眺めて
全速力で空を飛ぶ。まずは真下にある、ペクト国の保管庫だ。水神の管轄内だからある程度融通がきくのが楽で良い。イエコト祭間近による神都付近の熱、そして雪国であるペクト国の寒波。身ひとつで出るには少々厳しい環境だ。
「暑くて寒くてぬるい!!」
そう叫ぶのはベルラン。
こんなことなら家にある杖を持ってくれば良かったとも思う。
(父さんと母さんは大丈夫だろうか)
家出してきた身だが、心配になる。本当はすぐに帰るつもりだったがこんなことになってしまった。
大した喧嘩でもなかった…そうでもないか、本を勝手に捨てたのは許せない。
もう神都が手乗りサイズに見えるほど遠く離れた。大樹は遠くでも良く見えた。
(水神のみんなが死ななければ良いが)
神都の様子を見るために手を丸の形にして覗き込んだ。どんどんズームしていく。
「良いな〜便利ですね」
ベルランはセキラを羨ましそうに見る。
水神の権能だからどう足掻いても彼には扱えない。
視界はどんどん神都のものを目に映す。大樹、建物、天使、神、地面…の中に…魔力?
「…神都の地面に何か書かれてる?」
天使が大樹を囲うように一ヶ所に5、6体集まっていた。
(知らない言語か…大して驚きもない。相手は殆ど正体の分からない天使だ)
「なんか魔力こもってますね。全然目視できませんけど」
ベルランは目を細める。
「それ逆に目見えてるんですか?」
細めすぎてもはや横棒一直線だ。
「視力悪いんですよ」
そういうことではない。
「…あれがなんだか分かりますか」
「印式の魔法ですよね。内容は地雷の火炎噴射機版みたいな。でも外に火が出るんじゃなくて、内側に出ます」
「そこまで分かっているなら十分です」
(この距離で未知の言語の魔法を読み解けるなら、“顎”へも行けるだろう。…多分だが、クルエッタの魔法書の読み取りも出来る)
ただの魔女とは思えないほど有能だ。魔法に関しては特に。
(最初に会った時も種族に違和感を感じた。言語化が難しいが、魔力の質が魔女とは違う気がする)
そうっちゃそうだが、違うっちゃ違う。今見ても見た目と感覚が合わない気色悪さからムズムズする。
ただ、本人は自身を魔女と認識しているようだし、それを騙っている様子もなければ意味もない。今はやるべきことが他にあるから様子見するしかないだろう。
「なんで地面に向けて魔法を発動するんですかね?」
目を細めながらベルランが聞く。
セキラはそれの予測はつけていた。
(大樹の根を絶やすためだろう。ビフェリオの手段がこれか)
どう考えてもヤバいのは分かった上で、どうにも出来ないから今も空を飛んでいる。もう神都から離れすぎた。今から戻って魔法を解くより魔法書を探した方が早い。
「この場でわたしたちに解決できる問題ではありません。…あの2人がどうにかしてくれることを信じましょう」
(多分存在には気づいている。きっと解除もできるだろう)
だが、思っていたよりもずっと天使の量が多い。被害を少なくするためにも早く行かなければならない。
「速度を上げます。ついてきてください」
ヒュン、と風を切る音が聞こえたかと思えば、鷹のような速度で飛んでいった。
「速い…!」
ベルランは必死にセキラについていく。
ペクト国はもう目前だ。




