再確認して
ぼんやりと神都の影が見えてきて、やっぱりデカいな。なんて思いながら空を飛んでいる最中だった。
『ベ、ラン…ベルラン。聞こえているか』
「うわーーー!?」
『やかましい』
「急に念話で話しかけないでくださいよ、もう!」
久しぶりに声を聞いた気がする。いつもと変わらずのハスキーボイスだ。
「メイさん見つかったんですか?」
元々あちらがメイを見つけたら念話を送り、こちらが見つけたら、ベルランが直接伝えに行くという話だった。神都へ行く時に仙人の居場所が分かる札を持たされたので、ベルランからは向こうの居場所が分かる。
はずだが、どこかで札を失くしたために連絡の取りようがなかった。
『ああ、見つかった。私達は地上に帰る、スレンドもな。だがお前は風神様からのご指名が入った』
「どういうことですか?」
メイが見つかったのは喜ばしいが、流石に状況が理解できない。
『今どこにいる』
「ペクト国上空です」
『神都にいたんじゃないのか』
「色々ありまして。神都へはあと15分ぐらいですかね」
斜め上の神都の姿はまだ靄がかかっている。
『…面倒ごとに巻き込まれているな…はぁ。にしても15分か、お前にしては遅いな』
最初に神都へ来たときに、ペクト上空を通ったがそのときは5分ちょっとで着いた。だが今は先ほどに比べるととても遅く飛行している。
「魔力の3分の2ほど使ったので」
飛行魔法は低燃費で知られているが、ここは神都付近。すっかり忘れられているかもしれないが、イエコト祭前なので、常に熱波が神都の周りを満たしている。
飛行以外に熱波への対処にも魔力を使っていた。移動は一苦労だ。
(あとは“顎”に入るときの思ったより消費が大きかった)
それに加えて、セキラと初対面した場所を壊したのもかなり響いている。あそこはかなり丈夫だったため苦労した。神様の手前見栄をはったが、それで四分の一は持って行かれている。
(仙人様みたく念話ができたらなー)
そしたら2人行く必要もなかっただろうに。
『お前がか?本当にそんな量の魔力を使ったのか?…いや、よそう。そうなんだろうな、了解した。ひとまず風神の領地に向かえ』
「これ以上の速度出したら俺、地上に帰れなくなるので、ご承知おきくださーい。というかその神様は待たせても大丈夫な方ですかね…」
少し喋りが軽くなる。今までもちゃんと敬語を使えていたか怪しいが。
『微妙だ。まぁ、待たせないほうが安全だな。これはメイが粗相をした尻拭いだ。帰りの魔力が足りないならあいつだけ残して、帰りはメイに運ばせようか?』
「怖〜あの人に俺を途中で突き落とさないようにって、言っといてくださいよ。メイさんすげー危険運転するんですから」
「ああ」
「それから神都の方は大丈夫なんですか」
ペクトに行く前もまあまあの惨事になりそうな空気感だった。
『なんだ、天使の大量発生を知っているのか。現在も継続中だ。状況は悪化している』
「悪化って…」
『天使の増加は未だ止まることを知らず、お前を呼び出している風神様によると、大樹が枯れ始めているらしい。朗報はドラゴン族が来ているぐらいか…待て、お前ペクト上空に居ると言っていたな?』
「俺じゃないですよ、俺と一緒にいた水神様が頼んでたんです」
『お前の言う、“色々”にそれも含まれているのか…』
念話先でも相手がため息をついたのがわかる。
「あと、スレンドのことですが俺とは別行動しています」
『何?』
「えぇと、神様のお名前ご本人がいなくても言わないほうがいいんでしたっけ?」
自分と格が違う存在を認識するような行為は、不幸が降りかかると昔から言われてきている。その行為で分かりやすいのが名前を呼ぶことだ。
『そうだな』
「スレンドは橙の髪と目で、こう…元気で…桃色の上着を羽織っている、お若い女の火神様と一緒に行動しています。メイさんの捜索とその方の怪我の処置をするために——あっ」
思い出した。
「スレンドの固有魔法!」
スレンドは他人の治癒ができると嘘をついている。ただの生徒である自分は知らないかったが、同じ仙人に師事していた、付き合いの長い仙人様なら知っているかもしれない。
『耳が痛い、それがどうした。あいつの魔法はお前も知っての通り自己再生だろう。『マトリョシカ』と言ったか』
「それが———」
どうせならと思い、自分の経緯を簡単に伝えた。
『なにそれ…私知らない…』
「知らないですか…」
もう本人に聞くしかない。
『あいつは遺伝魔法も持ってなかったはず…お前と違って魔女じゃないから、自身の魔法以外の習得ができないし…』
(そうなんだよなぁ、でも事実としてスレンドは治癒ができるんだ)
はるか上空から落とされて無傷でいられる生物はどれほどいるだろうか。ベルランが見たとき、メイテイは全くの無傷だった。
(前々から地上で提唱されてたけど、多分神と人間の肉体の強度はそれほど変わらない)
多少は違うだろうが、もしそうでなければあの事件で神は人間に殺されることはなかった。
(落とした相手のことはあまり話してもらえなかったが、今まで暮らしていた神都に天使を放つぐらいだ。知り合いでも殺すだろう)
『…固有魔法に関してはあいつの自己申告だ。条件が条件だからな、見たことがない』
スレンドは神を騙した。それ以前に、俺たちに嘘をついていた。
(余計なこと水神様に聞き返さなけりゃよかったな)
『ひとまず私はお前と一旦合流するまで風神の領地に居る。メイをお前に預けたあと、私は帰って仙楼でスレンドの住民票を見てみよう。所持している魔法の申告は義務で記録されているからな』
「仙人様」
『なんだ』
長く共に過ごしてきた人の嘘を再認識した。
世界の彩度が下がった気がした。
「なんか…信用されてなかったって分かるの、嫌ですね」




