知らないで
「で、貴方の名前は?一時的な協力だけど、火神の体を再生できるほどの魔法の使い手なら知っておきたいわ」
「スレンド・フレンデックと申します〜。お気軽にスレンドとお呼びくだされば」
少しリラックスしたのか、堅苦しさが少し緩まった。火神の手当ては怖かっただろう。
変に間延びした言葉は彼女の癖だろうか。
スカートの裾を持ち、西洋の貴族のように軽く頭を下げて挨拶をした。
「スレンドね。貴方の出身地は“大月”の北部だと思っていたのだけど違うのかしら」
大月は中緯度に位置する、東の島国だ。その名の通り三日月のような形をしている。他国との交流も無いため、言語や文化も他の国とはかなり違う。
スレンダの衣装はそこの北部の民族によく使われるデザインだった。
「そうですね〜。私の出身は西の方です。個人的に大月の文化が好きなので、よく好んで着ています〜」
「あぁ、私も好きよ、あそこの文化。面白いわよね。暗黙の了解とか馬鹿みたいに多いんだもの」
人間のいる所には行きたくないが、いつかその文化だけは直に見てみたいものだ。
「それで、本題に入りますが、お弟子くんを探すためにそのお師匠…つまり私の姉弟子ですね。それと私の弟子と私とで手分けして神都で捜索しています〜」
「神都にいるのは確実なの?」
「確実ではなく高確率ですかね〜。あの子は頭ぶっ飛んでいますので」
(貴方も大概だと思うけどね)
スレンダは全て諦めたように声を低くしてそう言った。
「特徴は?」
「男のエルフ、魔力量がかなり高いですね〜。背は160センチほど、和装で白い髪を黒い紐で束ねています。あと、ずっと目を瞑っています」
不思議な話だ。目を開けなければ生活は難しいだろうに。もちろん、神都に来ることも出来ないだろう。
「どうしてかしら?」
「彼、オッドアイなんですよ〜。なるべく隠したいみたいで…」
異端はどの時代においても迫害の対象になる。耳の形が違い、長命ゆえの成長の遅さからエルフは迫害されることが多い。
(それに加えてオッドアイ…幼少期は大変そうね。ちょっと気になってきたわ)
寄り道に前向きになってきた。
しょうがないよね。気になるんだもの。
「さっき高確率でいるって言ったけれど彼の目的は分かるの?」
「…えぇっとぉ〜」
目が泳いでいる。
「言いにくいことなのかしら?」
神都や神に害するような事を目的にしているのであれば防がなくてはならない。
「うんっとぉ〜」
泳ぎまくっている。今にもバシャバシャと水音を立てているのが聞こえてきそうだ。さっきまでの誠実そうな目が嘘のよう。
「…あと5秒待ってあげる」
「はい!言います!」
スレンダは元気よく右手を挙げた。
「彼…メイくんって言うんですけど、さっきも言ったように頭がぶっ飛んでて…物事の優先順位が偏っていまして〜」
「へぇ」
「自分のお師匠のことが大好きなんです」
「なるほど」
(厄介そうね)
「具体的な例を出すのは憚られるのですが、とにかく!師匠の為を思った行動の全てが度を過ぎるんです!」
「今回は?」
「…風神様か水神様のどなたか、もしくは両方のお力を借りようとしているのではないかと〜」
「そうきたか…」
(未来の視える風神、生死の管理者である水神、その2人の力を借りるのであれば…)
「もしかして、そのお師匠さんは寿命が近いのかしら?」
「…メイくんには言ってないですし、今回は別の原因ですが…奇跡的にそれを防ぐような行動をしております〜」
「どちらにせよ、大切な人の死を覆したいのね」
「はい」
今度はしっかりと目が合った。この人間は分かっているようだ。
「既に理解しているのを承知の上で言うわ」
「はい」
木々はざわめく。
「ダメよ。絶対に」
「…」
「本来死ぬべき人を生かすだなんて、そんなこと、絶対にあってはいけないの。仙人という存在もギリギリで許しているのよ」
「どんな理由があっても、どんな必要があっても、生命の死を止めてはいけないの」
メイテイは正しい世界の規則を説いた。
スレンドは少し俯いた。




