青は混ざって(1)
「なるようになった安心感…疲れた」
セキラは魔法の発動を成功させた。知らない場所に移動して、そこがどこだかわからないまま、ルキネの応急処置をした。
「義務教育万歳だ…」
治癒系の魔法こそ所持していないが、水神は幼い時の教育過程で応急処置やらなんやらの救命方法を学ぶ。今回は奇跡的に今までの勉強が上手く活かせた例だ。
(すごいなこの魔法具。1回使ったらまた設定し直さなきゃいけないのが面倒だけど)
セキラは疲労感から床に倒れた。そしてたぶんここは水神の宮だろう。大理石の冷たい床がセキラの身体を歓迎する。
横には静かに呼吸をするルキネがいた。
(…何が起きたのか…聞かな、きゃ)
どんどん瞼が重くなってきた。短時間で魔力を大量消費したことも原因の1つだが、それより気苦労の方が大きいだろう。先ほどまでセキラの行動1つで水神の長の生死が左右されるような状況だった。
(…)
「起きなさい」
凛とした声が横から聞こえた。
「!」
瞼は急に羽根のように軽くなる。
「こんな体勢でごめんなさいね、知ってると思うけれど、わたくしは長のルキネ。単独での救命行為に感謝しますわ」
「こちらこそ…この体勢で申し訳ありません。身体が、起き上がらなくて」
2人とも床に寝転がっていた。セキラは起きたのはいいものの、これ以上身体を動かす気力がない。
(起きなきゃ…)
グッと身体に力を入れる。
「そのままでいいわ、セキラ」
「わたしの名前知っていたのですね」
その言葉に甘えて入れた力をまた解く。
「長の候補の資料には全て目を通してますもの」
さすがというべきだろう。
「早速で悪いけれど、ざっくりこちらの状況を話しますわね。セキラも何が起きていたのか教えてちょうだい」
「ドラゴン族が長様に危害を?“最初の風神”様と手を組なんて」
「ビフェリオくんがねぇ…彼がこの惨状を作り出したのね。残念」
ビフェリオのことは言うか言わないか迷ったが、どうせ明るみになるだろうと思い、言ってしまった。
ルキネはこの言葉を“天使をビフェリオが放った”と解釈した。
「…彼にも、理由があるでしょう。何せ風神ですから」
これは擁護にあたるだろうか。セキラは自分で言って不思議に思う。
ビフェリオはまだ何もやっていないが、セキラはそのことに気付いていない。天使の発生と神都の消滅は全くの別問題だ。
セキラが悩んでいるところに、ルキネは切り出した。
「ところで“顎”にあった魔法具の窃盗罪のことですけれど」
「ゔ」
耳が痛い。
「今回はわたくしも助けられましたし不問にしますわ。使い終わったら元あった場所に戻してちょうだい」
「温情に感謝します…」
(にしてもそんな図書館の本の貸し借りみたいなテンションでいいのか?)
冷静になれば割と扱いが適当なことがわかる。
「…ビフェリオのことですが、この先彼はどうなりますか」
「そうねぇ、わたくしだったら死罪にしますわね」
まぁ、妥当な判断だった。
「神都全体を巻き込んだことだから…長の多数決になる可能性が高いですけれど…彼も長だから、人数が足りないのですわよね。たぶんもしかしたら、あんまり考えたくないですけれど、第3者が呼ばれる可能性が高いですわ」
「第3者…?」
一体誰のことだろうと思う。今まで何度か、というよりかイエコト事件のあとに長たちの裁判は行われているが、少なくとも“水の記録庫”には第3者が呼ばれたという記載はなかった。
「…考えないこともあった方がいいですわ。あなたは真面目ですもの」
「真面目ではありませんよ」
自分がめんどくさがりだということをとてもよく理解していた。
「真面目じゃなかったら、わざわざペクト国まで行かないでしょう?それもビフェリオくんのために内々に解決しようだなんて思わないわ」
「…何1つとして上手くできてはいませんが」
内々にしようとしても、事態の急変がそれを上回る。セキラは自分の行動が果たして最適なのかをずっと心の内で悩んでいた。
ベルラン達を巻き込んだのは合っているのか、メイテイに任せて正解か、自分も壁作りというやつに協力した方がいいのではないかと、何度も移動中考えた。
セキラが難しい顔をしていると、ルキネはそれを見かねて声をかける。
「セキラ、少し話をしましょうか」
全てを包み込めるような、慈愛を持った声だった。




