寄って
「私ったら、良いところに来ましたね。まったく」
猛スピードで上から飛んでくる何かがいた。
白い着物に長い耳。確かそれはエルフだ。メイだ。
「首を落とせば解決ですね」
袖の中から短刀を取り出したと思えば、縦に一閃。振る必要なんてない。ただ刀を固定して、飛行していたら当たったモノが切れただけ。
魔法の扱いに長けたモノに、魔法で対抗する意味はない。最も、そんじょそこらの短刀ではなく、少し前にいいところの屋敷からかっぱらってきた『鬼怒』という刀の一部だ。
師匠と共に謝罪と返却をしたが、全て返したわけではない。失くしたという体で一部をちょろまかし、短刀として鍛え直した。最初の神といえども、その肉は同じく最初の神が作り出したモノには負ける。
驚くほど綺麗に落ちた。
メイは山羊が慌てる姿を見たが、御簾の奥の誰かがそれを制したようだった。
そのまま地獄の門のようなモノは霧散した。
(神も一枚岩じゃない。見逃してくれたって感じ)
ひとまずこれで“最初の水神”との約束は果たせた。
(”仙楼“に帰ろ。お師匠とまたずっと一緒にいられるぞ!)
「エルフ、待ちなさい」
大きいドラゴンに呼び止められ、メイは顔を顰めた。
「はぁ」
渋々聞く態度は一応とっている。
「ありがとうございます。殺してくれて」
「………礼を言われる筋合いは無いんですが」
面と向かってお礼を言われるようなことなど今までしたことがなかったので、見ず知らずのドラゴンに感謝を言われて硬直した。
あまり見ていなかったが、ここにはいろんな人がいるようだ。大半はボロボロになって何が何だかよくわかっていないようだった。
しかし目の前の火神だけは何かを理解したようにぶつぶつ唱え出した。今にも倒れそうな顔色の悪さだが、自分が気遣う必要もないと判断した。
(取り敢えず私に向けた魔法の類ではない…ほっとこ)
大半はぼろぼろ。ドラゴンでさえも。
ひとり、メイの視線の向こうで、土埃ひとつない様相の風神がいた。
(あ、あの長)
一度尋ねたことのある人だった。優しげな雰囲気のある人で、1000兆分の一ぐらいはお師匠に似ていると実は思っていた。
(笛を吹いている?)
ばたり、と笛と共に音が聞こえたら、視界も暗転してしまった。
◾️
「えぇと、この文字がここで…?紋様は———」
セキラは今、大樹の魔法を解析しようとしていた。
どこにいるかと言えば大樹の根元だ。
「まだ木は生きている。根はまだ生きているんだ…追加して書くんじゃない、元あるモノを書き換えるんだ」
下に落とすまいと奮闘している最中だ。
“最初の風神”のやろうとしたことは大樹を燃やすことだった。であれば取り敢えず逆の動きをしてみるのもいいだろう。
一体誰の入れ知恵か、ルキネである。
セキラがルキネを追わなかったのはそれが理由だ。
『長の特権があれば、死者を蘇らせることは可能ですわ。でも、あなたは民のことを考えなくていいの。わたくし死ぬ気で撃つけれど、民を無視するほど甲斐性無しではないもの』
ルキネは宮から飛び降りる前にそう言っていた。だから特権は自分のために使う。
“最初の水神”の保管庫から取れる魔力を使って、大樹の浮く魔法を自分のモノにするのだ。
「“最初の火神”様は一体どんなお人だったろうか…」
その魔法の術者である神のことを想像した。歴代最長の長だったそうだが、子供の時だったためそこまで記憶にない。
(メイテイみたいな快活なお人ではないそうだが…)
しかしセキラの知ってる火神はその1人だけ。
魔法は術者の考え方が強く反映される。この作業が困難を極めることはセキラも重々承知していた。
「あぁぁぁ!むずーい!!」
頭を掻いてもいい考えが浮かんでこない。第一、魔法が変になっているのだ。全く形式の違う魔法が上書きさせているせいで本来の形が見えてこない。絡まった糸を解く時のような苛立ちを感じながらも、実直に地道に考え続けるしかできないのだ。
(…糸口が見えなかったら、諦めることも視野に入れるべきだな)
◾️
一方でメイテイはとある人を追いかけていた。
「待ちなさい!」
慣れない水神の土地で、一心不乱に追いかける。
確かに彼の姿を見たのだ。
「ビフェリオの馬鹿ー!!」
どんどんと、最初の神達が戦っていた場所に近づいて行く。
(なんだか足が軽いわ!休憩したら元気になるものね)
3代目の長になったことは知らずに、どんどんと、近づく。
「雨だわ。さっきみたいな暴風雨じゃないだけマシね。とにかく急がなくっちゃ!」




