朽ちて
『ボクの友達は叶えるね』
事実、その通りだった。
セキラという名の神は自分の命すら代償にできる。たとえ彼女の目的に必要なことであっても、もっと強引なやり方が取れたはずだ。
神らしいが神らしくない人だった。
無論、以前から連れの3人が世話になったことは聞いたが、あの風神のような良い加減さだったら別に返さずとも良いと思っていた。
むしろ寸前までその考え方だった。悪い噂しか聞いたことのないヤツに、一か八かを持ちかけられて、応じるなど気が狂っている。そしてビフェリオという風神を殺す気がないのもおかしい。神ながらとんだ甘ったれだと思った。
しかし、彼女は長なのだと言う。
自分の民で、自分の土地だから失いたくないのだと言う。
それはなんて神様らしい———自分に馴染む“らしさ”だった。幼い頃信仰していた神様は確かにこんなのだった。
であれば、まだ神様は生きているのだろう。
そんな神様であれば信仰に値する。
(水神は風神を止めたいようだった。説得するならまずは抵抗できなくするのが一番だろう)
「がぁ、あ、クソ…」
ごぽごぽという音は液体が大量に溢れているのを教えてくれる。比較的小柄な彼女には危険な出血量だった。
仙術は万能ではない。
人間が修行の末に手に入れた技術だ。生物が産まれたときに得られる魔法とは違う。使用に必要な力である仙力は、魔力のように大気に漂うモノではなく、自らの内で濃縮させた、高密度のエネルギーを仙力と呼んでいる。
エネルギーはなんでもいい。カロリーであったり、それこそ魔力であったり。
使う術によっても仙力の必要量は変わってくる。相手によっても変わる。
ただ、足りないと確信した彼女は自らの生命力を仙力として使った。
「私の最後が、こんなにも近かったとはな」
とある弟子がこの姿を見たら絶叫することだろう。怒りのままに、癇癪のように暴れるのは想定できる。
ビフェリオは声が出せないと気付くと、仙人と下に降りたセキラを一瞬見比べて、自身も下に飛び降りた。
「ふう、ふぅ…全くもって、私というやつは碌でもないな」
ずりずりとセキラが解読に使っていた場所に近づく。昔の字だが、あいにく仙人が読むのに苦労しなかった。
(何が“意味がわからない”だ。人間よりもずっと理解している。どれ、少し解読を進めておこう)
視界がボヤけながらも手と頭を動かして、魔法陣の構造のメモをどんどんと書き記していった。時にはセキラの考えに、ひとりの知恵者として感銘を受けた。
(…天外であれば、空に串を刺せるだろうか)
なんにせよ、発動に膨大な魔力が必要なことには変わりない。セキラもかなり多い魔力量だったが、それだけでは足りないだろう。もし分裂できるなら50人ほど必要になる。
仙人は最後の力を振り絞って、『魔法の発動条件のひとつに、神であることがある可能性がある』と書き記した。そうしてすぐに脱力してしまう。もう寒くて仕方がないのだ。
(スレンドとベルランは今まで通り、仲良く暮らせるだろうか)
なんとなく自分の金髪を眺めた。特に綺麗とは思わないが、甲斐甲斐しく世話をしたがる人がいるので整っている。
(メイは…さっさと私を忘れてくれ…)
そこに、運悪くやって来たのはメイだった。なぜかびっしょりと水に濡れている。着物からは水滴が滴り落ちていた。
「はぁはぁはぁは、は、はっ」
らしくもなく汗をかき、血の気は引いていた。
死んでしまったかのような仙人を見て、ただ息を吸うことしかできなかった。




