覚えて
記憶にない場所だった。
夕暮れが木や花に、人や物に、つまるところ至る所に侵食していた。もしかすると、宇宙人の攻撃かもしれない。
地面には石で描いた猫がいる。我ながら不格好だ。
“早く帰ろ?”
“もうちょっと”
———とおいむかし、ゆうぐで、あそんだ。
ところで、俺は何でここにいるんだろうか。いや、絵を描いていたんだ。…神都に公園なんてあったっけ?
向こうのほうを見遣ると砂場で影が動いていた。
真っ赤なあの子は砂場にご執心なようだ。
“ねぇ、もう怒られるよ”
“まだまだ”
あの子と、あそんだ。
口は俺の意思に関わらず、勝手に動いた。
2人の小さな子供はオレンジ色に染まっていく。
“私は帰れない”
あの子は、いった。
“殺されちゃったから。もう来ないでね”
いってしまった。
(あ、夢だ)
ふわりと花の香りがした気がしたが、気のせいだろう。にしてもリアルな夢を見たものだ。
「ぁ」
「おっと、起きたね。不眠は良くないよ」
(あの子は誰だ?…ってそんな場合じゃないな、“最初の風神”様を前にして寝てしまった)
気にはなるが内容がもう思い出せない。ひとまず、置いておくしかないだろう。
「申し訳ありません…今は何時でしょうか?」
「キミが寝てから10時間がたっている。寝過ぎ」
いつの間にか屋内に移動していた。わざわざ運んでくれたようだ。“最初の風神”は椅子に座って本を読んでいたようだった。机には何冊か本が重なっている。
(10時間もわたしを起こさず待っていたのか?…)
揶揄われているのかと思ったが、進んだ空の色を見る限り冗談ではないだろう。
「ボクの友達に『人にお願い事をする時は相手のお願いも叶えてあげないとダメだよ』って口酸っぱく言われてね。だから、キミの睡眠欲求を許容してあげたんだよ」
(こんな人に注意ができる人が居るのか?ともかく、助かった…)
家出をしてから碌に睡眠を取れていなかったので、そろそろ体が限界だった。変な夢を見たのもその疲労感からだろう。
「さて、ボクが相談事をする前に言ったことは覚えているかい?」
「クルエッタの事を教えてくださると…」
「そうだとも。きっとキミに必要な記憶だ」
(きっと、というかあなたが言うなら確実でしょうに)
「全て話すととても長くなるから今現在の事実だけを語るとしよう」
それから”最初の風神”は言った。
クルエッタは700年ほど前に死んでいる事、
魂は消える直前でメイテイの体に取り憑いた事、
彼女の固有魔法で神都消滅を防げる事。
そしてその魔法は“最初の水神”が保存している事。
保存——と聞いて思い出すのは“水の記録庫”だ。脳、頸、胸、胎、の計4つが神都内外問わず、水神の領地に保存されている。記録庫の場合は脳だ。
(脳は水神様自身の記憶、頸は危険物の管理、胸は性別の転換機、胎は生命の生成、…となれば)
「頸ですか」
彼は頷いた。場所は自分で探せとのことだ。
「キミらのアドバンテージはボクがここにいる事を知っていること。それから、神であることだよ」
そう言って風と共に消えていった。
そういえば。流してしまったが。
「え、神都…消えるんですか?」
今まで、滅びと大事件の象徴である天使を見つけた仮定として、最悪の場合として、神都が滅ぶと言っていたが、なんか確定しているらしかった。




