幕間2(2)
「おい!メイテイ、どこだ!返事をしろ!」
瓦礫、瓦礫、瓦礫。崩れていない箇所は見当たらないほど荒れていた。家の壁であっただろう、木の枠組みを持ち上げ、下敷きにされている人はいないか———自分の娘がいないか探す。
ガラガラ、と音が鳴るが、人の声が聞こえることはない。誰も下敷きになっていないことを確認してから、また別の場所へ移動した。
「メイテイ!どこだ!」
フカンは必死だった。
すると、後ろから声が聞こえた。
「旦那様、北と西にはおりませんでした」
メイテイの付き人のアンドンだ。彼女も満身創痍ではないが、確実に疲れが溜まっているようだった。
天使が突如発生し、神都が幕で三分されてから一時間。
既に天使は掃討されていた。
少なくとも火神は、これ以上天使の犠牲者になる者はいない。今は行方不明者の捜索中だ。それだけの余裕ができた。
「お嬢様のことは私どもにお任せください。旦那様は長として風神、水神との連携をとり、首謀者を捕まえるべきでしょう」
騒ぎは治ったが、誰が天使を放ったかという問題は解決していない。
「…自然発生という線は?」
フカンは拗ねたように、自分でも無理があるとわかって言う。
「言い方を変えましょう。原因究明です」
「行方不明者探しが終わってからでいいか?」
「わざわざ長がやる必要はありません」
「…お前は昔から頑固だな。俺が探したいんだよ!」
やっとアンドンの方を向き、瓦礫をどかす手を止めた。大声を出したが怒っているわけではなく、我儘を押し通そうとする子供のような言い方だった。
「優先順位を考えてください」
「駄目だ。メイテイに何かあったら、俺は父上にもアイツにも顔向けできん」
フカンの父親は“最初の火神”。アイツ、というのは彼の妻だ。数100年前に死去している。
「その言葉は貴方様にも当てはまります。私は奥様に貴方様のことを頼まれているのです。奥様の性格は知っておいででしょう?自分の思い通りにならなかったら、何しでかすかわかったもんじゃありません」
アンドンは反論する。死者に、それも幼馴染に呪い殺されるのは勘弁願いたい。
「大丈夫。呪われても死ぬことはない。精々、外に出ると必ず靴に小石が入り込むぐらいの呪いだ」
フカンは決して呪いをかけないとは言わない。
「アンドン、優先順位って言ったな?」
「はい」
「なら、なおさらメイテイを探すべきだ。お前も知ってるだろ、あの子は俺らの子じゃない」
あえてそれ以上言うことはなかった。アンドンは知っている。3人は共犯者だった。
メイテイが死んだら“最初の火神”様がこちらにくるかもしれない。そう言いたいのだ。
だが、あくまで可能性の話。互いに自分の主張は譲れないものだった。
『あー、あー、フカン様?ボクだよ。ビフェリオです』
フカンの懐から聞き馴染みのある声がした。急いで長用の連絡機を取り出す。
「ビフェリオか、ファレオさんはどうした」
長用の連絡機から長ではない彼の声が聞こえて驚いた。まさか殺しても死ななそうな彼に何かあったのだろうか。だとしたら割と嬉しい。
声に喜びが滲み出ないか心配だった。
『おーいおい、勘違いしてそうだな。オレはバッチリ存命だぜ?』
聞きたくなかった声が出てきた。
「息災でしたか」
『あまり健康じゃないがな』
そういえばビフェリオの声は明確に聞こえたが、ファレオの声は少しこもって聞き取りづらかった。
『今オレ下敷きになっててさぁ、身動き取れないんだよね。だからそろそろ幕を開けようかと思ってたんだけど、あれ長じゃないと操作できないだろ?代わりにやってよ』
「今は都合が悪く…」
『じゃあ頼んだぞ』
思わず連絡機を睨んでしまった。
『すみません、フカン様。実はボクの友達が水神の土地にいて…』
「友達?幕が降りる前に風神の土地を出ちまったのか?」
『…そんなとこです。心配で』
ビフェリオは成人してからかなり経っているが、声変わりはあまりせず声はまだ幼いままだった。
(…良い子だ。本当にファレオさんの子供なのか)
「ビフェリオ、長の座に興味はないか」
『今のところは特に』
「残念だ」
ちらりとアンドンを向くと、睨んでいた。
この睨みかたは“早く幕でもなんでも下ろしてこい。長にしかできないことをやれ”だろう。
『都合が悪ければ、どうにか父を引っ張り出すので無理せず…』
「やるよ。心配しなくていい。代わりと言ってはなんだが風神の土地で人を探してもらえないか」
『もちろん』
「俺今娘を探してんだよ。メイテイっていう」
『え!?本当にボクに協力してもらっていいんですか!?探してあげたほうが…』
「優秀な奴の手が空いているんだ、大丈夫。いやぁ、未来の長に恩を売ってしまったな」
冗談半分の言葉だった。長の候補の一人といえども、その候補は数多いる。ビフェリオがならない可能性の方が高い。
『必ずこの恩はお返しします。フカン様』
だが、ビフェリオのこの言葉は実現する気がした。
「ん、頼んだぞ」
『行こう、クルエッタ———止めなきゃ』
連絡機の切り忘れか、そんな声が遠くで聞こえた。




