叱られて
メイテイが家出を宣言してから30分間追手を撒く為に担がれ、ビフェリオやっと解放された。
「暗黙の了解を破っているのはボクらだよ?これぐらいの仕打ちは甘んじて受けるべきだ。そしてキミは家に帰るべきだ」
「嫌よ」
「ほらね、セキラ。メイテイが聞く耳なんて持つはずがない」
「成るほど。本当にそうですね。それであなた達はまたここに戻って来たと」
逃げ込んだ先はセキラの居る“町もどき”。ここなら見つからないと判断したのだろう。
ビフェリオはセキラからの「ちょっと説得してみてください」という言葉に素直に従ってみせた。
「メイテイの従者の言っていることもあなたが何を気に食わないのかも理解できますね。ですが、わたしを巻き込むのは理解できませんね。ビフェリオはともかくメイテイはとっととお帰りください」
「貴方が逃げた事、忘れてないわよ。それに他種が交流しているのが駄目なら貴方もその対象よ」
さっきまで感情豊かに怒っていたのに急に真顔。機嫌の悪い今は何を言っても逆効果だ。
表情筋動かすの忘れてるよ、とは思っても到底口に出せない。
(だってボクにヘイトが向くからね!)
「ははは、ご歓談中の所悪いけど」
「何急に他人ごとの様に話してるんですか」
「ボク流石にそろそろ帰らないと夕食が遅れちゃうんだよね。もし遅れたりなんかしたら風神みんなから恨まれちゃうんだ」
風神が生活の中で最も重要としているのは“食事”だ。朝、昼、晩の計3回、長が鐘を鳴らすことで食事ができる。食に重きを置くからこそできる、長への服従の示し方だ。
ここで何を言いたいのかと言えば——鐘が鳴らないといつまで経っても食事をとれないということだ。神も生物であり、食べなければ死ぬ。昼の鐘はセキラの家探しにより鳴らせず、このままいけば1日1食という悲劇が待ち受けることになる。
「あぁそれもそうね。もう行っていいわよ」
(やっぱり許可取る必要あったんだ)
「じゃあボクはこれで。あっセキラ」
少しわざとらしいが、どうしても2人に見せておきたいモノがあった。
「なんでしょう」
2人は息ぴったりに同時にこちらを見る。その姿にまた笑いそうになったが、今度は堪え切れた。なぜなら真面目な話だからだ。
「この町の奥にある噴水さ、水がまだ流れてるから止めといてくれない?」
誰が何と言おうとこれは真面目な話だ。
「分かりました」
セキラは首を傾げたが了承した。メイテイも同様だ。
なんとも不自然な普通の会話だった。