【連絡】
『…はっず。俺は思春期か?』
頭は回るくせに自分の発言を制御できないのが彼だ。
「なんだ、別に恥ずかしいことでもないだろう。素直で良いじゃないか」
『……話を戻します。これはお願いなんですが、お顔を伝えるので、俺が同行していた水神様に神都の今の状況伝えて貰えません?真っ青な髪で〜桃色の目で———』
(照れたな)
この場合の顔を伝えるとは、特徴を口頭で伝えることではない。この魔法は自分が思い浮かべていることを相手に直接伝える事ができる。魔力という糸を通って脳裏に画像として出力されるのだ。
「面倒なことを頼むな」
ベルランはそんな言葉を聞いたのか聞いていないのか、すぐさま、無数の情報が流れ込ませた。
(多いな)
アルバムを見るかのように伝えられたものを見た。ぺらぺらと。
この魔法は遠くの人と話せる、思い浮かべていることを伝えられる、という時点でとても優秀だが“思い浮かべていること”が全て自分に流れ込んでくるのでそこはかなりの欠点だ。
たとえ猫探しで猫の姿を伝えようとしても、関係無い飼い犬の姿も一緒に伝わってしまう。最悪、プライベートなことも流出する可能性があるので最低限の配慮として、アルバムはパラ読みだ。
(青髪、桃色、目つきが悪い)
1人該当している場合を見つけた。背の低い、中性的な見た目をしている。
「届いたぞ」
『ありがとうございます。それから、軽く流しちゃいましたけど、t、大樹が枯れるってttっ、ういt、で…か?』
後半になるにつれ、ひどい雑音と言葉の遅延で聞き取りができなくなった。
(とりあえず大樹のことを聞いているのは分かった)
「大樹が枯れると神都が落ちる。この場合の地上の被害は考えたくもないな」
ほんの小さな物体でも高い所から落とすだけでかなりのエネルギーを生む。その小さな物体が神都に置き換わったと考えればいい。
神都は決して軽くなく、主な構成は土と草と水と岩だ。ついでに神もついてくる。火薬を一切使わない、自然の爆弾だ。
『rあ、そt…むりでs…』
最後まで言い終わることなく、プツンと切れた。
(チッ、もう魔法の効果範囲外か)
話した時間は3分ほど。普段はもっと保つが、範囲が範囲だ。
神都からではおかしいことに、なかなかベルランの魔力が見つからず念話の範囲を通話可能時間と引き換えに広げて、やっと繋がったらなんと神都の外。私の周りは行動的な奴らが多過ぎる。
念話が切れた今も範囲は少しづつ狭まっている。少なくとも、水神様のいるペクトまでは再度魔法を展開しなければ届かないだろう。
「あぁクソ…魔法が憎い」
なんだかんだいろいろ頼まれた。とりあえずスレンドには連絡を入れるつもりだったが、それに加えてベルランが同行していた水神様にも神都の状況を伝えなければならない。
(とりあえず魔力に余裕がない)
固有魔法は使う魔力が多いのが難点だ。
「お師匠、何かお困りですか!」
犬のようにメイが寄ってきた。嗅覚が鋭い。だが今の認識は犬ではなく、歩ける大容量バッテリーだ。
「魔力を貸せ」
メイはエルフ。魔力量が多いため、多少取ってもあまり支障がない。
端的に冷淡に言った。
「限界まで搾り取ってもらって構いませんよ!少しは体調が悪くなりますが、その原因がお師匠でしたら、苦しみは悦びへと変貌するので」
いつものように情熱的に興奮気味で答えた。
「私はベルランがここに来たら地上へ帰るが、お前は帰るときにあいつを乗せて帰れ」
それを無視するのはもはや義務だ。
「え…」
漂う悲壮感を無視して無理やり手首を掴む。
「ヒョェ」
魔力の譲渡は相手の体のどこかを掴むか、魔力耐性のある物を媒介にしないといけないからだ。そうでなければ自ら他人の手首など掴まない。ましてやメイのものともなれば、だ。
「げへへへへへへ」
「ふん?じゃあ、エルフくんはベルランが来た後も彼が帰るまでここに残るということかい?」
静かにその一連の流れを見ていたファレオがここにきて口を挟んだ。その理由は白米を食べていたからだ。
先ほどまで料理の類など一切無く、その他の風神達も皆行動を止めていたが、鐘を鳴らしたかと思えばすぐに食事を長テーブルに運んで来た。
風神は動けないという話だが、やはり生命維持に関わることは例外なんだろう。
それにしても提供があまりにも早い。そしてぞろぞろと腹を鳴らしながら大勢の子供もやって来たので、大広間には物がほとんど置かれていないというのに手狭に感じる。
「はい。それからベルランも十分以内にここに来ます」
(あいつが万一に遅れてもいいように少し時間は多めに見積もっておこう)
「そうか、ま、部外者は席を外してもらうことになるけどね。それで、待ってる間どうするキミたち、ご飯食べるかい?新米だから美味いぜ?」
ファレオは話しながらも咀嚼をやめない。だが、下品とは感じない。咀嚼した食べ物が飛び散っていないからだろうか。
「お気遣いいただきありがとうございます。ですがまだやることがありますので」
「そしたらそのやることをする前にオレからひとつばかりいいかな」
ひらひらとスプーンを持った右手を掲げる。
「どうかいたしましたか」
「さっきこの長用の連絡機から通信があってな、他地域の状況についてだ。この情報は必要かな?」
【セキラへの連絡】
うわっ、誰…?え、あーはい。セキラと申します。はい、あなたはベルランのお連れの…話には聞いています。念話…なるほど。いい魔法をお持ちですね。
それで、用件とは?———なるほど。神都の大樹は枯れ始めていて、天使は未だ大量で、風神は動かず、外は基本的に矢の雨で火神の領地の被害が比較的多く、水神の土地で住宅に大樹の幹が落ち、改善された点はドラゴンが来たことによる印魔法の撤去だけだと。
は?
失礼しました。伝えてくださりありがとうございます。
…彼、風神に呼び出されたんですか?ちなみにどんな方でしょうか。見た目の特徴ではなく、性格のほうで。はい、フレンドリーで、明るく、声のデカい、一人称がオレの人ですか。
ちなみに名前を呼ぶようにお願いされましたか?されましたか。ファレオ様ですね。先代の風神の長です。
ええ、お察しの通り確実に面倒ごとです。
わたしは面識がありませんが、過去に男女問わず6股かけたり、水神の長との会議で急に相手にナイフを投擲したりしたことで有名でした。
まぁ後者の情報は正確ですが、前者は多少数が前後しますね。
魔女の彼に最大限の警戒するように言っておいてください。
あ、ついでにもう1人念話頼んでいいですか。わたしの状況を伝えて欲しいです。こちらは一つだけ使えそうなモノがあったということと、魔法書は無かったということ。意味が分からないと思いますが、よろしくお願いします。
…顔を見たことがないとできない?
では私にはどうやって…あぁ、魔力を通して顔を伝えると。なるほど。やってみましょう。
申し訳ないですが、往復ってできたり…
【メイテイへの連絡】
あらお父様、声が少し高くなったかしら?え、喋っていない?頭に直接声が届いてるのよ、誰かしら。
え、このやり取り筒抜けなの!?…えー、ごほん、私は火神よ、貴方は誰。
仙人?あー眼鏡をかけた子の姉弟子の、なるほど。セキラからの伝達ね、感謝するわ。へぇ、魔法書自体はなかったけれど、使えそうなモノがあったと。
こちらの状況としては、火神の長と合流、今は各領地間に幕を下ろすために地下の会議室に向かっているわ。町もどきの更に下よ。長の方々がそこで会議をしていたらしく、対応が遅れていたみたい。ちなみにその会議にはビフェリオ…セキラには友達と言っておけば伝わるわ。
その人はもちろん参加していないの、ゴタゴタが収まった頃に風神に処分を任せるそうよ。
神都の状況はとりあえず悪いわ。天使と印魔法の被害も確かにあるけれど、何より混乱とフラッシュバックね。特に火神、正常な判断ができていないわね。でも他も似たり寄ったりだと思うわ。
水神は…やっぱり、突発的だったこともあって魔法の展開が間に合ってない人が大勢居たわ。助けられる人は家まで送ったけれど、多分水神の長様がなんとかしようとしているわ。すぐどこかに飛んでいってしまったからよく分からないけれど、お父様が言うには“最初の水神”様の保管庫に行ったんじゃないかって。
良いことはドラゴンのお陰で印魔法の解除がスムーズに進行していることかしら。あ、火神はドラゴンの協力をこれ以上受けないようにしたわ。火神は火神でなんとかします。風神はどうするのか知らないけれど。
それから、これは姉弟子の貴方へのお願いでもあるけれど、眼鏡をかけた仙人の子は地上に送ったの。と言ってもペクトの方向ね。
壁を作って欲しいのよ、協力してくれるかしら。
神都がもうじき落ちる。必ず地上に着かせちゃいけないわ。
じゃあ頼んだわね、姉弟子さん。
【再びセキラへ】
あ、お疲れ様です。心なしか前回よりも繋がりがいい気がします。回数の問題でしょうか。
…はい。なるほど、分かりました。神都の落下に関してはお任せします。いや…本来は任せない方がいいんですけど…彼女の考えに従ってみます。もうわたしは何も思いつかないので。
あとは、これを使うチャンスを見極めなければ…失礼、こちらの話です。
では、ありがとうございました、今度出会えたら直接お礼をさせてください。あなたたちにはとても助けられました。それにふさわしい返礼をしましょう。




