鐘を鳴らして
「大樹が枯れる、それは貴方様にしか分からない事なのでしょうか」
「枯れるだけなら見るだけで皆、気付けるさ。というか気付いているぞ。多分」
風神の領地はとても静かだ。誰も天使から逃げない。叫ばない。動かない。
2人は大樹から離れて風神の長が使うという、真っ白な家の中で話していた。だが、家というより巨大な石をくり抜いて作った箱、と言った方が適切だろうか。それが三段積み重なって、塔のようになっている。
「大樹が無くなれば神都は落ちてしまうのでは。とり乱さないので?」
「後半は皮肉ってるみたいだなぁ」
「…失礼いたしました」
こうして神都が落ちる危険性があるというのにゆっくり話しているのは、ファレオに無理矢理連れて行かれたからだ。
(早くこの方と離れたい…)
だがそんなことを言おうものなら、
『ん、何か言った?聞こえないなぁ〜』
と言われて、わざわざ被っている帽子を取ってつむじを押される。かなり強く。既に実践済みだ。
「キミはあの事件を知っているのかい?それとも実際に体験したのかな」
次の話題に切り替わった。
「幼少の頃、体験しました。詳細は仙術の師に」
「感想は?」
「地獄でした」
これ以上に相応しい言葉はこの世に生まれてないだろう。今でも焼かれた肉の臭いと、肌にへばりつく脂の気色悪さを鮮明に思い出せる。
「オレはあの事件を乗り越えた者は、死を乗り越えたも同然だと思ってる」
ここに来たことがあるのか、慣れた様子で迷路のような廊下を進む。
「過大評価でしょう」
「諸事情で前線には居なかったが、あれは酷かったぜ?」
「生き延びたのは運の良かった者だけです」
その地域に住んでいた賢い者は、危険を察知して事前に逃げた。残ったのは神様を甘く見ていた人間だけ。力が無い分、生き残るのは必然と運が必要になる。
「なるほどな」
興味があまりなさそうだ。
「ところで気になったんだけど、もし彼をキミが見つけたら、どうやって他の2人に伝えるつもりだったんだ?神都は広いからね、連絡手段がないと合流は難しい」
彼というのはメイのことだろう。
「私の固有魔法です。伝達思念…所謂、テレパシーのようなものが使えるので、それで連絡をする予定でした」
「ほう!かなり効果範囲が広そうだ。どれぐらい持続するんだ?」
「呪文を言ってから、1時間は無制限で使えます。効果範囲は縮まり続けますが」
「十分だね」
(?)
ファレオは歩き続けていた足をやっと止めて、正面の扉を開ける。
驚いたことに飛び出してくる人影があった——
「お、お師匠!何でここに?とにかく会えて嬉しいです〜…って!誰です!?前のソイツは!死ね!!」
「お前!?」
何でそこに居るんだという疑問と、神様になんて口の利き方をするんだ、という怒りが混ざる。
「なかなかにファンキーだな」
「誰だ!」
「風神だ」
「お師匠に寄るなよなぁ!!」
獣のようにファレオを威嚇した。
「お宅の子の教育どうなってるの。なんだか哀れになってきた」
「キシャー」
「メイ、お前はもう黙れ」
メイはバツのを悪そうな顔をしつつも黙った。
「申し開きもございません…。せめて命だけは」
「あー、いいよ。命なんて。神都それどころじゃないし、オレも面倒な後始末があるんだよな」
(良かった)
「うんうん。じゃ、オレの代わりに馬車馬の如く働いてもらおうか」
(そうきたかー)
「言っただろ、面倒な後始末があるって。結構前の負債なんだけどな」
キミらがやった方がスムーズだ。と言い、肩を組んできた。メイの瞳孔がこれでもかというほど開いている。
頼むから暴れないでくれと思いつつ、頷いた。
「はい…」
本当はこの騒動に巻き込まれないうちに帰るつもりだったが、この神様に見つかった時点で不可能になった。自分はともかく他の3人は、今ここにいて欲しくない。今みたいに碌なことにならないからだ。
「それで、内容は」
「話が早くて素晴らしい!こっちもこっちで探し人だ」
弾むようにメイが居た部屋の奥へ歩き、目の前にあった大広間の鐘を鳴らした。
重たい鐘の音が風神の領地に広がっていくのが分かる。
「ベルラン・アンスリオールをオレの元に連れて来い」
「ベルランを…?」
「あぁ。キミと出会った偶然には是非とも喝采を贈りたいものだよ。テレパシー、なんて便利な魔法なんだ!」
(偶然にしては私と離れようとしなかったな。仕組んだ…?いや、風神は今未来が視えて無いらしいしな…)
保留していた、何故この神様だけは動いているのかという疑問も出てくる。
「さぁさぁ、早速やってくれ!」
発声が良いところが地味にベルランに似ている。そんなどうでもいいことを思いつつ、呪文を口ずさんだ。




