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神に祈って  作者: ロヒ
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青が来て

「はぁ…」


セキラは水神の土地にいた。口を抑え、呼吸を最低限にして、物音が立たないように建物の陰に隠れていた。


汗ばんだ手には“顎”から持ってきた、紫色の宝石が握られている。


(長様———)


水神の長、ルキネは地面でうずくまっていた。魔法壁を周囲に張り、光のような何かから身を守っているようだ。


(“最初の風神”様が攻撃しているのか?私に協力してくれる件はどうなったんだ?まさか反故?)


その可能性は高い。


セキラは神都に戻ってすぐにこの場面に遭遇してしまった。何も備えていない。ただ見つからないように息を潜めていた。前に接点が生まれているといえども“最初の風神”が水神の長に危害を加えている以上、水神の民であるセキラは近づいてはいけないと思った。


(クソ、風神の土地に行けばよかった!)


本当はここには来ないつもりだった。だが、直前になって自分の家を一度見ておきたくなった。運が良ければケンカ別れの両親に会えるかも、というのも理由の1つだが。


(ひとまず、あまり大樹に変化がないのが救いか?)


中心部から離れたところに身を潜めているので、肉眼で見るには怪しいが、水神の権能に望遠鏡が内蔵されていて助かった。ここでも状況がよく見える。


(ん?今地面が揺れたような)


いや、地面ではない。大樹が揺れている。


(まさか何か異常事態が!?)


揺れはすぐに収まり、大樹の枝から何かが生えてきた。セキラの視界内に収まる範囲で2箇所。オーロラのようなカーテンに見える。惜しいところは少し色がくすんでいるのと、風が吹いてもたなびかないところだろうか。


(もしや…これが“幕”?)


仙人からの魔法通信でメイテイからの伝言があったのを思い出す。きっと彼女がやったのだろう。


(それと火神の長様か)


セキラはそれを見て少し心が落ち着いた。


だが、今置かれている状況は変わっていない。長がうずくまっているのも含め魔法壁が可視化されているのが、落ち着いてきていたセキラの不安を煽る。


本来ならば魔法壁は透明だ。なぜなら魔力に色がないから。デザインを気にする人であれば、紋様を入れたりもするが、ルキネの壁は無地だった。


本来透明なものがくすんだガラスのように見えている。


つまり、魔法壁に含まれる魔力の密度が高いということだ。壁の丈夫さは魔力の密度によって決まる。そうでもしないと受け切れない攻撃を受けているのだ。


(長様を助けなきゃ…あのままでは死んでしまう)


何があったのかはわからないが、重症だ。“最初の風神”側にいるのはペクトのドラゴンだろうか。全く動かない。もしかすると死んでしまっているのかもしれない。


(なんでドラゴン族がそっち側についてる?)


よくよく水神の土地を見てみれば、ドラゴンがほとんどいなかった。


厳密にはいるが———全て事切れている。


が、それにしても数が少ない。そして奇妙なことに倒れたドラゴンには大きな爪の跡や、火傷の跡がついていた。


(同士討ちでもやったか)


この環境で幸運を敢えて探すなら天使がほとんどいないところだろう。たぶん目の前の戦いに巻き込まれている。それを証明するように動かない天使の山があった。


(状況はイマイチ掴めないが、長様はお助けしなければいけない)


ちょうどセキラは人を助けるのにお誂え向きの固有魔法を持っていた。


「チャンスは一度、やれ、セキラ!」


音が鳴らない程度に両手で頬を叩き、真っ直ぐ走って行った。手には宝石が握られている。



セキラが“顎”から持ってきた道具は宝石だ。


「はっ、はぁ…!」


走ってきたセキラに“最初の風神”が気づく。


「キミは…」


宝石には印魔法が刻まれている。誰の所持品だったのかは知らないが、これは世界に革命を起こせる代物だった。


「はぁ、はぁ…」


「———っははははは!!」


“最初の風神”はなぜか急に空を見上げ、笑い出した。理由はわからない。だが、セキラにとって、ルキネにとっては好都合だった。


「“深淵”は飽きたか?それともまだ、親の気分か?」

「長様!!」


不敬を承知で腹からルキネに呼びかける。


「あ、なた…」


この宝石は杖ではない。魔法そのものでもなく、ましてや魔力の固まりというわけでもない。


「魔法で移動します!」


果たして詠唱を終える時間はあるだろうか———という問題はこの宝石が解決してくれる。


「【ロネリー航海記】」


宝石に微々たる魔力を込めて、それだけ言った。本来であれば、セキラ程度の魔法の使い手は固有魔法を題名のみで発動することはできない。それも杖を持たずに。


だが魔法の船は呼応し、セキラとルキネの両名を乗せる。


セキラが持ってきた宝石は『魔法具』と称される、魔法の発動を補助する道具だった。


魔法が生まれてから遥かな時が過ぎている。だが、未だ解明されていない部分が多い。魔法書とは何か、魔力とは何か、一体魔力は体内のどこに存在しているのか、等々。より利便に扱うため、研究の過程で“杖”が生まれたが、呪文の詠唱を短縮するにはリスクがあった。


これは題名のみで魔法を扱える、世界に1つの魔法具だ。


「なぁ、どうなんだい、“最初の水神”?」


船はすでに出発した。彼のそんな声は2人の耳には届かなかった。

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