幕間(3)
時刻は午後2時を過ぎたところ。
(気持ち悪っ…)
走って走って、また走って、限界を現在進行形で超えている。
(せめて、胎と、脳、は欲しい)
呼吸と共に思考も途切れ途切れになってて、正常に動けているのかも分からない。
(…まぁ、正常じゃ、なくても、いいか)
むしろそっちの方が良い。彼女との約束を果たすには正気を保ってはいけないと聞いた。
赤いペンキを溢したような、まだら模様の地面を蹴って“水の記録庫”へ向かう。
記録“庫“といっても建物ではなく、水のと、付いているようにそこは水でできている。
じゃあ結局どこなのか?
正解は滝だ。
滝に当たることで”最初の水神“が知っている事を知ることが出来る。控えめに表現してもそれはお宝だ。この世界が創られてから数100年も経たないうちに生まれた”最初の水神“様の記憶が覗けるのだから、その情報の価値は測り知れない。
しかし、利用者は少ない。
知る必要のない情報——知ってはいけない情報を得る可能性があることが理由のひとつだ。
そうこうしてる間に脳が眠る場所、水の記録庫に到着した。
そして、もうひとつの理由。
「冷たっ」
滝に当たる必要があること。
今の時期は神都全体が暖かくなっているというのに滝は冷たい。まるで氷水だ。じゃぶじゃぶと水が落ちて来るところまでやっとの思いで移動した。服が水を吸って重くなるため、自分の腰程度まである水の中を進むのも大変だ。
「はぁ」
体を伸ばし、深いため息をつく。
(わたしの全魔力を使っても呼び起こせるかどうか…)
だが、やるしかない。ここで成功しなければ胎を起こすことも出来ない。
ダダダ、と勢いよく流れる滝に当たり、脳を呼び起こすための呪文を唱えた。
「『流転する水 彼方の記憶の証言者』」
滝から情報が流れているのが分かる。直接頭に他人の記憶をぶち込まれる感覚を味わうのは久しぶりだ。
(あった、これだ)
深海のような記憶の渦の中でそれはあった。
『ここでいったいなにをしているのかしら』
うねうねとした立体の迷路、目が無ければ口も無い。セキラの何倍もある巨大な脳は、確かに自我を持っていた。




