魔法を使って
『この場所の破壊?出来ますよ』
(…天才か)
ダメ元だったが返ってきたのは頼もしい返事だった。魔女だから、攻撃ができるのは知っていたが出来るとは思わなかった。
『じゃあやりますね』という軽めの返事と共に辺りを適当に絨毯爆撃。といっても爆弾ではなく、燃える火の鳥——朱雀だったが。
(三種魔法の一つ、見るのは初めてだ)
そんな地形破壊をして出口に向かい、今に至る。
「あ」
「あっ」
「はい?」
「げぇ、スレンドかよ」
遭遇である。
「ベルラン、ちょっと表出な」
「うわーーー!神様っ!」
先生に首元を掴まれながら、必死にセキラに懇願した。
「げぇ、は無いと思うわ」
メイテイは腕を組んで壁に頭を預けて、静観する方針のようだった。
「そっちのじゃないです」
「あ?」
「すいませーん!」
やはり謝罪の速度が早い。
喧嘩が始まる予感がした。
「…ベルランの先生、ですよね。そのお弟子さんにはお世話になりました。少々疲れさせてしまったので離してやってください」
ビフェリオと似た雰囲気のあるベルランを放っておくことはできない。
今は外に近い階段上で話しているが、外と町もどきとの距離はかなり遠い。それまでずっと彼と話していたからか、情が湧いているようだ。
「あなたってば何やったのー?」
「ちょっと破壊に勤しんでました」
あまりにも説明不足な回答だ。スレンドは顔を真っ青にしていた。
「諸事情により、わたしからお願いしました。彼はわたしの言うことに従っただけです」
「あぁ、だからこんなに焼け焦げた匂いがするのね。…あの町を壊したの?」
「ひとまず、その辺りの話はこの人たちと別れてからにしましょう」
(無意味に巻き込みたくはないから離れるが、本音を言うと協力して欲しい。人手が足りない)
想像よりもずっとこの魔女は強かった。なら彼の頭が上がらない人たちは一体どれほどの才を持っていることだろうか。
すると、メイテイの顔が少し強張った。
「言いたいことがあるのだけど、良いかしら」
珍しく目線が合わない。手を引かれて、少し後ろに戻る。それからひとつ間を置いて、
「私…ビフェリオに殺されたわ」
頭を殴られたような衝撃だった。
「あり得ない」
「事実よ。彼女に助けられたの」
信じられない情報に、頭がついていかなかった。たらりと汗が頬をなぞる。視界が揺れて、周りの声が霧がかったようにぼやけて聞こえる。
もしかしたら、“最初の風神”が化けていたようにまた別人かもしれない。そうだ、きっと…
「間違いなく、彼はビフェリオだった」
だが、現実だけは鮮明にセキラの鼓膜まで届いた。
(なぜ?なんで?だって、あなたは、あんなに…)
答えの出ない考えを巡らせる。
意味のないことだと気付く。
(咀嚼しろ、事実を飲み込め)
ごくん、と空気を嚥下する。気を落ち着かせる。
(動け、ひとまず今は行動だ)
「———セキラ、そうよ…ね」
バチン!
突然、大きな音がした。メイテイが手で頬を叩いた音だと理解するのに少し時間がかかった。
「ごめんなさい。怖いからって逃げちゃダメよね!」
「え?」
「なんでもないわ!こっちの話よ!」
メイテイは太陽のように眩しい笑顔でそう答えた。
(よく分からないけが、問題が無くなったのなら何より)
……ビフェリオはこの顔にやられたな?
場面が変われば事態が動く。物語上でも現実でも基本的にはそうだろう。
基本的には。
例外もある。
だが、今はそれに該当しなかった。
「…っ!」
最初に気づいたのはベルラン。
「緊急です!外へ!」
彼の異常に気付き、行動に移したのはスレンド。
そして間髪入れずに大きな振動が起こった。
「なにこれ地震かよっ!」
階段を駆け上りながらベルランは話す。
そんなはずは無い。ここは神都。遙か上空に浮かぶ、神の都だ。
「じっとしてなさい!私が運んだ方が早いわ」
スレンドを小脇に抱え、ベルランをすれ違いざまに抱き上げる。そのまま駆け上ろうとしたが、ゴゴゴゴ、とさらに地面は揺れた。その振動でただでさえ狭い通路の壁が崩れ始める。
(危険過ぎる)
「うわ、道塞がれた。壊すか!?」
「止めなさい。力加減ド下手でしょー!」
このままでは生き埋めだろう。わたしたちは生き残るとしても、他の2人はどうなるか分からない。
…生き残りそうな気はするが。念には念を入れよう。
(まさか、わたしの魔法が最大限発揮できる時に遭遇するとは)
「その場で5秒待機!出来ますね?」
杖は要らない。呪文だけ。
セキラは流麗に言葉を紡ぎ出した。




