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神に祈って  作者: ロヒ
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樹は燃えて

「ねぇ、お父様。つまるところ“幕”って一体なんなの?」


メイテイは下を観察しつつ、フカンは大樹の印魔法を弄りつつ、そんな話を始めた。


幕を下ろすと言っているが、結局それは何の用途で作られたモノなのか知らなかった。今回のように天使の分断のために作られたモノなのだろうか。

魔法なのか技術なのかもわからない。


「あー、んー。事件のあとすぐに天使への対策って名目で作られたやつだな」


フカンの言葉は歯切れが悪かった。


「違うの?」

「先導は風神の長だ。他の意図があるだろうとは言われている」

「先代の長様ね」


風神の長の代替わりは2回。“最初の風神”、ファレオ、ビフェリオ。事件の後にビフェリオは長になったのでその前の長である、ファレオが進めたのだろう。


「…ファレオさんに様はつけなくていいと思うけどなぁ」


私怨があるらしかった。


(昔見た時はそんな危険人物に見えなかったけれど。確かに評判は悪い)


基本的に耳に届く話は言いたい放題だった。昔からあまり関わるなとも言われている。


「よーし、これで幕は降りた」


キーンと気味の悪い高音が鳴ったあと、大樹の一際太い枝から、半透明の光り輝く幕が降りてきた。


「はやーい」

「これでも長だからな」


今メイテイが見ているのは風神、水神間に降りる幕だが、他の土地の境目にも同じように幕が降りていることだろう。


「お父様はこれから天使を刈りに行くのよね、私は———」


(空のヤツの対処と、大樹が燃えるのを防ぎつつ、ビフェリオを探さなくちゃ)


「あ、そうだ空のアレはほっとけ」

「え?」

「害がないからだ」


フカンがあんな得体の知れないものを断定するなんて珍しい。ここまで自信をも言っていうのだから、何でもないのだろう。


…空におかしなモノがある時点で、何でもなくはないが。


(そしたら大樹とビフェリオね)


燃えるのであれば煙は必ず下から上に登る。わかりやすいから大樹の上にいたままでもいいが、それだけだとビフェリオは見つからないし、自分だけ何も動かないのはメイテイのプライドが許さない。


行くとしたら風神の土地だろう。幕は降りているが、実は大樹の葉の間までは阻まれていないので、通ろうと思えば無理矢理通れる。


「お前は一旦宮に戻れ。自分の怪我の程度はわかってるだろう」

「え?」


巻かれた包帯からは血が滲み出している。そういえば鈍い痛みが継続していた。


手や足はフカンが応急処置をしてくれたが、それでも限度がある。本来、メイテイの怪我はもっとしっかりとした治療をしなければならないぐらいだ。


(天使の耐久性は異常だった。ただの鉄なら私の体は傷1つつかない)


あの悪夢のような量を思い出した。


(まだ火神の民は戦っている)


メイテイは拳を握りしめた。


「いいえ、まだやれる。私の怪我の治りが異常に早いの知ってるでしょう。包帯を巻き直せばマシになるわ」


自分の上着の長い裾を引きちぎって古い包帯と取り替える。この血がついた包帯もフカンの服からちぎったものだ。


「民は戦っています。私は火神の長(貴方)の娘です。私にも…まだ意地を張らせて」


(早く彼を見つけなきゃ、長達より前に!)


そうでないと、本来関わりのないメイテイがビフェリオに接触する機会がなくなってしまう。


「いや…」


フカンは静かに首を振る。彼らしくない。


「お父様。私はもう子供じゃないわ」

「せめて怪我を治してからにしろと言っている」


どちらも頑なだった。まるで親子のようだ。


「治療の必要がないの。他の人に回して。どうせ怪我人はいっぱいよ」

「駄目だ」

「過保護すぎるわ」

「万全の状態で行けばいいだろう。一体何が嫌なんだ」


フカンは眉間に深い皺を寄せた。


「丈夫な私が治療を受ける必要がないと言っているのよ」

「…あーもう、わかった。もうわかったよ…ハァ」


説得は不可能と判断したのか、膠着状態から切り上げた。


「とりあえず早く火神の土地に戻るぞ」


フカンは迷子の子供に手を差し伸べるようにメイテイに手を差し出した。


だがメイテイにとって火神の土地は今戻る必要のない土地である。少なくともそこに目的であるビフェリオはいないだろう。きっと風神の土地にいる。


「……嫌」


「あぁ!?今度は何が嫌なんだ!」

「私が戻る必要がないわ。人手はあるでしょ」

「そしたらどこに行くんだ」

「…」


(どうやって誤魔化そう…)


我ながら見切り発車。何もこの先の誤魔化しの言葉を考えてはいない。

言葉を詰まらせていると、フカンが先に口を開いた。


「ビフェリオのことが気になる?」


「…!なんで…知って」


「知ってたよ。こっそり部屋の窓から抜け出してたのも。アンドンから全て報告を受けてる」

「な!?」

「ははは、アンドンは仕事のできるやつだからな。あとは年の功。俺と同年代だし」

「知っていて…見逃してたの?」


アンドンほどではないがフカンも他種とは関わり合いたくない人だ。


「ん。見て見ぬふりをしていたさ。あまり父親の器のデカさを舐めるなよ」


フカンは手の甲で我が子の頭を撫でた。


「あ、誓ってお前のそのお友達との交流を見ていたわけではないぞ。プライバシーがあるからな。アンドンにも言ってある」

「お父様…」


デキる男はやはり違う。本当にこの人が自分の父親で良かったとメイテイは思った。


「お前が公務をほったらかしにしなければ、ビフェリオにアンドンが接触することもなかった」

「そんなことを話してる場合じゃないわ」


だが、真面目すぎなところは好きじゃない。もう少し流れに身を任せてほしい。


「俺は反省して欲しいんだが———後ででいいか」


実はフカンはまだ大樹の印魔法を弄っていた。


幕はおろして天使の分断には成功したが、大樹が枯れることに対してまだ何も対策をしていない。


「これはやっぱりただの寿命だな。まったくタイミングの悪い…」


魔力を集めた指先で新たな紋様を書いていく。


「メイテイ、俺の懐に長用の連絡機がある。取り出してくれるか。風神———はお前の言い分じゃどうせ繋がらないから、水神に繋げてくれ」


メイテイは手のひらサイズの長方形の箱を取り出して、ダイヤルを回す。ダイヤルには右から順に四角形、三角形、円形が描かれていた。それぞれ各種のモチーフの形なので使い方を聞かずともわかる。


(水神だから円形ね)


カチカチと音を鳴らして切り替えた。


「緑のボタンを押したら繋がる」


言われた通りにボタンを押した。数回ピー、という音が鳴ったが何も起こらない。


「繋がらないわ」

「…もう一回やってみろ」


応答がない。


「…」

「お父様?」


フカンは手を止めて、大樹の下の水神の土地を覗こうとした。

その時、


地面が揺れた。


「何でだ!まだ枯れないはずだろ!」

「まさか…」


ある言葉が頭をよぎる。


『意思は3つ。”消滅“と”検証“と”妨害“。大樹が燃えるよ』


警戒はずっとしていた。

だがこんなにも大きな大樹が、一気に燃えるわけがないので、煙が必ず出ると思っていた。


だから下にいるよりは上にいた方が、そしてより大樹に近い方がいいと判断して、フカンに何も言わずについて行った。


煙は一度も見ていない。


メイテイは上を向いた。日を阻む葉は一片たりとも存在しない。


そこには晴天が広がっている。

それと少しの煙が。


(大樹は上から燃えるっていうの!?)


本来は葉と枝に阻まれて見えないはずの太陽が見えた。この神都は神が生きやすいように、さまざまな方法で温度調節を行っている。


太陽の熱さへの対策も完璧だった。日の当たり具合も“今木は枯れている”という意識があったから気にも留めなかった。


言い訳を並べるのならばこんなものだろう。


「メイテイ!!今すぐ飛び降りろ!」


腹の底から出した、異常を知らせる声は迅速にメイテイに伝わった。


(これは本当に駄目な時の声色)


「っ、はい!」


立っていた大樹の幹から足を踏み出して、フカンと共に水神の土地へと飛び込んだ。


(…情けない…!)


奥歯を噛み締める。

知っていた。燃えることを知っていた。

未来がわかっていたにも関わらず、何もできなかった。


(情けない!)


目に入ろうとする風を、瞼を強く閉じて防いだ。

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