舞台裏
辺りは業火に包まれている。
悲鳴が聞こえる。血を流して倒れるあれらは、少し前まで神だった。
血と鉄の破片を含んだ地面を踏み歩く。ここは風神の領地だったが、今やその面影は無く、“最初の火神”の怒りに呑み込まれて、死体と火が共生する場所になってしまった。
(…戻ってきてしまった。最低限の情報だけしか伝えられなかったな)
本当は青色の子に“なるはずだった未来”を伝えるつもりだったが、魔力の減りが思っていたよりも多かったので、急遽現在に戻ってきた。
だが、また別のことを夢で見させることはできたので、成果としては悪くないだろう。
1つの固有魔法を別の用途に3つ同時展開していたのは少し無理があったらしい。
(流石に4つ目は出力誤りそうだからな。…魔法書がもう一冊あれば良かったのに)
これがあの町もどきの破壊に協力できない理由だった。
1つは、現在の全ての生物の体感時間を引き延ばし、【天】の足止めをするために。
1つは、青色の子の補助をしに、未来に出向くために。
1つは、未来で水神の彼女に接触出来るように各地の保管場所予定地に細工するために。
なるはずだった未来は…【天】の目指した未来は全て彼に起因していることを彼はまだ知らない。教えるタイミングを逃してしまった。
これを知らなくても青色の子の望み通りになる確率は変わらない。ただ少し、結末が変わるだけ。いずれにしても、それは誤差に過ぎない。
(…まぁ、無理に干渉することでもないか。天使を排除するだけでも十分だろう。直接伝えるのはやーめた)
“最初の風神”は足を止め、その場で少し口角を上げた。
(奇跡と偶然が、彼ら彼女らに微笑むことを願おう)
“最初の風神”は虚空へと手を伸ばした。
ゆっくりと、空を切るように。己が手を刃と見立てて、横一文字に動かした。
そう、彼が切るように動かしたのだから———
当然、空は切れるだろう。
パックリと空は口を開いた。
大人の手のひらほどの口内は暗闇だ。
そこから長い棒を取り出した。
先端に金属製の正三角形が取り付けられ、手触りの良いシルクが木製の棒に巻き付いている。彼の背丈ほどあるそれは、“杖”だ。
魔法を使うのを補助するためのもの。
ただ、この場合においては魔法の効果を底上げするために使う。
この劇の幕の間に、もしもの未来を刻んでおくために。
それは繋がりを持ったものかもしれない。
はたまた、別の未来が断片的に視えるかもしれない。
(罪人の子に不運な子、青色の子に…赤色の子。キミ達は、何を選ぶのかな?)
“最初の風神”は呪文を唱えた。




