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神に祈って  作者: ロヒ
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詰められて

「——『あなたにあげる 思い出を』」


ぴたりと周りの音が消えたように感じた。

身体中にある魔力を言葉に込める。


「『おれたちの船のはなし』」


血液のように、神経のように、そこに確かに巡っていると。当然のように知覚出来ない存在を認識する。

この魔法の原理の根幹。こうは思えないだろうか。

“船は災害を乗り越えられる”と、


「『荒波を乗り越えて 新しさを見る』」


人々は様々な目的を持って海へ出た。新たな大陸、新たな景色。物に経験に文化。祖国に持ち帰る為に、必死に進むための方法を考えて来た。


それは、迷わない為の地図だったり、飢えないための保存食だったり。様々な工夫を凝らしても、帰って来なかった船は山ほどあるだろう。


だが、帰って来た船は?

嵐、遭難、病気、飢餓、争い、ストレス、他にもあるだろう。それに打ち勝った人が居るのだ。逃げ切れた人が居るのだ。


海上において、船と船員は一蓮托生。


「『苦難を超えた歓びを聞いて欲しい』」


ならば、そんな人を乗せた船はあらゆる災害を乗り越えられるモノにならないか?


馬鹿だ。だがセキラは信じている。そうであると信じて疑わない。

子供の時、霞がかった視界の先に外国があると信じたように。


側面から見た世界を全てと思い込む。


「【ロネリー航海記】」


これが魔法だ。


最後の音を言い終わったと同時に、セキラを中心とした光の紋様が稲妻のように現れた。円を描き、蔦は伸び、花を咲かす。繰り返し、繰り返し。時折、風が吹いたかのように揺れる。


猛スピードで成長しているのだ。


どんどんと外へ広がっていき、4人全員を範囲内に収めたかと思えば、蔦は上に伸び始め———まるで船のような形を作り始めた。


この時点で5秒は過ぎている。

周りは行く手も退路も崩れた壁面によって阻まれている。


だが全員無事だ。


「凄いわね」


思わずメイテイもそんな感想を漏らした。


“船は災害を乗り越えられる”という酷く限定的な前提。そのため、セキラの魔法は発動する条件がひとつ増える。


それは2人以上の生命が脅かされている時だ。

そんなことは普通無い。それに、“範囲内の人と認識したモノを逃す“といった性質上、使いどきが無い。今しか無い。


半透明の蔓草はいつの間にか木材に変わり、地上へと貫通する帆が立てられていた。


船は少しずつ前に進み始めたと思ったら、次の瞬きが終わらないうちに残像が見えた。つまりは高速で進んだ。目の前は塞がれているというのに。



瞬きが終わると、目の前には違う景色が広がっていた。

とある人は見慣れた場所だ。


「あら?ここって…」


落ち着いた朱色の壁に、お香の香り。黒塗りの調度品の数々には金色の意匠が施されている。きっと高級品だろう。


「うっ、うわーーーーー!!」


そしてそこには尻餅をついた使用人がひとり。


「旦那様ー!?」


即座に部屋の外へ。


「黙りなさい!」


華麗に決まるヘッドロック。


そう。ここはメイテイの部屋。火神の領地だ。それも”最初の火神“の血を引き継いだ、本家本流の由緒正しい者たちが住まう、お屋敷である。


(ここかー)


逃げる場所はその場に居る人の中の記憶上からランダムに決まる。だが、候補は2人以上いれば良かったので、スレンドとベルランは除外している。


今回の指針になったのはメイテイの部屋らしい。


「水神様〜ここって…?」


スレンドが辺りを観察しつつ尋ねた。


「メイテイの家です。早く出たほうがいいですね。問題になるので」


(不法侵入もそうだが、火神の領地に水神が居ることが問題だ。…いや、スレンドが居る事の方がやばい。仙人と言えども人間だし)


「スレンド、聞いて驚け」

「ん〜?」

「腰抜かして立てない」

「手を貸して下さい、ぐらい言えないの?」


と言いつつも手を差し出していた。


(仲が良いんだな)


「———!」


何やらぐもった声が聞こえる。


「———ぅ」


落ちたようだ。


「メイテイ、その方は?」

「私の使用人よ。アンドンっていう子」


一仕事終えたかのように手をはたく。


「仕事は出来るけど、差別意識が強いのよね。セキラの姿を見られたから、間違いなくお父様にチクられるわ」

「説得はできませんか」

「無理ね」

「貴方様の部下なんですよね?だったら、目上の人権限でどうにか出来ないんでしょうか」

「私をとてもとても慕っているのでしょうけど、それ以上にこの子、長に…私のお父様に心酔しているのよ」


(とても自分のことを慕っていると思っている部下にヘットロックかけられるのか)


「心酔ですか…」

「不倫なんですか?」


スパーン


「言葉を話すなら脳みそを使ってからにしなさい?」

「すみません。教育し直します〜」


バチーン


(余計な言葉しか言えないのか?)


有能なのに、備え付けのデリカシーが可哀想な魔女だ。


「話を戻します。…とりあえず、お2人は窓から出て探し人と共に、神都から出ていって下さい」

「え!?あ、ありがたいですけど…なんか今大変な事が起こってる、というか起ころうとしてるんですよね?俺たちも微々たるものですけどお手伝いできますよ」


腫れた顔でそう言った。

水神様がわざわざ素性の確認も取れない魔女に対して、神都にあるものを壊すというお願いをした。それはベルランにとって十分神都での異常事態を予感させるものだった。


(嬉しいが2人にも大切な人がいる以上、死ぬ可能性のある協力させたくはないし、人数が多いに越したことはないが”最初の風神“様からのご協力がある)


それに天使が、神の権能の一部を有している可能性が高い。あまりに危険だ。


(…これは俺たちの友達の問題だ)


「いえ、大丈夫で———」


「風神様関連の話ですかね?もっとおおごとにしても良さそうなのに、そうしないっていうのは、向こうが対策しまくってるのと、誰も信じれない未来の話だから?」


すごい話し出した。


「全部後手後手になってそうですね。でも、何か起こるということを知っているなら、風神様側からのヒントがあったんでしょうか。そうなると、複数犯の仲間割れか、単独犯の気の迷いか、単なる愉快犯か」


早口で喋る喋る。


「俺たちを関わらせないようにしてたのは、神じゃないから。当事者じゃないから。多分水神様のご配慮ですよね。あと、他に協力者のアテがあるんじゃないですか?仙人だって個人の精神と技を極限まで鍛えた人しか成れないですし、水神様の魔法を見た限りでは、出来ることはかなり限られますし。手数が多い方が良いのは分かっていると思います。よっぽどの事がない限りあの2人も手伝ってくれますし」


何で合ってるんだよ。見てた?


「そんな4人の協力者を受け入れないのは、合理的じゃないですよね。よっぽど貴方様がお優しいか———俺らよりも格上の実力者が協力者に居るか。まあ、もしそうだとしてもそれプラスで“まだ何も分からないから”っていうのはありそうですけど…”そうであって欲しくない“の間違いですかね?」


怖。どうしよ。


セキラは再度思う。デリカシーのなさだけ本当に残念だ。

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