた。そこは穴の先であり、異空間であり、牢屋だ。
「セイカン、キミってヤツは本当に面倒だね」
フェガイドは何もない部屋であぐらをかいて座っていた。流石に抵抗する気はもう起きない。何をやっても粘着ストーカーをされると思うと行動する気も失せるというものだ。
「部屋も質素。センス無いよ。ただただ白い天井に床面だなんて、しかも家具は椅子ひとつ?そのくせ扉は2つある。嫌だね」
全くの色のない部屋。椅子すらも白く、影さえ写らない。強いての色は扉の黒。それも2つあるうちの1つだけだが。
「お前の牢屋兼、仕事場です。言ったでしょう、強制労働してもらうと」
「また裁判?」
「その必要がないほどに重罪、です」
「司法はすでに死んでるみたいだね」
「何を言っているのか。俺が司法だ」
座っているのもそろそろ疲れたので、寝そべってつまらない天井でも見ようかとも思ったが、セイカンが手元でとある画面を出した。そこには現世の状況が映っており、彼はその画面を気難しそうに見ていた。
しかし、見にいく気も起きない。わざわざそのためだけに起き上がるのは面倒だ。
「…これは」
「魔力が蠢いてるッ!?」
現世の魔力の異常に気が付いて、2人は目を大きく見開いた。フェガイドがはすぐにセイカンに駆け寄り、小さい画面を凝視する。
「セイカン!とっとと画面を広くしてくれ!!」
「ちっ」
画面越しに見えるのは、虹色の世界。生も死もないこの牢屋だからこそ映し出せる景色だ。だからこそセイカンは、嫌いなヤツと同じ空間にいるというデメリットがあってもすぐには帰らなかった。
「世紀の、大発見です。確認して正解、でした」
「青色の子が…2冊目の固有魔法を…手に入れた…条件は何だ?何に反応した?」
フェガイドのその狼狽えをセイカンは横目で見て、笑った。普段から口角を一切動かさないので、その違いは微量だが長い付き合いがある者は分かってしまう。これは人を馬鹿にしている笑いだ。
「…まさか分かったとは言わないだろう?」
「おや、表情の読み取りは、苦手ですか?分かっていると、言いたいんですよ」
「…確認して正解ーとか言ってたね」
「教えてあげても、いいですよ。ただ少し、“仙楼”の裁判に、口出ししてくれればいいです」
誰の裁判かを言う必要はない。それぞれ独自のルートで現世の状況を把握している。片方は予知で、片方はヨモツヒラサカの権限だ。
「黄泉の閻魔様がそれ言うかい…それがボクの刑?」
「違います。お前の所のファレオから、頼まれました」
「…キミむしろ彼を恨む側じゃないっけ?あの事件の時、罪犯したヤツと庇ったヤツ…の上司だろう」
「お前に言う必要は、ありません」
「キミのことだから、過去の借りを返したいのかな。あ、そういや、死んじゃったキミの部下———ははは!地雷に突っ込む気はないよ。流石に黙るさ」
鋭い眼光に睨まれて黙る。本当は言ってやろうと思っていたが、今は嫌がらせをしている場合ではないのだった。
あやうく揶揄いで命を落とすところだった。危ない。
「分かったよ、やればいいんだろう。早く魔法の誕生の秘密を言え」
フェガイドという生命の一生の命題としていた問題が解決できそうなのだ。いつになく素直に、興奮気味でセイカンに詰め寄った。彼の胸ぐらを勢いで掴むぐらいにはアドレナリンが出ている。
「簡単です。“死にかける”だけです」
「拍子抜け。だったらボクはもっと早く手に入れても良かった。…本当にね!!」
悪態をつくフェガイドを無視してセイカンは別の話を振った。
「未来、視れていないんですよね。お前が今、行動の指針にしてるのは、一体いつ視た未来なんですか?」
「そりゃもちろん、あの日あの時の直前さ。3000年ぐらい前、ボクはこの時代の夢を視た。神都が大きな船に乗せられて、深海に沈む夢」
「…」
「比喩じゃないさ。本当に深海に移動したんだよ。圧死はやっぱり嫌だよね。醜いものな」
「…それは、お前のした行動の、どこからどこまでが3000年前に視た未来、なんですか?」
ビフェリオやセキラへの協力も、自分の研究も、フカンやルキネに殺されそうになることも、裁判にかけられることも、今この状況も———どこまでがフェガイドの意思なのか分からない。
セキラの魔法を見た激しい動揺も、ファレオ達に追い詰められたことも、本当にリアルタイムの感情だろうか。
「それで、ボクの強制労働の内容って何?」
フェガイドは質問を一旦無視した。そうされる可能性は高かったので、セイカンは残念に思いながらも話を続ける。
「過去に戻ってビフェリオくんの輪廻を保助して下さい」
「ふふ、へへへひあっははははは!!!刑だなんて言っておいて、だいぶキミの私情じゃないかぁはははは!!」
「…俺は神都を、存続させたいので、もっと良い結果を求めたいんです。過去から、直した方が早い。あともう笑うな」
この興奮さえも、決められたからやっていることだとしたら、恐ろしいことだとセイカンは思う。違うと信じたいが、火神という立場からして、フェガイドの舞台を散々見てきた立場からして、彼はそれができてしまうと知っている。
「はいはい。それでキミの質問だけれど…キミはどう思っているんだい?」
「もしそうだったら、とてもつまらない」
火神の彼は人間味を評価する。人間嫌いが何をという話だが。
「じゃあボクの答えは、ボクはとても賢くて強くて有能、だね」
「成程。通りで、つまらないわけです」
フェガイドは意味深に笑ったあと、セイカンが新たに開けた画面を見た。“仙楼”のトップに繋げた画面だ。恐らく向こうは驚いているだろう。アポなど取っていない。
「…目が…腐った気がする…気色悪い…」
セイカンは服の裾で目を強く擦った。嫌いな人の笑い顔ほど目に悪いものはない。
「あぁ、アレを回収しなければ…」
とある孫の顔を思い出し、最後の別れぐらいはちゃんと本人とのやり取りをしてほしいと、現世へ行く門を開き始める。
(メイテイは…なんだか大人になった。そのはずなのに、両親に似ていないな。…これから似るのか?)
正直、髪色も目の色も服装も顔つきも全員同系統なので、判断をつけるのは難しいが、そこは火神の祖である。細かい顔のパーツまで違いが分かる。
(まあいいか。些事だ)




